ワーカーズ647号 2023/10/1  案内へ戻る

   西武労組のストライキの大きな意義を共有しよう!

 そごう・西武百貨店の一方的「売却」に反対し「雇用」維持を求めて、西武労組は八月三十一日、まる一日のストライキを貫徹した。

 付近の公園で開催された決起集会には、同業他社の百貨店労組も参加し、団結の力を示した。そして路上のデモンストレーション(示威行進)には、沿道の市民から熱い声援が送られた。

●「労働の価値」

 市民の好意的な共感は、西武百貨店に働く従業員の「労働の価値」が、広く社会的に承認されていたことを示している!
 
 ストライキは単なる「労働力商品の価格」をめぐる交渉ではない。それは表面的なことにすぎない。

 その基盤にある「労働の価値」を労働者自身が自覚し、それを絆に労働者相互が連帯し、サービスの受け手(消費者)も「労働の価値」を通じてつながっていることに気づく契機となる。
 それこそが、ストライキの真の社会的意義なのである。

●若い世代の共感

 特にストライキを知らなかった若い世代が、そのことを新鮮に感じ取り、素直に「労働者の権利」として理解した意義は大きい!

 是非とも、この衝撃を自分の職場に還流し、みずからの「労働の価値」を発見してほしいと思う。

●雇用をめぐる厳しい交渉

 対する親会社の交渉姿勢は、まさに「労働の価値」に対するリスペクトを欠き、ひたすら「労働力商品の価格」を安上がりに値切り、したがって「雇用の維持」の約束を頑なに拒んでいる。この許し難い姿勢こそが、現場の従業員の「怒り」を呼び起こし、スト権の確立を押し上げたのである。

 今後の交渉が厳しいものになることは、労働者自身が痛いほど自覚しているにちがいない。粘り強い健闘を心より願わずにはいられない。団結してガンバロー!(冬彦)


   自動車労組UAWの大胆な闘いを支持しよう 企業による労働者の包摂を拒否しよう

■労働者の賃金がインフレでマイナスへ

米国の消費者物価指数(CPI)は、2019年7月から2023年7月まで32.3%上昇しました。ところが2019年9月のUAW(全米自動車労働組合=United Auto Workers)労働協約にはその後のインフレ爆発が予想されておらず実質賃金は低下し続け、今回の協約改定では労働者は大幅賃上げを要求せざるを得ない状態となりストライキ決行となりました。しかし、自動車労組員からすればほかにも懸念があります。インフレが収まっていないばかりか、ガソリン(内燃機関)車から電気自動車(以後EV=Electric Vehicleと表記)化への流れがますます早くなってきたことです。産業転換と言う面からも雇用と賃金への不安が強まっています。

■EVという変革と労働組合

 ビッグスリー〈ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティス〉の企業は、EVの市場でテスラなどの新興勢力に対抗するために、EV化を加速させています。たとえばGMは、2035年までに全ての乗用車とSUV(スポーツ用途の多目的車)をEVにするという目標を掲げています。また、2030年までに新車販売に占めるEVの比率を40~50%にすると表明しています。GMは、テスラに次ぐ米国で2番目に多いEV販売台数を誇り、テスラを急追する計画です。

 ビッグスリーの労働組合UAWは、インフレ進行下やEV化に伴う雇用減少や賃金切り下げなどの懸念があるため4年間で40%以上の賃上げや雇用保障などを要求しましたが、ビッグスリーはこれを拒否しました。労組は要求が実現できるまでストライキを断固継続させる決意です。組合は、9月19日現在3社3拠点のストを開始していますが、さらに圧力を強めるためにストの拡大を警告しています。日本の労働者も大いに注目すべきです。

■EV化に伴う人員合削減と賃金低の恐れ

 一般的に言えば、EVの生産にはガソリン車よりも部品点数が少なく、組み立て工程が簡略化されるという特徴があります。そのため、EVの生産にはガソリン車よりも労働者の数が少なくて済み単純労働の比率が増える可能性があります。フォードの試算では30%の人員削減が可能だとしています。

 また、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは、2023年7月に発表したレポートの中で、電気自動車の製造はエンジン自動車の製造に比べて、単純作業の割合が約50%高くなると予測しています。アメリカの自動車メーカーであるGMは、2022年11月に発表したレポートの中で、EVの製造はエンジン自動車の製造に比べて、労働者のスキル要件が低下する可能性があると述べています。

 上記したようにビッグスリーもEV化を進めています。この目標を達成するためには、従来のガソリン車の生産ラインをEVの生産ラインに切り替える必要があります。これに伴って、一部の工場や部門が閉鎖されたり、従業員が他の工場や部門(より単純労働)に移動させられたりする可能性があります。労働組合の闘いは大変困難なものと想像されます。
   ◇  ◆ ◇
 賃金に関してもビッグスリーに対してEV専門のテスラの労働者の賃金がかなり低いという確かな報告があります。例えば、2020年時点でのビッグスリーの平均時給は約30ドルでしたが、テスラの平均時給は約18ドルでした。また2018年時点でのビッグスリーの平均年収は約7万ドルでしたが、テスラの平均年収は約5万ドルでした。これらの数字は、現場労働者だけでなく、技術者や管理職なども含めた全従業員の平均ですが、現場労働者に限っても同様の傾向があると考えられます。つまりガソリン自動車に比較してEVの製造においては熟練労働が減少し単純労働が多く賃金が低下すると見られています。

 EV化に先行してきたテスラなどが、労働者分断(後で触れる)と低賃金化によって超過利潤と言う暴利に結び付けて経営拡大に「成功」してきたのです。労働者をより踏みにじったものが成功し、労働者をより搾取したものが億万長者になることは許されません。

 組合員が新しいEV系工場でもそれなりの賃金を実現するには、同様の他社労働者との連帯と闘いの拡大こそ必要です。

■テスラという強欲企業モデルを拒否する

 テスラは環境問題への対応としてEVの普及を推進しており、消費者の支持を得ています。これに対して、ビッグスリーは依然としてガソリン車に依存しており、EVへの転換には多額の投資や技術開発が必要です。そのため、ビッグスリーはコスト削減や生産合理化を図る一方で、労組との交渉では賃金や雇用保障などに激しく抵抗しています。しかし自動車労組UAWは現在のところ、労働者の根本的利益を守る姿勢を崩していません。

 一方、 テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、労組を否定しており労組がテスラの成長を阻害する可能性があると主張しています。そのため、テスラは労組の結成を阻止する様々な取り組みを行ってきました。マスク氏はテスラの経営理念として「ミッションファースト」を掲げており、従業員には高い献身性と自己責任を求めています。マスク氏は労働組合を結成することを妨害したとして、労働法違反の疑いで訴えられています。

 例えば、テスラは、従業員に労組に加入するリスクを説明する資料を配布したり、労組に加入した場合の賃金や福利厚生が下がる可能性があると警告したりしています。また、テスラは、従業員の意見を直接聞くためのチャネルを整備し、労組に加入せずとも従業員の声が反映される仕組みを構築しています。

 ただし、2023年2月には、テスラのニューヨーク州バファロー工場の従業員が、全米自動車労働組合(UAW)の結成を宣言しました(一つの工場だけではUAWには加入できない)。UAWは、テスラの多くの工場で労働組合を結成することが、従業員の権利を守り、労働条件を改善するために必要であると主張しています。

 それゆえに、現在のUAWによるビッグスリーの無期限ストは、もちろん自分たちの闘いであると同時に何よりもテスラの労働者への支援であり、激励であるはずです。労働者階級のより広い共同的な利益をUAWの闘いは示しています。イーロン・マスク氏はライバル企業の無期限ストライキを内心では喜んでいるでしょう。しかし、決してそうではないことを断固として組合は示すでしょう。

■分断を乗り越えて

 今後ビッグスリーによって設立されるEV部品工場(中国や日本資本が絡む)労働者の非労組員化=低賃金化が画策されています。つまり常套手段としての労働者の分断を狙っています。それを阻止するために組合は「同一労働同一賃金」のスローガンの下で団結し組合員化することを目指しています。そこには労働者の勝利があります。孤立に追い込まれれば敗北となってしまいます。

 ここではっきりしましょう。「バイデン政権は自動車会社に新たな高賃金雇用の組合化を受け入れるよう働きかける大きな影響力を持つ」(民主党左派の教授)と言ったことはそもそも幻想です。ありもしないバイデン政権の力と「英断」に期待するのは失敗の原因となります。

 UAWの闘いは、米国自動車三社の労組の闘いにとどまりません。彼らの闘いが、テスラの労働者を始め全米の労働者の支持を得、さらに決起に繋がるかどうかが重要です。米国における格差と貧困はパンデミックとインフレ高進の時代を経て極限に達しています。彼らの闘いは全米の労働者に少なからぬ影響を及ぼすはずです。(Bunn)案内へ戻る


   マイナ保険証の不都合な真実!

「マイナンバー法等の一部改正法案」の成立

 2021年2月4日、全国8地裁で闘われていたマイナンバー違憲訴訟の最後の判決が大阪地裁であり、私は原告として傍聴席で敗訴判決を聞きました。遠く、住基ネット違憲訴訟参加から数えたら20年近くなるでしょうか、番号の利用差し止めや削除を求める市民の要求は司法の壁によって跳ね返され続けてきました。

 大阪地裁判決はマイナンバー制度は憲法13条に保障される権利を侵害するものではないとし、原告らの請求を棄却する内容でした。それでも判決は、住基ネット最高裁判決の「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を踏襲したうえで、「個人に関する情報をみだりに収集,保有,管理又は利用されない自由を内容に含む」とし、住基ネット最高裁判決より一歩踏み込んだ内容となっています。

 また、プロファイリングについても、「個人情報が漏えいした場合に,漏えいした特定個人情報の名寄せにより,本人の関与しないところで,その意に反した個人像が勝手に作られるというプロファイリングの危険性」などとして、その危険性自体は認めています。

にもかかわらず、大阪地裁は国策を守る壁としての役割を果たすべく、マイナンバー制度により原告らの権利を侵害する具体的な危険は生じていないとしてその請求を棄却しました。この訴訟は控訴審も22年12月15日の大阪高裁判決ですでに敗訴、最高裁に上告となっています。残念ながら今年3月9日、先行する訴訟の最高裁敗訴判決が出ています。

 そうしたなかで21年9月1日、デジタル庁が創設され、当時、加藤勝信官房長官は「デジタル化は、次の時代の成長の原動力でもあり、デジタル庁の創設はその象徴だ」と意気込んでいました。そのデジタル庁関連6法案が今年2月9日に国会に提出され、3月9日に衆院で審議入りし、6月2日に与党に加え維新と国民民主が賛成して早々と成立してしまいました。

 この悪名高い〝束ね法案〟は、デジタル庁設置法案、デジタル社会形成基本法案、預貯金口座の登録・管理2法案、自治体の情報システム標準化法案、デジタル社会形成の関係法律約60本の改正、以上をまとめた整備法案でした。その結果、来年秋には紙の保険証は廃止となったものです。

 かくして個人情報保護から個人情報利活用の推進へ、警察等の捜査関係事項紹介や不正アクセスによる住民情報の入手、国・自治体・民間で個人情報の連携利用、そしてスマホへの搭載、かくして個人情報は企業利益のために利用されつくし、情報漏洩の危険も増大します。

住基番号と共通番号

 通知カード(12桁の共通番号を知らせる通知)が所帯ごとに送られて来たのは2015年10月から、そして番号の利用開始、個人番号カード(マイナンバーカード)の交付が始まったのは年明けの1月からでした。その過程で、住民基本台帳カードの発行は終了しました。住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が導入されたのは02年、2000億円を超える税金が投入されましたが、住基カードの交付枚数は710万枚(15年3月)、普及率は5・5%でした。

完全な失敗策、そこで登場したのがマイナンバーカード。住基番号は11桁で、市区町村の住民基本台帳を元に住民票コードが割り当てられるものでしたが、マイナンバーは全ての対象者に生涯不変の12桁の番号が割り振らています。住基システムでは地方自治情報センターを通じて他自治体と情報連携するものでしたが、マイナンバーは地方公共団体情報システム機構(JーLIS)が全てを仕切っています。

 JーLISって? 次のように説明されています。「2014年4月1日に地方共同法人として設立され、その後、デジタル庁の発足とともに体制が強化され、国と地方公共団体が共同で管理する法人となりました。こうした中で、マイナンバーカード関連システム、住民基本台帳ネットワークシステム、自治体中間サーバー・プラットフォーム、公的個人認証サービス、コンビニ交付サービス等、地方公共団体の行政サービスを支える大切な基盤となる各種システムの運営を担っております」

違憲訴訟の経過

 住基ネット違憲訴訟とマイナンバー違憲訴訟、どちらも全国各地で取り組まれ、私はどちらも原告として参加しました。住基訴訟では、大阪高裁で控訴人の住民票コードの削除を認める画期的判決(06年11月30日)がありましたが、最高裁ですべて敗訴となっています。最高裁判決(08年3月6日)は次のような判断を行っています。

「住基ネットを管理、利用等する行為は、日本国憲法第13条に違反しないとして、システム上、住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組みになっておらず、データマッチングは懲戒処分、刑事罰の対象となり、現行法上、本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しないことなどにも照らせば住基ネットにより、個々の住民の多くのプライバシー情報が住民票コードを付されてデータマッチングされ、本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され、利用される具体的な危険が生じているとはいえない。」

 この最高裁判決の縛りが、国による直接管理による国民総背番号制の導入を阻んできました。JーLISを介したひも付け、内蔵ICによる個人認証とあれこれの個人情報ひも付け、マイナ保険証は医療情報をひも付けするものです。マイナポータルでそれらを確認できるとあるが、ここから情報漏洩の可能性大です。

納期守るのは日本の文化?

 経済団体はこぞってデジタル化促進を求めてきました。「保険証などに個人番号カードに一元化する『ワンカード』などを検討すべき」(14・6.経団連)、「運転免許証や健康保険証、年金手帳等に加えて、母子健康手帳や図書館カード等を個人番号カードに一元化すべき」(18・2.経団連)、「マイナンバーカードによるオンライン資格確認を原則とする方針を明示し、新健康保険証の交付は最小限に」(18・8.経済同友会)、「各企業の健保組合において、単独の健康保険証交付をとりやめ、完全な一体化を実現すべき」(21・4.中西宏明・経団連会長や新浪剛史・経済同友会副代表幹事ら)、「現行の健康保険証はそのまま使い続けることができる。そのため、マイナンバーカードの普及効果はあまり期待できない。まず健康保険証とマイナンバーカードを統合することにより、すべての国民が常時マイナンバー及びマイナンバーカードを携行する体制をつくる」(22・4.経済同友会)・・・

 そして、最近話題となっているのが経済同友会の新浪剛史代表幹事が保険証廃止時期を「納期」だとして、「納期を守るのは日本の大変重要な文化」との発言です。「デジタル社会においてマイナンバーはインフラ中のインフラ」「ミスがあるからやめましょうとかやっていたら、世界から一周、二周遅れのデジタル社会を取り戻すことはできない」と強調。政府が健康保険証の廃止を目指す2024年秋を「納期、納期であります」「民間はこの納期って大変重要で、必ず守ってやり遂げる。これが日本の大変重要な文化でありますから、(政府は)ぜひとも保険証廃止を実現するよう、納期に向けてしっかりやっていただきたい」(8月18日「中日新聞」)

 新浪という名前で思い出すのは、安倍晋三元首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会に、サントリーが飲料を無償提供していた問題です。彼はサントリーホールディングの社長であり、酒税の税率一本化を巡り安倍元首相と親しくしてたとの指摘もあります。

 そもそも企業間での納期厳守は当然のことであり、保険制度の破壊につながるものを平然と〝納期〟と言ってしまう感覚は疑わざるを得ません。また、マイナンバーで何でもひも付けし、カード所持を半ば強制するようなことは、G7で日本だけです。

 白?大の石村耕治名誉教授(情報法)は「G7(先進七カ国)で、日本のように血税を費やして官製のICカードに保険証を一体化させている国はない。カードがないとデジタル社会に対応できないというのはまやかしだ。経済界はこうした世界の潮流を知っているはずなのに前向きなのは、IT利権があるからではないか」(同前)と指摘しています。

保険証は廃止できない!

 かくして、この国のデジタル化とは本格的管理社会への出発点であり、企業にとってはヒト・モノ・カネに次ぐ新たな経営資源の獲得となるのです。すでにマイナ保険証の押しつけは破綻、紙の保険証の廃止も破綻しているにも関わらず、岸田首相は来秋の廃止を撤回できないで立ち往生しているのです。

 ここで問われるのは、こうした問題から目をそらし、ただその行方を眺めているだけならやすやすと保険証廃止を強行されてしまうということです。フクシマの汚染水もそう、海に流してしまうのも仕方ないと思ったら止めることなどできません。まだカードを持ってないなら「番号は書かない、カードは持たない」、すでに持ってしまっているなら返納することで拒否の姿勢を示そう。  (折口晴夫)


   貪欲資本主義の新たな奔流に警戒を 資本主義史の中のBRICS

 八月下旬「BRICSとアフリカ~相互協力による成長、持続可能な開発、包括的な多国間主義のためのパートナーシップ」が南ア共和国ヨハネスブルグで開催されました。そこで新たに六カ国が加わり、来年春からは十一カ国BRICSが始動することになりました。ここでは資本主義史の中でBRICSの果たす役割は何かを考えます。

■貪欲資本主義の新たな潮流

 「反米左翼」が拡大するBRICSに感激し反米勢力の歴史的台頭だとして盛り上がっていますが、それは彼らの世界観が歪んでいるからであり、決して労働者大衆が歓迎すべきものではありません。むしろ逆です。拡大BRICS(ないしはBRICSと表記します)は、国民に対して苛烈な搾取を実現している新興国が中心です(南ア、中国、ロシアそれにサウジアラビア、イランやエジプトなどが加わることを想起してください)。また、数十の加盟希望諸国の顔ぶれも一つ一つは触れませんが類似した国が目立つようです。

 その上「左翼」には申し訳ありませんが、BRICSはそれほど反米でも反資本主義でもありえません。一切の幻想を抱くべきではありません。新興諸国はこの数十年、成長鈍化に悩む欧・米・日資本主義の過剰資本を受け入れることによって成長してきましたが、同時に先進諸国資本に「富の収奪」を許してきました。政治的な圧力も受けてきました。彼らは現状に多くの不満を感じ、BRICSの成立に至ったのです。そのような流れが類似した新興諸国政府にも支持されBRICSの拡大につながりました。彼らは先進諸国への経済従属を脱するも、関係断絶ではなく、グローバルな新たな様式の資本主義の興隆(強権体制に基づく資本主義の興隆)を目指そうというものにしか見えません。

 つまり、近代以降の欧米諸国が、文化の中心であるばかりでなく経済の中心となり、うまい汁を吸い続けることに異議をたて、干渉をはねのけ(この限りで反米反欧州、そして脱ドルです)欧米資本の間隙に浸透しようとしているわけです。今やBRICS=新興国は後進国である正真正銘のグローバルサウスを投資や貿易で欧米に抗して取り込み、収奪する決意のようです(すでに中国がアフリカなどで先行)。このような構図しか見えてきません。
   ◇ ◆ ◇
 かつては植民地でありながら近年経済成長し過剰資本を抱えるに至った新興国BRICSは開発途上国等へのグローバルな資本の投入を「人権」「国際条約」「欧米の国際秩序」などを理由に邪魔されたくないということでしょう。さらに後発の開発途上国の支配者たちからは資本導入に規制や条件が少ないことなどが歓迎されると考えられます。グローバルサウスの労働者や貧困な新興国の国民にとってこの新たな資本主義は、より若々しく残忍なものとして立ち現れています。国家は一義的に資本の専制を容認し、あられもない暴力に支えられたユニークな(欧米とは異なる)搾取秩序をもたらすものとなる可能性があります。まさに警戒し研究すべき民衆の敵なのです。

■BRICS国家の基本的特徴

 「BRICS資本主義」の中心には中国が存在します。といっても、言うまでもなく何か共有された国家モデルがあるとは今のところ考えられません。また、中国が強引に自分のモデルを押し付けるとは当面考えられません。もし何か彼らに共通項があるとすれば「欧米モデル」からの脱却であり自分なりの(つまり支配者たちのより自由な)経済開発を追求したいということにほかなりません。強いて言えばそれがBRICSモデルなのです。

 ここでは彼らの特徴を簡単な資料で見てみましょう。
2013年から2022年までの直近10年間のG7諸国のGDP成長率の平均は1.7%となります。他方、2013年から2022年までのBRICS五カ国の10年間のGDP成長率の平均は、6.3%です。
 2023年9月22日現在のIMFの予測によると、G7のGDPは名目で約46兆ドル、購買力平価で約52兆ドルです。BRICSのGDPは名目で約40兆ドル、購買力平価で約56兆ドルです。つまり、この五カ国と他の七カ国はほぼ同レベルの経済力があります。
  ◆  ◇ ◇
 さらにOECD統計から見てみましょう。2021年のBRICS諸国の「当初所得」ジニ係数の平均値は0.471となります。G7諸国のジニ係数の平均値は0.458です。再配分前の「国民内格差」は、先進国も新興国もどちらもひどいものです。

 ところが2021年のG7諸国の「再分配後」ジニ係数の平均値は0.350となりました。BRICS諸国のジニ係数の平均値は0.393です。つまり、同じ資本主義でもBRICSは「社会的再分配」に一層無関心なのが分かります。もっともG7と言っても米国のように0.4越えのBRICS並みの酷い国もあります。

 ジニ係数は、0から1の値で表され、0に近いほど平等な分配を示し、1に近いほど不平等な分配を示します。0.2台は比較的格差が目立たない社会、0.3台は格差が目立つ社会(日本やフランスなど)、0.4台は格差がひどく暴動が頻発する社会(米国や南ア)と考えられています。

■「ヨハネスブルク第二宣言」で人権は顧みられたか?

 BRICSサミットで採択された「ヨハネスブルク第二宣言」と言うものがあります。人権については、「人権を促進し、保護し、実現する必要性を考慮」としつつ、各論にはあまり踏み込みませんでした。児童労働については、(児童労働を全面禁止した)ダーバン行動に基づき、「効果的に廃止するための努力を強化する」と(かなり曖昧に)しましたが、強制労働や結社の自由には言及しませんでした(Sustainable Japan)。

 これらの諸国の急速な資本蓄積は、背後に奴隷的労働や低賃金、児童労働、非人道的労働などの人権抑圧が横たわっているのであり、それが当サミットでかくも曖昧にされたからには、グローバルサウスにおける今後の経済開発のスタンダードになる恐れがあります。核兵器廃絶問題も含めて、BRICSは見解の対立しあう問題をあいまいにするか棚上げして進行しています。
   ◇ ◆ ◇
 すでに上述したようにBRICSは、社会的再配分による格差是正や人権を軽視しつつ、経済開発に力を入れてきたことは明らかだろうと思います。それにより高度成長を実現したということです。G7諸国は社会的富の再分配が相対的に進んでいると言えます(この背後には労働者市民の長い戦いの歴史が刻まれています)。

 このように、あくなき搾取と格差社会を内包するBRICS型社会モデルは、資本蓄積も早いがそれゆえ階級的対立も深刻になるでしょう。かつては開発独裁と言われたような政治的独裁体制が必然化するほかありません。

 しかし、一時期は開発独裁と言われた韓国や台湾において経済開発の一定の進行後に実現された「民主化プロセス」(それは冷戦構造の解消という追い風もあった)は、BRICSではそもそも排除され、持続的独裁体制が理念化されている国家が目立ちます。典型は中国・ロシアです。あるいは新メンバーとなるサウジアラビア、イラン、エジプトもまた不寛容なイデオロギーを持ち警察国家と考えられます。

 彼ら(支配者層ばかりではなく少なくない大衆も)は欧米諸国ばかりではなく韓国や台湾を「未来モデル」とは考えていないと思います。「欧米型先進諸国」の政治の混乱や経済の停滞があり、あるいは米国のように酷い格差と社会の退廃が拡大しているからです。それは確かに事実なのです。

■BRICSはグローバルサウスの搾取を強化する

 BRICSサミットで南アフリカのラマポーザ大統領は、「途上国が直面する課題により機敏に対応できるよう、国際金融機関の抜本的な改革が必要だ」とIMFや世界銀行の不十分性を指摘しつつ、新開発銀行NDBの拡大の必要性に触れました。NDBを強化育成し、資金不足のグローバルサウスの経済発展資金を調達する機関にしようとするものです。

 NDBは、2023年8月現在、10カ国が加盟しています。報道によると、中東やアジアの複数国がNDBへの資本拠出に関心を示し、12カ国がNDB加盟を検討中と伝えられます。注目すべきはこの資金原は中国など新興国だということです。今後も加盟国を拡大することで、欧米日の影響の強い世界銀行やアジア開発銀行などの既存の開発銀行と競合するでしょう。BRICSが世界経済における欧米日の従来の金融支配を脱し、新興国と途上国の役割を強化し「自前」の金融体制を構築する方向へと進んでいます。

 さらに「共通通貨」についても議論されました。しかし現実化への具体的スケジュールは無く、ドル=米国の牽制レベルの話しにとどまりました。そもそもBRICSは経済協力機構であり、EUのような関税撤廃、シェンゲン協定、各国の財政統制などは無く、ユーロのような「BRICS通貨」を発行できる基盤がありません。石油を始めBRICSの相互貿易を自国通貨で行うだけでも世界の脱ドル化は進むでしょう。(阿部文明)


   実質賃金減少、果実は株主と経営者に!――岸田《新しい資本主義》の実相――

 アベノミクスからの脱却をほのめかしつつ発足した岸田政権。政権発足から2年間で、株主・経営者ファースト構造が浮かび上がっている。

 政権の政策と連動して、労資の力関係に起因する労働者の搾取構造が、誰の目にも明らかになっている。

 そうした構造を大転換するため、自分たちの要求を高く掲げ、反転攻勢に転じていきたい。
   ………………

◆実現しない〝賃上げ〟

 日銀の植田総裁は、2%の物価上昇と賃金上昇の好循環が実現できていないことを根拠に、金融緩和策を続けている。現状はといえば、日米の金利差などに起因する1ドル=150円にも迫る円安に歯止めがかからず、輸入インフレが進み、エネルギーや食料品の値上がりなどで実質賃金の目減りが深刻だが、日銀自身も緩和策継続でそれに加担しているわけだ。

 岸田首相を始め、「賃上げは企業の責務」という経団連、それに連合がこぞって声を上げている賃上げ。が、今年もかけ声倒れに終わっている。

 連合は7月5日に春闘の賃上げで最終集計を発表している(7月3日時点)。それによれば、
  正社員の賃上げ率(定期昇給を含む) 3・58%
  ベース・アップ分          2・12%
  組合員300人未満の組合      3・23%
  ベース・アップア分         1・96%
  非正規労働者(時給ベース)     5・01%
となった。

 この集計では定期昇給分も含まれているが、これは労働者個々人にとって年功カーブ上の昇給であって、会社が支払う総額人件費は増えない。高賃金の退職者と低賃金の新規採用者が入れ替わるだけだからだ。

 結果は、以下で見る物価上昇を踏まえると、今年もまた実質賃金の低下を止められなかった、ということになる。

◆減少が続く実質賃金

 昨年来のロシアのウクライナ侵攻やそれに関連するエネルギー関連価格の高騰など、日本でも物価上昇が続いている。

 2022年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年度比で3・0%上昇、実に41年ぶりの上昇となった。また最新の今年8月の物価上昇率は3・1%で、22年9月以降12ヶ月連続で3%以上の上昇だったという。とりわけ食料(生鮮食品を除く)は全体の倍以上上昇し、26ヶ月連続で、前年水準を上回った。

 こうした物価上昇が続く中、実質賃金はどうなったか。

 3月の春闘結果を報じた各メディアは、30年ぶりの高水準だとノー天気に報じているが、デフレ経済化での賃金引き上げ率と最近の物価高での賃上げを、賃上げ率だけで比較しても意味が無い。あくまで賃上げ率はベースアップ分とその時点での物価を比較しなければ労働者の生活レベルが維持されたかどうか分からない。現に厚労省の調査でも、実質賃金の低下状況が続いていること明らかだ。

 厚労省(毎月勤労統計調査)によると2020年を基準(100・0)として、ピークだった1996年は116・5で、22年は99・6だったという。要するに、実質賃金は96年以降下がり続け、昨年も下がり続けているのが実情だ。

 今年の春闘で、実質賃金はどうなったか。

 連合によれば、正社員のベース・アップ分は2・12%で、昨年1年間の物価上昇が3%だったから、2・12%では目減りした分も取り戻せなかったことになる。
 また最新の厚労省による発表(9・8)では、名目賃金が1・3%上昇、物価上昇が3・9%で、実質賃金は2・5%の減少だった。その上、食料品などの値上がりが全体の物価上昇率の倍以上なので、食料品に多くを支出せざるを得ない低所得世帯ほど生活は逼迫している実情が浮かび上がる。こんなレベルの賃上げでは、私たち労働者の生活安定にはほど遠いのが現状なのだ。

◆膨らむ企業利益

 では実質賃金の維持さえ出来ないほど、企業業績が悪いのだろうか。現実はといえば、大企業を中心にかつてない業績を上げている。

 財務省によると(法人企業統計9月1日発表)、昨年22年度の全産業(金融・保険業を除く)の売上高は1578兆4396億円(対前年度比9・0%増)で、営業利益は95兆2800億円(対前年度比13・5%増)だった。

 対する人件費は214兆4447億円(対前年度比3・8%増だった。結果、労働分配率は67・5%(対前年度比マイナス1・4%の低下)だった。企業利益の増加に比べ、人件費への支出が明らかに少ないのが分かる。

 最新の数字を見てみたい。日興證券(8月14日とりまとめ)によれば、今年4~6月の3ヶ月分の統計で、上場企業1407社は
   売上高 141・3兆円(対前年度比 8・4%増)
   営業利益 11・0兆円(対前年度比11・0%増)
   純利益  13・0兆円(対前年度比47・1%増)
だった。とりわけ自動車など輸送用機器が好調で、純利益は対前年度比で82・7%増だった。トヨタ自動車の連結純利益は1・3兆円(年間で5・2兆円規模)で過去最高だった。

 こうした企業の好業績、実質賃金の低下という状況下で、企業の内部留保も膨らんでいる。財務省(法人企業統計)によれば、22年度末で554兆7777億円(対前年度比7・4%増)、11年連続で過去最高だった。

 こうした調査によれば、企業は人的資源への配分、要するに労働者により多くの賃上げを実施することは十分可能なのだ。が、個別企業は現実にはそれをせず、政府や財界がいうような〝物価と賃金の好循環〟を拒否しているのが実情なのだ。

 なぜそんな結果になるのか。総資本の観点から発想する政府や財界は労働者の賃上げが国内市場(需要)の拡大をもたらし、それが企業の設備投資の呼び水になり、さらなる拡大再生産が可能になると発想する。が、個別資本とすれば、自社以外の全ての企業での賃上げは市場の拡大に繋がるので歓迎する。が、その中で自社だけ賃上げしなければ低価格で製品を提供でき、同業他社との競争に有利になり、それだけ利益が膨らむ、という計算が働く。

 こうした総資本と個別資本の思惑が錯綜する中での具体的な賃上げ額は、結局は最大利潤の獲得という個別資本の論理が優先されるのが現実なのだ。

◆上昇する株価

 上記のように足元での好調な企業業績は、直接的に株価に反映する。

 もともとアベノミクスの10年で株価は倍増していた。13年3月末時点で12397円だった日経平均株価は、今年1月の時点で25000円台に倍増している。それが
  5月17日 30000円台を回復
  5月19日 30808円(33年ぶりの高値)
  6月 5日 32000円
と今年に入ってさらにうなぎ登りに上昇した。

 安倍元首相は、「日本を企業にとって世界一活躍しやすい国にする」として、規制・金融緩和を進めて円安へと誘導してきた。その企業は、膨らんだ企業利益を株主に還元するため自社株買い(一株あたりの価値・株価を高め、株主の資産が増える)を増やし続けてきた。

――図―― 上場企業の自社株買い
   

――表―― 自社株買いを最近発表した主な企業

 三菱商事    3000億円
 KDDI    3000億円
 日本郵政    3000億円
 ホンダ     2000億円
 ソニーグループ 2000億円
 トヨタ自動車  1500億円
 富士通     1500億円
 東京エレクトン 1200億円
 第一生命(H) 1200億円
 東京ガス    1130億円

 13年に2兆円強だった上場企業の自社株買いは、昨年には9・4兆円にも膨らんでいる。さらに今年5月は一ヶ月で3兆2596億円(前年5月も3兆1277億円)、年間でも過去最高だった昨年を上回わる見込みだという。

 ここでは東京ガスの例をちょっと見てみたい。

 東京ガスは23年4月に、発行済み株式の12%、1130億円分の自社株買いを発表。発表前の株価2600円は、発表後の6月には3100円を超えた。ちなみに22年度の純利益は前年の約3倍の2809億円だった。

 政府はウクライナ戦争などで都市ガス料金が跳ね上がって家計を圧迫しているとして、都市ガス会社に補助金を出して、値上がりを抑制している。だから東京ガスは、政府から補助金(むろん原資は税金だ)をもらいながら大きな利益を上げ、それを株主還元に回しているわけだ。

 篠山社長は、料金値下げを問われ、「コロナ禍の初期は大きく損を出した。……損失を出した場合のことも……考えないといけない」と語り、株主への利益配分だけ実施したことを開き直っている。

◆増え続ける株主配当・経営者報酬

 企業は、自社株買いによる株主還元の他、株式配当を増額することでも株主還元を増やしている。

 上場企業の23年3月期の配当総額(予想)は13兆9000億円(日経新聞)だった。24年3月期の配当総額(予想)は15・2兆円(同)だという。

 配当総額は、2010年では4兆円台だったから、14年間連続で4倍近くまで増え続けていることになる。この間の実質賃金は減り続けていたのに、だ。

 経営者は、配当金増や自社株買いをつうじて企業利益の株主還元に務め、それが株主による経営者への高評価に繋がり、経営者報酬の引き上げも実現しやすくなるという、自分たちだけの〝好循環〟をつくっている。

 東京商工リサーチによると、上場企業の1億円以上の役員報酬は、
  2010年3月期  166社289人
  2022年3月期  287社663人
 へと、倍以上に増加している。トヨタの豊田章夫社長(当時)は、この10年間で従業員の給与の18倍だったものが80倍に増えた。

 要するに、労働者の実質賃金は減り続ける一方、企業利益の株主還元と経営者報酬の引き上げが連動し、企業利益が株主と経営者に還流する構造になっているのだ。

 岸田政権は6月6日、首相が掲げた「新しい資本主義」実行計画の《改定案》まとめた。その4本柱として、労働市場改革、デジタル化、新興企業育成、経済安全保障に向けた国内投資などを掲げている。

 岸田首相は政権発足時には「令和版《所得》倍増計画」を掲げたが、その後「《資産》所得倍増計画」へと修正し、「《個人=家計》所得倍増」での分配強化による格差是正は消えてしまった。「新しい資本主義」は企業や富裕層へのてこ入れ、安倍政権による成長戦略の二番煎じに過ぎない。

◆経団連=消費増税の悪乗り

 岸田政権は、少子化対策の「加速化プラン」で「財源確保を目的とした増税は行わない」「財源は、社会保障費の歳出抑制や社会保険料の仕組みを使って新たに徴収する『支援金制度(仮称)』を軸に検討中」だとしている。防衛費倍増でもそうだが、少子化対策でも今のところ、増税による財源確保を否定している。

 子育て支援金の増額という企業負担増も含まれる岸田政権の少子化対策に対し、経団連は9月11日、少子化対策など社会保障政策の財源で「消費増税も」という提言を発表した。

 大企業で構成された経団連は、すでに見てきたように、アベノミクスでさんざん企業利益を膨らませ、それを株高や配当金増で株主に還元し、自らにも経営者報酬を増額してきた。このことを棚に上げて、実質賃金が目減りするなか、大衆課税の性格を持つ消費税の増税でまかなえとする提言に、改めて怒りを感じざるを得ない。

◆反転攻勢へ!

 厚労省による21年の調査で、世帯ごとの格差が過去最高水準になっていることが分かった。格差の大きさを示す《ジニ係数》が当初所得で0・5700となって、17年の0・5594から悪化したという。この34年間で傾向的に格差が拡大していることが明らかになった。

 ジニ係数とは、0~1の間で格差の現状を数値化したものだ。その場合、数値が0で全くの平等、1が一人が全ての富を独占する極限の状態の数値だ。

 そのジニ係数が、日本では再配分後の指数ではほぼ前年と同じレベルの状態が続くが、当初所得時点では格差拡大傾向が続いているのだ。それは先ほど見てきた実質賃金の低下と株主還元・経営者報酬の増加の結果でもある。

 日本で格差拡大が拡がっている現実に対し、再配分後の平等化も重要だが、何より一次配分での格差解消が全ての出発点だ。

 いま欧米でも労働者は、様々な要求を掲げてストライキなどで闘っている。直近でも、米国ビッグ3(全米自動車労組=UAW)は、物価高を理由に4割超の賃上げを求めてストライキを実施し、現時点(9月25日時点)でも拠点を拡大しながら続けている。

 それが可能なのも、全米自動車労組はビック3をはじめとする自動車産業その他の労組を傘下にする産業別労組だ。日本の個別企業内組合のストライキとは違い、同業他社の抜け駆けはない。ここでも欧米の産業別、職業別組合に対する、日本の企業内組合の限界が現れている。

 日本でも、企業の壁を越えて多くの労働者が結束し、自ら闘うことで格差の解消に向けて反転攻勢へと転じたい。(廣)案内へ戻る


    読書室   尾松 亮著 『廃炉とは何か 』 もう一つの核廃絶に向けて  岩波ブックレット二〇二二年八月刊

〇原発の廃炉とはどのようなことをすることなのかを、スリーマイルとチェルノブィリの両原発事故の教訓を明らかにした上で、福島原発事故の現場から問う渾身の一冊である〇

 二〇一八年九月、福島第一原発の現場視察の後、関西学院大学災害復興制度研究会の外部研究員の立場で参加した尾松氏は、東京電力に対して質問する機会を得た。その時、尾松氏は、東電に「福島第一原発の廃炉に三〇~四〇年かかるとの説明ですが、四〇年後この原発がどのような状態になったら廃炉完了と認めるのですか」と質問したのである。

 この問いに対して東京電力の広報担当者は、「どうなれば廃炉完了かは決まっていません。それは我々一企業が決められることではありません。今後地元の方々と話し合いながら、決めていくことだと考えております」と答えた。この答えは何かがおかしい。その後、尾松氏が色々と関係資料を調べてみてはっきりと分かった驚きの事実がある。

 つまり「廃炉完了とはどういう状態か決まっていない」が東電の公式見解なのである。

 その一年後に福島第二原発の廃炉が決定したとの報道がなされた。この第二原発は第一原発事故の当日でもメルトダウン事故を免れていたのだが、廃炉決定は決まっていなかった。尾松氏が改めて驚いたのは、「廃炉が決まったこと」ではなく、事故が起きていない第二原発の廃炉が「四〇年以上かかる」との報道であった。その後、その期間は「四四年」で計画されていることが明らかになったのである。これは本当におかしいことだ。

 メルトダウンが起きた第一原発の廃炉が「最長四〇年」なのに、事故が起きていない第二原発の廃炉は「四四年」だ。担当するのはともに東電なのに、本当に何かがおかしい。

 この謎解きがこのブックレットの内容である。ブックレットは、序章は不可解な廃炉スケジュール、第一章は「廃炉」とは何を目指すのか、第二章は「四〇年廃炉」スケジュールはどうやって組み立てられたか、第三章は素通りされたスリーマイルの教訓、第四章は知られざるチェルノブィリの知恵、第五章は危うい現地から問う「廃炉とは何か」、終章は「もう一つの核廃絶」に向けて、の六章立てで構成されている。

 このブックレットの読みどころは、第三章と第四章で実際に原発事故に遭ったスリーマイルとチェルノブィリの両原発事故の教訓をコンパクトに明らかにしたことにある。

 そもそも原発を廃炉にするためには、法の整備が、つまりは廃炉や燃料デブリや「長期の安全貯蔵」方法等に関する法的な定義が絶対的に必要なのである。これが教訓である。

 燃料デブリを完全に撤去したスリーマイル原発と燃料デブリを取り出すことすらできずに厚い石棺で封じ込めるしかなかったチェルノブィリ原発の廃炉へ向けての取組みと現状を知ることは、福島原発の廃炉を目指すとの建前を表明している日本政府にとっても実に貴重な教訓を提示している。それは廃炉を目指す反対派も周知する必要があると考える。

 スリーマイルとチェルノブィリの両原発事故の教訓から得られるものとは、端的に言えば原発廃炉へ向けた長期的な展望を持つ法的な整備の重要性とそれと一体的な意味を持つ燃料デブリや核汚染水の「長期の安全貯蔵」方法の確立である。しかし東京電力も日本政府も廃炉へ向けての法的な整備や「長期の安全貯蔵」方法など、まったく考えてもいない。

 現実にほとんど国際的にも支持されてもいない核汚染水の海洋放出を平然と行い、しかもまるで海洋放出に反対すること自体が間違っているとする、厚顔無恥な態度なのである。
 反原発闘争を闘う私たちにとって理論武装のための重要な武器となることは間違いない。ぜひこのブックレットの一読をお勧めしたい。 (直木)


   何でも紹介・・・映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』

●ウクライナ民謡

 「キャロル・オブ・ザ・ベル」という曲は、もともとウクライナ民謡「シチェドリク」で「これを謡うとみんなが幸せになる」と信じられており、童謡のようなシンプルなフレーズが繰り返される、美しいメロディーの曲である。

 ナチス占領下のウクライナ(当時はポーランドに属す)で、複数の家族の子どもたちが、この歌を一緒に歌うことで、お互いの心のきづなを深め助け合う、一部実話に基づいた映画である。

●ナチス・ソ連の支配下で

 ユダヤ人家族の母家に、店子としてポーランド人家族と、ウクライナ人家族が移り住んでくるところから物語は始まる。三家族とも、父・母・娘で構成され、幼い娘たちは、しだいに仲良くなり、両親たちも文化や生活習慣の違いに戸惑いながら、交流を深めていく。

 しかしナチス占領軍は、ユダヤ人の両親を、次いでポーランド人の両親を摘発し連行してゆく(その先は強制収容所である)。

 ナチスはユダヤ人の娘も捜索しようとするが、家族たちは娘を秘密の戸棚に隠して匿う。

 やがてウクライナ人の父親も「ウクライナ民族主義者」として連行され、広場で銃殺刑に処される。

 一人残されたウクライナ人の母親は、自分の娘と同じくユダヤ人、ポーランド人の娘を守って、占領軍と巧みに渡り合う。

 だがドイツ軍に代わって進駐して来たソ連軍は、彼女がドイツ人家族をも匿った罪で連行し、シベリアの収容所に送ってしまう。

●シチェドリクの歌声

 ウクライナ人家族の母親は、もともとピアノの教師であり、娘にシチェドリク(キャロル・オブ・ザ・ベル)の歌を習わせていた。

 三家族が同居する中で、母親はポーランド人、ユダヤ人の娘にも、この歌を教えた。音楽を通じて、複数の家族が助け合うさまが、叙情的に描かれていく。

 だが、このシチェドリクの歌は、ソ連(ロシア)の立場からは、ウクライナの民族を連想させる(歌詞はウクライナ語)ため「不愉快な歌」と受けとられる。

 そのためソ連進駐後の孤児学校の合唱発表会で、ウクライナ少女がシチェドリクを歌ったところ、ロシア人の音楽教師に途中で遮られ、会場から無理矢理退場させられる。残されたユダヤ人、ポーランド人の娘が、悲しい目で見送る場面で物語は終わる。

●ロシア軍侵攻の直前

 この映画が、ウクライナ人女性監督によって完成したのは、奇しくも今回のロシア軍によるウクライナ侵攻の直前であった。

 今も戦禍の中、ウクライナ各地で上映され、映画館はいつも満席に近いそうだ(空襲のときでなければだが)。

 ナチスとソ連の狭間で、ウクライナがたどってきた厳しい歴史と、そのもとでウクライナ人をはじめ、ユダヤ人、ポーランド人の家族たちが直面してきた状況を知るためにも、貴重な作品である。(夏彦)


    映画紹介  「福田村事件」

 映画「福田村事件」を観にいきました。

 今からちょうど100年前、1923年9月1日関東大震災が発生し推定10万5千人もの方が亡くなりました。

大震災からわずか5日後の9月6日、千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)三ツ堀の利根川で薬売り行商人15人が自警団に襲われ、幼児や妊婦を含む9人が殺されました。これが福田村事件です。

被害者は全員、香川県の被差別部落の人たちでした。

関東大震災では、火災や混乱が東京や横浜を中心に広がり、人々はパニックに なりました。その時「朝鮮人が井戸に毒薬を投げた」「朝鮮人が武器を持って 襲ってくる」などのデマが広がりました。

後にウソと分かりましたが、政府と軍部は翌2日に戒厳令を出し、関東各県に 命令して在郷軍人や青年団、消防団などによる自警団を結成しました。彼らは猟銃や日本刀・竹やり等で武装して 警戒に立ち、「怪しい朝鮮人」と疑問を抱く人を次々と尋問しました。興奮した自警団はあちこちで 朝鮮人に暴行を加え、6日頃までには横浜・東京・千葉・埼玉・群馬県などで虐殺事件がたくさん発生しました。

 殺された朝鮮人の数は、6000人以上といわれています。 日本人と朝鮮人は一見して区別がつかず、200名をこえる中国人や数十名の日本人が朝鮮人と見られて殺されました。

 福田村事件では、福田村と隣の田中村(現在の柏市)の自警団員8人が逮捕、7人が有罪判決を受けましたが、懲役刑となった者も大正天皇の死去に関連する恩赦で釈放されます。彼らには村から見舞金が支払われましたが、 犠牲者には謝罪も賠償もありません。9人も殺害された悲惨な事件にもかかわらず、100年の間、歴史の闇に葬られていた「福田村事件」です。

 映画の中身に入ります。当時朝鮮半島は、日本の植民地になっていました。朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一(井浦新)は、妻の静子(田中麗奈)を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に帰ってきました。同じ頃、沼部新助(永山瑛太)率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発しました。

 薬売りの行商団は、被差別部落の出身者で日頃からいろいろな差別を受けてきました。

 また、日本人の多くが朝鮮人のことを鮮人と呼んで侮辱していました。マスコミも、「朝鮮人が井戸に毒薬を投げた」「朝鮮人が武器を持って 襲ってくる」などのデマを平気で新聞記事にしていました。その中でも真実の記事を書こうとして上司に抗していた記者もいました。

 活動家平澤計七(カトウシンスケ)も、政府にたてついたとして警察官に殺されました。朝鮮人で飴売りの少女も自警団に殺されました。

 そして、讃岐から来た薬売りの行商団15人中、9人も自警団に殺されました。この映画で一番印象に残ったのは、薬売り沼部新助(永山瑛太)が言った「朝鮮人なら殺していいんか」でした。薬売りの方たちは、朝鮮人と間違えられて殺されたのですが、誰であっても殺されていいはずがありません。

 今でも、在日の方々に対するヘイトがありこの問題は現在のものでもあります。多くの人に映画「福田村事件」を観て、そして何か感じてほしいです。 (河野)  案内へ戻る


   「沖縄通信」・・・静岡でもPFAS(有機フッ素化合物)汚染問題起こる

 ワーカーズ「8月1日号・645号」でも取り上げたPFASによる汚染問題。

 その後、この「PFASの汚染問題」は沖縄だけでなく東京・横田基地周辺の多摩地区や横浜の横須賀米軍基地でも、人体に有害なPFAS(有機フッ素化合物)が起こっている事を指摘してきた。

 ところが私たちの地元・静岡でも次々にこのPFASの汚染問題が起こっている事を報告する。

 私が住む清水でもこのPFASの汚染問題が起こっている事を初めて知ったのは、アメリカのジョン・ミッチエルさんが中心になって書いた本「永遠の化学物質。水のPFAS汚染」(岩波ブックレット)を読んでからである。

 第2章に「デュポンは、清水市(現静岡市清水区)にある工場でもPFΟAを使用したテフロンを製造していた。1965年開業の三井フロロケミカルズ株式会社が操業した工場だ。1981年9月、デュポン米国本社は清水工場(三井デュポンフロロケミカル清水)に対して、PFΟAが米国の労働者の血液中で蓄積しており、曝露したラットの出生障害と関連づけられていることを報告する書簡を送った。そして曝露の確認のため清水工場に労働者の血液検査を要求した。初期のこの調査は公表されなかったが、次章で見るように、数年後の清水工場の検査で労働者や、そして環境にも、顕著なPFΟA汚染が発覚することになる。」

 そして第3章には「アメリカのパーカーズバーグにあるデュポンのテフロン工場では、地下水と労働者の血液中におけるPFASの蓄積をモニターしてきた。日本でも、静岡市清水区の工場地帯でも同じような調査を実施してきた。2002年の内部電子メールによれば、10カ所の地下水がPFΟA汚染されており、最も高濃度の地点で154万pptが流出排水から検出されている。(米国メディアのインタビューに対して、同社の広報担当者は工場周辺の水は飲料水ではないと語った。)デュポンがEPAに提出した文書から、清水工場の労働者が深刻な影響を受けていたことが判明した。2010年、製造部門の被用者を検査したところ、血清中のPFOA値の平均は247万4000pptという驚愕の数値だった。清水で直接PFΟAを取り扱わない労働者さえ、平均して85万5000pptの値で汚染されていた。清水で検出されたのはパーカーズバーグ工場の労働者たちから検出された35万pptの、2倍以上の数値であった。」と、なまなましい汚染の実態が報告されている。

 これらの工場でのPFAS汚染問題はどのようなものだったのか?かなり昔の話にもなるので地元の皆さんの協力をえて調べている。

二つ目の報告は、発がん性の疑いがあるPFAS(有機フッ素化合物)が、浜松市の航空自衛隊浜松基地近くの河川から国の暫定指針値を超えて検出された問題。

 浜松市は今年5月と6月に調査した河川や地下水から、指針値の最大28倍のPFASが検出されたと発表した。航空自衛隊浜松基地近くの北部承水路から1リットル当たり280ナノグラム、その支流から1400ナノグラムが検出され、それぞれ暫定指針値(50ナノグラム)の5.6倍、28倍だった。

 4月に実施した調査では市内を流れる伊佐地川や新川で指針値を超えたことから、5、6月に上流の水路や周辺の川で追加調査をした。北部承水路とその支流で指針値を大幅に上回って検出されたのは浜松基地から100メートルほどの地点。伊佐地川と合流し、前回調査で指針値の5倍強のPFASが検出された谷上橋を経て、浜名湖に流入する。(詳しくは「地図「PFOS及びPFΟA測定地点」を参照の事)

 住民からは「早く原因を突き止めて対策してほしい」「伊佐地川はこれまでも値が高かったが、今回はそれを上回るなんて」「川の水は浜名湖に流れている。魚や貝などは口に入るものに影響は出ないだろうか」「どのくらいのPFASが流れ出ているのか不安だ」等々の声が上がっている。(富田英司)


   インボイス制度は収入の少ない人の生活を直撃する!  増税やめろ!インボイス導入反対!
   
 インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式で、正式名称は「適格請求書等保存方式」です。

インボイス制度は、10月1日から導入予定です。ワーカーズ読者がこの記事を読むときには、インボイス制度は導入されている予定です。

 インボイス制度は、企業などが取引する際、消費税の税率や税額を記載した請求書(インボイス)を使うルールのことです。課税売上高が1000万円以下の「免税事業者」はインボイスを発行できず、登録を受けるには消費税の申告・納税が課せられる「課税事業者」になる必要があります。このため「フリーや零細企業などで働いている人の負担があまりにも大きい」として、憂慮する意見が続出しています。

 特にここ1年ほどは、アニメ、声優業界をはじめ、フリーランスが多い各種団体が相次いで反対声明を出すなど、問題意識を共有する連帯の輪が広がっています。インボイス反対署名は、9月24日現在でなんと50万筆を超えました。

 インボイス制度導入の根拠として、消費者が払っている消費税を免税事業者が自分のふところに入れているのはけしからん。これを納税させるためにインボイス制度が必要として言っている声があります。しかし消費税は、消費者が払っているのではなく、事業者が払っています。

 インボイス制度導入後は、売り手である取引先から発行された適格請求書を保存している取引のみ仕入税額控除の対象となります。 仕入税額控除とは、売上時に受け取った消費税額から仕入時に支払った消費税額を差し引いて納税する仕組みのことをいいます。この控除を受けるためには、売り手である取引先が課税事業者でないと適格請求書を発行できないので、仕入税額控除できなくなり、買い手の税負担は増えます。

 例えば、ある事業者が3300円の商品を消費者に売りました。現在消費税は10%なので、この商品には300円の消費税がかかっています。事業者は、この商品の仕入れにかかった代金1100円を仕入れ先に払いました。消費税は10%なので、仕入れ額には100円の消費税がかかっています。仕入れ先が課税事業者なら、適格請求書を発行してもらえるので、300円?100円=200円の納税で、免税事業者なら適格請求書を発行してもらえないので300円の納税です。100円の増税です。免税事業者は適格請求書を発行できないので、この例をみても取引先は増税になります。これを避けようとすると、免税事業者は課税事業者にならないといけませんが、課税売上高1000万円以下の免税事業者が増税になります。

 免税のフリーランスの場合、仕事の発注先は消費税控除できないので、フリーランスに支払う額を消費税控除額ぐらいは、値引きされるかもしれません。インボイス制度開始から6年間は、免税事業者との取引でも一定程度税額控除できますが、これも一時的なものです。

 インボイス制度は、事実上免税事業者や課税事業者への増税です。消費者にとっても、収入上がらない中での商品値上げ、その結果職を失う方が多数出る可能性があります。

 インボイス制度は、廃止しかありません。 (河野)      案内へ戻る


    コラムの窓・・・ 大震災100年 ひときわ暑かった虐殺の記憶!

 それにしても、この暑さはいつまで続くのだろうか。関東大震災から100年の夏はひたすら暑く、生きたまま火に投げ込まれた人々の恨みに焼かれているようです。横網町公園には前にも訪れたことがあったのですが、今夏はその日に何としても行こうと思っていました。

 8月31日の夜は文京シビック大ホールで「関東大震災朝鮮人・中国人虐殺100年犠牲者追悼大会」があり、1800人の参加者が「なかったことにさせない」思いを共有しました。プログラムにある「歴史に誠実に向き合い、国家の責任を問い、再発を許さない共生社会への第1歩を!」という言葉を、100年後に掲げなければならないのがこの国のありようです。

 夜の集会の前に新大久保にある高麗博物館を訪れ、企画展「隠蔽された朝鮮人虐殺」を見学しました。虐殺が描かれた淇谷「関東大震災絵巻」が展示されていて、描き残さなければという強い思いを受け取りました。他にも複数の画家が残した虐殺絵もあり、歴史を消し去りたい人々にとっては実に不都合な絵巻物が発掘されたのです。

 さて、コロナ禍が一段落(したのかどうかわからないのですが)ということで久々東京に出かけた最大の目的は9月1日、横網町公園で行われる追悼式典に参加することでした。小池百合子東京都知事はこの式典に追悼文を送らない理由を、「東京で起こった甚大な災害と、それに続く様々な事情で亡くなられたすべての方々に対して」哀悼の意を表しているからとしています。

 さらに、「何が明白な事実かにつきましては、歴史家がひもとくものだ」などと言い、虐殺をなかったことにしたい思惑を隠そうともしていません。11時からの追悼式典に先立ち、東京都慰霊堂で秋篠宮が出席した大法要が行われており、高級車が会場から出ていく時には縄を張っての警戒ぶりでした。

 同じ公園内に〝様々な事情で亡くなられた〟とはとても一括りにはできない、虐殺された朝鮮人の小さな慰霊碑があり、そこで様々な思いを抱えた人々がひとつのなって黙祷をするのです。

 午前中に行われたのは「朝鮮人犠牲者追悼式典」、午後は「東京同胞追悼会」があり、どちらにも参加しました。とても暑くて、日陰で立っているのがやっと、慰霊碑も発言者も見えないし、鎮魂の舞も翻る布がかすかに見えるだけ、それでも声が聞こえていたので一体感を感じることが出来ました。

 こうしてどっぷりと100年の虐殺に浸かった2日間でしたが、さらに10日には青丘文庫研究会「関東大震災朝鮮人中国人虐殺100年に抗して 植民地主義とジェンダーを問う!」が在日韓国基督教会館であり、鶴橋まで出かけました。また、16日には高麗博物館の講演会「軍隊と自警団の朝鮮人虐殺~植民地戦争の経験から~」をオンラインで視聴したところです。

 朝鮮人は三度殺されているという告発が、虐殺の100年というほかないこの国の現状をあぶり出しています。①虐殺は自然災害時の偶発的事故ではなく〝人災〟である。②官民一体の植民地戦争とその延長線上にある関東大震災の朝鮮人虐殺・迫害。③今も日本政府による公式謝罪・補償・真相究明・責任者処罰はない(歴史修正主義)

 事実を明らかにし責任を追及し処罰する、そうしないと同じ過ちが繰り返される。まさに、これがこの国の情けない現状です。100年変わらないこの現状に、異議を申し立て続けたいものです。 (晴)


   色鉛筆・・・ 子育て世帯の女性の就労が大幅に増加   仕事と子育てができるしくみを作ろう

私が長年愛読している「ちいさいなかま」(編集・全国保育団体連絡会)は保育者と父母を結ぶ月刊誌で、子育ての頃は同じように悩んでいる人たちの声に救われ、保育者としては保育実践が参考になったり、最近ではバス置き去り事故や不適切保育問題から保育士の配置基準の引き上げや処遇改善等が取り上げられ毎月楽しみにしている。

 9月号では、『時間に追われ、あっという間に終わる日々。「仕事と子育て、どちらも中途半端」「このまま働き続けられるかな」と思う方も多いのでは?仕事と子育て、その大変さと課題をみんなで考えます』という特集が組まれた。

 まず保護者に聞くと「時間が足りない!」「子どもと過ごす時間がない」「一人では無理」「女性の負担が重すぎる」「子どもの体調不良による呼び出しやお休みが続き思うように働けない」等々。保育士は「育児中の職員への支援だけではなくその職員を支える周りの職員も支援してほしい」「時間内では仕事が終わらず、時間外や持ち帰りになる。家に帰ったら子育てや介護、家事に追われ自分の時間がない」「我が子の体調が悪くこのまま働き続けていけるだろうか」等々。両者とも日々時間に追われながらも一生懸命に仕事と子育て・介護をしている姿が目に浮かび子育て・介護から卒業した私は「みんな頑張っているねファイト!」と声をかけたくなった。

そして、名城大学准教授、箕輪明子氏による「働く保護者たちの子育てと暮らしはなぜ苦しいのか」というタイトルで最近の子育て世帯の働き方の特徴や生活の様子が書かれ、今、進められている異次元の少子化対策を評価する視点もありとても参考になった。

 箕輪氏は児童がいる世帯の母親の就業率は2000年には51・6%だったが、2010年には60%、2021年には75・7%と大幅に増加していて、20年ほどの間に子育て世帯の女性が就労するようになったことが大きな特徴だという。もともと日本では子どもが小さいうちは母親が子育てに専念するものとされ、女性は正規雇用として仕事を続けたくても働けない、働き口も少ない という時代が長く続いていたが、近年では正規雇用で働く母親が6歳未満の子どものいる共働き世帯で47・9%(2017年、就業構造基本調査)にまで増えているという。数字で示されてこんなにも増えていることに驚いた。私の子育ての頃は、子どもが3歳になるまで母親は働くべきではないという「3歳児神話」がまかり通り、3歳未満の子どもを保育園に預けるとは母性が足りないと批判されたのは何だったのだろう?働くことに悩み苦しんでいた女性たちは多くいたのに。 

 そして、子育て世代の女性の就労が進んだのは女性自身の意識の変化もあるが、男性労働者の賃金抑制、低下が大きな理由だという。2000年前後から日本企業は人件費抑制のために非正規雇用を増加させ、正規雇用に対しても賃金・労働条件の見直しが行われ家計を維持する為に子育て世帯の女性が就労する必要が高まったことだ。企業も少子高齢化が進み労働力を確保する為に女性労働者を使い捨てしてはいけなくなったことも女性の就労が進む大きな理由だという。こんなにも女性の働き方が企業の都合のいいようにされてきたことに腹が立ってしまう!企業の利益が優先される社会を変えていかなければならないと強く思う。 

 さらに、人間が生活していくにはケア(家事や子育て、介護など他者のお世話)が必要で企業や政府はケアを女性に担わせて、男性労働者をケアレスマン(ケアを担わせない人間)にして企業の求めに応じて働かせているという。長時間労働が当たり前で正規雇用で働こうとすれば、子育ての時間と労働時間と両方の確保な為に葛藤を抱え、時短制度を利用しても仕事量が変わらず負担が増えて女性たちは自分の時間や心身を犠牲にして対応しているのだ。労働時間が長く両立支援制度が使いづらくなると、無理を重ねて働くか、仕事を辞めたり待遇を犠牲にしてパート労働者になるという選択せざるを得なくそれでも仕事と子育ての両方は困難と葛藤があるという。こうした人たちを保育士として長く働く私はたくさん見てきたし、今も同じ職場にいるので微力ながら応援している。

 他方で子育て中の男性の家事や育児の分担は十分に進んでいなく家庭役割を男女が平等に担っているとはいえず、家事や子育てへの男性の関わりの低さの背景には、男性の意識や生活能力の低さとともに長時間労働が問題だという。このことは「帰宅の遅い旦那はあてにできず全て一人でやらなければならない」「17時や18時に家族がそろう社会になってほしい」という保護者の声が如実に物語っている。

 また箕輪氏は親の責任を強調する論議が横行していることも述べている。長くなるが引用したい。『子ども政策の中でも子どもを社会全体で育てていく視点ではなく、子育てする家庭を国や自治体が支援することが強調されている。一見するとありがたい政策に思えるが、この政策は子育ての第一義的責任は親にあるという考えに基づいており、子育てに関する公的責任が後退している。こども家庭庁がこども庁ではなくこども家庭庁になったのはこの考え方の典型例。国や自治体は子育て責任を果たす親を支援するだけの存在になっている。公的財源抑制の中で社会的保育やホームヘルプを十分に展開できないことが子育てをする男女の負担をさらに増やしている』と現在の政策を批判している。家事や子育て・介護は個人的責任ではなくもっと社会化されるべきだ。

 こども家庭庁は当初、虐待当事者の声や『家庭』がベストな居場所ではない子ども達が少なくないことを踏まえて名称が「こども庁」だったのに『家族が大事』という自民党の議員から圧力を受けて、その名前に『家庭』が加えられて『こども家庭庁』になったことを恥ずかしながらつい最近知った。子ども達の法律なのに子どもの声を反映していないのはおかしい。LGBT法案もそうだが当事者の声を無視して自民党は自分たちの都合のいいように法案を成立させているのだ。

最後に『子育てをする女性が自分を犠牲にしている背景には、企業利益を優先させ低コストで長時間労働を強いる経済と政治がある。異次元少子化対策は、仕事と子育ての両方を担うことの難しさを克服できる政策なのか。個人の生き方や生活を犠牲にすることなく仕事と子育てができるしくみを作ることが必要だ』と箕輪氏は述べている。全く同感だ。子育てをする女性も男性も安心して仕事と子育てができる社会が必要だ。(美)

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