ワーカーズ435号 2011/3/1  案内へ戻る

北アフリカの民衆反乱に連帯するとともにアメリカ等の策動に反撃を!

 チュニジアの長期独裁政権の崩壊に続いて、エジプトの40年続いたムバラク政権も民主化を求める労働者民衆の反乱により、臨時軍事独裁政権に取って代わられた。さらにバーレーン、そしてリビアのカダフィ政権に対しても民衆反乱の火の手が上がった。今まさに北アフリカの民衆反乱は拡大する一方だ。
 退陣を拒否したカダフィ政権は露骨な軍事弾圧を始めたが、発砲を躊躇しない傭兵と躊躇する軍隊との対立が先鋭化されているとも伝えられる中、反政府勢力が着実に西部の主要都市を制圧し、主要都市のベンガジを含む東部をすでに支配下においた。西部のミスラタとズアラも制圧したとされ、反乱のうねりは首都トリポリに迫る勢いで、その支配区域を拡大しつつある。
 2月24日のロイター通信は、「ベンガジやトゥブルクなどでは、軍と警察はすでに撤退し、なかには社会の正常化に向けて反政府グループに加わる者も出ている。トリポリでは、外国メディアがほぼ接触できない状態が続いている。市民によると、通りは静かだが、人々は政府支持派に攻撃されるのを恐れて外出できない状態だ」と伝えた。実際、カダフィの街頭に出て闘えの呼びかけに呼応した反動派は、政権崩壊の断末魔を迎えつつある中凶暴化している。
 そんな状況下の2月24日、オバマ米大統領は、激動するリビアへの対応策を、キャメロン英首相、フランスのサルコジ大統領、イタリアのベルルスコーニ首相と、個別に電話で会談した。事ここに至っても、民衆反乱が起こる背景となったアメリカ主導によるグローバリゼーションの展開についての彼自身の反省は一切示さず、大国間の協議で事を済ませんとする傲慢さではある。
 アメリカの庇護の下で続いた長期独裁政権の腐敗により、各国内での経済格差の拡大と貧困と失業率の高止まり等は、すでに労働者民衆のがまんの限界を超えていたのだ。したがって労働者民衆の民主化を求める大衆行動は完全に正当なものである。私たちは彼らの大衆行動を支持するとともにアメリカとヨーロッパの大国との姑息な解決策を模索する動きに断固抗議するものである。
 日本の労働者民衆も北アフリカの民衆反乱に連帯して彼らの大衆行動を支持するとともに今まで通り世界支配を維持するためにこの民衆反乱を封じ込めようとするアメリカ等に反撃しなければならない。(直木明)


税と社会保障の一体化改革≠ネにはともあれ消費税増税─おかしくないか、この組合せ─

 菅内閣が政権の命運を賭けて実現するとしている税と社会保障の一体改革≠ニ環太平洋経済協力協定(TPP)への参加。ともに6月をめどに成案を得るとしている。
 TPPへの参加への賛否が割れているのに対し、税と社会保障の一体改革は、自民党や財界・連合、それに大手メディアを含めて方向性としては同じ立場で足並みをそろえている。さらに世論調査などでも消費税増税に反対意見と同水準のほぼ半数の支持を集めている。
 前々号でも触れてきたように、菅内閣の税と社会保障の一体改革では、社会保障改革は刺身のツマ≠ナあり、結局は消費税増税だけが食い逃げされる可能性が高い。
 民主党の内紛もあって菅内閣は退陣の瀬戸際にあり、6月まで政権が持つ可能性は少ないが、政権を超えて推進されそうな消費増税にストップを賭けるためにも、もう一度この問題を考えてみたい。

◆意図的組合せ◆

 税と社会保障の一体改革だという。なぜ税と社会保障≠ネのか。
 一体改革という場合、税制の一体改革、歳出の一体改革(組み替え)、あるいは社会保障の一体改革、さらに税と歳出の一体改革というのはあり得るし必要な視点だ。しかし今回の菅内閣による税と社会保障の一体改革は、その組合せが実に意図的で悪くどい。
 そもそも菅内閣の税と社会保障の一体改革は、自民党政権以来の歳入・歳出構造の正常化、あるいは基礎的財政収支の均衡化(プライマリーバランスの回復)という課題と、社会保障改革という課題を強引に結びつけたものだ。
 実際、昨年6月の菅内閣発足時の記者会見などで「消費税10%」を打ち上げたときには、社会保障とのリンクはなかった。菅首相自身が語っていたことだが、この消費税引き上げ方針は、赤字国債を抑制しての財政再建という文脈で語られてものだった。理由として、ギリシャ危機を目の当たりにして主要国で最悪の財政赤字構造を打開しなければならないという危機意識があった、と語ってもいた。
 その直後の参院選で大敗したため再び消費税増税は棚上げに追いやられたが、再度持ち出した今回は、財政再建ではなく社会保障との一体改革だという。装いも新たに,というわけだが、その意図ははっきりしている。要は財政再建でも社会保障でも理屈は何でも良い、ともかく消費税を引き上げることだ、というわけだ。
 そもそもなぜ社会保障との一体改革なのか、という明快な説明はない。社会保障にお金がかかるというのであれば、他の歳出を削減する方法や、あるいは増税でも法人税増税や所得税増税の選択枝もある。消費税を上げるのであれば、法人税や所得税も引き上げるという選択肢も考えられる。が、菅内閣は財界の要請を受ける形ですでに法人税の引き下げを決めてしまっている。これは企業の国際的な競争力の強化や外国企業の誘致など、経済成長の必要性という関連で決めたものだ。税と社会保障の一体改革といっても、はじめから税の一体的改革≠ヘ崩されているのだ。
 たしかに、高齢化の進行で今後社会保障支出が年々1兆円ぐらい膨れあがるという事態に将来不安が拡がっている現実があり、なんとかしなくてはならない、という国民的な合意が一定程度拡がっていることは間違いない。結局は、そうした国民的理解を強引に消費税増税と結びつける思惑で出されたものが、今回の税と社会保障の一体改革なのだ。

◆受益者負担◆

 よく持ち出される論理の一つとして社会保障支出と消費税額の比較がある。11年度の社会保障支出が28・7兆円も見込まれているのに、消費税は1%で約2・5兆円、5%で12・5兆円、そのうち国が使えるのは約3%分で、7・5兆円ほどだからだ。
 消費税は社会保障に優先的に充てるとの方針もあるが、差額の21兆円を全額国の支出に使える消費税に換算すると8・4%の引き上げ、現行どおり国と地方の振り分けを踏襲すると14%の引き上げで19%の税率が必要になる。しかし、優先的にあてるというのと消費税だけで社会保障支出を賄うというのは同じではない。無理に消費税と社会保障をリンクさせるのは、意図的という他はない。こうした論理は他の財政支出を聖域扱いするものでしかなく、結局は、社会保障分野に限って受益者負担原理が押しつけられているようなものだ。
 なぜ不足分を消費税にリンクさせるのか、他の歳出を減らすことはできないのか。税と社会保障の一体改革という土俵設定では、こうした選択肢はあらかじめ土俵の埒外に置かれている。中途半端に終わったあの事業仕分けで無駄を省けなかった、という前提なのだろう。しかし軍事費やダムや道路で無駄な部分は削減する、という選択肢は埒外にはおけないはずだ。
 一例を挙げれば、「法人間配当無税」という問題がある。これは企業が他社の株式の持っていてもその配当金は課税対象にならない、という扱いだ。中央大学の富岡名誉教授によれば、この額は過去6年間で46兆円、年間換算の税で3兆円、大企業だけでも2兆円にも上る。この分だけでも巨額な税収入は可能で、明らかな企業優遇税制だ。
 また、何度も故障や事故を起こしている日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」など、あの事業仕分けでも手を付けていない。今までに9000億円以上もつぎ込んでも、40年後という完成の見通しさえない。最近の事故でも修理などで100億円近い追加負担も生じている。こんなものは一刻も早く止めるべきだろう。

◆竜頭蛇尾◆

 税と社会保障の一体改革≠フ一方の極にあげられた社会保障はどうなっているのだろうか。
 社会保障といっても、その対象はきわめて広い。たとえば高齢者を主な対象とする施策では、医療、介護、年金などがある。社会的弱者対策としては、生活保護やホームレス支援、また労働者支援としては非正規労働者支援、失業手当、就労支援など、それに子育て支援としては保育所、幼稚園、子ども手当、学童保育などだ。それぞれの対象については様々な立場を反映した様々な意見があり、一朝一夕には結論が得がたいのが実情だ。
 たとえば年金改革についてもそうだ。民主党は政権交代をめざした09年のマニフェスト以来、一貫して税による最低保障年金を掲げてきた。しかしこのところ全額税負担による最低年金構想を修正する態度に傾いている。
 マニフェストの目玉に掲げてきた子ども手当≠燗ッじだ。一律無条件の一人26000円の手当支給は財源の問題もあって今では実質的には放棄されている。幼保一体化についても同じだ。こども園≠始めることにしたのは前進だが、厚労族と文科族の縄張りの壁が強く、抜本改革にはほど遠い案しか出せていない。崩壊がいわれて久しい医療改革もほとんど手がつけられていない。
 それを今年の6月をめどに一体的な改革案を決めるという。11年度の予算関連法案ですら国会の通過を危ぶまれている菅内閣で、そんなことが可能だとも思われない。結局は、社会保障の一体改革は子ども手当などと同様に竜頭蛇尾に終わり、消費税引き上げだけが強行されるという事態に終わる公算が高い。

◆つけ廻し◆

 もう一つの税制度≠ノついてはどうだろうか。
 現在の税制はきわめて入り組んでいて、基本的な税思想も曖昧化されている。本来は、税というのは新たに生み出された価値に課税する、というのが基本のはずだ。それは企業社会の現代では企業が生み出した利潤であり、そこに課税するというのがまず第一の基本のはずだ。次に、資本制社会の自由競争が必然的に貧富の格差を生み出さずにはおかないという現実を受けて、高所得層から低所得層への再配分の意味も込めて、累進課税のシステムも不可欠だ。
 こうした税思想からすれば、財政赤字や社会保障の整備に対しては、まず法人税や高額所得者への課税強化こそめざすべきだろう。
 ところが様々な理屈や歴史的な経緯から、世界中で法人税への課税が軽減され、消費税が引き上げられているのが実情だ。経済活性化や営利活動のモチベーションの観点から、累進課税も緩和されている。結局、受益者負担原理に取って代わられようとしているわけだ
 それに機会の平等にかかわる相続税も同じだ。学校では、三代にわたって相続が続けば相続財産はなくなると教えられてきたが、なんのその、しぶとく相続され続けている。
 たとえば鳩山前首相。自身の相続遺産を政治力の手段としてきたほか、祖父の株を遺産として引き継いだ母親からの巨額な子ども手当≠ェ一時世間の耳目を集めた。三代相続が行われても、遺産はなお巨額なまま相続されているということだ。
 消費税論議でよく取り上げられるのが西欧諸国に比べて低い日本の税率の違いだ。しかしそれは国民経済に占める財政ファクターの比重の違いの問題が大きい。西欧では消費税負担も重いが、給付は手厚い。他方では、メディアはあまり取り上げないが社会保障を担う社会保険負担も含めた企業負担は日本よりも遙かに多い。
 たとえば税と社会保険の国民負担率でみると、ドイツ・フランス。スウェーデンでは税負担も日本より遙かに多いが、社会保険負担率でも日本の1・5倍もある。その社会保険負担では、ドイツ、イギリス、米国では日本と同じレベルだが、フランスは労働者本人負担が9・61%で事業主負担は31・97%、スウェーデンでは本人負担が6・95%で事業主負担が28・58%だ。社会保険負担は日本はおおむね労使折半だが、フランスやスウェーデンでは事業主負担がフランスでは本人負担の3倍、スウェーデンでは4倍なのだ(11年版厚生白書より)。
 こうした数字をみても、社会保障を消費税でまかなわなければならない必然性はない。税ではなく別な国民負担で、しかも企業に重く負担させるという選択肢は当然あってしかるべきなのだ。
 菅内閣の税と社会保障の一体改革という枠組みは、まさにこうした企業負担のあり方を幕の背後に覆い隠す意味合いが強い土俵設定だという以外にない。
 消費税の持つ本来の性格が低所得者層ほど実質的な重税になるという大衆課税であることを考えるとき、菅内閣の税と社会保障の一体改革というのがいかに財界サイドに立った改革≠ネのか明らかだろう。

◆企業負担へ◆

 政治の舞台では自・民を中心に政局がらみの攻防戦を繰り広げてはいるが、こと、財政改革や社会保障改革では異本的な方向性はほとんど重なっているのが現実だ。自民党も消費税10%への引き上げを選挙公約で掲げていた。
 こうしたスタンスは何も政治だけに限らない。大手メディアなどは、これしかないという立場で消費税引き上げによる財政再建と社会保障改革の旗を振っている。オピニオンリーダーを任ずる朝日新聞も、「財源なくして安心なし」(25日)などという民主党機関誌と見まごうような社説を掲げている。いわばメディアが政治への翼賛姿勢を露わにしているいま、だからこそ私はその不当性を声を大にして訴えたい、というわけなのだ。
 一例を挙げたい。いま、先進国を覆う世界的な不況に直面して、法人税の引き下げ競争が拡がっている。中国や韓国など、後発国が低い法人税を武器に世界に市場を拡げている。それに対抗するように先進国でも法人税引き下げの動きが拡がっている。いわば法人減税合戦だ。直近では日本の法人税引き下げの動きに呼応するかのように米国のオバマ政権も引き下げに舵を切った。
 こうした動きを企業や企業寄りの識者・評論家やメディアが追随し、大きな声を上げている。曰く、輸出立国の日本も対外競争に勝つ抜くには企業の競争力の強化、法人減税は不可欠だ、と。
 しかし、そんなことは一時の、一面での真理に過ぎない。たとえば法人減税競争をすべての国が推し進めたとする。そうすると究極的には世界で法人税が限りなくゼロに近づく。そうなれば競争条件はその土俵ではまた同じになる。結果として法人税が消えて消費税だけが引き上げられ、、なおかつ競争条件は振り出しに戻る。何のことはない、税負担を企業から庶民につけ廻す結果だけが残る。これが事の本質なのだ。
 こうした本質を見抜いた闘いが始まっている。たとえば最近ではイギリスの市民運動「UKアンカット(削るな英国)」だ。「行政サービスを削るより、税金逃れする企業から徴税を」というスローガンで、企業を標的とする活動を繰り広げている。日本でもかつて狂乱物価の時期、企業による売り惜しみ≠糾弾するデモ隊が経団連に押し寄せたこともあった。社会の中心的存在となった企業に対する社会的な責任を問う闘いだった。私は、こうした闘いこそ、大衆増税に抗する闘いの中心になるべきだと思う。
 財政再建は私たちの将来世代に付けを廻すことであり、その改革が必要だというのは,国民の善意の表れだ。が、負担を企業から庶民につけ回す消費税増税は許してはならない。
 菅首相は税と社会保障の一体改革≠セという。が、鳩山前首相の普天間問題をもじって言えば、それは 口実≠ナしかない、と言われても仕方がない代物である。菅首相は側近に「消費税とTPPだけはどうしてもやりたい」と語っているという。これは消費税増税に手を付けた歴代首相が軒並み窮地に陥った経験から、「消費税増税は大物首相にしかできない」と言われていることに関係している。参院選での大敗と支持率の急降下で崖っぷちに立たされた首相にとって、先がない任期中にどうしても歴史に残る実績が必要だというわけだ。それが消費税増税に執着する真の理由なのだ。
 法人税減税を早々決める一方、大衆課税である消費税増税を首相の実績づくりに利用されてはたまらない。(廣)案内へ戻る


新聞の片隅の死!

 2月22日、「神戸新聞」夕刊・社会面の片隅に「もんじゅ事故、担当課長自殺」と報じられていました。「日本原子力研究開発機構の高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で、燃料を扱う部署の男性課長(57)が敦賀市の山中で自殺していたことが22日、県警などの取材で分かった」というもので、毎年3万件を超える自殺のうちのひとつとして、顧みられることもないような記事です。
 しかし、定年退職まであと数年、彼はなぜ死ななければならなかったのでしょうか。個人的な事情は一切書かれていないので分かりませんが、彼が昨年8月のもんじゅ原子炉容器内燃料交換装置落下事故の復旧担当者だったことから、「国策に殺された」という思いを禁じ得ません。
 もんじゅがナトリウム漏れ火災事故を起こしたのは1995年12月8日でしたが、動力炉・核燃料開発事業団(現在の原子力機構)は現場撮影ビデオを隠蔽し、その過程で記者会見に出席していた西村成生・動燃総務部次長(49)が翌朝、宿泊先のホテル敷地内で倒れているのが発見され、のちに死亡が確認されました。結局、これは自殺だったとの警察発表が行われ、遺族がその真相究明を試みたがかなわず、2004年10月に核燃料サイクル開発機構(動燃の後身、現原子力機構)を相手取り、自殺≠ヘ雇用主の安全配慮義務違反によるものとして1億4800万円の損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしています。
 すでにその時点で高速増殖炉の夢は破れていたにもかかわらず、動燃自体がゾンビのように名前を変えつつ生き延び、もんじゅも再稼働しようとして、昨夏の炉内事故へと至ったのです。まさに、起こるべくして起こった事故というほかありませんが、それでもなお生き延びようとしているのですから、その執念は恐るべきものです。未曽有の惨事をもたらしかねないもんじゅを弄ぶ、良心のかけらもない連中によって彼らは生贄にされたのです。
 昨夏の事故後の状況はどうかというと、今春予定されていた「40%出力試験」の約1年延期がすでに原子力機構から発表されていますが、それも実現は無理と疑問視されています。そして2月5日の「神戸新聞」報道では、復旧には通常の保全費とは別に約9億4000万円の費用がかかることが明らかになっています。しかも、これがすでに東芝との工事契約が結ばれ、20011年度の国の予算案に盛り込まれているのです。東芝製のつり上げ装置の設計ミスで事故が起こったものを、復旧工事をまたぞろ東芝に行わせる。本来なら無料で行わせるべきなのに、どこまでいっても利権仲間による税金への寄生は終わりません。
 菅政権は財源がないから消費税増税だと言いますが、別稿の調査捕鯨≠ノしても、このもんじゅ再稼働も事業仕分けで消滅させるべきものでした。もっと多額の予算が計上され続けているムダで、有害な事業は数多あります。それらを一つひとつ、消し去ればどれほどの財源が生み出されるか、計り知れない額になるでしょう。  (晴)


破綻した調査捕鯨

 3月末まで行われる予定だった南極海での調査捕鯨が、反捕鯨団体シー・シェパードの妨害で中止を余儀なくされた。これは農林水産省・水産庁が、装備を向上させたシー・シェパードの妨害を振り切ることができなくなり、乗組員の身の安全を図るために決定されたものだと報じられている。
「『身の安全が保障できません』。17日夜、農林水産省の大臣室に集まった農相以下政務三役は、佐藤正典水産庁長官の説明に聞き入った。調査捕鯨の母船『日新丸』はシー・シェパードの抗議船の追跡を振り切れず、立ち往生に。このまま無防備に発光弾の投げ込みなどの妨害を受ければ、約120名の乗組員に万一の事態の恐れもある」「『テロ行為』(水産庁幹部)に屈したとの批判が高まる懸念もあったが、農相は『やむを得ませんね』。18日朝の閣議終了後も首相官邸に残り、菅直人首相に報告、了承を得た」(2月19日「神戸新聞」)
 同紙は同日の社説でも「調査捕鯨中止」を取り上げ、「団体の代表は、『クジラたちにとっての勝利だ』と述べている。しかし、調査捕鯨は科学的研究を目的に国際条約で認められたものだ。それを暴力で中止に追い込むのは、テロ行為にも匹敵し、断じて許されるものではない」と主張している。クジラの胃の内容物を調べることなどによって生態や生息数を分析するために、南極海や太平洋などで毎年約千頭のクジラを捕獲・殺戮し、その肉を販売する行為を、いつまで調査捕鯨≠ニ言い張るのか、マスコミの安易な報道にあきれてしまう。
 さらに、この決定の裏に隠された真実がある。グリンピースの発表によると、昨年12月の時点で「今年は調査捕鯨船の帰港を早めるようだ」という内部通報があり、その理由は「消費の低迷が引き起こしたクジラ肉在庫の増加による生産調整」だという。昨年12月末のクジラ肉在庫は5093トン、09年末が4246トン、08年末は3096トンであり、毎年約千トンの在庫増となっている。過去2年間の南極海でのクジラ肉捕獲量が約4735トンであり、クジラ肉在庫が5000トンを超えるという事実は深刻な事態である。
「調査捕鯨は、水産庁からの補助金約9億円(私たちの税金です)とクジラ肉を販売した売上である約65億円をその主たる収益として、財団法人日本鯨類研究所(鯨研)が実施しています(平成20年度の鯨研事業報告書より)。つまり、補助金の削減や、クジラ肉の販売不振といったことが起これば、鯨研はその影響を強く受けるのです」(グリンピース発表)
そして、グリンピースは「調査捕鯨が厳しい状況に陥っているのは、海外からのプレッシャーだけではありません。それは私たち日本人がクジラを食べなくなったこと、つまり私たちの生活が調査捕鯨に終止符を打とうとしているのです」と結論付けている。
 なお、フリージャーナリストの佐久間淳子さんとイルカ&クジラ・アクションネットワークの調査では、昨年8月末時点で鯨肉の在庫が6000トンを超え、過去最高に達したと発表している。佐久間さんは、「肉の供給量が少ない上、ここ2年ほどの間、鯨肉の卸売価格を下げているにもかかわらず、在庫減少のペースが鈍っており、日本人の鯨肉離れが進んでいる」(1月6日「神戸新聞」)と指摘している。水産庁遠洋課は「消費が増えているとは思わないが、減っていることを示すデータもない」と言っているようだが、消費の減少と在庫の増加は隠しようのない事実であろう。
 以上の事実から明らかなことは、調査捕鯨≠フ継続に利益を見出している勢力が実力よって捕鯨を阻止しようとしているシー・シェパードを悪玉に仕立て上げ、破綻した調査捕鯨≠取り繕う構図である。こうした悪辣な妨害から日本の食文化≠守らなければならない、というわけだ。しかし、「水産庁首脳は『若い人の中には鯨肉を食べたことがない人もいる。今後も国民が捕鯨を支持してくれるのだろうか』と弱気な面も見せた」(2月19日「神戸新聞」)と、推進派からもその継続を危ぶむ声が出ている。
 中止から廃止へ、これ以外の道はもはやない。税金を投入して行わる商業捕鯨、これが調査捕鯨≠フ真実の姿である。しかも、鯨肉の横流しも横行しているという腐敗のうえに、関係者の権益を守るためだけに多くの国々からひんしゅくを買い、国際的評価を下げている調査捕鯨≠継続する理由はもはやどこにもない。  (折口晴夫)案内へ戻る


「緊急報告」・・・祝島(原発建設)と高江(米軍基地建設)から

 自然環境と住民生活を破壊するとのことで、長年工事がストツプしていた原発や米軍基地の建設現場から緊急報告が届いた。
 特に菅政権になってから、政治主導どころか官僚支配が露骨になり、住民運動つぶしが各地で起こりけが人が続出している。抗議の声と行動を!(英)

1.「祝島島民の会」・・・ブログ『祝島島民の会』より
 2月21日、中国電力は陸上では午前1時半すぎから社員や作業員など総勢400名規模の動員をかけ、海上では明け方よりやや早い時間から囮も混ぜた20隻以上の作業台船やその他多数の警戒船等を動かし、2009年末より中断していた上関原発建設にかかる海の埋め立て工事の再開を、数の力で強行しようとしてきました。
 早朝、というより、もはや深夜からと言っていい作業の強行に対し、祝島の島民は海陸ともに14時間以上にわたって抗議を続けました。その抗議活動の中で、2人(島民と支援者)がけがをする事も起こっています。
いずれにせよ、祝島島民の反対は昨日今日始まったものではなく、すでに30年近く続けられてきたもので、理解も同意もない、一方的に強行される作業を認めることはできません。
 ましてや島の目前の予定地で工事が始められるとなれば、どのような形でも抗議をし、工事をしないでくれと訴えざるを得ません。それは中国電力自身もよくわかっているはずです。
 にもかかわらず、この30年もの間、理解を求める行動も説明もなく、ただひたすら強引に工事を進めようとしてきた中国電力の責任、とりわけ現在の上関原子力立地プロジェクトチームのリーダーである山下中国電力社長の責任は大きいと考えます。
 同時に、祝島島民をはじめとして埋め立て免許を許可しないよう求めて出された多くの意見書を無視して、中国電力に埋め立て許可免許を出した二井山口県知事にも大きな責任があります。
 けが人を出してでも工事を強行しようとすることと、それを黙認しようとしていることに対し、中電および山口県、そして地元の実情も理解しないまま国策の名の下に上関原発計画をバックアップする経済産業省にも、ぜひ抗議の声を届けてください。
 ★中国電力本社 TEL082−241−0211 FAX082−504−7006
 ★中国電力 上関原発準備事務所 TEL0820−62−1111
 ★山口県知事への提言 TEL083−933−2570
                 FAX083−933−2599
★経産省・経済産業省大臣 海江田万里 TEL03−3508−7316
                           FAX03−3508−3316

2.「ヘリパッドはいらない住民の会」・・・ブログ『やんばる東村高江の現状』より
 16日(水)、負傷者を出してしまいました。
 本日午後4時ころ、N1地域にて沖縄防衛局・作業員による強引な作業強行により、支援者の女性が押し倒され、頭を強く打つ事態が起きてしまいました。現場は一時騒然とし、警察が事態の収拾をはかり、事情聴取などが行われました。
 防衛局はそのような中でも作業を進めるという気の狂った発言をしました。住民支援者は猛然と、このような危険な作業は二度とやめるよう抗議しました。午後4時40分、救急車が到着し女性が運ばれた後、防衛局員は撤収しました。
 23日(水)今朝6時半、沖縄防衛局作業を強行しています。
 本日、早朝6時半に防衛局・作業員の車両20台、10トンダンプ3台、4トンユニック1台ほか、100名を超える人員を導入して作業を強行しています。N4は7時ころ、ゲートの手前から作業員侵入しています。
 早朝で住民支援者の人数が少なく、抗議もむなしく10トンダンプ2台分の砂利が搬入されました。新しく増員された、若い作業員たちが住民支援者たちを挑発しており、度々混乱が起きました。
 予定地内に搬入された砂利が、ヘリパッドへの進入路の整備のため次々に敷かれていっています。予定地外の県道上から抗議・説得活動が続いています。
 高江のために今すぐ!高江を助けてください!今、いる場所からすぐに出来る方法。
 @内閣、防衛省、防衛局、県知事公室、東村村長に「すぐにやめさせて下さい」とTEL  やFAXを。
  ・沖縄防衛局 098−921−8131
  ・防衛省03−5366−3111
  ・内閣官房 03−5253−2111
  ・沖縄県知事公室基地対策課 TEL098−866−2460
                     FAX098−869−8979
  ・東村役場 TEL0980−43−2201 FAX0980−43−2457
 Aあなたの応援している、議員・政党にTELやFAXを。
  選挙で代表として選んだ人に、責任持ってこの工事をやめさせるよう、「今すぐに防  衛省、防衛局に要請しなさい」と申し入れてください。


色鉛筆 ・・自転車通勤

 寒い朝、自転車のペダルを踏むと冷たい風が吹きつけ、走って行くにつれ指先がじんじんして痛い。以前は通勤に車を使っていたが、街中の職場は駐車場がなく借りると月6000円もして、通勤手当は月3000円しか出なくガソリン代を合わせても赤字になってしまう。そこで娘が通学に使っていた自転車で通勤を始めた。すると職場で私よりも若い人たちが「えー自転車、疲れるー」と車が当たり前になっている若者には驚きだったようだ。「自転車にしたんですか?」と聞かれた時、本当はお金がかかるから自転車にしたのだが「エコだよ、CO2の排出を減らさなくてはね」と答えていた。2年間ほど自転車通勤をして、エコにもなったが自分の足腰が鍛えられたことも実感をし始めている。というのも車で通勤している頃、足の関節が痛くなり病院にかかった時、「年をとっていくとどうしても筋肉が衰えていくので、膝の関節に負担がかかってしまう。直ったら筋肉を鍛えるといいですよ」と医者に言われたことがあった。思い出してみるとここ2年間膝が痛くなることがなくなり、休日に山登りをしても以前に比べると足取りが軽くなっている。ということは毎日自転車のペダルを踏むことで足腰が強くなり健康になったようだ。
 しかし、自転車通勤もいい事ばかりではなく常に危険を伴っている。自転車は車道の左側を走るのが原則のようだが、車の量が多かったり、路上駐車の車があると車道にはみ出て走るのは危険なので、どうしても安全を考えて歩道を走ってしまう。歩道を走らざるを得ない現実がある。(表参照)すると今度は歩道も狭くて歩行者の邪魔になってしまい、私も一度ぶつかってしまった事があった。時々どこを走ろうか迷う時があるので「自転車専用の道路があったらいいなあ」と思っていると、昨年、私の住んでいる街でも車道の左側に自転車専用レーンができたり、歩道に自転車側と歩行者側の通行の標識が出始めた。だが残念な事にほんの一部分だ。国土交通省によると、全国120万`の道路のうち、自転車と車の通行スペースが分離されているのは8万1600`(6・8%)、歩行者用との分離は2900`(0・2%)に過ぎないという。また、国交省は2009年エコ通勤に取り組む「優良事業所」を公表する制度を始めたが、昨年11月末までに認証を受けた278事業所の多くは地方の事業所で、東京は12カ所だけで駐輪場がないので推奨しにくいという会社が多かったという。なんと車中心の社会で自転車は肩身の狭い思いをしていることがわかる。安全で走れる道路がどこにもあって、どこにも駐輪場があれば健康とエコな自転車通勤が増えるのではないだろうか。そうすれば生活習慣病も減って、地球温暖化対策にもなって一石二鳥だ。車中心な社会を変えなくてはならない。
寒い冬も少しずつ和らぎ、沈丁花の香りが漂い始め、春夏秋冬の季節を感じることもできるのも自転車通勤の好いところで、今は桜の花が咲く春を楽しみにしている。(美)案内へ戻る


私にとって老いとは?

 焼け跡闇市時代の青春、戦中、戦後と飢えの時代を生きてきたので、やたらにオナカがへったことを覚えており、金もモノもない時代ただただ夢中で生きてきたように思う。当時はやった歌はオッサン飯おくれ、豆入ったメシおくれえ≠ナあったし、そこには奇妙な平等感があった。同世代の故小田実氏が人間みんなチョボチョボ≠ニいったのを、全面的な共感をもって聞いた。
 老境に入り来シカタを思えば、当時は夢中で、今になって恥じることも多く、またさまざまのわが行動の意味を考えてみることも、また他者の記憶に残ったコトバなども素直に受け入れることができるようになったのも、老いの静けさ故に感じとれるようになったからであろう。
 老いというものはええもんや、と思って悦にいっていたのも短い間で、体力の衰えとともに肉体の苦痛が襲ってきて、いかにして持ちこたえることができるか、とか、今のうちにやっておきたいことを厳選し、頑張らずに頑張っているという今日この頃である。ステキな人々のいる沖縄に馳せる旅への思いはつのるばかり。
2011・2・1 宮森常子

事なかれ主義の源

 春に向かう季節のせいか、TVのチャンネルをまわすと、災害などのニュースの他に男と女がくっついたの離れたのという話ばかり。世の中花ざかり。他人の結婚とか離婚の話など、当人だけのことにとどめておけばいいのではないか。報道するまでもなかろう。
 これも日本人の他者とのかかわりにおいて、当たりさわりのない話題を選ぶ傾向が強いところから、男と女のくっついたの離れたのというのがTVを占領してしまう、ということになるのであろう。われわれ国民の事なかれ主義の底流をなすものといえよう。
 それは個の確立が未完成ということであろうか! 日本の近代が欧米に追いつき追い越せであったために、前近代を引きずったまま現代に至っているということに、起因するものであろう。その上、富国強兵へとカジを切ったものだから、個は未成熟のまま埋没せざるを得なかったということを、近・現代の歴史は物語っている。2011・2・8 宮森常子


コラムの窓  低賃金と長時間労働・・非正規労働者の実感と腰砕けの連合春闘・・
         せめて最低賃金の底上げを!


 昨年、労働者派遣業のS物流からの斡旋で、総合物流企業であるA回漕店の倉庫作業(主に、トヨタ自動車の自動車部品を海外工場に輸出入するための出庫作業)を二ヶ月位期間作業員(アルバイト)として働いた。
 S物流はA回漕店の経営支援を受けた子会社で役員もA回漕店の者が占めており、現場責任者は出向という形で、いわゆる税金逃れのダミー会社的な会社である。A回漕店の倉庫作業はA回漕店の正社員とS物流の社員(派遣社員)と期間作業員(アルバイト)で作業するのだが、荷物の数をチェックする者、入出荷先別に区分けする者、荷物を梱包する者、フォークリフトを使って運ぶ者、等々倉庫内の作業は分業・単純化され、正社員も派遣社員やアルバイトも同じ作業をしているのだが、賃金や労働時間など労働条件はぜんぜん別のもので、正社員の賃金と派遣社員やアルバイトの賃金差はおよそ二倍であり、派遣社員や期間雇用のアルバイトの中では女性と男性では一時間あたりの賃金が違っていたり、個人差を設けるなど賃金格差は性別・経験度・年齢などいろいろ違った条件で雇用されている。こうした賃金格差は残業作業に利用されていることも明らかである。親会社は経費削減を目標に掲げていて、正社員は労働組合もあり、労働協約で基本的には残業は一定程度で規制されているので規制範囲がくれば残業はなしで終業することができるが、派遣やアルバイトは労働組合もなく組織化されていないので労働協約などの規制も弱く、何よりも基本的に低賃金であるので、より多くの収入を得るために、正社員が定時で帰った後、連日残業を行い、一日最高6時間も残業することもある。「会社を支え、社員を守っているのは、非正規労働者である私たちだ!」と言った女性の派遣労働者の言葉が労働現場の実態を物語っている。
 正社員と非正社員の格差は歴然としており、ますます広がりつつあるが、その非正社員は全労働者の3割を超えており、就業形態もパート従業員やフルタイムで働く契約社員、派遣社員などと多様化し、非正社員の増加に伴って、厚生労働省による調査では、09年度の賃金指数(現金給与総額、年度平均)は近年のピークだった97年度に比べ12.3%減少し、労働者全体の賃金も低下している。
 連合の2011春闘方針では非正社員の賃金引き上げ幅を正社員を上回るものを要求するとなっていた。
 しかし、非正社員の賃金引き上げ要求を提出した労組はほとんどなく、正社員の賃上げすら見送った労組がほとんどであり、こうした組合側の弱腰に経団連は「1%は困難」と早くも賃上げ拒否の姿勢を見せている。
今問われるのは言葉だけの方針や支援ではない、労働者の3割を占め、組織化されていない非正規労働者の労働条件を改善するためには何をなすべきか?!個別企業の賃上げ交渉ができないのなら、せめて最低賃金の底上げを政治的に認めさせ、企業にそれを守らせる運動ぐらいはするべきであろう。(光)
 

編集あれこれ

 前号の第一面は、「『戦争できる国』づくりへの監視を強めよう!」の記事でした。この記事は、この間消費税の増税や社会保障や福祉の切り詰めやTPPの是非が論議される中で余り注目されていない与野党の改憲派の動きを暴露したタイムリーなものだと考えています。
 二面には、沖縄通信と就職氷河期に“シューカツ”を考える(ひきづづき三面から六面まで掲載)、四面にはコラムの窓を、五面には読書室で『必要ですか?子宮頸がんワクチン』を取り上げました。六面には、読者からの「自死遺族の裁判・署名のご協力に感謝します」を掲載しました。今後とも読者との協働を追求してゆきます。七面では、色鉛筆で「冤罪をなくすために『袴田 巌さんを支援する会』」の記事を掲載しましたが、見出しに「冤罪」でなく編集ミスから「贖罪」としてしまいました。誠に申し訳ありませんでした。最期の八面に読者からの手紙を掲載しました。
 前号は、誌面から確認できるように多彩な記事を掲載できたと総括しています。今後ともワーカーズの紙面の充実にご協力ください。よろしくお願いします。案内へ戻る