ワーカーズ642号(2023/5/1)     案内へ戻る

  国際主義と連帯の力で軍国主義勢力を包囲しよう!
 
 日本の岸田内閣は軍備増強と具体的な戦争準備を進めている。浜田防衛大臣は尖閣諸島を「国防の最前線」と主張、まるで中国の日本侵攻が迫っているかである。政府は「中国の台湾武力侵攻」や北朝鮮ミサイルのことで昨今ますます派手に危機を煽っているが、しかし、それはまさにフェイクである。

 台湾が武力独立に向かう可能性は現時点では存在せず、また、北朝鮮が日本にミサイル攻撃する意味も意図もないのが現実だ。
 
■日本資本主義の現段階と海外軍事進出

 ではなぜ日本政府や自民党の一部が大騒ぎしているのか?それは国民に「中国・北朝鮮の恐怖」を植えつけて日本を再武装しさらに海外でも軍事行動をとれる展開能力の獲得を狙っているからだ。だから専守防衛は放棄された。

 日本はすでに世界有数の海外資産所有国である。海外投資残高は、国内の経済不振を埋め合わせるための所得(第一次所得収支)を国内企業にもたらしている。これは世界のトップだ。また海外純資産は三十年間日本の右に出る国はいない。安倍~岸田政権は、虎の子の日本の海外権益の確保のために海外への軍事展開能力を着々と高めてきた。新興中国は確かにこの点では強力なライバルだが、客観的に見て日本資本にとって中国だけが脅威でもライバルでもない。

■国内の政治反動を警戒せよ

 しかし、日本は米国主導の対中包囲という戦略の中核を担っている。このような状況の中で、日本の軍国主義勢力は国民の恐怖心を煽るばかりではなく、同時に歪んだナショナリズムを振りまき家父長思想や国家統制への回帰に国民を誘導している。中国と北朝鮮をとりわけ敵視し憎しみを煽るのは愚かであり危険だ(フジサンケイ・読売グループなどのマスメディアが加担)。排外意識を背景にして推進される軍拡は戦前の道であり、必ず阻止されなければならない。。

 日本は米・中対立から距離を置き、米国との従属的同盟を破棄し中国に対しても対等な外交政策を取るべきである。この問題に対する冷静で合理的なアプローチが必要だ。すでに述べてきたように、最も無定見で歴から学ぼうとしない危険な勢力は日本国内にいる。彼ら――政府・右翼連合――のウソと野心を暴露し、とりわけアジアの市民と連帯して粘り強く闘おう。(B)

 
  デジタル・コンテンツの大量生産・大量消費時代――AI被害と「資本による労働の包摂」を突破するために


 道具は社会的な三側面を持ちます。有効なテクノロジーとして、および使用における階級性、さらに地球環境負荷と言う側面があり、しっかり点検されるべきです。
 
■「AI被害」の中心は雇用問題

 昨年末以来、人工知能オープンAIChatGPTの利用の爆発的な普及が、「スゴイ」「世の中変わるよ」と喧伝される一方、様々な危惧を呼び起こしています。フェイクの大量製造の問題、個人情報の不当開示さらに著作権問題などです。

 自動車の運行には道路交通法があるように、AI運用にも安全やトラブル回避のルールは当然あるべきで、この面の規制は困難ではないでしょう。すでに情報収集、情報管理、不適切な表現や偽情報の拡散防止、プライバシー保護などの規制の導入をはじめています。
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 むしろ、賃金労働者の「雇用は大丈夫なのか」と言う問題こそ困難です。AIは「仕事の効率化」「生産性向上」として容易に企業に受け入れられます。その結果としての「雇用問題」はAIの運用が呼び起こす階級的被害なのですから止めるのが難しいのです。しかも雇用への影響は何年か経たなければ「実害」として行政は認識しないし、何といっても労働者の声は政治に反映しにくいからです。雇用被害を軽く見せたり論及を避けたりするインチキ「専門家」が目立ちますが、「AI被害」をもろにこうむるのは労働者です。

■労働過程の機械化の歴史に学ぶ

 近代において先端科学技術が呼び起こす雇用問題はこれが初めてではない。フォーディズムは、二十世紀初頭にアメリカ合衆国で発展した大量生産・大量消費のシステムで、電気モーターは、コンベアを制御することで製品の生産性を高めることができ、ベルトラインの流れが生産効率を決めます。労働過程は細分化され単純労働は熟練労働を不要にしました。また製品価格も低下。しかし、米国のケースでは一時は失業が大量に発生したが、新たな産業の興隆により再び吸収された。

 とはいえ問題なのは、労働過程が細分化され単純化されて代替え容易な単純労働となり、労働工程は資本が決定し、賃金は低下し労働の実質的包摂(マルクス)が強化されました。まさに労働者は資本にさらに強く隷属することになりました。

■二十世紀後半のエレクトロニクス革命と中産階級の没落

 フォーディズムの後、二十世紀後半に始まったエレクトロニクスの技術革新は、フォーディズムのベルトラインの傍にロボットが付くようにしました。人間がそれを補佐することになった。

 このような新たな半導体機器の普及や新興国の追い上げで、米国などでは多数の人々が生産的産業からサービス業など他業種へ、つまり一層低賃金へと転落し「中産階級の没落」という先進国の新たな社会問題を形成しました。米国中産階級の所得の中央値は1978年から2010年にかけて48千ドルから34千ドルへと約30%低下した(米国センサス局)とされている。『ワシントン・ポスト』紙の記事「エレクトロニクス技術は中産階級を縮小させた」等、またOECDレポートでも加盟国において中産階級層が減少していることが報告されている。米国の中産階級の没落が「トランプ現象」を支えたことは知られた事実です。
 
■デジタル・コンテンツの大量生産・大量消費を目指すICT革命
 
 二十一世紀のICT(情報通信技術)革命は、携帯電話、スマートフォン、コンピュータ、インターネット、クラウドコンピューティングそして人工知能(AI)など、多様な技術革新によって支えられて拡大しています。

 主たる面としては、すでにネット社会にあふれ出したデジタル・データの処理と活用、そしてデジタル・コンテンツの低コストの大量生産=大量流通と大量消費を促進するものとして特徴づけられます。

 さらに並行しスマホ決済やスマホ金融取引、クレジットの簡便化とあいまって手数料は下落し社会に浸透しています。

 現在、文字であれ、画像であれ、動画であれ、プログラミングデータであれデジタル文化が大量に集積していますが、それを高速で活用しまた新たに生成することが、「商機」「勝機」に結びつくと認識されています。
 
■ICT革命は雇用を棄損する
 
 フォーディズムの影響は主にブルーカラーであった。それに対して二十一世紀に開始されたICT革命はAI機器の普及により、非創造的な現代の多くの知的労働や事務労働、例えば各種中間管理業務、税理士、Webデザイナー、会計士、ジャーナリスト、法務秘書、アニメーションスタッフ、広告代理業務、不動産業、旅行代理店、金融業務さらには医療現場などの先進諸国の多くの労働に代位可能とみられます(オープンAI自身が公開した「大言語モデルで影響を受けそうな職業」を参照)。

 元来これらの仕事は経験や知識や一定の技術が不可欠だが、AI搭載機器は彼らにかわり人間をAIの補助者(単純労働)に追い込む可能性が十分ある。ちょうど百年前にフォーディズムがブルーカラー労働者を代替え容易なベルトコンベアの奴隷にしたように!AI体系は企業にとって飛びつきたい機械で、世界中でDX(Digital Transformation)が叫ばれています。

 あげくに情報通信技術産業自体は大量の雇用を生み出さない(雇用は高度技術者に偏重)。日本では生産労働人口の減少が続いているので、大量失業が発現しなくとも労働の劣化や低賃金層の拡大がさらに進行すると見るべきで警戒が必要でしょう。

■人々のアソシエーションを育てる文化・文明とは何か

 文明の否定面を述べてきたがそこで終わりではありません。昔でいえば文字や識字の普及、最近でいえばインターネットやSNSやAIの普及は、大衆に対しても知的な情報をふんだんに提供し、共通の意志を打ち固めるツールとなります。

 環境負荷の低い自然エネルギー技術は、分散型で人々の水平的連合の土台となる産業に成長する可能性があります。

 また、ブロックチェーン技術(分散型台帳)はオープンで対等性社会にフィットする技術と思います。オープンソースで誰にでも開かれており、誰でもが参加できる。そこから生まれたのが非集中的(非独占的)システムであるDAO(ダオ)だ。ネット上ではあるが、新たな経営運営方式なども提案されている。

 これらの文化・文明は現在の企業や国家の権利の侵害に対峙する民衆運動を底辺で支えていることも見逃せません。

 労働時間の大幅短縮を実現し、直接投票や住民全員参加の社会運営や公文書の改ざん防止を実現するには、不可欠のテクノロジーです。
 
■機械をアソシエーションの道具に転じよ

 注意すべきはこれらの技術進化の上にアソシエーションが必然化するものではないことです。現代の企業社会の下で情報技術革命は、ビックデータを独占するGAFAをはじめ大資本への富の集中をもたらしています。ゆえに道具使用からの階級性のはく奪が大前提となります。そのためには国家の強権や差別や強制からの解放を目指す人々の運動が拡大することが必要です。運動こそがアソシエーションを生み出し、人類が本来的に持つ社会性を復活・強化する。そこでこそ上記の技術が相互的、対等的、分散的連帯の技術革新として本格的に成長するのです。
 (阿部文明)

【「資本のもとへの労働の包摂」は資本の生産過程についてマルクスが論じたもの。ここでは知的労働・事務労働についても拡張して述べた。】案内へ戻る


  2023春闘ーー 賃上げ率3.69%、物価上昇率103.0(3.0%)で何思う

 ●春闘の成果は物価高に追いついただけ。一層の生活改善闘争を

 連合の「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」(4月現在)では、2023年の平均賃上げ率が3.69%と30年ぶりの高さとなったとのこと。この成果は、厚生労働省の春闘賃上げ率で言えば、1994年(3.13%)以来の3%台となることがほぼ確実で、前年(2.20%)からの改善幅は1%を超え、1980年以降では最大となる公算が大きいというものだ。

 総務省が4月21日発表した2022年度平均の全国消費者物価指数(20年=100、変動の大きい生鮮食品を除く)は前年度と比べ3.0%上昇の103.0だった。伸び率は消費増税時を上回り、第2次石油ショックに伴うインフレ(物価上昇)が続いていた1981年度(4.0%)以来、41年ぶりの高水準となった。

 物価上昇率を多少上まわった結果の賃上げ率だが、水を差すようで申し訳ないが、これから出されるであろう中小零細企業での賃上げ回答予想や賃上げに伴う価格転嫁やさらに高騰が予定されている物価高を思うと、喜んではいられないと思う。

 物価高に追いついた結果としての賃上げとみるべきであり、なお一層の生活改善闘争をするべきだ。

 ●春闘の経過ー労働組合主導から官製春闘へ

 春闘は、正式な名称は「春季生活闘争」で、年度末決算から新年度に向けての時期に、主要企業とその労働組合が労働条件をめぐって一斉に交渉することで、主要労組が同時期に交渉することで、経営側に圧力をかける狙いがあり、1955年に「8単産共闘」と称して始まった。

 賃上げにとどまらず、諸手当・労働時間などの労働条件や職場環境改善など色々な要求が出され職場闘争が行われた。

 公務員(当初労働組合の結成が許されなかったし、消防官や警察官は組合が認められていない)の労働組合結成要求やスト権確立の要求も出され、政治的な取り組みと併せて闘われもしましたが、資本=経営者や自民党は「国民奉仕者論」「お客様は神様」等「国民迷惑論」を掲げ、賃上げなどの職場要求と政治的な要求の切り離し工作を行い、こうした闘いの弱体化を図りました。組合側も要求の国民化と称して「国民春闘」路線をとるようになり、ストライキの自粛と総評から連合へかわった。

 産業界では年功序列モデルが崩されて、成果や役割に応じて賃金に差をつける流れが強まり成果主義や能率給の導入が図られ、正社員間でも賃金要求に差をつける「脱一律」の動きが広がり、一律での賃上げ要求の意義は薄れて来ている中で、2014年春季労使交渉(春闘)から政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」が始まり、今日に至っている。

 ●本当の闘いはこれからだ!

 政府や産業界が求める「官製春闘」では、“景気浮揚”政策としての賃上げが叫ばれ、産業界でも“生産性向上”のためには賃上げを容認しています。労働組合の政治的要求をあれほど嫌っていたのに、今では賃上げを政治的課題として取り上げてはいるが、非正規労働者の増加と賃金格差の拡大など労働者全般の生活向上にはなっていないのが現状だ。

 物価高に追いつく程度の賃上げで、その数倍もの利益をあげる“景気浮揚”や“生産性向上”なら、「こんなに美味しい餌や肥やし」としての賃上げはないということか!

 能率給・成果主義の導入の中で個人的には他人より多くの賃金を貰っている人は、賃上げは自分が働いてその成果として貰っていると思い、労働組合などの組織的な成果として思わないかもしれませんが、それ自体、労働者の中に分断を発生させていることだし、能率給の導入を決めたり、人選するのも“生産性向上”に賛成する組織的判断だった。

 働く人・労働者や給与総体としてみれば、多くを貰っている人は選ばれた人であり少人数です。少なく貰っている人の分を回して貰っているから、労働者全体を平均化すれば“生活水準”より少し高い程度すぎない。今日この格差が広がり少なく貰っている人ほど生活水準は下がり、今後物価が高まれば相対的に多くの困窮者が出ることは明らかだ。

 賃金体系が“年功序列”型から“能率給”型に変更したのは、その方が労働者に支払うべき賃金を効率化することができると判断したからで、それにより企業=資本は利益を上げ大儲けをしている。その新しい利益となる商品を生産・販売しているのは働く多くの人々なのだ。

 働く多くの人々が相対的な“生活水準”だったりそれ以下もしくは得ることができない世の中はよい社会とは言えない!政府に生活安定・保障を求め、企業=資本に賃上げと労働条件向上を求めるのは当然の権利である。(光}


  国際通貨=米国ドルの凋落鮮明に グローバルサウス・新興国に脱ドル気運拡大

■実力を超えたドルの支配

2021年時点において、米国のGDPは約22.7兆ドルだ。つまり、米国の経済規模は世界GDPの約26.4%にすぎない。一方、国際通貨としてのドルの比重については、国際決済銀行(BIS)が発表しているデータによれば、2020年6月時点で国際送金においてドルが使用された割合は約43%、国際債券市場においてドル建て債券の割合は約60%、国際為替市場においてドルが使用された割合は約88%。国際通貨基金(IMF)によれば、2021年第2四半期時点の主要通貨における為替準備高(外貨準備高)の割合では米ドル59.5%である。いずれも過大なドルのプレゼンスだ。

 とはいえ、第二次世界大戦後のドルの特権的地位は弱体化に向かっているし、それは加速している。【グラフ参照】

■「ロシア経済制裁」が脱ドルを加速

 この一年でも中東と中国のエネルギー取引や、中国とブラジル間の経済取引が脱ドル化された。ロシアは言うまでもない。

 「ドルは一般に考えられているよりも速いペースで基軸通貨としての地位を失いつつある」(Bloomberg)。米国によるロシア経済制裁は改めて「ドルは第三の兵器」であることを知らしめ、さらに米国の「インフレ対策」としての金利上昇は、グローバルサウスの対外債務状況を一気に悪化させ、グローバルサウスの新興国のドル不信を増幅させた。その脱ドル仕掛け人は中国だと言える。

 脱ドルの流れは大きく分けて3つある。【流れ1】中東との関係において石油を人民元で取引【流れ2】ASEAN域内での自国通貨取引アジア通貨基金【流れ3】BRICS諸国内での共通通貨構想(遠藤誉氏による)。

 しかし、脱ドルあるいはドル不信はEUですら広がっている。

■国際通貨ドルこそが米国の経済力を支えてきた

 2022年4月時点での米国の経常収支の累積赤字残高は、推定約20兆ドルもある(日本や中国等が米国債などを購入することでドルがある程度国内還流している)。米国はこの現状を維持しようとしている。「世界通貨」ドルは他国に対する経済支配や政治支配には好都合だから。

 ドルの垂れ流しは特異な現象なのだ。米国以外の国であれば、海外から稼いだ外貨(金とかドル)を積み上げておいて貿易等で支払い手段として使用する。だから貿易赤字にはおのずからその限界がある。しかし、米国は貿易などに「外貨準備」を心配せずにドルを増刷することができ(インフレや金利などの国内的限界は当然ある)、経常収支や国際収支が赤字であっても諸外国の資源や機材、科学技術を導入できる。これこそが基軸通貨国ドルの戦後の特権である。

 経常収支の累積赤字残高が20兆ドルになっても平気なのだ。米国はこの都合の良い現状を利用して、世界から消費財を輸入し、原料を調達し、最新技術や高度人材を集めて米国内で革新的な産業の育成を実現し、この三十年間先進諸国では最も高成長を実現できたのだ。
 
■「金」の比重が高まる

 ドルはすでに述べたように「第三の兵器」として警戒され、または基軸通貨特権に胡坐をかいて巨額の債務を顧みない米国への不信となった。そもそも、米国の国民通貨ドルが、過大すぎるくらいの支配力を持ちすぎ、世界の富を吸い上げてきたのだ。

 米国の国内経済に左右されてドルの価値が大きく変動することがあり、特に2008年の金融危機以降、多くの国々がドルに対する不信感を抱くようになった。ゆえに米国の国力の相対的低下ともあいまって、インフレーションやウクライナへのロシア侵攻など地政学的なリスクに対する保険として、中央銀行が安全な避難先として金を購入する機会が増大した。
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 「中央銀行による金買い意欲が近年強まっているが、2022年、中央銀行の金保有高は、過去最高水準の1,135.7トン増加した。年間の純増量が1,000トンを超えたのは、記録をさかのぼれる1950年以降、初めて」(note「中央銀行によるGOLD買い」)。

 購入者は中国、インド、ロシア、トルコなど米国から距離を取る新興国政府が目立つ。意図は別として脱ドルの客観的指標となっている。金保有量としては米国をはじめ独、仏、伊、露、中の順位となるが、低位の日本が金の買い増しに動くという情報は無い。ドル体制と心中する気なのか?(阿部文明) 案内へ戻る


  読書室   白井聡氏著『国体論 菊と星条旗』集英社新書 二〇一八年四月刊

〇 本書は「国体」の言葉・概念を基軸として、明治維新から現在に至るまでの近現代日本史を把握したものである。この「国体」の視点を通して日本の現実を見つめなければ、我々は一歩たりとも前へと進むことはできない。これが白井氏の宣言である。確かに敗戦により「国体」は表面的には廃絶されたにもかかわらず、実はアメリカにより再編された形で生き残った。そして今、アメリカの媒介によって「国体」が再編され維持されたことの重大極まる帰結を我々は目撃している、と白井氏は私たちに問題提起しているのである 〇

 『永続敗戦論』により鮮烈な論壇デビューを果たした白井氏は、「戦後日本の対米従属の問題は、天皇制の問題として、≪国体≫の概念を用いて分析しなければ解けない」との考えを懐いていた。それをどのように世に問うかを考えている時、今上天皇の「お言葉」がテレビにて伝えられた。それはまさに憲法改正発議が可能になったからだったのである。

 この「お言葉」の文脈と内容は、戦後民主主義の秩序を崩壊の淵から救い出すことにあった、と白井氏は推測した。そこに今上天皇が戦後民主主義の秩序を守るためにはこのリスクを冒さざるを得ないとのギリギリの判断があったに違いない、と白井氏は感じた。

 この天皇の決断に対して、安倍政権は直ちに報復人事で応えた。宮内庁長官は退任し、警察官僚が宮内庁次長に送り込まれ、「天皇の公務負担軽減等に関する有識者会議」のヒアリング対象者に日本会議のメンバーが選ばれて、天皇シフトは強められていった。

 その後、平成天皇は異例の生前退位を決行したのだが、このことは戦後レジームを打ち壊そうとする安倍政権と戦後レジームを守ろうとする天皇家の闘いだったのである。

 このように「戦前の国体」が自滅したように、「戦後の国体」も動揺している。「戦後の国体」はポツダム宣言受諾の中で占領期に成立した、主権を放棄した「アメリカの日本」という対米従属国家として存在し、「天皇制の存続」と「戦争の放棄」とは相互補完関係にあった。一方の昭和天皇にはアメリカに対して大元帥の地位を去ること、軍備すら放棄する姿勢を示す必要についての透徹した認識があった。他方のマッカーサーには占領を円滑に進めるために天皇を利用したいとの思惑があった。何回か退位を考えた昭和天皇が結局退位をしなかったのは、アメリカの意思であった。それが平和主義者である昭和天皇に戦争責任は一切ない」との物語である。つまり日米合同でこの物語が作られたのである。

 こうして「戦後の国体」は菊と星条旗の合体として成立していったのだが、ソ連崩壊後にアメリカが一強の帝国主義国になっていく過程で「平和国家日本」は変貌を遂げなければならない局面に追い込まれてゆく。平成天皇と安倍政権の闘いは前述したが、集団的自衛権の行使容認以降の菅・岸田政権の前のめりは驚くほどのスピードで進行している。

 とくにロシアのウクライナ侵攻による欧米の対応に加わる意思を明確にした岸田政権の大軍拡主義は、戦後レジームを崩壊させる動きそのものである。かくして台湾有事が語られ、敵基地攻撃能力を持つようになるべきだとの声が日に日に大きくなっている。

 こうした戦後日本の転換点に立つ私たちが、「戦後の国体」を認識するために是非一読する価値のある本として、強くお薦めしたい。(直木)


  遅塚忠躬著『フランス革命・歴史における劇薬』を読んで

●革命の偉大と悲惨

 フランス革命の「悲惨」を象徴するのが、ロベスピエール率いるジャコバン派の「独裁」と「恐怖政治」であろう。

 実際、フランスで一九八九年に「フランス革命二百年を記念」するイベントが企画された時、フランス国民の多くが反対したため、イベントは「人権宣言を記念」するという趣旨に変更を余儀なくされたという。

 では、フランス革命の「偉大さ」を象徴する「人権宣言」の理想と「悲惨さ」を象徴する「ジャコバン独裁」の恐怖政治との関係をどう解釈すべきなのか?未だにフランス国民の間でも、従って世界の歴史研究者の間でも決着のついていない難問に挑戦したのが、遅塚忠躬(ちづかただみ)の『フランス革命・歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書)である。

●革命二分説の矛盾

 この問題に対するフランス国民のオーソドックスな受け止め方は、革命を前半と後半に分けて、前半は憲法制定議会で人権宣言を発した「誇り高い」歴史、後半は独裁と恐怖政治に「道を踏み外し」た歴史、という「革命二分説」が主流であるらしい。国民感情としては自然なことかもしれない。

 ところが、革命の歴史をよく見ると、その人権宣言の具体的内容が政策として実現したのは、後半の時期であり、そのことを「二分説」では説明できないという矛盾が生じる。

●革命ブロック説

 このことから、人権宣言と恐怖政治は表裏一体であったとする「革命ブロック説」が、フランスの研究者の間では「正統派」とされているという。

 ジャコバン派の独裁の性格については、マルクス、エンゲルス、レーニン等が階級闘争、党派抗争の観点から論評しており、戦後フランスのマルクス主義史学界においても研究や論争が続いている。

 遅塚忠躬も、この「革命ブロック説」をさらに進めて、フランス革命は社会変革に伴う「劇薬」であった、という仮説を提起している。

●貴族・ブルジョア・民衆

 この問題を理解するには、当時の革命を推進する勢力として、自由主義的貴族、ブルジョアジー、都市民衆と農民が、お互いにせめぎあう関係にあったことを踏まえる必要がある。いわゆる「複合革命論」(ジョルジュ・ルフェーブル等)の立場である。

 ブルジョアジーは、イギリスと比べて十分に成長しておらず、単独で革命を推進する力がなく、自由主義的貴族と同盟するか、都市民衆及び農民と同盟するか、常に選択を迫られる板挟みの立場にあった。

●山岳派とジロンド派

 ブルジョアジーは当初、自由主義的貴族と同盟して王権を制限する「立憲君主制」をめざした。

 ところが反動的貴族が地方で反革命的反乱を起こし、オーストリアやプロイセンが軍事的に攻撃してくる事態に直面すると、革命政府は都市民衆・農民との同盟に舵を切る必要に迫られた。

 ここから、パンの価格統制や農民の土地取得を掲げた大衆行動(整然たる恣意行動だけでなく暴動や虐殺を含む)を「正義」と認めて革命の徹底化を目指す山岳派(ジャコバン派)が、これに消極的なジロンド派(ブルジョア的権利を重視)を「エゴイスト」と攻撃する党派的抗争が激化し「恐怖政治」が猛威を振るい、やがてジャコバン派自体が孤立し「テルミドール」(ロベスピエール等の処刑)に至るのである。

●避けられなかったか?

 この一連の歴史を遅塚忠躬は「劇薬」と評価する。ところで、どうしても残るのは、この「劇薬」は避けられなかったのか?という問いであろう。

 山岳派の指導者の中にマラーという人物がいたが、不幸にも貴族に暗殺された。マラーの妹は「もしも私の兄が生きていたら、ダントンやデムランのような人びとがギロチンにかけられることはなかったでしょう」と言った。

 遅塚は「たしかに、もしマラーの暗殺という偶然の事件がなかったら、恐怖政治はあれほどひどくならなかったかもしれません。」と言及しつつも、革命をめぐるフランス特有の社会的背景を見るなら、何らかの形での「劇薬」は避けられなかっただろう、と述べている。

●市民革命と暴力

 たしかに、二百年前の「劇薬」の渦中で偉大な「理想」を掲げ続けた都市民衆や農民や急進的ブルジョアジーの「魂の叫び」に「共感」することは大切なことではある。

 しかしその「劇薬」の中には、懸命なリーダーのもとで整然たる行動をしていた民衆が、偏狭な扇動者に煽られて、暴動や虐殺に走ったこと、それが恐怖政治の引き金につながったことも忘れてはならない。

 従って「革命劇薬説」を安易に一般化し「市民革命に暴動は付き物」と解釈して良いということを意味しない。(とりわけウクライナの「マイダン革命」の冷静な評価が求められるような今日では、なおのことである。)

 「熟議民主主義」や「ミュニシパリズム」が議論される今日の地点で、改めてあの「劇薬」は「避けられなかったのか?」と問い続けることもまた大切な思想的営為ではないだろうか?(夏彦)案内へ戻る


  何でも紹介 本 「維新断罪]中小企業社長が喝破する、大阪の沈みゆく理由と再生私論 著者 坂本篤紀発行 せせらぎ出版 定価1320円

 著者は、坂本篤紀(さかもとあつのり)さん。1965年生まれで、理学療法士としての勤務や自動車関連の事業を自営したのち、1987年に日本城タクシー株式会社に就職し、2013年に同社の代表取締役に。コロナ禍で業績不振になった時は、自社所有の観光バスを3台売却して社員の雇用を守りました。

 よく大阪維新の会は、「大阪の成長を止めるな!」と言いますが、それはまったくのウソです。大阪は、全国の経済成長率を下回っています。その維新政治と闘ってきたのが坂本さんです。

 坂本さんの本を紹介していきます。

 坂本さんは、テレビ番組で橋下徹さんとバトルになったことがあります。2021年でしたが、坂本さんは「橋下さんがPCR検査をしたらあかんって言うんやね。今でこそ標準になったけれど、PCR検査をして、陰性の人が外にでて経済をまわして、陽性の人の分をカバーしたらええだけの話なんや」。

 同じテレビ番組で坂本さんは、吉村大阪府知事について、「コロナ禍のときはタレント並みにテレビ出演して、頑張っている姿を懸命にアピールする一方で、おばあちゃんにコロナ禍やから病院行くのは控えてな、手術は待ってなってお願いする。せやけどその吉村知事の胸に『EXPO2025』ってマークが貼ってある。おかしいよね。辻褄があわん」。坂本さんは、みんな困っているのに万博なんかに金を使うなと言いたいのです。

 坂本さんは、自社のタクシーにヘイトスピーチ反対のステッカーを貼っています。「ヘイトスピーチを許さないというのは人間として当たり前のこと。ヘイトスピーチを繰り返して誰かがしあわせになるはずがないやん。一方で大阪維新の会の根底にあるのは自己責任なんですよ。ヘイトスピーチされている弱い立場の側になんの責任もないのに、大阪維新の会の言い分でいくと・・・・」、「普通に考えるとおかしいことやのに、そんな単純なことをみんながわからんようになってきているんですよ。長谷川なんとか(長谷川豊 注 筆者)という元アナウンサーが透析を受けなければいけない人は自業自得やから、それに医療費を使うのは無駄で、医療費を食い荒らすってとんでもないことを言い出すわけよ」。ホンマに維新は、ひどいですね。

 坂本さんは維新の公務員バッシングについて、「公務員以外の民間の給料が安くなりすぎたんや。だから公務員の給料が高く見えるだけの話。そのシンプルな現状に気づかずにマスコミに踊らされて、みんな公務員は楽して高給をもらっていると思うんやね」。「昔の労働者は必死で給料を上げる努力をしていたよ。国鉄の職員がストライキして給料を上げてくれって頑張るから上がった。民間も上げてくれたわけや。最近、ストライキなんてどこもしいひんからね」。「給料を上げるために闘うのは労働者の権利なんよ。それをしなくなってしまった。その結果、安く人を働かそうとする世の中になってしまった。そんな世の中が自由主義の正体や」。

 かつて国営だった国鉄→JRや郵便局の民営化について坂本さんは、「JRは利益を求めるあまり、採算のとれへん路線はどんどん本数を減らしたり、廃線にしていった。鉄道は人間で言えば血管みないなもんや。血が通わんようになった細胞は死んでいく。路線がなくなった地方はますますさびれていってるやん」、「郵便局もそうや。昔のおじいちゃん、おばあちゃんのことを考えてかんぽ生命保険を勧めていた。???ところが民営化されてからはどうなった?ノルマが課せられて、それをクリアするためにおじいちゃんやおばあちゃんを騙してまで販売するようになった。めちゃくちゃやん。それもこれも規制緩和して民営化したからや」。坂本さん、今の現状を明快に語っています。何とかしないと。

 大阪維新のコロナ対策について、「大阪のコロナ対策は酷いもんやった。死者数の累計は、人口の多い東京より多いんやで」、「保健師の数が異常に少ないからなんや。・・・・元々少ない保健師が電話対応とか本来の業務外のことをやっているわけよ。公務員を切りまくったそのツケがコロナの死亡率となってはっきりでてきているんや」。

 夢洲カジノについても坂本さんは、土壌汚染や多額の公金を使うこと、自己破産する人たちが増える、大阪IR株式会社に名を連ねている維新のお友だち企業がもうかる、など多岐にわたって述べています。

 坂本さんは本の最後に、「調子のええ言葉に惑わされず、何がおかしくて、何が正しいか、もう一度考えようや」と述べています。

 今の現状にくさびを打つ発言をされている坂本さん。いいですね。(河野)


  「沖縄通信」  三上智恵監督の新作『沖縄、再び戦場いくさばへ』スピンオフ作品の紹介

 1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約と日米安保条約が発効してから71年になる。日本は条約発効で独立を果たしたものの、沖縄は日本から切り離されて米施政権下におかれ、日本国憲法が適用されず、人権が蹂躙され、過重な基地負担など現在の沖縄差別の源流となっている。

 政府は昨年12月16日に安保関連3文書を閣議決定した。専守防衛をかなぐり捨てる安保政策の大転換である。3文書には南西諸島を戦争の最前線にする方針が盛り込まれている。

 ★那覇市が拠点の陸自第15旅団を規模の大きい師団への格上げ。★うるま市への12式地対艦ミサイル部隊の配備。★沖縄市への弾薬庫建設。★宮古島の下地島空港(民間空港)の自衛隊基地化。★与那国島への電子戦部隊と地対空ミサイル部隊の配備。★石垣島への4月からの12式地対空ミサイル部隊の配備強行。★沖縄を戦場化を想定しての医療拠点として那覇市の自衛隊病院の増改築。等、南西諸島への軍事強化が進んでいる。

 こうした状況下、沖縄の皆さんは保守・革新の枠を超えて「沖縄を再び戦場にさせない!」との一致点で県民の総結集にむけての闘いも始まっている。

 今回、皆さんに紹介するのは三上智恵監督の新作品「沖縄、再び戦場いくさばへ」である。この作品制作の思いを三上智恵監督は次のように述べている。(富田 英司)

 『昨年末の安保三文書で明らかになったのは、日本が敵基地攻撃や先制攻撃も可能な軍事国家になったことだけではありません。日米政府の言う抑止力とは「南西諸島にミサイルを並べ、最悪の場合報復攻撃の戦場になるもやむなし」という南西諸島の犠牲を覚悟したものであるという本音も暴露されました。戦場になると名指しされたも同然の島々では、これから基地の地下化、シェルター設置、ミサイル避難訓練、弾薬庫大増設、小さな離島を含む空港と港湾の軍事化が急ピッチで進みます。いま制作中の新作映画は、平和を求めて戦う沖縄の最前線を描いた2017年の『標的の島 風かたか』の続編にあたります。2017年~2023年の戦争に向かって突き進む怒涛の日々が描かれることになりますが、しかし映画館での公開は早くても2024年春以降になり、その時、沖縄が予断を許さない状況になっていることすら考えねばならないと危惧しています。

 映画の完成を待つこの期間にも、刻々と変わっていく状況を共有するため、この度45分程のスピンオフ映像を希望者に無償で提供し、危機感を共有していただきたいと思うに至りました。みんなで見ようよ!と声を掛けられる仲間と、5人でも10人でもいいので「見る会」を開催していただきたいのです。そして戦争に向かうこの国の流れを止める小さな単位が各地に生まれ、この動画を見たことで「見ざる・聞かざる・言わざるになるものか!」と決意した人たちが、既成の政党や運動にとらわれず、同じ危機感を持つ人たちと集まりなおすきっかけになれば、こんなにうれしいことはありません。映画が完成するまでの間に、全国に同時多発的に沖縄の現状を見てこの国を憂い動き出す人々がどんどん誕生していくと思うだけでもワクワクします。そして、ワンコインでもいいので新作の製作費カンパと共にDVDを返却していただければ、私たちもさらに励みになります。

 野党や労働組合の弱体化、運動の高齢化など嘆いていても始まらない。私にとっては、過去の私の作品を見てくださり、沖縄を気にかけていてくれる方々だけがはっきりと目に見えている希望なんです。その方々は必ず南西諸島の現状をその目で見て受け止め、SOSに耳を傾け、そして発言・行動につなげる力のある人たちだと信じられるからです。

なので、今回はあえて素材を無造作に並べ、わかりやすくするための説明や演出は極力つけませんでした。あくまで撮影に走っている中からこぼれてくる「野菜の乱切り」の形で提供します。それを一足先にお渡しするので、皿もそちらで用意し、来ている方々が食べられるような盛り付けと味付けは映像を受け取った主催者のオリジナルでやってほしいのです。主催する方の多くは辺野古で座った経験があったり、深く沖縄問題に関心を持ってきた方々だと思いますので、一緒に見る人たちに添えるべき情報を判断し、来てくれた方々に必要な補足をしていただけると思います。実はそこがミソだと思っています。

 観客として見るのではなく、私たちが必死に渡す情報を受け取って、皆さんも必死に地域に発信するサテライトになってほしい、平和を作る力のある人たちを揺り起こすツールにしてほしい、平和分子の核分裂が起きる時の核になる人たちにこの素材をお渡ししたいと思い、その願いを込めて、編集しました。どうぞ存分に活用してください。そして新作映画が完成した暁には、是非この動画を共有してくださった皆さんと共に劇場にお越しください。』案内へ戻る


  維新が大きく議席を伸ばした統一地方選挙 大阪府知事選、大阪市長選、大阪府議選、大阪市議選の結果  でもこれにめげずに今後も奮闘する!

大阪府知事・大阪市長のダブル選は4月9日、投開票され知事選では大阪維新の会代表で現職の吉村洋文氏(47)が再選を、市長選では維新幹事長で元府議の横山英幸氏(41)が初当選をしました。

 大阪で11年半近くにわたる維新政治の評価や、カジノ誘致の是非が争点となりましたが、維新が勝ってしまいました。

 橋下徹氏らと党を結成した松井一郎・前大阪市長(4月6日で退任)が政界を引退し、「ポスト松井」の市長候補は、一般党員らの投票による予備選で横山氏に決定しました。党外では無名に近い横山氏でしたが、新型コロナウイルス対応で全国でも有名になった吉村氏や松井氏と選挙活動をともにし、支持を広げました。

 夢洲(ゆめしま)で府市が誘致を進めるカジノを巡っては、予定地で土壌汚染が判明したほか地盤沈下の恐れもあり、カジノ開業によりギャンブル依存症が深刻化するとの懸念も強いです。それにも関わらず国は、4月14日カジノについて認定しました。

 維新に対抗する政治団体「アップデートおおさか」が擁立し、自民党や立憲民主党が自主支援した知事候補で法学者の谷口真由美氏、市長候補で自民元市議の北野妙子氏(選挙時は離党)は敗れました。カジノ誘致について反対を訴え、その是非は住民投票で決めるべきだと呼び掛けましたが、力及ばずでした。やはり候補者は、最低でも半年前には決めて街宣や集会、学習会などを活発にするべきです。

 維新がやってきたことと言えば、保健師を減らしコロナでの死者が日本一にしたり、カジノ=博打を推進しょうとしたり、住民サービスは切り捨てるが吉本興業やパソナなどには税金を使って仕事を回したり、大阪市立高校を大阪府に無償譲渡して大阪府立高校にしたり(統廃合して不動産を売却しようとたくらんでいる)しています。もういい加減維新府政・市政を終わらせたいです。維新府政がひどすぎるので、大阪の自民党はまだましです。大阪自民は、大阪市廃止・分割=トコーソーに反対しましたし、カジノについては住民投票で決めるという考え方です。

 知事選の投票率は46.98%と低かったです。得票数は、維新の吉村洋文氏2439444票、谷口真由美氏437972票と200万票もの大差がつきました。元参議院議員で共産党推薦の辰巳孝太郎氏は263355票でした。

 大阪市長選は、投票率は48.33%とこれまた低かったです。維新の横山英幸氏は655802票、北野妙子氏は268227票とこれまた大差がつきました。

 大阪府議選、大阪市議選は4月10日全議席が確定し、大阪維新の会がそれぞれ過半数を獲得しました。市議会で過半数を占めるのは初めてです。府知事選、市長選と合わせた4つの選挙で「完全制覇」を達成しました。日本維新の会としては、公認候補が奈良県知事選で首長として大阪府外初の当選を果たしました。

 今回から定員が9人減って79人となった大阪府議会議員選挙は、大阪維新の会が選挙前より9議席多い55議席で、過半数を維持しました。自民党は、7議席で選挙前より9議席も減りました。公明党は擁立した候補が全員当選しましたが、前回より1議席減らし14議席でした。共産党は選挙前より1つ減って1議席でした。立憲民主党は選挙前と同じ1議席でした。無所属は1議席でした。

 今回から定員が2人減って81人となった大阪市議会議員選挙は、大阪維新の会が選挙前より6議席多い46議席で、大阪市議会では初めて過半数を獲得しました。公明党は選挙前と同じ18議席でした。自民党は選挙前より3議席少ない11議席でした。共産党は選挙前より2つ減って2議席でした。無所属は4議席でした。

 維新府政を終わらせるためには、その問題点を一つひとつ取り上げ声を上げていくしかありません。まずは、カジノ=博打をやらせないよう頑張ります。 (河野)


  なぜ統一選前半戦で共産党は全国的に退潮したのか

 統一地方選前半の全国41道府県議選においては共産党の退潮が目を引いた。特に日本維新の会が躍進した関西2府4県において、この傾向が顕著だった。何と改選前の計31議席から16議席とほぼ半減。兵庫県内でも5議席から2議席に、1967年以降で過去最少タイとなった。自業自得ながら統一地方選後半の闘いも苦しいものとなるだろう。

 全国の動きを再確認すると、41道府県議選での獲得議席は改選前99議席を24下回る75議席に。22県では勢力を維持したが、19道府県では1~3議席を失った。拠点である京都府は12議席から9議席になって第2会派に後退し、5県(新潟、福井、静岡、福岡、熊本県)では党の議席がゼロとなった。まさに共産党は全国で退潮したのである。

 2015年以来、志位執行部が進めていた〝統一戦線〟戦略としての「野党共闘」は完全に行き詰まり、国政選挙でも惨敗続き。このように党勢は凋落の一途をたどっている。

 さて問題はなぜ共産党は退潮したのかである。共産党は認めてはいないものの、統一選前半の告示直前に、党首公選制導入を主張の党員2人を分派活動を理由に直ちに除名処分した。まさに共産党の持つスターリン主義体質をこれほど赤裸々に示したものはないだろう。多くの有権者にとって、共産党に対する大きな幻滅となったことは想像に難くない。

 党執行部に刷新を求めた松竹氏や鈴木氏を分派行為として除名した京都では、有権者の党への不信感を増大させ、府・市議会選挙で敗北したとは既に述べた。共産党の牙城だった京都で党組織を支えてきた彼らのような永年党員を切り捨てたのだから当然である。

 故に京都府議会ではベテランの現職が相次ぎ落選し、12議席から9議席へとなった。京都府議会で共産党の議席数が1ケタになるのは1967年以来、実に56年ぶりだ。

 党執行部への批判を一切許さず、それでも批判してくる者には、露骨な分派認定。朝日新聞や毎日新聞等での論評にさえ「大軍拡」を推し進める反共攻撃と決めつける。多くの有権者は、共産党が現在 政権の一翼を担っていない事実に改めてほっとしたに違いない。

 有権者と日常的に関わる現場で活動する共産党員の悩みは深い。まさに彼ら自身が、今こそ党内民主化の狼煙を活動現場から上げてゆくしかないのではないだろうか。(直木)案内へ戻る


  川柳(2023/5) 作 石井良司(かっこ内は課題句)

 薬までマイナンバーに握られる
 2類から5類へほっと白衣の手
 苛立ちも小分けにすれば楽になる
 温暖化早い開花に喜べぬ
 独裁者ナンバーツーを認めない(「数」)
 十年も学んだ英語通じない(「数」)
 英女王天も弔意の二重虹(「天」)
 核ボタン三度押すなと千羽鶴(「危険」)
 長年の学校英語話せない(「惜しい」)
 詰め襟に無念が滲む無言館(「制服」)
 信念を曲げない眉が風を切る(「きりり」)
 語り部の涙に過る大津波(「引き締まる」)
 血税が湯水に化ける防衛費(「湯」)
 爆弾の雨降り注ぐウクライナ(「真っ最中」)
 核使用すれば無人の星になる(「星」)
 この星に八十億の夢の数(「星」)
 小吉のような余生で丁度よい(「占う」)
 罪なき死増えプーチンに腹が立ち(「立」)


  コラムの窓・・・なくしたい、国籍の壁!

 この国には、「ワタシタチハニンゲンダ」と声をあげなければ生きていけない人々が少なからず存在します。今国会で入管法改悪が再び強行されようとしていますが、その狙いは声をあげるほかない人々をさらに窮地に落ちいらせるものです。なので修正案とかではなく、必ず廃案にしなければならにものです。

 差し当たって、3000人余とされる「送還忌避者」を一刻もはやく国外追放(強制送還)することを目的としていますが、さらに入管の権限を強化しようとするものです。身体を拘束して自由を奪い、死者が出るようなずさんな管理を平然と行うことができるのは、裁判所の判断を受けることなく入管(所長や職員)の自由裁量がまかり通ってきたからです。

 この間、孤立出産で死産となった双子を〝遺棄〟したと地裁・高裁で有罪とされたベトナム人技能実習生が最高裁でようやく無罪の判決を勝ち取りました。判決は「死体遺棄罪の成立を認めた高裁判決、一審熊本地裁判決は破棄しなければ著しく正義に反し、無罪を言い渡すべきだ。」と判断。この真っ当な判決にたどり着くまでに1年5ヶ月余、彼女は保護されるべきだったのに犯罪者とされてきたのです。

 さらに同性愛者への迫害を理由に来日したウガンダ国籍の女性の場合、難民認定が認められなかったので提訴、大阪地裁で難民認定するように国に命じた判決を勝ち取りました。国が控訴しなかったのでこの判決は確定し、4月19日に大阪入管から難民認定を受けました。

 この判決確定後の3月24日、出入国在留管理庁は「難民該当性判断の手引」を公表し、同性愛など性的マイノリティーを理由とする迫害も難民認定の対象となるとの判断基準を示しました。そんな基準があるならさっさと難民認定すればいいものを、入管の排除の姿勢が妨げとなっているのです。

 ちなみに、認定書の受け渡しの際、入管職員が「おめでとうございます」と言ったそうです。その言葉がウソでないならいいのですが、残念ながら入管という暴力官庁に染みついている「外国人は犯罪者予備軍」という偏見はなくなることはないでしょう。人権に関する国際基準、国際的批判を無視して恥じないこの国に人権は存在しないのです。

 また、名古屋地裁がスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管内で死に至る5時間分の監視映像を法廷で公開することを決定し、4月6日には国賠訴訟弁護団が7分間の映像を公開しました。私はその一部を見ましたが、そこには入管の正体があますことなく映し出されていました。

 この映像公開に対して入管が反発し、斎藤健法相は「国が証拠提出し、これから裁判所で取り調べる映像の一部を原告が勝手に編集し、提供した」と不快感を示したとか。しかし、300時間弱の監視映像の5時間だけを、裁判所に促されてしぶしぶ提出したものです。真相隠蔽をしている張本人が、悪事をばらされて泣き言を言っているのです。

 さて、国は入管による外国人処遇は改正によってよくなる、技能実習制度も廃止して新制度を創設するなどと印象操作に懸命ですが、騙されてはいけません。ハンセン病患者の強制隔離、優生保護法による強制不妊手術、精神病患者の強制入院、これらの人権無視が社会的な雰囲気となり、この国には差別と偏見が充満しています。国境という罠に張られた国籍という壁を超え、その先に何かを見つけたいものです。 (晴)


  色鉛筆・・・「袴田さんの裁判に関わる私のひとりごと」

 3月の東京高裁の再審開始決定を経て、4月10日静岡地裁で再審の進行を決める初の三者協議(裁判所・検察・弁護団)が開かれた。即日結審を要望する弁護団に対し検察は「方針を決めるのに3ヶ月ほしい」として立証方針を示さなかった。この日のやり取りの中で、確定記録が静岡地検ではなく上級庁にあることも判明したという。同席した姉のひで子さんが「検察官は下ばかり見ているのが印象的だった。何を考えているのかわからなかった。」と発言したのもうなずける。

 今までも検察はこうした引き延ばしを幾たびも主張し押し通してきた。思い返せば、高裁審理で検察は1年2ヶ月もかけ衣類の味噌漬け実験(これが初めてでは無い)を行い、血痕の赤味を残すため容器に脱酸素剤を入れたり等、涙ぐましい努力をしたにもかかわらず赤味は残らず敗北したのだ。今更何のために3ヶ月ほしいなどと言えるのか。高裁で指摘された証拠捏造を素直に認めるわけにはいかないのか、この上まだ有罪立証しようというのか。検察はどこまで先延ばしするつもりなのか腹が立って仕方が無い。

 ドイツでは再審開始が一度出ればすぐに開始される。検察側の不服申し立ては法律で禁じられ、反論は再審公判で行うことになっている。

 2014年3月、もうすでに9年も前に静岡地裁(村山浩昭裁判長)で再審開始決定が出されている。このとき同時に死刑・拘置の執行の停止も認められ、巌さんは30歳から78歳までの獄中での暮らしから48年ぶりに釈放された、画期的な決定だった。ところがなぜか最近まで静岡地裁のウエブサイトにこの決定が掲載されていなかった。この地裁決定を取り消した18年の東京高裁決定と、審理不尽の違法があるとして高裁に差し戻した20年の最高裁決定は裁判所のウエブサイトに載っている。

 おととしから支援者らが静岡地裁に対し村山決定を載せるよう求めてきたが、「掲載できない」との回答しかなく、その根拠を求めた公文書は黒塗りだったり、最高裁にたらい回しされても一向にらちがあかなかったものが、この4月11日静岡地裁はようやく重い腰を上げ全文を公開した。市民や司法を目指す人々にとっても学ぶことの多い重要な再審決定文だ。良かった良かった。

 木谷明氏(元裁判官・弁護士)は裁判官時代に30件以上の完全無欠の無罪判決を出した。日本の99%以上が検察の有罪主張が通る中では異例のことだ。講演の中で「私は裁判官時代、絶対に冤罪を生まない裁判を目指してやってきた。これこそ刑事裁判の正しいあり方だと信じ、被告人の言い分にはできる限り耳を傾け(略)争いのある点については、徹底的に事実審理を尽くす。最終的には「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従って裁判をする。私の実績についてよく、30件以上の無罪判決を確定させたと紹介されます。それは結果で、今述べたような考え方で裁判していけば、ごく当たり前の事なんです。」続けて、他の裁判官も同じだとばかり思っていたと述べている。木谷明氏は、神では無い人間が裁く以上必ず冤罪は生まれると断言する。ならば再審法を改正して、冤罪被害者を生まないように、生んだとしても速やかに救済できるようにと今も先頭に立ち闘っておられる。

 免田栄氏は著書「死刑囚の手記」で犯人とされて以降無実を訴え続けた34年間、80人近くの裁判官と接し、訴えを取り上げてくれたのはたった2人だったと述べている。

 戦後78年間一度も改正されない日本の再審法のもと、検察は国家権力を使って集めた証拠のすべてを開示せず、隠す、捏造する等とんでもないことがまかり通る。再審請求審は長期化するのが常で、10ヶ月と定められている台湾とは大違い。さらには世界の中でもまれな死刑執行を続ける日本。とても先進国だ民主主義国家だなどと名乗ることはできない。

 英BBCや米CNNで「世界で最も長く拘置された死刑囚」と報じられた袴田巌さん(87歳)は、2014年の釈放以降、外出は自分の足で長時間歩き続けていたが、この頃は支援者の車でのドライブに変わり、衰えが見えてきた。

 4月10日朝、ひで子さんは巌さんに「裁判所へ行ってくる。あんたの裁判、無罪になるのを裁判所に決めてもらうの。もう安心しな、もう安心しな。」と頭を撫でた。即刻無罪判決を出すのが筋であり、一刻も早く巌さんを安心させるべきだ。(澄)

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