ワーカーズ388号 08/3/1
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百年に一度の災厄の再現か、百年に一度のチャンスへの転化か
労働者の闘いの根本からの再建をめざそう!
麻生政権への支持率が低下の一途を辿り、今にも10%を割りそうな有様だ。にもかかわらず麻生は首相の座を投げ出すでもなく、衆院解散を行うでもなく、政権にしがみついている。
自民党の大方がすでに「麻生では選挙は戦えない」となっているにも関わらず、本気で麻生を引きずり降ろす動きも生じない。自民党の各グループはよりダメージの少ない負け方に思いを巡らし、個々の議員は自分がどう生き残るかに全関心を集中している。
自民党がこのような立ち腐れ状態に陥っているのは、麻生や中川の愚かさのためだけではない。自民党の政治を支える大企業・財界の勢力自身が、方向を見失い、動揺しているのだ。
日本の財界・大企業は、海外市場での競争力強化を最重視し、多国籍企業へのテコ入れを要求してきた。規制緩和、労働力流動化、小さな政府を叫び、税や社会保険料負担の軽減、労働分配率の引き下げを追求してきた。しかしこの新自由主義政治は、そのご本家の米国におけるリーマンショックを契機とした世界大不況への突入によって破産を突きつけられた。
ところがそれに替わる新たな路線として、新自由主義以前のバラマキ政治、生活保守政治への回帰しか思いつかない。しかもこの回帰路線の方向での財界主流の意思統一も出来ず、路線的股割き状態、混乱・混迷に陥ってしまっている。
現在の日本の政治の不幸は、それにとどまらない。というのは、自民党に替わって政権を取ると高言する野党第一党の民主党が、一体何をやろうとしているのか、日本をどの方向に導きたいのか、明瞭でないのだ。実を言うと、この党も自民党と内容や方向がうり二つの股割き状態にあるのだが、目の前に政権がぶら下がっているために内部混乱が隠蔽されているだけだ。有権者はそのことを薄々感じており、民主党人気が今ひとつ盛り上がらない要因にもなっている。
もし民主党に自民党亜流ではない他の何かがあるのだとすれば、それは社民党や共産党のプレッシャーからもたらされた社会民主主義的政策の要素だ。しかしそれは、民主党にとってはいつでも着脱可能の政策要素であり、総選挙の後も保持される保障はどこにもない。
総選挙の後は、自民と民主を軸としつつ、公明や社民や共産が入り乱れての、政界再編劇が起こる可能性が大だ。現在の野党勢力が閣内外で連合して「より増し政権」となるか、民主と自民の大連立が画策されるか、現状では予測はしがたい。
重要なことは、百年に一度と形容される経済的・社会的な大変動期にあって、労働者の政治的意思をどう形成していくかだ。百年に一度のチャンスへと転化するか、百年に一度の大災厄の再現となるかは、ひとえにこの点にかかっている。労働者の闘いの、根本からの再構築をめざそう!。 (阿部 治正)
「笑っちゃうくらい、呆れかえっている」――小泉発言の勘違い――
麻生政権はよれよれになって断末魔の様相だ。あれだけぶれまくっては当然だろう。いまでは内閣支持率はどの調査でも10%台を低迷している。
追い打ちをかけるように、G7での中川財務相の酩酊会見やらローマでの不作法な振る舞いでのドタバタ辞任劇だ。麻生政権としては“泣きっ面に蜂”とはこういうことを言うのだろう。
何とかして支持率を上向かせたい首相は、なりふり構わず米国のオバマ大統領との会見をセットしてもらったが、もはや内外の多方面から足下を見透かされてしまっている。もはや支持率向上など望むべくもない。
麻生内閣が迷走を繰り広げる中、あの小泉元首相までも内閣の足を引っ張るかのような発言で物議を醸したのは、ついこの間だった。麻生政権の生みの親ともいえる小泉元首相発言で、自民党はさらなる視界不良の漂流を続けることになった。
■何をいまさら
その小泉発言とは、いまでは知らない人はいないぐらいマスコミで繰り返して取り上げられた。例の「怒るというより笑っちゃうくらい、ただただあきれている」という発言だ。小泉元首相自身が呼びかけ人になっている「郵政民営化を堅持し推進する集い」での、麻生首相による「本当は郵政民営化に賛成ではなかった」という“迷言”に反応したものだった。
麻生首相に“あきれかえっている”のは私たちのほうだ。それを小泉政権で重用して麻生首相への道を敷いてきた小泉元首相から聞かされては、何をいまさら、という以外にない。
この発言は直ちにマスコミ報道されただけでなく、自民党内外から多くの反発や“解説”という反応をもたらした。川村官房長官は「矛先が違っている」かと言えば、民主党の菅直人代表代行は、「眼力のなさを恥じるべきだ」等々。
息子の議員の地位を世襲させて引退を表明している小泉元首相。おとなしく政界から去ればいいものを。
■小泉発言の勘違い
小泉元首相は「怒るというより笑っちゃうくらい、ただただあきれている」などと、麻生首相を批判できる身分ではない。いま進行中の未曾有の世界不況のそもそもの原因の一端をつくったのは、新自由主義的な政策のオンパレードで多国籍企業などによる輸出依存のいびつな経済を作ってきた、当の小泉元首相自身だからだ。
それにとどまらない。その世界不況で真っ先に首を切られた派遣労働者。雇用の規制緩和でかつてない雇用破壊をもたらしたのも、小泉元首相自身だった。あの郵政解散による総選挙の時点では、郵政利権に象徴されるような既成勢力による利益誘導政治をただしてくれるのではないか、という期待感も、いわゆる“負け組”や若者の一部にたしかにあった。小泉元首相による“刺客選挙”などという、いわゆる“小泉劇場”などというトリックに多くのマスコミをはじめとして引っかかった人も少なくなかった。
しかしその劇場はぐるっと一回りし、いまでは現在の不況やますます深まる格差社会をもたらしたの張本人として小泉元首相への批判のまなざしは拡がっている。そうではなくとも、現在の自民党の中には、刺客選挙で自民党を負われた人や自民党の中枢から追われた連中の復権が進んでいる。もはや小泉元首相を支持する議員は自民党のなかでさえそれほどいない。それ以上に小泉チルドレンなど小泉元首相の力を当てにしている人でも、それは自らの保身のためであって、小泉政治を踏襲していくというものではない。いまでは自民党の圧倒的多数派が、新自由主義からケインズ主義にぶれてしまったからだ。
もはや小泉元首相が何をいっても、自民党内ですら多数の声を呼び込むことは不可能だろう。現に、第2次補正予算の衆院採決に棄権する、と造反表明しても、誰もついてはこない。あまつさえ、党内の管義偉選対副委員長などから“世襲議員の禁止”などという牽制球を投げられる有様だ。自分の息子に議員という“公職”を世襲させておきながら、正論らしき言辞をはいても説得力は持たない。
■自民党最後のあがき
何をいまさらの小泉発言も、単なる自己正当化であればまだ許せるかもしれない。が、それが麻生降ろし、あるいは政界再編をにらんだ第三極づくりのアドバルーンだとすれば、それはうまくいかないだろう。仮にそう進むとすれば、それは自民党は下野に追い込まれるだけではなく、自民党の分裂や空中分解に直結する。コップの中の争いは大いにやったらいい。
それとも再びあの“小泉劇場”の再演を意図しているのか。しかし、もはやそれもあり得ない。昨年の自民党総裁選でもそうだった。中川秀直元幹事長などが町村派や党内の内部抗争をぬって小池百合子を担いで闘った主導権争いだった。そのとき、小泉元首相は当初は旗幟を明らかにしなかった。終盤で小池百合子支持を表明したが、すでに派閥連合の麻生候補をひっくり返すことはできなかった。というよりも、自民党内部で有力な一極を形成することもできなかった。もはやあの郵政選挙の神通力は失われていたわけだ。
いま日本は、というよりは、世界は利潤万能の市場原理から政府による有効需要づくりのケインズ主義に大きくぶれている。つい数年前まで国家は無用とばかり市場原理を持ち上げてきたにもかかわらずだ。
一時もてはやされた“周回遅れのサッチャー主義”は、いまではお蔵入りになっている。“小泉改革”はいまでは“場ちがい”になっており、その再演はあり得ない。“小泉劇場”の再演や小泉待望論はやがて勘違いを気づかされるだろう。
私たちは麻生政権限りで自民党政権を終わりにしなければならない。あわせて、新自由主義とかケインズ主義とかその都度の方便を冷静に見極め、それらの土台になっている利潤万能の資本制社会をも終わりにすべきだろう。(廣)
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コラムの窓・新聞を読む
(一) 2月20日の「神戸新聞」は朝刊も夕刊も、宝塚市長阪上善秀が収賄容疑で逮捕された霊園工事参入贈収賄事件報道が1面トップを飾っています。宝塚市では3年前、前市長渡部完が収賄容疑で逮捕され辞職し、その出直し選挙で市長となった元衆議院議員阪上の逮捕に宝塚市民は怒り、そして市民として恥ずかしいという声まで上がっているようです。
しかしこの人物、市長就任直後に市・県民税や保険料、公共料金の滞納などが明らかになり、そのデタラメな金銭感覚が表面化していました。そうした点から見ると、こんな人物を出直し市長選挙で首長に選んでしまう有権者・市民にも問題があると思ってしまうのです。
いずれにしろ、阪上の政治生命はこれで終わりですが、宝塚市民がもっとまっとうな市長候補に恵まれるかどうか、それは霧のなかです。最もその前に、市議会が市長に不信任決議を突きつけるとか、本人が辞職するとかの動きがないと、先には進みません。
(二) 次は20日の朝刊に掲載された神戸市の2009年度予算に関連する報道ですが、これまで黒字を維持しいた神戸空港の管理収支がゼロとなるということです。これは収入減となるなかで、借金の市債償還が増えるためで、神戸空港と関空を結ぶ高速船「ベイ・シャトル」にも公的支援、泥沼的市税の投入が続いています。
2月16日の開港から3年を迎えた神戸空港、新聞の見出しに大きく〝低空飛行〟と書かれてしまう、減便と搭乗者減に見舞われています。その3年目の搭乗者数は約268万人で、319万人という需要予測には大きく及びません。これに加えて、2010年の需要予測を403万人としているのですから、驚くほかありません。
さらに困ったことには、神戸空港島の土地が売れないのです。空港島を造成するために発行した市債が1982億円、その償還が2009年度から始まるのに、民間企業に売れたのは45億円分に過ぎず、空港施設の用地の土地代金を含めても約545億円の収入しかありません。神戸市の現在の市長は矢田立朗ですが、この始末をどうつけるつもりなのだろうか。
1ヶ月前の1月20日、大阪高裁で約2億5000万円を矢田市長と3外郭団体に返還させる判決がありました。これは神戸市が職員を派遣している外郭団体に人件費を補助金として支出していたのが違法だとされたものです。このようにあちらからもこちらからも火の手が上がっているのですが、矢田はとんでもない逃げ道をつくろうとしています。
それは高裁判決をなかったものにする〝禁じ手〟で、市議会に「債権放棄」の承認を求めるというものです。要するに、神戸市が返還請求をしないことを決め、市議会の同意を得ることによって、住民訴訟での敗訴をひっくり返すのです。これは矢田が矢田の返済義務を免除するという、実に破廉恥な行為です。阪上も矢田も、恥じない首長というほかありません。
(三) 20日の夕刊には、セブン‐イレブンが行っている加盟店の値引き制限が独占禁止法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会が調査はじめているということが報道されています。定価販売の押し付け、消費期限切れが近いおにぎりや弁当の「値引き販売」を禁じるもので、みすみす売れずに〝廃棄〟となることを強要するものです。
そのくせ、廃棄分も含めその費用は加盟店の負担となるので、加盟店にとっては踏んだり蹴ったりです。このセブン‐イレブンのあくどい加盟店からの収奪については、「週刊金曜日」がその実態を暴き、「セブン‐イレブンの正体」という本を刊行しています。「年間2兆4000億円を売り上げる世界最大のコンビニチェーン・セブン‐イレブン。果たしてその高収益の『裏側』は? 消費者が知らない、出版業界最大のタブー企業の闇を暴く」といった具合です。興味があるようでしたら、この本を手にとって見てください。
新聞は毎日、多くの〝事件〟を報じていますが、それが表面的な事実の羅列に終わることなく、どこまでその本質に迫ることが出来るのか、今はあまり期待できなくなってきています。真実・本質を見極めるためには、すべからく新聞は片目をつぶって読むことが肝要です。 (晴)
〈寄稿〉世界大恐慌と歴史の転換点 4 北山 峻
(7)オバマはアメリカを変えられるか
このようなアメリカの恐慌状態の突入の中で、アメリカのマスコミを挙げての1年以上にわたる騒々しい選挙活動の末にこの秋行われたアメリカの大統領選で、アフリカ出身の父を持ち、ハワイで生まれインドネシアで少年期を過ごし、ハーバード大学の在学中には労働者街でのボランティアや校内の雑誌の編集長として活躍した特異な経歴を持つ民主党の黒人候補のオバマが、戦闘飛行機の操縦士でベトナム侵略戦争に参加し、撃墜されて、数年間もベトナムの捕虜となった経験を持つ「ベトナム戦争の英雄」マケインを大差で破って当選しました。
アメリカのCNNの調査によれば、オバマに対するアメリカ国民の支持率は現在82%もあって、かつてのクリントンなどの歴代大統領の就任前の支持率が軒並み60%台であったことに比べても突出して高いこと、国民のオバマに対する期待はきわめて高いと報道されていますが(12月26日付けの朝日新聞)、しかし果たしてこのオバマは、今回のアメリカを大恐慌以来の窮地から救い出し、見事復活させることができるでしょうか?しかし、アメリカ国民にとってはまったく「残念」なことですが、このようなことはまったく無理だと私は思います。
なぜならば、戦後60年にわたって、一貫して基軸通貨の発行権を独占して甘い汁を吸い続け(いずれにしろ1ドルほどの費用で印刷した紙切れが世界中で100ドルで通用するのです)、また産軍複合体国家として一国で世界の軍事力の40%以上を保持して絶え間なく戦争を続けてきたアメリカ帝国主義の体質を改革することなど、アメリカの腐敗した金融資本や巨大独占資本家階級のソフト路線を代表する政治的代理人であるオバマは、最初からしようとも思わないからです。
国際的には、選挙中に繰り返し述べていたようにオバマは、ブッシュが記者会見の席上で記者に靴を投げつけられたように、民衆から完全に孤立してまったく勝利の当てのないイラクから早期に撤退することを公約しています。だがその一方でオバマは、EUや日本も取り込めるアフガニスタンへの侵略に全力を投入し、インド、イラン、ロシア、中国の真ん中に位置する地政学上の要点であるアフガニスタンとパキスタンなんとしても支配し、ここにアメリカの軍事的橋頭堡を建設することが最重要であると繰り返し述べています。そうすることによってオバマは、今後アメリカの覇権を最終的に覆すであろう、中・ロを中心にインドやイランをもオブザーバーとして取り込んでいる「上海機構(SCO)」をけん制し、一日でも長く延命していくためにも、地政学的にはこれらの諸国の中心部であるアフガニスタンをアメリカの軍事基地にすることがどうしても必要なのです。
国内政策では、オバマは、恐慌によって崩壊したアメリカ経済の再建とならぶ最重点課題として、貧困層の救済と科学技術の振興を掲げ、国内の暴動状態の予防と国際的な工業競争力の復活を唱えています。
そして、国家経済会議(NEC)委員長に指名したサマーズ元財務長官に約9千億ドル(45兆円)の景気対策を指示して、就任直後から「橋や道路の建設・改修など従来型の財政刺激策」に加え特に「地球温暖化防止の国際的な運動に積極的に取り組み」「環境・エネルギー分野への重点的投資」によって、「高速道路網を整備した1950年代以降最大の公共投資」を行うことを中心に今後2年間で250万人の雇用を生み出すとしています。
しかし、先にも述べたように、アメリカではこの1年間にすでに雇用者数が200万人も減少し、11月だけでも53万人も失業者が増大し、失業者数が1650万人を超えたばかりか、更に経済開発強力機構(OECD)が11月末に発表した経済予測によれば、来年は日米欧すべてがマイナス成長に陥り、日米欧だけで今後2年間に失業者が800万人増加する=アメリカだけでも失業者が少なくとも400万人も増加すると思われますから、この程度の雇用対策では正に「焼け石に水」でしょう。
今後2年間に、長年にわたって麻薬を打ち続けた重症の麻薬患者のような巨大な産軍複合国家となった軍事力優先の経済構造を改造し、アメリカの経済を民生事業中心の健康な産業構造に変革していくことをオバマは決してできないだけでなく、今後恐慌の拡大の中で更に急速に増加していく失業者の増大と人民生活の貧困化にさえオバマは極めて不十分にしか対応できないでしょう。だからオバマは、就任直後から、ドル紙幣をさらに大増刷して、倒産の危機に直面している銀行や保険会社・自動車会社・航空会社などの大企業の救済に大量に投入しながら、その数十分の一のはした金を、宣伝だけは大々的に行いながら「貧民の救済」に振り向けるでしょう。
そして、今後オバマが、その政策を実行していけばいくほど、つまり、アフガンでの戦争を拡大し、破産に瀕した大企業の救済のために湯水のように国民の税金を投入すればすれほど、民衆の中に形成されたオバマに対する幻想は急速に消失し、下層民衆の一段と激しい闘争がアメリカ社会を覆うことでしょう。そしてその時になってはじめて、「オバマも所詮アメリカ独占資本の手代に過ぎなかった」ということが、さらにアメリカの民衆を覚醒させ、大衆的な実力闘争以外に頼れるものはないということがアメリカ人民の中で一段と鮮明になっていくでしょう。そしてその先に、1774年のイギリスからの独立革命に続く、黒人やヒスパニックなどの少数民族と白人の下層労働者を中心とした第2のアメリカ革命が展望されていくでしょう。この恐慌を通じてそのような動きが70年ぶりに姿を現してくるであろうと私は思うのです。
また、破産に瀕しているアメリカの多くの大企業にとっても、政府による大量の税金の投入によって一時的に破産は凌げても、今後大規模なスクラップ&ビルドを実行し、生産構造を一新して新興諸国にも通用する安価で良質な商品の生産体制を確立していくには、気の遠くなるような行程を経なければならないでしょう。だから彼らは危機が深ければ深いほど、最も手っ取り早いカンフル注射として、産業全体の軍事産業化を推し進め、間断のない戦争政策を政府に要求するのです。
これは欧州や日本企業にとっても同じことですが、この世界恐慌の中で現在ある巨大企業の多くが
① 軍需産業化にその活路を見出そうとするでしょうし、
② 国に支援を要請して私企業に国民の税金の投入をさせようとするでしょうし、
③ 更に国内市場などの自己の勢力圏を関税障壁などによって囲い込み、経済のブロック化をしようとするでしょう。
しかしもうすでに事実上の経済ブロックを形成し今さらに南米諸国との協力関係を強めている欧州のEU27カ国や、北米(アメリカ・カナダ・メキシコ)の自由貿易協定(NAFTA)に対して、アジアにおいては日中韓3国+アセアンの東アジア経済共同体の形成は遅れていますが、インドや極東ロシアやイランを含めてこの地域に姿を現している巨大経済圏が今後どのような協力関係を打ち立てるかが、恐慌後の世界を決定することとなるでしょう。
またこの中でもう一つ注目すべき動きは、この百年来「アメリカの裏庭」とまでいわれて常にアメリカの独占的な経済圏としてアメリカに支配され続けてきた南アメリカにおいて、キューバ、ベネズエラ、エクアドルの反米政治同盟であるボリバル代替機構を中心に結束を固め、これが南米の大国ブラジルのルラ政権と連携を強めて独自の経済連合を形成し、今ではアメリカからの分離・独立の動きが押しとどめることのできない奔流となっていることです。
この12月16日から2日間にわたってブラジル北東部の保養地コスタ・ド・サウイペで、ブラジル、メキシコ、キューバ、ベネズエラなどの中南米とカリブ海の33カ国の首脳会議が「アメリカ抜きで!」開催され、地域統合や経済発展をテーマに意見を交換したようです。ブラジルのルラ大統領は、「単なる観客ではなく舞台の主役になろう」と呼びかけたと報道されています。(17日;日経)
いずれにせよ、この恐慌によって、今まで繁栄を謳歌していた先進国の巨大企業の相当数が消失し、それに代わって中国やインド・ブラジル・イランをはじめとした新興諸国(もちろん、これらの諸国の中でも激しい淘汰が繰り広げられるのですが)の、今までは名も聞いたこともなかったような企業が急速に世界市場で台頭してくることでしょう。
いつの時代にあっても、資本主義の世界においては、恐慌こそ最大のスクラップ&ビルドの劇場であり、文字通り「劇的な変化」が演じられるグローバルな大舞台なのでしょう。
21日付の日経には、フランス大統領のサルコジが、ブラジルを訪問し、ブラジルの国連安全保障常任理事国入りに改めて支持を表明しながら、原子力潜水艦建造の技術供与や軍用ヘリコプター売却など総額30億ドル(2700億円)の契約をすると報じていますが、これに見られるように、今後日米欧はこぞって新興国市場への参入で激しい競争に突入していくことでしょう。
アメリカのオバマを待ち受けている最大の困難は、国際的には世界中で、今まで散々悪事を働いて来たアメリカに対する民衆の中に蓄積されたアメリカに対するぬぐいがたい不信と憎悪であり、国内的には途方もない格差社会の中で貧困にあえぐ数千万人の下層民衆の社会に対する怒りでしょう。
そして、この恐慌を通じて、アメリカを本当に変えることができるのはオバマなどではなくアメリカの民衆自身なのだということがますますはっきりするにちがいないと私は思うのです。
(8)金融サミット=歴史の転換点
今から33年前の1975年11月、当時のフランス大統領ジスカールデルタンの提案で米・英・仏・独・日・伊の6カ国首脳がフランスのランブイエ宮殿に集まり最初のサミットが始められました。
これは1971年8月の、通貨危機に陥ったアメリカによるドルと金の交換停止(ドル・ショック)と、1973年1月の国際通貨危機再燃、スミソニアン体制の崩壊、さらに、同年10月の第4次中東戦争の勃発に際して石油輸出国機構(OPEC)が発動したアメリカへの石油輸出の禁止に端を発したオイル・ショックによって引き起こされた世界経済の大混乱に対し、先進資本主義国の首脳が共同で対策を立てることを目指したもので、これは同時に戦後一貫して世界最大の帝国主義国として、単独で世界政策を決定してきたアメリカ帝国主義の力がはっきりと衰退し始め、フランスなど他の帝国主義諸国の意見も聞かねばならなくなったことを示すものでした。
それから33年、この間には湾岸戦争の「勝利」やソ連邦の崩壊によって、一時的にアメリカの力が強化されたかに見えた事はありましたが、しかし相対的にはアメリカの力はその後も一貫して衰退し続け、ついに今回の大崩落に至ったのです。
この間当初の6カ国に76年からカナダ、77年からEC(現在のEU)委員長、94年からロシアが加わり、さらに03年のフランスで開催されたエビアン・サミットから「発展途上国」の首脳を招請して毎年開催されて来たサミットでしたが、この夏日本の洞爺湖で行われた無意味なサミットの後で、9月に勃発した世界恐慌の中、「もはや先進国だけで世界経済の問題を解決できない」(ブラジルのルラ大統領)として、11月14、15日に急遽ワシントンで20カ国・地域(G20)による緊急首脳会議(金融サミット)が開催されたのでした。
30年前には、G6の経済力は世界経済の7割に達していましたが、今では新興諸国の急速な発展によって日米欧の力の相対的衰えは明らかで、世界の経済成長への先進国の寄与は、全体の三分の一まで落ちているのです。(日経新聞;12月17日付)
このグローバル経済の現実を踏まえて、金融サミットでは新興国が完全にその主導権を握り、「G20参加国を除いてどんな政治的、経済的決定を下しても何も意味がない」(ルラ大統領)とか、「G8体制では、時代の要請を満たすには充分ではない」(インドのシン首相)、「国際金融システムの改革はG20で議論すべきだ」(ロシアのメドベージェフ大統領)などの発言が次々と飛び出したばかりか中国は、サミット直前に総額4兆元(約53兆円)の内需喚起策を発表し、需要が落ち込む日米欧に変わって世界を恐慌から救う「救世主」を演じて見せ、胡錦濤は「中国は国際金融市場の安定化において重要な責務を担った」と発言したそうです。
また、この間EUを基礎に新たな基軸通貨としてユーロを創設してきたフランスのサルコジ大統領は「もうドルは基軸通貨ではない。20世紀に作った制度をそのまま21世紀に持ち込むことはできない。」としてブレトンウッズ体制の見直しをすべきであると主張し、さらにあろう事かこれにイギリスのブラウン首相も同調し、アメリカは完全に孤立無援の状態に陥ったようです。
この中で、ただ一人アメリカ支援に回ったのは日本の麻生で、麻生は、ブレトンウッズ体制の支柱であるIMF(国際通貨基金)と世界銀行を強化するため、「十兆円を拠出する用意がある」と発言して、周囲からあきれられ軽蔑の眼で見られたようです。この発言にアメリカだけは非常に喜び、これが次期大統領オバマの「日米同盟はアメリカの国際政策の基礎」という発言になっているのでしょう。まったくKYな(空気が読めない=麻生以降、最近では“漢字が読めない”になっているそうですが)麻生です。
だが麻生がいくらゴマをすっても破産したアメリカにかつての力はなく、昔から相当の献金を受け続けて、中国べったりといわれてきた次期国務長官のクリントンは、公然と日本をパスし続けることでしょう。
この金融サミットを日経新聞は、「金融サミットは、歴史の転換点だったのかもしれない。金融危機後のグローバル経済の規律を定め、貿易や金融の秩序を管理・維持する役割は誰が担うのか。金融サミットは、アメリカを核とする先進国から新興国への主役交代を予感させる、初の国際政治の大舞台だった」(12月17日)と総括していますが、これは来年4月にロンドンで開かれることが決まった第2回の金融サミットにおいて一層はっきりとすることでしょう。
(9)中国の「08憲章」と中国革命の課題
産経ニュースは、「12月10日、中国の学者・弁護士・新聞記者ら303人が、人権の保障や民主化、共産党の一党独裁体制の終結を求めて署名した「08憲章」と題する声明が10日、インターネット上で発表された。世界人権宣言採択から60周年にあわせたもので、大半が実名で一党独裁を批判するのは異例だ。当局は‘仕掛け人’とみられる著名な反体制作家、劉暁波氏(53)」を拘束したもようで、今後、署名者ら体制批判者への締め付けを一層強化するとみられる。署名したのは天安門事件で失脚した故趙紫陽元共産党総書記のブレーンだった鮑?(ほうとう)氏や天安門で息子を亡くした元大学助教授の丁子霖氏、独立系作家の余傑氏、法律学者の賀衛方氏ら。」という報道をしています。
インターネットで取り出した「08憲章」の内容を一読して私は、現代中国が当面している政治的課題は、かつて「北京の春」の際、その優れた活動家であった魏京生や王希哲が告発した内容や、1989年の天安門事件のときに主張された内容と基本的に同一であると思いました。そして、中国人民が直面しているのは、封建制にも似た共産党の一党独裁という絶対専制体制を打倒して、ブルジョア民主主義の国家体制・社会制度を実現すること=つまりブルジョア革命の達成であるということを再認識しました。これこそが真に民衆の願望であり、この革命こそが中国の人民にとっては巨大な進歩であるのですから、我々はこれを断固として支持していくことが大事でしょう。
また、そうであるならば、毛沢東たちによって達成された1949年の中国革命は、またその手本となった、レーニンやスターリンのロシア革命は、一体何だったのかと考えてしまいました。
1991年のソ連の崩壊やその前後に立て続けに起こった東欧諸国の共産党政権の崩壊の際にも思ったのですが、ロシア革命や中国革命によってロシアや中国に成立した共産党一党独裁の権力というものは、実際には決して労働者や農民を解放する権力ではなくて、
① 現世的政治権力と思想イデオロギーを支配するマルクス=レーニン教とも言うべき一種の宗教権力が一体となって社会全体を縛り上げ社会全体を全一的に支配する点で、絶対主義というよりもそれ以前の祭政一致の中世的な専制支配体制に近いのではないかと思います。だから、このような専制支配体制を生み出したロシア革命や中国革命は、西欧の資本主義的帝国主義によって打ち破られ解体されつつあった中国やロシアの弱体化した専制権力に取って代わり、労働者や農民の民族主義的なイデオロギーに依拠して中国やロシアを統一した強大な専制国家として再編強化したわけでから、そういう意味ではロシア革命も中国革命も、社会主義革命とかプロレタリア革命とか呼ばれるものでは全然なくて、どちらかというと戦後世界においてスカルノが指導したインドネシア革命や、ホメイニが指導したイラン革命などのような、一言で概括するならば、
② 一種の民族革命とでも言うべきで、基本的人権の尊重などのブルジョア民主主義革命の課題さえまだ満足には達成されていない革命であったとしか言いようがないでしょう。しかしこれらの問題についてはまた別のところで論じてみたいと思います。
中国は、この12月18日で、鄧小平が当の実権を握った1978年の中国共産党第十一期三中全会が開催されてから30周年になりました。
この間鄧小平は、周恩来が生前最後の第十回党大会において報告した「四つの現代化」路線の後継者として、あくまで階級闘争を主張する4人組や毛沢東によって後継者とされた華国鋒を退けて党の実権を握り、その後「改革・開放」路線によって、人民公社や国有企業を解体し、郷鎮企業などの民営私企業を大いに起こし、外国資本と低廉で豊富な労働力を結合して、西欧型資本主義型の経済を振興して急速な経済の発展を成し遂げてきました。
中国政府の発表によれば、この間中国は、1989年の天安門事件後の数年を除いて平均10%にもなる高度経済成長を30年間にわたって続け、国内総生産(GDP)は69倍、輸出額は556倍、輸入額は392倍、外貨準備は8989倍へと、この300年に及ぶ資本主義の歴史の中でも類例がないほどの急速な発展を成し遂げてきました。(日経;12月16日号)
そして今では購買力平価で換算すると、日本の2,5倍を超え、ほとんどアメリカに追いつくほどの経済規模を持つと共に、世界最大の陸軍に大量の核兵器と世界中どこでも到達しうる相当数のICBMを持ち(朱徳元帥の孫の朱成虎陸軍少将が、2005年に「もし米中戦争になったならば少なくともアメリカの200の都市は原爆で廃墟にする」と豪語し)、この数年以内の有人衛星や月探査、宇宙ステーションの建設などによって航空宇宙分野の軍事作戦でもアメリカに追いつき追い越そうという勢いで進んでいます。
さらにこの夏に開催した北京オリンピックで、かつての世界一の大帝国だった中国を世界に大々的に宣伝し、2位のアメリカの2倍近い金メダルの獲得によって大国中国の復活を世界に知らしめたのでした。
しかし、依然として権力を独占している共産党はその権力を利用して、「先に豊かになれるものから豊かになる」という鄧小平の「先富後富論」に従って鄧小平、葉剣英、栄毅仁、陳雲などの一族をはじめとした党中央から率先してわずか数%が大富豪となり、その下に4~5千万人の新富階層(ニューリッチ)、さらに2~3億の中間層と7~8億の貧困層、そして1~2億の極貧層が存在するというように現代中国は厳然たる階級社会となっています。
この中でもちろん共産党も「プロレタリア階級」の党などではまったくなく、支配階級である大富豪の党になっています。だから、この現代中国社会を覆う階級社会の中で共産党はその権力をかさにきて私利私欲をむさぼる特権集団となっていますから、普段から下層民衆の激しい糾弾の対象となっています。
そうした中で、12月27日の共産党中央の規律委員会の発表によれば、この一年で腐敗・汚職によって処分を受けた共産党員は15万1千人だというのです。「大泥棒は勲章をもらうがこそ泥は処罰される」のは洋の東西を問わずどの階級社会でも共通のことですが、それにしても15万人とは、みんな相当頑張って汚職をしているなあ、という感じです。いくら日本の11倍の人口があるといっても、いくらなんでも日本の中で一年に1万4千人もの公務員が汚職で捕まってはいないでしょう。
当局中国では貧困な農村から日雇い仕事を求めて沿海部の都会に流入している「農民工」と呼ばれる流民は、少ない説でも3000万人、多い説では1億3千万人にものぼり、これが暴徒化したならば大変な社会的混乱になるといわれています。そして百人以上の集団での「暴動」が、昨年一年で9万件も発生しているといわれていますから、これらの暴動がいつ全国的な暴動に発展するかはびくびくしているのです。
それに加えて、侵略支配してから50年を経て、幾度も大規模な反乱を起こしてきたチベット族やウイグル族の独立運動もやむことなく続いていますし、レーニンのソ連と蒋介石の間で分割したモンゴル民族の統一の動きも出ているようですから中国共産党指導部も、なかなか枕を高くして寝られない状況でしょう。
こうした中でまた知識人の中から「08憲章」が声明され、それがこの間急速に拡大したインターネットで瞬時に全世界に流されたわけで、これらが結びついて大きな民衆運動へと発展する日が次第に近づいてきていることは確かでしょう。
アメリカの崩壊に代わってかつての超大国である中国やインドが復活し、さらに中国やインドの中で新しい革命が次第に芽吹いていく、人間の社会はそのようにして次第に人間の解放を実現していく以外にないのでしょう。人類が一切の私有制を廃止してあらゆる人が社会的な生産やサービスの活動に参加し社会に富を蓄積し、そこで蓄積された富を、それぞれの人がまるで空気を吸うように必要なだけ消費する、困った人がいればあらゆる人がその人を助ける。そのような世界を実現するのにはまだしばらくかかるでしょうが、しかし人類はいつの日にか必ずそのような世界を実現することができるでしょう。私がそれを見ることはできないでしょうが。(2008年12月27日)
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どうなる定額給付金問題
政府が08年度第2次補正予算の『目玉』として、年度内支給を目指している総額2兆円規模の定額給付金問題は与党内でも迷走劇が演じられている。
そもそも、この定額給付金は「経済対策なのか」それとも「生活困窮者支援なのか」その位置づけがはっきりしない。多くの人たちが指摘するように、巨額な経費を使ってどれだけの経済効果があるのか?まつたく疑問である。
定額給付金の性格をめぐって麻生首相の発言も二転三転している。ようは、麻生首相が年度内の「2億円バラマキ」にこだわってきたのは、解散総選挙を狙った選挙対策としての党利党略でしかない。
給付事務を「丸投げ」された地方自治体には、膨大な事務作業の対応と「年度内支給」と言う圧力が加わっている。この地方自治体の事務経費は全国で825億円にものぼり、金融機関への振込手数料だけでも150億円もかかる。
国会審議の与野党の駆け引きからすれば、09年度予算案は民主党が衆院の採決を容認したので、年度内成立が確実になった。
一方、定額給付金の第2次補正予算は3月6日の参議院本会議で採決される予定だ。しかし、当然野党は同法案を反対多数で否決する。これを受けて与党は同じ6日に衆院で三分の二以上の賛成多数で再可決、成立させる構えである。小泉前首相はこの再可決に欠席すると公言しており、与党内の造反があるのかないのか?注目されている。
いずれにしても、定額給付金に関しては制度上、関連法案の成立日から支給が可能で、実務を担う市町村はすでに準備を進めている。2月23日、福島県南会津町(7011世帯・19239人)は全国初の給付申請書の発送を開始している。
このように必要な手続きを終えた自治体から順次、支給が始まる。作業量の少ない小規模な自治体では3月中に支給が始まるが、大規模な政令市や中核市は4月にずれ込むと言われている。
こんな中、静岡県の政令市である浜松市は、受給を辞退する人などの用途の受け皿として、新たな基金の創設を検討している。早ければ5月の市議会で基金設置に関する条例案を提案する予定で、定額給付金を市民生活の支えや地域経済の活性化につなげたいと考えているようだ。
私たちから見れば、まったくはた迷惑で疑問だらけの定額給付金である。しかし同時に、このままでは3月には支給が始まってしまう。ではどうする。
そこで思いつきだが、一つの提案がある。地域の労働組合が中心になり「労働者支援基金」(仮称)の創設をめざしたらどうか。定額給付金に疑問を持つ労働者や市民に基金への拠出を訴え、基金を蓄えて、生活困窮者に基金を無利子で貸し出す方法である。
反貧困の湯浅氏の「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」は、10年以上に渡る活動を通じて、ホームレスや生活困窮者への支援活動のノウハウが蓄積されている。こうしたグループと連帯して取り組みを実践していくことも可能である。(富田英司)
「靖国合祀イヤです訴訟」に請求棄却の門前払い判決
2月26日11時、靖国の合祀取り消し(霊璽簿等からの氏名の抹消)を求める戦没者遺族の全国で初めての提訴に対して、大阪地裁・村岡寛裁判長は靖国神社の「信教の自由その他の自由権」を楯に門前払いの判決を出した。国の損害賠償責任についても、「国の行為が、神社の自主的な判断に基づいて決められるべき合祀に関する判断に対して、事実上の強制とみられる何らかの影響力を有したとすべき特段の事情」はないとしている。
ここには、明治維新以降の大日本帝国によるアジア侵略の歴史、そのなかでの靖国神社の役割、ひいては戦没者の〝靖国合祀〞の意味についてのいかなる視点もない。原告は「天皇の赤子として死んで御国に奉仕した者」として、靖国に神として祭られている肉親をそこから解放し、とり戻したいと願っているだけなのに。
また、敗戦後の新憲法の下で、憲法第20条(信教自由、国の宗教活動の禁止)の3「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」があるにもかかわらず、〝靖国合祀〞に果たした積極的役割を不問にしている。国は1956年4月19日に厚生省引揚援護局長名で、援発台3025号「靖国神社合祀事務に対する協力について」と題する通知がそれである。
この通知は全国の都道府県に対しいて概ね3年で靖国神社合祀を完了することを求め、「法令に基づくその本然の事務の限界において、かつ、なし得る限り好意的な配慮をもって、靖国神社合祀事務の推進に協力する」ように指示している。ここには、戦後の国家機関に生き残っていた旧軍残党がいかに〝靖国合祀〞に執念を燃やしていたかが示されている。
これについても、判決は「被告国の行為は、被告靖国神社における合祀において、戦没者の情報把握に協力するという多数の合祀を行なう上で重要な要素をなしていたといえるものの、被告国は被告靖国のためだけに戦没者情報を集めていたわけではな」いと、詭弁を弄している。かの〝通知〞なくして〝多数の合祀〞は不可能だったし、宗教法人令の施行(1946年2月2日)によって一民間神社となった靖国神社に〝なし得る限り〞の協力を行うことは、明らかに憲法第20条違反である。
この日、私は珍しく傍聴抽選に当たり、この判決を直接聞くことが出来た。といっても、判決要旨の読み上げだけで、10分に満たないものだった。運がもっとよければ画期的判決に立ち会うことが出来たのだが、実にありきたりで無残な判決だった。 (折口晴夫)
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ハブ君のおびえ
沖縄にはハブがいっぱいいるそうな。ところが、ハブ1匹とればそうとうな値で買ってくれるというので、ハブの乱獲がはじまり、ハブも数が少なくなっているという。ハブはもともと小心で、茂みに潜みザワッと音がすると余計身を縮め、夜しか出てこない。ハブを追ってつかまえようとする人が増えるとハブ君、恐怖をきたし、余計ちぢこまっていることだろう。
落語家の桂枝雀さんは、三味線に猫の皮がいいというので、猫とりが横行した時期に、猫たちを愛おしんで、語ったはなしがあった。猫のふた親が三味線の皮にされ、子どもの猫が三味線にされたふた親の側を離れがたく、飲み屋のおかみに化けて人間の相手をしている。
この子猫の胸に何が去来したか枝雀さんは語らないが、子猫をいとおしんでいる語り。化け猫として扱うのではなかった。人間の都合で動物の運命を左右するのが、たまらなかったようだ枝雀さんは。
あんなに怖がりのハブ君を、一層こわがらせている乱獲。貧困が、これまで人間とハブ君が上手に付き合ってきた関係をこわし、人間を暴力的にするのであろう。なぜに貧困・・・ 最近よく売れる本、会社帰りのサラリーマンがよく買う本は〝資本主義と世界恐慌〟というような経済の書だそうだ。
生活の不安の根源を知ろうとする人が増えているという。戦中の滅私奉公そのままの田母神論文の類が、重版されているそうで暗たんとした思いであったが、やっぱり勤労者の健在なることを知ってうれしかった。私も不安をバネとしつつ、出来る限り頑張ろう、人並みに。人世の落ちこぼれであることを自覚してはいても。
09・2・15 宮森常子
かんぽの宿売却問題
日本郵政の西川社長は辞職せよ! 退職金も受け取るな!
かんぽの宿の売却問題ですが、いちおう白紙に戻りました。以下2月13日付asahi.comよりの引用です。
「宿泊・保養施設「かんぽの宿」の売却問題で、日本郵政の西川善文社長は13日、オリックス不動産(東京)との売却契約を白紙撤回した、と鳩山総務相に報告した。16日に正式発表したうえで「不動産売却に関する第三者検討委員会」を発足させ、保有資産の売却ルールを検討する。
西川社長、高木祥吉副社長と13日会談した鳩山総務相が、終了後に記者団の取材に応じた。
鳩山氏によると、西川社長は今月9日、オリックスの宮内義彦会長に売却契約の撤回を申し入れ、宮内会長の了承を得たという。また、地元自治体に相談せずに施設の売却を決めたことや不況時に売却を急いだことを、「反省している」と述べたという。
日本郵政がオリックス不動産と交わした売却契約書には、契約を一方的に破棄した場合などに支払う「違約金」の条項はない。オリックス側は補償金を求めないとみられる。今後、事務レベルで契約の解除日などを決める。
第三者検討委員会では、日本郵政グループが保有する不動産約5千件の売却ルールをつくる。元日弁連副会長の川端和治氏、日本公認会計士協会副会長の黒田克司氏、日本不動産鑑定協会常務理事の渋井和夫氏の3人が委員に就任し、公正で透明性の高い仕組みを検討する。
かんぽの宿の売却では、日本郵政は昨年末、オリックス不動産に79物件(社宅含む)を109億円で一括売却する契約を結んだ。一方で、物件の取得費には計2400億円かかっていたことも明らかになり、批判が集中。総務省は日本郵政に法律に基づく報告を要求しており、郵政は16日に回答書を提出する。
鳩山総務相は「かんぽの宿をたたき売りする不透明な契約が撤回されるのは当然だが、なぜ(このような)ばかげた形で動いたのかは解明しなければならない」として、売却手続きに不正がなかったかどうかを、引き続き検証する考えを示した。
オリックスは13日、かんぽの宿の売却契約について日本郵政の解約申し出を受け入れると発表した。」以上asahi.comより。
この問題は、2400億円もするかんぽの宿をたった109億円でオリックス不動産に売却しようとしていました。そのオリックス不動産は、郵政民営化を検討した当時の総合規制改革会議議長だった宮内
義彦が最高経営責任者をつとめる企業でした。結局、最初からかんぽの宿をオリックスに有利に売却しようとしていた疑いが濃厚です。また日本郵政は、今回の売却手続きにあたって、財務アドバイザーに起用したメリルリンチ日本証券との間で、成功報酬として売却額の1.4%(最低6億円)を支払う契約を結んでいました。メリルリンチ日本証券はオリックス・みずほフィナンシャルグループと共同でベーシック・キャピタル・マネジメントを設立していました。
以下2月20日付ashi.comより。
「鳩山総務相は20日、「かんぽの宿」を落札したオリックス不動産より、対抗馬のホテルマネージメントインターナショナル(HMI)の方が好条件を出していたとの考えを示した。閣議後の会見で、「事業継続や雇用について、オリックスが常に最高の条件を出してきたと郵政が言っているのは間違いだとそろそろ断定できる」と述べた」以上ashi.comより。
また日本郵政は、今回の売却手続きにあたって、財務アドバイザーに起用したメリルリンチ日本証券との間で、成功報酬として売却額の1.4%(最低6億円)を支払う契約を結んでいました。メリルリンチ日本証券はオリックス・みずほフィナンシャルグループと共同でベーシック・キャピタル・マネジメントを設立していました。
今回の売却が、白紙になったことはよかったと思います。ただ、かんぽの宿の従業員は、正社員が約600人、非正規労働者が約2600人、毎年40億円も赤字を出しています。この大幅な赤字をどう解消していくかが問題です。まず、かんぽの宿が、元郵便局長らの天下りになっていますが、これを廃止する必要があります。1000万円を超える年収と退職金が無駄です。現場ではなく、やたら管理部門の従業員が多いのも改善しなければなりません。それでも赤字の分は、やはり簡保の資金から調達するしかありません。
いずれにしろ、日本郵政の西川社長には責任を取って辞めていただきたい。(河野)
色鉛筆・「特定記録郵便」
郵政民営化の見直しなどと、騒いでいますが、現場では別に話題にものぼりません。ところで、2月は、年間を通じて郵便量が少なく、少し気持ちにゆとりができました。しかし、本来の配達業務の他に営業(各種イベントのカタログ商品の販売)を押し付けられ、気分的に重荷を感じています。
というのも、年賀の販売数が目標に達せなかった者には、反省文を書かされたからです。反省文でありながら、すでに活字で達成できないことで支社に多大なご迷惑をおかけしたこと、次回は目標に届くよう努力することが、一方的に記されていました。こんな反省文に署名は出来ないと、職場の同僚と上司に抗議し、結局その文面に赤線を引いて抹消することで落ち着きました。
バレンタインデー、ホワイトデーと、老舗の高級なお菓子はなかなか手が出ません。高級感だけで特に惹き付けられるものはありません。一体、こんな中途半端な営業でどれほどの収益があるのか、疑問ばかりです。もっと特徴のある商品、たとえば地域の特産・加工品など、老舗にとらわれない独自に開発された商品を取り扱ったら、少しは注目されるかもしれません。本当に取り組むなら、企画からはじめるべきでしょう。
昨年、10月か11月ごろに、書留と同様の取り扱いをする「配達記録郵便」が廃止されると、新聞誌上で情報が流されました。私たちにも説明がなされ実行かと思われたのですが、カード会社の猛反発をうけ先延ばしにされてしまいました。その「配達記録郵便」が、いよいよ今年3月1日から廃止になり、「特定記録郵便」がそれに代わるものとして新設されます。「特定記録郵便」は書留扱いではなく郵便受箱に配達し、その代わり金額も配達記録郵便よりも50円安く、取扱い料金は160円です。
しかし、驚くことに経過措置対応が、2010年3月31日まで有効なのです。つまり「配達記録郵便」は現行の低価格290円のままで、この先1年間は「簡易書留」扱いで配達されることになります。結局は実質の廃止は2010年4月1日からで、カード会社はしばらく安心ということでしょう。本来の簡易書留はしばらく敬遠され、世間知らずで人の良い郵便事業会社はカード会社に感謝され、利用され続けるということでしょうか。ちなみに、これまで取り扱い料金が350円だった簡易書留は300円に値下げされます。 (恵)
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編集あれこれ
本紙前号のコラムで「人身事故」が取り上げられていました。悲しいことに、鉄道自殺による電車の遅れが〝日常風景〟になってしまっているという指摘でした。確かに、私も通勤で利用しているJRのダイヤがしょっちゅう乱れていて、その原因のひとつが〝人身事故〟によるものだという放送を時として聞きます。
乗客は〝人身事故〟について特に何かを感じている風はなく、電車の遅れそのものにもあまり反応はないようです。私が利用しているのは107名の死者を出した尼崎事故が起きた福知山線だから、声高に文句を言わないのもうなずけます。無理なダイヤ回復の試みは惨事につながる、多少遅れても安全が第一です。
コラムには「鉄道事故月別発生件数」が載せられていましたが、〝事故〟というのは飛び込み自殺も含まれるのか、それとも「保守点検で枕木搬出中、作業員はねられ死亡」(2月20日午前1時25分ごろ、JR神戸線)のような〝事故〟のことなのだろうか、よく分からないところがあります。
それにしてもこの〝労災死亡事故〟、安全確認の見張りが4人もいたのに、なぜ防げなかったのだろうか。新聞報道でも「安全強化策に疑問符」としており、昨年4月に導入されたという、JRの「安全基本計画」に掲げられた「社員の労災事故ゼロ」という目標がむなしく響きます。
さて、3万人越えが続く年間自殺者に話題を戻して、兵庫県では昨年の自殺者数は前年より減少したが、それでも交通事故による死者(199人)の6倍を超える高止まりの状態(2月14日「神戸新聞」)だそうです。その交通事故死者数についてみると、2007年の総死者数は5744人となっています。この数字は〝交通戦争〟が叫ばれた1970年の16765人と比べ、3分の1近くに減っています。
この40年間の交通事故死者数を総計すると、41万人にもなるというから恐ろしくなります。自殺にしろ交通事故死にしろ、残された遺族にとっては突然の肉親の死であり、その後の人生に消すことの出来ない打撃となるものです。また、どちらも防ごうと思えば一定程度は防げる死でもあり、その数字を少しでも下げるために「やるべきこと」はいくらでもあると思います。 (晴)