ワーカーズ644号(2023/7/1)
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矛盾だらけの今の政治を 話し合おう
マイナンバーカード
行政からのマイナンバーカードを作るようにくる封書を無視し続けてきました。そしたら今度は「マイナポイントが二万円つきます」の甘いエサをまき散らし、物価が高騰する中、生活を少しでも楽にしようと思う人たちの加入者が増えていきました。
なんでも紐付けしようとするこの恐ろしいカードに健康保険証を紐付け、「紙」保険証を廃止しようとしたら事務的なミスが次々と明らかになりました。自分のマイナンバーに、全く知らない人が紐付けされ、個人情報が漏れ、医療ミスをおこしかねない深刻な問題に発展しました。
LGBT法
LGBT(エルジービーティー)とは、レズビアン (Lesbian)、ゲイ (Gay)、バイセクシュアル (Bisexual) の3つの性的指向と、トランスジェンダー(Transgender)またはトランスセクシャル (Transsexual)の性自認、各単語の頭文字を組み合わせた頭字語であり、特定の性的少数者を包括的に指す総称です。LGBTなどへの理解増進を目的とした法案は、自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党が与党案を修正し、女性団体、LGBT当事者団体が反対するなか16日の参議院本会議で賛成多数で可決され成立しました。
日本はG7の中で唯一、同性カップルに対して国として法的な権利を与えず、LGBTに関する差別禁止規定を持ちません。急きょ作られたこの法律は、実際に学校の現場などで、「男らしさ」「女らしさ」の基準から外れる子どもが虐待や指導を受けるといった事例があり、学校でのいじめや就職時における差別、職場での差別的取り扱いを解消するのが目的だったはずです。しかし、その目的は歪められました。
「全ての国民の安心に留意する指針を、政府が策定する」という条文が加わりました。性的マイノリティ当事者への理解を広めるための法律が、実質的には「マイノリティよりも多数派への配慮」を求めています。多数派が望まなければ、LGBTの理解促進行動をとれないことになります。
入管法「改正}
ウィシュマさんの死亡事件より入管の制度や職員の対応が社会的に問題になったにもかかわらず、難民認定申請中の強制送還を可能にし、臭いものには蓋ができるように法改正されました。法務省/入管庁が今国会で強行採決した入管法「改正」。その問題点はいくつもあるが、特に批判されているのが以下の点です。
・難民等の帰国できない事情を持つ外国人の人々が強制送還を拒んだ場合に刑事罰を科す。
・難民条約等の国際法に反して難民認定申請者を強制送還できるよう例外規定を設ける。
入管法「改正」案は、国内の専門家やNGOからのみならず、国連の特別報告者達や国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会からも、厳しく批判されています。
そのほかにも、軍事費増大による福祉医療切り捨て、地震が多発する中、女川原発再稼働などあげればきりがありません。政治の動きに対して、仲間と話し合いながら一つ一つの矛盾点に対してともに闘っていきましょう。(宮城 弥生)
《少子化対策》資本・企業利得という聖域に切り込もう!――政府の政策ではなく、構造変革が不可欠――
岸田政権が掲げる〝異次元の少子化対策〟が進められようとしている。
が、それ自体少子化を止めるにはまったく不十分であり、負担増も組み込まれた財源問題も先送りされている。
まやかしの政府の政策に一喜一憂するのではなく、少子化を招くような厳しい仕事と生活環境の抜本的な構造改革を実現するためには、必要な費用を資産所得や企業利益に負担させるという、聖域に切り込むことが不可欠だ。
◆形ばかりの政府の少子化対策
本論に入る前に、アベノミクスの“異次元の規制緩和”での2%の物価目標、岸田政権の“異次元の少子化対策”での出生率の向上にしても、なぜそれを目標に設定しなければいけないのだろうか。むしろ目標は〝安定した生活〟の実現であって、なぜインフレ率や出生率を目的にしなければいけないのだろうか。
こうした転倒した目標は、飽くなき利益を追い求める大量生産、大量消費社会という自転車操業社会が求めるものであって、本来は、そうした転倒そのものを俎上に上げるべきではないだろうか。
とはいえ、まずは目先の〝異次元の少子化対策〟、その意味合いとその先の展望について考えてみたい。
岸田政権は、〝異次元の少子化対策〟として、児童手当の増額、授業料の減免、給付型奨学金の拡大などを掲げている。
他方で岸田首相が6月13日に発表した「子供未来戦略方針」で来年度からの3年間の「加速化プラン」では、年間3・5兆円の支出を想定。あわせて「消費税を含めた新たな税負担は考えていない」との考え方も維持している。
財源としては、社会保険料への上乗せ徴収と社会保障費の〝歳出改革〟という二つの軸で賄うとしている。また、将来的な予算倍増に必要な財源として、28年度までに安定財源を確保するとし、それまではつなぎ国債の〝こども特例公債〟で確保するとして、全体像は年末まで先送りしている。
◆企業利益に寄り添う批判論調
こうした岸田政権の異次元の少子化対策に対し、各方面から批判の声が湧き起こっている。
その一つの典型が、企業利益に沿った立場からの批判で、例えば日本総研首席研究員の西沢和彦氏による批判などだ(6・16 朝日)。
その主旨は、政府の少子化対策は〝バラマキ〟で、すでに生まれている子供支援に過ぎない。少子化対策、出生率を上げる環境づくりが重要。そのためにも現役世代の生活の安定が不可欠。財源としての社会保険は、徴収対象は賃金に限られている。年金や資産所得は対象外。それに社会保険を財源にすれば企業の負担が増えて賃上げの流れに水を差す。
社会保険では、現役世代が高齢者を支える仕組みでは持たない。企業は負担増を嫌って非正規雇用を増やし、かえって生活が不安定になり、逆に少子化を促してしまう。医療制度では、高齢者の負担増が不可欠だ。
少子化対策の財源は消費税引き上げでまかなうべき。税だと高所得者や金融資産家にも課税可能で、社会保険より公平な制度だ。
見てのとうり、企業負担もある社会保険ではなく、税についても、税率が低い金融所得課税の引き上げにも触れず、大衆課税の性格を持つ消費増税に財源を求めている。総じて企業サイドの立場を代弁した見解だといえる。
◆企業の負担増に抵抗する経済界や連合
現に、経済界や労働団体の連合からは、すでに政府案の社会保険での負担を批判する声が上がっている。
日本商工会議所の小林健会長は、「単純に予算拡大と負担増が生じるならば、経済界が取り組む投資・賃上げ努力を減殺しかねない。」(5・23朝日)と批判し、また連合の芳野友子会長も、「税や財政の見直しなど、幅広い財源確保策を検討すべきだ。」と社会保険による財源確保を批判している(同)。
労使相まって政府案を批判しているわけだ。要するに、企業収益や賃金を財源としていることに対する反発であり、それも企業の意図を組み込んでの批判でもある。
シンクタンクのエコノミストの見解も、労使の批判を反映して出されている、というわけだ。
◆〝政府の政策〟よりも〝構造〟改革
実際、政府案は、深刻な少子化への場当たり的対策で、かつ、現役世代の労働者や高齢者の負担増による予算の付け替えに過ぎない。
例えば政府がいう〝歳出改革〟というのは、社会保障給付の削減の言い換えで、言葉のごまかしだ。要するに、医療での窓口負担を増やしたり、介護サービスを削減するということだ。それでなくとも、医療や介護の現場では、高齢者が増えても低賃金などで支え手を確保できないでいる。ある介護団体幹部は、「介護のお金を子育てに回したら現場は崩壊する」と懸念しているという(5・23朝日)。
現に、岸田政権の〝異次元の少子化対策〟に期待できるか問う質問で、今年4月の世論調査では「期待できる」が33%で、「期待できない」が61%だったものが、6月の調査では、「期待できる」23%に対し、「期待できない」が73%で、対策案が具体化するにつれて、否定的な受け止め方が増えているのが現実だ(6・19朝日)。
少子化が進む根源は、現に子供を持つ可能性がある若者を始めとして、勤労者の労働環境・生活環境が過酷すぎるからだ。非正規労働が4割近くにも増やされ、正規雇用でも残業代込み賃金や名ばかり管理職など、低賃金かつ長時間労働が蔓延しているのが実情だ。かつての親子三世代という大家族による子育て時代とは異なり、核家族での非正規の共働き世帯など、収入面でも時間的にも子育ての余裕は乏しい。そうした環境下で、そもそも結婚しない、出来ない若者も多い。子供を産んで育てるという、ごく当たり前のことさえ不可能にされているのが現実なのだ。
◆企業利益という聖域
そうした政府案や経済界・労働界などの見解で、すっぽり抜け落ちていることがある。それはこの間ずっと増え続けている企業収益や株主配当、それに企業の内部留保の増加傾向とそこに原資を求める観点だ。それをあえて除外する、それらを不可侵の聖域視、タブー視する態度だ。
現状でも会社や事業主による子育て支援の制度が無いわけではない。子供・子育て拠出金(かつての児童手当拠出金)だ。現在は賃金総額(標準報酬月額総額)の0・36%が税金として徴収されている。たった0・36%である。この額を引き上げることも一部で議論されたが、今ではかき消されている。優秀で持続性がある労働力の供給は企業活動の生命線でもあり、恩恵を受ける企業がもっと多く負担すべきなのだが、現実は企業やその代弁者によって堅くガードされているのが実情なのだ。こんなことが許されていいはずがない。
思い起こして欲しい。このところ、経済活動による成果配分では、働く人々への資源配分が傾向的に抑制されている現実がある。一方で、株主への配当増や自社株買いなどによる株価上昇による株主還元の増加、それに経営者報酬などに多く配分されている。企業には、十分な負担能力があるのだ。
今年の春闘での賃上げも、物価上昇に追いつかないで、またしても実質賃金の低下は避けられない。人的資源、要するに賃金増へと資源(成果)配分構造を大きく転換して、資産収入や内部留保を溜め込む資産家や企業の負担増を受け入れさせていくこと、このことを最大の要求として突きつけることこそ必要なのだ。
◆均等待遇と企業負担の拡大
子育て支援や少子化対策はむろん重要だが、そうした枠組みにとどまらず、雇用と処遇の均等待遇と長時間労働の是正という、労働者の雇用と処遇構造の抜本的な改革を実現しない限り、少子化は止められない。安心して子供を産み育てる環境づくりを推進することが大前提だ。それには、社会構造、社会システムの抜本的な改造が欠かせない。
その二本柱は、企業負担の拡大による子育て・養育資金の確保と、長時間労働の是正や同一労働=同一賃金などの均等待遇の確立にある。この二つは、車の両輪のごとく、同時並行的に追い求めるべき課題だ。
現実の若者などの雇用環境や生活苦に対し、政府の政策にだけ求めても、改善は不可能だ。要するに、資源の〝再配分〟としての政府の政策には、自ずと制限がある。むしろ私たちの経済活動の〝一次配分〟の場で抜本的な改革をしない限り、問題の解決には繋がらない。
繰り返すが、企業活動で生み指した新たな価値を、資産家や企業経営者により厚く配分している現行のシステムを、人的資源への配分、要するに賃金その他で労働者に振り向ける割合を増やすことだ。これを全ての出発点とすべきだ。問題を世代間対立などに歪める議論があるが、それは事の本質を覆い隠す詐欺的言説に過ぎない。
そのためには、労働者は相互間の競争システム化した年功処遇と個別賃金制度、それに企業内組合から脱皮し、労働者が団結して資本や政府と対峙できる連帯型の雇用と賃金システムをつくり上げることが必要だ。そのためにも、労使一体、労使協調下で闘えない労使関係を抜本的につくり変えていく必要がある。
◆闘いとる決意と行動が決め手
少子化の抜本的な改善は、政府の政策に一喜一憂していては実現できない。〝企業には賃上げをお願いしたい〟〝政府には少子化対策や子育て支援を実現して欲しい。そんな他力依存の観客民主主義では、抜本的な改革など不可能だ。
賃上げにしても、企業に子育て費用の負担を受け入れさせるためにも、最大のターゲットとしての企業利益に切り込む必要がある。当然、企業やそれにつらなる政治勢力など、猛反発は避けられない。が、それを跳ね返して要求を実現する労働者自身による積極的な闘い抜きでは、何事も実現できない。私たちの明日の生活を切り開いていくために、ここは奮起の場面だ。(廣)
◆フランスの家族手当金庫
少子化や子育て対策の一つの実例として、フランスの全国家族手当金庫(CNAF)がある。「安心して子を産み、育てられる」ことを目的とした「仕事と家庭の両立支援」「親の子育て支援」制度だ。「ワーカーズ」3月号ではその存在だけ紹介したが、このスペースではほんの入り口だけ紹介したい。
CNAFは、事業主・自営業者・従業員(労組)・有識者代表で構成された理事会が運営する公的機関で、各県に家族手当金庫(CAF)が置かれている。財源は、政府拠出金と各種保険団体からの拠出金で運営される。
子育て支援は3つの柱がある。10種類の子ども手当、公教育は3才の幼稚園から無償の義務教育、子が増えるほど所得税が下がる課税方式と税の控除だ。
3才から無償で幼稚園に入れるということは、「保育園落ちた、日本死ね」はあり得ないことになる。また小学校卒業までの8年間は、親の勤労状況にかかわらず、放課後学童クラブを利用できるという。
もう一つ。CNAFは政府機関ではなく、政府と協定を結んで理事会で議決する公的機関だ。従業員(労組)の力が強まれば、それだけ運営に自分たちの意向を反映させられる。
これらの制度もあって、フランスの合計特殊出生率は1・83で、日本の1・30より高くなっているという(フランス在住のライター、高崎順子)。
が、そのフランス、いまではマクロン大統領の年金改悪で批判が高まっている現実もある。子育て支援もまた、それだけでは万能のものではないし、過大な幻想を持つことはできないが、ヒントにはなる。(廣)
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「雪解け」? と言うより米国の対中国二枚舌外交だ ――日本の軍拡勢力は立ち止まらない
米国のブリンケン国務長官は、ようやく六月に訪中し習近平と会談することができた。ブリンケンは「台湾独立を支持することはない」と中国側に誓約し、バイデンは「米中関係は正しい道を歩んでいる」と評した。
日本の一部では「米中雪解け」「台湾危機は去った」との過大な評価があります。商業紙は「米・中という二台の車が競争して、崖から転落しないようにガードレールを設置できた」(日経)と米国政府の認識をそのまま繰り返したが、そうではないと思います。
◆矛盾に満ちたデカップリング(中国切り離し)政策
近年、米国は中国との経済関係を断絶する「デカップリング」を進めています。つまりは経済的中国包囲網=中国の経済的孤立化です。その経過は【別表】を参照してください。
【別表】
2018年、米国は中国のファーウェイやZTEなどの企業に制裁を科し、半導体やその他の部品の輸出を禁止。
2019年、米国は中国の5Gネットワークへのファーウェイの参加を禁止。
2020年、米国は中国のウイグル族に対する人権侵害を理由に、中国への投資を制限する法律を成立させた。
バイデン政権は、中国とのデカップリングを継承し、さらに強化しています。その例としては、以下のものが挙げられる。
2021年、米国は中国の5Gネットワークへのファーウェイの参加を永久に禁止。
2021年、米国は中国の半導体製造大手、SMICへの制裁を科した。
2022年、米国は中国の軍事技術開発を支援する企業への投資を禁止。
これらの措置は、中国の軍事的脅威に対抗し、米国の技術的優位性を維持することを目的としています。しかし、これでは米国と中国の貿易関係を悪化させ、世界経済に混乱をもたらす可能性もあります。ゆえに、米国政府といえども国内世論(中国に依存している米大企業の意向)を横目で見ながら硬軟取り混ぜて推進していると思われます。
◆「台湾危機」は米国政府が望んでいる
「台湾危機」というものがくすぶっているとすれば、それは中国ではなく米国政府に原因があるでしょう。中国に対する経済制裁ばかりではなく、米国は台湾に対する軍事支援を強化しています。今年5月、米国は台湾に8億ドル相当の軍事支援を行うことを発表しました。この支援には、対戦車ミサイル、地対空ミサイル、ヘリコプター、無人機などが含まれます。また、米国は台湾に海軍艦艇の供与も検討していると報じられています。
これらに先行した去年十二月、米国議会は五年間で最大100億ドル、日本円にしておよそ1兆3700億円の軍事支援を決定しています。さらに年間で最大10億ドル、日本円にしておよそ1370億円分の武器を供与できると。
米国は「中国の台湾侵略の切迫」を煽り続けて、いわゆる同盟・同志諸国による対中国軍事包囲網形成のために躍起になってきました。さらに、2022年8月1日に台湾の蔡英文総統と会談した際、ペロシ下院議長(当時)は「台湾は1つの独立した国家であり、米国は台湾を支持する」と述べました。米国は大量の武器援助の上に台湾の「独立派」の台頭を支持して彼らの決起を事実上促しています。万一にも台湾危機が発生するとすれば、米国政府・議会の責任も問われるべきでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇
中・台紛争が発生した場合の米軍の参戦については明確にせず「あいまい戦略」と言われています。いずれにせよこのような危険な駆け引きは、そもそも米国の歴史的後退と他方でのインド、中国、ベトナム、ブラジルなどの新興国台頭による、米国の政治的・経済的・軍事的影響力の低下を緩和し世界帝国を今後も維持させようとするものにすぎません。危険なあがきと言うものです。このさい多くの戦争の火種に常に米国が関与してきたことを想起しましょう。
◆「台湾関係法」と米国外交の欺瞞
米国の二枚舌外交を確認するために、歴史経過をも少し追加してみましょう。
2001年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、台湾の独立を支持する発言をしました。しかし、この発言は、中国から反発を招き、ブッシュ大統領は、すぐに発言を撤回しました。
さらにブッシュ大統領の発言は、「台湾関係法」に基づく米国の台湾政策と矛盾するものでした。台湾関係法は、台湾の独立を支持するような発言をすることを禁止しています。ところが他方「台湾関係法」(1979年に成立)は、台湾との外交関係を断絶した後も、米国が台湾の安全保障を維持(武器支援含む)することを定めるという、まさに欺瞞的なものです。台湾をめぐる米国の二枚舌外交の基礎となっています。
バラク・オバマ大統領は、台湾の独立を支持しないという立場を明確にしましたが、18億ドルの軍事支援(二期目のみ)をしています。
バイデン大統領に至っては、2022年5月23日に訪日した際「台湾の防衛」(米国の軍事参戦)を明言(ホワイトハウスはすぐさま、訂正したが)「台湾独立を支持しない」との言説との乖離は甚だしいものとなっています。言葉による陽動作戦なのでしょうか。いずれにしてもこれではまともな外交交渉は成り立ちません。
◆日本軍拡は止まらない
米国が、コウモリ外交というか二枚舌で中国と接する一方で、日本の軍拡勢力の意志は微動だにしていません。日本の軍拡勢力の動機は米・中の「雪解け」とか多少の和解では停止させられない質のものだと考えられます。
日本はすでに世界でトップクラスの資産と権益を国外に所有しています。一方、国内では低賃金や生活苦・社会矛盾が累々と積み上がり、経済力はアジア諸国にさえ劣後しつつあります。反中国・北朝鮮感情が排外主義に結び付けられています。これらの点は注意すべきことでしょう。『ワーカーズ』(641号)の「戦争準備はなぜ開始されたのか」等参照してください。
日本は去年末の「防衛三文書」により、中国を事実上仮想敵国と位置づけ、向こう五年で43兆円の軍事費増額や、GDP比2%への予算倍増を決定しています。決まっていないのは財源ですが、防衛費確保法成立により、民生予算を削減してでも防衛費へ、増税してでも国債発行してでも防衛費確保の法的根拠を確立したことになります。さらに防衛産業基盤整備法(軍事産業支援と国有化含む)も通過して、一つの産業として育成強化しようとするものです。
このような動きを止めるには、上記したように日本資本主義そのものとの闘いと切り離すことはできないと考えています。
◆「独立」をめぐる台湾の国内世論
最後に、台湾の国民世論を見てみましょう。調査資料が限定的である上にかなり異なった結果が出ているので簡単に決めつけることはできません。
2023年5月に台湾民主基金会が行った台湾独立に関する世論調査(18歳以上の男女1,000人を対象に、インターネットで実施)では、次の質問がされました。ア・「あなたは台湾が独立すべきだと思いますか?」
イ・「あなたは台湾が中国と統一すべきだと思いますか?」
ウ・「あなたは台湾が現状を維持すべきだと思いますか?」
この調査の結果、アが52%、イが43%、ウが5%でした。
◇ ◇ ◇ ◇
また別の資料(2021年)では64%の台湾国民は「軍事衝突は起きない」と考えているようです。つまり武力でもって「独立を宣言」する情勢は無いと私は考えています。
簡単にまとめますが、これらの資料のかぎりでは国民の「独立」「統一」世論は拮抗しており、他方では「台湾の武力独立」を望んでいません(それをけし掛けているのが米国政府です)。時間をかけた解決がアジアの平和のためにも必要ですが、そのためにも米国や日本の「熊のお手伝い」(余計なお世話)を止めなければなりません。
◇ ◇ ◇ ◇
本文では、字数の関係で中国の習近平体制の批判を省略しました。『ワーカーズ』の「強欲資本主義もかすむ極限の格差社会=中国 習近平の「共同富裕論」登場の背景」(622号)、「中国国家資本主義体制のリニューアル・習近平「改革」の歴史的意味を考える」(624号)など参照をお願いします。(阿部文明)
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読書室 堤未果氏著『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』幻冬舎新書 二〇二三年五月刊
〇 「ショック・ドクトリン」とは、テロや銀行破綻や災害など、恐怖で人々が思考停止している最中に為政者や巨大資本が火事場泥棒のように過激な政策を推し進める手法のこと。ここ日本でも福島原発事故や東日本大震災等の大惨事の裏で、知らない間に個人情報や資産が奪われた。本書では、現下のコロナパンデミックで空前の利益を得ている製薬企業の手口やマイナンバーカード普及強制の目的等を徹底的に追及し、全面的に暴露する。だが本書で堤氏が本当に読者に訴えたかったことは、この世界で今何が起こっているのかを多角的に?み、全体像を見るスキルをつけるヒントを読者に提供したいの一事である 〇
堤氏とナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』との出会い
本書の著者の堤未果氏は実に稀有な体験をしたジャーナリストである。その体験とは、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロ事件当時、世界貿易センタービルに隣接する世界金融センターの二十階にある米国野村証券で働いていたからこそ、そこで起こった一大パニックに遭遇したことである。その時の地獄の体験は記憶に残っているという。その堤氏が鮮明に覚えているもっと怖い体験とは、「恐怖と怒りでパニックとなった人々の憎悪が、突然現れたテロリストという敵に向かって、凄まじい勢いで吹き出し」たことであった。
朝起きて通りに出ると、家々の門や窓にびっしりと星条旗が貼られており、窓の隙間からはアメリカの国歌が漏れた。そのような中、まさにテロに対する恐怖が煽られたのだ。
こうしてアメリカでは、猛スピードで新自由主義政策により解体されていく経済、何より大切な言論の自由が奪われ、市民の細やかな暮らしが踏みにじられ、合衆国憲法の精神が失われていった。堤氏は自分は何もできないとの無力感に打ちのめされた。今思えば、ショック・ドクトリンを仕掛けられたアメリカで、堤氏自身が恐怖で完全に思考停止していたといえる。彼女は皆から切り離されてまるで一人ぼっちのようになっていった。そんな中で、まさに堤氏はナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』と出会うのである。
この本と出合ったことで堤氏は本来の自分を取り戻すことができた。この体験から情報を入れるほど不安になり、真実が見えなくなることを知ることになる。堤氏は、為政者が都合の悪い情報を遮断し、多様な言論を統制し、おかしいことをおかしいと言える自由を奪おうと躍起になってきたことの意味を、改めて深く認識することができたのである。
「ショック・ドクトリン」とは
すでに書いたように「ショック・ドクトリン」とは、テロや銀行破綻や災害など、恐怖で人々が思考停止している最中に為政者や巨大資本が火事場泥棒のように過激な政策を推し進める手法のこと。つまり私たちの意識がショックで衝撃を受け思考停止している間に、通常なら炎上するような新自由主義政策や強引で露骨なまでに理不尽な政策をねじ込まれるのだ。今、こうした手法で全世界的に国家や国民の大事な資産を合法的に略奪し、政府とお友達企業が大儲けするという構図が、全世界で大々的に展開されていったのである。
この「ショック・ドクトリン」、そもそもの始まりはCIAの拷問マニュアルだった。彼らは中国共産党の反資本主義を植え付ける洗脳システムに学んだのだ。このような対象となる者の人格を変える研究は、当然のように人権的な問題となり、禁止されていった。
これに着想を受けたのが、ミルトン・フリードマンであった。彼は「個人の人格を入れ替えてようとする研究があるのか。ではこれを国家全体にやったらどうだろう」と、つまり国家全体をショック状態にしておいて国民の感覚を麻痺させ、何が何だか分からなくなった時に自分が理想とする経済システムをただちに導入することを思い付いたのだ。当時、米国経済学界ではケインズ主義が全盛であり、ハイエクの弟子の彼は傍流であった。
フリードマンは市場原理主義者。つまり「できるだけ政府が介入しないで、企業に任せる新自由主義がよい。そうしたらマーケット自体が自動的に全部やってくれて、すべて上手くいく」と考える原理主義者だった。まさにケインズの対極に位置していたのである。
新自由主義の導入は平時に実行したら絶対に反発が起きる。当然ながら「民営化」反対の声が上がるので、まずショック状態にしてから導入することを、彼は国規模で実験したい考えた。そこで選ばれたのがチリである。CIAのテコ入れでピノチェットの軍事クーデターが起きて、チリにおけるフリードマンの弟子たちは政府高官に任命された。民営化や貿易の自由化等が強引に押し進められて、貧富の差は一気に拡大していくのである。
このように悲惨なまでに格差がひどくなり、失業率も異常な高さとなり、餓死する人も出て、保育園も何もかもがみんな民営化されて酷い状況になったが、チリは「経済的に成功した」とマスコミが喧伝し、「チリの奇跡」と言われるまでの成功例になったのである。
こうしてチリで成功したということで、次にブラジル、アルゼンチン、アフリカ、中東、イギリス、アメリカ、タイ、韓国、インドネシア、ロシア、そして中国と、もうどんどんと拡大していった。つまりこの手法は、換言すれば現代版の植民地支配の手法なのである。
日本でも中曽根政権時代頃に新自由主義が上陸した。本格化したのは小泉政権からであり、日本でもフリードマンの弟子の竹中平蔵氏の今に至るまでの大活躍が異常に目につく。
『堤未果のショック・ドクトリン』の狙い
ここで本書の章立てを紹介しておけば、以下のようなものである。
序章 9・11と3・11――私のショック・ドクトリン
第1章 マイナンバーという国民監視テク
第2章 命につけられる値札――コロナショック・ドクトリン
第3章 脱炭素ユートピアの先にあるディストピア
堤氏が本書で強調するのは、今、まさに日本にショック・ドクトリンがゆっくりと着実に仕掛けられているということである。本書の読者にまずはこのルールを知ってもらい、堤氏はこの手法の餌食にならないようにとの警告をする。この手法のルールを知らされないでゲームに参加している無自覚な状態からの覚醒をしてほしいとのことなのである。
本書は、陰謀を暴く本ではない。特定の人や企業を攻撃するためのものでもなければ、資本主義や自由化、規制緩和を否定する内容でもない、と堤氏は強調する。昔よりスピードが速くなったこの世界で、何が起こっているのかを多角的に?み、全体像を見るスキルをつけるヒントを差し示す本である。要はマスコミ報道の裏を知ることでもある。
堤氏はちょっとした違和感を持つことが重要だと指摘する。そして自分の周りに広げること、それで一緒にこの違和感に気付くこと、こうしていろいろと阻止する方法を考えることができる。この手法を見抜くことができれば自分と家族と日本の未来を守れるので、堤氏はぜひこのゲームのルールを読者に周知したい、と考えて本書を書いたのである。
本書の序章は、その原論に当たる。読者の熟読を期待したい。そしてこの序章の終わりの部分には、世界のショック・ドクトリン事例と違和感チェックリストがついている。これらには、重要な事実の提示と貴重な指摘がなされている。今、話題になっている広末涼子の不倫事件報道の背後で政府に都合の悪いどのような法律の審議が隠されていたのか。
私たちはこのような問題意識を持ってマスコミ報道を精査してゆかねばならないのだ。
本書は実にタイムリーな出版である。関心を持つ皆様へ一読を薦めたい。(直木)
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長谷川貴彦著『産業革命』を読んで
●革命か?緩慢な発展か
日本では自明のこととして語られる「産業革命」という語。だが当のイギリスでは、意外なことだが、「革命」と言えるような激変はあったのか?実態は「緩慢な変化」でしかなかったのではないか?長い論争が続いてきたという。ポランニーの「革命・悲惨」説とその批判を始め、この論争は二~三十年周期で、振り子のように蒸し返されてきたのは何故か?
原因の一つは、産業革命(又は緩慢な発展?)の期間の長さにもあった。実際、一七〇〇年代初頭から一八七〇年ごろまでの百七十年間という長期間のうち前半は、綿紡績や綿織物の「手工業」の改良が中心であった。「動力」といっても、水力や牛馬の力に頼っていた。確かに急激な生産性の向上とはほど遠かった。
やがて石炭と蒸気の力を応用するに至って、後半の急激な発展が開始されたのであるが、平均的な成長率は意外に低かったという主張もある。
問題はこの長期間にわたる経済変化を、世界史の中で、どう説明するか?である。
●近世アジアとの大分岐
それには、イギリス産業革命に先立つ、ユーラシア大陸における中国・インド・イスラム地域の「近世的豊かさ」と、その後塵を拝するヨーロッパの「後進的」状況から話を始めなければならない。ポメランツのいわゆる「大分岐」説である。
長谷川貴彦著『産業革命』(山川世界史リブレット)では、これら学説史や論争史、最新の実証的資料を踏まえて、産業革命の実像に迫っている。
●西欧の輸入代替化
ヨーロッパ社会は、豊かなアジアの物産(中国の絹織物・陶磁器、インドの綿織物等)を輸入することで、上流階級の豊かさを実現していた。
アジアの帝国社会は、高い農業生産を土台に、農村部の家内手工業やマニュファクチャが発達し、織物産業が帝国社会の需要を満たし、さらにヨーロッパへも輸出していた。こうした近世的マニュファそしてクチャによる安定した経済を「定常状態」と呼ぶか、「停滞」と呼ぶかは、議論の難しいところである。
やがて、これらのアジア物産に対するヨーロッパの需要は社会全体に広がり、輸入では需要を満たせなくなり「輸入代替化」の努力が求められるようになった。ここから、イギリスの綿紡績・綿織物の家内手工業の改良を端緒に、産業革命が徐々に進んでいったのである。
●社会制度の変革
こうした近世的アジアへのキャッチアップの流れの勢いに乗って、石炭と蒸気機関の使用を画期に、様々な社会制度の変革が合流し、産業革命は進んでいった。科学革命、発明、改良、勤勉革命、長時間労働、女性・児童労働、農業革命(ノーフォーク農法)、交通革命(運河と鉄道)、都市化とスラム街、大西洋地域の植民地化と奴隷貿易。
気がつけば、イギリスはアジアへのキャッチアップ段階を通り越し、機械制大工業の安価な綿織物の市場として、インドを植民地化する「世界の覇者」への道を進んでいたのである。
●なぜイギリスで?
ところで、こうしたキャッチアップ説は、それなりにうまく欧州の産業革命の成立要因を説明できているかに見えるが、ではなぜイギリスで起きたのか?までは、うまく説明しにくい難点がある。
欧州の中でも、なぜイギリスで産業革命が起きたのか?独自の内的要因についても、先述した様々な社会制度や経済文化の解明が求められるところである。
長谷川貴彦は、資本主義成立にかかる「二つの説」(モーリス・ドップとポール・スウィージーの論争など)を念頭に置いて、この問題を論じている。それは、その後のフランスやドイツ、さらに日本の産業革命の見方に連なる問題を投げかけている。(夏彦)
アフガニスタンの理解の一助として
故・中村哲さんのドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす~武力で平和は守れない』
医者としてアフガニスタン民衆への素晴らしい貢献でした。今、私が観ている韓国テレビドラマ「伝説の心医~ホ・ジュン」(2013年制作)と二重写しになりました。医療の限界を感じながら重篤なハンセン病患者との心のやり取りなど、本当に感動的な話でした。患者が列をなしそんな中村さんの元を訪れる。こんな方が、日本にもいるのですね。中村さんもまちがいなく「心医」です。
◇ ◇ ◇ ◇
しかしさらに驚いたのが水利事業。素人ながら不可能と思われる灌漑(用水路)事業を手掛けたこと。病の根底にある水の問題、深刻な飢餓を生む干ばつ対策として取り組むが、大河から水を引く取水口建設の難しさにぶつかる。解決策として江戸時代の技術に学んだ「堰」の建設という話。しかし、成功ばかりではありません。歓喜と失望が交互に訪れる厳しいアフガンの大自然。「人間は自然の一部として生かされている」ことを中村さんは改めて心に刻んだと言います。
◇ ◇ ◇ ◇
とはいえ終始貫かれたものがありました。人の心を奮い立たせ、そしてまとめあげて大きな力とし、結果としては信じがたい大事業を推し進めてきたということ。これらの事業はなんといってもアフガンの民衆の力です。それを引き出した中村哲さんの貢献です。ここにあるのは思想信条といったものではなく苦難の中で「生きようとする」民衆の心を素直に理解し受け止め実現しようとしたことです。「・・誠実である限り、人の真心は信頼に足る」と。
◇ ◇ ◇ ◇
そこで大切なことは、民衆の気持ちを尊重し、何百年来の伝統的価値観や生活スタイルを受け入れることでした。長老会などのアフガニスタンの伝統的な統治方法や伝統的教育方法を尊重してきた中村さん。彼の基本スタンスはこのような経緯の中で形成されたのでしよう。
中村さんは単なる理想主義者ではなくむしろリアリストなのだと思う。かくして広大な砂漠の緑化や干ばつ対策も地域の民衆の一体となった協力の下で取り組まれました。
◇ ◇ ◇ ◇
「生きる」ために大地にしがみつき必死に働く中村さんやアフガンの民衆。上空では米軍の戦闘ヘリが「敵」「テロリスト」をさがし戦争を仕掛けようと飛び回り、機銃掃射までしてきた・・・何と対照的な生き方ではないでしょうか。自衛隊のアフガン派兵を国会の場で明確に拒否し「有害無益でございます」「平和こそ現実的な力」と答えた中村さんの言葉はアフガニスタンの現実を踏まえたことがわかります。「生きる」ために必要なのは平和と協力だからです。
映画が終わった時、会場で自然に感動の拍手が起きました。夜にもかかわらず子供さん連れのお客さんも多く、うれしい事ですね。単に「偉人伝」としてではなく名もなきアフガン民衆の生きる姿を知ることが、この映画のもう一つの価値だと思っています。(阿部文明)
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何でも紹介・・・ 「武器としての国際人権」 日本の貧困・報道・差別 藤田早苗著 集英社新書 1000円
〇すべて、人権の問題です!
著者は、大阪府出身で国際人権機関を使って日本の問題に取り組む第一人者。1999年、エセックス大学の国際人権法学部修士課程で学ぶために渡英、その後、同大学で研究員や学内非常勤講師を務め、現在はフェローとして同大学に所属しています。安倍政治の時の悪法である2013年の秘密保護法案、2017年の共謀罪法案を英訳し、国連に通報、その危険性を周知しました。
その行動力は、日本での講演会を大学生対象に行うなど、人権啓発を重視するという姿勢にも現れています。私も、近隣の大学で講演がある時に参加しましたが、庶民的で活発な女性だなあという第一印象でした。講演の途中に時々大阪弁が混じるなど、参加者との対話も大切にされ、近親感が持てました。同書のテーマは多岐にわたります。ここでは、貧困、女性の問題を紹介したいと思います。
〇日本が批准している国際人権条約は8つ
批准しているのは、「経済的、社会的、文化的権利に関する国際条約(社会権規約)」・「市民的、政治的権利に関する国際条約(自由権規約)」(1966年)、「人種差別撤廃条約」(1965年),「女性差別撤廃条約」(1979年)、「拷問等禁止条約」(1984年)、「子どもの権利条約」(1989年)、「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(強制失踪条約)」(2006年)、「障害者権利条約」(2006年)以上の8つですが、国内での法整備はまだまだ不充分で、国連から勧告を受けている状態です。
日本が批准していない条約に、移住労働者とその家族の権利保護に関するものがあります。日本政府にとって外国人労働者は使い勝手の良い労働力で、権利擁護は想定外のこと。そのことは、6月9日の入管法改悪成立の動きを見れば明らかなことです。
これまでに批准された権利条約が生かされるためには政府への働きかけが必要です。政府には義務(尊重義務・保護義務・充足義務)があることを確認し、「その助けを要求する権利」を私たちが自覚をもって行使することです。一人ひとりが人権意識を持ち行動を起こせば、もう少し暮らしやすい社会になっていくはずです。
『日本国憲法は、条約を誠実に遵守することを定めている(第98条2項)。この規定から国が批准した条約は、国内でも法的拘束力を持ち、国内で直接適用することができる。つまり国内でも現行法としての効力を持つので、裁判でも当事者は関連する人権条約の規定を用いた主張ができるし、裁判所も人権条約の規定を適用した判断を出すことが求められる。しかし日本の裁判所はいまだ国際人権法を参考として引用する程度であり、日本の司法界での国際人権法の訓練の必要性が国連からも指摘されているのが実情だ。
また、条約は法律に優位すると解されている。たとえば本書で触れる秘密保護法や入管法も日本の法律に過ぎない。人権条約はそれらの上位にあり、条約に抵触する内容は改正されなければならないのだ。・・・』(30ページ)
改正されたものには、2014年1月に「障害者権利条約」に批准したが、それに先立ち2011年に「障害者基本法」の改正、2012年に「障害者総合支援法」の制定、そして2013年に「障害者差別解消法」の制定と「障害者雇用促進法」の改正を行っています。また、条約批准後には、条約を設置した監視機関によって、定期的にその実施状況の審査が行われます。
条約の内容に反するものについては国連の人権機関や専門家から警告・勧告がされ、条約に反する国内法や制度は改定、または廃止されなければなりません。例えば、2022年秋には「国内避難民の人権に関する国連特別報告者」という専門家による訪日調査があり、福島原発事故で避難している人たちや、さまざまな理由で住居を奪われた人について、政府が取るべき政策への提言がなされています。
2021年には、「出入国管理局及び難民認定法」(入管法)の「改正案」についても、国連の3人の専門家と作業部会が国際人権基準に則り懸念を表明する書簡を発表しています。しかし、日本政府は国連の勧告を無視し続け、国際的なネットワークから外れてしまっていると、指摘されています。
今年3月、西宮市議会で採択された「女性差別撤廃条約選択議定書の速やかな批准に向けた環境整備を求める意見書」は、条約の実効性を強化し女性が抱える問題を解決するために、個人通報制度と調査制度を認めるよう政府に批准を求めたものです。すでに、国連総会では1999年に決議・採択され2000年に発効しています。DV・虐待を受けている女性にとって救済できる手段として急がれる制度です。そして、国連からずっと勧告を受けている国内で独立した人権機関の設置を、早急に実現させるよう多くの人に呼びかけたいです。
〇最も深刻な人権侵害は貧困 当事者が政策決定過程に参加する権利を!
「絶対的貧困」は、敗戦直後の日本のように、人間として最低限の生存を維持することが困難な状態をさします。2020年の世界人口の約9・1~9・4%を占めるだろうと言われています。一方で「相対的貧困」は、その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態をさします。
日本の相対的貧困率は、1985年は12%だったが、2012年は16・1%、2018年は15・4%にも上がったので、約6人に1人が「相対的貧困」ということです。「相対的貧困層」は、10代後半から20代前半の若者、70代以上の高齢者、ひとり親の家庭に多く、70代後半の女性の4人に1人が相対的貧困という厳しい現状です。G7で2番目に高い日本の「相対的貧困」、日本は社会全体が貧しくなり、その中でさらに格差が拡大しているという、二重の困難を抱えてしまっています。
貧困削減対策の政策決定の場に当事者の声を届けることで、政策の中味がより効果的なものになると、著者の藤田早苗さんが提起されています。すべての政策決定過程で「差別の禁止、平等、参加、アカウンタビリティ、透明性」といった人権の要素が取り入れられるべきと、これからの課題として発信されています。
〇生活保護へのアクセスを妨げるもの
貧困から抜け出すための手段のひとつは生活保護で、生存権の最後のセーフティーネットと言われています。新型コロナの影響で仕事を失った状態が1年以上続いている「長期失業者」は、2021年は月の平均で66万人にのぼり、前年より20%余り増えたことが総務省の労働力調査で明らかになっています。事実、2022年2月の東京でのNPO法人の炊き出しには、女性や子連れの母親なども列に並ぶなど、人数も倍増しているという。
『・・・生活保護の日本の捕捉率(生活保護の利用要件を満たしていると推測される人のうち実際に利用している人の割合)が2割程度で、残りの8割つまり数百万人が生活保護から漏れていることになる。日本の捕捉率はほかの先進国に比べてかなり低い。ちなみに日本弁護士連合会(日弁連)が作成したパンフレットによると、イギリスは47・0~90・0%、ドイツは64・6%、フランスは91・6%、スウェーデンは82・0%とされている。しかも日本の捕捉率の把握を目的とした継続的なデータはないため、実際はこれよりも低いかもしれないという』(104ページ)
日本では、生活保護の申請を避けている理由に、自治体の福祉事務所が申請者の扶養義務者に援助を確認する「扶養照会」があるからです。家族、親族に扶養の義務を押し付けることは、個人の存在を尊重していないことの証明です。このことが、「人権」という自分を守る権利を見えなくしてしまう原因のひとつではないでしょうか。
最後に、「生理の貧困」について、最近、国内でも学校や公共施設に生理用品を設置する動きが出てきました。じつはイギリスでは、2014年に、当時21歳の大学生ローラー・コリトンらによる生理用品の税金撤廃の署名活動から始まりました。いくつかの段階を経て、最終的に2021年1月に生理用品への税金の完全撤廃が実現しました。
2017年、BBCが報道した14歳少女の生理用品が買えないので学校に行けない、という記事に反応した17歳の女子生徒がいました。その女子生徒の呼びかけで、2000人以上のデモ行進が実現。翌年3月に、生理の貧困対策に150万ポンドが拠出されました。その後、弁護士を含む団体(レッドブック・スプロジェクト)で、政府を訴え、2020年から、注文のあった学校には無料の生理用品を支給する制度を導入しました。
このように、海外では、グレタさんもそうですが、女学生、女子生徒がひとりから立ち上がっています。私たちも権利としての「人権」を活用し行動を起こしましょう。再度、「人権」とは思いやりではなく「生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを要求する権利が人権。人権は誰にでもある」とされています。 (折口恵子)
色鉛筆・・・世界に恥じる入管法に思う -敗北ではなく闘いはこれから-
2023年6月9日、衆議院本会議にて、入管法改悪法案が可決されてしまいました。1度目の2019年の際は、ウイッシュマンさんの治療を受けさせず放置し死亡させた事件が発覚し、抗議運動が行われ政府は法案成立を断念せざるをえませんでした。この時は、審議担当の国会議員への抗議のファックス作戦が功を奏したと聞きました。今回、私も、大阪や神戸の街頭での抗議行動に週1回のペースで参加してきました。
大阪では抗議行動の参加を呼びかけたのは、学生中心のグループでした。マイクを握る学生たちは女性が多く、入管の収容者への人権侵害を訴える声に、振り向いて立ち止まる人もいました。日本の入管は外国人の受け入れに対し、なぜ、こんなにも困難な条件を突きつけてくるのか? そもそも、難民と呼ばれる人がなぜ存在するのか? 人も物も自由に交流できる国際社会であるはずですが・・・。
抗議行動には、学生のほかに弁護士さんの親子連れが参加し、1歳半ぐらいの女の子が参加者の前を行ったり来たりと、場を和ませてくれます。母親の弁護士さんがアピールする時に、女の子は母親の足にまとわりついたり、ぐずったりします。そんな姿を見て、自分自身の子育ての時を思い浮かべ、同時に、在日韓国人の特別在留許可を取得する運動に関わったことが頭を過ぎりました。
1970年代当時、戦後25年を過ぎたが在日朝鮮・韓国人は日本に住まざるを得ない人々が少なくなかったようです。私が関わった韓さんという韓国籍の方ですが、在留資格が無かったので、息子さんの小学校入学前の手続きが出来ず、在留許可が必要になったのでした。裁判を断念するなら、特別在留許可を認めるという交渉で、無事、息子さんは小学校に行くことができました。
現在、国内では、介護の労働現場や縫製工場などでは、ベトナムやミャンマーなどの外国人労働者が活躍中です。国内の労働者が不足することが見えているのに、なぜ、これほどに入国を拒むのか、不思議でたまりません。一方で技能実習生は低賃金・重労働で都合よく雇用し、難民は排除する日本政府の姿勢は許されるものではありません。今こそ入管制度の抜本的改革が必要です。
入管法改悪法成立に挫ける暇はありません。闘いはこれから始まります!6月9日の「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」の抗議声明を紹介しましょう。
『改悪入管法の成立は、我々の敗北ではありません。この強行採決は、入管の敗北の始まりです。民族差別と人権侵害の巣窟である入管制度は、今日を境に、崩壊を始めます』
さあ、闘いはこれからです。皆さんも各地で意思表示を始めましょう。(恵)
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コラムの窓・・・土佐・中村、幸徳秋水に会いに行く!
5月中旬、高知県土佐市に住まう古い友人に会いに行く。桂浜の坂本龍馬の銅像といま話題の牧野植物園を案内してもらい、旧交を温めた。車で300キロほど、淡路島経由で休み休みで5時間ほどかかった。バスだと楽だけど、自由に移動できないので頑張って車にした。
さて、友人に会うこととは別に、もうひとつ目的があった。それは、5月下旬に兵庫で「第5回大逆事件全国サミットin神戸」が開催されるので、その前に幸徳秋水の墓にたどり着いておこうと思った。ところが高知は広い、太平洋に沿い山を超え56号線をたどって「四万十」(旧中村)の標識頼りに100キロ走り、ようやく四万十市に到着した。
しかし、持っていたのはネット検査したおおまかな地図だけ、あたりをぐるぐる回っていたら案内表示があり、ようやくたどり着いた。墓は正福寺の墓地にあり、境内には「秋水非戦の碑」があったのでここで間違いないことを確信した。秋水の墓は奥にあり、田中全氏が設置した箱のなかにあったノートに記帳した。秋水だけではなく、坂本清馬の案内板などもあった。
大逆事件サミットは2011年、幸徳秋水刑死100周年記念事業のひとつとして行われた。事務局は何と四万十市教育委員会、開会あいさつを行ったのは当時市長だった田中全氏、幸徳秋水を顕彰する会が共催している。第2回は福岡県豊津(みやこ町)、こちらは堺利彦のふるさと。第3回は大阪市、菅野須賀子生誕の地。第4回は和歌山県新宮市、大逆事件で6人の犠牲者を出した地だつた。
いずれも、天皇制下の野蛮な謀略の犠牲者、理想の社会を目指して倒れた偉大な先達として讃え、守ってきた人々が繋がっている。大逆事件は旧刑法第116条(大逆罪)「天皇三后皇太子ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス」とされた事件で、他に3件、「虎の門事件」(1923年)、「朴烈、文子事件」(25年)、「李奉昌事件」(32年)がある。大審院(現・最高裁判所)が審理する一審制(「第一審ニシテ終審」)を適用された。
大逆事件(幸徳事件)は10年、まさに朝鮮植民地化「韓国併合」の年である。大日本帝国がさらに中国大陸へと食指を向けようという野望を持って社会主義者根絶、侵略に反対する声を根絶やしにしようとたくらまれた。
11年1月18日に死刑24名、有期刑2名の判決。6日後の24日に秋水、森近運平、宮下太吉、新村忠雄、古河力作、奥宮健之、大石誠之助、成石平四郎、松尾卯一太、新美卯一郎、内山愚童の11名が、翌25日に管野スガが処刑された。特赦無期刑で獄死したのは、高木顕明、峯尾節堂、岡本穎一郎、三浦安太郎、佐々木道元の5人。仮出獄できた者は坂本清馬、成石勘三郎、崎久保誓一、武田九平、飛松与次郎、岡林寅松、小松丑治のみ。
この岡林寅松と小松丑次が神戸関係者で、神戸平民倶楽部で活動していた。31年に仮出獄となり、47年2月24日付けで坂本清馬とともに復権(司法大臣名義による特赦)したが、その名誉は回復されていない。60年代より「大逆事件の真実をあきらかにする会」を中心に再審請求などの運動が推進され、61年には坂本清馬が森近運平の妹英子とともに再審請求を行ったが棄却された。
最高裁判所は67年に「戦前の特殊な事例によって発生した事件であり、現在の法制度に照らし合わせることはできない」「大逆罪が既に廃止されている」との理由から、免訴の判決を下した。韓国軍事独裁時代の在日韓国人政治犯の名誉回復(再審無罪)が行われこととの落差にめまいを覚える。ちなみに、5回にわたって「在日韓国人政治犯」を連載した「週刊金曜日」には次のような記載がある。
「韓国政府が両新州らに公式謝罪したのは19年6月。文在寅大統領(当時)が訪日の際、在日同胞との懇談会の席上、李哲さんらに『在日同胞捏造スパイ事件の被害者とその家族に対し、国家を代表して心から謝罪の言葉を申し上げる』と直接、謝罪した」(1426号46ページ)
戦前と変わらぬ日本の司法、政治を顧みて、恥じ入るばかりだ。 (晴)
秋水非戦の碑
幸徳秋水生誕150年刑死110年記念
2021年11月5日 幸徳秋水を顕彰する会建立
吾人は飽まで戦争を非認す
之を道徳に見て恐る可き罪悪也
之を政治に見て恐る可き害悪也
之を經濟に見て恐る可き損失也
社會の正義は之が為めに破壊され
萬民の利福は之が為に蹂躙せらる
吾人は飽まで戦争を非認し
之が防止を絶唱せざる可らず
幸徳秋水
平民新聞1904年1月17日
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