ワーカーズ379号 2008/10/15    案内へ戻る

拡大し深刻化する世界金融危機と無力な麻生政権

 十月十日開催された先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議では、拡大し深刻化する世界金融危機に対して、各国の金融システム防衛のため公的資金導入を積極的に行う事を確認した。これは、ブッシュ米大統領が混乱の中で成立させた金融安定化法による銀行など金融機関への公的資金注入を行う方針を追認したものだ。八日に実施した欧米での協調利下げが無力であったからである。
 実際アメリカ発の金融危機が世界に飛び火し、株価暴落が止まらない。九月早々のフレディ・マック等の破綻、そしてリーマン・ブラザーズとワシントン・ミニチュアルの破綻と続き、アイスランドではすべての銀行が国有化された。またドイツやイギリスでも金融システムは深刻で危機に直面している。
 こうした世界的金融危機の背景には、各国の金融市場が今や一九二九年の大恐慌の再来かと事態の進行を恐れを持って見守る事と関連する。アメリカが難産の末、成立させた金融安定化法についても、深刻化する一方の金融危機に対して「焼け石に水」でほとんど実効性がないと冷めた目で見ているからだ。
 日本の事態も深刻だ。十日の東京市場は、ニューヨーク株価の大幅続落・円の急伸に加えて、大和生命保険の破綻により、七営業日の続落で日経平均は三0九一円下落、八二七六円台に突入した。東証では「0三年四月につけた七千六百台を割る可能性もある」との悲観的見方も広がっている。宜なるかな。
 わが麻生内閣はこの事態に対して全く無力である。九日のニューヨーク市場では、自動車最大手ゼネラル・モーターズ株が急落した。自動車産業に支えられるアメリカ経済の混乱で、輸出依存度が高いトヨタ等の業績の悪化は必至、また大和生命などの破綻と警戒感を強めた金融機関の貸し渋りにより、リストラの一層の拡大と長期的な消費低迷を引き起こす現実性もさらに強まった。
 麻生政権は、発足当初は早期解散で民主党の政権奪取を阻止するとの腹だったが、金融危機への対処が喫緊の課題と解散総選挙を先送りし始めている。
 今こそ、無為無策の麻生自公連立政権の延命を許さず、衆議院の解散総選挙に追い込もうではないか。 (直記彬)


――金融危機――金融危機から世界恐慌へ――潜行していた歪みの暴発――

 株の下落が止まらない。この一週間、株の下落が世界を周回している。そのたびごとに金融機関の破綻や大企業の経営悪化が表沙汰になっている。
 冷戦構造の終焉とともに市場原理万能の論理が大手を振って闊歩していたが、実際はといえば、90年以降、01年〜02年のITバブル崩壊など、周期的な危機に見舞われていたのが実態だ。
 今回の米国サブプライム危機を発端とした世界的な株の下落に象徴される金融危機は、各国の当局者も「戦後最大」とか「大恐慌以来」と言わざるを得ないほど深刻な様相を呈している。深まる金融危機は金融恐慌から世界的な恐慌に拡がらざるを得ない。
 いまグローバル化した資本主義世界は、未曾有の危機のおののいている。

■金融危機から世界不況へ

 発端はいうまでもなく米国のサブプライム危機の拡がりだった。07年7月にサブプライムローンの焦げ付きが表面化して以降、米国で住宅バブルが破綻、それが金融不安となって世界に拡がるとともに、住宅バブルの破綻は英国などにも波及し、いまでは世界的な金融危機となって一種のパニックになっている。
 この春以降の大きな出来事をざっと振り返る。
○08年3月、ベアー・スターンズ証券が実質破綻、JPモルガン・チェースが救済合併
○08年9月、ファニーメイ、フレディマック住宅公社、政府が公的資金注入で救済し、管理下に
○08年9月、リーマン・ブラザーズ証券、破綻
○08年9月、メリルリンチ、バンク・オブ・アメリカが救済合併
○08年9月、AIG保険を政府が公的資金注入で救済
○08年9月29日、ニューヨーク株式市場で777ドル安
○9月29日、金融安定化法案、米国下院で否決
○10月3日、米国で金融救済法可決
○10月8日、米欧6中央銀行、協調利下げ

 本稿を書いている11日の段階でみても、10月10日には米国のダウ工業株平均が一時8000ドルの大台を割り7882ドルまで値下がりした。日経平均も1000円以上も暴落して一時8200円台にまで売り込まれた。米国ではゼネラル・モーターズの経営危機が表面化し、日本でも大和生命保険が経営破綻した。いわば世界経済は総崩れの局面にある。
 この間、「リーマン・ショック」が起きた9月から一ヶ月あまりの間に、株の下落率は日本が36%、米国が25%、英国が23%、上海が16%に達したという。
 この下落によって世界の株の時価総額は、8月末の49兆ドルから9月の時点で28%減の35兆ドルに落ち込んでいる。実に世界で1400兆円もの巨額の株式資産が失われた計算になり、当然、10月11日の時点ではそれ以上に落ち込んでいることになる。
 巨額の金融資産が消滅したのは、個々の企業や投資家や家計にとっては大きな損失だ。が、その本質はといえば、実体経済、あるいは日々生み出される生産物に対してあまりに膨大になりすぎた貨幣表現が縮小して実体経済の水準に引き戻されただけともいえる。いいかえれば、元々無理な貨幣経済の膨張だったことが現実の生活に引き戻されたわけだ。それが不況、恐慌の経済的なメカニズムの背後にある本質でもある。
 とはいえ、サブプライム危機の発端となった米国の住宅価格の下落はまだ始まったばかりだ。
 米国の住宅価格は、今世紀に入って急激な値上がりが始まった。2000年の住宅価格指数を100とすると、それがピークに至った06年6月には226ポイントにまで上昇した。それが破綻が明らかになった2年後の08年7月には178ポイントとなって50ポイント近く下落した。しかしまだ90年代の80ポイント前後に比較して100ポイントも高いし、00年に比較しても80ポイント近くも高い水準にある。
 しかもその米国の新築・中古あわせた住宅在庫率は約10ヶ月で、住宅バブル前の平均4〜5ヶ月から見てもまだ倍以上の在庫率だという。そうであれば今後も米国の住宅価格は下落を続け、80ポイントぐらいは下げ続ける可能性が高い。
 このサブプライム危機でちょっと前には世界で100兆円ぐらいの不良債権が発生した、といわれていた。が、それが国際通貨基金の試算ではいまでは世界の金融機関が抱える損失額は140兆円にまでふくらんでいるという。いまではサブプライムとプライムの中間に位置する「オルトA」といわれるローンの不良債権化が始まっているとも言われる。米国サブプライム危機はまま終わりが見えない状況だ。
 日本の現局面はといえば、家計の金融資産は昨年6月末から今年9月末にかけて102兆7千億円の減少。さらに10月に入ってからの急激な株安でこの一週間で28兆8千億円の目減りだという。
 しかい、日本が直面しているのは、単なる金融資産の目減りにとどまらない。
 日本はこの間、輸出主導の成長モデルを追い求めてきたが、米国をはじめとする世界的な不況の拡がりの中で、あのトヨタでさえ米国での大幅な売り上げの落ち込みによってかつてない減収、減益になるという。加えて、資源・原料高などで縮小する国内需要を前にして大幅な縮小はさけられない状況だ。
 周知のように、平成不況以降の「構造改革」路線は、コストダウンによる輸出主導の経済成長モデルを追い求めてきた。その結果が外需依存でかろうじて成長を維持してきたわけだが、米国や西欧の危機の拡がりで、日本の成長エンジンが直撃されている、というのが現状である。
 現在の局面は、世界的な株の下落にともなう個々の金融機関や個別企業の破綻の段階にあるとみていい。今後は金融危機が実体経済の縮小に波及する段階、次の段階での全面的な縮小の段階へと続かざるを得ない。

■身勝手なカジノ資本主義

 それにしても金融機関に対する不良債権の買い取りを可能とする金融救済法案が、9月29日に米国の下院で否決されたことは痛快な出来事だった。そこにはカジノ資本主義とそこでのハゲタカ金融機関に対する米国庶民の当然すぎる批判が反映されていた。いわば、カジノ資本主義を推進してきたウォール街や政府に対する強烈なしっぺ返しだった。
 この米国庶民の反乱は、不良債権の政府による買い取りや、資本注入による金融機関の実質的な国有化こそ、利潤万能の市場原理主義がよってたつ寄生性という本性を余すことなく浮き彫りにした。それは都合のよい局面での市場万能主義、それが破綻したときの国家、国民への負担の転嫁という本性だ。
 これら二面性を不可分のものとして内包したものが市場原理であって、ふだん後者は表面化していないだけのことであることが、余すことなく暴露されたのである。
 こうした市場原理万能原理を背景として世界を闊歩する投機資金、あるいはそうしたマネーをひっさげて、世界を股にかけて膨張するヘッジファンドや投資銀行、さらには実体経済の100倍近くまでふくらんだ日々のマネー取引を表して、世界はこれをマネー資本主義、カジノ資本主義と揶揄してきた。煮え湯を飲まされてきた国や人は多い。そのマネーのプールともいえる世界の金融資産は、06年には実体経済(名目GDP)の3・5倍の167兆ドルに膨らんでいるという。こうした巨額の投機資金が虚実を問わずカモをねらって虎視眈々と蠢いているのがカジノ資本主義の真相だったわけだ。
 それをもたらしたのがドル基軸体制と米国の高金利を土台にした米国へと流れる世界の資金環流構造であり、またウォール街が発祥の地となった金融工学なるものをから生み出された先物取引やスワップ取引など各種の金融デリバディブ=金融派生商品の開発であり、それを利用してきたヘッジ・ファンドなど各種の投資会社であるわけだ。
 身近な実例を具体的な実例を一つだけあげる。
 米国初の金融工学の一つの成果だと言われたリート市場の破綻の兆しもその一例だ。
 10月に入ってリート業界大手の上場不動産投資信託「ニューシティ・レジデンス投資法人」が資金繰りがつかないまま民事再生を申請して破綻した。
 家賃収入などを根拠とした利率を設定して投資家から金を集め、マンションなどの不動産に投資して利益を配当してきたリート市場。そのリート市場での東証リート指数は10月10日には前日より100ポイント(12%)低い734ポイント、に落ち込んでこれまでで最安値を記録した。実に、昨年5月の2600を超えていた水準から見れば3分の一以下下落していることになる。
 このリート市場については、「土地活用で得られる利益を土台にしているからバブルではない」と言ってきた。が、それも破綻したいまでは、結局はリート商法も不動産バブルのお先棒を担いだバブル商法であることが暴露された。
 虚業は実体経済から出発し、そこから遊離する。しかし実体経済に根ざしているという本質は変わらない。ふくらみすぎた金融の収縮、すなわち大規模な倒産・整理は避けられない。
 このリート市場も同じだ。正当な取引も、一線を越えるとバブルとなる。その勢いが一線を絶えず越えようと作用するのがまた利潤至上主義の資本主義であることが暴露された一例でもある。

■ツケは庶民に

 いま進行中の世界的な金融危機と世界不況の拡がりがどこに行き着くのかはまだ見通せない。しかし、新しい均衡の成立までは、実体経済も収縮させざるを得ない。今後は個別企業の破綻や失業者の増加、さらなる信用の縮小など、負のスパイラルが続く。
 もともと資本主義的な信用メカニズムは、信用創造によって実体経済を活性化、拡大する作用が働く。が同時にそうした信用創造は、実体経済から自立しそこから限りなく遊離する特性がある。しかしそうした信用創造も実体経済から自由であるはずもない。伸びきったゴムがいつかパチンとはじけて元に戻るのににて、信用システムが急激に縮小する場面がやってくるのはさけられない。それがまさにいま進行している世界的な金融危機と世界不況の始まりという局面なのだ。
 不良債権買い取りも、資本注入も、それだけでは本格的な解決には結びつかない。両者とも、金融機関と資金流通を守ることができるだけだ。それも実体経済を超えてふくらんだ信用膨張の破綻で発生した損失を公的部門に付け替えることによってだ。いずれは金融・信用構造を本来のレベルに縮小するか、長い期間にわたって国民に負担を転嫁するか、のいずれかでしかないからだ。
 11日にはG7が開かれる。そこでは中川財務相が90年代の日本の危機克服の経験を講釈すると意気込んでいる。中川などは12・3兆円の公的資金の投入で金融危機を乗り切ったとしているが、実際はそんな話ではない。真相はといえば、資本注入で銀行を生き延びさせ、その後の超低金利政策で、長期にわたって家計から企業に100兆円以上の資金移転、収奪を行ったことで危機を乗り切ったのだ。しかも、そうした危機の克服過程は当然のごとく家計の購買力を縮小させた。加えて労働者世帯の購買力を押さえてきたことも併せて輸出依存の経済システムを作り上げ、日本経済の長期低迷と格差社会をもたらしただけだった。
 こうした経緯を見れば、最後には世界のどこでも労働者階級や庶民に犠牲が転嫁される。日本の場合は、主に労働者の雇用や賃金などの処遇悪化、それに低金利による家計から収奪などだ。それは世界のどこでも同じである。
 金融危機や不況の拡がりに一喜一憂することなく、予想される責任の負担の転嫁には断固として闘う決意を固め、繰り返される周期的クラッシュのないオルタナティブな社会づくりへの将来展望を獲得したい。(廣)


韓国紀行 −4−  慶州・ソウルを巡って感じたこと・考えたこと    北山 峻

(17)是非見たかったもの

 今回は残念ながら短期間であったので、是非見たいと思っていたが見られなかったものがたくさんありました。
 歴史的に言えば、九州王朝没落の戦いとなった白村江の古戦場や、秀吉の侵略のとき(文禄・慶長の役)これを打ち破った李舜臣の戦場跡や記念館、初代朝鮮総督として暴威を振るった伊藤博文を暗殺した安重根の記念館や、国立博物館やソウル大や韓国の早慶と言われる高麗大や延世大などなど。安重根の銅像はソウルの南山公園に在るということでしたが、残念ながら時間がなく行かれませんでした。
 それにしても、秀吉といい、伊藤博文といい、日本では異常に評価が高く持ち上げられているのは、逆に言って日本の朝鮮に対する潜在的な劣等感とそれを基礎にした悪しきナショナリズムであろうかと思ったりしておりました。
 また地域では、古代日本と密接な交流があり、現代では金大中の出身地で、光州蜂起が起こった百済には是非行ってみたいし、小説「火山島」の舞台であり、幾度も人民蜂起を繰り返してきた、韓国の沖縄と言われている済州島にも行ってみたいものです。
 何時の事になるかわかりませんが、札幌に行くのと時間も費用も変わりませんから、いつか行ってみたいと思います。
 更に言えば、それまでには、糖尿病も治して、その時には食事制限なしで思う存分韓定食をたべてみたいものです
 
(18)これからの韓国・日本・中国

 これから2〜30年の間に、アジア、とりわけ中国・韓国・日本を中心にした東アジアは、200年にわたる低迷から脱して、再びかつての繁栄を取り戻し、アメリカやヨーロッパをしのぐ、世界工業の中心地帯になることは確実でしょう。
 日本はいつまでもアメリカとの同盟にしがみついているわけには行かず、もうすでに日本の2・5倍を越える経済規模にまで成長した中国や韓国ばかりでなくアセアン10カ国やインドなどのアジアとの連携にその活路を開く以外に生き延びる道はなくなってきているといえるでしょう。そして、今後日中韓三国人民の交流と連帯は、独占資本家階級の支配と国家的統制を打破し、真に労働者や農民、都市勤労人民の幸福を拡大していく上で、ますます必須の課題となってくるでしょう。
 また、最近の日本でもそうですが、韓国でも、観光地ばかりでなくソウルなどの大都市のあちこちで、ハングルばかりでなく英語、中国度、日本語で説明が掲示してあって、この間、日・中・韓3国の人的交流が急速に拡大しつつあるということを痛感しました。
 今後10年、20年のうちにこの流れは更に拡大し、東アジア世界全体が事実上の統一市場となっていくであろうと私には思われます。
 今回の韓国旅行は、短期間であったとはいえ、韓国の歴史や民衆の熱気に触れて、彼らの生き生きとした生活を実感する上でずいぶん勉強になりました。
 韓国の民衆の熱気とたくましさは、この閉塞した日本の空気とは明らかに異なっておりました。
 韓国は中国や東南アジア、インド、西アジアなどと共に今後急速に台頭してくるでしょう。
 日本は、たとえそれがどれほどの額になろうとも、20世紀前半を通じて、アジア全体で2000万人に及ぶ死者を出した一連の侵略戦争によって韓国や中国やアジア諸国に対して与えた人的・物的損害に対して、心からの謝罪と補償をすべきでしょう。今も従軍慰安婦問題がアメリカ議会などでも取り上げられて問題になっていますが、そんなことさえも認めようとしない日本の、どこが美しい国なのでしょうか?
 北朝鮮による日本人拉致も、レーニン以来の、中世的一党独裁国家によるまったく許されざる蛮行であることは明らかですが、韓国の民衆にとっては、36年に及ぶ日本による植民地支配のほうが、人的にも物的にも比較を絶する蛮行であったことは言うまでもないことなのです。
 我々も、今は安部や石原などの極右の反動政権の跋扈を許している体たらくですが、必ずこれらの反動勢力に打ち勝って、本当にアジア民衆と心を分かち合える、「美しい協同社会・日本」を作り上げていかねばならないと思いました。
 21世紀に韓国民衆は、その荒々しいほどの熱気と共に悲惨な歴史を力強く乗り越えて、その方向に向けて勢いよく進んで行くに違いない、と私には思われました。
 それが今回の韓国旅行を通じての、感覚的で率直な結論です。(了) 2007年4月27日


コラムの窓 国債やドル垂れ流しの公的資金導入は万能薬なり得るか!?

 米国のサブプライムローン問題から始まった金融不安は世界中を駆け回り、大規模な世界恐慌発生の様相さえ見せている。
 株価は暴落し、ドル価格は下がり、世界中の銀行や生命保険会社・投資会社の破綻、資金繰りの悪化によって経営不安に陥る中小零細企業、消費の低迷で縮小生産や倒産に追い込まれる工場や企業が相次いで発生している。
現代資本主義は重化学工業とその土台を基礎にME革命・IT産業を発展させ、様々な産業を生み出し、未曾有の規模で大量で多様な生産物を生産してきた。この生産力の急速な発展は、生産や流通、金融等々の国際化を促進し、先進国ばかりでなく、アフリカやアジアなどをも引き入れた、世界的な経済結合を作り出している。
 急速に巨大な生産力を発展させ、生産の社会化を促進し、文化水準を著しく高めてきた現代資本主義は労働者・人民が真の社会主義を勝ち取るための物質的な条件を整えているという意味で、きわめて進歩的な意味を持っている。
しかし、今の資本主義はこの巨大な生産力をもてあまし、有効に活用することが出来ない。巨大な生産力と労働者大衆の制限された消費能力の矛盾、剰余価値の生産とその実現との矛盾等々、世界資本主義が一種の過剰生産強行の圧力にさらされ続けてきたことは周知のことである。ただ独占や国家相互による調整や膨大な国家財政の投入によって人為的に緩和されてきたに過ぎない。
 現代市場では、商品の取引を圧倒的な規模で凌駕する「金融的な取引」の拡大、巨大銀行、投資会社、証券会社等に操られヘッジホンドの暗躍、会社の乗っ取り、株式・国債等の擬制資本(架空資本)から原料、食料取引に至るまでの投機が拡大する、経済の「バブル化」「カジノ化」「マフィア化」等々行われてきた。生産的な部面に資本を投下しても、これまで通りの剰余価値(利潤)を手に入れることが出来ないために、すでに生産された剰余価値を「ゼロ・サムゲーム」で奪い合う投機・金融的な術策にますますのめり込まざるを得なくなり、それを加速してきたのは先進国による国債の大量発行であり、アメリカ政府による金との兌換性を欠いたドルの大量垂れ流しである。このカジノ経済は、一時的にはバブルのような繁栄をもたらすとともに、その次の瞬間には、世界的な金融不安や景気の落ち込みを発生させ、労働者人民には生活・労働条件の悪化をもたらしているのだ。
 今始まりつつある「カジノ経済」の崩壊と世界恐慌に対して、先進主要国は「公的資金による金融機関への資本注入」で乗り切ろうとしている。再三繰り返される国債やドルの垂れ流しでこの危機を乗り越えようとする現代資本主義には「万策」つきて、最早より一層の社会発展は望めない。
 今や、巨大な生産力は、それにふさわしい新しい生産関係を要求しているのだ。(光)


ノーベル賞受賞と頭脳流出

 今日本中はノーベル賞の受賞で興奮のるつぼである。
 ノーベル物理学賞が3人、さらにノーベル化学賞で1人、4人も受賞者が出たと。
 連日テレビでは栄誉をたたえる番組が続く。「理論物理学は日本のお家芸だ。子どもたちにとっても励みになる」「これが日本の力だ。非常にうれしい」との声が続き、研究者の夫を支えた妻たちも内助の功よろしく番組に登場する。
 麻生首相も「こんなに明るいニュースは久しぶりです。新聞各紙が1面トップで伝えています。国民みんなが喜んでいます」と上機嫌だ。
 勿論、受賞した研究者の皆さんはそれぞれの分野で努力され、功績を残した立派な方だと思う。ただ、私がこの受賞騒ぎで少し違和感を持ったのは、受賞者の中心人物は米国大学在籍の研究者だということてせある。
 ノーベル物理学賞に決まった南部陽一郎さん(87歳)は、シカゴ大名誉教授であり米国への頭脳流出組。1950年代に米国の研究所に留学し、その後も米国に留まり、70年に米国籍を取得した。
 その理由は研究環境を優先させた結果の選択だったという。
 「シカゴ大ではフェルミなど世界的な学者と家族的な雰囲気で親交を結び、刺激を受けた。自由で、雰囲気が非常によかった。世界中の論文が毎日、新聞のように手に入る」と、述べている。現在の日本と比べて考えてみても、とてもわかりやすい理由である。
 南部さんの言葉を借りて日本の現状を想像すれば「日本の職場では世界的なレベルの人々との親交がなく、刺激がない。自由がなく、雰囲気が悪い。世界中の論文などとても読めるものではない」となる。
 この物理学賞発表について海外メディアは、「受賞者は2人の日本人と1人の米国人」と報じている。生まれ育ちは日本だが、米国生活が長く、なおかつ米国籍を取得しているだから米国人扱いである。
 文部科学省は今度の南部さんの受賞については、日本人とカウントしたいが?と歯切れが悪い。なぜなら、文部科学省は内部資料としてノーベル賞の受賞者数を国別に毎年集計し、これまでは受賞者の国籍で数えてきた。ここでも、日本官僚の得意な「ダブルスタンダード」でお茶をにごす。
 ノーベル化学賞に輝いた下村脩さん(80歳)は米国籍は取得してないが、マサチューセッツ州在住のボストン大名誉教授であり、退職後も自宅で研究を続けている研究者である。1960年に米国大に留学、63年に名古屋大助教授になるが、その後米国に戻ったこれまた頭脳流出組と言える。
 日本から優秀な研究者がどんどん海外に頭脳流出してしまう事が取り上げられ、かなり問題となってきた。文部科学省も「世界トップレベル研究拠点」を全国で5ヶ所設置するなどの取組みを行っているが、どうなることやら。
この点について、米国に研究拠点を移して73年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さんは次のように述べている。
 「今の日本は、当時の米国と同じくらい研究基盤が発達している割に、外国人研究者が根付いていない。二重国籍を許すなど差別のない住みやすい日本を作る必要がある」と。
 江崎さんは外国人研究者が日本に根付かないのは、単に研究所の環境だけの問題ではなく、外国人にとって日本は住みやすいのか、日本の生活に魅力があるのか、それが最大の問題だと指摘していると思われる。
 最近では、日本の有望な野球選手が米国大リーグにどんどん流出してしまうことも問題になっている。やはり彼らも、「封建的な閉鎖社会」(日本の野球環境や人間関係)に嫌気がさし、差別のない自由な場所での野球を求めているのではないか?
 特に若い世代の日本人、また日本に来る外国人にとっても、残念ながらこの日本は息苦しい「閉鎖社会」で魅力がない。江崎さんが指摘するように、日本社会に存在するさまざまな差別をなくしていくこと。日本人にとっても外国人にとっても自由で住みやすい社会を作っていくこと。これが今、私たちに突きつけられている課題ではないのか。(富田 英司)


損して得とれ

 これは大阪商人の経済学である。10月7日、大阪経大での講義の中で、ヨーロッパが環境問題、地球温暖化防止、特に電力(二酸化炭素を排出しない)を自然エネルギーから得る設備投資にいま積極的なのは、いま損をしたような気がしても将来は得することになるというソロバンからだそうだ。まさに大阪商人の商法ではなかろうか。アメリカは逆を行く。
 かつて私は二酸化炭素を出さない電力を日常生活で使うのに、原発に頼らないのがいいに決まっているけど、私が出来ることは節電しかないと思い(太陽光発電のための設備投資はとてもムリだから)エアコンを使わないことにした。冬はネコを抱いて暖をとり、問題の暑い夏の夜は窓を開けっぱなし、せいぜい扇風機を使い、昼は冷房せざるを得ない場所、喫茶店に本を持ち込み涼をとることにした。
 しかし、今日の講義は、節電もさることながら、電力を作り出し使うということは、これまでのわたしの発想を180度転換させるものであった。太陽熱で電力を作ること(小規模で個人的であっても)になにか光を見出したように思えたものだ。この点について諸外国の経験や現状を紹介してくれるという。いま視界が開けた思いでいる。 08・10・7よる 宮森常子


 色鉛筆   フレーフレー!こどもたち!

 秋晴れの日、パート勤め先の保育園の運動会が行なわれた。
 日頃の私は、午睡からおやつまでの午後勤務だが、この日は運動会にあわせて午前中の勤務になった。上司からそう聞かされたのがたった2日前のこと。従って、運動会を見るのは初めて。当日みえた、父母や家族と同じ状態で、ハラハラドキドキものだ。
 どこの保育現場も同じで、全職員が同じ服装をしているが、非正規雇用の保育士が6割を越す。早番遅番のパートも含めれば、その比率はもっと高くなる。その非正規雇用も、フルタイム(給与は正規の3割ほど)、7時間あるいは3時間のパート、たった2〜4週間で移動の人もいる。時間帯や日、週によって担当が変わるこどもたちには、おおきなしわよせがくる。(もっとも様々な保育士と出会えるという利点も無くはないのだが・・)
 運動会が嬉しくて、はち切れそうな笑顔のこどもたちと一緒に居られる幸せは、こどもをめぐる痛ましい事件が続いているから、よけいに強く感じられる。日頃の泣き虫さんや恥ずかしがり屋さん、超一流のいたずら坊主もはりきって競技に参加し、やり終えた後の笑顔が輝いている。おもわず「親ばか」ならぬ「ばばばか」状態で、思いっきり拍手や声援を送ってしまう。でも、幸せ気分にばかりひたっているわけにはいかない。ポケットのプログラム(昨夕受け取ったばかりの)に目をやりながら、こどもたちの衣装を整え召集を掛け、あいまに「おしっこ」だの「水」だの「観客席のママの所へ行きたい」だのという声にめまぐるしく対応する。ああ忙しい。
 正午近く、保育士手製のメダルを首に掛けたこどもたちは晴れやかな笑顔で帰っていった。その後、片ずけをして帰宅した私がぐったりくたびれてしまったことはいうまでもない。
 ちょっぴり切ない出来事がひとつあった。
 最近は、フィリピンやブラジルなど外国のこどもたちも入園してきている。いまも各クラスに数人いるので、園からのお知らせ、お便りなどあわただしい保育時間中に担任がローマ字やひらがなを書き加えたり、お迎えの父母とカタコトの日本語や英語で会話をしている。こどもの方がずっと早く日本語を覚えるので「通訳」してくれることも珍しくない。 運動会の後、外国から来ているお母さんの一人から「ミスティクね。(私の)こどもたちの国の旗が無い。それミスティク。」と指摘されたと、担任が肩を落としていた。園庭にはたくさんの万国旗がはためいていた。その下をそのお母さんはご自分の国の旗を捜し、そして失望したのだ。確かにそれは「ミスティク」だ。園児みんなの国旗はあるだろうか、そういうことに思いが至らない程、余裕の無い職場なのだ。楽しい運動会の思い出は、ほろ苦い思い出も一緒になった。(澄)


編集あれこれ

 前号の発行から数日して、「ワーカーズ・ネット」の定期総会が開催されました。その会議の中で、来るべき総選挙では、私たちは、「自公」と「民主」の政治的な中身は同じだと規定して、中身が違うものを選択すべきだとする共産党の立場ではなく、「政権交代を政治変革の第一歩」とする大局的な立場に立つ事が確認されました。しかし同時に私たちは労働者民衆に直接に民主党支持を呼びかけるのではなく、自公を落とそうと呼びかけるものです。前号の第一面はその立場で書かれています。
 「蔓延する世襲議員」はタイミングがよい論文でした。ここで対案として示めされた「派遣制」の議員については、私たちの研究テーマでしたが、麻生政権の下での「世襲議員」の蔓延状況を踏まえた展開であったので、読者には啓発的な内容であったと評価しています。
「伊藤和也氏」について、ささやかですが追悼記事を掲載いたしました。こういう人がテロに遭うとは。大変残念な結果とはなりました。
「韓国紀行」は大変評判が良いものです。次回を持って終了する予定ですが、こうした企画は継続させていきたいと考えています。
 「オンブズ」の千葉大会の報告は、今オンブズが何をしているかが分かる好記事です。千葉訪問記等も興味深いものでした。
 「ワーカーズ」の「コラムの窓」と「色鉛筆」は、左翼の「堅い」イメージの裃を脱いだ秀逸な記事で人気が高いものです。この記事は輪番による執筆体制で続いています。今後もご期待ください。
 最後に反省として、ここ数号、金融危機と原油高についての評論記事が掲載されていない事です。この点反省しております。 (直記)