ワーカーズ538号  2015/6/15   案内へ戻る

 今こそ巨万の大衆行動を巻き起こし戦争法案を廃案に!

 衆議院の憲法調査会において、与党が推薦した者も含む三名の憲法学者が、国会にかけられている戦争法案は憲法違反だとの意見を述べた。三名の学者がすべて、自衛隊の存在にも集団的自衛権行使にも絶対に反対というわけではないが、しかし現憲法の下ではこの戦争法案は違憲だと明確に発言したのだ。その後も多くの法律家たちが、戦争法案は違憲であり立憲主義に反するとの声を、続々と上げる事態となっている。

 このことは、安倍政権が強行しようとする政治手法がどんなに怪しげで無法なものであるかを暴露し、そのことによって戦争法案自体が持つ著しい危険性を改めて強く浮き彫りにした。そして〝法律に憲法を合わせる〟だの〝国民を守るのは憲法学者ではなく政治家だ〟だのという閣僚や与党幹部の発言が、それに更に拍車をかけている。こうして、当初は形勢が不利だとみられていた戦争法案反対の国民運動は、いま急速に活気づき始めている。

 しかし、この期に及んでも、戦争法案を成立させようという安倍首相と与党の意思は揺らいでいるようには見えない。国会を8月まで延長し、さらには参院が否決したとしても衆院優位の60日ルールを利用してまで、何が何でも成立させようと躍起になっている。

 戦争法案成立に向けての安倍晋三らの固い決意の背後には、支配層の強い危機意識がある。中国の台頭と米国の力の相対的後退の中で、国際政治の舞台での自らの地位が大きく揺らぎ始めていること。鳴り物入りで打ち出した経済政策=アベノミクスも、異次元金融緩和がもたらす円安効果と「後は野となれ」式の公共事業大盤振る舞いに頼ったかりそめのカンフル効果以上のものはもたらしていないこと。これらの事態は、彼らの支配の正当性を疑わせ、それを急速に失わせてしまいかねず、そのことに対する支配層としての強い危機意識が、安倍晋三らをして、著しく無法で強硬な政治手法に一層駆り立てることとなっている。

 だとするなら私たちは、憲法学者たちが活気づけた国民運動をさらに発展させることに尽力しつつも、しかしそこにとどまることなく、現在のアジア情勢や日本経済のどん詰まり状況を安倍晋三や自公とは異なった内容と方向で解決していく方向と展望をも模索しながら、この闘いに臨んでいく必要がある。アジアにおける軍拡と覇権争いには六カ国協議と東アジア共同体構想の再活性化、そして何よりもアジア諸国の労働者民衆の連帯を対置しよう。矛盾を深めつつある利潤動機の経済システムに対しては、人々の暮らしと福祉のための連帯と協働の生産システムに向かって前進すべきことを対置しよう。そうした社会変革の運動と結びつけて、戦争法案反対の大衆行動をさらに大きく巻き起こしていこう! (阿部治正)


 エイジの沖縄通信(NO・12)・・・「ここは辺野古学校だ」

1.辺野古の陸と海の闘いは粘り強く続く!

 沖縄防衛局は台風で影響で辺野古沖の作業船を撤去していたが、2日3週間ぶりに大浦湾での海底掘削(ボーリング)作業を再開した。

 これまで40トンもあるコンクリートブロックを海に次々に投下してサンゴを傷つけてきた。今度はスパッド台船3台、大型クレーン船1台を繰り出し海上ボーリング作業。スパット台船から海底に掘削棒を突き刺すボーリング作業が毎日続けられている。辺野古の海の悲鳴が聞こえる。

この海上ボーリング作業を何としても止めたいと、浜から出発したカヌー隊は湾内に張られたフロート沿いに待機し、スパッド台船への突入の機会を伺う。そして合図と同時に一斉に突入。一部は船から飛び込みスパッド台船をめざす、他のメンバーは4連のフロートに跨り、カヌーを引っ張って中に入っていく。

 「辺野古の海の破壊を止めたい」と荒れる海に乗り出し抗議するカヌー隊のメンバー。辺野古のゲート前では市民が、「辺野古の海を守りたい」との思いで朝6時から工事車両の進入を阻止する座り込む抗議行動を展開している。こうした必死の行動が毎日辺野古で続いている。

 政府は県警機動隊・海上保安庁・民間会社警備員などを総動員して暴力むき出しの弾圧を繰り返しており、死者が出てもおかしくない状況で、救急車で運ばれるけが人が続出している。4日には、海上保安庁のゴムボートが海上を泳いでいた市民に衝突し乗り上げる事件が発生した。衝突された男性は「ゴムボートが乗りかかってきた時は『死んだ』と思った」と述べている。

 米軍も基地警備員(米軍に雇用された人)を動員して抗議リーダーの山城博治さん等を不当逮捕するなどの直接弾圧に乗り出している。このように安倍政権は米軍と一体となり権力を振りかざし、沖縄の民意と辺野古の海を傍若無人に破壊し続けている。

 しかし、ウチナーンチュ(沖縄人)はまったくひるまない。沖縄は70年間も反基地闘争を闘ってきた歴史がある。その原点は「共同の力」(みんなの力)だ。

辺野古で10年以上続く座り込み行動の前線に立ち続けてきた、ヘリ基地反対協議会の安次富浩共同代表は「10年前の辺野古沖基地建設ボーリング調査の時と比べものにならないほど、支援の輪が全国に広がり全国から様々な支援者が辺野古に来ている。海外の識者の支援もある」と語っている。

 辺野古ゲート前でいつも闘いの先頭に立ち大きな声で抗議する山城博治さん。彼は現在残念ながら病気療養中であるが。彼が言った言葉「このゲート前には、年寄りも若者も、男性も女性も、ウチナーンチュもヤマトンチュ(本土の人)も、多くの人が新基地建設を阻止するぞ!との一点で結集し、ゲート前では皆が協力し合い、助け合い、励まし合い、頑張っている。ここは『辺野古学校』だ」が忘れられない。

 この安倍政権の暴走を、「共同の力」(みんなの力)で止めようではないか。

2.全国で「辺野古写真展」を開催しよう!

 名護の有志が始めた「辺野古写真展」(辺野古の”今”)を紹介する。

 上記で報告したような辺野古の実情がなかなか本土の人に届いていない。そこで、名護の有志は辺野古の闘いの写真や資料を集めて、「辺野古写真展」を完成させた。全国各地でぜひ「写真展」を開催し、辺野古の実情を知って欲しいと「全国巡回写真展」を呼びかけている。

 写真の種類は、「大浦湾の自然」(ジュゴンやサンゴなど)、「現場の海上行動」(カヌー隊の抗議行動や海保の暴力実態など)、「ゲート前行動」(ゲート前集会や抗議行動、機動隊の強制排除など)、「特別写真」(琉球新報や沖縄タイムスや写真家など)等、約200枚の写真が用意されている。その中から必要な写真だけも展示できる。

 細かい「貸出し要項」についての問い合わせは、Eメール:save_henoko@yahoo.co.jpに。静岡でも7月にこの「辺野古写真展」を開催する。

 全国の皆さんも、ぜひ「辺野古写真展」を取り組んで下さい。(富田 英司)案内へ戻る


 衝撃 集団的自衛権「違憲」証言  戦争立法の流れを変えよう!

集団的自衛権容認、つまり自衛隊が海外に軍隊を展開して、武力行使をするということが、現在の日本国憲法第九条に違反することは、高校生でも分かるリクツでしょう。

ところが、安倍首相という現役首相が、それを「合憲」と去年閣議決定し、それらの法制化を今国会で強引にはかろうとしてきました。その論戦のさなか自民公明(その後公明は推薦しなかったと、足並みの乱れも露呈)など与党の推薦人学者ですら「違憲証言」という事態に。

そのあまりの矛盾が暴露され、国民多数が声を上げ始めたようです。

六月七日の新宿で、谷垣幹事長らの街頭演説に対して、画像で見る限り多数のおじさんやおばさんたちが「戦争反対」「違憲」「帰れ」コールをしていた。画像で周囲を見渡しても、自民党支持者らしい聴衆の集まりは見当たらないという様相でした。

NHKのみが、谷垣幹事長のアップのみで、反対コールの多数の聴衆を無視したようです。

ところで、かつて集団的自衛権は違憲、という認識は自民党内ですら普通の見解であったようです。戦争立法の中心人物である中谷防衛大臣も少し前までは、集団的自衛権=違憲という認識であったことが暴露され、自民党・公明党もがけっぷちに追い込まれています。

以下『日刊ゲンダイ』の報道から。

【ここから日刊ゲンダイ6/10引用】
自民党推薦の学者までもが、現在審議中の集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案を「違憲」と明言したのだから安倍自民は立つ瀬ナシだが、最も困惑しているのが中谷元・防衛相だ。5日の衆院特別委で、民主党の辻元清美議員に「大臣も(これまで)参考人の方と同じことをおっしゃってきた」とツッ込まれ、タジタジだったのである。

委員会で辻元議員が指摘したのは、中谷大臣の著書の記述と雑誌での対談。07年11月に出版した「右でも左でもない政治―リベラルの旗」(幻冬舎)には、こうある。

〈私は、現在の憲法の解釈変更はすべきでないと考えている。解釈の変更は、もう限界に来ており、これ以上、解釈の幅を広げてしまうと、これまでの国会での議論は何だったのか、ということになり、憲法の信頼性が問われることになる〉
2年ほど前の雑誌の対談(「NEW LEADER」13年8月号)ではこう言っていた。
〈政治家として解釈のテクニックで騙したくない。自分が閣僚として「集団的自衛権は行使できない」と言った以上は、「本当はできる」とは言えません。そこは(憲法)条文を変えないと……〉

これら過去の発言との整合性を問われた中谷大臣は、「他国を防衛するための国際的な定義による集団的自衛権と、我が国の存立を脅かし、国民の権利を根底から覆される明白な危険がある事態に限った集団的自衛権は違う」などと、意味不明の苦しい答弁を繰り返した。

自衛隊出身の中谷大臣は、もともと9条を改正することで集団的自衛権の行使を可能にすべし、という考えの持ち主。安倍首相がゴリ押しした「解釈改憲」は本意じゃない。だから「“日本版”集団的自衛権」みたいな訳のわからない説明になってしまうのだ。・・・【日刊ゲンダイここまで】

ここにきて自公与党の「敵失」から流れが変わる可能性があります。戦争立法の危険性がつぎつぎと暴露され、与党も混乱してきました。これからが山場です。反対世論をもりあげてゆきましょう。(遠)


 安倍政治の特異性とジレンマ

党首討論で「ポツダム宣言」への論及を拒否した安倍政権の特異な性格を、あらためて強く感じています。つまり、戦後体制を本音では否定したい。ところが、公言できないジレンマなのです。

■たんなる「歴史認識」の問題ではない謝罪拒否

回り道のようですが五月二十五日に公表されたロイターの企業調査を詳しくみてください。

この調査はロイター短観と同じ期間・対象企業で実施。資本金10億円以上の中堅・大企業が対象。5月7日─19日に400社を対象に行い、回答社数は240社程度。

[東京 ?25日 ロイター引用]
『ロイター企業調査』
- 5月ロイター企業調査によると、安倍晋三首相が今夏に発表する戦後70年談話については、謝罪の言葉を盛り込むべきとの回答が6割を占め、日本の国際的信用や事業への影響を懸念する声が聞かれた。【ロイターここまで】

まずは安倍首相が夏に予定している「七十年談話」からはじめます。そのなかに、村山談話などを引き継ぎ侵略戦争や従軍慰安婦問題で「謝罪」を盛り込むかが焦点となっています。そして、先日、安倍首相は国会で「わたしが謝れば、これからの人たちも謝り続けなければならなくなる・・」という訳の分からない理屈で、「謝罪」の盛り込みを事実上拒否しました。

ところが、国民も多数が謝罪の意義を理解しているばかりではなく、「謝罪を盛り込むべき」という企業は、大企業を中心として、六割あるということがロイター調査で明らかになりました。その理由として企業があげているのが以下のものです。

「盛り込むべき」との回答企業からは数多くのコメントが寄せられたとロイターは言います。目立つのは「歴史の誤りはまず謝罪すべき。そうでないと国際社会で容認されない」(建設)、「世界における日本の位置づけを向上させる必要」(機械)など、企業にとって海外ビジネスを展開する上で国際的信認が不可欠との意識がある。

特に、「日中韓関係改善なしにアジアでの発展はない」(多くの企業)との声も多い。「謝罪を盛り込まないことによるメリットは見いだせない」(小売)との指摘もある。

これらのコメントは、資本・企業のいわば経営上の合理的思考の上に立ったものでしょう。つまり、過去の歴史にこだわったり、特異なイデオロギーにこだわっては商売はできない、と。とりわけ、現実にアジアや特に中韓諸国と関連して経済活動をしている企業にとってはこだわるだけバカバカしいと。むしろ「謝罪しないことで得るメリットはなにもない」わけです。

このような大資本の一般的な意識とかけ離れているのが、安倍首相の「信念」であることは明瞭でしょう。資本の合理主義とは異質なアベイズムの神髄です。

安倍首相は、法人税減税や、金融大緩和政策や、大型公共投資その他企業中心の経済政策を展開してきたことは、これもまた事実なのです。財界大企業に対する「奉仕」ぶりは、歴代政権でも、有数でしょう。つまりこうして企業を飼い馴らしながら安倍ワールドに引き込むつもりなのでしょう。

その証拠に謝罪問題では、安倍氏は引こうとしません。日本を代表する企業にデメリットをもたらせようとも、たとえ損害を与えても「謝罪はしない」という腹の括りようです。

ここには、世間の言うような歴史認識の問題が横たわっているのはわかります。しかし、それにとどまるものではないでしょう。

安倍首相からすれば、「昔のことだからもう謝る必要がない」のではなく「そもそも、謝る理由がない、だから謝るつもりはない」のでしょう。「日本軍が関与した従軍慰安婦問題などなかった、南京大虐殺などなかった・・」と。

しかし、これは決して学者が究明すれば済むような意味での個々の「歴史解明」の問題ではありません。安倍首相やその仲間たちの世界観は、「戦前の日本の植民地支配は国土を開発し豊かにした、決して侵略ではなく、欧米諸国こそ侵略者なのだ、それと戦った日本こそ正当なのだ、それゆえにポツダム宣言や東京裁判は認められない」と言うことなのですね。根本的世界観がちがうのです。

つまり「謝罪拒否」は安倍首相の反動的世界観の端的な表れにすぎません。今回、国会で共産党の志位氏の追求をうけた際ポツダム宣言への論及から逃げたのも、さらに「謝罪」をしないと屁理屈をつけるのも、安倍首相のホンネは「侵略でないのに謝る必要がない」し「そもそもポツダム宣言は不当」であるからなのでしょう。

しかし、その本音を今ここでぶちまけてしまえば、国内どころか米国をはじめとする国際社会から十字砲火を受けるので、じっと我慢の安倍首相なのでしょう。

「対米従属」とこき下ろされようが、「ポツダム宣言も知らないのか」とあざけられようが、超大国アメリカとの同盟を基軸にすえながら軍事国家として復活を果たそう、という野心を燃やしているのでしょう。

■安倍首相の戦略的「プルトニュウム保有」

ところで、志位氏の所属する共産党の「しんぶん赤旗五月二十九日」には、あいもかわらず一面見出しに「(安倍内閣)究極の対米従属うきぼり」とでていました。ほかにもよくある見出しに「財界べったり」というのもあります。

これでは安倍政治の特異性は見えません。日本の反動派の本質は見えません。「究極の対米従属」であるなら、米国の主導した東京裁判を認め、ポツダム宣言をハッキリと認めるはずです、閣僚の靖国参拝を米国の指示に従って一切やめるでしょう。「謝罪」も繰り返す。そうすれば、「国際社会からの」やかましい干渉や、とりわけ中国・韓国からの非難は一掃できるはずです。

安倍氏はそうはしないのです。非難の嵐が巻き起こっても必死に誤魔化しつつもこのような非難に屈するつもりはないようです。

さらに、「安倍首相は財界べったり」という見方も同様です。これもズレた批判に思えます。

上記の「謝罪拒否問題」で、安倍首相の「信念」ないしは執念のために、大企業に対しても遠慮せず不利益を押し付けようとする事実を指摘しました。これだけでも「大企業ベッタリ」とはいえません。

これは原発問題でも知られるところです。冒頭のロイター企業調査のつづきをご覧ください。

【ロイター5/25 引用】
2030年時点の電源構成で適当と思われる原子力発電比率は20%未満との回答が全体の69%にのぼった。政府案の20─22%よりも低い水準で、原発の廃炉コストの高さや安全性への不安が示されたかたちだ。
2030年時点のエネルギー構成比率について、企業が適当と考える比率は政府案より低くなった。火力や水力、再生可能エネルギーを含めた電源構成のうち、原子力比率は「10%未満」が適当との回答が25%、「10─15%」が17%、「15─20%未満」が27%となった。
理由として目立ったのが「想定外の災害への対応が困難」(電機)など技術的不安と、「廃炉コストまで考慮すると非常に高くつく」(卸売)ことだ。ただ「急激な原発比率低下は難しく、一定量の原発稼働は必要」(多くの企業)と現実的な対応を求める声がある。【ロイターここまで】

上記調査によれば大企業を中心に、エネルギー構成比率で原発は二十%以下が適当という認識がほぼ七割なのです。「10%未満」が適当との回答が25%にも達しています。

原子力関連企業以外の企業は、原発にこだわらない姿勢はあきらかなのです。経済的合理性から言えば、原発は未来を担う電源たり得ないのだからです。危険であり事故でもあれば収拾がつかない。その上これからは「安全コストが跳ね上がる」のは確実です。

即座に再生可能エネルギーに全面移行するのは無理としても、インフラが確立し発電費が低コストになれば、原発を必ずしも必要としなと企業が考えても不思議ではありません。「脱原発」はそれ自体、資本企業のコスト合理性と矛盾するものではないのです。

つまり、私の言いたいことは、ドイツの脱原発路線が意味するように、プルトニュウムを保持したいとい願わないのであれば、資本主義でも脱原発は可能なのです。


言い換えれば将来にわたって核兵器の保有国になるつもりがないのなら、ドイツのように資本主義経済と脱原発はなにも対立するものではない、ということです。

そうなのです、ここでも安倍首相は日本資本主義の経済的利益ではなく、政治的・軍事的優位を優先しているのです。独自の核武装の可能性を担保したいと必死の策動をつづけているようにみえます。米国や中国にやがては対等に渡り合うためには、核武装を必須要件として彼は考えているようにみえます。

安倍氏は、その理由をストレートに言えないので、「ベースロード電源」という不可解な理屈をこね回すのでしょう。これについては高橋洋氏(都留文科大学文学部社会学科教授)による詳細な批判が展開されています。参考にしてみてください。http://www.asahi.com/articles/ASH5Y5J98H5YUEHF00G.html

安倍首相の原発政策は、経済合理性に立脚しているものではなく、原子力村の体制を存続させることで核技術を維持しそしてプルトニュウム保持のためです。原子力村の救済という経済的事情のみではないでしよう。輸出産業としての原発など、おそらく二次的な意義しか持たないでしょう。

安倍首相が、半ば公然とそして半ば隠然とたくらんでいること、つまりは戦前回帰路線は、国内的な矛盾と国際社会(米国中心体制)との矛盾を実は内包しています。安倍政権のこのような戦略上のジレンマをつねに理解しておく必要があると思います。(文)案内へ戻る


 南シナ海の平和的共同利用を

南シナ海の緊張が高まっています。この地域で図抜けた軍事大国となり、海洋進出を目指す中国が割り込むように強引に基地造りを始めたからです。

領有権を争っている六カ国とは、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も一部領有権を主張しています。ブルネイ以外は、南沙諸島に軍施設を有しているのが現状。しかも、「領有権」の既成事実化として各国は民間人の入植事業にも力を入れているらしい。国際法上有利な立場を主張できると考えられているからです。

中国に対する脅威が高まるこの地域で、国際的な軍事進出を目指している日本の安倍首相へ、特に米国からの期待が高まっているとの報道があります。四月に米国議会で新同盟関係をぶちふげたからでしょう。安倍政権による危険極まりない軍事的関与を断じて許してはなりません。

[シンガポール 6月1日 ロイター]
「日本に対する南シナ海関与の強化に期待」(見出)
- 5月31日に閉幕したアジア安全保障会議で、米国が日本に対する南シナ海関与の強化に期待していることが鮮明となった。
共同声明は、日本の安全保障政策の変化にも言及。《地域及び世界の安全保障に、より大きな役割を果たそうとする日本の最近の取り組みを歓迎し支持した》とし、自衛隊の役割が南シナ海にまで広がることへの期待を強くにじませた。
米国は日本に対し、装備協力や共同訓練などを通じて東南アジア諸国の防衛能力向上の支援を求めるとともに、自衛隊に米軍と共同で南シナ海を哨戒してもらいたいと考えている。【ロイターここまで】

■南沙諸島めぐる現状

そこでまずは南沙諸島の中国、フィリッピンさらにベトナムの「前線基地」の現状を簡単にみてみよう。

「ロイター通信6/1より」
中国は南シナ海の大半で領有権を主張。年間5兆ドルの貨物が行き交う海上交通の要衝である・・。
★同諸島で中国は少なくとも滑走路1本や他の軍事施設の建設を押し進めるが、同国当局はこうした作業の民間的な側面を強調している。
中国外務省国境海洋事務局の欧陽玉靖局長は、国営メディアに対し、中国は南沙諸島での施設を軍事利用する「あらゆる権利」があるとしたうえで、施設は「主に民間目的」に使われるだろうと語った。
同局長はそうした民間利用の例として、海難救助や防災、科学的研究、気象観測などを挙げた。26日の国営メディアの報道によると、中国は南シナ海で灯台2基の起工式を行った。
★フィリピンが実効支配する南沙諸島のパグアサ島・・では、約135人の兵士や一般市民が共同で野菜を作るなどして生活を送っている。1年前に夫と息子と一緒に同島にやって来たというロベリン・フーゴさん(22)は「すべて無料なので生活できる」と語った。
★一方、ベトナム国営メディアによると、同国が実効支配を続ける南沙諸島のサウスウエスト島では今月、小学校が開校した。同諸島で過去2年間にべトナムが建てた学校は3校目となる。診療所も改良工事が行われているという。
国連海洋法条約の下では、一般市民の人口や経済活動を維持するために必要な島の能力は、200海里の排他的経済水域(EEZ)を主張できるかどうかを判断するのに必要不可欠だと、弁護士たちは指摘する。
【ロイターここまで】

■そもそも固有の領土・領海など存在しない 共同利用・共同管理こそ有益

【コトバンクより】
国連海洋法条約 (UNCLOS )では、海岸線から200カイリ までを排他的経済水域 (EEZ )と定めるが、多数の島が散在し、かつ島の領有権が不明確な南シナ海では、その策定が困難である。タイランド湾の石油と天然ガスは、カンボジア 、タイ、ベトナム、マレーシアがEEZを主張する海域にある。また、ナトゥナ諸島周辺にも大規模なガス田が存在し、インドネシア、中国、ベトナム、マレーシアの各国が領有権を主張している。スプラトリー諸島も各国が入り組んで複雑な権利を主張している。各国がいくつかの島を占拠・占領するなどして、軍事衝突も含む対立が深刻化している。【コトバンクここまで】

各国の無秩序な「島取り合戦」は国際法の「 無主地先占の法理」、 持ち主のいない土地は先に自分のものだと宣言し、 なにがしかの実効支配を及ぼした国のものになるという理屈に立ったものです。これが、この地域では問題を先鋭化させています。

裏返せば、前記のように各国が今ごろ既成事実を慌てて創り出している最中であり、「固有の領土、領海」したがって排他的経済水域 (EEZ)と言ったものが存在しないことを自ら証明しているようなものです。おなじように「固有の国境線」と言ったものも存在しないのです。

ですから、現在進行中の南シナ海の領有権争いは、妥協することで当事者諸国で平和的に解決しうるのです。脅威とされている中国も、現時点では他国住民をを暴力で追放するような軍事的占領ではないのが現状です。

このような状況の中で第七艦隊の一部を南シナ海に派遣した米国や、そのさそいにのって日本の安倍政権がもし加勢するとすれば、それこそ軍事侵略になってしまうでしょう。辛うじて保たれているこの地域の秩序が、一層の危険にさらされるのはあきらかでしょう。

ベトナムやフィリッピンも、「対中国」ということで米日の軍事力にすがり付こうとするのだとすれば、それは紛争を拡大する危険な行為です。

「2010年 の東南アジア諸国連合 地域フォーラム(ARF )では南シナ海問題 が取り上げられ、11年7月には中国とASEAN 外相会議は南シナ海での協力推進をうたったガイドライン (指針)を承認した」のです【コトバンク】。すでに一定の成果はつみあがっているのです。

ASEANなどが中国との調停に立ち、海底資源開発などは相互交渉により、できれば「当事者たちの共同利用」と言う方法で、 双方の国民にとってより大きな利益の追求こそがなされるべきです。 領海・国境線問題を相対化するべく努めること。 決着を留保した上での、 関係諸国による共同利用、 共同開発、 相互交流や平和交流の拠点化を試みること等々こそが現実的利益というものです。(文)


 コラムの窓・・・2020年のこの国のかたち

 5年後の2020年、東京五輪が開催されるだろう年です。そうなると、大多数の国民はメダルの数に一喜一憂していることでしょう。今も、利権まみれのFIFAにもかかわらず、サッカー女子W杯が始まるやそんなことはどこへやら、連覇期待の日の丸乱舞となっています。政治や現実社会への不満をスポーツイベントの熱狂のなかに解消する、とりわけオリンピックにはそうした役割があるのです。

 しかし、2020年のこの国には監視カメラがあふれ、12桁の番号(マイナンバー)で全住民が国家に管理されていることでしょう。犯罪捜査はまず監視カメラの映像を解析し、12桁の番号に紐付された個人情報を収集し、GPSによる位置探索、日常的な盗聴によって完結し、その操作網からは誰も逃れることはできないでしょう。

 そのGPS捜査、令状のない捜査は「プライバシーの侵害」で違法との判決が6月5日に大阪地裁でありました。密かにGPS端末を車に取り付け、それで得た資料を証拠として提出されたものを、違法捜査で得た証拠は採用でしないとしたものです。当然の判断ですが、過去には逆の司法判断も出ており、警察は何をするかわからない、裁判所もそれを追認することが多く、この国の刑事司法は酷いものです。

 この国の犯罪捜査は多くの冤罪を生み出してきました。拷問まがいの長時間の尋問によって自白させ、必要なら証拠をでっち上げることもしてきました。警察や検察は事実を明らかにすることよりも、犯人を捕らえることを重視してきました。裁判所も自白偏重で、まともな証拠がなくても自白さえあれば有罪判決を書いてきました。

 2010年の大阪地検特捜部「フロッピー証拠改ざん事件」(厚労省村木さん冤罪事件)に端を発した刑事司法改革は、警察や検察に取り調べの録音・録画(可視化)を義務付けることを課題としていました。しかし、ふたを開けてみたら冤罪防止はどこへやら、可視化の対象は刑事裁判の2~3%に過ぎません。その一方で、捜査側に都合のいい司法取引の導入や、通信傍受(盗聴)の対象拡大などまさに焼け太り、法務官僚のやりたい放題です。

 5月19日、この司法改革関連法案が審議入りしています。朝日新聞は「成立すれば捜査や公判の在り方が大きく変わる。ただ、与野党からは、可視化が一部に限定されたことや、司法取引が新たな冤罪を生む危険性を懸念する声が相次いだ」(5月20日)と報じています。安倍自公政権のトンデモ諸法案、戦争法案、残業代ゼロ・生涯派遣法案、マイナンバー法改正案(利用拡大)、そして刑事司法改革関連法案、こんなものすべてが私たちの生活にのしかかってきたらどうなるでしょう。

 予想される2020年のこの国のかたちに危機感を抱くのは、こうした悲観的予測からです。何でも反対だと言われようと、安倍政権の総てに反対するほかありません。なにしろ、官僚どもは「アベ与しやすし!」とありとあらゆる在庫(懸案)を総放出しているのですから、私たちは総反対するほかないのです。疲れても頑張りましょう。 (晴)案内へ戻る


 米国のイラク軍事「支援」の実態 自衛隊の行き先 中東の内戦

現在の日本の国会で、「集団的自衛権」の違憲性の認識が広がってきた。当然とはいえ、それは素晴らしいことでしょう。

集団的自衛権とは、いうまでもなく同盟国である米軍を補佐し守るために、自衛隊が海外で活動することです。それは、また当然軍事活動です。

ところで、集団的自衛権を現実化する立法が今国会で万一成立すれば、もっとも可能性が高いのが、イラク地域での米国支援でしょう。そのイラク・シリア地域の軍事情勢は極めて危険なものとなっています。以下に「ロイター通信」の解説を一部引用してみます。

[6月2日 ロイターPeter Van Buren]
- イラク 治安部隊は昨年6月、同国第2の都市モスルが過激派組織「イスラム国 」に制圧された際、多用途装甲車両「ハンビー」2300台を奪われた。これはアバディ首相が5月31日に国営テレビに明かしたものだが、イスラム国に奪われた米国製の武器はそれだけにとどまらない。
つまり言い換えるなら、米国はイスラム国 に対し、他の方法では得ることのできない戦争の道具を効率的に供与していることになる。
アバディ首相は「多くの武器を失った」と認めている。
米国はまた、イラク 軍の訓練にも引き続き資金を投じている。現在は約3000人の米兵がイラクに駐留し、イスラム国 との戦闘に備えるべくイラク兵の訓練を行っている。米議会が今年に入って承認した国防予算案には、約12億ドルがイラクでの訓練費用として盛り込まれている。米国は2003─2011年にイラク治安部隊の訓練に総額250億ドルを費やしたが、これは今となっては悲しい現実だ。

こうした莫大な投資の成果はどうか。イラク 軍はモスルに兵力3万人を集結させていたが、イスラム国 の戦闘員約1000人を前に退散した。数週間前にはラマディでも同じことが起きた。イスラム国の戦闘員はわずか400人だったにもかかわらず、1万人のイラク軍兵士は雨に濡れる段ボール箱のごとく簡単につぶれてしまった。
米ジョージ・メイソン大学マーカタス・センターの経済学教授、クリス・コイン氏は 「政府が機能不全で無力な国にさらに軍需品を提供することが、イラクや周辺国に良い結果をもたらすという自信は一体どこから生まれるのか」
上記で列挙したような重火器がイスラム国 の手に落ちることは、米国の中東政策の目標にも甚大な影響を及ぼす。国連安全保障理事会向けに書かれた報告書によれば、イスラム国はすでに、シリア とイラク でさらに2年は戦えるほどの武器や弾薬、車両を保有しているという。【ロイターここまで】

これが米国の「テロとの戦い」「自由の戦い」の実態です。この事態を受けてカーター米国国防長官は「武器は与えられても、戦意をイラク兵に与えることはできない」主旨述べています。

イラクの兵士にどうして「戦意が無い」のか?それは、「米国に戦わされている」からなのでしょう。戦うための意味や意義が見いだせないのでしょう。金で雇われているイラク兵士たちは、強敵を前にして、今後の戦局に不利になることもお構いなしに重火器・戦闘車両を簡単に放棄して戦線から離散してしまっています。

米国は2003年のイラク戦争でサダムフセイン体制を打倒してから、イラク政府には「自立した軍隊」「自前で治安維持できる軍隊」の創設を目指してきました。つまり、死者が多数出る地上軍を撤退し、イラク自国民同士で戦わせるように仕組んできたのです。兵士の養成や武器弾薬の「援助」などなど、卑怯で不毛な戦略をつづけてきたのです。

問題の「イスラム国」に対しても米国はそもそも、シリアのアサド政権に反対する諸勢力「自由シリア軍」に対して約2年間武器供与を継続してきました。このようにして米国は、「反米」の大義と「近代的武器」を与えイスラム国を育てたともいえるのです。

より深い問題は、真の戦争犯罪者である米国や欧州の軍産複合体に莫大な利益を与えていることです。「ロイター」記事で見たように、湯水のように近代兵器をこの地域に送り付けています。ネオコンや軍産複合体のロビー(政治代理人)は、9・11以来「テロとの戦い」を叫び続け、米国政府が戦端を切ったイラク戦争をはじめとして軍事介入を導いてきました。また2011年のイラクからの米軍撤退後も、軍事支援の継続を促してきました。

そして、現在再び「イスラム国の脅威」を叫びながら、軍産複合体の代理人たちは米国政府に支援を強化させようと圧力を強めています。米国軍隊の攻撃が空爆から地上軍へと拡大されるかどうかが、今せめぎあいの焦点です。

このような米国の戦争にどのような「正義」があるというのでしょう!米国の無法な戦略の片棒を担ぐ意義はまったくありません。(文)


 『ヘイトスピーチ』──「愛国者」たちの憎悪と暴力  安田浩一 文春文庫 800円+税

 昨年11月、この「何でも紹介」欄で『関東大震災時の朝鮮人大虐殺』という本を紹介をした。きっかけとなったのが、いま各地で拡がるヘイトスピーチ(憎悪表現、憎悪宣伝)、それを街頭に進出させたヘイト行動だった。

 その前後も含めて、ヘイトスピーチやヘイト行為については多くの情報に接していたものの、今年になって、あり得ない、考えられないヘイトスピーチが行われていることを知らされた。大阪の鶴橋で、なんと関東大震災時の朝鮮人大虐殺の再現を煽り立てるような、ヘイトスピーチが発せられたのだ。

 実はこの発言、13年にあった鶴橋での街頭宣伝での発言だった。うかつな話だが、そうした事例があったことを今年に入って知った。ヘイトスピーチが考えられない深刻なレベルまですすんでいることに疎かったわけで、反省の意味も込めながら本書を紹介するというわけなのだ。

 著者の安田浩一氏は、これまでの外国人研修生や非正規労働者や名ばかり管理者などの労働問題、それにネット右翼に関する多くの記事を書いている広く知られているルポライターだ。2012年にはヘイトスピーチを振り回す在特会をルポした『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』で講談社ノンフィクション賞を、また15年には「ルポ外国人「隷属」労働者』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。本書はその著者による今年5月発行の最新のルポだ。

過激化するヘイト

 本書で取り上げているのは、09年に埼玉県で起きたフィリピン人のカルデロン一家追放デモ、09年12月4日の朝鮮学校での排斥攻撃、14年3月8日埼玉スタジアムで起きた「JAPANESE ONLY」と大書された横断幕が掲げられた韓国人選手を標的にした排斥行為、11年1月22日にあった水平社博物館前での部落民、部落解放運動を標的にした罵倒、挑発行為、15年2月上旬にあったイスラムの名古屋モスクでのイスラム排斥、14年1月、川口市・蕨市であった外国人の入国全面禁止を求める拝外デモ14年10月20日、大阪市役所でおこなわれた橋下大阪市長と在特会の桜井会長(当時)の対談(?)パフォーマンなどだ。

 こうした在特会などが行った中国・朝鮮人をはじめとする外国人排斥を目的としたデモや街宣活動にたいし、筆者は現場取材や対象者へのインタビューを重ね、排斥行為のリアルな一部始終を追っている。

 私が一番関心があったのは、もちろん鶴橋でおこなわれた〝鶴橋大虐殺〟を煽った街宣行為だ。鶴橋と言えば日本最大の在日コリアンの集住地域。本書によると、街宣がおこなわれたのは13年の2月、ミニスカート姿の少女がマイクを握って叫んだ。「在日クソチョンコの皆さん、皆さんが憎くてたまらない、もう殺してあげたい、消えてほしい!」と悪罵を吐き続け、続けて「いつまでも調子に乗っとったら、南京大虐殺じゃなくて、鶴橋大虐殺を実行しますよ!日本人の怒りが爆発したら、しますよ!大虐殺を実行しますよ!」と絶叫したのだ。

 関東大震災時、実際に日本で起こった朝鮮人大虐殺のいきさつなどを記憶している人なら、たとえ子どもが発した言葉であっても慄然とせざるを得ない暴言だ。そうした言葉を聞いていた当地の在日コリアンはどう受け止めたのか、想像するにあまりある。

 本書によれば、この言葉を発したのは女子中学生で、父親(52才)は地元では知られた民族派の活動家だという。たぶん、父親などに刷り込まれた言葉を、なんの熟慮もなく再現しただけの話かもしれない。少しホッとした気分にもなったが、それだけに別の恐怖心も沸いてくるのだった。たとえ不安や疎外感からであっても、一端信じたいという誘惑に流された多くの人が、外敵や特定の人々への迫害行為へといとも簡単に流されるのではないか……と。

 本書で筆者はヘイトスピーチという呼称への違和感も訴えている。直訳すれば「憎悪表現」となるが、実際の響きとその影響の深刻さはスピーチの範囲を大きく超えたものだからだ。たとえば在日に対して行われる、朝鮮人は死ね、だとか、在日はウジ虫だ、ゴキブリだ、とかいう罵声は、日本人が聞けば下劣な罵声に過ぎない。が、在日など当事者にしてみれば、自分の意志ではどうにもならない属性への罵声を受けることで、自分の存在そのものが否定されたり、心臓が止まるような衝撃を受け続けることにほかならない。筆者はこうした罵声は単なる表現を逸脱している、言葉の暴力、あるいは暴力そのものだと捉える。弁護士の諸岡康子氏がいう「人種、民族、国籍、性などのマイノリティーに対して向けられる差別的な攻撃を指す」に同調するとし、また「差別扇動表現」と報じた東京新聞を紹介している。

政治との相関は?

 前書も含めて在特会などによるヘイト行為を多方面で取材してきた著者だが、本書を読んだかぎりではもの足らなさも感じざるを得ない。端的に言って、ヘイト行為を追求、告発しようという姿勢は強く感じられるが、その政治的・社会的背景や対抗策への踏み込みが弱いからだ。

 確かに政治との関連については、元在特会幹部・増木重夫と安倍晋三首相の写真、同じく自民党参議院議員山谷えり子との写真、在特会主催の差別デモへの常連参加者とネット番組に出演した片山さつき参議院議員、それに在特会元幹部が代表者である団体の「慰安婦問題を糺」す意見交換会に参加してスピーチをした新藤義孝、古屋圭司、稲田明美など、在特会との関係を取り定された自民党議員は多い。ただ著者は、これらの関係は〝人脈〟ほどの関係性はない、として、「在特会が政界に近づいているわけではない。政治家の側が勝手に『在特会』化しているのだけなのだ。」としか言及しない。確かに直接的な関係が深いかどうかも重要だが、ナショナリズムを煽る政治と、それを極端なかたちで行動化する勢力の相互補完関係は、戦前の日本やナチスの台頭時代のドイツをみるまでもなく、まさに日本で現在進行中の出来事でもある。安倍首相自身による戦前回帰の言動をはじめとして、首相とも近い右翼文化人(?)による偏狭な排外的言説の横行など、政治・権力側の姿勢との関連抜きにネット右翼や街頭右翼の台頭も説明が付かないだろう。

 それに在特化やネット右翼など排外主義がはびこる時代状況への切り込みもない。いまアジアを見渡せすだけでも、失われた20年の閉塞情況から抜け出られない日本、今や世界第2位の経済大国として米国一極支配に対抗しようとする中国の台頭など、グローバリゼーションともなう国際関係の再編過程にある。そうしたなかでジャパン・アズ・ナンバーワンとまでいわれた日本の成功体験はいまいずこ、慢性不況や格差社会の深まりなどでいまだ閉塞情況から抜け出られない。こうした情況のなか、周辺国への蔑視や敵愾心が、偏狭な排外主義と結びつく可能性も広がっている。政治と右翼が結託する時代状況も見据えることが大事で、著者にはむしろこうした断面を追ってほしかった。

 そうした時代状況を考えれば、それぞれの国で権力と立ち向かう労働者や庶民の国境を越えた連携が対抗戦略としてでてくるのはすぐ見えてくるはずだ。そうした視点に立つことではじめて偏狭なナショナリズムと対峙することができる。

 とはいえ著者は、ヘイト行為に対抗する「カウンター」(差別団体に抗議する人々)と呼ばれるような拝外デモなどに対する対抗運動も拡がっている現実もルポし、その重要性を訴えてもいる。私も同感だ。著者によるリアルなルポを受け継いで、それを実践していくのは私たち運動の側の役割だと自覚したい。著者としては、これからもリアリティーにあふれたルポを書き続けてほしい。(廣)案内へ戻る


 色鉛筆・・・はやく工事を止めろよ

「翁長さん、今さらアメリカに行ってもどうにもならないんじゃない?」これは知人の言葉。4月下旬の外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)と、オバマ安倍会談をもって、もう決まったことという認識だろう。けれどもそれは違う。

5月27日から6月5日まで、新基地建設と普天間飛行場の早期閉鎖・返還を求めて、翁長知事、稲嶺名護市長、市議県議、国会議員そして経済界からも含め十数人の訪問団が、民意を直接伝えるために訪米した。過去、歴代の沖縄県知事が訪米しているが、今回初めて、保革一致の県民の揺るぎない基地NOの民意を伝えたことになる。

4月上旬、半年近くも会うことを拒んでいた菅官房長官そして首相が、5月には中谷防衛大臣がようやく翁長知事との会談に臨んだ。「辺野古が唯一」という言葉の繰り返しに対し、沖縄の70年来、今なお続く重い基地負担の歴史と、新たにまた辺野古新基地を押しつけられる理不尽を諄々と説く翁長発言は、筋も道理も通っていて「何も知らない」本土の人に素直に響く内容だった。

 この後の世論調査で、工事を中止すべきという意見が大幅に増えていることがそれを証明している。「会談の成果」は政府の思惑とは大きく外れ、沖縄に有利なものとなった。アメリカでも、たとえ少数であれ必ず理解を示す人があったはずだ。

5月17日、3万5千人を集めた「戦後70年 止めよう新基地建設!沖縄県民大会」を経ての訪米は、強固な民意を携えてとはいえ、日米両政府にとっては少なからぬ警戒や脅威の対象であろうし、逆風も小さくはなかったと想像できる。

 それでも6月5日帰国しての翁長氏は、「はじめの一歩。すぐに成果はなくとも、辺野古阻止の県民の意思をもってオール沖縄の団結で直接米国に働きかけ語り続けたことは大きい。今後も話し合い継続の約束も取り付けられた。」と前向きに語った。

 「オール沖縄」は、諦めることなくこれからも取り組んでゆくはずだ。それを応援するためにも、米紙への意見広告等、辺野古阻止の戦いを支援するために提案された「辺野古基金」へのご協力をお願いしたい。呼びかけから2ヶ月足らずの6月3日現在、3億1536万7686円、件数は2万8114件にのぼる。

 振り込み先は本土の金融機関を紹介する。
 「ゆうちょ銀行・店番号708・口座番号136594」
 「ゆうちょ銀行・記号17000・口座番号13659411」
 「みずほ銀行・店番号693・口座番号1855733」

 ところで5月17日の県民大会の司会者は、高校一年の女子生徒。「世界一危険な学校の卒業生です。」とあいさつしたと伝えられる。戦いの層の多様さ、厚さを感じさせる。

安倍晋三氏をまねて、「早く質問しろよ」ではなく「早く工事を止めろよ!」(澄)

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