ワーカーズ630号(2022/5/1)         案内へ戻る
  
  みんなで変える未来 働くものの団結で生活と権利を守ろう!

 五月一日は、第九十三回メーデーです。

 労働者の日としての最初のメーデーは、一八六六年五月一日に合衆国カナダ職能労働組合連盟(後のアメリカ労働総同盟)が、シカゴを中心に八時間労働制要求の統一ストライキを行ったのが起源です。

 日本では、戦後恐慌時の一九二〇年五月二日日曜日に第一回のメーデー(主催:大日本労働総同盟友愛会)が上野公園で行われ、およそ一万人の労働者が「八時間労働制の実施」「失業の防止」「最低賃金法の制定」などを訴えました。翌年からは五月一日となり、開催地や参加人数も増えていきました。

 八時間労働制を就業規則として導入したのは、一九一九年神戸市の川崎造船所でした。しかし法律として規定されたのは、メーデーで訴えてから二十七年後の一九四七年施行の労働基準法まで月日が流れました。メーデーで訴え続けてきたからこそ、法律を変えることができたと想います。

 私は一九八〇年に社会人になりました。法律で決まっている八時間労働制の中で働き始め、労働時間を超えると残業手当がもらえました。しかし残業時間が月四十五時間を過ぎると労働基準法違反になるから会社で仕事したらダメだと言われました。でも要領が悪いのか仕事は終わらないのです。上司に黙って仕方なく自宅に持ち帰ったり朝早く出勤したりして、業務をやり遂げていました。競争社会で、仕事ができなければ、周りから認めてもらえないのです。一流大学を卒業した違う部署の同僚は、理由はわかりませんが、会社内で自殺し辛かったです。

 二〇二二年になっても、過労死や精神疾患に苦しむ人、サービス残業は減りません。世界を見渡すと戦争をしている国があり多くの方が亡くなっています。色々な問題が山積みだと想います。

 陸上自衛隊が二〇二〇年二月に実施した記者向けの勉強会で配布した資料に「予想される新たな戦いの様相」としてテロやサイバー攻撃と共に「反戦デモ」を例示していたことが分かりました。不適切の指示を受け「暴徒化したデモ」に修正して再配布したそうです。修正はされましたが、不適切な表現と意見がなければ修正されなかったと思います。私は、憲法二十一条で保障される表現の自由である反戦デモ、もっと言うならデモ自体を取り締まっていく動きが見え隠れしているように感じます。

 おかしいことは、おかしいといえる環境作りが大切なことです。一人の力ではできないこともみんなの力で進める労働運動では産休や育児休業など勝ち取ってきた権利が多々あります。周りの人と本音で語り合い、団結して行動を起こして、生活と権利を守り、みんなで変える未来をつくっていきましょう。(弥生)


   《ウクライナ戦争》悪乗りする好戦派――思考停止は戦争体制化へ――

 ロシア軍によるウクライナ侵攻は陣地戦の様相を深め、戦闘もエスカレートして長期化しようとしている。事態は朝鮮戦争での〝南北〟のような、ウクライナの〝東西〟分割という悪夢を連想させもする。

 この戦争の終息が見通せない中、日本ではこの事態に乗じて軍事優先国家に転換させようとする悪乗りも跋扈している。
 国境を越えた労働者・民衆の独自の反戦・平和の闘いを拡げていきたい。

◆膠着・拡大する戦闘

 ロシア軍によるウクライナ侵攻は、当初の電撃的な首都攻略の失敗から、東部地域での支配地域の拡大に局面転換している。すでに双方とも万単位の犠牲者を出しているとみられ、とりわけウクライナの一般住民の理不尽な犠牲が増えている。

 侵略したロシア軍は、義勇兵が支えるウクライナ軍の反撃で予想外の犠牲者を出し、報復とも思える一般住民への無差別虐殺も拡がっているようだ。各国から一般住民に対する戦争犯罪だと指弾されているが、そもそも戦争そのものが人間同士の殺し合いであって、侵略戦争そのものが指弾されるべきものだろう。

 それにしても、プーチン大統領がマリウポリ製鉄所攻撃を回避した言葉は印象的だった。「ハエ一匹通さないように。……」大国の軍の最高指揮官の言葉としてなんとも明け透けで下品な言葉だという以外にない。中に閉じ込められている人々のことなど、歯牙にもかけていない。

 そんな局面で、ロシアはウクライナ東部のドンバス地方での支配地域の拡大と勢力圏の固定化に焦点を移したといわれている。他方で、米国を始め、NATOなど西側諸国の武器供与による軍事支援も拡大している。米国は、新たに長距離砲や自爆型ドローンなどを提供するなど、ウクライナ軍へのてこ入れを強化している。

 日本も同調して武器供与を拡大している。

 日本はこれまでも防衛装備品の輸出や譲渡を拡大してきたが、今回は武器輸出の「新3原則」で禁じている〝紛争当事国〟への供与に踏み切った。しかもその中には敵への攻撃にも使われるドローンも含まれている。このドローンは、キーウ(キエフ)近郊などでは、ウクライナの民間義勇兵が飛ばしてロシア軍の位置をウクライナ軍に知らせ、攻撃につなげていたという。日本のドローンもそうした戦闘に直接使われる可能性が高いものだ。

 そんな状況は、まさに軍事衝突のエスカレーションそのものだといえる。ウクライナ戦争はいまではロシアとNATOなど西側諸国との代理戦争と化し、終わりが見通せなくなっている。成り行き次第で、NATO諸国の軍事支援行動に対してロシアがポーランドなどに越境攻撃に踏み切れば、それに応じてNATO諸国はさらに軍事関与を強め、焦ったロシアが生物・化学兵器や核兵器の使用に踏み切るという、さらなるエスカレーションもゼロとは言えなくなる。まったく危険極まりない局面となっている。

◆二重基準

 そんなウクライナ戦争。これまでの状況と経緯を見ていると、日本の対応がこれまでの海外紛争での対応と比べて明らかに別基準の対応が横行していることに唖然とさせられる。

 例えばつい最近の出来事で言えば、ミャンマーでの国軍による民主化運動の弾圧事件だ。

 昨年2月の軍事クーデターで発生した軍・警察による反軍政派市民への鎮圧過程では、自国民のデモ隊に発砲して殺害するなど、市民虐殺とも言える蛮行が重ねられた。まさに権力犯罪とも言うべき事態であり、現在でも民主派や反政府派を武力攻撃している。

 そんなミン・アウン・フライン軍事政権に対して、日本政府は政権への独自のチャンネルを生かして和解を呼びかけている、としている。現実には何の成果もない。が、それでも経済制裁もせず、政権とのチャンネルを維持している。これまでの利権構造を温存しているとしか思えない。

 対して、今回のロシアによるウクライナ侵攻では、かつてプーチン大統領と27回もの会談を実施してきた安倍元首相の存在も含め、太いパイプを生かした独自の和平への試みや停戦交渉の試みさえしていない。せっせと米国などに同調して、経済制裁や防衛装備品の供与などに精を出すだけだ。

 避難民の扱いも二重基準そのものだ。

 ウクライナからの避難者はすでに500万人を超えたとされ、その多くがポーランドやNATO諸国に避難している。日本もウクライナ支援の姿勢をアピールしたいと政府専用機などで日本に受け入れてきた。

 戦争受難の避難民受け入れは必要で当然の対応だろう。が、ではこれまで紛争諸国からの難民受け入れに対して、日本政府はどういう態度を取ってきたかといえば、明らかな難民排除だった。

 出入国在留管理庁によると、2011年から20年までの10年間で、難民申請75592人の内、認定者はたった264人で、0・3%でしかなかった。その他人道的配慮による在留許可者が963人、併せて1227人、1・6%でしかない。

 昨年の軍事クーデター以後、ミャンマーでの民主派の弾圧と排除で、日本からの帰還を延長できたのは4000人余り。が、ほんの一時的・便宜的な措置だという。ミャンマーの国内難民は50万人、他に1400万人が人道支援を必要とされているが、日本はほとんど支援してこなかった。ちょっと前のロヒンギャ難民やシリア難民も、その少し前のイランやイラク・アフガンからの難民受け入れでも、政府は何の支援もしない状況だった。

 ところが今回はほぼ無条件での受け入れで、生活費支援や働き先の紹介など、前例のない支援策を講じた。とはいえ、数がまだ数百人で、ポーランドなどとは負担度や切迫度が桁違いだ。問題なのは、今回できたことが,なぜこれまでやらなかったのか、ということだ。まったく説明も無いままの二重基準だという他はない。結局は、政治的プロパガンダ優先による対ロシア挙国体制づくりの一環だなのだろう。
 同じような二重基準については、米国でも批判されているという。

◆〝力による現状変更〟?

 今回のウクライナ侵攻では、枕詞のように出てくる言葉がある。「力による現状変更は許されない」という言い回しだ。これは中国の南シナ海での海洋進出などでも使われてきた言葉で、要するに国連などでの決議や交渉の結果ではなく、力によって勢力図を塗り替える行為などを批判するものになっている。

 そうした行為・行動は、周辺国との間で軋轢や緊張をもたらすという意味で一面の正当性はある。が、その言葉の裏では、現状の勢力関係を前提、温存する、という意味合いも含まれる。現状の覇権国家の存在を是とする言い回しにもなっている。米国など(旧ソ連・ロシアも)は、これまでも世界中でさんざん〝力(武力)による政治〟を通してきたのが現実だ。経済・貿易大国が〝自由貿易〟を唱えるのが〝強者の論理〟であるように、〝米国の覇権〟が前提の〝強者の論理〟なのだ。

 同じような構図は、核兵器不拡散条約(NPT)でも見て取れる。これはイランや北朝鮮の核保有を批判する場面で持ち出されることだ。要するにイランや北朝鮮の核保有は、NPT違反であり許されない、と。

 確かにその通りだ。しかしその言い方は一面的だ。NPTは第6条で核保有国に対して「誠実に核軍縮交渉を行う」と規定している。核保有国が誠実に核軍縮を進めているなら、一定の説得力はある。が、現実はといえば、米国もロシアも中国も含め、核保有国は「誠実な核軍縮」どころか、継続的な核兵器のバージョンアップを繰り返しているのが現実だ。米国は〝核兵器の現代化〟を進め、ロシアは新型ICBM「サルマト」の発射実験をやり、中国はICBMの弾頭数を大幅に増やしている。

 NPTはそもそもこれまでも二重基準の批判を受け続けている。イスラエルやインド、パキスタンの核保有はすでに既成事実として米国も容認している。NPTそのものが形骸化しているのだ。そのNPTを根拠としてイランや北朝鮮の核保有を批判しても、説得力は無い。〝ならず者国家〟は出てくるのだ。

◆危険な思考停止

 ロシアのプーチン体制は、国営(国家資本)企業と新興財閥、それに党(統一ロシア)、情報・治安機関(シロビキ)の基盤に乗った実質的な独裁政権だ。そのプーチン政権が始めたウクライナ侵攻を批判するのは当然だ。

 しかし、それに対してNATO諸国を始め西側諸国が一体となって包囲したり、ましてやそれらの国の労働者や市民が政府と一体となってロシアを包囲するなどは、逆効果の意味合いもある。ロシアの国家や政府とロシアの労働者・市民はイコールではない。逆に、ロシアの労働者・市民による反戦の声や行動の拡がりこそ、ロシアの侵略戦争を止める最大の力になる。米国がベトナム戦争やアフガン戦争から撤退したのは、結局は米国市民の戦争疲れや厭戦気分が拡がったのと同じだ。

 逆に、国家・国民と一体で包囲すれば、ロシアの人々はナショナリズムに取り込まれざるを得ない。ロシア人を小馬鹿にし、惨めな生活を強いる西側諸国に対し、“強いロシア”“強い指導者”へと引き込まれる。プーチンが権力者として浮上した背景の一端は、まさに冷戦終結直後のロシアの人々のそうした気分の拡がりにある。

 同じようなことは日本にも当てはまる。

 今回の戦争では、暴虐非道なロシアとプーチン大統領に対し、ウクライナの無辜の民衆や女性や子供の悲劇、という勧善懲悪のワンパターンの構図が強調される。NHKの字幕の取り替えもそうした構図への忖度だったのだろう。そんな構図ばかり振りまかれれば、ロシアたたきだけが拡がる思考停止に陥り、複雑な戦争の構図や解決策,対抗策など、なにも考えなくなる。あげく、コロナ禍での〝自粛警察〟ではないが、JR駅でのロシア語で書かれた案内表示版をやり玉に挙げたり、それを民間会社が受け入れる、というヘイトまがいの事態が起こるのも、また当然と言うべきだろう。

◆好戦派の悪乗りは許さない

 極めつけはゼレンスキー大統領の3月23日の日本での国会演説(リモート)に対する山東昭子参院議長の発言だ。「貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」。

 山東議長の頭は、すでに日本の国民は〝国のために命を差し出す存在〟になっているのだ。山東議長にとって、ウクライナの現実は、人々を国家のための捨て石になるように仕向ける材料に過ぎないのだ。

 まだある。安倍元首相の一連の発言だ。安倍元首相は、ロシアのウクライナ侵攻の前から「台湾有事は日本の有事だ」と発言し、外国の戦争に日本が率先して参戦する、という姿勢を露骨に主張していた。今回のウクライナ戦争では、これまたあけすけに日本も核配備すべきだ、という趣旨の発言をしている。また直近では、戦力の保持と交戦権を明記する憲法9条の改正こそ必要だとの趣旨の野望を繰り返し表明している。

 民主主義国家とその国民は、一体となって専制主義国家と対決しなければならない、という構図を前提とすれば、日本も軍事力を強化し、憲法を変えて戦争できる国家にならなけれなならない、そしてその軍事力を行使して、敵国ロシアや中国を懲罰、殲滅しなければならない、となってしまう。

 現に自民党などは、そうした路線を突き進んでいるかのようだ。

 自民党安全保障調査会は4月21日、敵基地攻撃効力を言い換えて「敵基地反撃能力の保有」と防衛費を5年でGDP比2%への引き上げを提言した。そこでは敵基地への反撃ばかりでなく、指揮統制機能〝等〟という言葉で敵軍の指令本拠や大統領(首相)府などへの攻撃も含められている。

 もともと「〝敵基地〟攻撃」とは、かつては「〝敵地〟攻撃」と言っていたように、基地に限定したものではなかった。しかも軍事的概念としては、相手国の対空戦力を撃破して無力にすることで敵地での制空権を確保し、一方的な航空・ミサイル攻撃で敵国の攻撃力を殲滅する、というものだ。要するに敵国殲滅作戦なのだ。そうでなければ当方の軍の攻撃をかいくぐっての敵の反撃は防げないからだ。

 それを徹底しようとすれば、ミサイルの移動式発射装置が主流のいま、リアルタイムで相手のミサイル発射場所を探知できるような情報把握が不可欠だ。それは偵察衛星などだけでは不可能で、人的情報収集、すなわち敵国でのスパイ活動など、現実には不可能なことも際限なくやることが前提になってくる。

 〝専守防衛〟というしばりをかなぐり捨て、無謀ともいえる〝先制攻撃〟や相手国の〝殲滅作戦〟へと踏み込むのが〝敵基地反撃能力〟なのだ。そんな戦争国家化は許すわけにはいかない。

 防衛費のGDP比2%についても同じだ。現在の5兆円強が10兆円だ。消費税を引き上げない限り、社会保障費でも削減しないと不可能な数字だ。

 防衛費増額は、お金の問題ばかりではない。軍産複合体が肥大化する。一端肥大化すれば、それを維持するために〝外国の脅威〟も膨らまされる。現に、自民党の佐藤正久外交部会長などは、必ず対外強硬論を主張する。

 そればかりではない。日本の政治の中で、軍事・軍隊の比重や発言力が増強する。自衛隊、軍隊の論理がまかり通るようになる。市民による反戦デモも、テロ行為と同じように対処(鎮圧)するようになる(自衛隊文書)。
 悪乗りする好戦派や軍事中心主義の跋扈に道を開いてはならない。(廣)案内へ戻る


   独立ウクライナの階級闘争(上)

 ロシアの侵略という未曾有の危機に見舞われているウクライナ民衆。ロシアの野蛮な軍事侵略を断固として糾弾し、戦うウクライナ民衆に連帯するものです。とはいえ、ウクライナ国民の塗炭の苦しみがそこから始まったというものではない。独立後三十年。国民は搾取を強化され怒りと闘いの歴史を刻んできた。その渦中でのロシア軍の侵攻。どう戦うべきか?

■ウクライナにおける「自由な資本」の生成小史―あるいはウクライナ民族主義の秘め事

 この項は「ウクライナの国民ブルジョアジーの詳細について」(イリア・イリン2020年5月6日共同・社会批評ジャーナル)を要約し若干のコメントを追加したものです。

 ウクライナの「民族(国民)」ブルジョアジーは、ロシアと同じようにノーメンクラツーラ(ソ連時代の赤い貴族)による国営財産の分割(私的簒奪)と、さらには国家官僚とつるみながらの新興財閥=オルガルヒの形成を特徴とする。

 1990年代初頭、ノーメンクラツーラが新資本家や「赤い取締役」の利益を代表し得たことは、1987年に施行された協同組合法の運用によって裏打ちされた。その結果、これまでの経済犯罪の代表である多くが正式な所有者となり事業を立ち上げ、対外貿易活動を行うことができた(Havrylyshyn 2017: 63)。例えば、ユリア・ティモシェンコ(のち首相)は1988年に外国映画のレンタルビデオ店を組織し(Havrylyshyn 2017: 207)、セルゲイ・ティギプコはドニエプロペトロフスクのコムソモールの第一書記として最初の小企業を組織するのに協力し、1991年までに百件となった(Kuzio 2015: 388 )。

 しかし、ウクライナにおいてはノーメンクラツーらからの収奪(ラトビア)や欧米の多国籍企業による国家資本の支配が横行(ポーランド、ラトビア、チェコ)したとは言えない。  

 ウクライナの「自由な資本」形成は、東欧諸国やロシアに比較して遅れて緩やかに開始された。左右に揺れたり(国営と民営化の反復)東西に揺れたり(ロシア寄りになったりEU寄りになったり)しながら、独自の蓄積手段と内部的暗闘を経て現在に至る。

 とにもかくにもソ連邦の崩壊という過程で、「ノーメンクラツーラは完全な経済的自治を得るためにウクライナ国家の独立を必要とし(独立前、ウクライナはソ連のGDPの5%しか受け取っていなかった(Van Zon 2000: 18))、民族主義者はついに彼らの秘密のアイデアである独立ウクライナを体現できるようになった。 現実のものとなった」(Aslund 2009: 40; Kravchuk 2002: 47)。

【オルガルヒたちによる政府の組織】

 レオニード・クチマ(のち二代目大統領)は、1994年に大統領に立候補した理由を自伝で思い起こしながら、「赤い取締役」と、ウクライナの新しい資本家と政府との関係の図式を示している。ドニエプロペトロウシク、この都市の大企業の役員たちと、ハリコフ、ドネツク、ユジマシュの友人(以前は「赤い取締役」だった)からなる代表団が全員彼のところに来た。この代表団のリーダーであるザポロージエの工場「モーターシッヒ」の総責任者はこう言った。「産業を救える大統領が必要だ。産業を救えば、国を救うことになる」(Yurchenko 2017)。オルガルヒ政権のスタートである。オルガルヒから選ばれる政府すなわち大統領や首相や閣僚(クチマ、ヤヌーコビッチ、ユシチェンコ、ポロシェンコなどすべの大統領はオルガルヒに直結する)を形成した。

 ウクライナのブルジョアジーがノーメンクラツーラの一派から生まれたことで、資本主義的な財産が現実化され、ソ連時代からの根強い高級官僚がブルジョアジーの大義に奉仕することが保証されたのである。官僚とオルガルヒの連合が新しいウクライナ国家の骨格となった。

 国民の政治的悲願はしたがってオルガルヒとソ連時代からの特権官僚、そして両者の汚いつながりを断ち切り、政治を国民が奪還することであった。

【ウクライナ国家は公債でオルガルヒを育てた】

 イワン・ククルザ(2017)は、ウクライナ国家と資本の態度を要約している。

 「"その原点に立ったのは、彼女、ウクライナ国家であった。赤ん坊の母親として、公共施設の民営化によって繰り返し彼を養い、他人の目や心から母性的に彼を守り、利益と富への貪欲さを持つ新生古典的資本主義ビジネスを認識することができたのは彼女だった」(コーン 2017: 18).

 こうして政府と国家は、ウクライナ・ブルジョワジーの生育と保護の主要な道具となり、そのメンバーは国家間の関係において、また国家権力の最高機関において彼らの利益を直接代表し、権力の独占を確実なものにしている。

 公的債務はウクライナ資本の初期蓄積の基礎となり、また、ウクライナ資本をロシア資本に依存させた(ロシアからの支援)。ウクライナの最初の大資本家の一人、イゴール・バカイが言ったように、すべての資本はもともとロシアのガスと石油のおかげで蓄積されたのである(Havrylyshyn 2017: 192)。国民的な資本形成が乏しい中で、ウクライナ政府の選択肢はロシアの資源やIMFらの国際金融機関を頼ることであった。これは多くの開発国のジレンマでもあった。

 ウクライナの支配階級は一枚岩ではない。その非公式な結束は一時的な現象であり、諸派閥間の闘争は絶え間なく続いている。ウクライナは、ノーメンクラツーラ階級とブルジョアジーの継続性のおかげで、中東欧諸国のように衝撃的な新自由化の道を歩むことはなかった。そして、ロシアやカザフスタンで起こったような資本家の国有化への道も、大規模な自然独占と巨大な資源基盤がないために回避された(Van Zon 2000: 40)。

【オルガルヒの暗闘が大衆を巻き込み始める】

 「"脱オリガルヒ化 "という(スローガンが叫ばれた)からには、ある派閥と別の派閥の闘争と理解すべきだろう」。

 この闘争の結果、ウクライナではブルジョア民主主義の特殊な形態が出現する。学生や労働者は、1つまたは別の派閥を擁護するために動員される。ロシアとの緊密な協力かEUへの輸出増加か、ソビエトの過去の(社会制度の?)保護と国有化か、ロシア資本への従属の危険からそれに対する闘争か、言語に対する自由な態度かロシアの言語地政学と帝国主義に対する保護の方法としての言語ナショナリズムか、などである。

 このように、〈今や〉ウクライナ国家(の政治プロセス)は、ウクライナ資本家の異なる派閥の不倶戴天の不断の闘争の結果である。同時に、これらの派閥の存在そのものが、(ロシアのような)国家資本主義の回復を不可能にし、その結果、最終的にロシア資本との闘争を決定づけた。つまり、ウクライナ資本は、当初はロシア資本に近かったが、それが強くなり、選択的にトランスナショナル化(多国籍化)され始めると、ロシア資本を恐れるようになったのである。2008年のWTO加盟とEUとの貿易協定の締結は、ウクライナの大資本に一定の市場を開くとともに、財産権や有効な競争を保証し、ロシアの経済拡大に対して形式的に保護することになった。

 しかし、この拡大は、やはりクリミアの事実上の併合や、ルハンスク州やドネツク州の占領地区における分離主義勢力への支援という形で、ウクライナの大規模ブルジョワジーの生産手段の一部の横取りと共に行われた(Troost 2018: 17)。

【ウクライナブルジョアジーと労働者階級の "社会契約"】

 ウクライナは公的債務の増大によってソ連(時代)の社会保障を部分的に温存している。民営化が遅れ、経済の自由化が進まない理由の一つは、クラヴチュクとクチマによれば、これらの行為は社会のバランスを崩し、貧困化を招く恐れがあるので、「社会的志向の市場経済」を確立すべきだということだった(Havrylyshyn 2017: 73; Kravchuk 2002: 7)。つまり、資本の初期蓄積とともに、ウクライナ・ブルジョワジーは国民の社会保障を維持しようと考えたのである。これは同時に次のような方法で行われた。①公的債務を増やし、保健、教育などへの支出を減らすことを含め、資本と住民の両方にガス料金を補助する(2016年まで(Havrylyshyn 2017: 90))、②(高い税金ゆえの)影の経済の出現、それゆえ賃金の二重払いをする。

どちらの方法も短期的な結果を狙ったものであり、将来的に公的債務を返済し、最低年金を受け取るのは国民なのだ。しかし、2018年の正社員(法人で従業員10人以上)が760万人、非正規雇用が3、500万人であることを考えると、現在の労働者世代は最低年金すら期待していないのかもしれない。

 また、一部の資本主義企業では、社会インフラ、高賃金、治安が維持されている(Havrylyshyn 2017: 210)。一方で、独立のほぼ全歴史を通じて、国有企業の労働者への賃金滞納問題は解決されず、ストライキの原因として存在し続けている(Kravchuk 2002: 113, 123)。社会保障の問題は、ウクライナブルジョアジーの選挙プログラムの主要なポイントの一つであり、その派閥のポピュリズムの程度を決定し、国際資本の融資条件の拒否を正当化した(Havrylyshyn 2017: 148; Aslund 2009: 187, 207)。つまり、社会的志向とは、労働者階級を極貧に近い水準で支えることであった。2000万人がホームスティで生き延びていた(Van Zon 2000: 96)。驚くべきことに、ウクライナ国民ブルジョワジーは、「影の経済」を通じて、全人口をその活動の参加者にしているのである。ウクライナの低所得構造は「社会保障」と「闇経済」で成り立っているようだ。強搾取のメカニズムである「公的債務の罠」は国際金融資本が関与しているが、それはのちに触れる。

■二つの市民革命と資本勢力による簒奪

 オレンジ革命(04年)もユーロマイダン革命(14年)も、そのきっかけはすでに見てきたようにオルガルヒたちの内部闘争であった。

 04年大統領選挙。ロシア寄りオルガルヒ(ロシアの天然ガス利用などで利益を得る)と主に西部のEU寄りのオルガルヒの対立が非妥協的な闘いとなる中で「不正選挙」問題を経て民主主義を求める国民を巻き込む形で闘いが発展。大都市を中心にして市民達も決起した。ユシチェンコとヤヌーコビッチとの泥仕合は資本家たちの思惑を超えて先鋭化し、反オルガルヒ、反官僚、反汚職の闘いとなった。しかし、有力な独自の政治政党を構築できなかった市民、つまり労働者や農民たちは街頭での闘いを繰り返したものの議会選挙ではその意思を反映することができなかった。

 14年ユーロマイダン革命も、対立の構図はよく似ている。EU連携協定を直前で拒否し、ロシアとの150億ドルの借款に飛びついたヤヌーコビッチ大統領。これを契機とする支配階級を揺るがす内部対立は国際的にも注目され欧米やロシアも暗々裏に介入した。当然、学生や市民が積極的に参加し闘った。しかし、同時に市民間の分断(言語の対立やロシア人への偏見を利用)策などにより、運動の分裂が図られた。それぞれのオリガルヒはEUやロシアとの関係によって策動を強めた。彼らは、それぞれEUやロシアと関係を築くために、このような分裂を利用したのである。

 民衆革命はゆがめられ簒奪された。ヤヌーコビッチは追放されたが、民衆の戦いはその客観的目的を達するほどに成熟せず、支配階級のデマや分断のなかでオルガルヒと官僚制度の牙城を突き崩す成果を上げることは十分できなかった。革命的決起の終盤での極右の介入という事態は、民衆運動の真実を歪めるために各勢力に最大限利用された。その後もオルガルヒ達は国家と政府を支配し続け、他方、利用された極右は大衆的批判の中で議席を五分の一に激減させた(極右「スボボーダ」は12年に37議席あったが、14年に7議席、19年にはゼロとなり、政治的大敗を喫した)。

 民衆の度重なる政府・国家との闘争は彼らをして鍛え続けた。とはいえ、次にのべるようにIMF・世界銀行らによる債務と欧米諸国からの借入金は、ウクライナの「初期的資本蓄積」を通じて累積し、市場経済の一定の発展の中で21世紀にはさらにウクライナ国民に重くのしかかったのである。2015年3月、IMFは4年間で約175億ドルをウクライナ政府に供与することを盛り込んだ新経済プログラムを承認し、ウクライナ政府は4度の資金を受領して改革を進めた。西側の巨額の融資はその対価として「民営化推進」「社会保障削減・補助金削減と緊縮財政」に象徴される過酷なものであった。であるなら、EUに対する幻想を深い動機として戦われた二つの革命運動は、徹底した再建が求められる。(続く・阿部文明)案内へ戻る


  「現場から見えてくる貧困の実態」水なきゃ生きていけないでしょ―プロジェクトからの報告――聞きに行きました

★ 「水なきゃ生きていけないでしょ―プロジェクト」×「フードバンク」×「POSSE」

 若いボランティアの報告に改めて貧困の拡大を痛感しました。それに拍車かけたのがコロナパンデミック。無収入や貯蓄ゼロ世帯はもはやどこにでもいる。隠れた貧困が広がり、本人たちはどうしてよいのか途方に暮れた日々を過ごす。それを救うはずの行政が、料金滞納で水道を停止、さらに貧困者を追い込む。居住を失い寮からも追い出されるという八方ふさがりの事態にも。生活保護申請へのアクセスを意図的に難しくしたりするのは確かにひどい。本来ならば、助ける労働組合も今や機能が低下している。

★ フードバンク仙台やNPO法人POSSEの学生ボランティアは、食事提供活動し、同時に本人とともに権利を主張し行動します。若い方たちの自然体の誠意と熱意に感心しました。フードバンクはこれまでのべ千五百人の支援を実施したと。

 まずは法律や制度に確保された権利の主張、本人と一緒に行動。さらに社会の変革としての「ベーシック・サービス」を提唱しています。これは医療や居住、教育費ほか水道や電気・ガス等公共サービスなど生活の基本を無料(低廉化)にして生活を底上げする制度。これらは貧困家庭のみならず中間層も貧困に陥らないためにも大切な制度。もはや「貧困は特殊な問題ではない」。「当事者も一緒に社会を変える仲間として巻き込んでゆく」・・。

★ POSSE仙台の森進生さんのまとめ的お話。

 労働問題や解雇・パワハラ諸問題ありながら声があげられない現場や本人たち。ゆえに有効に機能しない法律や制度・政策に終わってしまっては意味がない。たとえば休業支援金などがそうだ。それはまさに権利行使が不十分であるからだ。だからPOSSEは労働者を組織し権利行使の手伝いをしているとのこと。非正規、外国人技能実習生らも巻き込んでゆく。

 政治でも下からわきあがる、運動が支えることが大切。困窮者本人を巻き込み社会運動へという展開が大事だと力説。

 官僚による政策策定と議員の選挙だけでは政治は不十分。権利の交渉を自分たちで切り開く社会運動が盛り上がらなければならない。いったん貧困に陥れば当事者本人は立ち上がるのが大変なのだ。「水なきゃ生きていけないでしょ」プロジェクトも本人含めて運動として拡大してゆきたい。

 その通りだと感銘を受けました。 

★ キーワード「Z世代」とは

 ネットで調べたが2022年現在では、7歳~26歳がZ世代とかで、インターネット世代。今回の若者たちはゼネレーションZを意識した活動らしい。多様な個性を認め、尊重し合う「ダイバーシティ&インクルージョンの重要性を噛みしめている人」が少なくないとか。    

 納得だ、これは運動を作り発展させるためには大切なことだと思う。権利の主張もしっかりする。やはりグレタさんなどが代表的存在のようだ。我々世代は??

 確かに人は個々人それぞれだが、時代が創り出す空気のようなものの影響は否定できない。ともかく新たな運動に非力ながら応援したいものだ。


  読書室  『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』遠藤誉氏著PHP新書

○ 完全情報統制国家の中国ではプーチンの軍事侵攻に対する批判は報道されていない。当然である。しかし意外なことにウクライナの惨状とゼレンスキー大統領の悲鳴は繰り返し、報道される。それはなぜか。また習近平―プーチン会談では習近平は「話し合いによる解決」を強調する。それはなぜなのか。さらにゼレンスキーはNATOのせいだと発言。ウクライナはバイデンに利用され捨てられたのか。本書を読めばこれらの疑問が氷解する ○

はじめに

 本書は2022年4月16日に刊行された本ではあるが、アマゾンでは既にベストセラーの表示がされているほどの売れ行きである。確かにウクライナ軍事侵攻を直接に取上げてはいないとはいえ遠藤氏が本書で追求していることは、プーチンを大物だとお互いに尊敬し合っている習近平がこのウクライナ戦争にどのように対処しようと考えているかの徹底した分析である。これが果たせれば今後の世界の趨勢も米中覇権競争の行方も見えてくる、これが遠藤氏の見立てである。この問題意識に貫かれた本が売れないわけはない。

遠藤誉氏について

 一九八四年に遠藤氏は『?子(チャーズ) 出口なき大地』を出版した。この本は中国国民党軍に守備されていた長春市(旧満州国首都新京)を中国人民解放軍が百五十日行った長春包囲作戦(兵糧攻め)の実態を暴露した本である。この包囲戦は遼瀋戦役の一部であり、中国共産党の作戦で長春を食糧封鎖したため、中国国民党軍以外の約三0万人の一般民衆も餓死に追い込まれた。遠藤氏はその数少ない生き残りの一人である。この本で世に出て以降、本業は物理学者でありながらも反共の優れた中国の研究者としても知られるようになり、最近でも『「中国製造2025」の衝撃』、『米中貿易戦争の裏側』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』等の単なる反共本とは一線を画する著作がある。

 遠藤氏の強みとは幼少期に身につけた中国語の能力と中国政府のシンクタンクに勤めた経験による情報力と物理学研究で鍛えたデータとエビデンスに基づく分析力なのである。

本書の章立ての紹介

 それではここで発売早々ベストセラーとなった本書の章立てを紹介しておこう。

 はじめに
 第一章 中露間に隙間風―ロシアの軍事侵攻に賛同を表明しない習近平
 第二章 習近平が描く対露『軍冷経熱』の恐るべきシナリオ
 第三章 ウクライナ軍事侵攻は台湾武力攻撃を招くか?
 第四章 習近平のウィグル「太陽光パネル」戦略とイーロン・マスク効果
 第五章 バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛
 第六章 ウクライナを巡る「中露米印パ」相関図―際立つ露印の軍事的緊密さ
 おわりに―戦争で得をするのは誰か?

本書の内容の紹介

 プーチンと習近平とは非常に仲がよいことは既によく知られている。その理由はともにアメリカから制裁を受けていることもある。しかし習近平には今回のウクライナ軍事侵攻には賛同できないのだ。それはプーチンがロシア人が多いドネック・ルガンスク両人民共和国を独立国として認め、その要求に応じて軍事侵攻したことは承認できないのだ。なぜなら習近平は自国内にウィグル・チベットを抱えており、彼らの独立など絶対認められないからである。プーチンの軍事侵攻はその意味において賛同も承認も出来ないのである。

 また日本ではあまり知られていない事実がある。それはソ連崩壊後、ウクライナと中国は深く交流してきた。ソ連時代に武器庫であったウクライナの技術者をソ連崩壊後ただちに自国に移住させて抱え込み、徹底して厚遇しミサイルや航空母艦製造技術などを伝授して貰った。余談として私が付け加えれば、北朝鮮のミサイル技術にもウクライナ技術者が関係する。さらにウクライナは中国の大戦略「一帯一路」の重要拠点の一つであり、事実ウクライナの最大貿易相手国は中国である。習近平はウクライナとの対立はできない。

 「一帯一路」の立場からはNATOの加盟国が「一帯一路」の加盟国でようやく命運をかけてきた「中欧投資協定」が頓挫している。だから習近平はこれ以上の悪化は避けたい。

 そこで習近平が取る戦術とは、中国が12年連続でロシア最大の貿易相手国との実績を踏まえた上で、今後も協力にプーチンを支えつつ、経済では欧州とも深く付き合うことである。このことを遠藤氏は、『軍冷経熱』と名付け、第一章と第二章とで詳説している。

 ここからはこれ以降の章を短評することに徹したい。第三章では端的にそれはないとする。遠藤氏は、台湾が中華民国政府として独立を宣言しない限り、現実性を認めていない。

 第四章は、習近平のウィグル「太陽光パネル」戦略とイーロン・マスク効果を詳説している。この章の記述は、まさに遠藤氏の本領が十二分に発揮されたすぐれた分析である。

 第五章は、本書の白眉である。ソ連崩壊後、中立をめざしていたウクライナがなぜ軍事侵攻されたのか。2008年まではウクライナの世論調査ではNATO加盟反対者は半数を占めていた。それを崩したのがオバマの下で当時副大統領だったバイデンである。

 2009年7月からバイデンはウクライナに入り浸り、「NATOに加盟すれば、アメリカは強くウクライナを支持する」と罠を仕掛け、遂にプーチンを軍事侵攻させることに成功したのである。そのプロセスは図表5―1 年表「ウクライナの中立は以下にして潰されたのか」に詳細に図表化されている。そのページ数は何と6ページに渉って、遠藤氏の物理学研究で鍛えたデータとエビデンスに基づく分析力の全面展開がそこにはある。

 ここを読むだけで今回のプーチンの軍事侵攻がバイデンの罠によるものと判断できる。

 どちらが先に手を出したかに留意しつつも、関係諸国間の複雑な政治過程を確かなデータとエビデンスに基づき分析する。今こそそれが必要なことを私達は忘れるべきではない。

 第六章では、遠藤氏がウクライナを巡る「中露米印パ」相関図―際立つ露印の軍事的緊密さについて六つの図表を詳説する。この章も実に読み応えある議論が展開されている。

おわりに

 本書のおわりに戦争で得をするのは誰かが論じられている。バイデンは、一方でゼレンスキーに「NATOに加盟すれば、アメリカが徹底して支援する」と言っておきながら、他方でインドのモディ首相と会っているプーチンに電話し、「もしウクライナで戦争が起きてもアメリカは参戦するつもりはない」と囁き、戦争が起こると「ウクライナはNATOの一員でないのでアメリカには防衛義務がない」「ロシアは核を持っているのでアメリカが参戦すれば第三次世界大戦になる」とゼレンスキーを冷酷に切り捨てた。こうしてバイデンは「口先三寸」でEUを混乱させ、米国民の一滴の血も流さずに濡れ手に粟のように膨大な戦争利得を手にした。習近平はこれをジーッと観察しているのである。

 習近平はバイデンが混乱させたEUに救いの手を差し伸べようと動いている。米国の戦争ビジネスを研究している習近平はロシアがEUの貿易決済システムから排除されたことを奇貨として、ロシアを自らのデジタル人民元決済システムに組み込むとともに対ドル覇権に挑戦している。まさに老獪そのものの習近平なのである。

 本書には、長春食糧封鎖を必死に生き抜いたことから来るトラウマによる遠藤氏のプーチンに対する憤怒の言葉が散見されるものの、今回のロシアのウクライナ軍事侵攻後の世界を考える上で必読書となる本である。是非皆様へ一読をお薦めしたい。 (直木)案内へ戻る
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  書籍紹介  『世界』緊急特集からウクライナ侵攻を考える

●『世界5』緊急特集

 ウクライナ侵攻について『世界』が相次いで緊急特集を組んでいる。ひとつは『世界5』緊急特集、もうひとつは『世界臨時増刊』である。

 ウクライナ侵攻については、様々な憶測やプロパガンダに惑わされず、歴史的経緯を見極め、平和に向けた議論を行うことが不可欠である。

 そこで今回その中から『世界5』緊急特集「ウクライナ 平和への道標と課題」におけるインタビュー「ウクライナ侵攻の歴史文脈と政治論理」で塩川伸明(東京大学名誉教授)が指摘している論点が、特に重要と思われるので紹介したい。

●「一体不可分」説

 まず東スラブ最初の国家、キエフ・ルーシが十三世紀にモンゴル・タタールに支配されて以降のロシア、ウクライナ、ベラルーシそれぞれの歴史を概観したうえで、プーチンの主張である「ロシアとウクライナは一体不可分」説を検討する。

 これは帝政ロシアの時代にウクライナがロシアの一部とされた時期の認識であること、その後ソ連による民族自決の考え方から、ウクライナ、ベラルーシを共和国として認めた経緯に触れ、これをプーチンは「人為的に作りだした国家だ」と主張していることが指摘される。

 こうした認識は現実を無視した極論ではあるが、ドストエフスキーやソルジェニツィンなどにも、似たような発想はあるのだという。

●「ネオナチ」説

 プーチンはウクライナの政権を「ネオナチ」と攻撃し、軍事侵攻を正当化しているが、ゼレンスキーがユダヤ人であることからも「無理筋」の主張であることは明らかではある。ただ「火のない所に煙は立たない」。

 ウクライナ独立以来しばらくの間は、西部のヨーロッパ的政治文化、東部のロシア的政治文化の間でバランスをとる努力がなされてきたが、経済危機に直面すると、過去の民族的英雄であるステパン・バンデラが持ち上げられるようになった。

 バンデラが親ナチスだったかは疑問があるが、独ソ戦争でドイツ側と協調した局面があることから、ロシア側からは「ナチス」と同一視されたという。

 また最近台頭した極右民族主義の「アゾフ大隊」とも結びつけて、ウクライナ政権そのものをネオナチとレッテルを貼る理由になっているが、ここはきちんと区別しておく必要がある。

●NATOへの対応

 プーチンは「NATO不拡大の約束をアメリカが破った」ことを侵攻の理由にしているが、彼自身は就任当初から強硬に反対していたわけではないという。

 当初は「ロシアがNATOに入ってもいい」と対米協調を重視していた。九・一一直後のアメリカの「対テロ作戦」にも協力する態度を示していた。

 ウクライナも独立時点では「中立」を掲げていた。「EUには加盟したいがNATO加盟にはあまり肯定的ではない」が世論の趨勢だった。二〇一九年にNATO加盟を目指すまでの経過は、一直線だったわけではなく、様々な局面について具体的な検証が必要である。

●「ホロドモール」

 スターリン期の一九三〇年代に、数百万人の人々が命を落とした大飢饉があった。この歴史を政権は「ホロドモール」と名付け、ウクライナ人を標的としたジェノサイドと宣伝した。これがウクライナ特に西部の民族意識や反ロシア感情に影響している。

 実際には飢饉の犠牲者は、ウクライナ人だけでなく、ロシア人・ベラルーシ人・カザフ人を含んでいた。正確にはスターリン体制の農民大収奪の歴史と捉えるべきかと思われる。

●マイダン革命

 二〇〇四年のオレンジ革命、二〇一〇年の選挙、二〇一四年のマイダン革命、ドンバス地域の「人民共和国」樹立、クリミア併合の経過を経るうちに政治的亀裂は深まっていく。

 これらが伏線となるのだが、ウクライナの地域間対立の国内危機と、プーチンのロシア軍によるウクライナ侵攻との間には「飛躍」があるのは明らかである。

 このため「人民共和国」防衛のための限定的軍事行動なら「やむを得ない」という受け止め方もあったが、いきなり全面的侵略に踏み切ったことに「いくらなんでもやり過ぎ」との反発が生まれた。それは予想外のウクライナ側の士気高揚と、ロシア側の厭戦気分をもたらし、プーチンの誤算が露呈することになった。

●ロシア共産党

 プーチンの一方的侵攻や一般市民への無差別殺戮に、ロシア各層からも反戦論が上がっている。

 あまり報道されていないが、ロシア共産党の国会議員からも反戦論が出てきているという。彼らは同党が「人民共和国」承認を主導したのは平和のためであって戦争のためではなかったと主張しているらしい。

 市民の反戦デモ、マスコミ関係者の行動、オリガルヒの停戦論、退役軍人の戦争反対論、側近の辞職、知識人や技術者の国外脱出などの動きは報じられている通りである。

●「停戦」への困難

 ウクライナの与党「公僕党」はすでにNATO加盟にこだわらず「中立化」を表明しているが、その場合の安全を保障する枠組みをどうするか。クリミアやドンバスの地位をどうするのか。

 ロシアの側では、プーチン体制が反戦運動を抑え込んで、強硬に戦争を継続するのか。戦況悪化と厭戦気分に押されて、妥協的な停戦に向かうのか。あるいはクーデターか。「暗い時代」の見通しが語られる。

 いずれにせよ私たちは、安易にプロパガンダに流されないように、客観的な歴史的経過を知るように務める必要があるだろう。
 なお特集では、他にも貴重な論説が掲載されている。

●『世界臨時増刊』

 また『世界臨時増刊ウクライナ侵略戦争』(四月十四日発売)では、ウクライナやロシアの政治・経済・歴史の専門家やジャーナリスト・市民活動家が、それぞれの角度から考察している。合わせて熟読されたい。
(夏彦)


  「沖縄通信」・・・静岡でも陸上自衛隊と米海兵隊との大規模な日米共同訓練が!

 皆さんもご存知のように、沖縄の南西諸島から奄美大島、種子島・馬毛島まで自衛隊のミサイル基地建設が進んでいる。台湾有事で沖縄が再び戦場となりかねないことに沖縄県民は不安を募らせている。日米中が戦火を交わせば沖縄戦以上の惨禍を免れない。

 日米の軍事的一体化が2022年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)で検討され、日米の統合的な共同訓練の計画と日米施設の共同使用が確認されていく。すでに2021年12月の日米合同訓練では、王城寺原、岩手山、八戸、矢臼別などの訓練場を使ってヘリによる射撃やオスプレイによる輸送訓練がなされ、対艦攻撃ができる高機動ロケット砲(ハイマース)も配備された。

 このような時期、私の住む静岡県でも過去にない大規模の「日米共同訓練」が行われた。

 陸上自衛隊東富士演習場(御殿場と裾野両市と小山町)と米海兵隊沼津海浜訓練場(今沢基地、沼津市)で、3月4日から25日までの日程で陸上自衛隊と米海兵隊共同の本格的な揚陸作戦訓練を実施した。

 実は、この沼津の海浜訓練場はベトナム戦争時には上陸訓練がくり返され、1990年代末からは海上自衛隊の上陸用舟艇による訓練がおこなわれるようになり、陸上自衛隊の水陸機動団の編成により、米軍との共同訓練がおこなわれるようになった。

 今回の訓練には、陸自水陸機動団(佐世保)、第1ヘリコプター団(木更津駐屯地のV22オスプレイ)の約400人と米第31海兵遠征部隊(沖縄キャンプハンセン)、第1海兵航空団(普天間基地のMV22オスプレイ)の約500人が参加。

 訓練は、CH47やオスプレイを飛行させ、ヘリキャスティングや上陸用舟艇を使って人員や物資を共同して上陸させる、そして、東富士で陸自と海兵隊のオスプレイで人員を運び、戦闘を行うというものであり、「台湾有事」や「離島防衛」を理由に、中国との戦争を想定したものである。

 2022年1月下旬に行われた東富士演習場での共同訓練では、米空軍のC130から陸自の空挺団540人が落下傘で降りるというもので、日米の軍事的一体化は強まるばかりである。

 今回の大規模な日米合同訓練の実施を聞き、地元の市民団体が日米合同訓練の監視活動を取り組んだ。また、3月10日
(木)には「日米共同訓練に反対する集会」を現地の沼津今沢海岸で開催した。集会には県内から市民団体が参加し「今回の日米共同訓練は日米の軍事的一体化をすすめるものである。それはアメリカの軍事戦略に日本を従属させ、沖縄の戦場化を想定するのであり、日本国憲法の基本理念に反するものである。私たちはこのような共同訓練に抗議し、その中止を求める。」との抗議の声を上げた。

 さらに、3月22日(火)には「富士を撃つな!実行委員会」のメンバーで御殿場の自衛隊滝ヶ原駐屯地に出向き、東富士演習場で行われている日米共同訓練の中止を求めて「中国の戦争を想定した日米共同訓練の実施に抗議し、その中止を求める要請書」を提出した。

 日米共同訓練の増加と共に御殿場の東富士演習場での実弾演習は激しくなっている。その実弾演習があるたびに周辺住民は騒音に悩まされている。

 「早朝、寝ていたらドカン、ドカンと大砲のような音で目が覚める。さては自衛隊演習かと東富士演習場のホームページを確認するとやはり演習計画が掲載されていて早朝演習はずっと続くようである。」「静岡県裾野市や御殿場市や小山町あたりの住民は、毎日朝から大きい砲弾の音を聞かされているが。富士市は演習場から富士山を回り込んだ場所にあるのだが、その日の天候によって、快晴の天気や風向きによって砲弾の音が凄いときがある。」と述べている。(富田英司)


 自衛官募集事情にみる若者の強い忌避感

 久しぶりに来られました。びっくりでした。七年ぶりぐらいですかね。

 「自衛隊の募集説明会場ここですか?」と若い男性、スーツ姿で凛々しい感じ。

 実は隣のビルが「自衛隊員募集所」。看板の位置が紛らわしく、よく勘違いした方が「募集所は何階ですか?」と窓口に来たものです。母親付き添いの男性や女性も。かれらはあくまで「就職活動の一環」だとすぐわかります。しかし、しばらく来なくなって忘れかけていたのに。

■ 思えばイラク・南スーダンPKOや集団的自衛権承認やら新安保法成立とつながり・・・。自衛隊希望者のみなさんも「戦争」の匂いを嗅ぎつけてパッタリと途絶していたのでしょう。若者の保守化は事実でしょうが決して反動化したり軍国主義が芽生えているわけではありません。みんな本能的に戦争は嫌いなはず。騒ぐのは老人政治家ばかり。

 安倍晋三ら反動的政治家による「中国脅威」の煽りは、実は自衛隊募集の足を引っ張りますし、ウクライナでの残忍な真実の戦争報道は、今更ながら人間と相いれないことを映し出しています。

■ しかし、自衛隊は日米軍事同盟の強化という政治的流れの中でいよいよ「実戦体制」を作ろうとしています。陸上自衛隊の作戦や部隊運用の原則を定めた教範「野外令」について、日米共同作戦に関する従来の記述「我が国への侵略を排除するため」との文言が2017年の改訂で削除されました。「台湾有事」「東シナ海有事」を想定したものでしょう。

 南西諸島は奄美大島や石垣島などに住民の抵抗のなか自衛隊の前線基地(日・米合同利用)が作られつつあります。「共同通信」にスクープ(去年12月)された日米共同作戦計画によれば「遠征前方基地作戦(EABO)」も含まれます。この作戦は「敵(中国?)」のミサイル射程距離内に入り込み島々に拠点を建設するという、軍人の激しい損害を前提にしなければならないものです。また多数の一般市民(現実には南西諸島の住民)を作戦に巻き込む可能性あります。このような野蛮な戦術をプランニングしたのは米海兵隊ですが、自衛隊が先鋒部隊となると私は想定しています。

■ 凛々しい彼に募集会場を教えました。知らないといえばよかったかもしれません。

 写真は私の選んだ「特選・自衛隊員募集ポスター」アニメ系かなり多いが、死にますかお国のために。殺しますかお国のために?

 ウクライナ戦争が発生したが危機をあおる勢力の下心を冷静に知ろう。反動政治家たちの野心が見え見えです。彼らのお国って何?天皇、 安倍晋三 、岸田 、財務官僚 、財界、誰、だれ、だれ?少なくとも国民ではないね。平和維持の政治と外交の大切さを主張しよう。(あ)案内へ戻る


  大阪 カジノはいらない! カジノの是非は住民投票で決める!

大阪と同じくカジノ誘致を進めてきた和歌山では4月20日、国への申請案を県議会が否決しました。これは当然の判断だ。カジノを推進してきたはずの自民党県議からも反対の声があがっていたように、資金調達の見通しがあまりに不透明で問題だらけだったためです。

 大阪市の松井市長は「大阪はメガバンクが融資を約束してくれている。和歌山とはIRで目指すところも違い、(否決で)大きな影響はない」などと語ったが、大阪には、和歌山と同様、いや、それ以上の問題があります。

 実際、大阪の国への申請案やこの間の吉村知事・松井市長の説明だけでも、大阪のカジノ構想は破綻の危険性が非常に高いと言わざるを得ないデタラメなものだらけだ。ところが、大阪の場合は、府・市ともに維新が仕切っているため議会が問題をスルーして可決してしまいました。

 松井市長と大阪府吉村知事はこれまで「IR、カジノに税金は一切使わない」「公で金を出すものではない」と説明してきたにもかかわらず、大阪市はカジノ建設予定地の夢洲の土壌汚染対策にかかる790億円を全額公金で負担することを決定しました。行政が地盤改良の費用を負担するのは異例中の異例です。

 松井市長や吉村知事が喧伝する年間来訪者数や売り上げなどの「数字の根拠」です。

 大阪のIR整備計画では想定年間来訪者数を2000万人と謳っているが、これは東京ディズニーランドのコロナ前の年間来場者数1800万人を上回るものです。しかも、集客について国は「カジノ以外の国際会議場、イベントで6割くらいは集めてほしい」としています(しんぶん赤旗4月22日付)。

 どう考えても「年間来訪者数2000万人」というのは無謀にも程があるとしか言いようがないのだが、さらに驚くべきことに、大阪のIR担当者にヒアリングをおこなった日本共産党の大門実紀史・参院議員によると、この見積もりの根拠を尋ねたところ、担当者の回答は「事業者が計算したので分からない」というものだったといいます。つまり、事業者側が出してきた数字をそのまま鵜呑みにし、吉村知事や松井市長は「来訪者2000万人」などと言っているだけです。

 さらに問題なのは、大阪府・市が事業者側と結んだ基本協定の中身です。

 府・市がカジノ事業者に選定したのは米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスが合弁で設立した「大阪IR株式会社」で、今年2月に3者は基本協定を締結しました。だが、その基本協定書では「国の認定を受けた後で国内外の観光需要が新型コロナ以前の水準まで回復が見通せないと事業者が見込んだ場合、協定を解除できる」としているのです。

 しかも、「コロナ以前の水準」がどの程度のものなのか、協定書ではその目安は示されていません。つまり、今後、事業者側が採算が見込めないなどと判断すれば、国の認定を受けた後でも撤退を言い出しかねない内容になっているのです。

 実際、MGMは2013年にベトナムで開業直前に撤退した前例があり、さらには3月16日に大阪市議会都市経済委員会に参考人招致された大阪IR株式会社の社長であるオリックスの高橋豊典氏も、撤退について「可能性というのは低いかなと思いますが、あるかなしやというご質問については、あるかもしれません」と述べています。

 基本協定では「投資リターンに著しい悪影響を与える地盤沈下、液状化、土壌汚染、汚泥処分などといった事象の存在が判明した場合」にも言及、大阪市が事業者と協力し「一定の適切な措置を講じること」とされ、その条件が充足されなければ協定は解除できることになっています。

 前述したように、大阪市は土壌汚染対策にかかる790億円の全額を公金負担することを決めたが、この790億円に含まれているのは液状化、土壌汚染、地中障害物の3つに対応したものであり、〈地盤沈下などの費用は含まれていません〉(AERA.dot3月22日付)という。一方、前出の大阪市議会に参考人招致されたMGMのエドワード・バウワーズ氏は「地盤沈下している可能性がある」と言っています。つまり、今後、地盤沈下を事業者側が問題視すれば、さらなる公金負担を要求される可能性があります。

  現在大阪では、「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」が、カジノの賛否を問う住民投票条例の制定を求めて署名活動を行っています。この署名は、大阪府民の50分の1(約15万人)以上必要です。50分の1以上の署名が集まれば、大阪府知事に対して住民投票を実施するための条例案を提出します。大阪府議会でその条例案が審議され、そこで可決されれば住民投票の実施になります。

 署名を集めるためには、受任者にならなくてはなりません。私も受任者になりましたが、なんとか奮闘しています。(一大阪府民)案内へ戻る


  なんでも紹介 DVD 中村敦夫 「線量計が鳴る」
 
 中村敦夫さんのDVD、「線量計が鳴る」を紹介します。中村さんは、朗読劇「線量計が鳴る」を95回続けてこられましたが、コロナ禍でストップしています。中村さんは「朗読劇「線量計が鳴る」も、95回公演でストップし、休演が続く。私自身も高齢化に逆らいつつ、いつ活動再開ができるか定かでありません。多くの気骨ある大人たちが、全国あちこちで原発廃止を訴え、貴重な人生の時間を差し出してきました。その事実を、若い世代に伝えるためにも、このDVDが役に立てば幸いです。これは大人たちのエヴィデンスです」。と語っています。

 DVDの内容を紹介します。原発の町で生れ育ち、原発で働き、原発事故ですべてを奪われた、元・原発技師だった老人の独白が展開されます。これは天命か、それとも陰謀か? 老人は、謎解きの旅に出ます。原発が作られ、日本に入ってきた事情。原発の仕組みや福島事故の実態。さらに、主人公のチェルノブイリ視察体験から被曝による医学上の諸問題と現実に加え、原発を動かしている本当の理由と利権に群がる原子力ムラの相関図までを網羅し、放射線医学界の謎に迫ります。

 2011年3月11日に起きた福島第一原発事故は、戦争に匹敵する大惨事です。この事故があってもいまだに原発をやめようとしない日本。この深い闇に「線量計が鳴る」は迫ります。私は、数年前にこの朗読劇を観ましたが、原発にからむ問題点がわかりやすく語られていました。中村さんは、2018年10月に「朗読劇 線量計が鳴る 元・原発技師のモノローグ」という本を出されました。これも、DVDと合わせて読んでみることをお勧めします。

 原発のない社会を作っていきたいです。(河野)


   コラムの窓・・・避難民は難民にあらずとは、こはいかに!

 あまりに悲惨なウクライナ戦争が、理性的思考を麻痺させてしまってるようです。マスコミがみな同じ方向で報じていることにも、背筋が寒くなります。ウクライナからの「避難民」受け入れを外相の帰国に合わせて行ったことも、いかにもヤッテル感を見せつけるだけの薄っぺらなものに見えます。経済〝大国〟を自任するなら、それこそ万単位の受け入れ態勢を整えるのが筋でしょう。

 さらになんとも日本的なのが、そのショーの陰で陰湿に行われている〝普通〟の難民に対する〝つかまえ、とじこめ、おいだす!〟入管行政の暴力的実務です。例えばそれは、「わが国社会に不安を与える外国人の効率的・効果的な排除」をめざした、法務省入国管理局長の「安全・安心な社会の実現のための取組について(通知)」(2016年4月7日)に示されています。

 さらに同年9月28日には、「被退去強制令書発布者に対する仮放免措置に係る運用と動静監視の徹底について」という通知も出されています。ときあたかも東京五輪に向けた〝治安対策〟という側面もありますが、心身に苦痛を与えて帰国を強要する一貫した入管実務の徹底をめざすものです。

 そうしたなか、去る2月28日に有識者会議が「入管施設における医療体制の強化に関する提言」をまめました。「我々は、本有識者会議立ち上げの契機となった名古屋局におけるスリランカ人被収容者の死亡事案のような事案を二度と起こさせないとの目的を果たすため、必要な方策を真摯に議論した」そうです。

 この手の〝有識者〟は問題の本質をみることなく、当局が求める形式的な対処や悪乗りした結論を出すことになっているようです。この提言も、ウィシュマさんの死をあらかじめ医療体制に問題に矮小化し、当たり障りのない提言を行っています。この点を、「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」は次のように指摘しています。

「(医師との信頼関係が成立しない)こうした入管医療の実態は、被収容者当事者に話を聞けばすぐに明らかになるものだが、有識者会議はそうした労力をとることはせず、信頼関係の成立しがたさを、『困難な対応を伴う被収容者』などと言ってもっぱら被収容者の側に転嫁している」

 ウィシュマさんに対する処遇については、①DVに被害者として保護する、②仮放免を認める、③医療につなげる、点滴を行う、これら全てを拒否して入管職員は死に至らしめたのです。これは、ほぼ殺人ではないでしょうか。参考までに、有識者の名前をあげておきます。

 座長は坂元茂樹・公益財団法人人権教育啓発推進センター理事長・神戸大学名誉教授。委員:大坪由里子三軒茶屋病院院長、木村健二郎東京高輪病院院長、寺崎昭義弁護士、渡辺弘司公益社団法人日本医師会常任理。それぞれ立派な肩書の方々です。

 4月20日の「毎日新聞」によると、「宮城県石巻市の水産加工会社で働いていたベトナム人技能実習生3人が、外国人技能実習制度を監督する『外国人技能実習機構』仙台事務所から労働組合の脱退を促すような対応を受けた問題で、組合は18日、同事務所から『不適切な対応であり、誠に遺憾』との回答があったと明らかにした。組合は引き続き、3人への謝罪や転職支援を求めている」

 仙台けやきユニオンは今後も外国人技能実習機構の問題点を追及し、さらには、この制度そのものの廃止に向けて取り組んでいきたいとしています。実に一事が万事こうしたことで、外国人にとって(日本人にとっても)この国には従属か、さもなくば排除の人間関係しか成立しがたいようです。 (晴)案内へ戻る


  川柳 2022/5  作 石井良司

 ああ無情罪なき民へジェノサイド
 放置した遺体に残る罪と罰
 夢なんかなくても凛と冬木立
 今佳境趣味と知友に生かされる
 独裁の足が平和を踏みつける
 大物を超える予感のパーフェクト
 晩学へ長寿の路が面白い(「学」)
 核のシェアへ学び直せと千羽鶴(「学」)
 敵地攻撃箱からハトが出られない(「手品」)
 軽症へ警鐘鳴らすコロナの死(「駄洒落」)
 好奇心錆びつく脳を研ぎ澄ます(「脳」)
 ボクの凧コロナ退治の厄払い(「夕方の凧揚げ」)
 リタイアの余生は水が合う郷里(「しっくり」)
 三枚に捌いて見える腹の底(「見抜く」)
 値切るのに大阪弁が負けてない(「しぶとい」)
 雇い止めハローワークに並ぶ列(「逆風」)
 プーチンのコピー世界に出る不安(「コピー」)
 イチゴにも一つ一つが違う顔(「ばらばら」)
 好奇心晩学のドア叩かせる(「戸」)
 瀬戸際の地球を救う脱炭素(「戸」)
 傷心の扉を開ける聞き上手(「戸」)
 趣味増えてファイトに満ちる老いの春(「ファイト」)
 雑草が弱音吐く花叱りつけ(「花」)



  色鉛筆・・・「Mさんの夢」

連日ウクライナの被害状況が、生々しい映像とともに報じられている。昨日の生後三ヶ月の乳児の死に、耳を塞ぎたくなる。

かつての日本、そして米国なども今のロシア同様に、他国を侵攻し、破壊し、殺戮を繰り返してきた過去がある。しかし日本も含めた、かつての加害国はその事実に真摯に向き合いそして反省し、謝罪をしただろうか?それどころかいま日本も含め、それらの国の指導者たちが「国際社会の正義」を装い、声高にロシアを非難。あげくの果ての多額の軍事支援、武器の供与とは・・・。わたしには、これはたちの悪い冗談としか思えない。

先日、友人のMさん(七十代、在日二世)と久しぶりに会った。

 彼女の父親は、かつての日本による植民地支配、戦争により朝鮮で農地を奪われ、やむなく北海道の炭坑で働いた。朝鮮人ゆえに、坑内の最も危険な爆破作業の最前線に立たされ、怪我のため片目を失っている。小学生時代の彼女は、朝は父親が義眼を洗う水の音で目が覚めたと話していた。 Mさん自身もこれまでずっと、女性で在日でと二重三重の差別・排除を経験してきたし、それらの理不尽とずっと闘い続けて来られた。時に法務省に、また区役所や子どもの学校などに、たった1人でもめげる事なく交渉し、いくつかは改善させたこともある。物事の問題点をズバリと突く鋭さに、いつも感心させられる。

この日の話題も、犯罪者ではないのに、外国人を犯罪者扱いする日本の入管行政に怒りが治まらない。この国に住む人の人権を踏みにじる、平然と差別・排除がまかり通る。この国は、真に先進国といえるのか?民主主義国家といえるのか?このところ「敵基地攻撃」や「核共有」などのきな臭い言葉が飛び交っている。いざ有事となれば、真っ先に在日や外国人が攻撃されることは、歴史が証明している。

ひとしきり話した後「もし今、思わぬ大金が手に入ったら実現させたい夢は?」という話になった。Mさんは「朝鮮半島の南北境界線に埋め込まれた夥しい地雷を、空中のドローンから取り除ける技術を開発し、そこを安全で友好的な場所に変えること」と語った。 朝鮮戦争以降、この場所は世界一の密集度で地雷が埋められているという。殺戮や破壊のための武器ではなく、それを平和と友好の実現のための道具に変えようと願うMさんの語る夢に、心を打たれた。

戦争はその時だけではなく、その後何十年にもわたり深い傷を残し続ける。戦争は嫌だ。武力で平和が実現できたことなど一度も無いのだから。(澄)

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