トピックス 2012年1月18日               トピックス案内へ戻る

新年にあたって思う

 あの阪神・淡路大震災から17年目の1月17日、当地では慰霊祭やコンサートが催されているが、私は自宅で静かにしている。今は過日催された成人式に出席した末娘と3人家族になっているが、あの日はまだ6人家族で地震に見舞われた。さいわい、誰1人怪我もすることもなかったが、死者は6000名を超え、西宮市の犠牲者は1000名を超えた。そのおびただしい数の哀しみが蓄積されてきた17年。さらに東日本大震災の被害の膨大さを思うとき、心は沈む。
 目を転じて政治の現状を見る時、そんな感傷に浸っていることはできない。新年早々、野田改造内閣が発足したが、死刑を執行するために法務大臣の首が挿げ替えられた。この一事だけで、民主党政治の劣化がまた一段と深まったと言うほかない。この点、読売新聞社説は次のように述べている。
「法相の交代は当然だろう。平岡秀夫氏は、米軍岩国基地への空母艦載機移駐に『反対』と述べ、野党から『閣内不一致』との批判を浴びた。死刑を執行しなかったことにも、被害者遺族から『責任放棄』との声が上がっていた」(1月14日)
ちなみに、社説の見出しは「一体改革実現へ総力を挙げよ」殿田首相を叱咤激励し、消費税率引き上げによる財政再建は急務だと主張している。自公に対しても、批判だけでなく、長年政権を担った政党として責任を果たさなければならない。それが、政権復帰への近道にもなろう」と忠告している。
 ちょっと待て、消費税増税は社会保障のためではなかったのか。それに、恐るべき域に達している国家債務は消費税を5%くらい上げてみても、ほとんど減ることはないだろう。すでにある予算の枠組みを解体して新たに必要なものから積み上げ、収支を均衡させるくらいでないとダメだろう。それは徹底的に官僚の権益を破壊することでもあるのだが、民主党はそれを実行すると約束して政権に就いたのではなかったか。

 さて、ここで新聞各社の元旦号社説を紹介したい。今頃という感もあるが、原発報道や橋下維新の会の大阪席捲に果たしたマスコミの負の役割を考えたとき、その論調を見ておくことは無駄ではないだろう。

読売新聞 「危機」を乗り越える統治能力を‐ポピユリズムと決別せよ
 ここでポピュリズム批判とは、「負担減と給付増を求めるような大衆に迎合する政治(ポピュリズム)と決別することが、危機を克服する道である」という内容だ。なるほど甘いことばかりではだめだろうが、読売が求めているのは消費税増税(庶民の収奪)であり、米軍普天間飛行場の辺野古移設(基地秘儀の沖縄への永続的押し付け)であり、原発の再稼働(放射能との共存の強制)である。
 日米同盟の強化の一環として、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加。軍事的膨張を続ける中国や、北朝鮮の権力継承過程での政情不安の可能性に備え、南西方面の防衛力向上、などの主張を行っている。そして、結びはこうなっている。
「消費税、沖縄、TPP、原発の各課題は、いずれも先送りできない。日本が『3・11』を克服し、平和と繁栄の方向に歩みを進められるか。世界が注目している」

朝日新聞 ポスト成長時代の夜明け‐すべて将来世代のために
 見出しからも分かるように、先進国では成長の時代は終わったとし、「物質的な充足よりも心の豊かさを求めGHN(国民総幸福)を掲げるブータンの国是」を持ち上げている。ブータン政府の調査「あなたは今幸せか」という問いに45・1%が「とても幸福」、51・6%が「幸福」と答えたとして、ブータンは世界一幸福な国≠ニいわれているようだが、多民族国家における少数民族の圧迫、迫害・拷問・国外脱出。日本にも難民として逃れてきている。日本にやってきた国王夫婦の清新な人柄≠ノ魅力があると言われても、鼻白む思いいだ。
 具体的には、「成長から成熟社会へ」を掲げ、持続可能性を大前提に、「増税や政府支出のカットはつらい。成長率の押し下げ要因になるが、将来世代のことを考え甘受しなくてはいけない」「何万年もの後代まで核のごみを残す原発は、できるだけ早くゼロにする」と述べている。問題はやはり、誰から・どこから税を取り立てるのか、どのような支出をカットするのかであり、そこでの姿勢を鮮明にしない限り、「社会保障と税の一体改革を実現させて、成熟社会の基盤をつくる」というのは野田増税政権をサポートする結果になるだろう。

毎日新聞 2012激動の年‐問題解決できる政治を
 震災復旧・復興の予算はついたが、作業は遅れ気味、脱原発・エネルギー政策は青写真さえ描けていない、「これに加え、税と社会保障の一体改革、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加問題といった難題が控えている」。にもかかわらず、野田政権は万全を欠き、さらに「八ツ場ダム建設決定でマニュフェスト総崩れといわれ、党内求心力と支持率の低下に苦しんでいる。国民には政治への幻滅が再び広がり始めている」
 なかなか厳しい指摘だが、政治への幻滅は広がり始めている≠フではなく、極限に達している。与野党が知恵をしぼって国会のねじれを克服して政策を進めよという、それがないものねだりだったからこそ政治不信が深まっているのではないか。「国民にしかできない有権者としての判断を」と、選挙でいい党いい議員を選べと言っているようだが、その限界はすでに明らかだ。
 政治的な課題としては、「消費税率を引き上げ、超高齢化社会でも持続可能な財政・社会保障制度を構築する、この改革の必要性については、私たちもこの欄で何度も訴えてき」のだそうだ。結局、マスコミにとっては消費税増税は既定の事実のようだ。

産経新聞 日本復活合言葉「負けるな」‐論説委員長年中静敬一郎の年のはじめに
 産経らしい見出しだ。中味も、東電福島原発内での「英雄たち」の戦いをほめたたえ、「『負けるな うそを言うな 弱いものをいじめるな』に込められた剛毅さ、克己、礼節は日本人の奥深くに厳然とあるはずだ」と、有難くももったいない江戸期の薩摩藩の武士階級の教育訓を持ち出す。そして、戦後のていたらくを嘆く。
「日本が強い国に生まれ変わるためには胆力と構想力を持った指導者が欠かせない。今年、主要国の指導部の交代により、国家間のパワーゲームは熾烈を極める。狡猾な手口は中露にとってお手のものだ。したたかに、しなやかに自由と民主主義を守る国々と連携を強め、繁栄と安全という国益を守る必要がある」
狡猾な手口≠ネんていう非難は、自らに帰ってくるものではないのか。

日本経済新聞 転換期日本・変化の芽を伸ばす(1)資本主義を進化させるために
 世界のいたるところで政治・経済がうまくまわらない、間違いなく転換期を迎えている。民主主義、資本主義が危機を迎えている、という。そして、あっさりと「民主主義、資本主義にかわる新たな理念は、今のところ見つからない。だとすると、民主主義、資本主義のあり方を改良しながら使っていくしかない。新年を、資本主義を進化させる年にしたい」というところにまとめる。資本主義の下でなければい生きられない、というのでしょう。

東京新聞 年の初めに考える‐民の力を今、活かそう
 最近の特徴を民の力が投票以外に影響を広げてきたとし、日本においても放射能汚染に対して「自ら汚染を測定し除染に取り組み始め」「昨年9月、東京で行われた『さよなら原発デモ』には初参加も含め約6万人が加わり」「世論のうねりは稼働再開や新規立地を阻む圧力を形成することに成功した」と指摘している。
 そして、既成政党への失望が大阪府知事・市長ダブル選挙での橋下「維新の会」の大量特報をもたらしたと述べているが、「しかし、維新の会はわかりやすい敵を定めて民衆を動員し『独裁』(橋下市長)の手法で戦後、築かれてきた教育の中立や労働基本権に挑戦する危険な側面も伴っています」という指摘も忘れていない。今、最もまともな新聞だと言われるだけのことはある。

沖縄タイムス 復帰40年の足元(1)地域にこそ豊かな泉が
1972年5月15日午前0時、屋良朝苗はランパート高等弁務官を送るために嘉手納基地にいた。27年に及ぶ「異民族支配」の終わりを告げる日となった。そして今、「補助金や公共事業に頼る振興策。基地受け入れの見返りとしての振興策。国への依存を強めるだけの振興手法から足を洗う時期にきている。普天間飛行場辺野古移設をきっぱり拒否し、この問題に新たな道筋をつける時期にきている」と、きっぱりと主張している。
 そして、こう決意をしている。「生活保護や子どもの貧困、低賃金、全国1のニート、離婚率の高さ、学びの意欲の減退。これらの問題に見られる『負の連鎖』にどう対処するか。国の沖縄振興策は、このような問題意識が極めて希薄だった」「沖縄の内部から変革の機運をつくり出していかなければ、この未曾有の『危機の時代』を乗り越えることはできない。復帰40年の節目にあたる今年を、その第1歩の年にしたい」

琉球新報 新年を迎えて‐平和と人権を尊ぶ世界を・問われる沖縄の自治力
 まず、本土復帰40年、新たな沖縄振興の10年のスタートの年、日米両政府は「世界一危険」とされる米軍普天間飛行場の返還問題に解決を急ぐべきだと述べる。1972年から2010年までに総額9兆円余の沖縄振興開発事業費が投ぜられてきたが、成果を上げていない。「これらは『地域主権』の理念の下、教育、子育て、福祉、医療などソフト事業も基軸に据え、いかに『県民による県民のための、県民の自治』を実現していくかが問われよう」
 野田政権による基地問題と振興策を絡ませた不見識な態度、マニュフェストを次々と反故にする民主党の背信行為、「原発安全神話」を振りまいてきた歴代政権や電力会社、学者の罪深さ等を指摘し、社説をこう締めくくっている。「政治の迷走、暴走はもうしまいにしたい。『アラブの春』を教訓に、世界各地で民主主義と人間の尊厳が最大限尊重される『国境なき春』の到来を願ってやまない」
                   (2012年阪神・淡路大震災の日・西宮発)
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