ワーカーズ583号 2018/6/1
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さらに過労死を拡大する高度プロフェッショナル制度反対!
今必要なのは実質の労働時間短縮だ!
5月25日、高度プロフェッショナル制度を含む法案が、野党が抵抗する中、衆議院厚生労働委員会で可決されました。
この法案の委員会での可決に対し 全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表は、「悔しい限りだ。あんな暴挙はない」、「過労死が増えることは目に見えている。(政府や与党などは)財界の意見しか聴いておらず、遺族の声は届いていない」と言いました。
NHK記者だった娘さんが過労死した佐戸恵美子さんは、「数の力で強行採決したのは許せない。あなたたちの息子、娘が命を奪われたらどうするのかと叫びたかった」と涙ながらに語りました。安倍総理は、過労死遺族の面会を断っています。
高プロは、年収1075万円以上の一部専門職を対象に労働時間の規制から除外するものです。年収要件も省令等でいくらでも下げることができます。
5月23日の衆議院厚生労働員会で安倍総理は、高プロ制度について「(制度の適用には)条件があり、健康を管理して対応していく」、「高い付加価値を生み出す経済を追求しなければならない。(働いた)時間ではなく、成果で評価する働き方を選択できる制度は待ったなしだ」と強調しました。
労働時間の規制がないことに関連し、国民民主党の山井和則氏は5月16日の厚労委で「残業が月200時間を超えたら違法か」と質問。加藤勝信厚労相は「直ちに違法ではない」と答弁しました。
高プロが適用される労働者には「年104日以上、4週間で4日」の休日を与える健康確保措置が企業に義務づけられます。ただ、裏を返せば、4日間の休日があれば残る24日は24時間働かせても違法にはなりません。
また、政府が繰り返し強調し、高プロ導入により高まるとされる「成果」は、報酬に必ずしも結びつかないこともはっきりしました。5月23日の厚労委で、共産党の高橋千鶴子氏が「成果と賃金がリンクすると法案には書かれていないが」と質問したのに対し、加藤氏は「成果給を導入するのかは労使で決めること」と答弁。労働問題に詳しい法政大の上西充子教授は「高プロが創設されても、企業が成果を測ってくれる保証はなく、看板に偽りあり、と言わざるを得ない」と語ります。
「全国過労死を考える家族の会」の寺西さんは、5月22日に衆院厚労委であった参考人の意見陳述で「労働者が過労死しても、労災を認定されることは、ほとんど無理になる」と語った。長時間労働が過労死につながったとしても、高プロ対象者には企業側に労働時間を把握する義務がなくなるためです。寺西さんらは「賠償も受けられず、遺族は泣き寝入りすることになる」と訴えています。
使用者側が、労働者に支払う賃金を低くおさえてかつ実質の労働時間を大幅に増やす、過労死拡大の高プロ制度に断固反対します。河野
( この記事は5月26日に書いているので、読者の皆さんがこの記事を読まれる時には、高度プロフェッショナル制度を含む法案は衆議院本会議で可決されているかもしれません。)
二正面作戦に自ら陥るトランプ外交と「自分・ファースト」――米国外交の転換と半島和平に背を向ける安倍政権
◆米国内政治から見た「イラン核合意」離脱と米朝対話
トランプ政権はオバマ政権時代にまとめ上げた「イラン核合意」から離脱した。トランプの世界的合意離脱は、ほかに地球温暖化に関するパリ合意や自由貿易推進のTPPがあるし、各種の自由貿易協定も離脱をほのめかせて再交渉するとしている。理由はそれぞれ付けられているが、これらは基本としてトランプの選挙公約だ。
その影響はおおきい。とりわけ「イラン核合意離脱」は、中東情勢の更なる流動化をもたらしうるし、イラン国内の経済的困窮も継続されるということも想定される。米国企業家はイランの核政策に一定のタガをはめて経済開放を実現し、資本進出で稼ぐこともできるだろうに。ところが、何故トランプはオバマの政策をひっくり返したのか。それは直接的にはトランプの選挙対策である。共和党の支持基盤であり、自らの大統領選以来獲得したコアの支持層への「政治公約の実行」ということになる。米国民の二十五%も占めると言われる「福音派」の存在である。彼らのトランプ支持率は実に七十%に達するという。彼らはトランプのイスラエル寄りの政策を強く支持している。
同時に言うまでもなく、米国内のユダヤ系組織がトランプの親イスラエル政策を歓迎し、支持している。この二大勢力を「逃がしてはならない・・」これがトランプの政策だ。
ユダヤ教とキリスト教の一派である福音派には何が共通点としてあるだろうか。日本人には理解しにくいが、以下の共通点があるらしい。それは、モーゼに神より与えられた「約束の地」であるパレスチナからパレスチナ人を駆逐し、ユダヤの民が戻ることは「旧約聖書にある予言」の実現であるという。この二つの宗教は、この点で一致しているらしい。彼らの目的は、(そして当然イスラエルのネタニアフ政権の企み)は、パレスチナ全土の掌握である。二国家共存ではない。かつての「神の約束」は今では帝国主義的野蛮の正当化に堕している。
トランプは、選挙公約としてエルサレムへの大使館移転を決め、先日実行した。これは米国の従来政策である二国家共存(イスラエルとパレスチナ国家の共存)の事実上の転換だ。パレスチナ人が怒り抗議していること、そしてイスラエル軍が実弾攻撃で徒手空拳の民衆を殺戮していることはトランプとイスラエルに対して世界的な怒りを呼び起こした。
イスラエルにとって現在の「脅威」はイスラム国とイランである。イスラム国の脅威が低減した今、ネタニヤフ政権はイラン核合意を破たんさせて、イランを孤立化に再び追い戻してから、攻撃を仕掛けるつもりであることは明確だろう。すでにシリアのイラン軍(革命防衛隊)を執拗に空爆している。しかし、こうなるとイランもミサイル開発は進めており、地域的紛争が激化するのは必至である。イランも地域大国としてイラクやシリアに軍事的影響力を拡大しているし、イエメン内戦にも介入している(サウジとイランの代理戦争だとみなされている。)。もちろん紛争拡大になれば米ロが沈黙していることはないだろう。
中東は、今や混とんとしている。
米国はシリアやイラクへの軍事関与を後退させたいという動きもあるし、トランプもこれ以上の深入りは考えていないようだ。しかし、「思い」と実際の政策は矛盾している。トランプには、このような先々の一貫した計画や見通しがない。秋の中間選挙と次の大統領選で再選されたいということだけなのだろう。それゆえの上記したイスラエル寄りの政策転換なのだ。さらに米国はイスラエル援護射撃として、イランに対して「最大限の軍事的、経済的圧力をかける」と強力な経済制裁を課そうとしている。イランと経済取引のあるEU、日本などに協力するように圧力をかけている。イランの再孤立化をおぜん立てしているのだ。トランプのいっそう厳しいイラン核開発規制への姿勢は、今後の交渉を見据えた北朝鮮への脅しでもあるかもしれない。
このような米国の政策に翻弄され傷つくのは中東の民衆である。またイランと言えども一枚岩ではなく、イスラム革命体制は特権化し、今では民衆の不満が高まっており、去年から各地で反乱が発生している。トランプ政権の無思慮な外交を中心に批判したが、イランも同様だし、シリアなどは国民の屍の上にアサド政権は築かれている。サウジアラビアなど王族国家は言うまでもない・・。何よりも、支配者の圧制や身勝手な政策ではなく、民衆自身の力を高め結集してゆかなくてはならない。政治を自らの手に獲得してゆかなくてはならないのだ。
◆「中国包囲網形成」外交の破たん、半島和平に背を向ける安倍政権の醜さ
イラン核合意からの離脱と、対イラン圧力を高める米国。他方では、米朝首脳会談は東アジアにおける緊張緩和へのイベントになると期待されてきた。しかし、いまだにせめぎ合いが続き会談が今後行われるのかも定かではない。中止速報があったが、延期なのかどうかも不明だ。
しかし、そもそもトランプ・キム会談は、たとえ今後行われたとして北朝鮮の核装備の撤廃と引き換えに抑圧的な金体制を米国が認め保護し経済で優遇する・・と言ったものであり、まさに互いの支配層の取引に過ぎない。(現時点で両者の隔たりはプロセス論だけのようだ。)こんなことを歓迎する国民はどこにもいないと思われる。もちろん、この数年米朝間は緊張が続き一側触発の事態もあった。米朝首脳会談で、終戦・平和協定などが締結されれば、アジアの国民にとってもその限りでは歓迎できるものである。しかし、そもそも米国の基地が韓国や日本に多数あり、大規模軍事演習でいやがうえにも東アジアで緊張を造り出してきたのである。危機や緊張の第一の原因は米国にあることを再確認すべきだ。第二には、金体制が、国民の犠牲の上に独裁と核兵器体系を造り出したのである。このような金体制の存在および擁護論を我々は断固として批判しなければならない。(米朝会談の帰趨にかかわらず)いずれにしても米国の核超大国としての立場や金体制は不動であり、米朝首脳会談では、軍縮や民主化など少しでも実のあるどんな変化も期待しえないのである。
今後の米朝会談の帰趨は、定かではなく様々憶測が飛び交っている(六月予定の会談中止の速報があった)が、これ以上論及する必要はない。ただ、上記したように中東で米国が政治・軍事不均衡を造り出し後に引けなくなるとしたら、秋の中間選挙対策としてトランプにとって「歴史的米朝首脳会談成功」プレッシャーが倍加するのではないかと言うことだ。
一方、日本の安倍外交は内政問題にも引けを取らないぐらいに混迷し自信を喪失している。イラン問題では「核合意維持」の立場だが米国の圧力に腰が定まらないし、東アジアでは中国に急接近を図り、「日中外交の修復」などと言っている。要は、日本自らが中国脅威論をアジア各国に振りまいてきたのに、遅まきながら一帯一路政策への便乗らしい。これは安倍外交のキモである「中国包囲網形成」が破たんしたことを象徴している。さらに、肝心の北朝鮮に対しては、「最大限の圧力」一辺倒だ。ところが半島和平問題でも、米国や韓国、そして中国もノリノリになったとたんに安倍首相の失速は鮮明である。
安倍氏は、今では「核設備廃棄の不可逆的完全検証」まで「最大限の圧力」をかけ続けよと各国首脳に説きまわっている。実質的にこれは米朝会談の妨害行為だ。(米朝会談の中止報道に安倍氏はほくそ笑んでいるだろう)安倍首相は朝鮮半島和平に完全に背を向けているのだ。万が一にも米朝・中などで朝鮮戦争終戦(平和条約など)が確認されては困るのだ(敗戦国日本は戦後七十年たっても埒外にあり、その上アジアの戦後体制を再確認されることになるからである。)。さらにその必然的帰結として在韓米軍の撤退ないしは縮小、在日米軍の撤退ないしは縮小の声が日韓そして米国本土からも高まりうるからだ(われわれもそれを要求する)。つまり「歴史修正主義」安倍政治の時代錯誤が、打ち砕かれる瞬間となるだろう。われわれは米朝首脳会談に期待するものはないが、それが作り出す新たな局面を利用することは出来るし、しなければならない。また、米朝会談がたとえ破たんしても、米国政権のアジアにおける帝国主義行動(基地配備や軍事演習)とそれに便乗して軍拡と国内統制を強める安倍政権に一貫して反対する世論を喚起してゆこう。(阿部文明)
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米朝首脳会談中止――着地点をめぐるつばぜり合い――危険な駆け引きは止めよ!
初めての米朝首脳会談が近づいてきた、と思ったら、北朝鮮による首脳会談の再考発言、対するトランプ大統領による中止書簡と、首脳会談開催を通じた朝鮮半島の安定化に暗雲が垂れ込めてきた。
とはいえ、両国は首脳会談中止の最終判断はしておらず、会談実現の余地は残している。首脳会談を視野に入れた両国のつばぜり合いは、緊迫度を深めている。
私たちにとっては、米朝首脳会談の開催や朝鮮半島の恒久的な平和関係づくりが最終的な到着点ではない。が、それでも双方の妥協に基づいて、とりあえず朝鮮半島に平和と安定がもたらされることは、一歩前進だ。私たちにとっては、それが南北や日朝の労働者階級や民衆相互間の連携・連帯の出発点ともなるからだ。
当面、首脳会談中止、米朝の緊張の高まり、軍事衝突の危機の増幅、という道筋に抗議と警告の声を上げることで戦争への道を回避していくことが焦眉の課題となる。首脳会談がうまくいって、一足飛びに安定化に向かうという楽観は許されないが、双方の対立を煽って武力衝突を招き寄せることはなんとしても避けなければならない。
◆つばぜり合い
米朝首脳会談が接近するにつれて、自国に有利な着地点を追い求める両国のつばぜり合いが激しくなっている。
北朝鮮の金桂寬第一外務次官が5月16日、米朝首脳会談の延期を示唆する発言をした。要は、北朝鮮の一方的な核放棄だけを強要する米国の態度を牽制したものだった。対するトランプ大統領。そうした北朝鮮の態度を非難したうえ、24日には首脳会談を中止する旨の書簡を金正恩に送ったという。この書簡によって、米朝首脳による6月12日の会談はなくなったことになるが、それはトランプ大統領の「考え」を伝えたもの。現時点で不開催が確定したわけではない。
首脳会談の開催をめぐるこの間の両者のやりとりは、それぞれこれまで自分たちが主張してきた要求を少しでも自らに有利なかたちで決着させるためのつばぜり合いなのだろう。
北朝鮮は、米朝首脳会談の開催に合意した後、矢継ぎ早に融和カードを切ってきた。米国人3人の人質解放、核実験場の廃棄、弾道ミサイルの試射中止などだ。これらは首脳会談を間近にして態度を軟化させ、自分たちの要求をなんとか受け入れさせたいという条件整備なのだろう。
トランプ大統領も、強硬派のポンペオとボルトンを国務長官と国防長官に据える一方、金正恩の対応を手放しで評価するなど、対北融和の発言も繰り返してきた。が、トランプ政権内でも強硬意見がなくなったわけではなく、あくまで米国の一方的な要求の押しつけにこだわっているグループも存在している。核兵器の半年内の国外搬出や核技術者の国外移住など、強硬な要求は取り下げたわけではないからだ。
金正恩は、3月末に続いて5月始めにも電撃訪中し、習近平と会談している。これは、米朝首脳会談が失敗すれば、再度軍事攻撃の可能性が高まりかねない、という危機感からだろう。米国の強硬な要求が取り下げられる兆しも見えず、自分たちの要求も引き下げたくない北朝鮮としては、交渉が不調に終わって決裂という事態になれば、再度、米軍の圧倒的な軍事力と単独で対峙しなければならないからだ。金正恩としては、中国の後ろ盾を得ることでなんとかトランプ政権の譲歩を引き出したいとの思いからの訪中だったのだろう。
他方、強硬姿勢を続けてきたトランプ大統領は、3月8日に米朝会談を受け入れたあたりから、米朝交渉での成果獲得への意欲も露骨に見せるようになった。朝鮮半島の非核化や平和構築で成果を上げれば、自らの実績だと誇示することもできるし、米朝正常化が実現すればノーベル賞も受賞できるとの周囲の〝よいしょ〟にもまんざらではない様子。低空飛行を続ける政権浮揚のためにも米朝関係の正常化という実績への野心が芽生えたのだろう。
対する金正恩。中国の後ろ盾を得てある程度自信を得たのだろう、トランプ大統領に揺さぶりをかけた。かたくなな米国の態度が変わらなければ首脳会談の見直しもあり得る、という外務次官の口を通じた発言だ。〝実績〟に傾きつつあったトランプ大統領の足元を見透かした牽制球でもある。
とはいえ、トランプ大統領も安易な妥協はできない。大統領選挙当時から「歴代政権の失敗は繰り返さない」と大風呂敷を拡げていたトランプは、金正恩の空約束に踊らされることは、〝愚かな歴代大統領〟の仲間入りすることを意味する。こんどはトランプ大統領が首脳会談中止という恫喝のカードを切ったわけだ。
◆金正恩の危機感
ワーカーズ前号でも触れたが、金正恩が対話に大きく舵を切ったのは、米国本土まで到達可能な核ミサイルの開発・配備で、危機感を高める米国による軍事攻撃の切迫性が高まったからであり、また世界の、中でも中国によるかつてない経済制裁による国内経済の疲弊や停滞の切迫性だった。
金正恩は、米軍による軍事攻撃の脅威とただ1人向き合うことの恐怖心から、電撃訪中して習近平の後ろ盾を得ようとした。一方の習近平も、北朝鮮との疎遠な関係よる影響力の低下を挽回すべく、北朝鮮と金正恩に対する影響力を自らの手にすることで北東アジア情勢での影響力を手にしたい、という思惑があったのだろう。中国の後ろ盾を手にした金正恩は、一定のフリーハンドを手にし、米朝首脳会談の再考発言など、再び米国とのつばぜり合いを可能にした、ということだろう。
反面、米国本土まで到達可能な核ミサイルを手にしたいま、北朝鮮の金体制(金王朝)延命の保証を得るための、米国との交渉の最後のチャンスだと捉えたのだろう。それが成功しなければ、仮に米国による軍事攻撃を避けられたとしても、国際的な孤立と経済制裁による国内経済の疲弊で、北朝鮮の経済的な発展への道は閉ざされ、いずれは金体制も崩壊せざるを得ない、と考えたのだろう。首脳会談を通じた米国による体制保障を金体制延命のための不可欠のカードとする金正恩にとっても、後がない正念場なのである。
◆トランプの打算
一方トランプ大統領はどうなのだろうか。
トランプ大統領は、歴代大統領による北朝鮮北非核化政策が、ことごとくダマされるという失敗の連続だったとし、自らの力で北朝鮮の非核化を実現させることを政権公約として掲げてきた。
そのため、北朝鮮の、完全、検証可能、かつ不可逆的、な核廃棄(CVID)という高いハードルを金正恩に突きつけてきたわけだ。
ところが、金正恩は上記のように、米国本土まで到達可能な「核の兵器化の完結」を宣言(4月20日の中央委員会総会での金正恩委員長報告)した。その到達点を背景に、いまが米国に金体制を認めさせるチャンス到来だとばかりに、対話勝負に打って出た。核ミサイルの開発・配備で、米国に対する交渉力を手にしたと考えたのだろう。
トランプ大統領としては、無条件の100%の非核化を要求したいところだが、ここに来て、米朝関係の正常化という〝歴史的な実績〟への誘惑にかられ始めたのだろう。一定の妥協をつうじてその実績を手にできるのか、あるいは100%の要求を突きつけて拒絶されるのか、という究極の二者択一の場面を招き寄せたわけだ。トランプ大統領としても、悩ましい場面なのだろう。
戦勝国と敗戦国の関係でもないし、中国やロシアなど北朝鮮の背後にいる国との関係もあるし、まず100対ゼロの決着はあり得ない。結局は、米国は北朝鮮への軍事攻撃のオプションを放棄すること、言い換えれば、南北の停戦条約を米朝平和条約に切り替えること、北朝鮮は、開発・配備した核ミサイルを廃棄すること、他方で核技術自体は曖昧決着に付す、というあたりで手打ちになる可能性が高い。
これは米国にとって当初の要求よりハードルが下げられることを意味し、実質的にはこれまでの核協議と大差ない状態だが、それで双方が合意するだけでも一歩前進だといえるだろう。
◆安倍首相の無策と孤立
「対話のための対話では意味がない」「対話ではなく、いまは圧力のときだ」「国際社会のなかでリーダーシップを発揮する」「国難突破解散」と、大上段に構えてきた安倍首相。が、南北首脳会談の開催や、米朝首脳会談が合意されるや、「対話歓迎」と応ずる以外になかった。
北朝鮮の非核化や拉致問題解決にあたって、北朝鮮に対してはこれまで上から目線の圧力強化路線に終始。金体制の崩壊こそがすべての解決をもたらす、という高飛車なものだった。こうした強硬路線は自国だけで貫徹できるわけもなく、米・中・韓、なかでも米国を頼るしか実現し得ない〝戦略〟でしかなかった。
米国としては、自国の脅威、すなわち米国本土まで到達可能な核ミサイルの開発・保有の阻止が目標だったが、日本は違う。中距離弾道ミサイルのノドンとそれに搭載可能な核ミサイルの保有、及び拉致問題の解決だった。
その解決のためには、周辺国との共同歩調ばかりでなく、独自な日朝関係へのアプローチや独自の交渉チャンネルの保持が欠かせなかったはずだ。ところが現実はノドンは交渉のテーブル外、拉致問題でも韓国政府や米国政府に要請するだけ、北朝鮮への独自な交渉チャンネルはまったく機能していない現実をさらけ出してきた。
米朝韓中4カ国による朝鮮半島問題での〝日本外し〟は、米朝首脳会談以降も打開する見通しもない。仮に米朝首脳会談が実現した場合、休戦協定の平和条約への切り替えや在韓米軍の扱いなど、何らかのかたちで南北、米朝の間で交渉がおこなわれることになる。
その枠組みは、現時点では、米国・韓国・北朝鮮の3カ国か、それとも中国を加えた4カ国かで行われる可能性が高い。かつての6者協議の枠組みである日ロを加えた6カ国の枠組みは、実現性、実効性とも低く見られている。
いずれにしても、現状では朝鮮半島問題での〝日本外し〟が打開される見込みは開けていないのだ。トランプ政権でさえ強硬な言葉のキャッチボールの割には圧力一辺倒ではなかった。一方、ナショナリズム=排外主義を軍事大国化のテコとして利用してきた安倍首相。北朝鮮に対して強硬姿勢をとり続けることだけしか頭になかった安倍首相。米朝首脳会談、その中止、会談再合意などという急激な局面展開になすすべもないのは、当然という以外にない。
現時点(5月26日)で、トランプ大統領の会談中止書簡に対し、北朝鮮は「対座して問題を解決する用意がある」との談話を出し、トランプ大統領も、「(首脳会談を)6月12日に開くのも可能。情勢を見守ろう」と語っている。まだ米朝交渉が完全に破綻したわけではない。今後も両国のつばぜり合いは続く。私たちとしては、交渉破綻による米朝緊張の高まりから武力衝突へと突き進まないよう、警戒と監視の声を上げていきたい。(廣)
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読書室 『ヒト―異端のサルの一億年』島泰三著(中公新書)
現在、私たちは福岡で人類学に関係する読書会を、月一回のペースで行っています。そのうちの一冊が島泰三著『ヒト―異端のサルの1億年』(中公新書)です。他に河野本道著『アイヌ史/概説』(北方新書)も勉強しています。
実は島泰三氏も河野本道氏も、東大全共闘の闘志であり、人類学の学問としての在り方に根源的な問いを突きつけることから出発し、「闘う研究者」としての道を歩んだ人々です。ちなみに河野本道氏は、私の学生時代の恩師でもあります。
今回紹介する島泰三氏の著書について、読書会はまだ半分も読み進んでいないので、全体的な内容紹介は又の機会に譲るとして、今回は何故私たちが同氏の著書に注目したか、から始めたいと思います。
●文明批判の学問を求めて
島氏は同書でこんなことを書いています。
「日本列島には、たぶん世界で一番幸せな漁撈採集民が暮していた海辺が残っていたが、水俣病が多発した一九五〇年代には、その幸せの風景はついに幕を閉じた。私が小学六年生(一九五九年)の夏、水田に最初の農薬が撒かれて、イナゴも小川のメダカもドジョウも消えうせてしまった。(略)少年時代の楽園の日々は、目の前で閉ざされ、永遠に終わりをつげた。それ以来、私は現代文明を全く信用しなくなった。(略)パラチオンという農薬の名は、今でも憶えている。(略)一九六〇年代は、東京オリンピックと経済成長に涌いた時代だったが、一定数の若者たちは現代文明を根本的に否定する感覚を持っていた。それは、大気汚染や農薬汚染を成長期の間中、肌で感じた結果だったことが、今となっては良く分かる。現代文明を評価しない少年が向ったのは、この文明全体をまるごと理解できる学問への憧れだった。ホモ・サピエンスが出現して以来のこの二〇万年間(略)。いったい人類に何が起ころうとしているのか?十二歳で現代人の文明をまったく信用しなくなった少年は、トータルな人間理解の方法を生涯かけて探すようになった。大学に入ってはじめて出会った自然人類学は面白かった。」(「あとがき」より)
●自然人類学との出会い
こうして島氏は、文明批判の視点から自然人類学の道に進むようになったのです。そうした島氏の目には、今の文明はどのように写っているでしょうか?
「私の考える自然人類学の視点は、類人猿と化石人類はもとより現代人についても生命体としての全体観が得られる視点である。しかし、それは現代人にとってよい点をつけるための方法ではない。「賢い人、ホモ・サピエンス」だったはずの現代人の中には、あえて名づければ文明化人ホモ・クルトゥス(Homo cultus)とでも呼ぶしかないような戦争を産業とし、階級差別を制度化する別人種が生れつつある。(略)農耕牧畜以来の一万年間に人類がとげた変容は、生物としては異様なものである。」(同)
これらの島氏の文明に対する否定的な「感覚」は、十歳近く下の世代である私も、同じく車の排気ガスによる光化学スモッグの中で育った者として、まさに生理的な「感覚」のレベルで共感できるところがあります。私が人類学を学ぼうとした動機も、今思えば島氏のそれと共通していたことに気づかされます。
ともあれ、類人猿の研究の面白さに目覚めた島氏は、世界中をフィールドで駆け巡り、マダガスカルの原猿類の観察から始め、スマトラとボルネオのオランウータン、ルワンダのゴリラ、タンザニアのチンパンジー・・・と、様々な類人猿を観察してゆきます。さらに化石人骨の観察により、アウストラロピテクス、ホモ・エレクトゥス、ネアンデルタールなどの猿人や旧人を経て、現人であるホモ・サピエンスについて考察します。その詳しい内容は、別の機会に紹介するとして、私が「面白いな」と思ったことを述べましょう。
●歌うオランウータン
オランウータン、ゴリラ、チンパンジーといった「類人猿」は、他のサル(ニホンザルなど)と異なって、私たち人類に近いと感じられると言います。
例えばオランウータンは「歌を歌う」のだそうです。
「彼は(略)大きな木にやってきた。(略)彼は枝の先端まで丁寧にたどって、この小さな果実を食べた。(略)彼は半時間かけて大きな木の果実をほとんど食べ尽くすと、私たちから見えない木の死角になる側に入って、歌を歌いはじめた。その歌は森をゆるがし、谷を越え、地上にへばりつくしかない哀れな人間の心を揺さぶった。歌は二分以上続き、最後に深い反響音を繰りかえして終わった。オランウータンは歌を歌う!学者はそれをロング・コールと呼ぶ。(略)オランウータンこそは、もっとも初期に人類の枝と分岐した大型類人猿である。その時代から彼らはこの歌を歌っていただろう。類人猿の歌に二〇〇〇万年に及ぶ歴史があるとしたら、私たちも自分たちの歌について何事かを悟るのではないだろうか。」(「第二章 歌うオランウータン」より)
●優しく対話するゴリラ
一方、ゴリラは「笑う」のだそうです。
「雄のゴリラのココは、飼育者に虫を投げつけて驚かせ、飼育者が金きり声をあげるのを楽しみ、そのいたずらを繰り返しながら笑う。「ココの笑い声は、人間が(略)あえいでいるような感じで笑うときに似ていて、クックックック・・・と聞こえる」」
またゴリラは人間と「見つめ合う」そうです。
「ガイドは観光客に注意する。「ゴリラに見つめられたときには、見つめ返してください」(略)ゴリラは「君の目をよく見せてくれ」と語りかけているのだ。」
さらにゴリラとの間では「対話」が成り立つと言います。
「見通しのきかない丈の高い草むらにいるゴリラが近いので「ヴッヴーン」(略)とガイドが声をかけて、ゴリラの許可をとる。これは「近づいていいか?」とか「来てもいいよ」といった言葉そのものである。これに対する返答は、ガイドの出した声と同じ調子なら「オーケー」であり、イヤなら「アッアッ」(略)である。こうして拒否されてもガイドが(略)近づいたとき、彼は立ち去るために動きだし後ろ姿になって「あっちに行け」あるいは「やれやれ、困ったものだ」という感じで、後ろむきに手を振った。(略)「ボディ・ランゲージ!ですよね?」と叫んだほど、人間と共通の動作だった。」
●チンパンジーの心の闇
一方、チンパンジーには「心の中に秘める暗く深い闇の知能」があると言います。
以下は、島氏が研究者の増井氏から聞いた、チンパンジーの「ントロギ」に殺されかけたと言う体験談です。
「十一月十三日、Mグループの雄たちは雨が降ってきたときに特有のレインダンスの最中だった。(略)力自慢のントロギはあちこちに石を投げるディスプレイをやっていた。その石が地面に置いてあった増井さんのカメラバッグに当りそうになったので、増井さんは警告として石を投げた。それが(略)ントロギの頭にたまたま当たり、ントロギは不意打ちの衝撃のためにシュンとして、ディスプレイをやめ、彼にとってなにより大切なボスとしての面子を失った。ントロギはそれから一週間以上、増井さんの視界から消えた。「まわりにいるらしい感じはあったが、姿は見えなかった」と増井さんは言う。
十一月二十二日、増井さんはカシハ谷で雄たちを観察している最中に落ちてきた枯れ枝が頭に当って昏倒し、取り囲んでいたチンパンジーから食われまいと必死で逃れたが、三日間寝込むことになってしまった。増井さんはどう考えても、これはントロギの復讐としか思えないと語る。それは、木の枝が落ちる直前にントロギの変な行動を確認していたからである。「ントロギを見ると、彼は私から十五メートルほど離れた藪の中にいて、太いツルを引っ張っては揺らしていた。(略)私は(略)『いったい何のつもりだろう』といぶかしんだ。その瞬間、私は頭に衝撃を受け昏倒した。」事後に調べたところ、ントロギが引っぱっていたツルは増井さんが立っていた地点に生えている木の上まで伸びていた。ントロギは恨みを決して忘れず、復讐を入念に準備する性格を持っていた。」
●環境によって形成される性格
歌を歌うどこかマイペースなオランウータン、どちらかというと陽気で優しいゴリラ、恨みを忘れず復讐するチンパンジー。
こうした類人猿のそれぞれの性格は、それらが棲んだ環境の違いによって形成されたもののようです。豊かなジャングルの中で不自由なく木の実を食べて育ったか、乾燥化した草原で乏しい食料を奪い合って育ったか・・・。
こうしてみると、私たち現生人類の様々な性格、優しく助け合う心がある一方、猜疑心や復讐心もある、環境によって相反する心理が発現する人間の性格は、もしかすると類人猿の数千年にわたる歩みを通じて育まれ、私たちに伝わったものなのかもしれないと思うのです。
であるなら、また次のようにも言えるのではないでしょうか?私たち人類は、ともすれば欲に任せて資源を奪い合い、富の独占のため殺しあう潜在的性格(チンパンジー的性格?)を持っており、その延長上に文明を築いてきました。しかし、そのことを自覚し「奪い合い」や「殺し合い」をしないように、社会的環境をコントロールできれば、自由や助け合いの関係を引き出す潜在的性格(ゴリラ的性格?)もあるのです。私たちの心には、オランウータンの心もゴリラの心もチンパンジーの心も、少しずつ引き継いでいると考えてみてもいいのではないでしょうか?時間があれば、近くの動物園に行き、私たちの大先輩である類人猿たちと向き合い、私たちの進むべき道についてアドバイスを求めてはいかがでしょうか?(松本誠也)
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読書室 副島隆彦氏著『米軍の北朝鮮爆撃は6月! 米、中が金正恩体制破壊を決行する日』光文社刊行
トランプの大統領選勝利を予言して的中させた副島隆彦氏の次なる予言は「北朝鮮Xデー」を6月末、遅くとも7月4日以前とする大胆予言である。さてこの予言は当たるか否か。
ここで問題となる副島隆彦氏の具体的な予言を正確にお伝えすれば、去年4月に行ったもので「アメリカは相手に先に手を出させる。北朝鮮から韓国に通常ミサイルを撃たせる。それを合図に米軍のバンカーバスター(地中貫通型大型爆弾)搭載の巡航ミサイルによる一斉のピンポイント(精密)攻撃が行われて後、中国軍が侵攻する」との予言である。
そして今回出版されたこの本で、昨年の予言は2カ月先の6月に延びたようだと修正する。その理由について副島氏は、韓国の文在寅大統領が北朝鮮の独裁者金正恩にべつたりとくっついて救援に向かい、「崇高な南北統一」或いは「民族統一」という世界中の人々が甘く考えることの出来ない、実に大きな球を世界政治に投げ込んだからだとした。
この文在寅大統領の戦略は平昌オリンピック以降、金正恩委員長の思惑と重なって朝鮮半島における南北融和ムードが急速に拡大したことは、皆さん周知の事実である。このため、この本が出版された3月上旬には、副島氏の予言は大いに嘲笑されたものである。
北朝鮮が中国の庇護の下に入ったことで北朝鮮の孤立は救われ、米朝会談ではこの後ろ盾を得たことにより、北朝鮮問題は平和的に解決するのだ等との認識は、「世に倦む日日」の田中宏和氏等によって拡大されてきたが、5月下旬に至って急展開し変化しつつある。
北朝鮮の南北会議を無期限に延長するとの動きやまたトランプも米朝会議は中止するとの声明は、今後、本当に米朝会談が開催されるか否かの問題に発展する勢いである。
ここで私たちは2・3・4月に醸し出された南北融和ムードとは一体何だったのかを冷静に振り返るとともに、「6月に米軍の北朝鮮の爆撃は必至である」とまるで際物のようにタイムリーに出版された副島氏の本を、今こそ真剣に読み込む必要があるのである。
では本書の目次を紹介することで、この本の構成をまずは確認したい。
まえがき
第一章 北朝鮮爆撃はなぜ6月なのか? 副島隆彦の予言は当たるのか
第二章 高永喆(元韓国国防省分析官)との緊急対談
米軍の通信傍受体制から、北朝鮮の新体制まで…白熱討論
第三章 2018年6月、北朝鮮体制崩壊へのシナリオ
第四章 トランプの本音は北朝鮮問題を1カ月でさっさと片付けたい
第五章 習近平「北朝鮮処理のあと、西太平洋を中国に渡せ」
あとがき
本書の構成は、以上に書き出した通りである。予言への自己確信の強さが感じられる。
本書で副島氏が強調したいことは「アメリカは北朝鮮に対して、堪忍袋の緒が切れつつある。自分たちを核兵器で脅す国の存在を許さない」こと、「文在寅大統領が北朝鮮の独裁者金正恩」の「救援」に向かったこと、アメリカは北朝鮮の睨み合いは最終局面に入っていくこと、「こうなると金正恩としては、ますます絶対に核ミサイルを手放さない」こと、トランプと習近平は金正恩を許すことはないこと、つまり「超大国であるアメリカと中国は、金正恩と文在寅を自分たちと対等の話し相手(交渉相手)だとは認めていない。こんなチビコロ国家の指導者なんか、大国の力で叩きのめしてやると考えている」こと、そして米国・中国・ロシアの「新ヤルタ体制」で「北朝鮮処理」をするということであ る。
さらに副島氏が本書であまり書いていない部分を、北朝鮮問題とイラン・中東問題がリンクしていると分析した田中宇氏の重要記事に注目する必要がある。彼の国際ニュース解説は、トランプのイラン核協定からの離脱を取り上げている。この5月中にも最新記事順に紹介すれば「英スクリパリ事件と米イラン協定離脱の関係」、「イラン・シリア・イスラエル問題の連動」、「トランプのイランと北朝鮮への戦略は同根」、「トランプがイラン核協定を離脱する意味」と実に4本も書いている。これらでの田中宇氏の指摘は重要だ。
まえがきにおいて副島氏は、北朝鮮を爆撃するにあたって極めて重要な指摘を行っている。それは米軍が実際に北朝鮮を爆撃するには、国連の安全保障理事会の拡大会議で秘密の緊急の決議をすることで、北朝鮮への爆撃を実施するしかないとの指摘である。つもり実際にどうなるかは別だが、形の上では米軍は国連軍の一員として行動するのである。
この先制攻撃は秘密でやらないと北朝鮮に察知させたら、先にアメリカ本土に核ミサイルを発射されてしまう。そうなったらアメリカの負けだと副島氏は言う。そしてこの先制攻撃に対して5大国の拒否権の行使はあるのだろうか、つまり北朝鮮の肩を持つはずのロシアと中国からも拒否はないと副島氏は判断している。田中宏和氏は北朝鮮を中国は庇護するものと見ているが、副島氏は北朝鮮は世界的に孤立していると見ているのである。
さて田中宏和氏と副島氏のどちらが中国や北朝鮮を正しく認識しているのであろうか。
第一章では、中国が金正恩体制を崩壊させるとの小見出しを立て論じられている。北朝鮮爆撃の後、中国が北朝鮮に侵攻して、金正男の長男の金漢率に政権を作らせるとする。
第二章では、佐藤優氏と共著も出版している高氏と副島氏との討論が収められている。
この章は討論であるから簡単に纏めることは出来ないが、今回の北朝鮮攻撃は「スモール・ウォー」で終わる、今の戦争は最先端の電子攪乱戦なので北朝鮮の通信網、コンピータネットワーク等を麻痺させてから攻撃する等、攻撃のターゲットは約7百箇所を2千発で攻撃する、侵攻するのは瀋陽軍区の兵士等々の極めて具体的な指摘が充ち満ちている。
第三章は、本書の肝である。それは副島氏の予言がどういう背景から生み出され、何故必ず的中すると断言できるのか、それはどういうシナリオで進むのか、その根拠を一つひとつ解説している章だからである。最大の論点は核兵器保有の主権を持つ北朝鮮を止められるのは国連総会の決議だけだとの指摘と「新ヤルタ体制」、つまり米国と中国とロシアで世界を支配する、そして「北朝鮮処理」をお膳立てしたのはキッシンジャーであり、彼の人生最後の大仕事だとの指摘等である。ここだけでも皆さんへぜひ読むことを勧めたい。
第四章は、副島氏の予言の再度の確認である。たった20ページに纏められている。
第五章は、中国が米国の次の覇権国を目指すこと、習近平が「共青団」勢力を骨抜きにして権力闘争に勝利したこと、政治警察を掌握したこと等が明らかにされ、永らく副島氏を小馬鹿にしてきた「中国崩壊論」の崩壊に対する副島氏の高らかな勝利宣言である。
ここで重要な事実を紹介しておけば、2016年末に習近平は中国軍にテコ入れして7大軍区(各々が軍閥だった)を5大戦区へと一大改革したことである。こうした事実があったればこそ、習近平は一大改革を終えた後の中国軍幹部に対して「死ぬことを恐れるな」「戦争をすることがお前たちの仕事である。仕事をせよ」との大演説ができたのである。
あとがきでは、日本の右翼の中に「北朝鮮を征伐に行く」との声が上がらない不思議さを問題にする。自分は何もせず、国際社会に期待する日本人の不思議さを論じる。そしてこのことこそ、国家戦略を持たない日本の問題だと副島氏は鋭く抉り出したのである。
本書はまさに現時点で読むべき本である。そしてこの副島氏の予言が当たるか否かは、1カ月後に事実でもって誰にでもはっきりと分かるのである。ぜひ一読を勧めたい。(直)
何でも紹介 「通販生活(夏号)の特集『九条と沖縄』の紹介」
私の連れ合いがカタログハウス(株)の「通販生活」を購読している。
最初はカタログ販売の雑誌程度と軽く考えていたが、連れ合いから「この通販生活はとても良い記事が多いよ。特に沖縄関連の記事が凄い」と進められて読む機会が増えた。
今度の最新号の「夏号」を読んでビックリ!
特集として「九条と沖縄」が組まれていて、本土の私たちに訴える内容がすばらしい。
第1部の「落合惠子さんと稲嶺進さん(前名護市長)との対談」での見出しが、「米軍基地が必要というなら、沖縄に押しつけずに全国で負担してください」とアピール。
対談内容を少しだけ紹介すると。
<稲嶺>「辺野古基地の工事は全く進んでいません。埋立て面積では1%も完成していないのです」と説明。
<落合>「辺野古の新基地建設は、『もう後戻りできないほど進んでしまっている』という解釈は、間違いなのですね」と納得。
<稲嶺>「基地建設は必ず設計変更が必要になる。変更には県知事の承認が必要なので、翁長さんの再選で工事を止められます」と説明。
<落合>「基地建設ストップ、日米地位協定の改定、『本土』への基地引き取り、この3つの宿題に『本土』の私たちがどう応えるかです」と本土の課題をズバリと指摘。
第2部の連載「国民投票が近づいてきた」の中で、「『九条を考えること』は日米安保条約を考えること、日米安保条約を考えることは、米軍基地の7割が集中するために、しじゅう騒音トラブルやヘリコプター事故、米兵犯罪や環境破壊の被害を被っている『沖縄県の苦しみを考えること』」と、2人の対談内容がまとめられている。
そして、落合さんが「『日米安保条約は継続がいい、でも、米軍基地は沖縄県にお願いね』では、沖縄県民に申し訳が立ちません」と指摘。
それを受けて稲嶺さんが①日米地位協定の改定、②辺野古基地の建設反対、③米軍基地の本土への引き取り、を本土の皆さんに訴えている。
第2部のインタビュー記事では、東京外国語大の伊勢崎賢治教授が地位協定の問題を取り上げ、「沖縄の負担を減らすために、世界的に見ても不平等で屈辱的な『日米地位協定』を改定すべき。今すぐイデオロギーの壁や与野党の対立を超えた日米地位協定平等化の国民運動を起こすべきです」と指摘。
東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんは、「『抑止力』にもならない2000人の米海兵隊のために、どうして辺野古に新基地が必要なんですか」、「有事には米本土から大部隊の海兵隊が派遣されるので沖縄に常時駐留は不要」と説明。
「沖縄の基地を引き取る会・東京」運営委員である飯島信さんは「本土の多数が日米安保体制を支持してきたのですから、米軍基地は沖縄から本土に引き取るべきです」と主張し、全国に広がる本土への基地引き取り運動の様子を説明。
沖縄問題をここまで掘り下げて、本土の人たちに伝えている「通販生活」。沖縄専門誌並のレベルだと思います。(富田 英司)
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コラムの窓・・・元号なんかいらない!
天皇を戴き、それに隷属したい勢力による日の丸・君が代・元号の法制化は、この国をどのように変容させたのだろうか。そんなことを考える今日この頃です。1979年6月12日に元号法を、99年8月13日に「国旗及び国歌に関する法律」(国旗・国歌法)が国会を通過し、どちらも公布の日に即日施行されました。さすがに、靖國神社〝国家護持〟の法制化はなりませんでした。
法そのものにはいかなる強制力もありませんが、現実社会ではその使用が〝強制〟されています。今まさに、〝生前退位〟という新たな事態のなかで、天皇制の強化がアキヒトへの好意的評価とともに策されています。そうしたなかで、新元号いらないという声をあげることは大きな意義をもっています。
元号法は、第1項「元号は、政令で定める。」、第2項「元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。」国旗・国歌法は、第1条「国旗は、日章旗とする。」、第2条「国歌は、君が代とする。」という簡潔なものです。これがいま、とりわけ学校を席巻しています。
元号については実際的な問題として、システム変更のムダも少なくありません。例えば、立川市では今年度「改元予算」として5300万円計上となっています。すべての自治体でこのようなムダな税金の支出があるはずです。この一事だけでも、元号はいらないと言えるでしょう。
京都新聞は5月1日、「元号の存在感薄れる? 改元まで1年『西暦の方が便利』」という記事を掲載しています。その一部をを紹介します。
「『平成』はあと1年となり、来年5月1日からの新しい元号への関心が高まる。しかし、住民票発行や転入・転出届を提出する際、生年月日を西暦で記入できる様式が、京都府内の自治体で広がっている。15市のうち、元号に限定しているのは5市だけで、担当者は「特に平成生まれの若者に西暦記入が多い」という。大学の入学願書を西暦に限るところも目立ち、昭和に比べ、元号の存在感は薄れているようだ」
「1979年の元号法制定時、学者が『戦前の天皇制復活につながり、国際感覚の上でも不便』との反対声明を出し、今回も新元号に反対する署名活動が行われている。ただ各市に聞くと、2012年7月に在日外国人の住民票登録が始まったことを契機に西暦欄を設ける市が増えたとみられる。転入・転出届を西暦可にする南丹市は『日本人でも西暦で書く人がおり、想定外だった』という」
西暦を使い英語で話す、それ以外の正解はないとは言いませんが、意思疎通の手段としてはそれが最善だと思います。それ以上に、天皇の暦の下での生活など真っ平なのです。元号は使わない、日の丸や君が代に敬意を払わない、高貴な血脈など認めない、そんな生き方もありだと私は考えています。 (晴)
袴田さんに一刻も早い無罪判決を!
1966年、旧清水市で一家4人が殺害された事件の犯人として、確定死刑囚とされた袴田巌さんは、2014年静岡地裁によって、冤罪の可能性とともに「これ以上の拘置を続けることは耐え難い程正義に反する」として48年ぶりに身柄を釈放され、再審開始が決定された。
本来ならば、すぐにでも再審が始められるべきであるにもかかわらず、検察が即時抗告したため、4年以上もの時間を無意味な検証実験などで浪費させられてしまった。来る6月11日、やっと東京高裁での再審可否の決定が出される事になった。
82才の袴田さんは、糖尿病を抱えつつ、午前も午後も歩き続ける毎日だが、心はいまだ妄想の中にいて、獄中のままだ。死刑執行の恐怖から解放し、巌さんの心を獄中から取り戻す、つまり真の自由を手に入れるためには、一刻も早い無罪判決が必要だ。
しかし6月11日に再審開始決定が出されたとしても 、再び検察が最高裁に特別抗告をしてくる可能性はある。再びこれ以上の無意味な時間の浪費は決して許されない。
検察庁に「これ以上裁判を長引かせるな」と訴えるとともに、地元選出の国会議員であり、現法務大臣の上川陽子氏に対し、指揮権を発動して検察に特別抗告を止めさせるよう指示するための請願署名を集める方針だ。
その一環として去る5月18日、上川大臣の静岡事務所の近くに法律事務所前を構える小川秀世弁護士のビル前で「袴田巌の壁」オープニングセレモニーがあった。道路側に面した高さ2・4メートル幅5メートルの白い壁は、自由の象徴とされるチェコ・プラハの「ジョン・レノンの壁」をイメージし、誰もが自由にメッセージを書き込める。
午後3時からのセレモニーには、マスコミも多数訪れた。
壁の上部に「上川法務大臣、検察官の特別抗告をやめさせてください!」と大書され、左側には巌さんのイラストが描かれている。
浜松から新幹線とタクシーを乗り継いで、姉の秀子さんと駆け付けた巌さんは、太いペンを持つと迷わず「袴田巌」と大きく書き、その上に「幸せの花(壁とも読める)」と書き加えた。続く秀子さんは「無実」と書き、次々と多くの参加者が自由にメッセージを書き込んだ。
この日巌さんがハンドマイクで訴えた言葉は「闘いは、勝たなければしょうがない」。
そうだ!勝って無罪をもぎ取ろう!!(澄)
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色鉛筆・・・「 海を壊すな!海泥棒!」
今、辺野古では毎日10トンダンプカーが、9時、正午、3時と強行に資材搬入を繰り返している。5月16日は延べ361台、17日延べ347台、18日延べ329台。1回につき100台以上の車列が続くため、路線バスは渋滞でまともに走れず、辺野古を迂回せざるを得なくなっている。
1年前の10倍もの工事車両を投入して、6月か7月にも土砂を投入して埋め立てようとしているが、辺野古側は浅瀬で作業は容易だが、実は反対側の大浦湾には、活断層の可能性やマヨネーズのような地盤強度がゼロの地点などあることが指摘されていてる。また仮に基地が完成しても、周囲には航空上高さの引っかかる建物がいくつもあるなど、難問が山積みしている。
政府は莫大な予算と、人員(機動隊、海保職員、民間警備員など)を投入し、あたかも基地建設は後戻り出来ないとの演出をもくろむが、それは事実ではない。市民らの抗議は、海でも陸でも決して止むことはない。
去る4月23日~28日「ゲート前で連続6日間/500人を集めて工事を止めよう」との呼びかけに、最後の2日間だけ参加した。実際には700人や800人が集まった日もあったが、残念ながら「遅らせる」ことは出来たが「止める」ことは出来なかった。多数の機動隊員が配備された上、通称カマボコと呼ばれる機動隊の大型車両5台と、基地フェンスとで挟んだ歩道を即席の「檻」として、排除した市民を次々と閉じ込め、工事車両を通すというひどいやり方で、長い人では1時間以上もカマボコの排気ガスの中に閉じ込められる。
4月27日(金)昼、600人の人と座り込むと、機動隊員が二重三重に取り囲み、向こう側は見えない。多勢に無勢で約30分で全員排除、拘束された。続く3時には、わずか25分だ。
工事を止められないことで、この行動は甘いとの批判もあった。そもそも「アリ」の沖縄が象に挑む様なもので、力の差は歴然だ。今のところ工事を止められるのは、皮肉なことに台風と天皇の訪沖(警備に取られる)位しかない。だが決して諦めない「アリ」の意志を侮るなかれ。
安倍政権のなりふり構わぬ強行は、日本いや世界から見ても恥ずべき行為だ。取り囲む機動隊員の胸に、本来あるはずの胸章が一様に外されているのは、その後ろめたさの象徴であろう。一方、座り込みの現場では「トイレ・コンビニへの送迎車」がこまめにあり、またひどい排気ガス対策にと、マスクや黒糖、水などが回されて来る。命を大切にする証明であり、いつも感心する。
翌28日(土)朝ゲート前に座り込むも、この日は搬入はなく山内徳信元読谷村長らによる即興の辺野古学校の様になる。沖縄の長い闘いの歴史や、目の前に立つ若い機動隊、警備員に向けての「誇りを持って仕事をして下さい」という心の底からの訴えは胸を打つ。 続いて立った彫刻家の金城実氏が日米地位協定について話す。米兵の車に殺された知人の息子さんの例を上げ、「米兵を訴えるなら金は出ませんよ」と防衛局職員が父親に言い放ったという事実は、今も変わらぬ不平等協定の理不尽な現実を鋭く突き付ける。
この日11時からは『4・28県民屈辱の日を忘れない県民集会』が開かれ、1500人が参加した。冒頭、うるま市の20才の女性が、元海兵隊員の軍属の男に虐殺された事件から2年目にあたり、全員で黙祷を捧げた。メインゲートには白い花束が置かれた。
20才になったばかりの女性が背後から殴られ、暴行、遺棄された事件は今も忘れることが出来ない。政府が推す名護新市長が就任するや、再編交付金の支給を早々に決めた一方で、遺族への賠償金の支払いは進まない。米軍側が「軍属であって、直接雇用ではない」ことを理由に支払いを拒み、日本政府が何の手立てもしていないからだ。
昨年12月、保育園や学校に米軍ヘリの部品が落下するという許しがたい事故を起こしながら、いまだ平然と上空を飛び続け、それを容認している政府。普天間第二小では、新学期以降4月9日から5月19日まで、146回もの避難を強いられている。安全な空は無く、授業など成り立つはずもない。
沖縄からは、日本政府の醜くゆがんだ姿がよく見える。押し付け、ごまかし、踏みにじり、差別し尽くす。(澄)
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