ワーカーズ428号  2010/11/15   案内へ戻る
尖閣における船舶衝突ビデオの流出事件―菅内閣の現在直面する二重の危機

 従来から尖閣列島の周辺は、ケ小平以来「領土問題」が棚上げされており、付近で日中漁業協定が締結された関係から、中国漁船によって漁業が行われていた。本来なら漁業は行ってはならない海域なので、海保巡視船が何隻も配備されており、中国漁船との船舶トラブルも日常茶飯事に起っていた。流出ビデオでも、当初は巡視船側にも漁船側にも緊張感がなかった事が見て取れる。
 事態が一変したのは、前原前国交大臣による唐突な取り締まり強化指示であった。そして9月8日、海保巡視船による中国漁船の追い込みによる拿捕が強行された。当初は、巡視船と中国漁船との船舶衝突等の証拠ビデオを公開するといっていたにもかかわらず、菅改造内閣で外務大臣となった前原氏等や仙谷官房長官の協議により、その後の漁船船長の不可解な釈放があったのである。
この結果、日中関係は急速に冷え込むと共に、両国で「弱腰外交」を糾弾する反日デモや反中デモが巻き起こり、菅政権は支持率を急落させた。そして11月4日に惹起した尖閣での船舶衝突ビデオの流出は、菅政権の支持率をさらに一段下げる決定的な事件となった。反動派は、菅内閣が「国家機密」を守れず国家の体をなしていないと批判し、またビデオを流出させた海保職員を「国士」と祭り上げる騒ぎである。まさに彼らの言動は狂態といわざるをえない。
 こうして菅内閣は、現在二重の危機に直面している。第1の危機とは、菅内閣が「外交」ができる政権かについての疑義の深刻化である。9月に明言されたロシア大統領の「北方領土」訪問に何ら手を打てなかった事も疑義が真実である事を証明した。第2の危機とは、「日米同盟」の内実が赤裸々になった事である。前原外務大臣の賢しらな小細工により、逆に尖閣列島についてはアメリカは中立である事が露呈した。聖域とし増額してきた「思いやり予算」も万が一の「用心棒代」ですらなく、駐沖米軍もアメリカの戦略でいるに過ぎないのだ。沖縄県知事選に勝利し菅内閣とアメリカを痛打しようではないか。
 危機に瀕している菅内閣は、まさに打倒の対象なのである。(直木)


戦略なき打ち上げ花火外交≠フ稚拙
   ──尖閣、北方領土でも迷走する菅民主党内閣──


 尖閣諸島や北方領土をめぐる外交で民主党政権の迷走が止まらない。菅内閣に変わっても場当たり的かつ表面的な外交の尻ぬぐいに汲々としているのが実情だ。対外関係再編に向けた戦略構想欠如の必然的な帰結としか言いようがない。
 尖閣諸島海域での衝突事件では、説明責任、あるいは国益論や弱腰外交をめぐって百花繚乱状況が続いている。いま衝突ビデオの流出問題に波紋は拡がっているが、ことの核心は国家間の領土紛争とその解決策の如何にある。
 民主党政権による強硬論から修復策への変節の結果は局面打開どころか、逆に現状の固定化、あるいは懸案のこじればかりが浮き彫りになっている。
 領土紛争の性格を踏まえた戦略思考に立ち返ることが出発点だ。

■打ち上げ花火外交■

 尖閣諸島海域での衝突事件で菅内閣は、我が国固有の領土≠掲げた当初の攻勢姿勢から一転、説明なしの事態修復策に方向転換した。その後も新たな事態が発生するたびに右往左往する事態が続いている。
 衝突事件をめる日中両政府によるつばぜり合いの修復に舵を切ったまさにそのとき、今度はロシアのメドベージェフ大統領が以前から公言していた国後島訪問を果たした。ソ連時代にもなかった現職元首による北方領土への訪問で、菅内閣は駐ロ大使の一時帰国など抗議姿勢を示した。が、今度はロシア政府から内政上の行為≠セとあっさり門前払いを食わされ、これまた豹変するかのように早々に大使を帰任させた。
 次は、中国漁船の船長の拘留延期─起訴路線から一転、検察の背後に隠れた超法規的な船長の釈放で終始を図った菅内閣だが、衝突事件のビデオを国会議員に視聴させたまさにそのとき、ネットにそのビデオ映像が流出するという珍事≠ェ起こった。圧縮されたビデオを見せられてピエロ役を演じさせられた議員先生が怒り心頭になったのも、けだし無理からぬことではあった。
 衝突事件をめぐる領土問題で公開せよ∞しない≠めぐって紛糾していたビデオ流出事件の波紋は、あっという間に政府の情報管理の問題や公務員の守秘義務違反事件へと拡がった。
 余計な話だがビデオを見ての私見では、漁船の周囲を包囲するように執拗に追い回していた巡視船に中国漁船が腹いせにぶつけてきたという感じだ。デモを警備する警察の執拗な規制行為に腹を立てたデモ参加者が抗議し、それに対し公務執行妨害で逮捕する、というよくある光景の一つと同じに思えた。
 民主党政権は、普天間基地問題で対米関係の見直しに頓挫し、今度は尖閣諸島で中国と、北方領土でロシアと相次いで無用な軋轢を呼び込んでいる。日本を取り巻く主要国すべてと局面打開に逆行する軋轢ばかりをを呼び込んでいる民主党政権の場当たり外交は、民主党の対外戦略や局面打開への決意のなさの必然的帰結でもある。

■いつか来た道≠フ強硬論■

 日本の施政下にある尖閣諸島海域での衝突事件を受けて、国内では我が国固有の領土§_を前提とした強硬論・国益論が飛び交っている。確かに感覚的には目先の威勢がよい見解は耳あたりが良い。居酒屋談義や茶飲み話などでも話が通る。閉塞情況が拡がる国民世論としても飛びつきたいテーマとはいえる。
 しかしちょっと立ち止まって考えれば、強硬論一本槍では解決不可能なこともすぐ分かる。市民レベルで見れば、日中双方とも冷静な態度の人たちは多い。紛争当事国がお互いに自国の論理でぶつかれば、問題はこじれるだけだろう。現に日中のつばぜり合いでは、すれ違いに終始した。
 北方領土のロシアの領有は日本から見て確かに不当ではある。が、尖閣諸島にしても北方領土にしても、中国やロシア側にも言い分や思惑はある。
 尖閣諸島では、明治時代の日清戦争以降の中国・台湾を含めた東アジアへの拡張政策の過程で日本領土に編入した、という中国や台湾の人たちを被害者意識に引きつける歴史的な経緯もある。北方領土についても、ヤルタ会談での米ソ密約など、米国がソ連の対日参戦を促すためにソ連による千島、樺太占領を容認したという、米国の容認という根拠≠轤オきものもある。これは米国のクリントン国務長官の「日本の施政下にある地域は日米安保の対象になる」という発言を小躍りして日本の領有権主張の根拠の一つにしたのと、まさに同じ論理のものだろう。
 それに近年の経済発展の道を邁進する中国、復活しつつあるロシアのそれぞれの拡張的な国家・経済戦略の推移もある。これらを承知で強硬姿勢に終始するのは事実上不可能だ。だから強硬論をぶち上げる政府も、現実の目の前にすぐ修復に転じざるを得ない。
 お互いに強硬論で突き進むとどうなるか。尖閣問題でいえば、たとえば再度の中国漁船の操業、日本の巡視船とのこぜりあいや拿捕、中国による抗議行動、自衛艦と自国漁船の保護を掲げた中国軍艦の対峙等々、事態はエスカレートするばかりだろう。
 それは避けたいとの両国の事情や判断、それに外国の仲介も含めてそういう事態になる可能性は低い。が、強硬論の背後にはそうした必然のエスカレーションの可能性が常に含まれているのだ。強硬派はその可能性への言及を意図的に避けてはいるが、それは彼らにも戦争への道に通じるそうしたエスカレーションへの対応戦略や覚悟はないからだ。ただ対外的な敵愾心をあおっているだけでしかない。

■底が割れた強硬論■

 ではどんな具体的な解決策があるのだろうか。
 まず正論─建前論による解決策。これは上記で触れたように、当事国の論理がぶつかるだけでいつまでたっても紛争は解決できない。結局は紛争を抱えたままの現状固定化だろう。
 次は妥協による解決だ。たとえば折半による解決策。四島ではなく二島だとか、あるいは面積での二分割による線引きなどの案もあった。現にロシアは中国とのウスリー川(黒竜江)中州のダマンスキー島(珍宝島)の当分分割(04年)や、今年4月、北極圏の大陸棚をめぐるノルウェーとの係争を折半で合意した実績もある。日本との領土交渉の解決は、ロシア政権としても大きな実績となる。
 難点もある。折半での解決では四島の一括返還は実現できない。将来像も不透明で元日本人島民を含めて反対論も多い。強硬派の納得も得られない。
 そこで奇策も出される。たとえば日本共産党の案だ。共産党はメドベージェフ大統領の国後島訪問に抗議する声明を出し、併せて1875年の樺太(からふと)・千島交換条約で日本の領土になった北千島の占守(しゅむしゅ)にいたるまでの南北千島全体の返還を求める立場を政府に申し入れした。日ロ間の平和的な国境線の画定を土台とすべきだ、という考え方によるのだそうだ。大風呂敷を拡げて、その上で折半すれば妥協線も押し込める、という考えかどうかは分からないが、これも固有の領土≠ニいう国家観の土俵上での解決案でしかない。
 三つ目は、共同管理・共同開発案だ。
 この先例をあげれば、北海油田の実例やEU発足の経験もある。しかし国益論、国家至上主義とは衝突せざるを得ない。とはいっても、台湾からも共同管理・共同開発案も出たように、未来につながる現実的な妥協案ではある。建前レベルとはいえ、日中中間線海域での海底資源の共同開発での合意という実績もある。
 現実的な案は、国境線確定の交渉継続と共同管理・共同開発の並行的促進というあたりだろう。こうした立場に立ってこそ、中国の拡張主義的な攻勢に毅然と対応することも可能になるのだ。
 しかし、現実的にはこうした観点は少数意見にとどまっている。現に、尖閣諸島や北方領土に関して週刊誌やネット社会、それに国会論戦のなかでも、国家至上主義の立場からの強硬な国益論がまかり通っている。いわく「弱腰外交」「国を守れ」「沖縄も奪われる」等々だ。
 菅内閣の前原外相も国交相時代から北方四島のロシアによる不法占拠#ュ言を繰り返していた。その前原外相は、いま長期的観点が大事だとして慎重姿勢に転じたのだそうだ。いったい何を考えているのだろうか。
 振り返れば、尖閣での衝突事件でも同じだった。当初、尖閣諸島の我が国固有の領土§_を連発し、国内法に基づくとして勾留延長・起訴路線を主導した。が、中国の強硬態度に直面するや、検察の判断としての超法規的釈放にはあっさり了解だという。これを迷走と言わずに何というのだろうか。
 強硬発言を繰り返してさえいれば領土問題は有利に前進する、とでも単純に考えているとしか言いようがない。親米派としての位置を割り引いても、強硬派の底の浅さと外交音痴という非難は免れない。現実はと言えば、麻生元首相に続く不法占拠#ュ言は、メドベージェフ大統領の国後島訪問と内政#ュ言を引き出すことで日ロ領土紛争をこじらせるだけに終わっている。
 少なくとも、飛び交っている強硬論一本槍だけでは中国やロシアとの接点はできないし、結局は自国だけに通用する建前だけの論理に安住する内弁慶≠フ議論に終始するしかない。

■内外での連合・提携関係■

 現実的な解決策を考えてきたが、実際は領有権問題とはやっかいな問題だ。領有権問題は、国家というものの本質に絡む問題だからだ。
 昨今、国家や国益という概念は日常的に語られているが、それらは決して超歴史的に自明のことではない。たとえば氏族社会時代での国境線はといえば、生活圏としての事実上の境界線に過ぎず、地理的形状に左右される慣習的な概念だった。またローマ帝国など世界帝国の時代、帝国の版図としての国境線は、戦争の結果として常に変動していた。近代国家の時代では、17世紀のヨーロッパで、それまでの教会支配に取って代わる国民国家による国際的な秩序の確保が取り決められ(ウエストファリア条約)、領土問題など国家が主体となって解決する体制が生まれた。いわゆる時代を象徴する主権国家という共通概念が確定するに至る。こうした主権国家体制の下で領土や国境線は国家概念に深く組み込まれることになった。領土とは国家あるいは国家関係そのものの基盤になったわけだ。ちなみに、江戸時代の日本では藩、・藩民意識はあっても国家・国民意識は希薄だった。
 その国家というのは、概略的にいえば、内部的には法的な権利・義務の関係、要は支配・服従の権力関係を本質としており、対外的には、一時的にはともかく根本的には他者を排除する、排他的な存在だ。その国境線とは、縄張りとして他国の侵入を排除する概念なのだ。だから領土・国境紛争の真の解決のためには、国境を挟んで領土・国民・財産をめぐって対峙する関係、すなわち主権国家の併存というあり方の克服が必要であり、また国家固有の≠ニいう言葉に象徴される国家至上主義を克服することが不可欠になる。世界は内部的にも対外的にも連合・連携関係への脱皮こそ目標とすべきなのだ。
 迂遠な話に終始するだけでは始まらないが、目前の軋轢への対処を決めるにしても、そうした未来につながる戦略的発想という基本的なスタンスを土台としなければ目先の前進もあり得ない。
 その場合の基本的な足場は我が国固有の≠ニいう国家至上主義ではなく、善隣友好関係≠フ推進に置くべきだろう。いわば共存共栄、相互互恵関係という考え方と通底するものであり、それは連合・提携関係による世界の再編という普遍的真理にも通じるものである。
 とはいえそれが本音≠ノ対立する建前≠ニして語られるだけでは意味合いはまったく違ったものとなる。
 枝野民主党幹事長代理は、中国との関係では戦略的互恵関係≠ネどあり得ない、と公言した。剥き出しの不信感の表明だが、それをいうなら戦略的対抗関係を対置すべきだろう。かつて前原民主党代表は中国は顕在的脅威≠セと踏み込んで当時の自民党政権からも批判された。仮に前原民主党が政権の座に就いたら、政権としては当然のこととしてその具体策を講じなければならない。対中抑止力としての強力な軍事力と即応力の確保のことだ。もしそうすれば、中国も同じ態度で対抗するだけだろう。結果は軍事的対抗関係のエスカレーションだ。
 戦略的互恵関係℃ゥ体は普遍的原理に通じるものであり、問題はそれが本音として政策化できない現状、体制にこそ矛先を向けなければならない。土台としての可能性はグローバリゼーションにある。
 いま国民国家に深く浸透しているのは資本制社会である。その資本制社会は二面的存在だ。資本制企業は国境を越えて世界的な存在に進化しつつある。とはいえ、その利益構造は個別国家の金融・産業政策と切り離せないし、何より排他的な利益独占原理で突き動かされている。
 資本にとって国境は相対化しているし、副産物として協同原理を体現すべき労働者階級の国境を越えた共通存在としての意味合いが強まり、それに直接的な連合・提携の土台も拡がっている。現時点ではあくまで土台に過ぎないとしても、私たちがめざすべき道は、国家の枠組みを至上命令とする戦略構想などではなく、あくまでグローバルな土台の上での連合・提携関係の創造というオルタナティブなのである。
 そのスタート点が領土紛争での共同管理・共同開発という視点なのだ。(廣)案内へ戻る


核の危機を招く民主党政権の原発輸出戦略

 ベトナムの第2期原子力発電所建設プロジェクト(発電能力100万キロワット級の中型炉2基、事業規模1兆円)を、日本が受注することとなった。10月30日の「日本経済新聞」はその経過を次のように報じている。
「日本勢は今月22日に発足した官民合同出資の国際原子力開発が中核で東芝や三菱重工業、日立製作所などが出資。日本の官民一体の取り組みとしては初の成果で、日本企業が新興国で原発を受注するのも今回が初めて」「越原発は今年初めに第1期工事をロシアが受注し、日本は政府の本格関与が遅れたが、巻き返しを果たすことになる。高成長で電力不足が深刻化する新興国を中心に、将来は100兆円規模の市場に育つといわれるアジア原発市場への輸出に弾みがつく可能性もある」
 100兆円規模といわれるほどだから、各国政府も資本もしのぎを削り、受注合戦を繰り広げるのも当然だろう。例えば韓国ではこうだ。
「李明博政権が低炭素成長政策として原発による電力供給を現状の36%から2030年に59%にまで上げようとしていることや、計80基の原発輸出をめざし、アラブ首長国連邦への輸出契約締結時には全テレビ番組が祝賀の特別番組に切り替わった」(「ノーニュークスアジアフォーラム通信」106号)
これはさすがにやり過ぎだが、核汚染を招く危険な原発を無責任に他国に売り込む、これは武器輸出と同じ死の商人≠ナはないか。
 米国GE社が受注し、現在建設中の台湾第4原発は、原子炉は日本の日立と東芝に発注され、日本から台湾に輸出された。タービンなどは三菱が受注し、運営管理は東京電力がサポート契約を結んでいる、事実上、日本初の本格的原発輸出である。その第4原発で、3月31日に中央制御室の無停電システムが高音による電気ショートで焼失し、5月27日には安全性関連のバリスタ焼失して主電源が落ちてしまった。さらに7月9日、作業員の不注意により電源供給が中断された。このとき、予備の供電システムは保守作業中で、何と28時間も停電状態となった。それでも、原子力委員会は「原子炉はまだ動いていないので心配無用だ」(前掲105号)と主張したというのだから、恐るべき事態だ。
 国内においては、10月末に実施された事業仕分け第3弾で「もんじゅ」予算10%圧縮となった。しかし、これは完全撤退とすべきものであり、「削っていいかだめか、確信が持てない中、10%圧縮となった」とは情けない限りだ。8月に起きた「もんじゅ」炉内中継装置(原子炉内に差し込んで燃料交換に使う長さ12メートル、直径約0・5メートル、重量3・3トン)の落下、これの取り出し失敗は致命的なものである。これで3年止まると仮定して、年200億円なら計600億円が消えて行く。もはや廃炉以外ない。
 発電時に二酸化炭素を排出しないとされる原発は放射能汚染が避けられない汚いエネルギー≠ナある。これをクリーンなエネルギー≠セと詐称し、進められているのが原発ルネッサンスという現状である。民主党政権は原発産業のためにこれを推進しつつある。また、関連労組、連合などの支持を受けている民主党議員も利害を共にしている。しかし、その先に明るい未来はない。核を捨て、クリーンで再生可能なエネルギーの開発こそ急務であり、アジア諸国に提供すべきものである。   (折口晴夫)

追記
 10日の新聞各紙において、落下した「もんじゅ」の炉内中継装置が変形していること、これを取り出すことが不可能になったことを、日本原子力研究開発機構が9日に発表したと報じられた。予想された事態であり、驚くに当たらないが、「今後の日程を示せる状況ではない」という機構の発言からその深刻さが分かる。
 なにしろ、原子炉容器の上ぶたを外さないと取り出せないとなると、本当にただ事ではない。ほぼお手上げ状態で、現実的対応としては廃炉しかないのだが、機構は予算を食いつぶし続けるために不毛な作業を続けるつもりのようだ。こうしたときにこそ、政治主導で撤退の決断をすべきだが、さて、それが出来る政治家が今の民主党に存在するのだろうか。


コラムの窓   大阪人権博物館の紹介

 10月に大阪で開かれたワーカーズの「総会」の後、大阪環状線・芦原橋で下車して大阪市浪速区にある大阪人権博物館を訪ねた。
 入場料250円を払い、最初に年配のボランティアガイドさんから全体説明を受けて展示室に入る。まず目に入ったのが、この会館の統一テーマである。そこには「私たちが生活している日本社会には、さまざまな差別と人権にかかわる問題が存在しています。差別と人権にかかわる問題は、社会のあり方と深く関係し、生きていくうえで誰もが直面せざるを得ない課題を投げかけています。この総合展示は、自分自身を見つめ、日本社会の差別と人権に向きあっていこうとするものです」と書かれている。
 最初は「部落問題」を中心にした展示が続く。非常に感心したのは、この「部落問題」を歴史的に捉えて時代を4つに区切り、その時代と被差別民との関係をわかりやすく説明していること。まずは中世「非人」の成立を取り上げて「前近代の身分制社会と被差別民との関係」の説明、次に明治維新による新国家の成立にともなう「近代日本社会と被差別部落との関係」の説明、不当な部落差別に抗議して立ち上がった全国水平社運動や融和運動を説明した「水平運動と融和運動」、そして最後が「戦後の部落解放運動」の説明となっている。
 もう一つこの会館の素晴らしい点は、統一テーマに掲げられていたように「この日本社会にはさまざまな差別と人権にかかわる問題が存在する」として、各コーナーに差別を受けている人たちの主張と活動内容を設けて紹介していること。
 そのコーナーに「在日コリアン」「ウチナーンチュ」「アイヌ民族」「女性」「性的少数者」「障害者」「HIV感染者・AIDS患者」「ハンセン病回復者」「ホームレス」「被差別部落」「公害被害者」「水俣病患者」など様々な差別問題が取り上げられている。
 このコーナーが多いということは、日本社会において多くの偏見・差別が存在している証明ともいえる。誰しも「差別」を良しとする人はいないだろう。問題は、差別をいかになくするかである。差別をなくすための「啓発活動」とともに、差別を規制する法律(「被差別原則」あるいは「平等原則」に立脚した)を制定する必要がある。いつまでも、「日本の人権レベルは世界では後進国レベル」だと言われないように。
 会館の設立は1985年で今年で25周年となる。この間、何回も展示内容を点検・改善して「リニューアルオープン」をしてきたという。
 会館の設立目的には「部落問題をはじめとする人権問題に関する調査研究をおこなうとともに、関係資料や文化財を収集・保存し、あわせてこれらを展示・公開することにより、人権思想の普及と人間性豊かな文化の発展に貢献する」と書かれている。
 まさに、この会館の歴史は差別をなくすための「啓発活動」の歩みといえる。会館で働く職員の皆さんも大変熱心であり、その親切な応対には好感が持てた。
 是非皆さんにも訪問してほしい人権博物館である。
 最後に、今回からこの「コラムの窓」を担当することになった。こうした新聞や雑誌には必ず「コラム欄」がある。その中で、私が一番素晴らしいと思うのは、辛淑玉(シンスゴ)さんが書く保育誌「ちいさいなかま」の「コラム」(わたしのアングル)である。そのレベルに一歩でも近づきたいと思っている。(英)案内へ戻る


企業に優しい菅内閣

 菅内閣は来年度からの法人税引き下げに踏み切った。
 11月11日、政府税調は来年度からの法人税率の5%引き下げに向けた調整に入るという。
 これまでの法人税率は30%。地方税も含めた実効税率40・69%だった。この引き下げによって法人実効税率は35%台に引き下げられ、企業は1〜2兆円の減税になる。
 経団連など企業側は、欧米や韓国・中国などは日本よりかなり低い法人税率で、このままでは日本企業の対外競争力が低下、あるいは国内企業の海外流出が増えるとして、法人税引き下げを執拗に求めてきた経緯がある。政府も、法人税引き下げを成長戦略の目玉政策にしてきた。
 民主党政権は、これまで経済界の法人税引き下げ要求に対しては、法人税の課税ベースの拡大による財源の確保を前提としてきた。すなわち各種租税特別措置を含む法人減税の廃止・縮小だ。時代に合わない多様な名目の法人減税があまりに多かったからである。結局は、実質減税にならない法人税引き下げならやらなくともいいという経団連などの恫喝に屈し、法人増税は後回しにして減税を先行させる方向に舵を切ったわけだ。いわば減税と増税をセットにするという原則を放棄したのだ。
 無駄を省いて子ども手当などへ、コンクリートから人へ、という民主党のマニフェストの実現に四苦八苦しているまさにそのとき、なぜ企業優遇の象徴である法人税の引き下げなのか。まさに企業に切り込めない民主党政権の致命的弱点が浮き彫りになったという以外にない。。
 経団連など経済界は、法人税などの企業負担を縮小しないと対外的な競争に勝ち抜けない、と主張してきた。しかし、法人税負担はことの一面でしかない。社会保険負担など、企業の社会的責任については、ドイツの3分の2,フランスやスウェーデンに比べると半分以下しか負担していない。税も含めた企業負担率では、日本は決して高くないのだ。実際は欧州などの方が負担は多い。それも含めた企業負担率では、日本は決して高くないのだ。
 西欧並に法人税を引き下げるのであれば、なぜ菅内閣は企業の社会保障負担を西欧並みに引き上げることをしないのか。人に優しい政権であれば、当然そうした選択をしなければならないはずだ。結局は、財界からの要望を優先したわけだ。
 いま企業は、あのリーマンショックの打撃から立ち直りつつある。企業利益は増加傾向にあり、200兆円を超える内部留保を抱え込んでいる。人減らし・賃金カットなどコストダウンで企業の利益を増やしてきたからだ。疲弊する労働者世帯を放っておきながら、リストラで利益を増やす企業に減税というわけだ。
 コンクリートから人へ、団体から個人へ、という民主党のマニフェストはどこに行ったのだろうか。民主党政権の企業に優しい立ち位置が、いまはっきりした。(廣)


色鉛筆 すべてのこどもの夢をかなえてやりたい

 初めて弱視のA君に出会ったのは、今から7年前小学校6年生の時でした。弱視で小学校から寄宿舎に入り卒業まで盲学校で過ごしたお父さんもお母さんは、自分たちが寂しい思いをしたので、可能な限り我が子と多くの時間を過ごし、健常者の中で多くの友達が出来て色々な経験をしてほし欲しいと願い普通小学校に入学させました。 しかしA君はお父さんとお母さんのように中学校から盲学校に入学し寄宿舎生活を送りたいと希望し進路変更となりました。
集団の中ではほとんどお話をしないA君が半年ほどたち、少しずつ自分のことを話し始めました。「小学校では、いじめられてばかりいた。二度と地域には戻りたくない。居住地交流学習なんか絶対に受けたくない。僕は今まで誰からも一度もほめられたことがない。」また学力も小学校2年生程度で、悲しかったです。親が望んで、普通小学校に入学したものの受け入れ先が不十分な状態であること、目がみえづらいために、先生にわからないところを聞けずに過ごしている状態でした。
その後意欲的に学習に取り組み、電車に興味を持ち、1年間こづかいをためて電車の模型を購入し、将来はJRの運転手になりたいと夢を持ちました。昨年の弁論大会では、自分の夢を語り、しかし自分は視覚障害者だから運転手は出来ない、だから自分の趣味の世界の中で運転手になり思い切り走らせたいとあつく語り、ブログ作成し多くの仲間と交流しています。
 昨年は生徒会長を経験し、現在高校3年生のA君は、将来はお父さんとあんま・マッサージの店を開業したいと話しています。国家試験であるあんま・鍼・灸の資格取得のため専攻科進学を希望し毎日受験勉強に取り組んでいます。
 私はどんな障害があっても、普通小学校・中学校で一緒に学べて、成人式の日に一緒に地域の仲間達とお酒を飲めるようになって欲しい。また視覚障害者は、将来の職業をあんまの資格をとることだけの狭い選択であって欲しくない。A君の夢をかなえるためにどんな工夫をしていけば良いのか、周りがどんなふうにかわっていけば良いのかゆっくりと考えていきたい。(晃)案内へ戻る


読者からの手紙
岩上安身さんの「岩上安身オフィシャルサイト」を視聴しましょう!

 今年の6月から岩上安身さんのサポーターになりました。この間岩上さんは、水を得た魚のように八面六臂の大活躍です。
 最近のニュースのトリセツを紹介しますと、11月10日川内博史議員ぶら下がりインタビュー、11月10日伊波氏・仲井真氏討論、11月8〜12日最高検会見、11月9日検察・検審を糾弾するデモ、11月8日Tweetまとめ尖閣ビデオの流出事件、11月7日仙波敏郎氏インタビュー、11月6日可視化議連会合 がただちに挙げられます。
 この現在無料で視聴できる「岩上安身のオフィシャルサイト」は、ほとんど二三日毎に更新されています。取り上げている話題といえば、先に紹介したようにアップデートなものばかりで、神保哲生さん達が10年年かかって作り上げた「ビデオニュース・ドット・コム」(私は有料視聴者です)が、岩上サイトの前では全く影が薄くなった印象です。神保さんすみません。
 最近では、阿久根市の無給の副市長になって話題となった仙波敏郎氏の警察裏金問題のインタビューは印象が実に鮮烈です。岩上さん自身も驚きの連続でしたでしょう。その他築地の移転問題の解説等々、このような必見のインタビューが現在の所無料で視聴できます。どうして見ないでいられましょうか。
 この事を皆様にお知らせするためにお手紙させていただきました。(笹倉)


 沖縄戦の真実から、今を問う¥Wいに参加して

 10月17日午後から、約4時間にわたる会合に出かけて行った。地上戦の写真が並べられてあって、私が経験した大阪空襲の比じゃないことに改めて驚いた。地上戦のものすごさを知った。読谷村砲撃の写真のすごさ。
 私たちのわが街レポート≠Q号で読谷村のシムクガマのことを書かせてもらったが、再びシムクガマについて書くことにする。読谷村に二つのガマがあり、一つは強制集団自決ガマ、もう一つは一人の死者も出さなかった、生≠フガマ、シムクガマ。シムクガマが生≠フガマであり得たのは、ここには軍隊がいなかったから、と沖縄タイムスの女性記者はいう。
 現実というものはそんなにすっきりとわりきれるものではないと、沖縄に関する研究者はいう。地上戦の真実に迫るのにいろんな相反する事例をあげて、何がわからないかということを提起することが大切と主張される。その方法としてある個人のことにかかわって、その言動を追及していくことによって問題を発見していこうとされる。
 強制集団自決を解明するにも、その事実の中から生≠ヨの可能性を探ることもできよう・・・と。死への方向ばかりではなく。沖縄タイムスの女性記者の話からは、軍隊がいなかったから生≠フシムクガマはあり得たと結論しうるし、敷街して軍備は必要でないともいえよう。
 一方、研究者は現実はそんなにリクツですっきりわりきれるものではないという。その事実の中から負の方向でなく正の方向を探り当てていくことが、大切ではないかという提言。研究者ならではの提言であろうと思うし、学問がディレッタントのアクセサリーではない証しのように思われた。
 さらに今、尖閣列島をめぐって中日間の民衆の間にナショナリズムの高まりがあって、八重山諸島に自衛隊派遣の構想があるやにいわれているが、地上戦の経験はもちろんのこと、軍隊の支配下にあって不幸な事件を耐え続けてきた沖縄。またぞろ自衛隊派遣となると、沖縄の人々はそれを決して許さないだろう。
 それにしても本州の人々の間では沖縄の人々の生活、実状を余りにも知らなさすぎるというか、想像力の乏しさが目立つ。これでは沖縄の人々の本州への不信を強めることになるのは当然であろう。 
    2010.10.19 宮森常子案内へ戻る


編集あれこれ
1面に「日中支配層によるナショナリズムの鼓吹を許すな」とする評論を掲載して、支配者層に対する関係諸国の民衆の連帯した力で彼らの思惑を牽制し押さえ込む共同の努力の創出を訴えました。ところが日本共産党に目をとめれば彼らは「日本の固有の領土」を守れとの立場から、日本の支配者の側面支援の言動をするばかりです。彼らは「固有の領土」派に持ち上げられて得意満面です。この事はまさに「政党の値打ち」が知れる事ではないでしょうか。
 二三面では、「“善隣友好”は労働者の課題」との題で、「支配者層に対する関係諸国の民衆の連帯した力」を掘り下げてみました。四五面では、G20の共同声明の分析記事を掲載しました。
 その他の記事も多彩となっており、読み応えあるものになったのではないかと総括しております。今後ともワーカーズ紙面の充実に努力いたします。
 読者の皆様には、手紙を寄せていただく等、紙面の充実にご協力をぜひよろしくお願いいたします。    (猪瀬)案内へ戻る


 『ワーカーズ』継続購読のお願い

 読者の皆様には日頃のご購読を感謝申し上げます。
 私たちワーカーズ・ネットは、労働者階級の解放は労働者自身の事業である≠ニの立場から労働者・市民による闘いの発展に少しでも貢献したいと考え、その一環として『ワーカーズ』の発行に努力してきました。
 いま、民主党中心の政権が誕生して1年あまりになります。この間、テレビや新聞など大手メディアの論調は、国家中心史観や旧政権か民主党政権かという二者択一の視点に偏るなど、時に目を覆いたくなるものも少なくありません。ネット社会も含め玉石混淆の情報が氾濫するなか、労働者・市民の闘いを前進させる立場からの情報発信が今ほど必要な時代はないと思います。
 私たち『ワーカーズ』は、労働者・市民にとっての対抗戦略づくりや労働者目線での紙面づくりに努力してきたつもりですが、これからも労働者・市民が現実に直面している課題に即した編集・発行に努めることで、闘いの前進に少しでも貢献していきたいと考えているところです。
 つきましては、これまで購読していただいている皆様に、今後も継続して購読されるようあらためてお願いする次第です。『ワーカーズ』の記事もウェブサイトで見ることもできますが、『紙』購読を継続していただければ私たちにとっても大きな励みや支援になります。
 読者の皆様に置かれましても、これまでと変わらないごご支援をお願いしする次第です。 以上。
    『ワーカーズ』読者の皆様へ 2010年11月10日 ワーカーズ・ネット事務局案内へ戻る