ワーカーズ629号  (2022/4/1)    案内へ戻る

 プーチンは反戦運動への弾圧をやめウクライナから軍を引け!
  ゼレンスキーは国民の戦争への強制動員と労組破壊をやめろ!


 ウクライナ戦争を見るときに、大前提として明確に押さえられねばならないのは、プーチンによるウクライナ侵攻はどこから見ても許されない行為であることだ。また、それを生み出したロシアの体制、つまり国家資本とオリガルヒ(新興財閥)が労働者を支配・搾取する経済社会構造、加えてシロヴィキと呼ばれる官僚や軍や諜報機関の中に巣くう大ロシア主義的拡張主義が戦争の根源であること。

 さらに、厳しい弾圧下でもひるむことなく継続され、広がりさえしている反戦・反プーチンの行動、これは新しいロシアを模索する運動であり、プーチンの体制に変わる新しいロシア社会の萌芽とならなければならないことを確認することだ。

 他方のウクライナにおいては、ロシアの圧力に抗しつつ、かつロシアとの不要で過剰な敵対関係を生じさせない国づくりの道は、その担い手の未成熟故に閉ざされてしまった。

 代わって力を強めたのは、ソ連邦崩壊の中で新たな利権・権益を手に入れた企業家たち。

 彼らは、西側がそうであるような資本の自由気ままな活動、労働者に対する貪欲で放縦な搾取が可能な体制にあこがれ、それをあからさまに目指した。その手段として、反ロシアの極端な排外主義やナショナリズムに頼り、それを煽り、ロシア系住民への差別や残虐行為まで生じさせた。そして何よりも痛恨の極みというべきは、ウクライナの左派が、こうした露骨な資本家的政治や排外主義・民族主義の政治に抗しうる労働者市民の側の強力な対抗運動を構築してこれなかったことだ。

 ウクライナ戦争はすでに事実上はロシアとNATO・米英の戦争になってしまっている。

 この対立構造は、戦争の前から作られ、徐々に昂じて来ていたものだ。いまやこの対立は、生物化学兵器にとどまらず核兵器の使用の恐れさえ生じさせるに至っている。両陣営に何らかの計算違いや勇み足が生じれば、それをきっかけに戦況がさらにエスカレートし、コントロールが不能となり、第3次世界大戦への発展などということも、決して杞憂とは言えなくなっている状況だ。

 現在の火急の課題たる反戦運動への取り組みから、さらに進んで社会変革を目指す闘いへ。これが、ロシアとウクライナばかりではなくそれを取り巻く国々の労働者市民の課題としても、しっかりと認識されなければならない時代に突入したことを確認しよう。(阿部治正)


  労働者・民衆の自立した反戦・平和の闘いを! ――国家間対立に巻き込まれるな――

 ロシア軍がウクライナに侵略攻撃を始めてほぼ一ヶ月。戦況は膠着局面も含めて、激甚化している。米国などNATO諸国は武器援助を増やし、ロシアは遠距離からの無差別攻撃が拡大している。

 私たちは、大規模な破壊と犠牲をもたらしているこの戦争を、一刻も早く終わらせなければならない。直ちに戦闘を止め、ロシア軍はウクライナから撤退することを要求する。

 戦争は各国の政府・国家が始める。日本国憲法前文も「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と、正確に記述している。また、戦争と平和などの国家間関係は、当然にも相互関係の積み重ねで形成される。どちらか一方が正しく、他方がすべて悪だ、との善悪二分法では、紛争防止策も解決策も出てこない。中世の〝十字軍史観〟は、避けなければならない。

 だから、私たちの立脚点は、戦争を引き起こす各国政府・国家から独立・自立した、労働者・民衆による反戦・平和の闘いとして拡げていく、とすべきだと考える。

 こうした立場からはむろん、全世界、とりわけ戦地となったウクライナ国内とウクライナに侵攻したロシア国内の反戦平和を求める運動と連帯していく必要がある。ロシアの侵攻と、米国などに支援されたウクライナの徹底抗戦という戦争のエスカレーションを止めるのは、ロシアとウクライナの国内の反戦平和の行動の拡がりが鍵を握っているからだ。

◆最優先すべきは戦闘停止

 戦争が始まってほぼ一ヶ月。戦況は当初の電撃的な首都制圧というロシアの思惑や、各国の予想をこえて長期化・泥沼化の様相を呈している。ロシア軍の侵攻は、低調な戦意や兵站の滞り、それに死傷者の対応などで当初の思惑通りに進んでいないという。

 自国を侵略されたウクライナ軍の頑強な抵抗、米国などからの武器・弾薬(対戦車ミサイル・携帯式対空ミサイルなど)の供与も、抵抗戦に寄与しているとの報道もある。

 しかし、そうした戦況の停滞や激烈化が、戦闘のさらなる激烈化を招く悪循環にもなっている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を叫んでいるし、ロシアのプーチン大統領は、大部隊を動員した戦争を中途半端で止めることはできない。

 戦争は理性を失わせる。仮に欧米からの軍事支援とロシア軍の戦闘がエスカレートすれば、ウクライナの一般住民はむろん、ロシア・ウクライナ双方の兵士の大規模な犠牲は免れない。ロシアはウクライナ側の抗戦を圧倒的武力で制圧できず、より遠距離からの大規模爆撃などを多用するようになって、すでにウクライナの民間施設の破壊も拡がっているようだ。

 プーチン大統領は、すでに核兵器の使用をチラつかせているし、戦闘がエスカレートすれば、ロシアは化学兵器を使用するかも知れない。ロシアが支援してきたシリアのアサド政権も反政権派に対して使用した。米国もベトナムでは有毒な枯れ葉剤を、イラクでは劣化ウラン弾を使用した。

 今回のロシアの侵攻はむろんロシアの責任が一番重い。が、NATO諸国、なかでも米国の責任も大きい。

 少しだけ思い起こしてみたい。ゴルバチョフ大統領によるソ連の「改革(ペレストロイカ)と新思考外交」で、ブッシュ(父)大統領と米ソの冷戦を終止したときは、双方が対立に終止符を打ったはずだった。が、NATO諸国、とりわけ米国は「冷戦での勝利」という立場を通した。現に、ワルシャワ条約機構が解体した後もNATOは解消ではなく拡大を続け、結果的にロシア包囲網を狭め、ロシアの被害者・危機意識をかき立ててきた。実際、ロシア(ソ連)はナチスドイツの侵攻を、もっと前にはナポレオンの侵攻も受けてきた歴史もある。

 米国などは、ロシアの危機意識の裏返しとしての対抗意識、緩衝帯構想、ひいてはかつての勢力圏の復活など、ロシアの要求を無視・拒否するだけだった。米国は今回のロシアの侵攻に対し、世界大戦を招きかねないとして自らは参戦を否定。代わって兵器などの支援で戦闘拡大を後押しし、結果的に大量の犠牲者を生み出す事態をもたらしている。

○今回の侵攻では、仮にロシアの危機意識が背景にあったとしても、それを他国への武力侵攻を正当化する根拠になるハズもない。が、それがNATO拡張とのせめぎ合いの結果という側面も、無視できない現実だ。

◆戦争は国家が起こす

 今回のロシア軍によるウクライナ侵攻について、大手メディアの多くは、民主主義の主権国家に対して権威主義国家ロシアによる国連憲章に違反する一方的な軍事侵攻だと批判する論調が大半だ。

 確かにその一面はある。プーチン大統領は、自身の承認や指示なくして起こりえないような、政敵を猛毒の神経剤ノビチョクを使用して殺害したり、政権批判のジャーナリストを銃殺したりした。プーチン大統領自身は確かに選挙で選出されたが、立候補の制限、政敵追放、選挙活動への弾圧など、とても自由選挙とは言いがたいもので、現に、大統領選挙の得票率は低下傾向にあった。

 それでは米国はどうなのか。メディアでは、イラク戦争などで〝逸脱〟はあったが基本的に米国は民主主義国であり、正義を体現しているという前提で論評しているが、本当にそうなのか。

 米国は戦後だけでも朝鮮戦争、チリのアジェンダ政権に対するクーデター、ベトナム戦争、それにアフガン、イラク戦争など、100にも届こうとする戦争や武力行使を続けてきたのが現実だ。ベトナムのトンキン湾事件のでっち上げ、イラクの大量徘徊兵器の隠匿というウソの情報。《戦争中毒》と批判されるその米国の武力行使や戦争は〝逸脱〟だけで説明できるハズもない。唯我独尊の覇権国家という性格も見逃すわけにはいかない。

 普通の人は、隣人と争いなど起こしたくない。ましてや隣人や特定の人を殺したいとか、争いに備えて相手を上回る武器を取り揃えたりしない。むしろできるだけ相手の良いところを見るようにして、争いを避けようとする。ロシアとウクライナ国境で生活している人々も同じだった。ごくまれに手に負えない人が現れるかも知れないが、そのときは警察などにやっかいになることもある。ただしそれは極めてまれだ。

 ところが主体が〝国家〟だったり〝我が国〟になると話は一変する。「仮想敵の脅威に備える」「相手を上回る武力を装備する」「抑止(防御・反撃)力を備える」などと、様相が一変する。

 近代国家では、個人や集団が他人に危害を加えれば、犯罪になり罰則を受ける。しかし、〝国〟や〝国家〟が主役になれば全く逆になる。戦争で犠牲になるのは一般の住民であり兵士にもかかわらず、政治指導者や上級軍人は英雄になり、戦勝国は覇権国家となる。

 ゼレンスキー大統領はロシア侵攻前の昨年12月は内政・外交とも低迷し、支持率32%だったが、徹底抗戦の姿勢を鮮明にした2月終わりには91%に急上昇した。プーチン大統領の支持率も反政権派を弾圧したり、〝プーチン宮殿〟を暴露されて下落傾向だった。が、ウクライナ侵攻直後は10%ほど上昇したという。

 長期政権は実績とレガシーを必要とする。なぜなら、独裁化した政権は支持率が下降気味になるし、どうしても《NATOの脅威》《強い国家》などナショナリズムに頼る傾向と、自身の政権延命の思惑は二重写しになる。

 要するに戦争は○○人や○○地方の住民が始めるわけではない。政府・国家が戦争を始め、それを拡大する。今回の戦争も、プーチンのロシアが始め、米国やNATO諸国に支援されたウクライナの戦争だ。私たちは国家が始め、国家がエスカレートさせる戦争に与しないし、断固反対するのみだ。

◆独自の反戦・平和の闘い

 私たちは、日本は米国など民主主義陣営と共に権威主義陣営と対決しなければならない、という国家間戦争に与せず、独自の反戦・平和の闘いを拡げるべきだ。そのための参考にすべき闘いが、かつての日本にも存在した。《国際反戦デー》の行動であり、また市民運動の立場からの平和行動となった《ベ平連》による反戦・平和の闘いだ。

 《国際反戦デー》とは、ベトナム戦争に対する反戦行動として日本の労働団体の総評が《ベトナム反戦統一スト》を実施し、同時に反戦平和の世界統一行動を提起した(66・10・21)ものだ。翌年の10・21には、米国のワシントンで10万人を超える「ベトナム戦争反対デモ」も行われ、西欧にも波及した。行動を重ねる過程でイベント化、形骸化が進んだが、それでも労働者、労働団体が世界で反戦・平和の統一した行動を起こすという、重要な闘いを提起した。

 65年から74年まで活動したベ平連の「ベトナムに平和を!市民連合」の反戦行動も同様な意義がある。米国が起こしたベトナム戦争に対する市民レベルでの反戦平和行動で、これも米国内の反戦行動などと連携して一般市民による反戦行動が世界で拡がる契機となった運動だった。これも一時期は労働者・市民が独自の立場で反戦平和行動を拡げたという功績は過小評価できない意義があった。

 もっと前の経験もある。かつてのロシア革命の過程では、ロシアの社会民主党(ボリシェビキ)のレーニンは、第一次大戦のまっただ中、《平和・土地・パン》というスローガンを掲げて革命を成功させ,ボリシェビキ政権をつくった。その政権は、領土を含む多大な譲歩を払ってドイツとの講和で戦争を終わらせた。その後にレーニンは第三インターナショナル(=共産主義インターナショナル)をつくって、労働者階級の国境を越えた闘いの組織をつくった。後のスターリン時代に、それはソ連の国益を代弁する伝動ベルトとしてソ連の下請け機関化するに至る。が、その当初の趣旨は、それ以前にマルクスが主導してつくった国際労働者協会=第一インターナショナルによる資本やブルジョア権力から独立した,労働者階級の国際連帯の基盤を作ろうとした試みだった。その趣旨は、現代にも相通じる普遍的な意義がある。

◆直ちに戦闘を停止せよ!

 トランプ政権の後を受けて発足したバイデン大統領。そのバイデン政権は、《民主主義国家対専制主義国家》の対立・競争という世界観を打ち出している。その前提に立てば、両者相容れず、どちらかが崩壊するまで続く体制間抗争となる。

 とはいえ、現実の世界はそんな二項対立の単純な世界ではない。米国のみが正しいという米国流民主主義が唯一の価値観ではあり得ない。多元主義や相互互恵主義、水平主義など、いくらでもオルタナティブ(代替案)はある。それらを否定することで、多くの分断・抗争をもたらしてきたのがパックス・アメリカーナ(米国覇権による安定)でもあるのだ。

 むしろカジノ資本主義、利益至上主義による《1%対99%の対立》という富の集中と新階級社会といわれる目もくらむような格差や貧困の拡大、それに地球規模の物質代謝の危機などなど、資本主義システムの大きな矛盾が露わになっているのが現実だ。民主主義国家対専制主義国家という対立軸だけが前面に出れば、そうした対立軸は雲散霧消、もしくは棚上げだ。そうなれば、陰でほくそ笑むのは膨大な利益を独占する富裕層や多国籍企業、それに軍需産業などだ。善悪二項対立という構図は、それらを無かったように覆い隠す役割を果たしている。

 そんな事情は知ってか知らずか、大手メディアの多くは、今回の戦争を極めて単純な善悪二分法で報道している。民主主義国家のウクライナを武力で侵略したロシアに対し、民主国家の西側諸国は一致団結して懲らしめ、追い出さなければならない。そのためには各国は武器輸出や経済制裁など、あらゆる手段を行使すべきだ。国民もそれに全面協力しなければならない、というものだ。要するに、米国の覇権を前提とした秩序を唯一の選択肢とする立場だ。

 こんな単純な善悪二分法で、可能性が指摘される〝台湾有事〟や米中戦争が現実になったらどうなるのか。日本国民は民主主義国家を専制主義国家の侵略から防衛するため、日米共同の戦争に率先して参加せよ、ということになる他はない。

 私たちはこんな戦争翼賛のロジックから解放されなければならない。繰り返すが、戦争は各国の政府・国家が様々な利害と経緯を伴って引き起こすものだ。そんな戦争でどちらの側について闘うのか、そんな選択肢だけを突きつけられること自体、拒否すべきなのだ。ロシアにせよウクライナにせよ、その国の政権を倒す権利は、外部の政府や国家ではなく、あくまでその国家の国民・住民にあるのだ。

 私たち住民や一般兵士が犠牲となる全ての戦争を拒否し、国境の壁を越えて、労働者・民衆が協力して戦争を止めさせる闘いを各国で拡げていきたい。その力でどの政府も国家も、戦争を引き起こせば政府が倒れるという状況を築いていきたい。そのためにも、普段から労働者や一般住民の国際交流、国際共同行動を拡げていくことが、コトの性格から言っても、また長期的観点からしても、最善の方策だと考える。(廣)


  好戦派の危険な〝三段論法〟

◆暴走する好戦派

 今回のロシアによるウクライナへの侵攻に対し、日本の好戦派はさっそく自己都合とも言うべき単純で意図的な〝三段論法〟を持ち出している。曰く、《ウクライナでは軍事力による現状変更の侵略が行われている》《ウクライナの問題は我が国の問題(自民党・佐藤正久外交部会長)》《台湾有事は日本有事(安倍元首相)》などというものだ。台湾海峡で戦争が始まったら、日本が自分ごととして参戦する……というもの。もはや〝専守防衛〟などどこへやら、戦争ゲームの世界で生きているかのようだ。そうならないように何をすべきか、などまったく頭にない。

 好戦派はこれに止まらない。安倍元首相や松井日本維新の会代表による《核共有論》のおぞましさだ。ドイツなどNATO諸国で運用するもので、《核シェアリング》という響きはやさしい言葉だが、中身は日本国内にも戦術核を配備し、自衛隊機が運搬・発射できるようにせよ、という代物だ。そんな論法で言えば、韓国も台湾も核配備に踏み込むことになって、核保有のエスカレーションが必至という代物だ。

 まだある。防衛研究所防衛政策研究室長のT氏は、米国は、米ソ両方を同時に相手にしているとき〝片方には核兵器を使用する選択肢〟を推奨(2・26朝日)している。〝唯一の被爆国〟の中から核兵器使用の主張も飛び出しているのだ。〝核保有国の核軍縮への同意〟という日本政府が核兵器禁止条約の批准を拒んでいる論拠など、形無しだ。

 武器を持つと使用したくなる。米国もロシアも安倍元首相なども同じだ。その目には普通の住民の命や生活は入っていない。背後では軍産共同体がほくそ笑んでいる。

◆進む戦争準備

 好戦派の三段階論法の視線の先には、台湾有事や米中有事、それに向けた対中包囲網づくりを見据えている。仮にそうした局面が発生すれば、先島を含めた南西諸島は対中戦争の最前線になり、日本も参戦国になる。仮にそうした場面が現実になれば、南西諸島の住民は逃げ場が無い。またかつての経験を繰り返すのかと、沖縄の住民は憤りを訴えている。

 現に日本は,米国と共に南西諸島の〝要塞化〟を進めている。奄美大島や宮古島など、対艦・対空ミサイル、高機動ロケット砲などの部隊を次々と配備。有事における南西諸島への小規模米軍部隊の展開案も浮上している。東シナ海などでの日米合同訓練も頻繁に行い、日本全土からの自衛隊部隊の前進基地に想定する九州への大規模な移動訓練も行われた。

 そんな暇とカネがあるなら、6兆円の防衛費の中から1兆円ぐらい割いて日中の普通の労働者・市民の交流事業にでも廻せば、どれだけ相互理解と友好関係に寄与することができるのに、と言いたくもなる。

 中国の台湾統一戦略は、基本は孫子の《闘わずして勝つ》というものだが、台湾が独立に走れば武力統一も辞さず、というものだ。

◆総動員体制?

 こうした状況に対し、日本の世論はどうか。現時点では、本土の住民の多くは日米安保を肯定し、対中防波堤としての沖縄米軍基地は必要だ、と漠然と考えている状態だろう。

 問題はそうした台湾有事が切迫した局面にある。本土の世論は南西諸島の要塞化や、対中日米共同軍事作戦にこれまでと同様に理解を示してくれるのか……。日本の好戦派はそれを憂慮し、日本の参戦を支持、支えてくれる態勢構築に腐心しているのだ。

 そのためには、権威主義国家の中国が武力で台湾を攻め込むことへの反発と対抗心を涵養することだ。それに絶好の根拠を与えてくれるのが、今回のロシアによるウクライナ侵攻である。この侵攻に対して、政府をはじめほぼ全てのメディアが依拠しているのが、民主主義陣営が結束して権威主義国家の侵略に抗していく、という構図づくりなのだ。

 私たちはこうした構図に乗ることはできないし、そうした国家間対立とその勝利を至上命題とする立場に立つこともできない。そうした構図自体が、これまでも数多くの戦争をもたらしてきたからだ。戦争という国家・政府の暴走を防ぐには、各国の労働者や住民が、国境を越えた反戦平和の声と闘いを拡げていくことによってのみ可能になる。このことを、今一度確認したい。(廣)


  歴史の中のウクライナ危機

■はじめに

 ロシアの侵略から約一か月が過ぎ、ウクライナ国内では非戦闘員市民への無差別殺人が継続しています(3/23日時点)。必死に抵抗する市民、労働者、農民たちの戦いを熱く支持するものです。他方、侵略と戦うと同時に国内に増大する反ロ極右勢力やナチストらの危険な野望に警戒を高めなければなりません。また、ゼレンスキー政権と背後にいるオルガルヒらの裏切りにもますます警戒する必要があります。反侵略戦争の渦中という局面であっても政治的旗幟を明らかにし、民衆が戦いの中で独自の政治的な存在として成長することを期待します。

 小論では今回の「ウクライナ戦争」の個別的経過などは触れません。歴史的・社会的な視点や「気候戦争」(斎藤幸平)という新たな視点、さらに最大の直接的脅威である軍産複合体など広い視野で戦争を考えてみました。

■資源支配をめぐる戦争

『人新世の資本論』の著者斎藤幸平氏は「今回の(ウクライナ)戦争はNATOの東方拡大阻止という最重要課題への対応であるとともに、気候危機への適応戦略の一環なのである。これがロシアだけに言えることではない。今後、気候変動が深刻化するなかで、水、食糧、資源、エネルギーをめぐる紛争や戦争の火種は増えていく」(「気候戦争としてウクライナ侵略を読み解く」アエラ・ドット)と指摘。独自の視点で、ロシア侵略の原因を論じています。

 現在、米欧諸国をはじめ多数の国によるロシアの「経済制裁」が実施されています。とはいえロシアの戦略的輸出品である石油・天然ガスを締め出すために脱石油・脱天然ガスを世界が目指すだろうと考えるのは早計すぎます。今、原油市場価格の昂進が生じ原発復活がもくろまれているのが現実です。

 たとえばロシアの侵略のどさくさにまぎれに英国のジョンソン首相などは「ロシアの支配を脱するために自分の炭化水素(北海油田)をもっと使う」と主張。「プーチン」を理由に国際決議を踏みにじるつもりでしょうか。

 これはさておいても今主流の「緑の資本主義」や「グリーン・リカバリー」では気候危機を防止できないどころか悪化させるのは確実です。それはCOP26やEUタクソノミーの後退した内容からばかりではなく、近年の二酸化炭素大気中濃度は減るどころか急速に増大しているのが現実です。

 他方では、個々の企業が推進する「グリーン経営政策」が暴走していると考えるざるを得ません。目玉とされる自動車産業ですが「気候危機を新たな成長の機会に」と急速な産業構造の転換を進め、大量失業が生じかねず、「緑の先進地域」欧州の労組が危機感を高めています。「グリーン」の看板に掛けかえても資本の利潤追求と大衆消費社会に猛進する姿勢は変わらず、リチュウム(EV車のバッテリー材料)など希少金属など品目を変えただけの資源争奪戦が斎藤氏の指摘するように確かに激化しています。

 戦争危機と気候危機は一つの共通の要因に根差しているのです。「緑の資本主義」は、この二つの矛盾を覆い隠し、実は危機を加速させているだけにしかすぎません。

■太陽光・風力発電はコモンだ

 私は「市民電力」に参加しています。市民電力参加のほとんどの方は反戦・非戦だろうと思います。そもそも市民発電は環境負荷が高い石炭火力や危険な原子力発電の代替えとして自然エネルギーを社会に受け入れてほしいという運動です。同時に、エネルギーの「地産地消」目指すもので、自然エネルギーは大資本にしか不可能な巨大発電設備や送電網を前提としません。市民電力は、風や太陽光というどこにでもある「エネルギー源」を言わばコモンとして必要な人が必要に応じて誰にでも利用できるものにするという社会変革運動でもあります。

 九大電力会社をはじめエネルギーを独占する企業(や産油国)による社会の支配を、少しでも抑えるばかりではなく新たな社会ビジョンのきっかけにしたいものです。エネルギーのコモンとしての復活と地産地消こそ、スーパーシティではなく「コンパクトシティ」を実現するものです。かくして共同のエネルギーは、公共運輸を拡大し大衆の自動車所有を激減させる可能性があります。自然エネルギーの普及は、資源の乱獲を防ぎ過密と過疎を解決し環境悪化を防ぎ、さらに差し迫った気候危機を乗り越える一つの道です。

 社会の内在的な軋轢や矛盾(貧富の格差や差別)を少なくし資源の乱獲・浪費を防ぐことが戦争の要因を少なくするでしょう。

■協同性を活性化させ資源をコモンとする

 自然エネルギーの普及は直接に、石炭・石油をめぐる戦争の原因を取り除くと考えられます。アルザス・ロレーヌをめぐる独・仏の戦争。中東の産油国をめぐる戦争もあります。大日本帝国も撫順の石炭や東南アジアの産油地獲得を目指した。現代では何といっても石油です。しかもエネルギーとして(プラスチックなどの石油精製品は7%程度)。

 ただしこの面からすれば、今回の「ウクライナ戦争」は、ロシアという世界最大の天然ガス・石油輸出国の始めた戦争であり、少なくても「エネルギー資源」めぐる単純な戦争ではありません。しかし、斎藤幸平が指摘するようにプーチンの野望は単にウクライナの「中立とNATO非加盟」といったところではなく穀倉地帯(食料)やレアメタルにあるのかもしれません。

 石油は近い将来に北極海域での争奪戦が予想され、さらに新たな「グリーン化」やIT化のための資源争いに、米・中そしてロシアやインドなどの大国間主導権争いと差し迫る気候危機が密接に絡むとすれば、国際緊張を生み出さずにはおかないでしょう。世界の市民・労働者にとっては深刻な脅威となります。

 自国の排他的利益やそのことを声高に叫ぶ危険な政治家(例えばプーチンやトランプ(前)大統領)を警戒し、生活者としての庶民の価値観に基づく運動をおおいに高めてゆくべきです。そのさい資産や所得の制限で格差を是正しなくては共同も協力も連帯も欺瞞となります。そのもとで資源をコモンとすること、資源の乱獲やその原因になる大量消費社会は終焉させ、地産地消の地域社会を活性化させるこことが前述したように必要です。その運動の主体であるコーポレートな自立した諸個人の成長がかぎとなるでしょう。
 
■米・ロの軍産複合体

 さらに現代の戦争(特に米国の関与した)は、軍需産業や軍隊、彼らの代理人である政治家、大学(シンクタンク)、巨大マスコミなど、米国エスタブリッシュメントに広く根差す利益共同体において仕組まれます。また当然議会での工作がなされ選挙資金がばらまかれそして戦争プログラムが綿密に練り上げられ実行されます。戦争代理人はいくらでもプランを作成し、かつもっともらしく「自由を守れ」「反テロ戦争」の広報活動を推進し偽りの言葉で飾られた政治草稿を準備し大衆を熱狂させます。

 そればかりではなく、いざ開戦には陰謀や偽旗作戦などが用いられる。米国は戦争プログラム作成から海外戦力投下までできる世界最大の実行組織を第二次大戦以降持っています。その一大勢力は軍産複合体とよばれます。これは旧ソ連=ロシアでも類似している。とくにソ連時代の指導者(ブレジネフ書記長)は軍産複合体の政治代理人であり、彼らの軍備計画を実行し米国との軍拡競争に没頭したのでした(ソ連衰退の要因です)。

 各国の軍産複合体は、他国の国民の脅威であるばかりか、例えば米国のように多数の若者の命を戦場という過酷な世界に送り込みすりつぶして増殖する妖怪なのです。彼らこそ米国国民の真なる敵なのです。
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 米国政府はベトナム戦争をはじめイラク、アフガン諸戦争を企画実行したばかりではなく、他の紛争地域や戦争当事国に莫大な武器を納品する。それは現在のウクライナでも少しも例外ではありません。

 NATOは最大の出資者である米国政府の強い影響のもとにあります。つまりNATOの意思は米国(と欧州軍産複合体)の意思だと考えるべきです。冷戦以後はNATOを継続拡大する必要はどこにあったのでしょうか?NATOの継続と拡大は軍産複合体のまさに「ドル箱」であったからです。ロシアとの緊張関係を利用して巨大な軍需利益を上げ続けています。

 「中国脅威」で語られる台湾危機とか南シナ海危機。日本をはじめ周辺国への武器販売(国内の軍拡勢力と連携した)がどれだけボーイングやロッキード・マーチンやその他の軍需産業に利益をもたらせたか。米国政府は武器の製造販売業者たちの元締めという不名誉な立場を恥じる様子はありません。

 国防予算は30兆円にのぼりアメリカの政府支出に対する軍事支出の比率は近年でも15~20%はある巨大なもの。納税者である米国市民の吸血鬼でもあります。

 この日本が無関係かといえばもちろん違います。国内にも軍需産業が存在しそしてなにより軍需産業復活の野望をもつ政治勢力が存在するのです(「敵は国内にいる 戦争勢力の跳梁を許すな(下)」記事参照)。またNATOの加盟国は30カ国ですが、「中立」のフィンランドや域外である日・韓も各種の「パートナー関係」を持っています。

 「反戦」を主張するにはこのような自国そして国際的な戦争勢力の暴露と闘いは不可分なのです。世界の反戦勢力と連帯して根本的な闘いを進めましょう。(阿部文明)


  書籍紹介 『物語ウクライナの歴史』黒川裕次著(中公新書)

 プーチン率いるロシア軍のウクライナ侵攻は、当初予想されたドネツク・ルガンスクの「親ロシア系地域」への派兵ではなく、いきなり首都キエフをはじめウクライナ全土への侵攻の形をとり、世界中の驚きと憤激を引き起こした。

●大ロシア民族主義

 実は、それを予感させるプーチンの論説が、昨年七月に公表されていたという。「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文で、キエフ公国の君主がロシアの起源であり、大ロシア民族と一体のものとして、ウクライナもベラルーシも含まれる(小ロシア)というのだ。

 これを聞いて、思わず連想してしまうのが、戦前の軍国主義が朝鮮の植民地支配を正当化するために「日鮮同祖論」を吹聴したことである。これは恐ろしい思想であり、もちろん歴史的事実にも反する。
 プーチンの大ロシア民族の思想は、スターリンの思想や、さらにロマノフ王朝の思想の延長とも言える。どれも帝国主義イデオロギーである。

●キエフ公国と三つの流れ

 では歴史的事実は、どうだったのか?九世紀にこの地域にノルマン人が進出して、スラブ人と融合し「キエフ・ルーシ公国」が樹立されて栄えた。

 その後、一部が枝分かれして「モスクワ公国」を形成し、後のロシア帝国に発展していく。

 元のキエフ公国の領域は、一部はリトアニアに、一部はポーランドに併合され、その後何度も独立運動に立ち上がるが、実を結ぶのは近現代になってからである。

 この三つの流れは、九世紀のキエフ公国を「源流」にしているとは言っても、その後千年も違う道をたどり、政治文化も異なるのが、ロシア・ベラルーシ・ウクライナの現在の姿なのである。

●コサック反乱の歴史

 『物語ウクライナの歴史』では、紀元前の「スキタイ」の時代から、「キエフ大公国」の時代、「モスクワ公国」から「ロシア帝国」への歴史、リトアニアやポーランドに併合されたベラルーシやウクライナの独立運動の歴史を追っていく。

 そこには農奴制と果敢に闘った「コサック」の反乱や、「タタールの軛」(モンゴルの支配)、ユダヤ人の歴史なども織り込まれている。

 さらに、近現代のナチス・ドイツやソ連のスターリン体制に抑圧された歴史、ソ連解体に伴う国民国家としての独立までの、民衆の不屈の歩みが叙述されている。

●ウクライナの社会構造

 ウクライナの面積は日本の一・五倍、その大半が肥沃な穀倉地帯である。スターリン体制の農業集団化の名の下に大収奪が強行され、数百万人の農民が餓死した記憶は、今でも深い傷跡となっている。

 他方、東南部のドネツク地域は、炭鉱や工業地帯として開発される過程で、多数のロシア系労働者が移住した。

 またウクライナにはユダヤ系市民が多数生活しており、ナチス・ドイツの影響下で迫害を受けた残酷な歴史がある。

 さらにチェルノブイリ原発事故に象徴されるように、ソ連時代に原発が多数建設され、ハイテク宇宙産業と裏腹に、放射能汚染の危険地帯となっている。

 二〇〇二年刊なので、それ以降の最近情勢については別書に頼る必要があるが、これまでの歴史的経緯を踏まえて考察するために、必読の書である。

●独立後のウクライナ

 なおソ連解体に伴う一九九一年のウクライナ独立後の経過については『ウクライナを知るための65章』(服部倫卓・原田義也編著、明石書店)が参考になる。

 オレンジ革命、ユーロマイダン革命、ドネツク・ルガンスク紛争、クリミア併合、資源エネルギー問題、公用語と民族主義、EU加盟問題、NATO加盟問題、対ロシア関係等について、二〇一八年段階まで概説している。停戦と和平プログラムのあり方を議論するために、必須の情報である。(冬彦)


  ブリテンの鎮魂曲と東京大空襲

 三月十日は東京大空襲の日だ。墨田区では毎年この時期、被災地跡に建設された音楽ホールで「平和祈念音楽祭」が開催される。今年はイギリスの国民的作曲家ブリテンの『シンフォニア・ダ・レクイエム』が演奏されると聞いて、チケットを買った。それにしても、プーチンのウクライナ侵攻のさなかのコンサートになろうとは!

 墨田区の市民にとっては、この曲は東京大空襲の鎮魂の意味合いもあるようで、もう三度目の演奏なのだそうだ。ブリテンは、この『シンフォニア・ダ・レクイエム』に続いて二十年後に『戦争レクイエム』を作曲しており、彼の平和への信念がうかがえる。

 「涙の日」「怒りの日」「永遠の安息」の三つの楽章からなるこの重々しい曲を聴きながら、私は母親からたびたび聴かされた空襲の話を思い起こさずにはいられなかった。

 防空壕に避難した話。自宅が焼けて、たまたま焼失を免れた近所のお宅に逃れた話。学徒動員で風船爆弾を作らされた話。郊外の通信機工場で、戦闘機の部品を扱った話。だから学校で学んだことは、ネジや釘の種類だった話。母親は今も鮮明に覚えている。

 ところでブリテンの鎮魂曲には、数奇なエピソードがある。もともとこの『シンフォニア・ダ・レクイエム』は、ブリテンが亡くなった両親のために作曲したものだった。

 ちょうどそのころ、日本が「皇紀二六〇〇年」(一九四〇年)の「奉祝曲」を委嘱してきたという。ブリテンは一から作曲する時間が無かったので、この両親のための鎮魂曲を送った。日本政府は、あまりにも重々しい曲調に困惑し、結局式典での演奏は見送られた。

 この曲が日本で初演されたのは、戦後の一九五六年になってからだった。ブリテン自身の指揮で。こうして、ブリテンの「両親の鎮魂」の曲は、「皇紀二六〇〇年奉祝曲」に衣替えしたが「お蔵入り」となり、やがて「平和のための鎮魂曲」として日の目を見たのだった。

 空襲の炎が隅田川を越えて燃え広がり、約十万人もの人々が焼け死んだ。その墨田区の音楽ホールで聴くブリテンの鎮魂曲。まさかウクライナで、全く同じ悲惨な光景が繰り広げられる中での「鎮魂曲」を聴こうとは!プーチンの放つミサイルが、アパート、学校、病院を燃やしている。子供やお年寄りが亡くなっている中の「鎮魂曲」!聴衆はみんな胸が張り裂ける思いに違いない。(冬彦)


  何でも紹介・・・「同一労働同一賃金」

“平等”は人類史の中で勝ち取られてきた権利であり、非抑圧者と抑圧者が存在する限りその闘いは避けられない。「労働の対価」として定義されてきた賃金もその曖昧な規定により、労働内容(労働時間も含む)や性別・身分・役職・経歴などによって差がつけられており、“平等”意識からこの格差をなくす闘いとして“同一労働同一賃金”制度の確立の取り組みが行われている。

1,同一労働同一賃金の法的根拠

「同一労働同一賃金」は同一の仕事(職種)に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきだという事で、性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策である。=(同一価値労働同一賃金は、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用する賃金政策のこと。)

 「同一労働同一賃金」が政策としてうち出された背景には、国際労働機関(ILO)のILO憲章の前文に「同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認」を挙げており、基本的人権の一つとされていること。世界人権宣言の第23条において「すべての人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」 と規定されている。さらに国際人権法でも、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第7条と人及び人民の権利に関するアフリカ憲章の第15条において、勤労権に関して『同一労働同一賃金』を明記している。『ウィキペディア(Wikipedia)』

 日本では、労働基準法(第3条)で、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」として差別的取扱禁止の対象とする理由を限定列挙し、労働基準法(第4条)で「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(ILO第100号条約を1967年に批准)を基に「同一労働同一賃金」政策を推し進められてきているが、たとえば学歴、勤続年数、雇用形態などを理由とした個々人の賃金額の差異も適法であると解されるのが現状で、その差異を超えた待遇格差の訴えを否定する判例も出されており、「同一労働同一賃金」が完璧に適用されていないのが現状である

2,「同一労働同一賃金制度」の進捗と労働者の戦い

 安倍前政権の働き方改革の一つ「同一労働同一賃金制度」の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」が2020年4月1日からは大企業に、2021年4月1日からは中小企業に対して適されました。(派遣労働者を対象としている労働者派遣法は2020年4月1日より施行済み)

 こうした法制定させたのは、経済のグローバル化や国際競争の激化、高度情報化の進展等を背景に、日本人の働き方は多様化しており、パート社員や契約社員、派遣社員などの非正規雇用で働く人は、雇用労働者全体の4割を占め、また、正社員以外の労働者が会社の主な業務を担うケースも増え、民間企業はもちろん、公務の現場にとってもなくてはならない存在となっていること。しかし、その非正規労働者の時間当たり賃金は、通常の労働者の約6割にとどまっており、他にも福利厚生や能力開発の機会等の面で格差が存在し、格差拡大と非正規である事による雇用不安の増大に不安を抱く人達による戦いがあったからです。

 日本郵便(3件の訴訟)、大阪医科薬科大学、東京メトロ子会社で起こされた、労働契約法20条を巡る五つの最高裁判決(2020年10月15日)もその一つです。

 労働契約法20条を巡る五つの最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)判決では、非正規労働者に一部の手当を支給しないことを違法とする一方、ボーナスや退職金の不支給は違法とせず、明暗が分かれたが、有期雇用社員が正社員との労働条件格差の不合理性を訴えていた裁判(福岡訴訟、西日本訴訟、東日本訴訟)に関して、扶養手当、年末年始勤務手当、年始期間における祝日給、有給の病気休暇制度、夏期冬期休暇制度について正社員との格差が不合理であることを認め、損害を認める判決を言い渡し、五つの手当や休暇の不適用を不合理と認め、損害賠償額確定が必要なものは高裁に審理を差し戻し、会社側上告は全て棄却した。

 この判決に「郵政に働く18万人の非正規雇用労働者だけでなく、2100万人と言われている非正規で働くすべての労働者の均等待遇実現への大きな一歩を記したものである。郵政ユニオンの仲間の勝利に心から敬意を表するとともに、運動の大きな成果を全国の仲間とともに喜びあいたい。」と郵政ユニオンはコメントしている。

3,「同一労働同一賃金制度」の改善・確立は労働者全体の戦いとして!

 政府の働き方改革の一つ「同一労働同一賃金制度」が2020年4月から適用されたが、「同一労働同一賃金」は本来、「同じ仕事に同じ賃金を」という意味だが、「働き方改革」では「不合理な格差を違法とする」という20条と同じ考え方をとり、働き方改革関連法で労契法20条はパートタイム有期雇用労働法に統合され、賃金の総額ではなく、項目ごとに格差が不合理かどうかを判断することを明確にした。

労働契約法20条を巡る五つの最高裁判決は、非正規労働者に一部の手当を支給しないことを違法とする一方、ボーナスや退職金の不支給は違法とせず、明暗が分かれたのでボーナスや退職金の不支給は残っており、正規社員と非正規社員の格差解消に一歩前進したが完全ではなく、「パートタイム・有期雇用労働法」の内容が守られていないからといって、企業側が即座に罰則を受けるということもないのだ。

 “正規社員と非正規社員の格差解消のための「同一労働同一賃金」制は、低い方を高い方に合わせるのが目的であり、従来からあった「パートタイム労働法」や「労働契約法」を手直しして、これを強化あるいは明確にしたが、企業側からすればこの制度の強化によって、コスト増が見込まれることから、正社員の制度を見直して、その格差を平準化する動きも出ており、正規と非正規を含めて労働者全体の賃金低下がもたらされようとしている。

 利潤追求の資本=企業は、正規と非正規という労働者差別を利用し、互いに争わせることによって、より多くの低賃金労働者を作り、利益を得ています。

 「同一労働同一賃金」は単に賃金の平準化をもたらすだけで終わってはならないのです。

 「労働力の対価」としての賃金は公平でなければなりませんが、価値を生み出す労働力を利用して利潤を得ている今の賃金制度=資本主義社会(階級社会)を見直さない限り、この闘いは続くだろう。

 差別と抑圧からの解放は他人から与えられるものではありません、正規・非正規を問わず全ての労働者の労働条件改善と賃金制度への戦いが必要で、労働者の組織化と団結の強化を図り、共に戦おう!。 (光)


  敵は国内にいる 戦争勢力の跳梁を許すな(下) 日本の軍拡勢力の野望を打ち砕こう

◆「限定戦争」という亡霊の徘徊

 「限定戦争」は核兵器による全面戦争を回避するために「考案」され、キッシンジャーらによりその定義が確立されたとされる。

 「敵の軍事力に対抗可能な軍事力を投入しながら、敵との全面的な衝突を回避し、しかも相手が軍事行動を完遂しないように外交交渉によって妥協を引き出すことが限定戦争の基本的な条件である」( Wikipedia)。

 米軍はこの限定戦争を多用 (ベトナム戦争、イラク、アフガン戦争、シリア攻撃など) しているが、目的は達せられずその意味では失敗の連続なのが現実だ。対中国では「エア・シーパトル」(中国本土への縦深上陸作戦)や現在日本も一翼を担う「オフショアー・コントロール(海洋封じ込め作戦)」である。

 前者は限定戦争とはいえ中国本土侵攻作戦であり、北京に討ち入って習近平に米国の政治的目的を受け入れさせる・・と言う暴論だ。さすがに米軍も核戦争に転化しうるとして後にこの作戦を却下したとされる。ここから分かるように「限定戦争」も全面戦争にいつでも転化しうると言うこと。さらに、限定戦争をコントロールするには圧倒的な彼我の軍事力の差が前提となる。米軍と中国軍の軍事力の差は「グローバルな軍事展開力」では大人と子供の差があると前記したが、こと、中国本土や中国近海では中国の軍事力は米軍を超えるか匹敵すと考えられており、限定戦争であるはずの戦争がクラウゼウィッツ将軍の言う「絶対戦争(核を含む全面戦争)」に転化しうる可能性はある。限定戦争は戦争の敷居を下げ、軍産複合体に利益を運ぶ絶妙のアイディアだとは言えるだろう。

 前回の(中)でふれた「遠征前方基地作戦(EABO)」は、この限定戦争の具体化あるいは深堀といえる。しかし、このような軍事冒険主義は多数の一般市民(現実には南西諸島の住民)を作戦に巻き込むばかりではなく、軍人の激しい損害を前提にしなければならないものだ。このような戦術の野蛮さを暴露しなくてはならない。
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 さて、北朝鮮による日本攻撃を「阻止し、断念させる」ための限定戦争は可能なのか?いや不可能である。

 仮に制空権を握れても、既に述べたように偵察機や偵察衛星では移動式ミサイルは完全捕捉が不可能であり、報復により日本本土も焦土となる。北朝鮮にはSLBM(潜水艦発射大陸間弾道ミサイル)もある。

 安倍晋三は「敵(北朝鮮のミサイル基地)を殲滅」すると言っているが、大規模上陸作戦を敢行したとしても移動式ミサイルを完全捕捉し「殲滅」することはすでに述べたように不可能。「領域横断作戦」を採とったとてもその前に「残存」の北朝鮮軍ミサイルによる報復が始まり、結果として「日本攻撃を阻止」するどころかその呼び水となり、キム政権による日本国土攻撃の正当化にしかならない最悪最低の戦争作戦となる。これが現実だ。北朝鮮の軍事的脅威は存在するのだが、そのレベルは低い。  外交と友好関係の拡大で大幅に緩和できる程度のものだ。その道を進むべきだ。

◆日本軍事組織の隠蔽主義と政治ガバナンスの弱さ

 軍事問題において、日本政府は米露政権、中朝政権よりも始末が悪い、というのが私の見立てだ。世界五位(GlobalFirepower 2021)の実力武装組織を日本政府が本当に統御できるのか疑わしいからだ。イラク・南スーダンPKO日報隠蔽問題や陸自による辺野古基地への水陸機動団駐屯計画などを挙げることができる。政府すら知らないところで軍部の独走が始まっていないのだろうか?

 なぜこのような軍部独走を厳しく処罰しないのだろうか。それらばかりではない、安倍政権→管政権→岸田政権と変化しても、軍拡路線はアンタッチャブルと言わんばかりに着実に進む。歴代政権は日本の軍隊管理に関与すらできないのだろうか?

 まだある。初の自衛官出身防衛庁長官と防衛相を歴任し在任最長記録をもつ中谷元らの動きだ。彼は自衛隊上層部の見解を代表しているとみられ、日本政府の見解とは異なり独自に「自衛隊の強化」と「日本の軍需産業育成」を主張する。ゆえに日本政府が主導する辺野古米軍基地建や安倍前首相が政治主導した米国からの大量の武器買い付けを批判し一部(イージスアショア導入)を撤回させた、そして自前の軍需産業育成と自衛隊のハイテク化や増強に資源を集中(南西諸島の基地建設に傾注)するように主張している。こうした流れが隠然として軍部内に深く浸透するとすれば言うまでもなく一層危険だ。彼等は野放しであり、シビリアンコントロールも政治主導もこの領域ではとりわけ影が薄い。戦前、軍部の暴走や拡大を恐れながらも何もできなかった日本政治の歴史を想起してしまう。

◆安倍晋三らの狙いは国内の政治反動である

 本連載のまとめに移りたい。安倍晋三らが「中国脅威論」「北朝鮮のミサイルの脅威」を誇大に叫び、非現実的「攻撃的抑止力獲得」を叫ぶのにはいくつか理由がある。外敵の脅威を煽り国民世論を歪め中・朝への不信やヘイト言論を盛り上げつつ、自分の政治的ポジションを強化することだ。その先には彼の権力への再々登場と政治目的である憲法改正がある。国権を強化し主権在民を相対化し、戦前のようなアジアの軍事的盟主への復権が目指される。

 だからこそ安倍晋三らは、中・朝の反発を招くような挑発を繰り返し、自ら進んで「敵基地攻撃」や「台湾有事は日本の有事」など東アジアの「火中の栗」をあえて拾おうとしているのである。

 今回のロシアによるウクライナ侵略に絡んで、ウクライナがブダペスト合意で核兵器所有を放棄したことを踏まえ、「米国との核兵器共有論(ニュークリア・シェアリング)」をセンセーショナルにマスコミで語った。つまり核兵器を所有していれば「侵略は防げた」と。安倍晋三らの本音は「核兵器所有」であり、その本音がのぞいた瞬間だ。

 「核兵器共有論」は、冷戦時代の50年代の構想だ(ドイツやイタリア採用)。その理屈は、例えばロシアが北海道に侵攻したら、(米軍ではなく)日本が自らの責任で自らの国土(例えば北海道)に(米軍から管理権を引き渡された)核兵器を使用するという狂気の自爆攻撃なのだ。このことが国民に知られることで安倍晋三らの暴論は霧散霧消したが、彼らの野望は消えてはいない。まさに日本国土で実施される米軍代理核戦争なのだ。絶対許すことはできない。

 さらに「対テロ戦争」の進展が困難になった米国は、新たな戦場=軍需拡大の市場の獲得を求め、中東から太平洋~インド洋に軍事テーマをシフトさせている。今はウクライナの「特需」にも沸いていることだろう。米国は中国(そして現在はロシアも)との代理戦争を実行できる東アジアの同盟国として日本に期待している。06年に安倍晋三首相が米国の軍事関与を担保するために提案したQUAD(クアッド・米豪日印)が、二年前に正式に活動を開始。この限り日・米政府の思惑は一致しており日米同盟関係は強化され続けて日本の軍事費は拡大の一途だ。
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 安倍晋三が、在任期間戦後最長を記録し政治の中心に居られたのは野党の体たらくというばかりではない。日本社会経済の低迷そして危機の存在である。国民大衆は貧困化し「日本人は貯金大好き」と言われてきたが現在はゼロ貯蓄世帯は拡大し(統計参照)、不安定雇用が拡大した。貧困者は6~7人に一人、ひとり親家庭では何と半数が貧困だ。もはや若者世代が明るい未来を描けない時代がきている。

 この根底には資本主義経済の利潤主義があり、日本においてとりわけ深刻な様相を呈する原因は新自由主義のアベノミクスを始めとする安倍政治が経済不振を悪化させたからだ。一部の大企業優先政策と消費税率上昇そして先に述べた雇用形態の劣化などが、大衆の実質賃金の低下すら強いてきたのだ。

 若者たちが、現代の日本社会の低迷や格差の深刻さを、安倍晋三や資本主義経済に結びつけて認識できなければ、いきおい高齢者攻撃や他民族へのヘイト行動、そして中・朝・韓などのの「不当な」経済圧迫論や同じく軍事的「脅威」論に容易にからめとられてしまう。

 現代の政治の闘いの焦点といっても過言ではない。

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 安倍晋三が中・朝の危機を叫ぶのには差し迫った一連の別の理由もある。安倍首相の退陣後もアベ政治の闇は政界を今も覆っている。安倍晋三が関与しまたは引き起こした「モリ・カケ」事件、関連公文書改ざんを忖度実行し、強要された公務員の悲惨な自殺も引き起こした。

 起訴されなかったとはいえ公選法違反の「桜を見る会・前夜祭接待事件」がある。そればかりではなく河井案里候補(当時広島選挙区)の選挙買収事件で、河井克行衆院議員(当時広島三区)らが逮捕された。買収の資金源は、安倍氏が総裁を務める自民党本部から交付された一億五千万円(通常の十倍)という異例の支部交付金だ。そればかりではない、キリがないので最後にするがその半分の七千五百万を何と安倍晋三が取り込んだ疑惑は、今でも捜査が続いていると報道される。これらはすべて悪質な犯罪であり、捜査と裁判が厳正に実施されるべきだが、大衆的圧力によって追い込むべき問題でもある。

 幾多の事件のもみ消しを期待された黒川検事長の定年延長(→検事総長着任の企て)も賭け麻雀の露顕とツイッターデモで頓挫した。また衆議院定数の「十増十減」により、次回から安倍晋三は山口県の(三区、四区)合区で林芳正現外相と激突する。もちろん小選挙区なので自民党公認は一人。落ち目の安倍は気が気ではない。「桜を見る会・前夜祭」の選挙区民豪華接待事件はこの「合区」問題が背景にあると見られる。ライバル林との闘いに敗れれば政治生命が絶たれる可能性もあり、彼の足元はぐらついているのだ。その焦りが誇大な「外敵論」「核共有論」を生み出しているのだ。国内の軍拡勢力を放逐しよう!!
 (完/阿部ぶんめい)


 カジノはいらない! 維新の横暴を許さない!

 年間入場者数2千万人、経済波及効果1兆1400億円。推進する大阪府・市が巨額の経済効果を見込むカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致ですが、一方で誘致先となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)のインフラ整備で公費負担は膨らみ続ける一方です。

 リスクとリターンの大きさが明確に比較できないまま、大阪府市の2・3月議会で審議されているIR区域整備計画の議決が、大阪としての誘致の是非の最終判断となります。可決されれば4月28日までに国へ区域認定申請を行い、認められれば、IR事業者と実施協定を締結。早ければ2029年秋から冬ごろの開業となります。

 市議会では事業者の参考人招致が行われたが懸念が払拭(ふっしょく)されたとは言えません。ギャンブル依存症の懸念に加え、IR用地の土地改良に788億円の追加負担が行われる方針で、地盤沈下対策などさらなる負担の可能性も出ています。議会の見識が問われていますが、3月24日には大阪府議会でIR施設整備計画の議案が、維新・公明・自民(大阪市議の自民は反対姿勢)の賛成で可決されてしまいました。

 大阪府と大阪市が誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)を巡り3月16日、市議会はIR事業予定者を参考人招致し、府市と事業者が結んだ基本協定を中心に質疑を行いました。招致されたのは「大阪IR株式会社」の代表取締役で、同社に出資している米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人のエドワード・バウワーズ氏と、オリックスの高橋豊典執行役。夢洲の地盤沈下、新型コロナウイルスの影響などが焦点となったが明確な回答はありませんでした。

 大阪市は土地改良工事費として土壌汚染対策、液状化対策、地中障害物撤去に788億円を追加負担する方針だが、地盤沈下対策でさらに負担が拡大するおそれが出てきました。

 公明党の山田正和市議が「将来的な地盤沈下については事業者の負担で行い、本市の追加的な対策はないと考えてよいか」と質問し、バウワーズ氏は「IR事業用地は現在も沈下が継続し、長期的に特有の地盤沈下が見込まれている。過去の沈下計測のデータが不足しており、今後の調査の結果により、課題が出てきた場合は対応を見極める必要がある」と大阪市が追加負担する可能性を残しました。

 そもそもIRについて松井一郎大阪市長は、カジノに「税金を使わない」と言ってきましたが、「汚染土壌が出てきたので790億円払います」と言い出しました。

 このような中、「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」は、大阪でカジノ誘致の賛否を問う住民投票の実施を求める署名集めを3月25日に始めました。この署名は、地方自治法12条の規定に基づき大阪府に住民投票を行う条例制定を求めるもので、大阪府内有権者の50分の1(約15万人)以上の署名が集まれば、吉村大阪府知事は府議会に条例案の議案を提案しなければなりません。法定署名期間は5月25日までです。

 博打場はいらないです。何としてもカジノ建設にストップを!こんなことに税金を使うくらいなら、ひっ迫する医療にお金を使ってほしいです。コロナの影響で生活が苦しむ方々のためにお金を使ってほしいです。
 (河野)                                 


  「沖縄通信」・・・PFAS汚染水と映画「ダーク・ウォーターズ」

本土ではあまり報道されていないが、今沖縄では米軍基地による危険な水汚染が大変な問題となっている。
毎日の飲み水の中に、発がん性物質や発達に悪影響がある「有機フッ素化合物(PFAS)」が混ざっていることが分かり、市民に大きな不安が広がっている。

 以前から、普天間飛行場や嘉手納飛行場の周辺の河川や地下水で、PFOS(ピーフォス)PFOA(ピーフォア)と呼ばれる有機フッ素化合物がしばしば高濃度で検出されてきた。発がん性のおそれなどが指摘され、国際的にも原則として使用が禁止されている化学物質であるが、米軍は基地内の事故対策の「泡消化剤」として使用しつづけている。

 2年前には普天間飛行場からPFOSなどを含む泡消化剤が大量に漏出する事故が発生し、また昨年8月には日米両政府の協議中にPFOSなどを含む処理水が下水道に排出されるという問題も発生しているのだ。

 米軍基地内での火災の多くはジェット燃料などが原因のため、水ではなく「泡消化剤」を使用しないと鎮火しない。この「泡消化剤」の主要な成分がPFASである。

「泡消化剤」の含まれたPFASは、そのまま直接周辺の土壌や河川に放出されるため、環境汚染の原因となっている。沖縄の米軍基地周辺の地下水や水道水で深刻なPFAS汚染が進んでいる。

 東京・多摩地区の地下水・水道水でも、横田基地由来が疑われるPFAS汚染水が見つかっている。

 また、韓国でもこの米軍基地からの汚染水問題は起こっている。韓国内の5つの米軍基地の地下水から、最大15倍の基準値を超える発がん性物質が確認されている。

 この「有機フッ素化合物(PFAS)」は4500種類以上あると言われている。その中で一番広く使われているのが、PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)である。

 このPFOS(ピーフォス)は、1950年代に世界的化学メーカーである3M社によって、「スコッチガード」などの防水防汚処理剤として開発された物質である。「PFOA(ピーフォア)は、同じ世界的化学メーカーのデュポン社によって、フライパンの焦げつき防止などのテフロン樹脂の開発の課程で作られた物質である。

 実は、今年1月に映画「ダーク・ウォーターズ」(2019年/アメリカ)を観た。デュポン社の工場排水が周辺地域の水を汚染し地域住民の被害を拡大していく汚染問題を取り上げた作品である。

 映画の内容は、「1988年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットが、見知らぬ中年男から思いがけない調査依頼を受ける。ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営むその男、ウィルバー・テナントは、大手化学メーカー、デュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。さしたる確信もなく、廃棄物に関する資料開示を裁判所に求めたロブは、『PFOA』”という謎めいたワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づき始める。デュポン社は発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し続け、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたのだ。やがてロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきる。しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求めるロブを窮地に陥れていく・・・。」

 この映画は全米を震撼させた実話に基づく衝撃の物語。

 2016年1月6日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事には、「米ウェストバージニア州のコミュニティを蝕む環境汚染問題をめぐり、ひとりの弁護士が十数年にもわたって巨大企業との闘いを繰り広げてきた軌跡が綴られていた。世界有数の化学企業を敵に回したことで生じる強烈なプレッシャー、公私両面の凄まじいストレスなどの“正義の代償”を伝える一方、弱き者を救おうとする弁護士の揺るぎない信念を感動的に演じきった。人命さえ脅かす化学物質の存在が身近な恐怖として描かれ、闇の中の真実をひたむきに追求するロブの姿から目が離せない。」

 今沖縄でもこの映画が上映されていて多くの人が鑑賞している。

 普天間飛行場を抱える宜野湾市民の皆さんは、「有機フッ素化合物(PFAS)汚染から市民の生命を守る連絡会」を結成し、4月10日(日)に宜野湾市民会館で県民集会を開催しこの問題に立ち向かう。
 (富田英司)


  コラムの窓・・・勝訴なのか、敗訴なのか?

 3月15日、東住吉冤罪事件・国家賠償請求訴訟判決が大阪地裁(本田能久裁判長)であり、「勝訴」の旗出しを行われましたが、焦点だった国の責任については「国の責任は認めず」との判決でした。はたしてこの結果は勝利と言えるのか、周囲には疑問符のつく微妙な反応が広がりました。

 傍聴抽選で待っていたとき、原告の青木惠子さんと湖東記念病院冤罪事件の西山美香さんが姉妹のように靴まで真っ白の姿で登場しのは感動ものでした。記者会見・報告集会では、布川冤罪事件の桜井昌司さんも挨拶し、冤罪との戦い、国賠訴訟の提起、完全勝利のバトンが確実に受け継がれていることが確認できました。

 傍聴希望者が多いのに傍聴席が制限されるなか、幸運にも夫婦で傍聴抽選に当たったのですが、私は知人に席を譲り外で旗出しを待つことにしました。傍聴では、青木さんが「冗談じゃないわよ」と台を叩き、裁判官向けに用意していた(感謝の)手紙を破く、迫力満点の判決言い渡しだったようです。

 ちなみに、桜井さんの国賠訴訟では、東京高裁の「警察官や検察官が捜査段階の取り調べで、うそを伝えて自白を強要したと認め『社会的相当性を逸脱した違法な行為だ』と指摘した」(2021年8月28日「神戸新聞」)判決が確定しています。青木さんや西山さんの裁判は桜井さんのこの完全勝利を引き継ぐ闘いであり、冤罪を生み出し続ける警察・検察・裁判所を告発する闘いでもあります。

 記者会見・報告集会では、青木さんは裁判体への不信をあらわに敗訴という気持ちで、弁護士の意見を待たずに控訴して闘うと表明。というのも、昨年9月16日の結審後、地裁は和解を提案していていました。判決になるとさらに控訴で裁判が続くので、青木さんにとっては和解で決着がつく方がいいだろうという意向だったようでしたが、国側が和解を拒否。こうした経緯があったので、青木さんの裁判長に裏切られたという気持ちはなおさらでした。

 判決は大阪府警の捜査・取り調べについては明確に違法とし、冤罪無罪確定後も「犯人だと思っている」と国賠法廷で言い放った捜査員を名指しで批判。一方で、検察については捜査報告書を出さなかったことは当時としては違法と言えない、着火実験をしなかったことも問題としませんでした。

 弁護団は、府警の違法をはっきり認めたのは評価できるが、起訴当時としても風呂窯の火でガソリンに引火するのは常識、着火実験しなかったのは捜査の不備。判決がこの点を問題とすることなく、検察が知らなかったことは仕方がないというのは大問題だと指摘しました。

 検察の証拠開示については、布川国賠の東京地裁判決は「『裁判の結果に影響を及ぼす可能性が明白な証拠は、被告に有利、不利を問わず法廷に出すべき義務を負う』と指摘」(19年5月28日「神戸新聞」)しています。この判決に比べ、大阪地裁判決は明らかに後退しています。ここにおいて、〝検察が持つ全証拠の開示〟が冤罪を防ぐために重要な課題であることは明らかです。

 一方、着火実験については、車からガソリンが漏れて車庫に面した風呂釜の種火に引火したことを弁護団が実験を行って確認しています。刑事裁判の一審の段階で弁護団は自然発火説を訴えていて、関係者のなかではこうした失火が起こるのは常識だそうです。にもかかわらず、〝放火殺人〟を前提とした思い込み捜査によってうその自白がでっち上げられ、裁判官がこれを鵜呑みにしてしまったのです。

 ときあたかも3月4日、名張毒ぶどう酒冤罪事件の再審請求が退けられました。あまたの不審な点が指摘されているのに、冤罪との結論が出ることを恐れているとしか思えません。一審無罪が二審で逆転死刑が確定した奥西勝〝死刑囚〟は2015年10月、89歳で獄死しています。事件発生は1961年、半世紀を超える冤罪に苦しみぬいた奥西さんの再審無罪の叫びの、その重さに司法は耐えられるのでしょうか。

 犯人視を続け、捜査の過ちを認めることも謝罪することもできない輩を叩きのめした、白衣の闘う姉妹の立ち止まることなく数多の冤罪を暴き続ける闘いを、ご注目ください。 (晴)


  読者からの手紙・・・反戦へ25万のケルン市民のデモ

 ドイツ・ケルンの友人から「社会風刺のカーニバル」のパンフや新聞、写真が送られてきました。

 ドイツ西部のケルンの人口は、100万人。毎年、郊外から100万人を超える参加者で賑わいます。しかし、コロナ禍のため、昨年同様、今年も2月28日のパレードは中止。友人を始め、ケルン市民はこの日、プーチンの横暴に対する反戦デモに切り替えました。25万人の参加で、街を埋め尽くしたとのこと(ケルンの新聞「エクスプレス」に掲載)。

 100万人の人口で、25万人の参加は、日本では考えられません。

 フクシマの原発事故が起きた時も、2週間後には、ドイツでは25万人の大きなデモが組織された。それがメルケル保守政権のもと、2022年末までに原発の全て廃止を決断させたのです。日本との政治意識の違いを感じざるを得ません。

 サッカー競技場(6000人が参加)で、20の社会風刺の山車が展示されました。そのうちプーチン関係の山車は2つ。

 紹介しましょう。ドイツ語の翻訳に挑戦してみました。ドイツ語3級の資格しかないので、誤訳もあると思います。ご勘弁を。4番のテーマは「いっそ統治を指示する」。「ルカシェンコはベラルーシの独裁者で、プーチンのお気に入りの人物だ。大統領選では不正を行い、民主主義をこん棒(力)で破壊してきた。ポーランド国境では難民のドラマを演出してきた。時限爆弾はカチカチと音を立てている」

 6番目のテーマは「プーチンのゲーム(お遊び)」。「プーチンは、以前のソビエト連邦はすべてが良かったと考える。古き良き時代を取り戻すために、新しいソ連の為にどんな手段もいとわない。そのためにウクライナ国境では、カザフスタンやベラルーシの助けを借りながら、12万人の軍隊が準備している。バルト諸国へのけん制もしている。ウラジミールよ、危ない遊びに直ちに終止符を打ちなさい」(石井良司)


  川柳 2022/4 作 石井良司

 ロシア産カニもイクラも弾に化け
 桜より値上げの花が先に咲く
 なんやかや労り合って金婚譜
 良いことを一つ探して今日の締め
 ストレスを小分けにすれば楽になり
 生き恥を積んで会得の自然体(「自然」)
 近づけば赤木ファイルの涙跡(「近」)
 ミサイルで遊ぶ隣の独裁者(「近」)
 黒ダイヤ燃やさぬようにグレタ燃え(「2021年の出来事」)
 人災の根っ子が露呈土石流(右に同じ)
 異次元を将棋野球に見る二人(右に同じ)
 自宅療養野辺に送ったコロナの死(右に同じ)
 手術後の命を繋ぐ三分粥(「薬」)
 免疫をアップ腹から大笑い(「アップ」)
 プチ旅行マンガと聖書持っていく(「独得」)
 突っ込みとボケを交互に共白髪(「コメディー」)
 昼間には敬老パスを運ぶバス(「運」)
 痴話げんか聞き耳立てる夫婦箸(「聞く」)
 聞き上手同士会話が弾まない(「聞く」)
 無農薬曲がりキュウリにあった自負(「曲」)
 ヤングケアラーデートないまま母介護(「デート」)
 待ちぼうけアイスコーヒー薄くなる(「デート」)
 運命のデートあれから共白髪(「デート」)
 ああ無情卒業旅行また延期(「卒業」)

 
 色鉛筆・・・震災遺構大川小学校から学ぶこと

 東日本大震災から十一年過ぎました。多くの犠牲者を出した大川小学校は、震災遺構として残されることになり、敷地内に大川震災伝承館も設立されました。

○2011年3月11日14時46分 震度6強の揺れたあと

 先生の指示に従って子どもたちは、校庭で動かずにいる間に、津波は川を約4km遡り、堤防を超えて大川小を飲みこみました。15時37分、地震発生から51分、警報発令からでも45分の時間がありました。 

 子ども達が移動を開始したのはその1分前、移動した距離は先頭の子どもで150mほどです。なぜか 山ではなく、川に向かっています。ルートも、狭い民家の裏を通っています。しかも、そのまま進めば行き止まりの道です。時間的に、最初の波で堤防から水があふれた後の移動開始です。津波が来たのでパニックになったと言えます。 

○その結果

 全校108名中、74名の児童死亡・行方不明 となりました。教員は10名亡くなっています。108名といっても当日欠席、早退、保護者が、引き取りに来た児童がおり、最終的に校庭にいた児童は70数名で4名だけが奇跡的に助かりました。教職員も助かったのは1名だけてす。

○危機管理マニュアルの不十分さ

 学校管理下で、このような犠牲を出したのは大川小学校以外にありません。

 大川小より海に近い学校はもちろん、もっと海から遠い、上流の学校や保育所も逃げています。

 確かに子どもを掌握するために一箇所に集めます。大抵の学校は一時避難所を校庭に定めています。

 その後、津波警報が出ているのでとにかく高い場所に避難することが大切なのです。震度6強というそれまで体験したことのない強い揺れかが3分も続いた後、大津波警報が発令され、防災無線やラジオ、市の広報車がさかんに避難を呼びかけていました。

 その情報は、校庭にも伝わっていて、子どもたちも聞いていました。なのに悔やまれてなりません。

 体育館裏の山はゆるやかな傾斜で椎茸栽培の体験学習も行われていた場所です。

 迎えに行った保護者も「ラジオで津波が来ると言っている。あの山に逃げて」と、進言しています。スクールバスも待機していました。そして「山に逃げっぺ」と訴える子とども達もいたそうです。

○このことを教訓に子どもたちの命を守る体制作りを

 大川小学校津波事故訴訟裁判は遺族側が勝訴しました。

 その後、宮城県の校長の研修会は、大川小学校現地に全員が出向き、語部の方のお話を聞きました。

 その後、教員の新採研修も現地を見て、管理マニュアル通りに動くだけではなく、「子どもたちの命を守るためには、どうしていくべきか」を考える機会が与えられました。

 最近も震度6強の地震がありました。幸い津波は来なかったですが、またまだ地震が続いています。

 子どもたちの命を守ることを優先していく学校現場作りを目指していきたいと想います。(宮城 弥生)