ワーカーズ547号 2015/11/1  号案内へ戻る

 橋下維新政治に終止符を! 大阪府知事・大阪市長ダブル選挙

 11月22日、大阪府知事・大阪市長ダブル選挙があります。選挙の告示は、知事選は11月5日、市長選は11月8日です。知事選は、現職で大阪維新の松井一郎氏と自民党府議の栗原貴子氏、市長選は、元衆議院議員で大阪維新の吉村洋文氏と自民党元市議の柳本顕氏の事実上の一騎打ちとなります。

 11月22日投開票の大阪府知事、大阪市長のダブル選について、産経新聞など5社は24、25両日、府内の有権者を対象に電話による合同世論調査を実施、市長選は、自民推薦の無所属、柳本顕元市議(41)と、橋下徹市長の後継で、大阪維新の会公認の吉村洋文元衆院議員(40)が競り合い、知事選は、大阪維新の幹事長で現職の松井一郎氏(51)を、自民党推薦で無所属の栗原貴子氏(53)が追う展開になっています。

 橋下ひきいる大阪維新の会は、大阪都構想を実現すると言ってきましたが5月の住民投票で否決されました。しかし、維新の会は多少手直しをして大阪都構想に再挑戦しようとしています。大阪市を廃止・分割して市民の生活を悪化させようとする大阪都構想、何としてでも食い止めなければなりません。

 この選挙と時を同じくして維新の党を除籍された大阪系国会議員らは10月24日、大阪市内のホテルで独自の臨時党大会を開きました。同党の代表は不在として馬場伸幸衆院議員を代表に選出した後、党解散を決議したと宣言した。政党交付金も国庫に返納するとしています。国会議員は、執行部が除籍した馬場氏ら12人のほか、現在も党に所属する下地幹郎元郵政担当相ら8人の計20人が出席しました。地方議員を含め、計約230人が参加、橋下徹大阪市長や松井一郎大阪府知事は参加しませんでした。

 維新には、国会議員、地方議員らの過半数の要求があれば代表が臨時党大会を開催できる規約があり、橋下氏らは「執行部は存在しない」として、議員らの署名を集めて大会を開きました。国会議員20人のうち、少なくとも19人は橋下氏が31日に結成する新党「おおさか維新の会」に参加する見通しです。この新党「おおさか維新の会」は、安倍政権にすりよって行くでしょう。
 
 今回の選挙、自民対維新という選挙構図ですが、この間進められてきた大阪府政・市政のよりひどい維新政治を止めさせるための行動が必要ではないかと思います。大阪維新の橋下氏や松井氏は、安倍政権と集団的自衛権行使容認など政治信条的に近く、大阪維新の候補者を当選させるわけにはいきません。橋下氏は10月24日放送のテレビ東京の番組で進退について「一度、引退する」「政治的に一度死んだ人間がまた生き返るのかと言われるかもしれないが『それは待ってくれ』と言うかもしれない」などと語りました。一度引退?またもうそをついた橋下氏、いいかげんにしてほしいです。維新政治にストップを! (河野)


 軽減税率 なにが負担軽減だ!大きなごまかしを隠す軽減税率導入の茶番劇

 消費再増税をにらんで、自公の与党を中心に軽減税率導入を巡る議論が続いている。導入に否定的な自民党と積極的な公明党の間でつばぜり合いが続いている。が、その内実はといえば、納税者を小馬鹿にした恥知らずなものという以外にない。

 安倍政権は、これまでと同様、「引き上げ分は社会保障のためにすべて使う」としてきた建前もどこへやら、増収分を好き勝手に使うことを前提とした茶番劇を繰り広げている。逆進性の強い大衆課税をサイフ代わりに財政のバラマキを続ける安倍政権は、退陣に追い詰めていく以外にない。

◆茶番劇

 17年4月に予定されている10%への消費増税にともなう軽減税率の導入を巡って、自公のみならず議論が拡がっている。騒動の直接の発端は、財務省と自民党税調が結託して打ち出した消費税が持つ逆進性緩和への還付式負担軽減制度の導入案だ。これに対し、昨年の総選挙で10%引き上げ時での軽減税率の同時導入を選挙公約で掲げてきた公明党は、激しく〝反撥〟した。

 この財務省案、マイナンバーと抱き合わせという財務省に都合が良すぎる提案に、多方面から批判が集中した。結局、安保法制を強行成立させた際のダメージや来年の参院選への悪影響を心配する安倍首相サイドにあっさりはねつけられたのは、つい先日の話だ。

 安倍首相は、選挙対策もあって増税時での同時導入の姿勢を見せている。といっても、再増税を延期した事と同で、安倍首相にとってはこれも政権を維持していくための手段でしかない。

 現時点では、軽減税率の税率は8%という前提で、適用範囲をどうするのか、徴収方法はどうするのか、といった問題を巡って様々な賭け引くが繰り広げられている。消費増税を前提とすれば、庶民にとって軽減税率の導入は切実な要求だし、適用する品目が増えたり税率が低いに越したことはない。とはいえ、それがもっと大きな問題を覆い隠すものだとすれば、それは木を見て森を見ず、本末転倒の議論になるだけだ。一連の消費増税が持つ性格からすれば、とんでもない矮小化やすり替えであり、全くの茶番という他はない。

◆ごまかし

 そもそも、「税と社会保障の一体改革」というお題目自体、とんでもないまやかしだ。

 2012年の8月に消費増税法が成立する前後、当時の野田首相やその後を引き継いだ安倍首相は、ことある事に「消費増税分は全額社会保障に使わせてもらう」と語ってきた。しかし実態はそれとは逆で、野田民主党政権やその後の安倍自民党政権をつうじて、二枚舌とごまかしを続けてきた、というのが実情なのだ。

 そもそも消費増税分を社会保障に使う、とは、一体どういうものか。

 15年度でみると、社会保障に使っている財政は31兆円程度、その財源に仕立てた消費税は、8%で21兆円程度、10%に引き上げても27兆円程度だ。だから消費増税分を全額社会保障に廻したとしてもまだ足らない、というわけだ。とはいっても、消費税税収が社会保障の財源だなどとは制度上決まっているわけではなく、消費税を導入するための名目としても持ちだした計算上のものに過ぎない。

 「消費増税分はすべて社会保障に使う」という政府の言い分をそのまま受け取っている人も多いが、実際はまるで違う。消費税を8%に上げようが10%に上げようが、その増えた分が新たに社会保障の拡充に使われるわけではないからだ。すでに支出してきたものに計算上割り振るだけの話に過ぎない。
 具体的に見てみよう。

 たとえば「税と社会保障の一体改革」で決まった消費税8%への引き上げ時の話だ。政府の説明を聞くと、引き上げられた3%分はどう使われるか。初年度である14年度の実際の消費税増収分は,納税のタイムラグもあって約5兆円。本来ならそれだけ社会保障給付が増やされると思いがちだ。しかし実態はそんなものではない。5兆円のうち2・9兆円は基礎年金の安定財源に、1・45兆円が社会保障の自然増分、2000億円が物価上昇への対応などに支出される。基礎年金の安定財源とは、基礎年金の政府負担分を09年に3分の1から2分の1に引き上げた際の負担分だとされた。自然増は制度上の改革を伴わない。給付対象者が増えるだけで制度の改善ではない。結局、子育て支援など社会保障の《拡充》に廻されるのはたった5000億円、増収分の1割に過ぎない。

 消費税10%への引き上げの時点ではどうするのか。これまでの説明では、5%時から10%への引き上げで増える13・5兆円の内、年金の国庫負担は2・9兆円、社会保障の安定化(=財源不足の手当て分)が7兆円、物価上昇で増える社会保障費が0・8兆円だ。子育て支援など拡充策としてはたった2・7兆円で、5%の増税分の内、たった1%分に過ぎない。しかも今回がそうだったように、その額が保証されているわけでもない。

◆確信犯政権

 それでは増収分の大部分はどこに行ったのか。

 単純化すれば、5兆円の9割、4・5兆円は、本来であれば社会保障費に振り向けられて減らされるはずだったそれ以外の支出項目だ。具体的には予算が増えたところで、15年度予算で言えば、公共事業や軍事費などだ。だから消費増税で実質的に救われたのは、支出先のゼネコンや軍需産業、その担当官庁だということになる。何のことはない、「税と社会保障の一体改革」で一番喜んでいるのは、高齢者や病人や要介護者など社会保障の充実を待ち望んでいる人たちではなく、官僚やゼネコン・軍需産業だという構図が浮き上がる。生活保護費などはむしろ減らされている。それが「税と社会保障の一体改革」の本質であり、実態なのだ。

 現実に、安倍政権になってから公共事業や軍事費は3年連続増やされている。政権発足以降の景気対策としての補正予算を加えれば、さらに膨らむ。だから消費増税の決定以後、新幹線の延長や高速道路の延長などの決定が相次ぎ、関連業界や族議員などが沸き立ったのだ。

 なぜこうした数字の操作とデタラメぶりが可能なのか。それは民主党政権時の税と社会保障の一体改革法が成立した2012年にさかのぼる。

 民主党最後の野田政権は、菅政権を引き継いで消費増税による財政再建を掲げた。その際に例のごとく消費増税分はすべて社会保障に支出すると強弁しつづけたが、実際は民自公の三党合意で消費増税分を公共事業などにも振り向けることに合意している。その名残が消費税法の附則に残っている(附則18条の2)。

「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。」

 わざと分かりづらい言い回しにしてあるが、要は、消費増収分を成長戦略や公共事業にも回す余地を確保したものに他ならない。それは、震災復興を名目とする国土強靱化政策を口実にした公共事業支出への大盤振る舞いという、当時の自民党からの圧力を受け入れたものだった。だから民主党政権は全額社会保障に使うといいながら自民党の要求を受け入れた「二枚舌」政権なのだし、アベ自民党はごまかしの「確信犯」政権なのだ。

◆誰のため?

 軽減税率の導入で迷走している与党だが、そもそも消費税増税がこんなまやかしの上に成り立っている以上、10%への引き上げ自体許されるものではないだろう。必要なのは、アベノミクスを掲げながら進めてきた法人実効税率の段階的な引き下げや富裕層を対象とした減税などをやめること、そして巨額の内部留保をため込む企業の税負担を増やすなど、税負担での企業の社会的責任を重くするような大胆な改革に手を付ける事なのだ。

 それらの課題をここで取り上げることは出来ないが、それにしても現在進められている軽減税率の導入の議論は、納税者・有権者を馬鹿にしたものであるといわざるを得ない代物だ。

 いま何を軽減税率の対象とするか、その線引きや徴収方法をめぐる議論が行われている。それも問題だが、より悪質なのはどの財源で軽減税率を実施するのかの議論だ。軽減税率の導入で税収減になるが、その額をどこで減らすか、というものだ。自民党は10月23日、党の税調幹部会で10%への増税にともなう増収分から軽減税率の財源を捻出することを確認したという。しかも消費税増収分のなかで社会保障の拡充分とされている2・7兆円の内、「総合合算制度」という医療や介護などの自己負担を軽くする4000億円をあてるとし、これには公明党も合意しているというのだ。

 こうした経緯をみれば、軽減税率の導入で社会的弱者の支援に熱心な公明党とそれに抵抗する自民党、という構図は全くの見誤りだということが分かる。自公の与党は、自分勝手に消費税と社会保障をリンクさせて他の支出、たとえば公共事業や軍事費を聖域化する土俵をつくり、その土俵のなかで争っているに過ぎないのだ。その自民党は、公明党が主張するように「酒を除く飲食料品」にした場合の減収額1・3兆円も、拡充に見込んでいる部分から捻出するという前提なのだ。自民党の税調幹部会は、軽減税率の適用を拡大すれば「社会保障の拡充に影響が出るような本末転倒なことは避けるべきだ」と一致したともいう。公明党も、その土俵上で党利党略の人気取りをやっているに過ぎないのだ。まったくふざけた話だという以外にない。

 税と社会保障の一体改革。この建前の裏に隠された本質とは、逆進性が強い消費増税で庶民から巻き上げたお金を、ゼネコンや軍需産業、その他の既得権への支出を聖域化するもの、この一点だったのである。今回の軽減税率の導入とは、ことの本質を覆い隠して逆進性の高い大衆収奪としての消費増税大増税路線を推し進めることなのだ。

 こんな議論は終わりにしなくてはならないし、《企業に優しい税財政》から《庶民に優しい税財政」へと転換していくことこそ必要なのだ。そのためにも大衆課税とバラマキ政治を続ける安倍政権を追い詰めていく以外にない。(廣)号案内へ戻る


 再び大国の戦場と化す中東地域 ロシアのシリア空爆を非難する

■お株奪われた「対テロ戦争」
 
 戦争に正義はない。戦争の大義名分なんて真っ赤な嘘だ。このことがよくわかるのがシリア内戦です。

「テロとの戦い」という大義名分を掲げてきた欧米諸国ですが、危険な軍事路線をとるプーチンが今度は「対IS」という完璧な「対テロ」名分で空爆を開始しました。このプーチンの理屈には欧米諸国はまともに反論できず、「穏健派への空爆はやめろ」「住民が巻き添えになった」等としか言えないのです。
 ところが同じころ(十月三日)アフガニスタンでは米軍が病院を空爆。国境なき医師団の医師や患者数十人が死傷しました。

 こんなくだらない「大義名分」の言い合いは、どんな説得力もありません。欧米もロシアもISも支配権力をめぐる戦争は同罪です。すべてが反人類的蛮行であり怒りを感じるだけです。

 プロイセンの将軍であったクラウゼビッツ(1780-1831年)は「戦争は政治の延長である」という名言を残しました。つまり戦争は重要であっても一つの選択手段であり、政治目的のための手段であると。

 ところが、当時とは異なり現代では、軍需産業が政治や経済や国家に大きな影響力を持つようになってきています。「軍産複合体」あるいは旧ソ連や米国の「軍・産・学・議会複合体」とは巨大な利権組織であり、軍事拡大や戦争は単なる「手段」ではなく半ば「目的そのもの」になりつつあるように見えます。米国では民間軍事会社(PMC::private military company)も含めて、戦争はまるで普通の経済活動であるかになってきています。こうした動きは安倍首相の下で日本でも強力に推進されようとしているのです。

ですから、彼らの言う「正義」や「テロとの戦い」などは白々しい限りなのです。政治家は自らの権勢を、資本家は自らの富を動機として、国民を戦争に煽り立てているだけなのです!

■ロシア軍に戦局を変える力はない
 
 プーチン独裁体制とはいえ国内の反戦世論も強力です。国民にはチェチェンの内戦が厭戦気分を広めているようです。ですから国民や兵士からの不満のため、のどから手が出そうな東部ウクライナへのロシア正規軍投入はできませんでした(「義勇兵」のみ)。ロシアの国営系メディアは、「シリア空爆に国民の8割近くが支持」と報じていますが、非政府系メディアは「地上軍のシリア展開」については同じく8割近い国民が反対しているとしています。

 そもそも欧米からの経済制裁と原油価格の暴落がつづくなかで国民生活はかなりの苦境に陥っていると思われます。こうしてみれば欧米諸国と同様に「空爆のみの参加」以上に戦線を拡大するのは容易ではないはず。

 それではプーチンの「シリアIS空爆」の政治的狙いは。
 プーチンの狙いは、空爆でシリアなどでの戦局を転換するという現実的な戦果ではなく、おそらく国際政治上のプーチンの地位の向上や再評価を目指している程度に見えます。つまりシリアのアサド政権の維持を目標として、「ISと戦うプーチン」をアピールしているのでしょう。たとえISを壊滅させられなくとも、シリア=アサドとの太い絆を創り出し、今後の中東政治の中心にいてリーダーシップをとることでしょう。

 つぎに見逃せないのがロシアの最新兵器のアピールがあります。空爆開始後、予想通り世界のメディアはロシアのスホイなど最新兵器の戦闘画像を競って放映しています。ロシア公営テレビは、ドローンによるリアルな戦闘画像をふんだんに放映し国威発揚もねらっています。天然ガスや原油価格が低迷しているからには、従来以上に兵器はロシアで数少ない稼げる輸出品なのです。

 さらに国内的要因です。国民の生活は西側の経済制裁もありマイナス経済に突入。その批判の目を外部に向けさせようという独裁者の常とう手段でしょう。「ロシア軍の活躍」「世界のプーチン」「偉大なロシア」という国内向けアピールを姑息にも狙っているのでしょう。

■複雑化し危険度を増す国際情勢  「対テロ戦争」は何をうみだしたか

 さらに視野をシリア以外に向けてみましょう。問題なのは、先日ロシアがカスピ海の戦艦からの巡航ミサイルを発射しましたが、その航路は低空でイランとイラクを通過していたということです。つまり、両国の「理解」ないし「支持」があったことは間違いないところです。

 核開発問題で一定の妥協を作り上げ「国際社会への復帰」を目指しているイランは、もともとアサド=シリア政権の擁護派。地域的大国であるイランのロシア空爆支持は政治的にも大きな意味を持つでしょう。90年代にはロシア連邦宇宙局など5つのロシア機関がイラン政府のミサイル改良を援助したことや、イランの最初の原子力発電所であるブーシェフル第1原子炉は、主にロシアの国営原子力企業ロスアトムによる援助で完成し、2011年9月12日に公式に稼働を開始したという経緯からみられるように核開発やロケット技術にはそもそもロシアとの結びつきがあります。今後ロシア=イランの政治・軍事提携が強化されるとみられます。十四日ロイターでは「イラン革命防衛隊将校がシリア(アレッポ?)二名死亡」と報道。イラン軍のシリア関与(アサド政権支援行動)も強まっているようです。

 他方、イラク政権は米国支援の下で国内のISと激しくたたかって来たが、支援の在り方で米国との相互不信が増大しており今回のロシア空爆への「承認」「支持」となったと考えられています。今後中東において米国の存在感が低下し、キャスティングボードを強引にロシアが握るという情勢も。さらにはシーア派系武装組織ヒズボラやクルド系ゲリラもロシアがひきつけてゆくことも考えられ、中東の政治地図は書き換えられる可能はあります。孤立化しIS以上に危険なイスラエル=ネタニアフ政権の動向も読みにくいところです。

 そこにきてトルコの内政状態が流動化しつつあります。国内で台頭するクルド系政党に対してエルドアン大統領の排除の論理が国内を分裂させ、ISを含めて三つ巴の様相になりつつあります。

 03年「テロとの戦い」という大義を掲げて開始された欧米のイラク軍事介入(イラク戦争)ですが、中東地域(さらにトルコやアフガニスタンまで)が果てしない殺戮に陥ったばかりではなく国家間大戦の危険をはらむ可能性すらうみだしつつあります。

■大国は撤退し、難民保護に徹しろ

 このように中東地域はいまでは政治的にも軍事的にも大混乱の中にあります。戦いは三つ巴、四つ巴になり先が見えません。

 そんな中で、米国ABCニュースは、十二日シリア北部で「ISと戦闘するシリア反体制派支援の第一弾」としてC17輸送機から武器弾薬50トンを投下したと報じました。
 「火に油を注ぐ」とはこのことです。米国は非公然ながらすでに「反アサド」である「自由シリア軍」はじめ多数のゲリラ・テロ組織に武器・弾薬その他の支援を供給してきたのです。このような無節操で兵器商人だけが喜ぶ政策を続けているのです。

 シリアを始め、イラク、アフガンその他の中東地域から大量の難民が発生していることは毎日の報道で我々もある程度は知りうるところです。欧米諸国は、「人道」のみならず戦争責任の上でも彼らの救済を優先政策とすべきでしょう。

 欧米そしてロシアの空爆を中止すべきです。そして武器の流入を止めることが、同様に肝心なことです。「正義」など欠片もない戦争の片棒を担ぐべきではありません。安倍政権のように今から中東に軍隊を送るなど愚劣にもほどがあります。

 各国民は自国の政府にこのことを要求すべきです。当然、軍需産業の利害に絡(からめ)めとられている政治家たちや政権がこのような要求を簡単に飲むことはありえません。勤労者労働者の大衆的行動で継続的に圧力をかけてゆくほかはありません。(文)号案内へ戻る


 紹介・・・ 崔善愛(チェソンエ)ピアノコンサート

 9月22日、初秋とは言えまだまだ日中は汗ばむ陽気の午後、神戸の小さな美術館で行われました。個人宅の1階をコンサート会場に使えるよう改装され、2階の各部屋はそのまま絵画の展示に利用、ピアノの音色は館内全体に響き工夫された会場設定でした。

 このコンサートはDV被害を受けた女性たちの支援15年を記念して、「W.Sひょうご」のグループが主催、その思いに相応しい崔善愛さんのプロフィールを紹介したいと思います。

 「宝塚に生まれ北九州の小倉に育った在日2・5世。生涯を人権擁護活動にささげた故崔昌華牧師の長女。愛知県立芸術大学ピアノ科、同大学大学院修了。米国インディアナ大学大学院に3年間留学。渡米時に外国人登録への指紋押捺拒否を理由に日本への再入国が不許可とされる。最高裁まで争った指紋裁判の結果、日本の永住権を奪われる(のちに永住権原状回復)。現在は自身の体験から、身を持って感じた平和の尊さを音楽を通して語るピアニストとして活躍中。」

招待チケットを知人から譲り受け、崔善愛さんが指紋押捺拒否で頑張っておられたと知り、コンサートとはあまり縁のない私も期待に胸を弾ませその日を待っていました。期待通り崔善愛さんは紫色のドレスを身にまとい、力強く鍵盤を奏でる姿は、かつて信念を貫き争った経験が伝わってくるようでした。テレビやラジオから流れてくる曲にただ耳を傾けるだけの私にでも、ショパンの熱い想いを理解できる丁寧な説明が崔善愛さんからありました。

 学校の教科書から、または音楽室にかけられた写真からでしかショパンを知らなかった私ですが、1830年代のポーランドに生まれたショパンがどれほど過酷な試練を乗り越え、亡命者の如くヨーロッパを転々としたことか・・・、知らされました。当時のポーランドがロシアの統治下にあり、自由な移動を禁止されたにも係わらず、ポーランドの音楽を誇りに伝えることを使命にショパンは命を掛けました。「『革命のエチュード』ハ短調」は、ワルシャワ蜂起の失敗を知ったショパンの絶望と怒りがぶつけられ、「大砲」そのもののような曲であること、もしロシア皇帝がその「大砲」に気づけば、ショパンの音楽を禁止したはずと、シューマンは警告したのでした。

 崔善愛さんの著書、「ショパン 花束の中に隠された大砲」(岩波ジュニア新書)では、 このように「革命のエチュード」が語られています。

「この曲の左手(低音パート)は地響きのようにうねり、まるで奈落の底に落ちていくような絶望感に満ちています。そして右手のパートは、まるで天に向かって手を突き出し、またときにうなだれ、慟哭の声をあげているようです。はじめてこの曲を弾いたとき、高校生だった私は、この曲はいままで弾いてきたショパンの曲とは違う、なにか尋常でないようだと感じ、革命とはなんのことだろうと、漠然と疑問に思っていました。が、この『日記』を読み、『革命』というのは奪われたポ-ランドを取り戻すための闘いを意味し、この曲は、それが失敗したことを知ったショパンの絶望と怒りを表現したものだとわかりました」(P93~94)

 侵略を受け続ける祖国ポーランドの苦悩とともにショパンは外国へと旅たった、その苦悩を受け止め帰国の権利を奪われた自分の生き様を土台にして、平和の尊さを訴えていく崔善愛さん。ピアノが揺れ動くのではないかと思われるほど、迫力のある演奏に思わず息をのむ自分がありました。皆さんも機会があればぜひ、彼女が「花束の中に隠された大砲」と言わせるショパンの生き方に会いに行って下さい。(折口恵子)


 「失業率低下」にもかかわらず賃金も低下?

 「人がいない」「募集してもなかなか人がこない」。というのが現在の日本の雇用状況だ。とりわけ中小企業の担当者は悲鳴を上げている。日本経済はご承知のように、去年以来GDPマイナス成長とふるわないなか、ほぼ全産業で「雇用逼迫」が言われている。それを安倍政権が唯一の「実績」にしているが、もちろんそれは嘘である。
 現在の失業率低下や雇用逼迫は日本独特の理由がある。少子化と高齢化社会が、雇用のひっ迫を生み出しているのだ。つまり、従来より社会問題の重要なテーマであり、ひいては政治の貧困・無策の結果でもあるというものだ。

 総人口はとっくの十年前に減少を始めた。それを追うように、近年、第一次ベビーブーマーたちが六十五歳を超えて労働市場から引退を開始している。だから、誰でもすぐわかるように労働者人口は急速に減少している。政府によると今後十年間で三百万人の労働人口の減少が試算されている。
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 さて資本主義においては、すべてが「市場原理」で決定されると考えられているが、そうであれば労働者賃金は大いに上昇すべきだ。確かにそのような傾向は従来であればあるていどあった。ところが現在の日本はそうではない。
 「労働者が少ない」という状況で、賃金も低下傾向が止まらないのだ。一部上場企業ですらこの二年間で実質賃金は0.2%下落した。中小零細企業も加えれば数%は下落したと私は見ている。そのからくりの主たるものは、もはや直感されているように正規雇用の減少と非正規雇用の増大だ。これは20年来の財界=自民党政権の労働基準法改悪戦略のせいなのだ。

 すでにのべたように高齢に達した正規雇用者が大量に定年引退ないしは非正規雇用化している。そして新たな若年労働者雇用は圧倒的に非正規雇用が多い。管理職を除くと雇用労働者の半数が非正規だという実態がある。しかもそれが年々進行しているからである。

 ロイター調査では「非正規報酬は正規雇用の三十五%」とされており、企業は人件費を削減しつつ雇用を維持・拡大しうるのだ。(ただし人が少ないのだが)
 派遣業法(86年)は改定を繰り返し、ますます派遣業労働者の「定着」「固定化」をはかり、労働者の権利を保護する労働基準法を掘り崩しています。そのうえ正規社員でさえ高度プロフェッショナル制度などで「残業代ゼロ」に追いやろうとしていますし、「首切り自由化法」も検討されているのです。
 こうして財界は自民党政権の全面支援で人件費の抑制で(景気低迷で売り上げ伸び悩む中でも)利益を拡大しようとしているのです。
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 もう一つの視点として、企業の国際的分業がますます徹底しており、単純労働やライン作業は新興国にどんどんシフトしているという現実がある。つまり、国際的な市場の統合化の中で、先進国労働者は新興国の労働者との競合にさらされておりその「基準」にむけてある程度押し下げられてきているのだ。つまり経済のグローバル化がもたらした低金銀化と言う問題もある。

 経済のグローバル化により、資本の自由な移動が活発化し中国のように新興国での賃金がある程度上がるとしても日本などでは低価格競争や資本流失のあおりとして賃金抑制的に作用しているということです。

 なぜこのようなことになるのか。それは企業、財界、資本主義経済は勤労者・労働者の福祉や生活ではなく「利潤」と、そのための市場支配を目的として運営されているからだ。このような経済制度自体の問題が横たわっているといえよう。その変革こそが問われているのです。(山)号案内へ戻る


 「悪いニュースは良いニュース」アベノミクス、大企業でも評価が失速、「後退・消失」7割超

 「10月ロイター企業調査によると、アベノミクスの勢いに関して7割超の企業が「後退している」ないし「消失している」とみていることが明らかとなった。《新3本の矢》も含めて効果が不明との指摘が目立っている。景気停滞感が強まる中、日銀による追加緩和については、賛否が拮抗している。」

 「アベノミクスは2年半たっても、実体経済には効果がなかったとの見方が広がっている。
第2ステージも《方針だけで成長政策に具体性がない》(その他製造)、《期待はずれ。斬新性も乏しく、元の3本の矢もうやむやになってしまった》(窯業)など、厳しい声が多い。」等(ロイター9月16日)

 金融緩和については不動産や金融業界はこれまでのアベバブルで潤ってきたので、アベノミクス第一の矢=金融緩和に大賛成だ。これまでもうまみを得たしこれからも「追加緩和」を要求している。しかし、製造業は円安によるデメリットもあり立場が分かれているという。

 総じて、アベノミクスは国民ばかりではなく、企業からも評価は下落している。
 それは経済効果がなく、実体経済は少しも向上しないという至極当然な理由からである。他方では、唯一ののこされた期待は「追加緩和」のみである。つまり金融大資本からの「バブルを維持するように」という期待だけだ。

 中国をはじめとするアジア経済の低落を受けて、日銀の黒田氏がその事実を公式に認めた。そのとたん下落していた日経平均もやや持ち直している(10月中旬以降)。つまり市場(金融資本)は「日銀がどうやら追加緩和を実施するだろう」と読み込んだわけだ。

 ところで、最近海外ニュースでは「悪いニュースは良いニュース」と言う言葉をたびたび耳にする。その意味は「経済指標が悪くなれば、米国の金利は据え置かれるだろう」と言う意味だ。

 これこそ至言というものだ。現在資本主義で主導権を握っているのが金融大資本である。実体経済が悪くても、いや悪いからこそ「金融緩和策が維持され(あるいは追加緩和が実施され)、われわれは儲けられる」ということなのだ。こうしてとりわけEUや日本、中国などでさえない経済指標が発表されても(悪ければ悪いほど)株価が上がったりする。本末転倒だ、呆れるほかはない。

 資本主義は黄昏時をむかえつつある。つぎを考えるべきだ。


 エイジの沖縄通信(NO.18)「翁長知事の埋め立て承認取消、今後どうなるのか?」

 10月13日、ついに翁長知事が辺野古埋め立て承認を取り消した。

しかし、さっそく国・防衛省は「行政不服審査法」に基づき不服審査請求と取り消しの効力停止を、石井啓一国土交通相に申し立てた。

 これに対して翁長知事は「同じ内閣の一員である国交相に審査請求を行うことは、不当というしかない。行政不服審査法のあしき前例となる」と、政府の対応に反発した。

 同じ政権内の「身内」に救済を求めるこの措置に対して専門家からも一般国民からも批判が高まっている。

 なぜなら、この「行政不服審査法」は、第1条で目的を「国民の権利利益の救済を図る」と明記。政府や地方自治体など行政機関同士の紛争を対象としていない。

 「公」の立場である国・防衛省が「私人」の立場で不服請求したことに対して、沖縄の仲里衆院議員は次のように批判している。

 「行政不服審査法は一般私人の権利擁護のための法律。ところが、政府は埋め立てでは『国』、異議申し立てでは『私人』と都合良く顔を使い分けている」と批判。

 行政法に詳しい法律家も「基地をつくり米軍に提供する工事は『私人』にはできず、国にしか出来ない」と指摘。「あえて行政不服審査法を使うのは、身内の判断で手早く済ませ、早く工事を再開したいからであろう」と批判。まったく、その通りである。

 国家機関の申し立てを身内の国家機関が判断するのだから、その結論はあらかじめわかっている。

 翁長知事が埋め立て承認を取消をしてから、辺野古では基地建設工事は止まっている。では、今後どうなるのか?

 不服請求を受けた国土交通省は24日頃までには「結論」(効力停止)を出すだろうと言われていたが、この原稿を書いている25日現在、まだ国交省から結論は出ていない。

 今度はそれを受けて翁長知事は、第三者機関「国地方係争処理委員会」に不服審査を申し出る方針。その後は、それらの結論に対して「異議」を申し立てるために法的争い(裁判闘争)になるだろうと言われている。

 菅官房長官は口を開けば「法治国家ですよ」「粛々と工事を進める」と言うが、一体どちらが法律を無視したご都合主義のデタラメをやっているのか。

 工事を推進したい井上沖縄防衛局長は、9月18日の記者会見で「ボーリング調査終了前でも、本体工事である仮設ヤード、仮設道路の工事に着手する」と述べた。

 本体工事のために事前に行うボーリング調査は24か所あるが、まだ5か所が終了していない。本体工事のためにやるボーリング調査がすべて終わっていないのに、もう本体工事に踏み切ること自体もデタラメである。

 また、沖縄防衛局が設置した新基地建設の環境保全の在り方を議論する「環境監視等委員会」の4委員が、埋め立て業者の受注業者から寄付金を受けていたことが発覚。さらに驚くことに、「環境監視等委員会」の運営業務を担う環境建設コンサルタント会社「いであ」(東京)が、2012~15年度に12件、32億1393万円の事業を受注し、10年には防衛省OBが天下りしていたと言う。金を受け取る受注業者が事業を検証する立場ならば、金を出してくれる国に都合良い報告内容にするだろう。

 さらにさらに驚くことが、昨年の7月から米軍キャンプシュワブの工事用ゲート前にアルソック(総合警備保障会社)の警備員らが並び、抗議する沖縄県民に対峙するようになった。この業務について、沖縄防衛局は7月にアルソックと「シュワブ陸上警備業務」を契約した。期間は7月23日から来年3月31日の253日間の業務契約である。

 そして、この契約金額はなんと19億3408万円、1日あたり760万円という高額なのだ。約8カ月で20億円である。「陸上警備業務」だけではない。沖縄防衛局は、やはり7月22日に「海上警備業務」の契約を締結した。やはり今年度末までの契約だが、その請負金額も実に24億円にもなっている。

 このように辺野古新基地建設事業に関して、それこそ湯水のように私たちの税金が浪費されている。沖縄で安倍内閣・防衛省がやっていることはデタラメ・違反だらけである。

 この沖縄問題さえも追及されないように、臨時国会を開催しない安倍内閣。沖縄と連帯して、一日も早くこの安倍内閣を退陣させよう!(富田 英司)号案内へ戻る


 コラムの窓・・・「この国の貧困」

 NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝則氏の著書『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』がベストセラーになっています。いま、読んでいるところですが、誰もがふとしたきっかけで老後の生活設計が崩壊する可能性があるという指摘です。「下流老人とは文字通り、普通に暮らすことができない〝下流〟の生活を強いられている老人を意味する造語だ」

 藤田氏は具体的な指標として、①収入が著しく少ない、②十分な貯蓄がない、③頼れる人間がいない、の3つの「ない」をあげています。しかし、退職金と貯金あわせて3000万円近くあった生涯独身男性が墓石や永代利用料として900万円ほど使い、2度の心筋梗塞で長期入院・療養した結果、7年で使い果たしたというケースを示され、「誰もが・・・」という切迫感を感じました。

 私は大丈夫だと思っている「普通の人」が「下流」に陥る原因として、藤田氏は病気や介護、交通事故等をあげています。こうした自分自身に降りかかる困難だけではなく、子どもがワーキングプア(年収200万円以下)や引きこもりで、扶養しなければならないというようなこともあります。この逆が介護離職ですが、親子の助け合いが共倒れになるというかなしい現実です。

 藤田氏は12年間のこうしたソーシャルワーカーとしての実践を経て、「生活困窮の相談者は一向に減らない。そればかりか近年は顕著に増えている」とし、「下流老人の問題は、対処療法ではなく、社会問題として根本から対策を立てなければ、手遅れになる」と感じ、打開策を摸索しています。

 こうした下流老人の予備軍となる非正規労働者の実態について、『週刊東洋経済』(10月17日)が「絶望の非正規」を特集しています。まず、「第一世代は40代に突入した」というルポに始まり、「初就職は4割が非正規」という社会への入り口でのふるい分けや学生を襲うブラックバイト、「妊娠後に6割が退職」というマタハラの横行、限定正社員、技能実習生、とあらゆる非正規を網羅した特集となっています。

 安倍自公政権によって改悪された労働者派遣法については、「一律3年で雇止め」「経験生かせず『ゼロリセット』に」としています。そして、2002年に派遣社員の雇用期間の上限が撤廃されたドイツで起きたことを紹介しています。

「ドラッグストアチェーンのシュレッカー社は、多くの店を閉じるとともに4300人の社員を解雇した。働き続けたい場合は特定の派遣会社と契約し、そこから新たにオープンした大型店舗に派遣されたが、賃金は以前の半分で手当も削られた」これを、ドイツでは「回転ドア」と呼んでいるそうです。

 正規職を派遣に切り替えるこうした労務管理がこれから増えるとされています。というか、すでに蔓延しているのが現実ではないでしょうか。かつて、出向をめぐる攻防、争議が賑やかでしたが、いま、労働現場はそうした段階をはるかに超えています。私が知っている事例は、ひとつの職場丸ごと下請けに任せ、これまでそこで働いていた労働者を下請けに出向させるというものでした。しかも、その出向は片道切符だったりするのです。

 ところでこの雑誌、日産のカルロス・ゴーン社長の後継はどうなるのかといった話題を取り上げています。カルロス・ゴーンの年収は確か数億円だったと思うのですが、いったいどういう編集方針なんでしょう。ちなみに、「僕たちは今日もデモへ行く!」と題するSEALDsの深層リポートも行われています。要するに話題を追うということのようですが、40ページもの「絶望の非正規」特集は読ませる内容となっています。

 10月24日のNHKスペシャル「暮らし直撃! 雇用激変 働くあなたは大丈夫? 非正規世帯どう支える 家計を守るアイデア! 年収400万の安心生活」という長い表題の番組でしたが、これが〝限定正社員〟を話題にしていることは一目瞭然です。番組のなかでは、「全員正社員にすればいい」という発言もありましたが、正社員の過酷な労働実態に切り込もうという視点はありませんでした。

 経済大国に見合った国際的地位・国連常任理事国入りと、それにふさわしい軍隊の保持をという向きもありますが、この国の貧困は深く、明日は暗いと言わざるを得ないでしょう。 (晴)


 色鉛筆・・・「ただちに再審開始、そして無罪を!」

1、再審開始は遠く

昨年3月の再審開始決定と、袴田巌さんの身柄釈放から早くも1年7ヶ月。「もう解決したんでしょう?」という反応が、少なくない。実際は死刑囚の身分のままだ。「妨害」としか表現のしようのない検察による即時抗告と、それに歩調を合わせるかの動きの東京高裁第八刑事部(大島隆明裁判長)により、再審開始の扉にさえ届くことが出来ていない。 現在、裁判所、弁護団、検察官による三者協議が行われており、その中で再審開始の決め手となったDNA鑑定を高裁が疑問視し、「鑑定手法を検証するため、第三者の専門家による実験を行いたい」と主張。識者からは「高裁の役割を超えている」という批判の声が上がっている。そもそも再審開始決定では、DNA鑑定だけではなく、死刑判決の決め手となった「五点の衣類」の捏造の可能性など、捜査機関を厳しく断罪している。全てはすぐに再審開始(裁判のやり直し)を実行し、その中で詳しく審議をすれば済むことだ。

今年になって、逮捕当時(1966年)の取り調べの録音テープ24本の存在が明らかになり、「トイレに行かせて欲しい」と頼む袴田さんに、「(犯行を認めて)頭を下げればいかせてやる」「ここでやらせればいい」「便器持って来い」という警察官の声が録音されていた。証拠の捏造のみならず、違法な拷問に等しい取り調べなど、再審の中で審議すべきことは山ほどある。そして審議すれば、袴田さんの無罪は確実なものとなるはずだ。

「ボクサーくずれの被疑者を検挙」・・・これは当時の警察が作成した内部資料にある言葉だが、差別と偏見による犯人視の姿勢は今なお生き続けている。

2、袴田巌さんの今

支援の方々からお聞きした今の様子は、釈放直後は乏しかった表情が、少しづつ柔らかになって来た事。かっては出された食事は残さず食べていた(拘置所での習慣)が、この頃は好きなものを食べるなど変わってきた。

 9月27日の地元浜松での集会に、5月の集会以来3ヶ月ぶりに参加。出席を拒むことが多かったが、10月31日予定の広島の集会には、姉の秀子さんに「ついて行く」と言っていると言う。7時間位自由に一人で歩き回れるようになり、買い物をして一万円札を出し「釣りはいらない」と言ったり。

二人暮らしの自宅で、秀子さんが外の掃除や外出先から戻ると、巌さんが中から全ての鍵をかけてしまい閉め出されたことがあるとか。

それでも48年にも及ぶ、つらい獄中での事、死刑囚としての恐怖などは一切口にしないという。かわりに「全ては終わった。裁判は無意味であった」「袴田事件は終わった、冤罪もない、死刑制度も廃止した・・・」と語る時、どれほどの苦しみと恐怖が、その精神を破壊つくしたか、想像することさえ出来ない。

以下に、40年まえの、無罪を勝ち取るんだという希望が打ち砕かれる前の袴田さんの言葉を、9月3日付け東京高裁宛ての「要請書」から引用する。

「本件は、パジャマと血染めの衣類を取り替えた時点一審において、当然無罪の判決が下されて然るべきであった。(中略)確かに事実を掴まなければ真実は掴めない。同時に事実だけでは真実は掴めないのだ。(中略)今、冷静にこの事件を振り返って見ると、もともと本件と私と結びつける事が、不自然極まりないことであった。本件の四人殺し放火が本当に単独犯であったろうか。私は権力の狡猾な反則に負けつつ来た。しかし、今度こそ最高裁の公正な裁判を期待したい。」(1976年林勝巳さん宛て)

「私は敵も味方も、人間と人間との熱い血のつながりにおいて解決して行こうとする精神を欲しいと念じている。判事には是非そうしていただきたいと願う。」(1976年佐々木幸三さん宛て)

奪われた尊厳と正義を取り返すために、今は支援者らが戦いに取り組む。

3、映画「袴田巌」(ドキュメンタリー100分)

金聖雄監督による映画が、いよいよ完成する。撮影期間は、2014年5月から2015年9月まで。「巌のあるがままの姿を見てほしい」という姉の秀子さんの言葉に押され、毎週のようにお宅を訪ねカメラを回し続けた。巌さんの、突然始まった将棋三昧の日々につきあい、なんと73戦全敗。時には巌さんに叱られたり、ボクシングの試合の論評の確かさに感心したりと、徹底的に寄り添った姿勢だ。来春の公開が楽しみだ。

★終わりに

10月の袴田さん支援の定例事務局会議で、Yさんが嬉しそうに一口サイズの「キラキラ星チョコレート」を皆に配った。東京拘置所での巌さんの好物で、今は一般に市販されておらず、埼玉の製造元まで問い合わせ入手したもの。巌さんも「味は変わらないね」と喜んで食べてくれたと言う。拘置所の中、どんな苦しみどんな絶望のうちにこれを口にしていたのだろうか。

この国の獄中には、いまだ多くの冤罪被害者が押し込められたままだ。先頃、無実を訴えながら死刑囚の身分のまま獄中での死を強いられた名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さんなど、「権力の狡猾な反則」に殺されたも同然だ。司法による無辜の人々の殺人、精神の迫害をこれ以上許してはならない。

 公正な裁判を受ける権利を、保障せよ!

 袴田さんの再審を直ちに開始し、無罪判決を!(澄)

<今後の予定>
 ・11月27日(金)東京高裁・高検要請行動/午前11時55分東京高裁前集合
 ・来年1月24日(日)午後1時20分~4時「無実の袴田さんに無罪判決を1・24  清水集会」清水テルサ6階(JR清水駅東口徒歩5分)

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