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トピックス2013年1月3日
元旦の社説を読む!

 最も力作の読売新聞社説「政治の安定で国力を取り戻せ」から取り上げます。何しろ、小見出しが①成長戦略練り直しは原発から、②参院選が最大のヤマ場、③節度ある政権運営、④「3本の矢」をどう放つ、⑤深刻な電力料金値上げ、⑥TPP参加で反転攻勢、と続いているのです。小見出しだけで大方の内容が予想できます。
 まず、「鳩山元首相が日米同盟を不安定にしたため、中国、韓国、ロシアとの関係も悪化した」という認識からはじまり、安倍政権は「夏の参院選で自民、公明両党で過半数を占め、衆参ねじれ国会を解消」し、「大衆迎合(ポピュリズム)に足をすくわれることなく、大きな政治テーマや懸案の政策に取り組む」ことを求めています。具体的には、「尖閣諸島国有化をめぐる中国との対立、北朝鮮の核・ミサイル開発などに対処するためには、集団的自衛権の行使を容認し、日米同盟を強化すること」などです。
 それで〝3本の矢〟とは何かといえば、金融緩和と財政出動と成長戦略で、「円高とデフレを解消し、安定成長に向け、政策を総動員」しようというものです。4月の白川方明日銀総裁の任期満了後、「インフレ目標を共有できる人物」をあてることも含め、安倍首相の経済政策を支持する内容です。
 原発とTPPについてはもう触れる必要もないと思いますが、安倍政権の原発活用策が選挙で支持された、「日本は、原子力分野で世界有数の技術力を、今後も保持する必要がある。首相は、安全な原発の新設へ意欲を示したが、有為な人材を確保・育成するうえでも、次世代原発の新設という選択を排除すべきではない」。原発輸出も促進しよう。TPPも、「日本は関税撤廃・引き下げ、貿易・投資のルール作りに関与し、国益を反映させなければならない。首相は、早期に参加を表明すべきである」、とまあ言いたい放題で、安倍政権の行く手を掃き清めています。

 次に朝日新聞社説「混迷の時代の年頭に‐『日本を考える』を考える」を見てみましょう。問題意識は、「日本が向き合う課題は何か、日本はどんな道を選ぶべきか」といった設問によっては、回答は得られないということのようです。橋下徹大阪市長の共著書から「世界経済がグローバル化するなかで、国全体で経済の成長戦略を策定するのはもはや難しいと僕は思っています」(体制維新‐大阪都)を引き(よいしょし)、国家の相対化がキーポイントだというのです。
 政治的枠組みとしての国家はまだ強大だが、「ただ、国家以外にプレーヤーが必要な時代に、国にこだわるナショナリズムを盛り上げても答えは出せまい。国家としての『日本』を相対化する視点を欠いたままでは、『日本』という社会の未来は見えてこない」というのが結論のようです。猖獗を極める領土ナショナリズムと闘おうというのなら、まず〝国益〟や〝我が国固有の領土〟で括られる報道を止めればいいのですが。

 毎日新聞社説「2013年を展望する 骨太の互恵精神育てよ」はどうか。まず、今年は戦後日本の生き方が①日本経済の底力と②日本政治の平和力、という二つの点で試されると指摘しています。民主党政権の分配政策重視から安倍政権の「全体のパイをどう増やしていくか」に政策転換するが、「バブル崩壊後の20年余り、歴代政権は何もしてこなかったのではなく、金融政策としてゼロ金利や量的緩和、財政政策としては公共事業を中心とした数次に及ぶ緊急経済政策を打ってきた。いわば類似政策を積み重ねてきた結果が、1000兆円にものぼる借金財政を生んだ、という事実だ」と、実にまっとうな批判をしています。
 問題は若者への所得移転だとし、「若い人たちが自分たちの子どもを産み育てることのできる環境を整備するためには、限られたパイの中で、豊かな高齢者層から雇用も所得も不安定な若者層へのより明確な移転が必要になるのではないだろうか」と主張しています。確かに、年金が掛け金に比例して給付されるなかで、若年労働者の収入の数倍もの年金を手にするリッチな年金生活者も少なくないようです。
 これを世代間の互譲と互恵の精神によって実現しよう。「戦後軽軍備・経済重視路線を堅持する中で、為替危機、石油ショック、バブル崩壊などいくつもの激変を乗り切ってきた日本経済である。今こそ、その底力を発揮して成熟経済対応にギアチェンジする時である」とまとめ、国と国との関係においても互恵の精神で日本政治の平和力を発揮しようと呼びかけています。

 インターネット検索で出てくる産経新聞主張「日本版NSC 早期設置で緊急対応図れ」は、日付けが2012年12月31日となっており、元旦の日付けの主張は出てきませんでした。そこでこの主張を見ると、実に単純に安倍首相は日本版国家安全保障会議(NSC)を速やかに設置し、実働開始せよというものです。NSC構想というのは、「米国の例を参考に政治主導で外交・安全保障分野の首相官邸の司令塔機能を再編強化するための機構改革」だそうです。
 なぜ急ぐ必要があるのかというと、「とりわけ東日本大震災型の大災害や大規模テロ、外国の侵略などの緊急事態だ。米英の経験から学べることも多い。課題を克服して、真に効果を発揮できる組織に育ててもらいたい」らしい。大震災対応をいうなら、故郷を追われ、家も職も失った人々の救済が先だろうと思いますが、この主張ではもっぱら治安維持しか頭にないようです。

 経済紙はどうか。日本経済新聞社説「国力を高める(1)目標設定で『明るい明日』を切り開こう」を見ると、GDPで中国に抜かれた日本の国力の低下、「手をこまねいていては、この国に明日はない」という危機感に溢れています。その対処として、「経済再生のための目標をどこに置くのか。国民総所得(GNI)という指標を新たな物さしにしてみてはどうだろうか。『投資立国』の勧めである」と、さすがは経済紙です。
 国家のめざすべきべき方向としては「科学技術イノベーション立国」、要するに「科学技術の力で新産業を育成し人々の生活を変えるイノベーションをおこせる国、科学技術を創造し地球環境問題など世界の課題解決に貢献する国」だそうです。そうするためには政治の安定が必要であり、毎年首相が変わるような政治指導者の大量消費時代と決別しなければならない、対中関係では防衛力の向上と日米同盟の深化、対中包囲網の必要性にも触れています。
 そして最後に、吉田茂元首相の「日本国民よ、自信を持て」という言葉を、読者にプレゼントしてくれています。そんな怪しげな言葉をプレゼントされても困るだけなんですが。

 次は地方紙です。まず、東京新聞社説「年の初めに考える 人間中心主義を貫く」を見ます。安倍首相の経済再生に対して、その経済は誰のためのものかと問います。東京新聞は第1次安倍内閣の2007年、元旦社説で「新しい人間中心主義」を訴えています。しかし、収益は企業が内部留保し、配当に回り、労働者には分配されず、「人間中心主義の訴えは空回りだったといえます」。
 「それでも経済は人間のためのもの。若者や働く者に希望を与えなければなりません。まず雇用、そして賃金。結婚し、子どもをもち家庭を築く、そんな当たり前の願いが叶わぬ国や社会に未来があるはずがありません。それゆえ人間中心主義が訴え続けられなければなりません」「脱原発への決断は再生可能エネルギーへの大規模投資と大量雇用を見込めます。医療や福祉は国民が求めています。農業や観光も期待の分野。経済の再生と同時に人を大切にする社会とネットワークの構築が始まらなければ」
 さらに、1931年9月18日の旧満州・柳条湖事件を報じた新聞を批判した中央公論の巻頭言を紹介しています。「外交問題の処理に最大の禁物は興奮と偏見である。公平を期する新聞でさえかなり不十分な報道をもって民間に無用の興奮をそそっている」。この引用ののち、自戒を込めて「日本の新聞の歴史で最も悔やまれ、汚名となっているのは満州事変を境にしてのその変節です。それまで軍を批判し監視の役割を果たしていた各紙が戦争拡大、翼賛へと論調を転換させたのです。国民を扇動していったのです」
もう引用しきれません。インターネットで検索して全文を読んでください。

 次は、琉球新聞社説「新年を迎えて/平和の先頭にこそ立つ 自治・自立へ英知を」です。「アンフェアな日米」「構造的暴力」という小見出しからも察しが付きますが、安倍首相の下で現実味を帯びた憲法改定(9条改憲)、国防軍創設に対して、「国民が求める優先課題はそれらではなく、経済と生活・雇用の再生、震災復興だ」と主張。
 米軍普天間飛行場の辺野古移設計画、オスプレイ配備の強行に対しても、「日米は自由、民主主義、人権尊重、法の支配を共通の価値観と喧伝する。ならば、アンフェアな沖縄政策も根本的に見直すべきだ」と迫る。さらに、戦争のない状態の「消極的平和」に対し、「貧困、抑圧、差別など安全や人権を脅かす『構造的暴力』がない状態を『積極的平和』と定義」し、国際協調とNGOを含む市民力で構造的暴力を解消したいと述べています。

 もうひとつ、沖縄タイムス社説「[正念場の沖縄]国際世論を動かす時だ」を紹介します。戦後68年、沖縄県民は「アメリカ世」から「ヤマト世」へと世替わりを経験したが、「米国による軍事統治から脱却し復帰を実現した後も、米ソ冷戦が終わり平和の配当が叫ばれたのちも、沖縄の過重な基地負担だけは変らずに残った」「そして、今。『新たな帝国主義時代の到来』『冷戦の再来』などというきな臭い言葉が飛び交い始めている」と危機感を示しています。
 戦前の「帝国の南門」から戦後の米軍政下の「太平洋の要石」、そして今「中国の防波堤」の役割を押し付けられようとしているとし、「一地域に住む人びとの圧倒的な犠牲を前提にしなければ成り立たないようなシステムをこのまま放置し続けていいのか。政治家や官僚だけではなく、日本人全体に考えてほしい。臭い物にフタをして世界に向かって自国を誇るのは恥ずかしい」と、これは本土に対する告発です。
 そうした逆境のなかでも、沖縄は若者の比率が高い、若くて可能性がある。アジアの国際物流拠点を目指す国際貨物ハブ事業、再生可能エネルギーやバイオ産業など新産業分野の動きが活発だそうです。「沖縄経済は変った。沖縄の住民意識も変わった。変わらないのは政府の基地維持政策だけである」と締めくくっていますが、これに追加して、本土の意識は依然として沖縄の犠牲にフタをして見えないふりを決め込んでいる、言わなければないでしょう。  (折口晴夫) トピックス案内へ戻る