ワーカーズ496号  2013/9/15       案内へ戻る

再びすべての原発停止・・今こそ、大量消費から舵を切れ!

 本日、再びすべての原発が停止した。実に喜ばしい出来事だが、原発は停止しても安全とは言えないし、再稼働への圧力も高まっている。原発推進派は全方位的攻撃によって、原発再稼働やむなしの方向へと国民的意識を誘導しようとしている。
 安倍首相らは世界を欺き、2020年夏季五輪東京招致を実現した。猪瀬東京都知事に全運動競技団体、マスコミもこぞって浮かれている。東電の壊れた原発から垂れ流され続けている放射性物質は関東をも汚染し、海洋汚染は世界へと広がろうというのに、五輪に税金を垂れ流し、メダルの数を算段する愚かを何と言えばいいのか。
 消費税増税も目前に迫り、ブレーキのないまま自民党的公共事業は暴走しつつある。かつて、「そんなに急いでどこへ行く」という流行り言葉があったが、リニア新幹線建設も現実化しそうな気配だ。敗戦後の日本は大量生産・大量消費こそが目的であるかのように突き進んできたが、全原発停止は我々に立ち止まって考える機会を与えている。これをのがしたら、破滅まで突き進むことになるだろう。
 大量消費は大量の廃棄物を生み出す。消費に回らない商品と、廃棄物のはざまで日本社会は窒息死しそうだ。食べられることなく廃棄される食品の隣で、飢えて死ぬ人がいる。カローシする労働者の隣に、労働者になれずに野宿を強いられる人がいる。
 経済成長のその先に幸せがあるとかたく信じてきた日本社会、東電福島原発震災がこの幻想を完ぺきに打ち砕いた。だが、五輪やリニアや、巨大商業施設の豊かな商品の山がこの現実を直視することを妨げている。
 脱原発は単なるエネルギーの選択ではない。我々がどのような未来をめざし、その実現に向けてどのような生産を組織するのかをめぐる選択を迫られているのだ。自然を廃棄物で汚しつくす前に、第2のフクシマを阻止するために、今こそ大量消費から舵を切ろう。(折口晴夫) 


原発事故子ども・被災者支援法の基本方針案に市民の怒りが燃え広がる
市民の声を聞かぬ基本方針は撤回を! 1ミリシーベルト以上を支援対象地域に!


 8月30日に、復興庁が原発事故子ども・被災者支援法の基本方針案を発表と同時にパブコメにかけました。当初9月13日までとされていたパブコメは、市民の声に押されて9月23日まで延長されました。9月に入って1週間ばかりの短期間の集中した闘いの成果です。
 そもそも支援法は、チェルノブイリ法を目指そうとの志の下、超党派の議員立法として提案され、昨年の6月に衆参の全国会議員の賛成で成立した法律です。ご存じのように、チェルノブイリ法では、年間1ミリシーベルトを超えれば移住の権利が発生して様々な支援が与えられ、5ミリシーベルトを超えれば移住の義務が発生します。福島原発事故が引き起こした汚染地帯では、そうした施策が必要だとの認識のもとで、超党派で作られた法律なのです。
 内容的には、原発事故を引き起こした責任が国にあることを認めた上で、避難・在住・帰還の自己決定権を尊重し、そのどれを選んでも国の責任で支援を行う、被害者に対して国の責任で健康調査を行い医療を提供する、とりわけこどもの健康への対策を重視する、基本方針や具体的施策の実施については被災市民の声を反省させる仕組みを作る等々を謳っています。支援対象地域については、立法者の考えでは、年間1ミリシーベルト以上の地域が想定されていました。その意味で、画期的な法律でした。
 しかし、支援法を具体的に実施するための基本方針は、法成立から1年半も棚ざらしにされ続けました。国がこの法を棚ざらしにし続けた理由は、水野参事官のツイッター暴言事件によって曝露されました。国は、被害者に配慮したこの法を快く思わず、棚ざらしの果てにお蔵入りにすることを狙っていたのです。
 8月末に復興庁が発表した支援法具体化のための基本方針案は、支援法の趣旨や条文を完全に無視したものでした。それは、支援対象地域を福島県下の浜通と中通りを中心にした33市町村に限定し、千葉・茨城・埼玉・群馬・栃木など関東ホットスポットは完全に切り捨て。福島県民に対しても20ミリまでは安全だから帰還しろ(根本復興大臣は100ミリまで大丈夫論を展開。安倍首相は、過去、現在、未来にわたって健康には全く影響無しと断言)、放射能の影響はフィジカルなものではなくメンタルなものだ、安全ではなく安心を与えるリスクコミュニケーションを重視する等々という、被ばく隠し、被災者切り捨てのとんでもない内容でした。
 しかし、市民の声の急速な高まりを前にして、復興庁側にも動揺の気配が生じてきています。パブコメ延長はその現れです。延長を機会に、福島と東京だけに限定された説明会を、関東ホットスポットでも開催させる必要があります。
 また私たちは、市民によるパブコメは当然のこととして、自治体当局に意見書を出させる働きかけを重視してきました。こうした働きかけの結果、意見書を提出する自治体は千葉県の東葛ホットスポットの全市、そして茨城や埼玉へと広がっています。
 原発事故被害者による損害賠償請求の権利が、来年の3月から時効を迎えてしまうことも大問題です。時効の停止を求めて市民が声を上げていくこと、自治体議会への陳情や請願、自治体議会での意見書や決議案の採択も必要です。
 私たちは、改めて「反被ばく無くして反原発無し」を確認したいと思います。脱原発は、原発に替わるあれこれのエネルギー調達方法についての議論に終始するものではありません。原発の問題点は、何よりも、人と生き物をそのミクロの遺伝子レベルで徹底的に破壊する放射能被ばくを不可避とする点にこそあります。基本方針案を葬ろう!支援法を実現しよう!原発と原子兵器の息の根を止めよう!(阿部治正)案内へ戻る


連載11 オジンの新◆経済学講座 「ソーシャル・ビジネス」の衝撃(上) 上藤拾太郎

●貧困と闘うユヌス
 経済の新しい原理が、台頭しつつある。その一つが、ムハマド・ユヌスが創始した「ソーシャル・ビジネス」だ。オジンも注目している。
 貧困があまねく支配するバングラデシュで、1人の経済学教授が二十七ドルの資金で村の悪徳高利貸しの肩代わりをしたことからすべては始まった。
 低利子無担保の貸し出しは、どの都市銀行家も首を縦には振らない。資金回収が焦げ付く可能性が大であるから。「銀行は世界人口の三分の二近くの人々を拒んでいる」(ユヌス『ソーシャル・ビジネス革命』より)。だから村人は高利貸しの奴隷と化していた。「貧困は人災である」(同上)。この悪循環を断ち切ろうとユヌスは考えたのである。

●配当を拒否する経営!
 村の女性達は、グラミン(村)銀行の資金を元にささやかな「ビジネス」を開始する。彼女たちは雑貨や日用品を制作販売する。畑地を増やし野菜を作り売る。コミュニティ経済のささやかな向上が期待される。その稼ぎから利子を付けて返還する。
 この集められた利子は、貧困者救済の新しい資金としてのみ運用される。ここが味噌だ。だから、貧困な村の女性達が頑張って、利子を返済し生活をささやかながら向上させることが、貧困対策の拡大になるのだ。貧困大衆が自らそれを打破しようとする経済運動なのだ。グラミン銀行の所有者は、これら村の女性達だという。
 ソーシャル・ビジネスとは「一言で言えば、社会目標の実現にのみ専念する、損失なし配当なしの会社」(ユヌス)。
「人間の利他心に基づくビジネス」なので利益を生み出すプレッシャーがなく、利潤最大化企業よりはるかに投資機会が多い(同上)。
「誰しも、他者を助けたいという強い利他的欲求をもっている。これは個人的利益に対する欲求と同じくらい強い。しかし、従来の資本主義は、人間の持つこの強い衝動を活かそうとしてこなかった。その結果、世界経済は偏った成長を続け、格差はみるみる広がった」(同上)。人間へのなんと深い洞察ではないか!
 利潤獲得のインセンティブがなくては経済は成り立たない、という新自由主義・ハイエクの根本批判だ!
 さらにユヌスは言う、慈善は「恩恵を受ける人々の自発性を奪い、自分の足で立とうという意欲を失ってしまう」と。だからワンサイド利他主義(慈善活動)ではなく、相互利他主義をすすめる。それがソーシャル・ビジネスだ。ここで求められているのもやはり互酬性の復活なのだ!

●「神は細部に宿る」
 ユヌスは「ビジネス」という言葉にこだわりがある。ソーシャル・ビジネスも販売により収益を得、損失を出さないようにしなければならない。マーケティングから始まり、製品開発、改良、価格の設定などやっていることは「利潤最大化企業」と同じであることを強調する。無駄を省きコストを下げ安い商品を販売する必要がある(低所得者のために)。「起業家精神を発揮する新たな方法」(ユヌス)だとも。
 くりかえすが、ただ唯一の違いは「利潤の否定」である。収益の残りは社会目標に沿って企業の拡充と従業員の待遇改善に向けられる。「神は細部に宿る」。社会変革という大目標の追及は、企業経営の中にある、というのがユヌスの信念だ。
 さて、ユヌスは利潤の否定が資本主義の否定だとは考えていない。資本主義を補完する別タイプの企業という認識のようだ。「新しい資本主義」(ユヌス)とも。
 ユニクロとも共同ビジネスをするらしい。ダノンなど世界中の多国籍企業と提携しソーシャル・ビジネスにとりこんでいる。これら多国籍企業の「思惑」など、ユヌスは気にもとめない。オジンも恐れ入った、何という素朴さと大胆さではないか!
 ソーシャル・ビジネスは、米国、南米その他世界各地で実践されるようになった。銀行以外にも、携帯電話、健康食品、靴製造その他何でも、貧困者層のためのビジネスを開拓中だ。

●いばらの道行くソーシャル・ビジネス
 「ソーシャルビジネスは、どのような利潤最大化企業とも同じくらいうまく運営されなければならない。」「NPO(非営利組織)の枠組みではなく営利企業の法的枠組みのもとで運営するのが最善」法人税非課税ではだめとユヌスは言う。
 現在、企業利益と社会的目的を同時追及するタイプの企業も急拡大している。例えばイギリスのCIC、低収益有限責任会社、社会的企業等々。
 しかし、ユヌスはこのようなダブルスタンダードの企業経営をキッパリ否定する。「利己心と利他心を同じ乗り物に乗せれば、どちらの主人の言うことも聞けなくなる。」「私は、利益の追及と社会目的の追求に明確な線引きをするソーシャルビジネスこそ、現代資本主義の未完成の穴を埋める最善の方法だと信じている」(ユヌス)。
 ユヌスは協同組合についても同様の批判に立つ。たしかに根拠はある。協同組合は、仮に民主的な運営がなされても、組合員の資産を利用して利益を上げ、配当を還元するしくみだ。組合員や地域への社会的責任を担うにしても、「利益企業」であることも現実だ。
 生協などは、収益か社会的使命かというジレンマに悩み続けてきたのではないか。ソーシャル・ビジネスは、協同組合運動にも大きな影響を与えるに違いない!(つづく)


消費増税──見え透いた消費税パフォーマンス──

 消費税引き上げ判断をめぐって、安倍首相による何とも大げさなパフォーマンスが繰り拡げられた。が、最終的には自身が判断するという。要は、消費増税後の経済動向や、政府による財政・金融のテコ入れへの言い訳づくりなのだろう。あるいは、法律より自身の判断を上位におきたいという〝強い指導者〟を印象づける舞台装置なのかもしれない。
 消費増税で安倍首相がどんなパフォーマンスを見せても、アベノミクスは需要不足によるデフレの継続か、借金が膨らんでの財政破綻か、のどちらかに行き着く他はない。

◆消費税パフォーマンス

 消費増税の可否を判断する材料の一つとして、8月26日から政府による各界有識者からのヒヤリングが行われた。ただし、政府は「賛否の数に直接判断が左右されることはない」とし、「(増税するかどうかは)最終的に私が秋に適切に判断したい」(安倍首相)というものだ。そうであれば、60人もの多数からヒヤリングする意味はない。増税判断に向けた単なる仕掛け舞台、パフォーマンスという以外にない。
 消費増税そのものは、安倍首相は直接決めたわけではない。民主党の野田内閣のもとでの民自公三党合意によるものだ。それをわざわざパフォーマンスによって自分自身の判断の比重を膨らませた意図は、どこにあるのだろうか。それはどう転んでも自身のリーダーシップを強調できるということだろう。
 仮に、消費増税後の経済が腰折れすることなく成長軌道に乗れば、そこで改めて自分自身の判断の成果を誇示できる。あるいは結果が悪ければ、経済指標の推移を慎重に見極め、各会の意見も真剣に聞いた、という言い訳の材料を残すことができる、というものだろうか。
 いずれにしても、何とも無意味で後味が悪いパフォーマンスとなった。

◆カンフル剤効果

 ところで消費増税の判断材料に上げられてきた各種経済指標は、このところ堅調な数値を上げている。
 たとえばこの7月の実績は次のようなものだ。
 消費者物価指数──100・1 対前年同月比 0・7%上昇 2ヶ月連続、4年8ヶ月ぶりの上昇
 鉱工業生産指数──97・7 同 3・2%上昇 2ヶ月ぶりの上昇
 完全失業率──3・8% 同 0・1%改善 リーマンショック直後以来の水準
 有効求人倍率──0・94倍 0・02ポイント上昇 5ヶ月連続の改善
 住宅着工戸数──84459戸 同 12%増 5月以降、3ヶ月連続10%以上の伸び
 一見すると各種経済指標は上向いているが、それはこの間の政府によるカンフル注射の効果が反映したものに過ぎない。いわば、政府のテコ入れによる一時的効果に止まっている。
 たとえば、12年度補正予算や13年度予算で大盤振る舞いされた公共事業などへの財政支出の結果であり、またいは消費増税を控えた住宅取得などの駆け込み需要、量的金融緩和による金融商品や不動産価格の値上がりなどだ。
 4年8ヶ月ぶりの物価上昇にしても、賃金増加などによる需要拡大を反映したものではなく、その大部分が電力料金やガソリン・灯油価格や輸入食料品の上昇など、円安にともなう輸入インフレの結果だ。〝いわば悪い物価上昇〟の結果に過ぎない。
 雇用や賃金なども改善されたわけではない。統計上の失業率が改善されたといっても、就業者数は増えていないし、非正規労働者の比率は増え続けている。正規雇用者の有効求人倍率は0・54倍と低水準に低迷しており、雇用の内実は改善にほど遠い。賃金にしても、一時金などは増えたといってもそれは一部の大企業に止まっている。他方で基本給は6月まで13ヶ月連続して低下し続けているのが現状で、景気を下支えするほどまで持ち直しているとはとてもいえない。

◆土建政治と自己責任

 安倍内閣は消費増税への環境整備として景気動向の改善には強い関心を示しているが、消費増税の大義名分だった税と社会保障の一体改革については,極めて冷淡だ。
 民自公の三党合意で設置された社会保障国民会議がこの8月に提出した医療・介護と年金に関する改革スケジュールの提言でも、浮き彫りになったのは負担増のオンパレードだった。結局のところ、庶民は消費増税と社会保障での負担増で、ダブル・パンチを浴びることになる。安倍自民党は〝公助〟より〝自己責任〟に傾いているからだ。
 消費増税のもう一つの看板だった財政再建について、安倍首相は頓着しない姿勢を示している。14年度の概算要求でも、財政支出の膨張に歯止めをかける姿勢を示していない。それどころか、衆参で多数派を確保した安倍自民党は、族議員が復活・跋扈している。結果的に14年度概算要求は99兆円にも膨らみ、震災復興を隠れ蓑にした公共事業のバラマキや自衛隊の装備費の増加など、安保・軍事面での支出増が際立っている。これでは消費増税分はすべて社会保障に振り向けるとした民自公による消費増税での合意の建前をかなぐり捨て、本来の意図である財政の大盤振る舞いに走っているといわざるを得ない。
 消費増税の判断にも直結するデフレ脱却をめざしたアベノミクス。結局は震災復興やデフレ脱却を大義名分とした財政や金融の大盤振る舞いを続ける姿勢を鮮明にした、というのが真相なのだ。

◆日本はデフレから脱却できるか

 アベノミクスはデフレ脱却を掲げて〝三本の矢〟などと景気へのテコ入れに執着し、その柱として〝異次元〟の金融緩和を進めてきた。デフレは貨幣現象であり、貨幣の供給を増やせばデフレは克服できる、というものだが、そのアベノミクスを政府のお抱え御用学者である吉川洋財政制度審議会会長が批判している(朝日新聞9月6日)。
 それによれば先進国のなかでなぜ日本だけデフレなのかといえば、日本だけが賃下げが常態化してしまったことが原因だ、としている。そのことだけみれば、まさに正論、日本の〝失われた20年〟の本質の一端を突いたものといえる。
 米国や英国・独では毎年名目賃金が上がり続け、00年以降の年平均上昇率を見ても、名目賃金上昇率が消費者物価上昇率を0・1%から1・1%上回っている。が、日本では名目賃金は毎年0・8%ずつ下がり続け、消費者物価指数より0・5%ずつ少なく推移している。それだけ日本での賃下げが突出していることを示している。
 企業は00年以降、何度も史上最高益を記録してきたにもかかわらず、利益を労働者に還元してこなかった。というより、コスト削減によって巨額の利益を手にしてきたのだ。そのこともあって国内総生産の6割強を占める個人消費支出が縮小することで総需要が縮小し、デフレになった、というわけだ。
 この指摘はまっとうで正しい。が、吉川氏は小泉内閣の経済ブレーンであり、経済財政諮問会議の民間委員として派遣労働の規制緩和などを推し進めてきた張本人だ。派遣労働の製造業への拡大などは、労働者の賃下げの最大の要因だったことは明らかであり、自身が労働者全体の賃下げに荷担してことへの無自覚さには、あきれるという以外にない。
 賃下げの常態化に加え、日本だけがデフレに陥ったもう一つの原因は、ゼロ金利など、長期にわたる低金利状態がある。その低金利によって、家計が本来受け取れるはずの金利収入を奪われてきたことが需要の縮小を招いてデフレを長引かせてきたのだ。
 05年1月28日、当時の福井日銀総裁は衆院予算委員会で、93年からの低金利政策で失われた家計の金利収入が、94年から03年までの10年間で154兆円に上ったと証言した。その分は企業の借金や金利返済の減額にまわされたという。要するに家計から奪われて企業に移転した金額がそれだけあったということだ。住宅ローンなど家計の借金を考えず単純計算すれば、低金利が続いた04年から13年までの10年間も加えれば、300兆円(一世帯あたり600万円!)もの所得が家計から企業に移転したことになる。これだけ家計が収奪されれば、個人消費の落ち込みなどで、デフレから脱却できないのは当然のことなのだ。
 デフレの原因は複雑だが、はっきりしているのは賃下げの常態化や家計から企業への所得移転などで、消費が縮小するという、需給ギャップが大きな要因になっているのは明らかだろう。その脱却には、市場に巨額のお金を流すことではなく、賃上げなどで家計を豊かにする以外にないのだ。

◆アベノミクスの行く末

 前に低賃金と低金利の二つを改善しないかぎり、経済の回復はないといった。が、それは現在の安倍政権にできるはなしではない。財界・産業界も反対する。賃上げは輸出主導型経済での対外競争力の低下に繋がり、金利上昇は、国の借金返済が不可能となって財政破産をもたらすからだ。結局、政府による財政・金融のテコ入れによる際限なき自転車操業か、あるいはインフレと財政破綻か、の二者択一の未来しか待っていない。
 そんなアベノミクスに期待することはなにもない。金利は別として、雇用や賃上げなどの改善は、本来的に私たち労働者、労働者団体の役割であり使命なのだ。私たち労働者、労働者団体自身による闘いで勝ち取ることこそ私たちがやるべき事なのだ。
 安倍首相による消費税引き上げ判断のパフォーマンスは、引き上げ後の景気が順調ならば自分の判断の手柄に、景気が腰折れしても、経済指標の慎重な判断や各界の意見を慎重に聞いた上でのことだ、という言い訳にする余地を残したものでもある。
 それに安倍首相は、消費税引き上げ時の景気対策にたびたび言及している。結局のところアベノミクスも歴代内閣と同じ、平常時でも景気後退期でもただ漫然と借金を増やしながら財政・金融のテコ入れを続けるだけ、というのがことの真相かもしれない。
 対処療法を続けるだけの安部自民党政権に抗して局面を打開できるのは、雇用や賃上げを自力で闘い取る私たち労働者自身の闘いだけなのだ。(廣)案内へ戻る


秘密保全法制の制定を阻止しよう

 市民オンブズマン活動の基盤は情報公開請求である。私たちは、情報公開請求を通じて、行政のムダ使いや不正追及を実践してきた。こうした活動が、それまでの官僚による情報独占政治を、国民に開かれた真の民主政治に変革させるために役立ってきたと自負している。ところが、これが今、大きく変わろうとしている。政府は、民主党政権下で審議されなかった情報公開法改正案を国会に提出しないばかりか、10月から始まる臨時国会に特定秘密保護法案を提出することを明らかにした。
 私たちはこの大会で、過去20年間の活動に対して、「秘密保全法アセスメント」の議論を行った。その結果、法案が対象とする国の行政機関が保有する情報だけでなく、地方自治体の情報公開や独立行政法人の情報公開にも影響が及び、法制度が私たちの行政監視活動を著しく妨害することが必至であることを確認した。これは、法制度の制定が市民オンブズマン活動への支障となるだけでなく、この国の情報公開の流れを著しく後退させることを意味する。
 政府は濫用を防止するために、「特定秘密」の対象情報を限定するなどの説明をしているが、これまでの情報公開訴訟において、政府の情報開示に対する解釈が的確でないことは、原告となった市民の勝訴率の高さが何よりも物語っている。秘密保全法制が政府にとって都合の悪い情報をより強固に秘密化することは明らかだ。

 私たちは、秘密保全法制の制定に強く反対する。私たちは、この制度の問題をより多くの市民に伝えるとともに、今大会の資料と質問状を送付することを通して国会議員に働きかけ、秘密保全法制の制定を阻止するために尽力することをここに決議する。 
   2013年9月8日 第20回全国市民オンブズマン京都大会参加者 一同

 大 会 宣 言

 2013年9月7日から8日にかけて、私たちは「このままやったら、あきまへんどすなぁ議員さん」というメインテーマを掲げ、第20回全国市民オンブズマン京都大会を開催しました。
 今回の大会で、地方議会での議員の質問の多くが、必要な調査もしないままなされ、議員のパフォーマンスと化している実態が報告されました。また、政務調査費の違法支出も相変わらず後を絶ちません。にもかかわらず、市民の意見を聞かないまま、使途を拡大する政務調査費条例の改正を行った議会がほとんどでした。
 一方、一昨年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故で新たな汚染水漏れが発生していたにもかかわらず、情報が市民に知らされたのは、参議院選挙後でした。
 ところが、政府は、重要な原発情報もテロ対策の名のもと、特定秘密として非公開にできる秘密保全法(特定秘密保護法)の制定にむけた動きを加速しています。秘密保全法が制定されると、情報公開制度を活用し取り組んできた私たち市民オンブズマンの活動だけでなく、情報の公開と十分な議論を前提とする民主的意思決定システム自体が崩壊しかねません。
 さらに、住民の行政参加に逆行する動きとしては、住民訴訟制度を骨抜きにする地方自治法改正も議論されています。
 このような困難な状況にあっても、私たちは地方から民主主義を活性化させることに希望を持ち、以下の3 点を宣言します。
    記
第1 議員の活動を注視・評価し、地方議会を活性化させること
第2 秘密保全法の制定を阻止する行動を続けること
第3 住民訴訟が市民による行政監視を有効に発揮する制度となるよう運動を続けること

    2013年9月8日 第20回全国市民オンブズマン京都大会参加者一同


コラムの窓・・・
国家安全保障会議(NSC)と内閣情報局の創設、「スパイ」育成・秘密保全法案を廃案にしよう!


 安倍自民党政権が目指す「日本を取り戻す」とは、一千兆円をこえる財政赤字を抱える借金国家の経済的再建と言うより、かつて、朝鮮半島や東南アジア・中国大陸に侵略していった「強い」国を想定しているように思える。
 かつての「強い」日本とは、経済の活き詰まり(1929年の世界恐慌等を含む)から、国家による有効需要を創り出すための財政支出が膨らみ、財政赤字からの脱出に苦慮していたのは今の日本の国情と似ているが、当時の有効需要を創り出す為の財政支出は軍事産業に重きをなしていたから、軍の力は増大し、その権力を維持する為に「挙国一致」をスローガンに、統制と管理によって、国民を騙しつつ、他民族を抑圧し、日本を盟主とする大東亜共栄圏の建設を目指していた。しかし、軍事産業に依拠し、海外侵略に血眼になっていた「強い」国は「反日」の反抗にあい、敗北した。
 こうした経験から、軍事産業に頼らず、自由で民主主義的な国家運営を目指すべきだと考えるのが常識的なのに、安倍政権の「日本を取り戻す」には、こうした常識はなく、アジアの「盟主」としての「強い」日本を思い描くような政策を次々と打ち出し、憲法第9条の改憲の動きをはじめ、国防軍の創設や集団的自衛権の容認など軍事的大国化を目指した動きをあらわにし、今、臨時国会に提出された、国家安全保障会議(NSC=National Security Council)の創設に合わせ、従来の内閣情報調査室を改組して「内閣情報局」を設けることや、国の機密情報を流出させた公務員への罰則を強化する秘密保全法案も国民を監視・統制する動きとして、見逃してはならないものだろう。
 安倍首相は2月の衆院予算委員会で「北朝鮮をめぐる事案も海上保安庁のことであれば警察、空ならば防衛省から(報告が)来る」と情報の縦割りを嘆き、NSCは事務局にあたる国家安全保障局を内閣官房に置いて情報の流れを一元化し、各情報機関に発注しやすい仕組みを整えるとして、外交・安全保障政策の司令塔となる「国家安全保障会議(NSC)」の創設をはかり、政策判断のため各国からの情報収集力を強める諜報(ちょうほう)活動に関わる専門家の育成を検討する「内閣情報局」を設けて、この組織によってインテリジェンス(情報収集・分析活動)機能を強化するのだという。
 そして、秘密保全法制の内容は、●「国の存立にとって重要な情報」を行政機関が「特別秘密」に指定する。●秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」を導入する。●「特別秘密」を漏らした人、それを知ろうとした人を厳しく処罰する(漏洩させた国家公務員らに懲役10年という厳罰を科す)。など、「特別秘密」や厳罰化によって、特別秘密を扱う公務職員だけでなく(独立行政法人や民間企業、大学も場合によっては法律の適用対象になるとしているので)全職員を萎縮させ、隠すべきでない情報の公開にも消極的になることや、自由な研究、情報交換を無用に妨げる恐れは当然考えられることで、国民の知る権利や取材の自由を制限する、これまで何度も立案されては国民が廃案になんとか持ち込んできた、「国家機密法」とか「スパイ防止法」とか呼ばれる法律そのものなのだ。
 安倍政権の反動攻勢に反対し、国民の知る権利を奪い・制限する秘密保全法案を廃案にしよう。(光)
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紹介・・台湾ダークツーリズム


 8月中旬、ほんの数日だが台湾を見て歩いた。旅程は新幹線と貸し切りバスのスタディツアー、その一員として台湾近現代の苦難の跡を訪れた。台湾は〝親日〟だと言われ、日本語を話す高齢者が存在し、日本からのグルメツアーのバスにも遭遇した。
 しかし、日本人は台湾の何を知っているのか、私も何も知らなかった部類に属していたのだが、このツアーで一筋縄ではいかない台湾を垣間見た。 (折口晴夫)

日帝50年の台湾軍事支配
 沖縄、台湾、朝鮮、中国、皇軍侵略の道筋。沖縄は今も事実上、米軍の〝軍事占領〟に苦しんでいる。朝鮮は分断され、中国・韓国とは領土・歴史認識の違いから最悪の関係にある。朝鮮民主主義人民共和国は敵視と蔑視の対象として、政治利用されている。
 つまり、日本人は侵略の歴史を総括できないまま、近隣諸国民衆と真っ当な関係を築くこともできずに、無恥による傲慢で尊大な物言いを日本社会に蔓延させてしまった。台湾とは曖昧模糊とした関係にあるなかで、〝親日〟というイメージだけが浮遊している。それは、50年の軍事支配とは相いれないものだと思うのだが。
 春に映画「セデック・バレ」(第1部太陽旗・第2部虹の橋)を観た。1930年秋、台湾の山深い村で起きた霧社事件を再現した4時間半を超える大作、植民地支配35年にして原住民セデック族が蜂起し、死を覚悟してセデック・バレ(真の人)としての尊厳を守り、虹の橋を渡って祖先のもとへ旅立つ。衝撃的な映画だった。
 ツアーでは勿論、霧社にも行った。台中から高速道路を経由してどんどん山を駆け上がるようなところで、原住民女性ガイドによる案内を受けた。日本軍はまず、駐在所や病院、ダムをつくったという。日本軍がどうしてこんな山奥に来たのか、春に桜のような花が咲き、高原なので気候も温暖だったからだとか。
 原住民による激しい抵抗を弾圧し、安定的植民地支配が確立したと思われたときに発生し、霧社公学校の児童や親ら132名が殺傷された被支配者の反乱は、総督府を驚愕させた。日本軍は飛行機で毒ガス投下まで行い、「味方蕃」を利用して原住民同士を闘わせ、青年男子をほとんど失い生き残った者は平地に追われ警察の監視下に置かれた。
 さて、近代日本の軍事侵略は台湾からはじまったのだが、その発端は牡丹社事件である。台湾南部高雄からバスで東海岸へ、そこに1871年11月、宮古島から沖縄本島の琉球王府へ年貢を運んでいた船が嵐にあって漂着した。上陸した琉球人がパイワン族に襲撃されその多くが殺害された。生き残った者が漢人住民に助けられ、清国政府の保護のもと琉球に帰還した。
 ツアーでは琉球藩民祈念園区も見学したが、墓は亀甲墓のようでその前の碑の「大日本国」という文字はセメントで埋められていた。それは解放後の台湾の政治的変遷によるものであり、倒されたり立て直さりという経過をたどっているようだ。道路の入り口にある家の人が日本語で話しかけてきて、この園区が造られたころの話をしていたようだった。
 日本はこの事件を利用し、西郷従道による台湾出兵(1874年)、日清戦争を経て下関条約(1895年)で台湾を割譲させた。事実上、日本の原発輸出第1号となった台湾第4原発。その地、台北県貢寮郷塩寮には塩寮抗日記念碑がある。今回、足を運ぶことは出来なかったが、北白川宮能久親王率いる近衛師団が植民地支配、軍事占領の第一歩をこの地に記したのは1895年5月29日だった。第4原発は第2の侵略だ。

解放後も続く台湾の苦難
 1945年8月15日は日本軍支配下にあった諸国の人々にとっては解放の日であったが、次に登場したのは国民党軍だった。これが〝日本は狼・国民党は豚〟と言われた、腐敗と賄賂にまみれた外省人支配である。二二八蜂起(1947年)と白色テロ、引き続く戒厳令が解除されるのは1987年を待たなければならなかった。
 二二八蜂起の引き金は2月27日夕、台北で起きた闇タバコ密売に対する過酷な取り締まりと、これに対する自然発生的抗議が鬱積の爆発へと進み、翌28日には全党的抗議へと発展した。行政長官陳儀が蒋介石に軍の派兵を要請し、派遣された〝援軍〟による虐殺が台湾全土で猛威をふるった。
「増援部隊は殺戮に機関銃を使用し、捕えた人々の手に針金を通して繋いだり、耳をそぎ落としたりした。死体は敢えて放置され、麻袋に詰めて川に捨てるなど、残虐の限りを尽くした。淡水河は死体で水面が埋め尽くされ、基隆では崖に追いつめられた学生たちが機関銃掃射されるという悲劇も起こった。いずれも見せしめの要素を含んだ残酷なものであった」(「観光コースでない台湾」高文研)
 高雄博物館の二二八事件展示と二二八和平祈念公園の見学、台北二二八記念館では当時10代だったボランティアの解説と体験談を聞くことが出来た。二二八事件引爆地(蜂起のきっかけとなった場所)には説明版が設置されていた。ここで、白色テロの犠牲者の夫婦(陳明忠さんと馮守蛾さん)と合流し、馬場町河濱公園祈念丘碑へ向かった。
 陳さんは死刑判決も受け、前後2回21年も囚われとなったが、海外からの支援もあり辛くも自由の身となった。拷問にも精神が崩れなければ大丈夫と言い切る、筋金入りの中国共産党員。読書会に入って逮捕された馮さんは10年の刑を受け、兄は死刑となった、とバスのなかで語った。
「馬場町は、砲兵隊の馬の訓練所で、小さな野原だったが、銃殺のたびに血が流れ、土をかぶせたために丘になった」「誰が死刑か、2階から法廷に行く人がわかる。女囚の部屋の窓から見えるので、看守が窓を閉める。私たちは『共産党、万歳』を叫んだ」「白色テロは左翼の人間に対して行われた」「台湾独立派は、日本やアメリカに留学して逃亡。アメリカの援助もあった」
 こうして、台湾は蒋介石らの支配下で38年にもわたって戒厳令下に置かれ、共産党員だけでなく多くの知識人、学生が白色テロの犠牲となった。1992年の政府発表では、推定28000人が犠牲となったとされている。台北二二八記念館のリーフレット(日本語版)には次のように説明されている。
「台湾では1987年の戒厳令解除の前後に『二二八事件公義平和運動』が起きました。民間と政府当局の努力を通じ、歴史の真相追求、受難者の名誉回復、政府による謝罪、記念碑の建設、記念館の開設が次々に促進され、実現してきました」

民衆に向けられる銃口
 国家的暴力、軍であれ警察であれ、手に武器を持たない裁判所も、その暴力は民衆の頭上に振り下ろされてきた。日本軍による植民地支配とそれに続く軍事独裁、朝鮮と同じように台湾においても民衆は苦難の歴史を刻むこととなったが、50年に及ぶ総督府による支配の評価には微妙な揺れがあるようだ。例えば、高砂義勇隊英魂碑には「皇民の赤誠傳えし烏来の里」という日本人による歌碑があった。ここには、過去の時間が流れている。
 高砂義勇隊は日本式改名等の公民化政策、日本語教育を受けた世代が侵略戦争に動員されたものだが、志願者の募集に応募者が殺到し、合格は名誉とされた。1974年にインドネシアモロタイ島で発見された皇軍の補助兵士中村輝夫氏(アミ族名スミオン・中国名李光輝)は、そうした高砂義勇隊の一員だ。日本人として教育を受けた〝日本語世代〟を主題としたドキュメンタリー映画「台湾アイデンティティー」、私もまだ観ていないが、日本の台湾支配を知るためにもぜひご覧になって頂きたい。
 総督府による台湾統治は、ダムの建設や鉄道、港湾施設整備、さらに医療の普及などを行った。これらが台湾の近代化に寄与したことは間違いない。何か勘違いして、日本は〝善政〟を敷いたと言う者もいるが、より多く搾り取るための条件整備にすぎない。例えばこんなふうに。
「日本が韓国を支配下においた時、真っ先にしたことを、現在の韓国国民のほとんどは教えられていないといいます。当時、日本は国の隅々まで小学校を造り真っ先に日本語ではなく民族語のハングルを教えたと聞きます。識字率が大幅に改善され、後の独立につながったと聞いています」「『感謝しろ』とは言いませんが、プロパガンダ教育で歪められた歴史観で物事を非難するのだけは、やめていただきたいと思うのです」(環境カウンセラー小林義明「終戦の日の紙面に思う」・9月1日付「神戸新聞」)
 神戸の鈴木商店は米騒動で有名だが、製糖や樟脳で台湾に進出している。楠から算出される樟脳は防虫剤等の用途のほかに、セルロイドの原料のひとつだったので、戦前期には非常な需要のある重要産品だった。台湾の木材も大量に日本に運ばれ、社寺の建設等に重要な役割を果たしている。つまり、与えるよりも多くを奪う。資源も、労働も、そして命も奪ったのである。
 帰国の日の朝、総統府を見学した。この建物は元総督府、入るのにパスポートが必要で、荷物検査もあったが館内ガイドがついた。歴代総督の施政についての展示もあり、ガイド氏はこの時期・あの時期にあれこれの整備が行われたと熱心に説明した。日本からの見学者向けのサービスか、本心からなのかわからないが、一般の観覧者だったら日本はいいことをしたのだと思ってしまうだろう。
 本紙前号で〝ビルゲイツの贈り物〟は施し物にすぎないとの指摘があったが、施し物は精神に害毒を及ぼし、奴隷をつくりだす。武器による物理的暴力は分かりやすいが、精神を蝕む〝善政〟は知らぬ間に忍び寄ってくる。これら権力の〝銃口〟は国籍も民族も区別なくすべての人々に向けられてきたし、今も向けられている。今夏、2度目の中国南京訪問に引き続き、初めての台湾訪問だったが、得るものの多いダークツーリズムであった。 


色鉛筆・・・五輪どころじゃない

 国際オリンピック委員会(IOC)は7日、2020年夏季五輪の開催都市に東京を選んだ。テレビ・新聞などのマスコミが連日、大騒ぎをして、職場でも「よかったね」「うれしいね」と喜んでいるが、私は喜べない。今やるべきことは山積みのようにあるのに、『オリンピック』という言葉にみんなが酔いしれて知らぬままに環境が汚染され、消費増税・憲法改正がされていくのではないかと不安になる。様々な問題をおい隠すようなオリンピック騒ぎにだまされてはいけない。
 今回のIOCの総会で安倍首相が『状況はコントロールされており、東京にダメージは与えない』『汚染水の影響は原発の港湾内の0.3平方メートルの範囲内で完全にブロックされている』と発言した。私はこの言葉を聞いた時「嘘をつくな!」と怒り、あきれて恥ずかしさを感じていると、「ふざけんじゃない。原発をコントロールできないから、汚染水にこんなに苦しんでいるんじゃないか」と、福島県の漁師さんの憤る声が新聞に載っていた。タンクから高濃度の放射能汚染水が流出した影響で、9月に予定していた試験操業再開を延期している時に安倍首相の発言なのだから、漁師さんの声をIOC委員会に聞いてもらい安倍首相の嘘を暴きたいものだ。                     また、「『完全にブロックされている』なんて現場を知らないから言える。国外では安全と言いながら、我々には言わない。安倍さんは自分の言葉に責任を持てんのか。だったら言葉通りやってくれ」「除染も国が責任を持ってやると言ったのに全然進んでいない」「福島は置き去りか。開催は喜ばしいが、まだ五輪どころじゃない」と漁師さんたちは言う。全くその通りで説得力のある意見だ。福島の人たちには安全とは言わず、約束した除染さえも進んでいないという事実が安倍首相のいい加減さが分かり、きれい事ばかり述べてその場を取り繕い自分の利益になる経済界の為の政策ばかり勧めて、私たち弱者の為の政策は置き去りにされている。2020年までにあと7年、その間に汚染水があふれて海に流出、放射能汚染、原発による健康被害、国の赤字で経済が破綻する等の様々な問題が起こり、約束をした安倍首相はどうにもできなくなって『体調が悪いので辞任します』のひとことで逃げていくだろう。その時、「五輪どころじゃない」と言った福島の人たちの言葉が現実になるかもしれない。「オリンピックという言葉に酔わされないで、今おきている問題を考えていこうよ」と、周りの人たちに話していこうと思う。(美) 案内へ戻る


「読者からの手紙」・・・
○台所と私

 最近、鶴見和子(俊介のお姉さん)のこと、熊野に引っ込んでからのことをよく思い出すようになった。熊野に彼女が引っ込んだのは闘病のためである。彼女は熊野で〝岐路〟と〝回生〟の生活をした。彼女は生と死の岐路に立っていた。そして〝回生〟へ。
 どのようにして? 彼女は台所に立った。自分の食べるものを作った。私は横になることが多くなった。このままだと寝たきり状態になると思った。私も和子さんのように台所に立った。台所で仕事をする。洗いもの、煮炊き・・・和子さんがまずそうしたように。彼女はそこで和歌の世界を見出し、〝回生〟を書いた。
 台所は何となく心なごむ場である。彼女が台所を〝回生〟のための場に選んだのがわかる気がした。彼女が台所に立つことで〝生〟の意味を考えたのであろう。いや感じ取ったのであろう。
 彼女の〝回生〟は、病む友(昨年7月末に逝去)に送って、今、手元にはない。彼女は余り興味をもたなかったのか、より具体的な若一光司氏の〝大阪の地名〟に関する本が枕元にあった。彼女は自分の足で大阪をたしかめたかったのであろう。今、そんなことを言ってもせんないことだが。
 私は寝たきりを恐れて、今、鶴見和子さんのように闘いたいと思って台所に立っている。大阪 宮森常子 

○岐路に立つー〝回生〟への道

 鶴見和子さんは〝生〟か〝死〟かの岐路に立ったとき、彼女は〝生〟を目指す〝回生〟への道を選び、その手段として台所に立ち、自分の食べるものを作り、その生への活きざまの中で和歌の世界を見出した。藤原書店刊の〝回生〟に収められている。
 和子さんは女性であったことが幸いしたようである。というのは、父が大阪市電の路面電車の運転手を定年までつとめ職を失い、自宅で〝毎日日曜〟の生活に入ったとき、所在なくて頭が少々、変になったようだった。
 己の経験による世界、台所しか知らない母は「流しにお茶碗やら何やらつけてあるときには、洗ったら・・・」 などと言った.。台所は昔の男性にとっては、禁断の場所であったから(男子厨房に入らず)〝茶碗を洗え〟という母のコトバは、男性の父にとって屈辱的と受け取ったであろう。1日位やって、後、神さまめぐりをはじめた。
 キリスト教、イエスの教会へ行ったり、神社へ行ったりして、一番ぴったりくるのがお稲荷さんで三輪神社におこもりしたりして、逃げ場を見つけたようだった。和子さんは台所に立ったが、父のような気持ちに襲われることはなかったであろう。父は、家にいないなと思うとお稲荷に行っていた。
 歩けなくなってからは、神棚に何がしかのお金を供え、家族のものが下げて財布に収めると、父は〝お稲荷がもっていった〟と安心したものだった。家族は父のお稲荷信心には何もいわなかった。実害がなかったから。せっせと父が供えたお金を下げていた。しかし、やはり父は、淋しそうだったのを覚えている。
 私も、父のように定職がなく、雑誌つくりに明け暮れていたが、老いと体力の減退のため、とても雑誌の仕事は続けられそうにないから廃刊を考えたが、ここまで(15号まで)刊行してやっと軌道にのりそうなのに、ここでやめてしまうと、私の元気のもとがなくなるように思った。一度は廃刊を考えたが、やはり続けていこうと決心した。私の〝回生〟のためにも。  2013・8・22  大阪 宮森常子  
 
若一光司氏 著書の紹介 「大阪 地名の由来を歩く」「大阪 地名の謎と歴史を訪ねて」「大坂・関西の『謎と不思議』を歩く」  いずれも ベスト親書     案内へ戻る


安倍首相の大ボラ発言

 2020年の夏季五輪とパラリンピックの開催都市に東京が決定した。いつものことだが、国際オリンピック委員会(IOC)総会の決定は疑問だらけである。
 5度目の落選をしたトルコのエルドアン首相は「IOCは五輪を世界に広げようと言う一方で、また過去に開催したことのある都市を選んだ」と不満を述べた。まさにその通りである。
 さらに驚いたのが、IOC総会の誘致プレゼンテーションでの安倍首相の原発汚染水問題に関する発信である。
 「状況はコントロールされている。今後も東京にダメージを与えることはない。私が保証する」「汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされている」「将来も健康に問題はないと約束する」「必ず責任を完全に果たす」と、自信満々に述べた。
 さっそく福島関係者から「あきれた」「違和感がある」との批判や疑問の声が上がった。特に福島第一原発での作業員からは「そんなことを言ってしまって大丈夫なのか」「汚染水問題は簡単に解決しそうにない。深刻だよ」「廃炉まで、これから何十年もかかる。発言には違和感がぬぐえない」と指摘する。
 皆さんは、安倍首相と原発作業員のどちらが現実を直視し、本当のことを指摘していると思いますか?
 安倍首相の「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」「将来も健康に問題ない」という発言を信じられますか?
 原発問題の専門家も「何を根拠にコントロールされていると言えるのかが分からない。安易な発言をしても、約束を破ることになるだけだ」と厳しく批判する。
 事実、「汚染水は港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」と言うが、今も1日300トンの汚染水が海に染み出しており、排水溝を通じて外洋(港湾外)に流れ出ているのである。
 また政府は、原子炉建屋を囲む凍土遮水壁の設置や汚染水浄化設備の増設が汚染水漏れを完全に食い止めることができると言っているが。専門家は「設置までは汚染水が垂れ流しだし、設置しても、どれだけ漏えいを防げるか疑問だ」と言う。
 こうした汚染水漏えいによる放射性物質の垂れ流しについても、外国諸国の方が迅速に対応している。
 お隣の韓国は、今度の汚染水漏えい問題を受け、福島県など日本の8県(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の水産物について、9日から輸入を全面的に禁止すると発表した。韓国政府は8県以外の都道府県で生産された水産物や畜産物に関しても、セシウムなど放射性物質が微量でも検出されれば、日本側に輸出に際して新たな検査証明書の提出を求めることも決めた。
 私たちは、福島第一原発事故は完全に終息していない事をしっかり確認して(原発事故付近の放射性汚染が進んでいること。そこで働く作業員の被曝も進んでいること。そして、放射性物質に汚染された汚染水を大量にどんどんと海に垂れ流し、世界的汚染を広めていること)。現在取り組まれている反原発・脱原発運動をさらに発展させるために具体的行動を起こそう!同時に、原発事故の正しい情報を隠蔽し提供しないマスコミに対しても抗議行動を起こそう!(読者・O)

 
読者からの手紙
雇用規制緩和 「国家戦略特区」導入に反対!

 資本を代表し、大企業優先の政治を行ってきた政権は、大企業支援の「成長戦略」として、解雇自由の「限定正社員」、残業代ゼロの「裁量労働の拡大」、非正規雇用増大の「派遣労働の拡大」など、労働基準法などによって守られてきた労働者保護のためのあらゆる規制を次々と見直し、労働者にとって不安定な雇用状況を作り出してきた。
 今年の7月、財界人らでつくる政府の産業競争力会議の国家戦略特区ワーキンググループ(WG)は「国家戦略特区」の新たな検討課題として、カネを払えば不当解雇でも合法化される「解雇の金銭解決」など労働法制の規制緩和を盛り込むことを検討。
 「解雇の金銭解決」は労働者側の批判もあり、6月の答申では見送られたばかりだったが、自民党の大勝に終わった選挙後、7月に行った財界人らの意見聴取を口実に、特区での導入について再検討することにし、8月末をめどにまとめ、今秋から政府の審議会で議論が始まる雇用の規制緩和の柱にしようというするもの。
 「国家戦略特区」は「成長産業への労働移動など人材の流動化を進め、日本経済の活力を高める目的」で国家戦略特区を設定し、地域限定で規制緩和や税制優遇など大企業に対する支援を行うもので、第一弾としてマンションの容積率緩和などを行うための関連法案を臨時国会に提出。第二弾として雇用の規制緩和などを盛り込み、来年の通常国会に関連法案の提出を計ろうとするものだが、「特区」と限定していながらも、「特区」を東京、名古屋、大阪などとし、「特区」に本社があれば地方支店にも適用するなど、実体的には全国規模で、首切りや残業代なしの無制限の労働時間等、資本・企業にとってやりたい放題のことが許される労働環境を作り出そうとするものなのだ。
 資本・企業の飽くなき利潤追求のために「世界でいちばん企業が活動しやすい国」を目指すアベノミクスとは、非正規社員を増やし、人件費を低く抑えるなど労働条件の改悪と不安定労働を労働者に押しつけ、その犠牲の上に成り立つ。
 労働者の犠牲の上に成り立つ社会、それは理不尽で歪んだ社会なのだ。労働者側の組織だった反抗がない中ではこうした資本側からの労働者“いじめ”は一層進み、絞るだけ絞ろうとする利潤追求は終わることなく続くだろう。犠牲を強いられるものの反抗のみがそれをただす唯一の方法だ。労働条件改悪阻止、労働法制の規制緩和や「国家戦略特区」の導入に反対しよう!(M)     案内へ戻る


編集あれこれ

 前号は、10面で量・質共に充実していたと思います。さて9月8日、2020年に東京でのオリンピック開催が決まりました。オリンピックより、大震災からの復興や原発事故の解決を優先するべきです。
 前号1面は、「原発事故拡大、消費増税逡巡でふらつく政府自民党 生活防衛から新しい社会を目指す闘いへ」と題する記事でした。福島第1原発の汚染水漏出の問題は、原発事故が拡大していることの証です。また、次々と明らかにされる健康被害等一刻も早く脱原発に舵を切るべきです。
 2・3面は、「雇用破壊を許すな!―派遣法改悪の動きを跳ね返そう!―」という記事でした。今回の改悪案は、「派遣元で無期雇用であれば、同じ人がずっと同じ職場で派遣で働ける」、「派遣先の企業で労使合意があれば、働く人を3年ごとに交代させることを条件に、ずっと派遣を使えるようになる」、「26の専門業務(通訳、アナウンサーなど)は最長3年しか同じ職場で働けなくなる」、というものです。現在は派遣労働者を働かせられる期間は、労働者が交代しても3年が限度で、専門性が高い26業種は有期雇用の継続が多いが、ずっと同じ職場で働けた。それを上記のように変えることで、正社員から派遣労働者へ置き換えられていくことは明らかです。26の専門業務は、派遣労働者は3年ごとに職場を変わる必要があり、見つからなければ失業です。結局こうした動きに抗するためには、闘わなくてはなりません。
 3面の、学習会での「慰安婦」というタイトルを使うなと西宮市側が言ってきたこと、非常にひどい話です。4・5面は「エジプトにおける市民闘争」についての記事でした。軍事政権に対する、大衆運動の結集が必要です。
 5面の連載「オジンの新経済学講座」ですが、「施し物ではなく相互扶助を」はまさにそうだと思います。8面の沖縄通信は、オスプレイの追加配備について書かれています。オスプレイについては、10月に滋賀県高島市の陸上自衛隊饗庭野演習場で、日米共同訓練で使用されようとしています。オスプレイ配備に反対の動きを強めていかなくてはなりません。  (河野)       案内へ戻る