トピックス 2007/1/9          トピックス案内へ戻る
 元旦各紙の社説を読む

 全国紙の元旦社説を読み比べた。時の権力を真っ向から批判し、進むべき方向を示す内容はほとんどない。あるのは、安倍政権への追随や叱咤激励、ピンとはずれな主張である。このお寒いマスコミの実態を知る上で、その内容紹介はいくらかは有益だろうと思う。正月開けの暇つぶしとして、ご検討いただきたい。(折口晴夫)

読売新聞「タブーなき安全保障論議を‐集団的自衛権『行使』を決断せよ‐」

 読売社説は冒頭で、「日本は、ならずもの国家の核と共存することになるのか。この安全保障環境の激変にどう対応すべきか。厳しい状況が続く中で新年を迎えた」とし、これに対処するために集団的自衛権の「行使」を求めている。そしてそれを実行すためには、「政府がこれまでの憲法解釈を変更すればいいだけのこと」であり、安倍首相の決断を求めている。
 日本の核武装については、さほど難しいことではないと次のように述べつつ、結論的には米国の核の傘に依存するという現実的な選択をしている。「日本は世界第一級水準の科学技術力を有している。3〜5年で可能ともいわれる。数トンの人工衛星を打ち上げられるだけの宇宙ロケット技術の蓄積もある」
 さらに、米国の核の傘を確実に機能させるために日米同盟を揺るぎないものにしなければならないとして、「同盟の実効性、危機対応能力を強化するため、日本も十分な責任を果たせるよう、集団的自衛権を『行使』できるようにすることが肝要だ」と主張している。具体的展開としては、次のように述べる。
「ミサイル防衛(MD)システムの導入前倒し・拡充は当然だろう。たとえ撃墜率100%ではなくとも、システムの保有自体が一定の抑止力となる。敵基地攻撃能力の保有問題も、一定の抑止力という観点から、本格的に議論すべきだ」
 ここまでの主張を見て、どこかで見たようなと思ったら、元防衛庁長官にして軍事お宅の石破茂氏の主張をなぞっているようである。最も、これは核武装・自主防衛派に対する日米同盟強化・現実派の主張なのだろう。現実派のこの読売は、「安全保障体制の整備は、国家としての最も基本的な存立要件の一つだが、それを支えるには、経済・財政基盤もしっかりしていなくてはならない」と言い、消費税の税率増は避けられないと主張している。

産経新聞「凛とした日本人忘れまい‐家族の絆の大切さ再認識を‐」

 いまどき、「家庭こそ社会の基礎単位であり、国づくりの基盤であろう」「家庭と共同体の再生こそ日本再生のカギではないか」などと主張する新聞社は産経しかない。教育基本法が憲法とともに、「人類の普遍的価値や個の尊重を強調するあまり、結果として無国籍化と個の肥大や暴走を招いた」と論難し、改正教育基本法の成立の成立を価値ある重要な一歩としている。
「前文には新たに『公共の精神の尊重』や『伝統の継承・新しい文化の創造』が加筆され、新条項『学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力』が追加された。また第10条、『家庭教育』には冒頭、現行法にはない父母らの第一次的責任が明記された」
 教育基本法改悪の最も大きな争点となった第2条の5項「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、・・・」に言及していないのは余裕からか、それとも家庭を制すればそれでよしと判断しているのか。教基法「改正」を価値ある重要な一歩≠ニしているのは、もちろん憲法改悪をその先に想定しているからであろう。

毎日新聞「『世界一』を増やそう‐挑戦に必要な暮らしの安全‐」

 この新聞社のこの社説、まず頭に浮かんだのは「?」である。「2007年の年頭にあたって私たちは、この世界一のリストをどんどん増やしていこう、と提案する。厳密に『世界一』である必要はない。世界的基準に照らして傑出したモノやサービス、世界に胸をはって誇れるような『日本発の価値』を増やそうという呼びかけだ」「日本人が今の豊かな暮らしを維持するには、世界一を増やすほかないからである」といった説明が行われているが、要領を得ないというか、焦点が定まらない。
 世界一をめざすには社会的「安全ネット」が必要だとして、脳科学者・茂木健一郎氏の次のような主張を紹介している。「子どもは母親が見守ってくれているという安心感があってはじめて、探究心を十分に発揮できる。新しいものに挑戦するには、母親のひざのような『安全基地』を確保するするする必要がある」。
 いま、「ワーキンブプアの問題など、市場主義のひずみが噴出している」なかで、安倍政権の経済成長優先ではこれに対処できない。ではどうするのかというと、「安全ネットは弱者対策として必要なだけではない。冒険に踏み出す『安全基地』として不可欠なのだ」と強調している。
 社説は最後に唐突に次のように締めくくっている。「今年は春に統一地方選、夏に参院選が待っている。投票所に足を運ぶ。国民のための政治を実現するには、まず私たちが腰を上げる必要がある。それを世界一作りの第一歩にしよう」と。結局、選挙での選択の問題なのか。

朝日新聞「戦後ニッポンを侮るな‐憲法60年の年明けに‐」

 基調となっているのは「ゴア氏が訴える危機と、ブッシュ氏が招いた危機」である。6年前、米大統領選を争そったこの二人が、一方は「伝道師のように世界を歩き、地球の危機に警鐘を鳴らしている。1月に日本公開される記録映画『不都合な真実』は、それを伝えて衝撃的だ」と評価され、他方は「中東の混乱に拍車をかけ、世界をより不安にさせてしまった」とイラク内乱の責任を問われている。
 社説は、「悲願だった教育基本法の改正を終え、次は憲法だ」と言い、米国との集団的自衛権に意欲を見せる安倍首相を批判している。自衛隊のイラク撤退が「一発の弾も撃たず、一人の死傷者も出さなかった」(小泉談)のは憲法9条のおかげだと、次のように主張する。「軍事に極めて抑制的なことを『普通でない』と嘆いたり、恥ずかしいと思ったりする必要はない。安倍首相は『戦後レジームからの脱却』を掲げるが、それは一周遅れの発想ではないか」
 ここで、朝日が提案する日本のとるべき針路は、もちろんゴア氏の訴えに沿ったものである。それは、軍事化への道ではなく「地球貢献国家」であり、「エネルギーや食料、資源の効率化にもっと知恵や努力を傾ける。途上国への援助は増やす。国際機関に日本人をどんどん送り込み、海外で活動するNGOも応援する。そうしたことは、日本人が元気を取り戻すことにも通じよう」ということである。とりあえず、支持できる方向ではある。

日本経済新聞「懐深く志高いグローバル国家に‐開放なくして成長なし@‐」

 ずばり、表題が示すとおり、「冷戦後の世界はグローバル経済の歴史的な興隆期にある。復活はしたものの日本経済に力強さが欠けるのは、このグローバル経済の息吹を十分に取り込んでいないからだろう」とまで述べている。
 こんな風にも言うが、創出されるのは半端な雇用に過ぎないのではないか=u直接投資は成長の切り札である。資本だけではなく新しい製品、サービスや技術、経営ノウハウをもたらし、雇用機会を創出する。競争を通じて経営効率を高め、産業を高度化する。それは消費者の利益にも合致する」
 その直接投資、外資の国内投資が伸びない原因は、「日本の高コスト体質や様々な規制、高い法人実効税率などがあげられる。国境を越えたM&A制度の不備も直接投資の壁を高くしている面がある」という。資本の利益のために、懐深く≠ヌこまでも開放せよというわけだ。
 そして、最後には「『鎖国』からさめるとき」だと、国民に説教を垂れる。「日本人がなお『鎖国』を引きづるなら、日本の将来は暗い。逆に、『鎖国』から目覚め、『国際心』を発揮するなら日本の可能性は開ける」「このグローバル時代に日本は『国を開いて心を鎖す』(新渡戸稲造)では済まない。懐深く志し高いグローバル国家に変身するときである」

おまけ
産経新聞・7面「安倍首相初夢すごろく‐憲法改正への道‐」

 ここまで来るともう呆れるほかない。そのあがりは「支持率上昇・憲法改正への道開ける」であり、10月には「秋の例大祭・靖国神社参拝」とある。ここでは、さいころの目によって「支持率上がり・3マス進む」と「野党が大騒ぎして国会紛糾・2マス戻る」がある。他には、「北朝鮮が2度目の核実験」で、「対応誤り、北朝鮮に足元を見られ・3マス戻る」と「毅然とした対応をとり・1マス進む」などがある。
 このすごろくを、「あくまでも、正月の遊びということで、あまり真剣にならずに楽しんでください」という神経をどう評価すればいいのか、あまりにも俗悪である。その俗悪さは、2面と3面を費やして曽野綾子・三浦朱門夫婦による新春特別対談「日本は美しい国 ワイズに生きよ」を企画しているところにも現れている。
 ワイズ(WISE)とは「賢明な」とか「分別ある」という意味で、その意図するところは格差社会でも「資質」次第である。そのキーワードが賢明な選択を行うということのようである。しかし、問題は資質≠生かす機会も、賢明な選択≠行う機会もないからこそ、格差社会が問題になっているのではないか。このエリート作家夫婦は、ワーキングプアといわれる労働者が直面している現実を何もわかっていないのだ。

毎日新聞・12面「戦後生まれ議員が語る憲法施行60年」

 対談の組み合わせは「ともに戦後生まれで、自民、民主両党の改憲論議のキーマンである自民党の舛添要一、民主党の枝野幸男両氏」で、議論の向かうところは予想がつくだろう。
舛添:新しい年の最大の課題は、(憲法改正の手続き法である)国民投票法案を自公民でまとめること。ほぼ成案に近いものが出来つつあるので、通常国会冒頭、できるだけ早い機会に自公と民主で合意し、成立させるのがファーストステップとなる。
枝野:国民投票法制が間違いなく出来る年になると思う。施行60年、国民の皆さんに憲法について考えていただく機会の多い年になるのでは。
舛添:コンセンサスが無い形で与野党が割れたまま進める、ということは憲法では絶対避けるべきだ。
枝野:投票法案は本体の「トライアル」(試行)なんですよ。本体の憲法改正をやるとき、現場からの積み重ねで合意形成しておかないと。自民党案に野党が修正加えて可決なんて、あり得ない。中身より簡単な手続きでさえそれが出来ないのに、本体でやれるわけがない。
以上のように国民投票法案を自公民で成立させ、憲法改正案についても合意の上で国会に提案ということになるのか。それこそ、国民そっちのけの自公民による談合政治の成立ではないか。
 それにしても毎日は何故こうした対談を元旦紙に載せたのか。一方で古い政治、自社対決的な改憲対護憲からの脱却という方向性を示したかったのだろうと思うが、他にどのような意図があったのか。今日的改憲への追随ではないのか。トピックス案内へ戻る