ワーカーズ366号 2008/4/1
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どしゃ降りの雨の中、6000人が抗議の声!
3.24県民抗議大会開催される
「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」が大雨の中、3月23日午後2時から北谷町の北谷公園野球場前広場で開かれた。
傘が役に立たない程のどしゃ降りの雨にもかかわらず、お年寄りから子ども、車イスの人まで、参加者は多彩。そして高校生の姿も少なくなかった。一人一人の胸には怒りがあり、米兵犯罪根絶をめざして力強く拳を突き上げた。
大会では@日米地位協定の抜本改正、A米軍による県民の人権侵害根絶のため政府は責任を明確にし実効ある行動、B米軍人の綱紀粛正と実効性ある行動、C米軍基地の整理縮小と米軍兵力の削減、を求める大会決議を採択した。
昨年9月の「教科書検定問題」の県民大会とは違い、今回は島ぐるみ闘争とはならなかった。与党の公明党県本部は参加したが、自民党県連は組織不参加を決め、仲井真知事も参加しなかった。
この知事不参加に対して、多くの沖縄県民から怒りの声が上がっている。玉寄大会実行委員長も「知事が来ないのは誤算だ。『少女をそっとしてやりたい』というのは言い訳で、知事が先頭に立っていない。ウチナーンチュは党派にとらわれず、沖縄の根っこの問題に一つになってぶつかってこそ、成果につながる」と、仲井真知事と自民党県連の不参加に強い不満を示した。
まさにそのとおり!仲井真知事からは米兵による女子中学生暴行事件への抗議の先頭に立ち、米軍と喧嘩してでも基地を削減していこうとする決意は見られない。
もはや沖縄の人たちは、政府や在日米軍のいう「綱紀粛正」とか「再発防止」等のスローガンをまったく信用していない。
米軍基地がある限り米兵による犯罪はなくならない。米軍人犯罪を根絶するには米軍基地の撤去・縮小しかない。これが沖縄県民の結論である。(若島 三郎)
米国の緊急経済対策とサブプライム危機の深刻化
米上下院で十七兆円の緊急経済対策を可決
一月二十九日、米国下院の本会議は、総額約十六兆円(千五百億ドル)の緊急経済対策法案を、賛成多数で可決した。政府との合意から、わずか五日後のスピード可決だった。
同法案は、所得税還付による減税が柱で、約千億ドルを、単身世帯に六百ドル、夫婦世帯に千二百ドルずつ還付するというもの。また課税最低限に年収が届かない年収三千ドル以上の世帯にも一人当たり三百ドルの小切手を送付し、個人消費の底上げを図るとしているが、要するにばらまきだ。
こうしたばらまきに効果がないことは、公明党の提唱した地域振興券の失敗が証明済みだ。足下に火がついたポールソン財務長官は、法案通過を歓迎する声明を発表した。彼に冷静な判断があったのだろうか。
二月七日、米上院は、この緊急経済対策法案を少し修正して賛成多数で可決し、下院も同日夜、修正案を再可決した。ブッシュ大統領の署名を経て成立するが、政府と議会側の合意が成立した一月二十四日から、たった二週間でのスピード成立とはなった。
上院での修正とは、所得税還付や給付金支給の対象に二千万人の低所得高齢者と二十五万人の傷痍軍人が加えられたことであり、そのため下院案と比較して約十七兆八千億円、(百八十億ドル増額されて総額千六百八十億ドル)と規模を拡大したことである。
法案成立により実際に小切手の送付が開始されるのは、早くとも三ヶ月後の五月以降となる見込みだと伝えられている。
こうした米国議会の意向を受けて、米金融大手シティグループなどの大手六金融機関は、サブプライムローンの焦げ付きに伴う住宅差し押さえ急増による社会不安の拡大を避けるため、借り手救済策を正式発表した。
今回の救済策に参加するのはシティのほか、バンク・オブ・アメリカ、住宅ローン大手のカントリーワイド・フィナンシャルだが、住宅ローンの返済が九十日以上延滞している「深刻な滞納者」を対象に、返済可能なローンへの借り換えを進めるまでの期間として、三十日間自宅の差し押さえを猶予する。
ポールソン財務長官は、他の金融機関にも参加を呼び掛けたが、これら六社だけでも、適用対象は最大で数十万件にのぼる可能性があるという。今回の措置は、優良な信用履歴を持つプライム住宅ローンなどサブプライム以外の全ての住宅ローン債務者も対象となるという。
なりふり構わず金利を下げ続ける連邦準備制度理事会
0六年一月、二十数年在職し「金融の神様」とまで形容されたグリーンスパンから議長職を引き継いだバーナンキは、職だけでなく彼から0六年六月以来のFF金利五・二五%をも引き継いでいたのを忘れるべきでない。
すでにこの頃から、米国の住宅バブルの崩壊が公然と議論されていたにもかかわらず、何とバーナンキは、0七年七月二十六日の「世界同時株安」が起こり、米国・スイス・イギリス・ドイツ・フランスで、次々とサブプライムローンを巡っての信用不安が拡大していくのをだただ傍観していただけだった。
八月十七日、日経平均が一万五千二百七十三円六十八銭・前日比八百七十四円八十一銭安と二000年以来の大暴落を記録してやっと重い腰をあげたのだが、ニューホーク市場が始まる直前に、FF金利ではなく公定歩合の0・五%の緊急引き下げを発表したにとどまった。この緊急措置を受けて、連邦準備制度理事会が政策金利であるFF金利を五・二五%から四・七五%にしたのは、九月十八日実に四年三ヶ月ぶりのことなのである。
この一年八ヶ月のバーナンキの無為無策ぶりは注目に値する。これ以降のバーナンキはまさになりふり構わずFF金利を下げることに狂奔していると形容するしかない体たらくだ。列挙してみよう。十月三十一日、0・二五%引き下げ。十二月十一日、0・二五%引き下げ。一月二十二日、0・七五%引き下げ。一月三十日、0・五%引き下げ。三月十八日、0・七五%引き下げ。これでFF金利はたった二ヶ月足らずの間に二・二五%になった。公定歩合も三月十六日・三月十八日と二回引き下げ、0四年十二月と同じ二・五%にした。
グリーンスパンがFF金利を0・二五%ずつ細かく上げ下げして金融を操作してきたお家芸と比較すれば、就任後の一年八ヶ月鳴かず飛ばずだったバーナンキのここに来ての大胆な蛮勇ぶりが一層際だつというものではないか。
しかし、なりふり構わないバーナンキの「八面六臂」の大活躍にもかかわらず、サブプライムローン焦げ付きの深刻化は止まるところを知らない。
こうして、バーナンキはグリーンスパンの財産を完全に食いつぶしてしまった。この措置により、物価上昇を差し引いた実質政策金利はゼロとなり、これ以上のFF金利の引き下げは、全く意味がないとまで言われ始めている。
いよいよ、空からドル札をばらまく事も辞さないといわれ続けてきたヘリコプター・ベンの出番が来たと言うべきなのか。まさに悪夢の到来ではある。
カーライルとベア・スターンズの破綻
ついに誰にも想像すら出来ない事態は出来した。ロイター通信が報道した。
三月十二日、プライベートエクイティのカーライル・グループ傘下のカーライル・キャピタルは、債権者との協議が合意に至らなかったことを明らかにした。債権者は同社の残りの資産を接収する公算が大きいという。
同社によると、三月十二日の時点で、ポートフォリオ上の唯一の資産は米政府機関発行のトリプルA格の住宅ローン担保証券だった。
この間の担保価値の減少により、同社は過去七営業日の間、追加担保の差し入れ要求額が四億ドルを上回ったことを明らかにしていた。追加担保の要求に応じることができず、債権者が担保の差し押さえに動くという。デフォルト総額は 約百六十六億ドル。この会社の破綻には、私が評価している藤原直哉氏も、時代の変わり目を象徴するものとして注目している。
何せカーライルといえば、マイケル・ムーアの「華氏九一一」でも暴露された政府と癒着した「死の商人」ファンドで、軍需部門へのインサイダー投資で悪名をはせたファンドだ。まさにこの癒着ぶりが失敗の元なのである。
ブッシュと一体の共和党系ファンドのカーライル・キャピタルは、「優良な不動産担保証券」(モーゲージ証券、ファニー・メイやフレディマックの政府系住宅金融公庫の発行するモーゲージ証券)に投資していたが、何とレバレッジを三十二倍も掛けていた「冷静さ」の欠如により破綻したのである。
また八月三日、格付け会社S&Pによって格付けを下げられていた証券業で米第五位の老舗だったベア・スターンズ社も、ついに持ち応えられずに破綻した。三兆円(三百億ドル)の特別融資を、連邦準備制度理事会が出資して、それをロスチャイルド系のJPモルガン・チェースが引き受けて救済合併した。
この救済資金額で、ベア・スターンズの債権やすべての客から預かり金や、証券市場への投資金の差額決済金=差金の決済資金は確保された。三兆円の金額は、今後の米大銀行の破綻の連鎖に対しての実例での参考金額となる。
同じく三月十八日、ロイター通信は「ワコビア・キャピタル・マーケッツは、大手投資銀行の中でメリル・リンチがベアー・スターンズに次いでリスクが高いとの見方を示した」と報道した。
ワコビア・キャピタルのアナリスト・ダグラス・シプキン氏は、メリル・リンチのサブプライムモーゲージを裏付けとした債務担保証券へのエクスポージャーは、総額三0四億ドルと業界平均の三・三倍に達し、メリルの流動性比率は五十二%とゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズよりも劣っている他、レバレッジは三十一・九倍と業界で最高水準にあると指摘した。まさにカーライルと同じくメリル・リンチも政府に全面的に癒着していたのである。
「ハゲタカ」ファンドといわれるリップルウッドも、この間の業績悪化のため、日比谷野外音楽堂の対面にある新生銀行本店を売却することになった。
今後起きるメリル・リンチの破綻劇から、いよいよ年内にも、アメリカの大手の金融法人(大銀行=メガバンクを含む)の十行ぐらいの破綻劇が、来年にかけて起きるだろうとは、炯眼な「予言者」・副島隆彦氏の見解である。
投機マネーとサブプライムの焦げ付きの総額はどのくらいか
三月十七日、こうしたつい最近まで信じられない会社の倒産劇の前後して、
サブプライムローンを原因とする信用不安が東京市場を直撃、円相場は一気に一ドル=九五円台に、日経平均は一万二千円を割る展開となった。ニューヨークの原油価格も百十ドルになるなど、投機マネーの跳梁跋扈は目に余った。
一九七一年のニクソンショックにより、金とドルとの交換が禁止されて、純然たる不換紙幣となったドル紙幣は、原油決済をドルでするとの裏書き保証されて、今まで基軸通貨となっていたが、この間刷り散らかされてきたドル紙幣は投機マネーとなって国際金融市場をしばしば混乱に陥れてきた。実需の数倍あると言われているドル紙幣量は、未だ確定されてはいないのである。
また今国際金融市場を混乱に陥れているサブプライムローンの焦げ付きについても、その額は未だ確定していない。国際通貨基金の試算では、約七十七兆六千億円とされているが、誰が信じているだろうか。
実際の処理としては、サブプライムローンを証券化し、これを「アセット・バックト・セキュリティーズ」(ABS)という形で証券化で、投資家に転売する。しかも、さらにもう一段階(場合によっては数段階)、この住宅ローン担保証券(MABS)を組み直して、スライスして、債務担保証券(CDO)の形にして売買した。この合計が、百七十兆円(一・五兆ドル)と昨年秋から報道された。この他に、RMBSと呼ばれる、モノライン(巨大サラ金のような会社)大手四社が、組み立て直して、作った住宅ローン担保証券化商品の全取引残高が、三百兆円ぐらいある。
さらに、証券の先物市場中のスワップ取引であるクレジット・デフォールト・スワップという債券商品が、シカゴ・マーカンタイル取引所を中心にして、世界中の残高で、五千二百兆円(日経新聞による)ある。この仮需などの想定元本のレバレッジの倍数を、平均で十倍とすると、この債券スワップ先物だけで五百二十兆円(五・二兆ドル)の信用創造が為されていることになる。
この世界公認の数字から、副島隆彦氏は、「学問道場」の「気軽にではなく重たい気持ちで書く掲示板」の[810]の投稿において、次のように語った。
三月二十八日発売予定の「私の新刊書の『連鎖する大暴落』で、実需ではない仮需の総額を五京円とした。その出典根拠はある。そのうちの一割が五千兆円である。だから、前述したとおり、五京円(七京円とする説もある)の一割強の七千兆円が、全デリバティブ商品残高だと考えていいだろう。これを、仮需で創造された取引の総量のその決済される場合の金融実需部分、ここまでを超広義の『マネー』としてよいだろう。そのうちの二千兆円が、過剰流動性である。これだけの『超広義マネー』が、かならず、これからの三年間で、アメリカで信用収縮する」
こうした判断から、先に紹介したように、今後合計二十ぐらいの大銀行・金融法人が、アメリカで破綻・消滅するだろう。ヨーロッパでも、イギリスを中心にして、この十年間の金融バブル経済を謳歌した大銀行が、合計で十行ぐらい、次々に破綻するとの予測が出来たのである。
さらに副島氏は、アメリカの金融先物市場(通貨先物、株式指数取引、為替先物、スワップ取引、その他)が、先物市場で創造した分を含めて、前述した五京円(五百兆ドル)だとすると、その内の「モーゲッジを担保にした債券・証券商品」であるサブプライムとモノライン系の二流「ノンバンク」債券市場、つまりジャンク債の実需ベースの債券総額が、前述したとおり五百兆円ある。そして、クレジット・デフォールト・スワップが、五千二百兆円の取引残高のその一割が実需的仮需として五百二十兆円なのであるとする。
そして、断言する、「さて、現在の『世界GDP』(2007年)は、私の試算では、五十五兆ドル(五千五百兆円)である。アメリカは十四兆ドル(世界の二十七%位)。日本は、四・二兆ドル(世界の六%)である。ドイツと中国が肩をならべて二・九兆ドルずつである。だから、一年間の世界の総売り上げは、五十五兆ドル(五千五百兆円)ということは、これこそは、実体経済であり、実需である」と。
こんなにも明確にもの申すこの本は、是非とも読んでみたいものである。
かくして、これと前述した「金融実需」の世界での総額の七千兆円は、ほぼ一致していることが分かる。このうちの二千兆円(二十兆ドル)は、ニクソン・ショック後にアメリカで過剰に作られた投機マネーなのである。
マルクスの貨幣理論でも、二千兆円(二十兆ドル)は、当然のことながらインフレ要因である。これがハイパーインフレの原因となるのだ。 (直記彬)
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Revolveする世界 (2) (ワーカーズ365号掲載記事の続き) 北山 峻
(4)超巨大なもう一つの金融取引の世界
この間、世界的規模での過剰流動資金の激増をもたらしている「金融革命」について考えてみましょう。
現在、先物取引、オプション取引、スワップ取引などからなるデリバティブ(金融派生商品)と呼ばれている新しい金融商品の取引(金融経済)の経済規模は、この十数年間に、実体経済や従来の金融商品(原資産)からかけ離れた「想定元本」に基づく巨額のオフバランス取引(貸借対照表に載らない取引)や、店頭OTC(Over the counter)取引(公設の取引所を通さず自由に相対で取引されるもの)によって、あっという間に世界の金融経済の規模を数倍にまで拡大してしまったのです。
国際決済銀行(BIS)によれば、2006年末での世界のOTC取引残高は415・0兆ドル、取引所取引残高を入れなくても実体経済の8・7倍もの規模になっていますし、日本のOTC取引残高でさえも06年末で18・7兆ドル、8・5兆ドルの取引所取引残高と合計すると27・3兆ドル(約3140兆円)という天文学的な数字となっています。その結果、世界経済においては、先行する仮想金融経済での取引の拡大によって価格革命と呼ばれるほどの金融資産価格の大幅な上昇が引き起こされ、実体経済をはるかに上回る大量の過剰資金が世界を流動し、逆にこれが実体経済を振り回すという事態に陥っているのです。
デリバティブ(金融派生商品)とはどのようなものなのでしょう?それを理解するために,「先物/先渡し取引」「オプション取引」「スワップ取引」のごく簡単な説明を見てみると、それは次のようなものです。
「(先物/先渡しとは)将来の金利や相場を現時点で確定する取引。取引所を通して規格品を取引し、期日前に反対売買を行って取引を清算できる取引が先物取引である。これに対して、相対(店頭)で自由な取引条件で取引し、期日に決済を行うのが先渡取引である。先物取引には預金など金利を対象とした金利先物、債券価格(長期金利)を対象とした債券先物、通貨(為替)を対象とした通貨先物、株価指数を対象とした株価指数先物などがあり、金融先物と総称される。金融先物の取引に際しては、想定元本相当する資金は必要としないが、取引所に証拠金を積み立てる必要がある。先渡しには金利を対象としたFRA(Forward Rate Agreement)、為替を対象とした為替先物がある。」
「オプションとは、特定の商品を買ったり、売ったりする権利。ある株が1000円の時に、A氏はこの株の値上がりを期待しているが、株を買ってしまうと値下がりのリスクもあるので、この株を『1000円で買う権利』だけを確保したとしよう。A氏は株が1500円に値上がりしたら、1000円で買う権利を行使して株を買い、1500円で市場で売れば、500円の利益を得ることが出来る。逆に、この株が800円に値下がりした場合は、権利を行使すると損が出るので、権利を放棄すれば、損失は発生しない。しかし、こんなうまい話にタダで相手になってくれる人はいない。B氏が100円の手数料を受け取って、A氏に対して権利の行使に応じたとしよう。A氏は、手数料100円を払うと、株が値上がりしたときの利益は100円減るが、逆に、株がいくら値下がりしても、100円以上の損は発生しない。100円で保険をかけたと考えられる。これがオプション取引の基本的な一例である。A氏をオプションの買い手、B氏を売り手と呼ぶ。権利行使するときの価格1000円を行使価格、手数料の100円をオプション料という。また、ここでは株を買う権利を見たが、買う権利をコール、逆に売る権利をプットという。ドルと円との為替取引を対象とする通貨オプションでは、ドルを買う権利=円を売る権利、同様にドル売り=円買いデアルカラ、ドル・コール=円プット、ドル・プット=円コールとなる。こうしたコールやプットを売買するのが、オプション取引である。なお、オプションには、行使期間の最終日しか権利行使ができないヨーロピアン・タイプと、期間中いつでも行使できるアメリカン・タイプがある。」
「元本や利息などの支払いや受け取りをキャッシュ・フローというが、将来のキャッシュ・フローを交換する取引がスワップである。日本企業には世界的に評価の高い優良企業も多いが、そうした企業は資金調達のために債券を発行する場合、日本市場よりロンドンなどのユーロ市場などのほうが有利な条件で発行できる場合も多い。しかし、ユーロ・ドルなどで発行した場合、期日の返済までにドル高・円安になると円での返済額が大きくなってしまう。こうした為替変動リスクを避けるために、発行時点で、『期日に円を支払う代わりに、債権の元利金支払いに必要なドルを受け取る』契約を結ぶことが出来る。企業は、海外市場のメリットを活かしながらも、実質的に円の債券を発行したのと同じ効果をあげることが出来る。こうした取引は通貨スワップと呼ばれる。このほかにも、同一通貨で異なる金利を交換する金利スワップ、元本の交換をしない通貨スワップであるクーポン・スワップ、短期の金利スワップであるショ−ト・スワップ、株価指数を扱うエクティ・スワップなどがある。」(現代用語の基礎知識2008」p642〜3)
デリバティブにはこれ以外にも多様な商品があり、更に日々新しいものが作り出されていますが、これらの多様なデリバティブを活用することによって、現在の金融市場においては手持資金の数十倍、数百倍の資金を運用してハイリスク・ハイリターンの取引を繰り返すことが可能となっています。この結果、世界的規模で金融資産の取引が急増し、それとともに機関投資家や大企業から個人に至るまでの手持資金を集めて高利の運用を図る投資ファンドが世界中で続々と誕生し、(例えば日本でも、日銀総裁の福井までもが投資し数年で100%を超える利益をあげていた村上ファンドなどもこの1つです)金融デリバティブ商品や為替差や金利差などのあらゆる手段を駆使してカネ儲けに狂奔しているのです。この中でも各国の機関投資家や富裕層から大量の資金を集めて何兆円ものカネを瞬時に動かすといわれているジョージ・ソロスに代表される巨大な国際的ヘッジファンドは、投機的な金融操作をしたり、企業の大型買収に資金を提供したりして世界経済に大きな変動を引き起こして世界経済をかく乱しています。ソ連崩壊後に起こされたロシアの経済危機や、ブラジルの経済危機、1997年のアジア通貨危機などはいずれもこれらのヘッジファンドがIMFや世界銀行などとも連携して、これらの国々から大量の資金を引き上げたことが直接の原因と指摘されています。当時ブラジルやロシアやタイばかりか韓国までもが破産的状況に追い込まれてIMFの管理下におかれたことは衝撃的な事件でした。最近では、石油価格の高騰によって巨額の資金を手にした中東産油国の王族たちが、国家ぐるみで投資ファンド(政府ファンド)を設立して話題を集めています。
このような仮想的な巨大金融経済の中で暗躍する主要な登場人物であるヘッジファンドや投資ファンドになぞらえて、世界の一部には現代資本主義をファンド資本主義と呼ぶ向きもありますが、要するにこの間このファンド資本主義によって世界中からあぶく銭をかき集め、一人勝ちのバブル状態を現出し、いっとき我が世の春を謳歌した最大の受益者がアメリカだったのです。
(5)アメリカの累積赤字の拡大とアジア諸国での金融資産の蓄積
だが所詮、このアメリカの「繁栄」は実体の伴わないバブルでしかありませんでした。
この間もアメリカの実体経済はさらに空洞化し衰退の一途をたどっていたのです。
アメリカは、1971年に初めて22・5億ドルの貿易赤字を記録して以来次第に貿易収支の赤字を拡大してきました。最近では、2005年が7674・8億ドル(約90兆円)、2006年が8173億ドル(約94兆円)、2007年が7903・3億ドル(約85兆円)(日本経済新聞08年2月25日付「景気指標」)であり、この10数年は毎年50〜90兆円にも上る膨大な貿易赤字額を記録してきています。
アメリカはこれによって年々発生した膨大な債務を、基軸通貨ドルの発券国であるという強力な特権を使っての大量のドル紙幣の増刷と、幾度も繰り返し実行されたドル安による債務の大幅な削減によって、日本や西欧や産油国などの債権国に犠牲を押し付け続けてきましたが、それでも公表分だけでもまだ「1980年代来の米経常赤字累積は06年末で5兆7千億ドル」であると日本戦略研究フォーラム副理事長の坂本正弘は述べています。(日経新聞08年2月20日)
この今でも続く年7〜80兆円にも及ぶ貿易赤字は、アメリカが毎年外国から様々な生活必需品を買って消費してできた赤字額なのですが、しかし赤字はこれだけではありませんでした。この間、空洞化する国内産業へのてこ入れと軍事予算の増大、財政収入の逓減によってアメリカの国家財政の赤字も毎年40〜50兆円ずつ増加し続けているのです。そして、この双子の赤字を補填するために、アメリカはアメリカの国内通貨であるドルが同時に国際基軸通貨であるという特権を最大限に発揮して、輪転機をフルに稼動させてドル紙幣という紙切れを印刷し世界に大量にばらまいてきたし、今日もばらまいているわけです。その量たるや北朝鮮が作ったと宣伝しているニセドルの額など比べ物にもなりません。何せこちらは本物のドル紙幣なのですから世界中に大手を振ってばら撒けるのです。そして、この過去20年にも及ぶ双子の赤字の累積とドル紙幣の大量の増発は、国際的な規模で次第にドルの価値を下げ、ドルへの信頼を失墜させ、近い将来のドル暴落を日々準備しているのです。そしてこの大増刷された大量のドルが、アメリカへの大量の商品輸出による膨大な貿易黒字となって中国や中東産油国をはじめとした国々に蓄積し膨大な過剰金融資産となっているのです。
中国をとってみると、ケ小平による「改革・開放政策」が始まった1978年にはわずかに1・67億ドルの外貨準備高しかなかったのが、1990年に111億ドルになり、1995年に736億ドルになり、1999年に1546億ドル、03年には4032億ドル、さらにそれが04年6099億ドル、05年8188億ドル、06年1兆663億ドルで日本を抜いて世界一の外貨準備保有国になり、そして07年には遂に1兆5千億ドルを突破したと伝えられています。(日本は08年2月末で1兆ドルを突破したようです。)
他のアジア諸国を見てみると、インド:03年1037億ドルから05年1378億ドル、韓国:03年1555億ドルから05年2106億ドル、台湾:03年2123億ドルから05年2603億ドル、シンガポール:03年957億ドルから05年1143億ドル、日本:03年6736億ドルから05年8469億ドルとそれぞれ外貨準備高を増やしているわけですが、この外貨準備の増加の元になった貿易黒字の最大の相手国こそがアメリカですから、アメリカはここに挙げたアジアの5〜6カ国からだけでも2〜3百兆円にも及ぶ巨大な負債(借金)を負っており、それが年々雪だるま式に増えていく構造にはまっているのです。
(6)返さないで踏み倒す=世界最大の借金国アメリカの赤字減らしの方法;その1
では、この間アメリカはこの蓄積する赤字に対しどのように対処してきたのでしょう。
この赤字を埋め合わせるためにアメリカは、@世界に進出している米企業の収益を増大させる、Aドル安によってアメリカの対外債務を減額(ドル安によってドル債務は減価する)し、またアメリカが外国で保有している対外資産価値を増加させる(ドル安が進めば相対的に外国通貨は高くなり、外国通貨で評価されるアメリカの対外資産も価値が増える)、B外国からアメリカへの資本投資を増大させて貿易赤字を埋め合わせること、を必死になって行ってきました。
1980年代から90年代半ばまでは、アメリカは主としてAのドル安による対外債務の減価、つまりドル価値の減価によって債権国の持つアメリカへの債権の価値を値切り踏み倒す方法によって凌いで来たのでした。
例えば現在でも、アメリカのドルの価値が、1ドルが107円から106円へと1円下がると、日本が持っている1兆ドルのドル債権(アメリカ財務省証券などの)の価値は、107分の1下がりますから、1兆÷107≒93・5億ドル、つまりおよそ一兆円減価し、逆にアメリカはそれだけ借金が減るわけです。このようにしてアメリカは、この30年余の間に1ドル360円から107円まで、3分の1以下にまでドルの価値を暴落させ、日本ばかりでなくドル債権を持っているすべての国々から大収奪を行ってきたのです。
逆に円に対して高くなるユーロや人民元へ投資された資金は、円安ユーロ高や円安人民元高によって次第に価値を増大させていきますから、恒常的にドル安が続くと予想される現状においては、誰もがドル債券を売ってユーロ債や人民元債に買い換えたいと思うわけです。しかし戦後アメリカの従属国に甘んじてきた日本の支配層は、ドル債を売ってユーロ債に買い換えるというような反米的な言動はとることが出来ないばかりか、また大量にドルを売り払うようなことをすると、ドル基軸体制が一気に崩れて日本は更に大きな打撃を被るであろうという思惑から、今までそのようなことはおくびにも出さずに来たのです。しかし、かつて1度だけ、田中角栄の五奉行の一人であった橋本龍太郎が首相のとき、アメリカの無法・不当な要求に腹を立てて、アメリカの財務省証券を売り払うこともありうる由の発言をしてアメリカの怒りを買い、その後引きずりおろされた事がありましたが、こんなことは全くの例外です。
しかし、このアメリカの傍若無人な収奪政策に一貫して反抗してきたフランスが80年代後半からドイツと同盟を組んでEUを結成し、その共通通貨としてのユーロを創設し、外貨準備としてのドル保持を少なくする方向に前進したのです。これはフランスやEU諸国にとってはアメリカに収奪されないための当然の自己防衛でしたが、アメリカの経済覇権にとっては痛烈な打撃でした。そして、その後ユーロが新たな国際基軸通貨としてその流通範囲と流通量を拡大すればするほど、逆にアメリカのドルはますますその価値を減じて弱体化していくことになったのです。1997年の通貨危機で壊滅的な打撃を受けたアセアン諸国や韓国は、ドル依存からの脱却を目指して、06年5月のアセアン+3(中日韓)の財務相会議において、欧州通貨単位(ECU)からユーロへと発展させたEUに倣って、アジア通貨単位(ACU)創設を検討することで合意しましたが、これもアメリカの目には、腹立たしい反逆と映っていることでしょう。
(7)借金は高利で借り替えて返す=アメリカの赤字減らし(実は減ってない!)の方法;その2
90年代の半ば以降アメリカは、一方でドル紙幣を大量に印刷して支払いをすると共に、他方では主として外国からアメリカへ資本を呼び込む方法、つまりアメリカだけが突出した高金利を維持し、その外国との金利差によって世界の余剰資金をアメリカへ投資させて経常収支の赤字を補填してきました。
このことを06年を例に見てみると、06年のアメリカの経常収支の赤字は約8千億ドル(およそ94兆円)でしたが、海外からアメリカへの資本流入は1兆8千億ドル(207兆円)に上ったので、アメリカはそれで経常赤字を補填したばかりでなく逆に1兆ドルの資金を海外投資に回す余裕さえ生じたのでした。
しかしこれを冷静に考えてみるならば、資本流入によって当面はしのげても借金はさらに高利の借金として残り続けるのですから、これはまるでサラ金地獄にはまったサラリーマンのような状態で、なんら根本的な解決策ではないわけです。しかし世界最大の借金大国であってもアメリカはいまだ世界最大の経済大国でもあり、基軸通貨国でもあり、さらに最大の軍事大国なのですから、アメリカは、いざとなれば踏み倒すことも出来ると高をくくっているのかもしれません。
しかし現実の世界はすべてが日本のように従順な「同盟国」ではないのであって、逆に中国やロシアは言うに及ばず、表面は同盟国のような顔をしているEUやアセアン諸国やインドや中東の産油国なども実際はいつアメリカに公然と反対するか分からない状況になっているのです。
アメリカがこの政策に転換したのは、EUが、新たな基軸通貨としてユーロを創設したために、ドル安を続けると世界中で急速なドル離れとユーロへの接近を生み出し、ドルの没落を早めると考えたためでしょうが、しかしここでアメリカが新たに直面したジレンマは、巨額の貿易赤字によって海外に流出したドルを再びアメリカに還流させるためには、強いドルを維持して高金利を維持しなければなりませんから、そうすると、今までのようにドル安によって債務を減らすことが出来なくなってしまうことなのです。
また外国の資金を引きつけアメリカへ資本投資を促すためには債権の支払い金利を高い状態で維持しなければなりませんが、そのためには、少なくともアメリカ国内が好景気を維持し、資金需要が旺盛な状態を維持しなければなりません。しかし国内産業が空洞化し、賃金が下がり続けて経済格差が拡大し、税収も頭打ちで双子の赤字がますます亢進するアメリカで、長期にわたって好景気を維持することなど全く不可能なことです。
この好景気状態が終わり、景気が後退し、資金需要が減少し、利子率が下がり、内外の金利差が縮小すると、外国からの資金の流入も止まりますから、アメリカ経済はその途端に一気に破産状態に陥りドルも暴落する可能性が極めて高いと思われます。
そして不動産バブルがはじけてサブプライムローンの破産が鮮明になった今、近い将来に世界を震撼させるほどのアメリカの大崩落(ガラ)が起こってもなんら不思議ではないでしょう。
(8)ウォーラーステインの分析
そして、このようなアメリカの現状について、数百年単位の大きな歴史的スパンで世界を分析し続け、「世界システム論」で世界の歴史学をリードしてきた現代を代表する知性の一人であるイマニュエル・ウォーラーステインは、次のように述べています。
「地政学的には、第二期(70-73年から現在までの時期;北山)は米国の覇権の衰退期といえる。米国は三種類の政策でこれを食い止めようとした。・・・・(中略)・・・(しかし)衰退を食い止め盛り返そうとする試みは、完全な失敗に終わった。地政学的には、イラク戦争は基本的な武器もないゲリラとの闘いと化し、目を覆う敗戦となった。他国を威圧して従わせる政策も、西欧のアメリカ離れが一段と進み、東アジアも同じ方向にあるという逆の結果を招いている。北朝鮮とイランは核武装を断念するどころか逆に加速させ、これに追随する国も多く出現した。アラブ諸国はイスラエルが望む条件での和平実現に一層消極的になり、中南米各国は米国の政治干渉を避けるようになっている。米国のこうした経済的重圧はますます深刻化してドルが下落。世界の準備通貨の地位を失う危険が迫ってきた。しかも米国は、米国債を買い支えた、日本、中国、韓国、ノルウェー、中東の産油国が、いずれ米国債売りを決断するのではないかと恐れている。米国向け輸出がもたらす利益以上にドル安で損失をこうむる可能性が出てくれば、これらの国は損を防ぐために、その決断をしかねない。これは、先を読めるアナリストなら誰でもずっと前から、少なくとも03年ごろから予告していた大暴落に他ならない。ドルの緩やかな下落が続くか、突然急落するか、それはわからない。・・・・」(日経新聞08年2月19日、エール大学シニア・リサーチ・スカラー、イマニュエル・ウォーラーステイン著「再考・基軸通貨ドルの行方・上」)
このアメリカの衰退と没落は、その裏面から見れば今急速に進んでいるアジアの再興の結果でもあるのですが、そのアジア再興の歴史を振り返る前に、アメリカという国をさらに深く理解するためにアメリカの発達史についてみてみたいと思います。
(三)アメリカ発達略史
現在のアメリカはカナダやオーストラリアなどと並んで、1776年の建国後まだ230年にしかならない新しい移民の国であり、そこで数千年にわたって続いていた先住民の生活を徹底的に破壊した上に、最初から西欧資本主義によって作られた人工国家でもあります。
(1)西欧によるネイティブ・アメリカンの大虐殺と略奪
数万年前に、まだ陸続きだったベーリング海を渡って移り住んだ古モンゴロイドの人々が、北米大陸から南米大陸にまで広がり、豊富な堅果類やとうもろこしやジャガイモやバファローやシャケなどの動植物の狩猟・漁労・栽培によって、マヤやアスティカやインカなどの多くの多様な文明を築き上げ、最少で4000万人、最多で1億人といわれる大きな社会を作って暮らしていた(1500年当時の西欧の全人口でさえ5700万人と推定されている)ところに、1492年、スペイン侵略者の手先であるコロンブスがたどり着いたのでした。
ネイティブ・アメリカンにとっては、それは大災厄の始まりでした。
1500年当時のヨーロッパ人たちは、世界の中では、世界の中心であった中国やインドやオスマントルコなどのアジアの大国に圧倒されてユーラシア大陸の西の果てのヨーロッパ半島に押し込められ、大西洋に追い落とされそうになっていた弱小の諸国家群でしかありませんでした。貧しかった彼らは、マルコ・ポーロの「東方見聞録」などを読みながら(コロンブスの書き抜きがセビリア図書館に現存しているという=井上幸治著「南欧史」)、豊かなインドや東南アジアや中国などのアジアとの交易を夢見ていました。オスマントルコに地中海を押さえられたイタリア商人は、かつて地中海交易によって得た巨万の富を回復しようとしてポルトガルと結んでアフリカ大陸の西側海岸を南下してインド洋に抜ける海路を探していましたが、それに遅れを取ったスペインの女王イサベラは、トスカネリの地球球体説を信じて西回り航路で行けばインドに到達できるはずだというジェノバの青年コロンブスを使って西回りでインドへ向かわせ、アメリカに到達したのです。
アメリカに上陸したスペインによるアメリカ現地人たちに対する殺戮と収奪はすさまじいもので、スペインは強盗仲間であるポルトガルやオランダ・イギリス・フランスなどと共に、無差別に殺戮を繰り返し金・銀・財宝を根こそぎ略奪したばかりか銀鉱山での銀の採掘やプランテーションでのサトウキビ栽培などにネイティブ・アメリカンの人々を奴隷として酷使し大量の人々を殺し続けたのです。その結果アメリカ大陸に住むネイティブ・アメリカンの人口は、コロンブスのアメリカ到着以来わずか80年にして、1570年ごろには数千万人の人々が命を奪われ、わずか1000万人にまで激減したのでした。その結果不足し始めた奴隷を補給するために西欧の強盗諸国は、アフリカ諸国で城砦を築いて「調達」した大量の「黒い象牙」(ニグロたち)を、極めて多くの利益をもたらす奴隷貿易によって輸入し続けたのです。イギリスでは1663年に設立された王立アフリカ冒険商人会社が、さらに1672年からはこれを改組した王立アフリカ会社がこの極めて利益の多い奴隷貿易を独占していたように、西欧諸国は国王を先頭に国家的事業としてこの奴隷貿易を行い、この奴隷貿易を三角形の一辺とする、本国−アフリカ−新大陸間の三角貿易(ニグロ奴隷貿易とニグロ奴隷制による砂糖・綿花・タバコ生産の結合)こそが西欧の資本主義成立の財政的基礎となったのでした。(E・ウイリアムズ著「コロンブスからカストロまでT」岩波現代選書など)
(2)英蘭・英仏戦争とアメリカの独立
その後この「新大陸」からの略奪によって肥え太った西欧諸国の強盗どもは、勢力範囲をめぐって激しく争いながら、インドから東南アジア・東アジア・オーストラリアにまで進出しますが、アメリカ大陸の中でも勢力範囲を巡って最初はイギリスとオランダの間で、第一次英蘭戦争(1652年〜54年)、第二次英蘭戦争(1664年〜1667年)を戦い、この戦争に勝利でしたイギリスがオランダからニュ−アムステルダムを奪いニューヨークと改名、さらに第三次英蘭戦争(1672〜74)と戦争を繰り返し、最終的に勝ち残った英仏の間での1756年から63年までの「植民地七年戦争」によって、イギリスの勝利で決着したのでした。
この七年戦争の敗北によってアメリカやカナダやインドなどの海外植民地の多くを失ったフランスは、莫大な戦費によって国家財政が破綻したばかりでなく、植民地からの収奪によって潤っていた経済運営そのものが破綻し、絶対王政の危機、貴族や特権身分と新興のブルジャージーなどとの国内諸勢力間の矛盾も激化し、1789年のフランス革命へと一直線に突入していったのでした。
しかし、イギリスのアメリカ植民地でも、イギリスによる収奪に耐えられなくなった東部十三州に住むヨーロッパからの移民たちは、1774年イギリスからの独立戦争に決起したので、それまでに散々イギリスに蹴散らされたフランス、オランダ、スペインもアメリカを支持してイギリスに宣戦布告し、1783年の英米パリ条約でアメリカは独立を勝ち取り、フランスとスペインも同年のベルサイユ条約で、スペインはフロリダ半島とミノルカ島を、フランスはアフリカのセネガルを取り戻したのでした。この勝利を喜んだフランスは、いかにも芸術の国らしくアメリカに「自由の女神像」を送り、これが今でもアメリカの象徴になっていることはよく知られています。
(3)コロンブス直系の侵略拡張主義;西部開拓,米墨・米西戦争,ハワイ併合そしてアジアへ
その後のアメリカは、太平洋に向かっていくつもの砦を築き、騎兵隊と共に「西へ、西へ」と開拓という名の侵略を続け、「インディアン」を殺して駆逐し続けたのでした。それがいわゆるアメリカの西部開拓史で、第2次大戦後ハリウッドで作られた「野蛮で残虐なインディアンを打ち破ってアメリカを文明国へと作り上げたヒーローたちの物語」である数々の西部劇なるものが、歴史を偽造し、黒白を転倒したものであったことは今でははっきりしています。
しかし当時のアメリカは、ヨーロッパで進行しつつあった産業革命の成果をいち早く取り入れ、閉塞したヨーロッパから流入する低廉で豊富な労働力と豊かな地下資源とを結び付けて急速に国力を増強させていきました。
1830年代に産業革命を成し遂げ、1848年メキシコに戦争を仕掛けてカルフォルニア・ネバダ・ユタ・アリゾナ・ニューメキシコを併呑し(メキシコの領土の半分を略奪した!),1861年からの南北戦争で南北を統一し、1869年にはアメリカ大陸横断鉄道を開通させ、1880年代には鉄道の統合と石油・石炭・鉄鋼のトラストによって世界に先駆けて独占資本を形成し、94年には工業総生産で英・仏の合計額を抜き、世界最大の工業国となったのでした。
その後1898年には日本の中国侵略の盧溝橋事件と同様に全く卑怯にも自国戦艦メイン号を自ら爆沈してスペインに戦争を仕掛け、見る影もなく弱体化していたスペインを簡単に打ち破って、フロリダ半島ばかりか、フィリピンやグァム島・プエルトリコなどを獲得し、さらには当時独立国であったハワイを侵略し併合するや、中南米やフィリピンへの他の帝国主義の介入を排除する一方で、更にアジアへの進出をもくろんで1899年には「中国の領土保全・門戸開放・機会均等の3原則を守れ」と他の帝国主義国に要求し、露骨な対外拡張政策を実行しました。その後1921年のワシントン会議でも大統領のウイルソンは「民族自決」とか「領土保全」を掲げて、日本のアジアでの勢力の拡大に反対しながら着々とアジア・太平洋での勢力の拡大を推し進めたのでした。
現在、「民主主義」とか「女性の解放」とかのスローガンを掲げて行っているアフガニスタンやイラクに対する侵略戦争もそうですが、アメリカは昔から「道徳的な説教」をしながら侵略し民衆を虐殺するする悪質な偽善癖のある帝国主義だったのです。そしてその侵略拡張主義は確かにコロンブス以来のキリスト教の福音と共に侵略を行った西欧諸国の野蛮な侵略・拡張主義の伝統を直接受け継ぐものなのでしょう。
(4)戦争で焼け太りし世界一の大帝国へ
その後は世界一の工業国・経済大国となったアメリカは、二度の世界大戦においても西欧列強の中では唯一戦場になる事もなく、逆に戦争特需によって莫大な利益をむさぼり、政治的・軍事的にも頭抜けた巨大国家となり、戦争下弱体化した他の帝国主義諸国をもその指揮下に置く勢いでした。
特に第二次世界大戦後は世界の憲兵として、敗戦国であった日本や西ドイツ・イタリアばかりかイギリスやスペインなどを含む世界40カ国あまりに20〜30万人もの軍隊を常駐させ、太平洋・大西洋・インド洋から地中海に至るまで巨大な艦隊を遊弋(ゆうよく)させて様々な「紛争」に介入し、世界各地で人民を蹂躙し、収奪して肥え太り、世界最強の超大国として世界に君臨してきたのです。
閑話休題。少し横道にそれますが、現代最大の兵器である核兵器についていいますと、第二次大戦後アメリカは、ヨーロッパや日本に対して、NATOや日米安保条約によってアメリカの「核の傘」の下に縛り付け、それらの国々の核武装を阻止しようとしましたが、ケネディがフランス大統領ド・ゴールに「フランスが核攻撃を受けたとき、アメリカは自国の壊滅をと引き換えにソ連との核戦争に踏み切れるのか」と詰問されて蒼白となり、フランスの核武装を認めざるを得なかったように、中国も、ソ連の妨害をけって、「中国人は、たとえズボンをはかなくても核兵器を造って見せる」(陳毅外相)として64年に原爆、67年に水爆を造ったのでした。それに対し日本の支配層は、未だにおとぎ話である「核の傘」を撒き散らし、ミサイルを4〜5発連射されれば「何の役にも立たない」ことは世界の軍人の常識となっている、それゆえカナダでさえも導入を拒否しているミサイル防衛(MD)システムという一兆円もする高額な「おもちゃ」をアメリカに押し売りされ、07年12月18日、ハワイで米軍の指揮の下で、実験に成功したと発表しましたが、反動の石原慎太郎などは、今年(08年)1月に、それと一体になっているパトリオットミサイルの演習を新宿御苑でした防衛省に対し、「皇居前広場でやれ」などとアメリカのお先棒を担いではしゃいでいる始末です。全く阿呆につける薬はない。
(5)絶頂の大帝国から没落の階段を下る
しかし蒋介石を支援した中国国内戦争で敗れ、朝鮮戦争で引き分け、ベトナム戦争で敗退したばかりか、第2次世界大戦でぼろぼろになった英・仏・独・日・伊などの帝国主義諸国が復興してくると工業の独占が崩され、ド・ゴールの要求による急激な金の流出によって1971年ブレトンウッズ体制が崩壊に追い込まれるに至りました。さらに73年には米英で事実上の独占体制を築いてきた国際的な石油の支配が、イスラエルに反対するアラブ諸国の反乱によって切り崩され、オイルショックに追い込まれたばかりか、中東支配の支柱としていたイランのパーレビが打倒され、イラクのフセインが米英に敵対してソ連やフランスとの提携を強めるという危機的状況に追い込まれました。
その後戦後一貫してアメリカと一線を画していたド・ゴールの後継者である、フランスの大統領ジスカールデルタンの提唱で先進国首脳会議(サミット)と、現在のG7に繋がる各国蔵相・中央銀行総裁会議が開催され、アメリカ単独での世界政策の決定に「たが」がはめられるに至ったのでした。70年代半ばに起こったこれらの事態がアメリカの衰退のはっきりした第一段階を示すものでした。
その後1979年に開始したソ連のアフガン侵略戦争が88年にソ連の敗北で終結したあと、89年のベルリンの壁の崩壊を経て91年にソ連が崩壊すると、アメリカは91年のイラクに対する湾岸戦争に勝利したことともあいまって、再び唯一の超大国としての「自信」を取り戻し、折からのIT革命と金融ビッグバンによる一人勝ちの状況の中で、再び単独行動主義に走り、9・11以降、フランスやドイツなどの警告をも省みず国連をも無視して一人で指揮棒をふるい、アフガン戦争、イラク侵略戦争に突進したのでした。
だが、この間アメリカ以外の世界もかつてないきわめて大きな変貌を遂げていたのです。
次号に続く
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コラムの窓 黄砂が運んでくる光化学スモッグ
春が近づき「黄砂の季節」がやってきた。東日本の人々には、あまりなじみが無いかもしれないが、西日本、特に九州の北部に住んでいると、それはごく日常的である。
「黄砂」とは、モンゴルや中国内陸部の砂漠地帯で舞い上がった砂が、季節風に乗って、海を越え、九州北部を中心とした西日本の空を黄色く染める気象現象のことだ。晴れているのに、空全体が霞がかって、太陽もうすぼんやりと見える。
最近は、砂だけではなく、鳥や豚のインフルエンザ・ウィルスを運んできたり、重化学工業の発展著しい中国沿海部の工業地帯の煤煙まで運んできて問題になっている。
思い出すのは、昨年の初夏のある日曜日のことである。おりしも各地の小中学校では、運動会が開催されていた。昼頃になって、にわかに市役所の広報車が拡声器で「光化学スモッグ注意報」を知らせて、街中を走り回った。運動会は次々と中止となり、中には気分が悪くなって、病院に運ばれた生徒たちもいた。
「光化学スモッグ」といえば、かつて高度経済成長の頃、日本の首都圏や工業地帯で、自動車や工場の排気ガスがもとで、大気中のオキシダント濃度が上がり、目が痛くなったり、気分が悪くなる被害をもたらしたものだ。
その後「排ガス規制」の強化が功を奏したか、しだいに光化学スモッグ注意報を聴くことは少なくなっていた。それが、なぜ今?しかも、今回起きたのは、必ずしも大都会や工場地帯というわけではなく、五島列島や長崎の半島など、ふだん空気のきれいな農漁村での被害がひどかったという。
その数ヶ月後、NHKのクローズアップ現代で、この問題が取り上げられ、綿密な気象データの解析から、今回の光化学スモッグは、中国沿海部工業地帯の煤煙が原因である可能性が強いことが明らかにされた。さらに、地元の工場地帯では、近隣の住民が、大気汚染のため、呼吸器疾患に苦しんでいることも報道されている。
考えれば、考えるほど、今わたしたちは、あまりにも大きな課題に直面していると思わざるをえない。子供達の目や喉を傷める光化学スモッグひとつとっても、かつては目の前の道路や工場や、環境庁の出先機関や自治体を相手に住民運動を組織すれば、何がしかの成果は得られた。
ところが今は、光化学スモッグは海を越えて、はるか西の大陸からやってくるので、一筋縄にはいかなくなってしまった。かなり高度な運動を組織しない限りは、解決の展望は見えてこない。
まずは、身近な自治体に対して、黄砂予報や光化学スモッグ注意報の精度を上げ、長期的な予報ができるような対策を求め、運動会の日程なども、変更しやすいよう、柔軟に設定し、日程が変更になっても父兄が参観できるよう、会社も協力すべきである。しかし、それは、ささやかな防衛策にすぎない。
何よりも、スモッグ発生の中心である中国の工業地帯で、大気汚染に苦しむ被害住民達の活動を支援する道を探れないか?中国の企業に排ガス対策を要求するだけでなく、日本の政府や企業にも、これまで培ってきた廃棄ガス除去技術をもとに、環境分野での技術援助をするよう働きかけてはどうか?
海を越える地球環境問題には、海を越えた取り組みが必要である。そのために、何をしたら良いのか?私達、ひとりひとりの知恵が求められている。(誠)
色鉛筆 少子化 「出生率を上げるには・・」
『子どもがいる夫婦で、夫が育児や家事に積極的なほど2人目の子どもが生まれるケースが多いことが厚生労働省の調査で分かった』という小さな新聞記事を見つけた(03/20付朝日新聞)少子化が進んでいる中、出生率を上げる為のひとつの政策になるのではないかと興味を持った。
その調査によると『子どもが1人いる夫婦のうち、夫が休日に家事や育児をしない家庭の20.5%で2人目が生まれた。これに対し、夫の家事や育児への参加時間が2〜4時間だと51.2%、4〜6時間は56.3%、6〜8時間は63.8%となり参加時間が長くなればなるほど2人目の子どもが生まれることが多い傾向だった』というのだ。数字で表すとはっきりしていることが分かる。母親である女性が働いていても、働いていなくても父親である男性の協力があれば、出生率は上がるということだ。ところが、実際の所大半の男性達は、育児休暇を取りたくても取れなかったり、長時間労働を強いられていて毎日、家事・育児に参加できていない。私の息子夫婦も1人目の子どもが生まれてあたふたしているが、父親である息子は、朝早く家を出て夜遅くに帰宅する為、子どもに会えない日もあり、その帰りをひたすら待ち続ける母親の嫁は、ひとりぼっちで子育ての不安を感じているようだ。このような環境の中では、とても2人目という気持ちになれないだろう。男性も女性も労働時間を短縮して、育児・家事を2人で行って家族でゆったりと過ごすことが出来る時間を作れば、出生率は上がるのではないだろうか。
ひと昔の私達の世代では、男性が家事・育児に参加するというのは先進的な一部な人達でしかなかった。男性は仕事をして、女性は家事・育児をして家を守るというのが社会常識だった。ところが女性達が社会的生産活動に参加するようになってきてから、男性も育児・家事に参加することが少しずつ社会的常識になってきた。特に嬉しいことは、若い世代の男性達が率先して家事・育児に参加していることだ。息子夫婦は、遠くに離れているので時折、私は孫の顔を見に行く。すると子どもが大好きな息子は、オムツ交換(ウンチも拭く!!)をしたり、おっぱいが終わるとゲップの抱っこをして、ぐずれば抱っこをして寝かしつけ、お風呂に入れて、耳掃除までするなどかいがいしく世話をしている。そして、一緒に買い物に行って、一緒に食事の支度までするので、驚くと共に私達の世代には考えられないことなのでうらやましさをも感じた。こんな気持ちを孫を持つ友人達に話すと「うちの息子もそうだよ」「嫁は何にもしないんだよ」「2人で子育てするのはいいよね」「いい時代になったよね」「やらないと嫁に怒られるんだって」と、話が盛り上がりみんなで大笑いをした。
春になり、初孫の成長を願って、五月人形を贈った(美)
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本の紹介
『貧困大陸アメリカ』堤 未果 岩波新書 700円
――超大国の米国で拡がる貧困の紹介――
グローバリゼーションの拡がりと利潤万能の新自由主義“改革”の裏側で日本でも拡がる新たな格差社会。が、それはすでにレーガン政権下で80年代の米国の後追いでもあった。
今回紹介するのはその超大国の米国で拡がる新たな貧困化の諸相をテーマにしたレポートだ。
すでに知られているように、著者はニューヨーク州立大学国際関係論学科、同修士課程を修了し、卒業後は国際婦人開発協会、アムネスティ・インターナショナルニューヨーク支局員、米国野村證券に勤務。9・11米国同時テロでは世界貿易センタービルへのテロ攻撃を隣のビルから目撃した経験を持つ。著者はこれまでに「グラウンド・ゼロがくれた希望」「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命――なぜあの国にまだ希望があるのか」などの著作を出版している。
また著者はいま時の人≠ナもある。今年2月にはHIV患者で先の参議院選で当選した川田龍平氏と結婚してまた話題を集めた。
■貧困ビジネス
昨年表面化した米国の低所得者向け住宅ローン、いわゆるサブプライム問題がしだいに深刻度を深めている。サブプライムローンを組み込んだ証券の不良債権化が進み、その規模も当初の控えめな見積もりで覆い隠せなくなり、いまでは300兆円ともいわれる不良債権が積み上がっている。
米国発の金融技術を駆使したマネー資本主義の終焉を告げるかのような今回のサブプライム危機の拡がりは、一時代を風靡した新自由主義的の一時代の終わりを告げるものでもある。
本書のプロローグは、そうしたサブプライム危機の発端となった、米国の金融機関による無責任な住宅融資の実態のレポートだ。住宅価格の上昇という当てにならない見込みを唯一の根拠として強引にローンを組ませる手口をリアルに紹介している。その実態たるや、貧困層を食い物にして肥え太ろうとする金融機関によるいわゆる「貧困ビジネス」そのものだ。そうした「貧困ビジネス」は本書の全体を通底するもので、著者による告発も「貧困ビジネス」を生みだした「暴走型市場原理システム」に向けられている。
■仕組まれた貧困
本書で取り上げられているのは、いずれも米国で進む貧困下の諸相だ。本書を構成する各相を紹介する。
第1章 貧困が生みだす肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
エピローグに続く第1章は米国で多い肥満の原因が、一見すると想像外とも思える貧困化が背景にあるのだという。米国では貧困ライン以下の家庭に食料交換クーポン(フードスタンプ)が配給され、また学校で割引や無料で給食を受けられるが、それらは現実には少ない額で胃袋を満たすためにマクドナルドなどに象徴される低栄養で高カロリーのジャンクフードに向かうという。
第2章は、05年にニューオーリンズなどを襲ったハリケーン・カトリーナによる災害についてのレポートだ。すでに他方面から指摘されていたように、著者もこの災害を“人災”だと告発する。
1000人以上の死者を出したあの災害に際し、そうした大災害に対処するはずの連邦緊急事態管理庁(FEMA)は政府の民営化政策によって多くの業務の外注化を進めた。その結果災害救助など後手後手になり、結果的に被害の拡がりをもたらすことになった。「国民の命に関わる……エリアを民営化させては絶対にいけなかったのです。」と著者はFEMAの元職員の口を通じて語らせている。また表題の経済難民とは、05年に全米で100万人規模の移民デモとなって噴出した「不法移民規制法」にかかわる不法移民問題の実態に迫ったものだ。
第3章は、米国の日常生活でいま大きな問題となっている医療、さらにはゆがんだ医療保険制度の実態についてのルポだ。米国では80年代以降、公的医療が縮小され、自己負担が膨れあがった。結果的に民間の医療保険に入らざるを得なくなるが、そうした医療の民営化・自由化が取り返しのつかない医療格差を生みだした。「市場原理とは弱者を切り捨てていくシステムです。」と、著者はここでも取材相手の言葉を借りて医療の民営化や市場原理に対して告発の目を向ける。
第4章と第5章は、貧困層や不法移民の子供達などが、結局は貧困さの故に軍隊に志願せざるをえず、その多くがイラクなどの戦地に派遣されて戦死・負傷し、あるいは帰還後も劣化ウラン弾などの起因する白血病や外因性ストレス症候群に悩まされたりする実態を告発したものだ。この部分は以前に雑誌などに掲載されたものだが、大幅に加筆・修正されているので改めて読んでみる価値がある。
■二極化の背景
本書は超大国の中での貧困化や二極化、ワーキング・プアの救いのない現実、その背景にある新自由主義や過度な民営化、福祉の切り捨て、それらを推進してきた大企業への批判的視点は貫かれている。が、福祉など本来民営化すべきでないものを民営化してきたことに直接的な原因を求めるとすれば、そうした視点の当然の裏返しとして、そうしたものを国家や政府の機能として保持していく、というスタンスにならざる終えない。だから後書きでは「奪われた日本国憲法第25条」「けっして手放してはいけない理想」としての憲法、とりわけ生存権についての思い入れを強調することになる。
しかしイラク戦争を強行したのも国家であり、戦争も公共事業も福祉も様々なバリエーションで併せ持つことで機能しているのが国家だ。その国家にどう向き合っていくのか、という私などが関心がある問題意識はイマイチ見えてこない。
とはいえ本書で親近感が感じられるのは、その目線、視点だ。サブプライム問題でも多くの識者が金融システムの正常化といった視点で発言しているのに対して、著者はそれは「貧困ビジネス」をもたらした市場万能の新自由主義そのものに根があるとの問題意識から発している。ここに著者のまっとうさが凝縮されている。こうした視点は、著者の視点が貧困化、二極化をあくまで弱者の視点から強者を告発するスタンスを貫いていることと無関係ではないだろう。
それに本書はこの手の本の多くと同じようにとても読みやすい。それにインタビューや取材もテーマに即したリアルなものだ。
著者の経歴にもあるように、米国で学んだエリート学生の多くが、ビジネスマンコースを進んでいるのに対し、あくまで弱者に寄り添って講演活動や執筆活動に進んだ著者の姿勢や思いに共感せざるを得ない。
本書のルポは格差社会、二極化社会を打破する闘いや組織、ネットワークづくりを本来の使命とする私たちを含め、多くの人にとって日本の現実に地球の裏側の現実を対比させることで光を当てるものになっており、大いに触発される。著者の今後の活躍を期待したい。(廣)
2008.4.1.読者からの手紙
TVドラマいろえんぴつ≠ニ太公望の思い
TVドラマいろえんぴつ≠フ予告編を見ただけだが、余命いくばくもなく右手がきかなくなった女の子が、左手で書く練習を続けるというドラマだそうだ。死期が迫っているのになぜそんな努力を続けるのか? と周りの者は問う。彼女がどう答えたかは予告篇ではうつさない。お楽しみというところ。
私は太公望がまっすぐな針で魚釣りをした故事を思い出した。現在の問題にひきつけて考えてみると、太公望の思いというものが見えてくる。彼の生きた時代がいつで、どんな状況であったかは調べてはいないが。釣れもしない魚を釣ろうとするのだから、実は結ばない努力を続ける意味。
例えば地球温暖化について、人口問題から見れば地球上に人口が増加し、数字は覚えていないが(60億だったか)、こんなに人口が増えると食糧不足が目に見えている。温暖化にしても人口の多いのはマイナス(何かにつけ大量生産の必要が生ずるであろうから)の影響を及ぼすことになろう。
世界各国の事情はそれぞれ異なるであろうし、少子高齢化の日本では産めよ増やせよ≠ノ傾いている。それは当面の現実の要請であるだろうが、いつの日か、世界的に物事が考えられのが普通になれば、傷を生まずに人口減少への方向に向かうであろうが、どうなるかわからん。
奄美・沖縄にゆいまーる≠ニいう言葉がある。相互扶助≠ニいう意味だそうだ。人口問題を例にとれば、人口の過多のところから、人口の少ないところへの移動も(移民)かつてのような悲惨なありようでなしに、策がとられることもあるだろうか?
見えないままを視るようなもので、まさに釣れもしない魚釣りをすることや、TVドラマの死期がわかっていて、目標を定め努力する思想(敢えて私は市井に転がっている多くの事象から、思想とよぶ)そのものが未来につなげると考えるが。そうした疑問≠フ流れがあるやも知れぬ。
詮索好きの私だから、太公望について、ひねくりまわしたり調べたりすることを楽しみにするかも?
08・3・16 あさ 宮森常子
「ドラマスペシャルいのちのいろえんぴつ」3月22日(土)に放送。脳腫瘍で11年という短い生涯を終えた少女の実話を、彼女が残した詩と絵を基にドラマ化したもの。
舞台は、北海道厚岸町の小学校で5.6年生の複式学級。新しく赴任してきた教師は、6年生の加純が余命半年と知り戸惑う。そんな中、女性教師が加純の詩と絵に秀でた才能を見抜き、スケッチブックと色鉛筆を渡す。右手が不自由な加純は左手で描くことに挑戦し、見事な詩画を仕上げる。
原子力空母母港化を問う住民投票条例策定を求める署名運動、六万筆を集める
現在横須賀市では、原子力空母母港化を問う住民投票条例策定を求める署名運動が展開されています。署名期間は一ヶ月なので四月六日が締め切りです。
この署名運動は2回目でもあり、今回受任者が前回を大きく上回ったこと、また前回の署名運動のノウハウの蓄積等もあり、二年前の四万人を超えて六万人となりました。準備期間中に起こった沖縄での米軍人の性犯罪や三月十九日に横須賀で起きたタクシー運転手の殺害事件でも、米軍脱走兵のクレジットカードが車中から発見されたなど米軍がらみであることは、横須賀市民の強い関心事となっております。数年前にも現に殺人事件があったのです。
八月十九日の米軍の原子力空母配備を何としても拒否したいとの横須賀市民の声は、日に日に熱を帯びて大きなものになっております。残りの一週間に全力を尽くすことで私も悔いなき闘いをしたいと考えています。 (笹倉)
編集あれこれ
このところ、労働界では非正規労働者の闘いが気を吐いています。かつて権利の全逓≠ニいわれた組合が第2組合の全郵政の軍門に下るなど、既成の労働組合が存在感を失うなかでのこの健闘を大いに讃え、注目したいと思います。
本紙前号においても、そうした動きや労働実態について触れる記事が掲載されました。その続報として、地方自治体での非正規化の実態を紹介します。すでに非正規職員が過半数に達する市まであり、例えば京都府城陽市では正規553人に対して非正規が602人ということです。
この4月から改正パート労働法が施行されることも本紙前号で紹介されていますが、公務非正規職はその対象外であり、職場の過半を占める労働者の処遇が法の谷間に置き去りにされる、という事態のまでなっているのです。営利を追求する民間企業ではなく、法を守る立場の自治体におけるこの実態、なんともお寒い限りです。
東京都中野区の4人の保育労働者の解雇撤回裁判では、昨年11月東京高裁において勝利判決を得、不安定な非正規雇用についても法整備が必要とされました。3月21日付の神戸新聞は「保育士がいつ解雇されるか分からない状況で、安心して子どもを預けられるだろうか。このままでは公共サービスの質の低下は避けられない」という原告代理人のコメントを紹介しています。
春闘らしい闘いとして、武庫川ユニオン尼崎市役所分会無期限ストライキ突入についても紹介します。こちらは住民票に関する入力作業ですが、偽装請負状態を兵庫労働局から是正指導され、業者の競争入札への移行という動きのなかでの、直接雇用の要求を掲げた労働争議です。市民派・白井市長は今のところこの要求に応じる動きはありません。
自治体とは何か、所詮は国の下請けに過ぎないとして放置するのではなく、そこで生活するものとそこで働くものが共に自治のあるべき姿を追い求めるときが来ているのではないだろうか。公務非正規労働者の処遇はその方向性を探る重要な指標であり、ここでこそ同一労働同一賃金を実現しないでどうするのかという思いを強くしています。 (晴)
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