ワーカーズ656号(2024/7/1)     案内へ戻る

  発がん性物質PFAS汚染の真相解明を追及しよう!
  全国的な汚染の広がりは、私たちの生活環境が問われている


 沖縄の米軍基地からの泡消火剤放出から発覚したPFAS汚染ですが、その後の調査で全国各地に基準値を超える汚染が見つかっています。沖縄テレビは2時間にも及ぶドキュメンタリーで、現地で闘う女性たちの生の声を届けてくれました。

 私たちの身の回りに存在する化学物質は、数えるときりがありません。国内で使用される農薬、輸入時にはポストハーベストに浸かる農産物、殺虫剤、合成洗剤、最近では芳香剤で悩まされる被害者も出ています。本当に必要なものでしょうか? スーパーに行けば、カゴに溢れんばかりの関連商品を購入する人を見かけます。

 「PFAS(ピーファス)は有機フッ素化合物で、環境中で永遠に残るほどの難分解性と、体に一度入ると半分の量が出ていくのまでに4~5年もかかるという高蓄積性を特徴とする厄介な有害化学物質です。」(身近な有機フッ素化合物から身を守る本」植田武智著)

 「米軍基地のある沖縄県や多摩地域、有機フッ素化合物を製造する工場のある摂津市や静岡市などで、地下水や水道水汚染が起きています。また住民の人たちの血液からは、健康影響が出てくる可能性のある濃度で検出され」るという深刻な事態になっています。

 大阪の1000人血液検査は「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が行い、2023年9月から12月にかけて実施。1192人分の血液分析の結果、ダイキン工業元従業員5人から高濃度曝露が明らかになっています。検査に関わった京都大学大学院・准教授の原田浩二氏は、最高濃度(596・6ナノグラム/ml)全国平均の298倍は「私がこれまで分析した中で最も高い濃度です」と驚きを隠せませんでした。

 10年以上前に製造が中止されたPFASですが、ダイキン工場の元従業員や周辺住民以外の住民にまで摂取許容量を超える数値が出ることは、土壌に蓄積された汚染、大気汚染などが原因と推測されるようです。PFASを使ったものに、こびり付かないフライパン、防水スプレー、油をはじくファストフードの包装容器などがあり、私たちは知らぬ間に体内に取り込んでいることに気づき警戒すべきです。

 内閣府の食品安全委員会作業部会は6月20日、人が1日に摂取する許容量はPFOA、PFOSのそれぞれ体重1キロあたり20ナノグラム(ナノは10億分の1)とし、現行の水準に据え置くと発表しました。イギリスでは、成人の許容量はそれぞれ3・3ナノグラムで、欧州食品安全機関はPFAS4種類の合計で7日間の摂取許容量は4・4ナノグラムと厳しい姿勢です。PFAS汚染での情報公開では、米軍基地の実態解明を妨害をした防衛省、岐阜県知事と自衛隊基地が関係する地下水汚染では調査の要望書を拒否など、真相を阻む動きは、国内の許容量の緩さの据え置きと同じものです。私たちと一緒に、基地や悪質な企業を擁護し隠ぺいする政府の姿勢を糾弾して行きましょう。(折口恵子)


  〝強欲資本主義〟と賃金――数字で見る24春闘の実相――

 私たちの生活に直結する賃上げの全体像が明らかになりつつある。
 
 連合による24春闘結果の集計が進み、厚労省や経団連の各種統計もそろいつつある。

 果たして〝高額回答〟で賑わった賃上げの実態とはどういうものか。現時点での全体像を見ていきたい。

◆連合集計で見る〝賃上げ〟

 今年3月、春闘の集中回答日を迎えたメディアは、〝満額回答〟〝要求越え回答〟の見出しが躍った。〝30年ぶりの高額回答〟などの見出しや枕詞も見聞きしてきた。

 確かに一部の有名上場企業などは、大幅賃上げに踏み切り、一時のヒーロー扱いされた。ただ、その後の連合による集計が進み、厚労省などの各種統計も出される中、〝大幅賃上げ〟の実態も浮かび上がってきている。(以下、各種報道発表より引用)

 ここでは、それらの数字から読み取れる、賃上げの実像に迫ってみたい。

 まず当事者の連合(全日本労働組合総連合)による集計を見ていく。一回目の集計は3月、現在は第6次(6月5日)まで公表しており、最終回は7月初旬を予定している。

 その実績は次のようなものだ。

 《表1》――賃上げ回答(連合集計)

*賃上げ要求     5・85%(定昇込み、3・4集計)
  内ベア分     4・30%
    300人以上 5・84%
    300人以下 5・87% 

*賃上げ回答     (第1回)      (第6回、6月5日)

  賃上げ(定昇込み) 5・28%      5・08%
      内ベア分 3・70%        3・54%
                 300人以上 3・58%
                 300人未満 3・16%
    300人以上 5・30%        5・16%
    300人未満 4・42%        4・45%
   内非正規(時給) 6・47%       5・74%

◆増えていない実質賃金

 これらの数字で重要なのは、個々人の表面上・形式上での引き上げ額の〝定期昇給込み〟の数字ではなく、賃金全体の底上げを示すベース・アップ(=ベア)分だ。現時点で3・54%という引き上げ額をだけ見れば、2・8%という23年度の物価上昇額より高くなっている。とはいえ、ここ数年続いた実質賃金の低下分を補うまでに至らず、後で触れるように、ピーク時の96年から20%近く低下してきた実質賃金を回復するにほど遠いものでしかない。

 それでも連合傘下の賃上げはまだ良い方だ。連合は大企業が中心の団体なので、それだけ賃上げ率も高く出る。が、中小企業の多くは労組もなく、春闘に参加していないところも多い。経営もギリギリのところも多く、当然賃上げも低くなる

 中小企業を会員とする日商の集計は、以下のようなものだ。

 《表2》――中小企業の賃上げ(会員企業1979社、日商発表6月5日)
      対象企業の約半数が従業員20人以下、労組・春闘がない企業も多い

  正社員の賃上げ率    3・62%
    従業員20人以下   3・34%
  非正社員          3・43%
  賃上げを実施した企業は74・3%(予定も含む)

 中小企業は定期昇給制度もないところが多く、右記の数字はどれも定昇込みの数字だ。これによれば、大企業などで1・5%~2・0%程度の定期昇給を差し引けば、多くの企業は昨年度の2・8%という物価上昇分さえも得ていないことになる。

 ちなみに、厚労省発表(3月7日)の今年1月分の物価上昇率と実質賃金は以下のようなものだ。

 《表3》――物価上昇(生鮮食品を除く総合)

 *22年度――対前年度比 3・0%
 *23年度――対前年度比 2・8%
     生鮮食品を除く食料    ――7・5%
     生鮮食品とエネルギーを除く――3・9%

  実質賃金(厚労省3月7日、1月分)

 今年1月 0・6%減   22ヶ月連続のマイナス
 今年3月 2・5%減   24ヶ月連続のマイナス――過去最長
    消費者物価指数   3・1%上昇
    給与総額      0・6%増

 今年4月 0・7%減   25ヶ月連続のマイナス(厚労省発表、速報)
    消費者物価上昇率  2・9%上昇
    給与総額      2・1%増

 今後、大企業も中小企業も含めて公表される厚労省の集計が出れば、連合集計よりかなり低い数字が出るだろう。付け加えれば、厚労省が2月6日に発表した実質賃金の長期動向は以下の通りだ。

 《表4》――実質賃金(長期指数 厚労省2月6日、20年=100)
  1996年=116・5(ピーク時)
  2020年=100・0
  2022年= 99・6
  2023年= 97・1

 これを見れば明らかなように、今年の大手中心の賃上げでベアが3・54%として、23年度の物価上昇分2・8%を差し引くと、実質0・66%の改善にとどまる。これに連合非加盟の中小の低い賃上げを含めれば、おおよそ、23年度の実質賃金の目減り分を補うだけ、というのが実態なのだ。

◆増え続ける企業収益

 連合の芳野友子会長は、3月15日の連合の初回集計発表に当たって、「新たな経済社会のステージ転換の第一歩になった。」と胸を張った。またメディアも「33年ぶりの高水準」だと見出しに付けたりした。33年前の物価動向などとの比較もなく、単に過去の賃上げ率と現在を比較しても意味が無いのに、だ。

 が、上記のような賃上げの実態を考えれば〝ステージ転換〟どころか、昨年度の物価上昇による賃金の目減り分をやっとカバーするだけのものに過ぎないという、お寒い現実が見える。

 しかも、その程度の〝賃上げ〟では、増え続ける企業収益の増加と比べて、いかにみすぼらしいものであるかが、一目瞭然なのだ。
 今度は目先を変えて、この数年の企業利益がどれだけ膨らんできた見てみたい。

 SMBC日興證券の集計や財務省の発表(6月3日)によれば、企業の純利益は、3年連連続過去最高を記録しており、またその全体像は、別表の様なものになる。

 《表5》――企業収益

 *上場企業の24年3月期決算(金融機関除く1292社中の720社、SMBC日興證券集計)
   売上高総額  421・5兆円、 6・0%増(対前年比)
   営業利益    36・7兆円 20・9%増(同)
   純利益     33・5兆円 14・3%増(同)――3年連続過去最高
              製造業 24・2%増
              食料品 14・7%
            電気・ガス 前年の赤字から2・2兆円の黒字へ(政府の補助金)

 *トヨタ純利益――4・9兆円(24年3月期決算、対前年比101・7%増)
 *全産業(金融・保険を除く)経常利益(財務省6月3日発表)
   1~3月期――15%増の27兆円――5四半期連続で前年より増加、過去最高を更新

 その集計によれば、直近一年間の企業収益は、14~15%増加した。大手中心の労組のベアが0・66%で、全体ではほぼゼロに近い24年春闘での賃上げは、この14~15%という企業収益の増加と対比すべきものなのだ。

 増え続ける企業収益を労働者に配分することなく、株主還元(株高)や内部留保として溜め続ける企業。その当然の結果として、日本の労働分配率は下がり続けている。当然のことだ。

 《表6》――労働分配率
        2000年    2019年
  大企業   60・9%    54・9%
  中堅企業  71・2%    67・8%
  中小企業  79・8%    77・1%

 全ての企業別で労働者への分配が減っており、減少幅は大企業で最も大きい。表7で見るような直近の変動を加えれば、労働者への配分はさらに低下している。

 ある識者は、労働分配率をコロナ禍前の19年の水準に戻すだけでも、12%程度のベアが必要だ、としている。

◆〝強欲資本主義〟

 これまで春闘に関わる賃金水準などの数字を見てきた。これだけ見ても、日本の企業は、収益を労働者に配分せず、株主に手厚く配分し、経営者報酬を増やし、多くを企業内部に溜め込んできた。

 直近の動向を見てみよう。

 この数年間は、円安による輸入インフレやロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー価格の上昇などは確かにあった。が、現実にはコロナ禍での経済低迷が続き、各企業はなかなか値上げに踏み切れなかった。

 現に、22年度のGDPデフレーターは、0・8%の上昇にとどまった。

 GDPデフレーターとは、輸入コスト分を除く、国内の物価上昇のみ数値化したものだ。そのGDPデフレーターの推移は別表のとおりだ。

 《表7》――GDPデフレーター(輸入コスト分を除く国内物価上昇分のみ)

  22年度デフレーター――0・8%上昇――コロナ禍で企業は値上げに踏み切れなかった。
  23年度デフレーター――4・1%上昇――企業は製品・サービス価格を一斉に値上げした。
      内、賃上げ分――0・3%で全体の8%、9割以上が企業収益へ(3年連続過去最高)

 この数字から分かることは、23年度に入ってから、輸入コスト以外の事情で物価が4・1%引き上げられた、というものだ。要は、企業はコスト増を上回る製品値上げを実施し、その内、賃金に配分したのは、たったの0・3%分。残りの3・8%分は、全て企業の懐に入れた、ということになる。これは欧米では〝強欲資本主義〟と批判されているものなのだ。

◆春闘構造の転換を!――支える連合労組―

 なぜ日本の賃金は上がらないのか、なぜ春闘は成果を上げられないのか。

 これまで、何度も言及してきたように、日本の労使関係、賃金闘争の構造自体が閉塞状況下に置かれてきたことに起因する。

 それは日本の産業構造が、大企業の親企業の下にピラミッド構造の下請け関係が形成されていること、同時に、労資関係も企業内組合・会社組合で、企業を横断する産別機能を果たせていないこと、雇用関係も、個人に値付けする雇用システム・職能給で、ジョブ型雇用による同一労働=同一賃金構造とはほど遠いこと、結果的に、企業支配が強固で、労働者の独自の団結した共同闘争が組織しづらいこと等がその要因になっている。目先の闘いと長期的な構造転換の取り組みを結合することが焦眉の課題だ。

 そうした中でも、ユニオン系労組など、まっとうな組合、闘いも確実に拡がっている。いま〝金利のある経済〟が話題になっているが、私たちとしては〝ストライキのある労資関係〟を展望し、足元の闘いと中長期的な課題の実現を結合させた取り組みを強化していきたい。(廣)案内へ戻る


  インド、モディ政権の後退 インドの総選挙の分析

 開票結果によれば、BJP(モディ政権与党)は240議席を獲得し、第1党を維持したが、63議席を失い大幅に後退し過半数の272議席には届きませんでした。しかし、BJPを軸とする与党連合「国民民主同盟(NDA)」は293議席を獲得し、連立を維持してモディ首相(73)は3期目の就任となりました。一方、野党連合の「インド国家開発包括同盟(INDIA)」は232議席となり、与野党の議席は一挙に接近しました。

 インド人民党(BJP)が今回の総選挙で大幅に後退した理由として、いくつかの要因が考えられます。その中で特に注目されるのは農民票の流失とダリット(インドの不可触民階級)離反の影響です。

■小農民票の喪失

 多くの農民は経済的に困難な状況に置かれていました。インフレにもかかわらず農業収入の低迷、作物の価格下落、農業ローンの負債問題などが農民の生活を圧迫し、これが政府への不満となって現れました。

 政府の農業政策が期待に応えられなかったと感じる農民が多かったです。例えば、農産物の最低支持価格(MSP)の設定問題です。MSPが実効的に適用されない、あるいはMSPの引き上げが不十分であるという不満が農民から出ています。特に、MSPが市場価格と大きな乖離がある場合、農民は利益を得ることが難しくなります。インフレは農村部ではこの四月で5%超です。また農業支援策が不十分だとする批判がありました。

 農民による大規模なデモや抗議活動が頻繁に行われ、その中で農民の不満が表面化しました。特に、政府が提案した農業改革法案(農産物の個々の農民による自由販売⇒農民が大商社の買い付けで立場が弱く不利になる)に対する反発が強く、撤回しましたがこれが選挙に影響を与えました。

■ダリットの離反

 インドのダリット(指定カースト、不可触民)の人口は、全人口の約16.6%を占めています。2011年の国勢調査によると、ダリットの総人口は約2億人です。ダリットはインド社会において長い間差別を受けてきた層であり、彼らの社会的、経済的な状況は依然として厳しいです。彼らの多くは農村地帯における農業労働者や小作人だとされます。BJP政権下での政策がダリットの生活改善に十分ではないと感じられたことが、彼らの支持を失う一因となりました。より根本として、ダリットたちはその地位をとりあえず「保護している」現憲法をBJP=インド人民党=モディ達がヒンドゥー至上主義の立場から改憲を目指し、ダリットたちが現在の地位すら喪失することを恐れたと推測されています。

 一部地域でダリットに対する暴力事件が発生し、これが政府の対応に対する不信感を増幅させました。これにより、ダリットはBJPから離反する傾向を強めました。こうしてモディ与党は推進してきた政策や政治姿勢への厳しい抵抗にあい後退したのです。

 その他の要因として地域ごとの独自の問題や利益を代弁する地域政党が台頭し、BJPの全国的な支持を削ぐ結果となりました。長期政権に対する反発感情が強まる中、BJPに対する批判が高まりました。

■都市部でも経済格差や失業でBJP伸び悩み、イスラム差別、政治腐敗も批判

 都市部でも経済の停滞や失業率の上昇が問題となり、一部の有権者が不満を抱くようになりました。特に若年層の失業問題は、BJPへの支持減少に繋がりました。

 一部の都市では、市民運動や抗議活動が活発化し、これがBJPに対する批判の一因となりました。特に、政府の市民権法改正案(CAA)に対する反発が強まりました。この法案はイスラム教徒への差別を含み、それに対して宗派を超えてモディ政治への不信となりました。モディ首相は、イスラム教徒を「外来者」と差別的に表現し、イスラム教徒の関係を意図的に悪化させてきましたが、世俗的な市民もこのような宗派弾圧に対してNOを突き付けた形となりました。
   ◇  ◆    ◇
 すでに実施されてきた「選挙債の発行」と使用には透明性が欠けているとの指摘があり、選挙債詐欺とも言われています。「どう見ても、選挙公債制度は、国家が支援し合法化された金融・政治腐敗の、インドで最も大胆なシステムである」と左翼記事は批判しています。日本の闇献金問題と同じです。大企業や富裕者による政治(家)の買収です。

 インド国営銀行(SBI)とモディ政権=インド人民党との腐れた関係があり、巨額資金が動いているのではないかと推測されます。2017年にモディらが選挙制度改悪したのちは、何しろ寄付者(債券購入者)が誰であるかが公表されていません。つまり、闇の中でインドの大富豪や資本家あるいは海外投資家たちが、無尽蔵にモディ=インド人民党(BJP)に資金を与え、買収している可能性が大です。批判は高まっています。
   ◇  ◆    ◇
 さらにインドの与野党の対立は激化し、総選挙直前に野党連合の有力政治家が逮捕された問題で、野党各党が結集してモディ政権に対する抗議集会を開催しました。逮捕されたのは、デリー首都圏政府の首相で野党側のリーダーの1人であるアルビンド・ケジリワル氏で、酒類販売政策を巡る汚職容疑での逮捕だったとされています。野党への政治弾圧と見られています。ケジリワル氏の陣営は、政治的動機に基づく逮捕で容疑はでっち上げだと主張しています。かくして、モディ政権の狙う、憲法改正や世俗政治を捨ててヒンドゥー至上主義体制への移行はとりあえずとん挫したとみられます。(阿部文明)


   ウクライナ債務は1000億ドル超
     戦争に群がる金融資本/ G7はウクライナ債権を放棄せよ


■ウクライナの階級闘争

 ウクライナはロシアの侵略を受ける以前にもIMFなどからの巨額の借款を抱えてきました。この債務問題は、次第にウクライナ政治に浸透し、欧米的な新自由主義的「構造改革」をウクライナ社会が強要されるという流れとなっていったのです。官僚主義や財閥批判よりは労働者保護法や社会保障制度が攻撃され始めました。組織労働者などの抵抗闘争が多発しました。
【独立ウクライナの階級闘争(上・中・下)ワーカーズ2022年5・6・7月号参照】
   ◇  ◇    ◇
 きっかけは財閥同士の抗争であった2004年オレンジ革命や2014年マイダン革命などの民衆の覚醒の過程で、大衆もまたウクライナ的財閥支配と官僚特権に対する怒りと改革を模索し始めました。

 つまり、ウクライナはこの時点ですでにオルガルヒや特権官僚の保身勢力、欧米資本の流れに与した新自由主義勢力とそしてより徹底した民主主義や個人的権利、自由をもとめる世代が台頭し3つの政治勢力に分裂し始めていました。そんなやさきに、2022年のロシアの侵略が開始されたのでした。
     ◇  ◇   ◇
 かくして、ウクライナによるロシア侵略抵抗戦争は、これらの勢力の闘いでもあり、国内での階級闘争と密接に絡んだものとならざるを得なかったのです。

 ゼレンスキー政権と与党「人民のしもべ」らによる、欧米資本や政府の支援によるロシア勢力の放逐の道です。そしてこれが現在では主軸となって欧米の資金・軍事支援の下、戦争が大規模に継続されてきました。ゼレンスキー政権はこのような新たな局面で、「政治腐敗の撲滅」というスローガンを掲げ国内の保守反動派であるオルガルヒや特権官僚層との軋轢も増しています。
       ◇  ◇     ◇
 他方、より徹底した民衆的で民主的な闘いも前進してきました。多くの労組、労働者が対ロシア戦線で独自の戦いの創造に挑戦しています。この勢力は、対外債務問題にしても政府による労組の弾圧の強化や労働者の権利の迫害にしても、ゼレンスキー政権とは相いれず、独自の主張と運動を持っています。

■ウクライナの債務の帳消しを闘いとろう

 ウクライナの債務が1000億ドルを超え、最近のデータによると、ウクライナの外債は約1220億ドルに達しています。ウクライナの債務は二国間および多国間のローンの混合であり、IMF、G7、EU、米国その他の国際金融機関や民間金融機関からもあります。

 いくつかの借款プログラムの目的は、「経済の安定を維持し、戦後の復興と経済改革を支援することです」 (IMF)。G7諸国、欧州連合(EU)およびその他のドナーがウクライナに対して多額の財政支援を行っています。しかし、さらなる借入は、債務再編や返済不要の助成金が提供されない限り、ウクライナの将来の財政危機につながる可能性があるとの国際的懸念が当然あります 。
   ◇  ◇    ◇ 
 つまり、このような巨額な債務は、返済不能と言うばかりか、欧米日中らの金融資本がウクライナ人民から半永久的に債権者として収奪を続けられることを意味しています。まさに「債務の罠」です。

 そしてよく考えてほしいのですが、ウクライナの豊かな人口と肥沃な土地、リチュウムなどの希少金属などを目当てに「支援」がなされているのです。このような勢力が現在「対ロシア戦争支援」を推進しています。ゼレンスキー政権はまさに国内で彼らの利益の代弁者に成り下がっています。ゼ政権は、ウクライナ人民の利益を国際的金融機関や大富豪らに売り渡して戦争の継続支援を取り付けているのです。許しがたい裏切りではありませんか。
   ◇ ◇    ◇   ◇
 このように、ゼ政府の債務はほかでもなくウクライナの労働者や農民らに結局のところは背負わせられるものです。ゼレンスキー政権とその勢力はウクライナの土地と資源と人民の利益を、対ロシア戦争への巨額支援の担保として欧米日中資本に引き渡しつつあります。

 このようにウクライナ人民の敵はロシア軍ばかりではなく、ウクライナ「支援」で強力な債権者となった外国政府、企業とウクライナに資金を貸し付け、戦争で大儲けしている大手投資ファンドや民間銀行なのです。さらに繰り返しますが国内で彼らと連携しているゼレンスキー政権、与党「人民のしもべ」とその支持勢力です。
   ◇  ◇     ◇ 
 海外の企業はすでにウクライナ戦争で暴利をむさぼっています。だから、彼らが少なくとも債務を一部でも担うべきなのです。

 《ウクライナの侵略によって利益を得ているオリガルヒの資産は、ロシア系、ウクライナ系を問わず差し押さえるべきである。そうすれば、ウクライナ国民の抵抗と国の再建に必要な資金を調達できるだろう。》《実のところ、戦争で利益を得た企業への課税は特に行われていない。武器会社について述べたが、ロシアのウクライナ侵攻の結果、ガス会社や石油会社が得た巨額の利益についても論じることができる。世界の穀物取引の80%を支配する4大多国籍企業を含め、世界中の穀物販売企業の利益も増加している。その中にはアメリカ3社とヨーロッパ1社が含まれている。これらの企業の利益には特別税が課されるべきであり、すべての人々の必要な資金とウクライナの人々を助けるために、遡及も含めて課されるべきである。》(「G7はウクライナ債務の返済猶予を維持するか」International Viewpoint )。

 G7らの政府債権は当然放棄されるべきです。(阿部文明)案内へ戻る


  欺瞞に満ちたゼレンスキー・サミット
  平和を語りつつ戦争継続支援の意図が見える


■偽りの平和サミット

 ロシアと中国を事実上排除して六月の「平和サミット」は開催され、「共同声明」を出して閉幕しました。ウクライナの大統領府長官は、「大きな成功を収めた」と述べ、サミットで採択された共同声明に「多くの国が支持を表明した」と語り、ウクライナ戦争の正当性について理解を得たと成果を強調しました。当然、ロシアの侵略は糾弾されるべき蛮行です。

 今回のスイスで開催された平和サミットを推進したのは、主にウクライナのゼレンスキー政権でした。ゼレンスキー政権は、ロシアの侵攻に対抗するための具体的な計画を提示する場として、このサミットを積極的に推進しました。ゆえにこの「平和サミット」は初めから平和ではなく戦争支援の拡大が目的でした。ウクライナ政府は、多くの国々や国際機関に呼びかけ、広範な参加を求めました。
◇  ◆  ◇
 そもそも「平和サミット」と言うのであれば、戦争や紛争の双方のトップが最低でも出席し話し合う必要があります。もちろんロシアや中国を招き入れても、現段階では「平和」を大きく前進させることは困難でしょう。ところがロシアは最初から排除され、それを見て中国は参加しなかったため、このサミットがウクライナ平和を少しでも前進させる可能性は最初からゼロです。

 すでに述べたように、中露抜きの「平和サミット」は、ゼレンスキー政権の戦争の正当性を認めさせ支援の拡大を図ることです。さらに米国を中心とするG7グループは、中露に対するデカップリング=封じ込め、すなわち戦争の継続と新冷戦の枠組み形成として「平和サミット」を利用しようとしたのです。

■「共同声明」をグローバルサウスは警戒した

 サミットの共同声明では、ウクライナを含む全ての国家の主権や領土保全の原則を再確認し、核兵器による威嚇は許されないこととし。
 ?ウクライナの原発を同国の管理下に置く
 ?ロシアによる核兵器使用やその威嚇を禁止する
 ?不法に連れ去られたウクライナの子どもたちや民間人を帰還させる、などの項目が盛り込まれました。

 当初のウクライナの十項目では到底受け入れられないので、サミットは賛同国を増やそうと三点に絞りましたが、事態の改善にはつながりませんでした。

 主催国スイスを含めて「共同声明」は77カ国にとどまりました。なお主催国スイス政府は、四つの欧州地域機構のみならず、コンスタンティノープル総主教庁までも賛同国リストに含める「強引さ」で水増しさせています。
   ◇ ◆ ◇
 三項目の共同声明に名を連ねた諸国はG7・欧州諸国であり、他方ではASEAN諸国、アフリカや中東、南アメリカなどのグローバルサウスの主要国(インド、インドネシア、ブラジル、サウジアラビア等)は共同声明の署名から外れました。

 グローバルサウスが共同声明に躊躇した理由は勿論、戦争継続を望んだり無関心であったからではなく、あるいは中露への配慮と言ったものだけではありえません。今回の「平和サミット」が、G7諸国による「中露包囲網」の一環であり冷戦体制を形成するサイド・シナリオがありそれを警戒して賛同できなかったのです。

 「平和サミット」が平和への前進が全くなかったのは当然としても、G7諸国の狙いである中露デカップリングと言う点でも成果の乏しいものでした。結局のところゼレンスキーとG7諸国の推進する「対ロシア戦争」遂行が国際的には納得できるものでないことがはからずも明るみに出されてしまったのです。

■ゼレンスキー政権の反動化と堕落、労働者は彼らの戦争を支持できない

 日本ではほとんど報道されることはありませんが、ゼレンスキー政権がロシア侵略戦争以後、腐敗を深め労組や労働者の権利や市民的自由を抑圧していることに対する不満や批判が国内に存在します。この批判はウクライナ国内ばかりではなく、欧州の一部の市民や労働者の共有するところであり、欧州政府もこれらの批判におされた形で「ウクライナの腐敗政治」に不平を言うことになります。こうしたケースで初めて日本でも少し報道されます。

 つまり、現在のゼレンスキー政権による「対ロシア戦争」は、ウクライナ国民の納得するものではなく、欧米資本とウクライナのゼレンスキー政権および「与党人民のしもべ」がタッグを組んだ戦争なのです。彼らはウクライナの「対ロシア戦争」を積極活用し、新自由主義的資本体制への移行として位置づけています。(阿部文明)


  石丸伸二都知事候補の「市民のための政治」「一極集中から地方分散へ」は本物か?

   石丸氏という異色の新人が都知事選に出馬すると話題です。

■「市民のための政治」

 調べてみると、元安芸高田市前市長の石丸氏の政治に対する考え方は、「政治は市民のためにあるべき」という信念に基づいているといいます。彼は、市民に選択肢を提供し、政治の機能不全を打破することを目指しているとも。地方政治の利権を打破し健全化や市民参加の促進を強調しています。安芸高田市では市長時代に実践してきたと。これだけを聞けばごもっともです。

 彼の政策の一部として、ネット交流サービス(SNS)と人工知能(AI)を活用して世論を集約し、それを政策に反映させるという考え方を提唱しています。具体的には、SNSを通じて都民の意見を募り、それをAIで分析・集約することで、民意を尊重した政策形成を目指しています。これは、政策決定における透明性を高め、利権政治からの脱却を図るという彼の「政治再建」の一環となっています。
◇  ◆  ◇
しかし、これが直接民主主義に半歩でも踏み出すものなのかは不明です。悪くすれば、結局は執行機関=知事など首長による専横に傾く恐れもあります。そうではなく、AIツールの活用で「直接民主主義の拡大」による議会の特権と首長の権限の抑制、が明確にうたわれるべきだと思います。石丸氏はその点があいまいです。

 裏金議員のように、企業からの事実上の寄付(買収金)をもらい、政治と政策を売却し特権階級になりあがらせてはなりません。企業からすれば政策を金で購入するそして収益増につなげようとします。

 「市民参加の政治」というならば都民・市民が直接に意見を言い、決議することができる制度が必要です。ゆえに議会を軽量化し都や県などの執行機関も首長のみならず主要ポストは選挙でえらばれる必要があります。ITは直接民主主義の実現にとってなるほど不可欠ですが道具にしかすぎません。問題はその政治理念の方向性です。

■「一極集中から地方分散へ」

 また、東京都知事選においては、東京の一極集中を是正し、全国各地に経済や政治の機能を分散させることを目指すと。これにより、日本全体のバランスの取れた発展になる。ところが、他方で石丸氏は従来然とした「都市開発」「産業創出」をスローガンとしています(例の神宮外苑再開発にも賛成のよう)。とすれば、矛盾ではないでしょうか。

 富と人口の地域的偏在は資本主義いや階級社会や国家形成に伴う宿痾なのです。「都市」の歴史を考えればそうなります。根はとても深いもので、それを取り除かなければなりません。とすれば、よほどのラジカルな変革(例えば脱成長共産主義を目指すとか)なくして、一極集中の解消とはなりえないでしょう。大都市、とりわけ首都への人・物・金の集中は、こうした権力や富の集中という基盤を乗り越えることなくしては、中途半端な試みにとどまるでしよう。いや、彼の掲げる「都市開発」「産業創出」は、成功した場合には今以上に東京集中を生み出すと考えざるを得ません。(阿部文明)案内へ戻る


   先生の定員を増やして、働き方に見合う給料で豊かな教育体制を

 五月十三日に、中教審『「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)』が文科大臣に手交されました。

 この審議のまとめでは、一九五六年から障害のある子どもたちの教育に関わっている職員に支給されている「給料の調整額」の見直しについて、触れられ削減の可能性があります。長時間労働削減のことについては、全く言及されていません。他にも私たちの労働条件を脅かす項目がたくさんあります。

 給料の調整額とは、特別支援学校などの「職務の複雑、困難若しくは責任の度合いまたは勤務の強度、勤務時間、勤務環境その他の勤務条件」が著しく特殊な職員に支給されているものです。調整額の趣旨は、「心身の障害を持つ児童・生徒の教育をつかさどる勤務の特殊性を考慮」して本給の四%の支給から始まり、二回の行政改革のもと削減されました。

 知的・発達障害を併せ持つお子さん、聴覚、視覚に障害がありさらに知的障害を併せ持つ重複障害といわれるお子さんが増えています。子どもの日々の状態により関わり方まちまちです。決まったカリキュラムどおりに動けない時もあります。豊かな教育を目指しての職員間の議論をする時間も減り、決して勤務時間どおりに仕事は終わりません。

 コロナ禍で歓迎会など飲み会の機会が減り、また評価という縛りもあり、若い先生は自分の悩みを勤務時間中ではなかなか相談できず、完璧を求めるあまり心労の疲労が重なり病気休暇で休む先生が増えています。その代わりの補充の先生は見つかりません。仕事が増えてますます時間どおりに退勤することができません。

 発達障害のお子さんは、思いどおりに言葉が出てこなく手が出てしまうことが多々あります。自分の気持ちが相手に伝わらなかったことで、感情がたかぶり、暴れたり壁を殴ったりしている時は、大変興奮しています。子どもが怪我をしてしまう時もあります。怪我しないように行動を止めるにも、一人の職員だけでは足らない時もあります。そういう時は、子どもの気持ちを否定せずに話を聞き、受け入れ気持ちが落ち着くまで見守っています。落ち着いてから、暴れるのではなく、相手に口頭で気持ちを伝える手段を一緒に考えていきます。毎日毎日見守って、口頭でうまく話せるように後押しの支援をしたり、うまくいったら一緒に喜んだりしたりしながら子どもたちの成長を願っています。生きづらい子ども達のために、本人たちが困っていることを引き出すためには、人手と時間が必要です。そんな教職員の給料がまた削減されようとしていることは、許し難いことです。

 豊かな教育を実現するためには、少人数学級、教職員の定数見直しが必要です。残業手当がない給特法の中での調整額削減の見直しには反対していきたいとおもいます。(宮城 弥生) 

 
  読書室 『人類の起源:古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』篠田謙一著 中公新書 本体価格九百六十円

〇 これまで人類の進化の研究は化石人類学者を中心として進められてきたが、ここ十年前から古人骨に残されたDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりに人類の足跡を探る古代DNA研究が飛躍的に発展した。

そのため、化石等だけでは知ることができなかったホモ・サピエンス(現生人類)の誕生の状況やアフリカから世界に広がった人類集団の動向について、驚くべき事実が明らかになった。本書はその研究の全体像の解説である 〇

古代DNA研究の飛躍的発展

 一八五九年、ダーウィンは『種の起源』を発表し、現存する生物種は適者生存等、種が生存する諸条件の下で進化して現在に至ったことを明らかにした。まさに革命的考え方である。当然にも、では人間の由来とはどのようなものかを問うものとなっていく。

 だがキリスト教との絡みでダーウィンは実に慎重にふるまった。彼が『人間の由来と性淘汰』を発表したのは実に十二年後の事。それ以来、人間の進化の追求が開始されたのである。

 これ以降、多くの化石人類学者が人類進化の証拠を求め世界中の地層を探索した。そして百五十年間の努力の結果、現在までに人類進化の大道筋が提示された。それによると、約七百万年にはチンパンジーの祖先と人類の祖先が分かれ、二百年前には完全な直立二足歩行や脳容積の急激な拡大を特徴とするホモ属の登場が明らかにされたのである。

 ところが今から十年前、古人骨に残されたDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりに人類の足跡を探る古代DNA研究が飛躍的に発展した。そのため、化石等だけでは知ることができなかったホモ・サピエンス(現生人類)の誕生の状況やアフリカから世界に広がった人類集団の動向について、驚くべき事実が明らかになってきたのである。

 本書はそれらの研究の全体像の解説であり、著者は、現国立科学博物館館長である。

新しくわかった事実

 これまで人類進化の研究の支配的考え方では、原人(ホモ・エレクトス)→旧人(ホモ・ハイデルベルゲンシスとネアンデルタール人)→新人(ホモ・サピエンス)と単系的かつ段階的に発展してきた、そして二百万年前に原人の段階で世界各地に広がった人類がそれぞれの地域で独自に進化し、各地に住むホモ・サピエンスとなっていった、とされていた。

 しかし古代DNA研究によって、以下の事実が新たに判明したのである。

 アフリカで二十万年前に誕生したホモ・サピエンスは六万年ほど前に「出アフリカ」を成し遂げ、旧大陸に先住していたネアンデルタール人やデニソワ人等の、ホモ・サピエンス以外の人類と交雑しながらも彼らを駆逐し(ホモ・サピエンスは彼らと比較し生殖や言語能力に関する遺伝子が優れていたと想像される)、世界に広がったのであった。

 現在、世界にはホモ・サピエンスという一属一種の人類だけが生存しているのだが、数万年前まではネアンデルタール人、デニソワ人という異なる人類が生存しており、地球上でホモ・サピエンスは彼らとまさに混交しつつ、共存し生活していたのである。

 ホモ・サピエンスはネアンデルタール人のDNAを持っていた。まさに衝撃ではないか。

アフリカこそ人類誕生の地

 アフリカ(特にサハラ以南のアフリカ)は人類誕生の地であり、人類史の中でとりわけ重要な意味を持っている。ホモ・サピエンスは他のどの地域よりも長くアフリカ大陸で生活しているから、アフリカ人同士は、他の大陸の人々よりも大きな遺伝的変異を持っている。人間の持つ遺伝的な多様性の内、実に八十五%まではアフリカ人が持っていると推定される。

 またアフリカには世界中に存在する言語の三分の一に当たる、約二千の多様な言語が存在している。すなわちそれだけ数多くの多様な人間集団が暮らしていたのである。

 約四千年前にアフリカ西部のカメルーンやナイジェリア地域で農耕が始まり、それによって人口が飛躍的に増加。そこからバンツー系農耕民の移動が始まり、アフリカ大陸各地に広がっていった。

 普通の教科書では、「アフリカでの人類の誕生」の次に世界の「四大文明」の記述と移っていくが、当然のことながらアフリカ大陸においても農耕や牧畜が盛んになり、アフリカ独自の文化が発展していったのである。

人類は六万年前に「出アフリカ」を成し遂げた

 六万年前に「出アフリカ」を成し遂げた人類は、今のイスラエル方面を通ってユーラシア大陸へ、ヨーロッパやアジアへと広がり、アメリカ大陸に広がっていった。

 アメリカでは、古代DNA研究が始まるまでは、「現代のアメリカ先住民が持つヨーロッパ人と共通の遺伝的要素は、コロンブスの新大陸発見以降の混血によってもたらされた」と考えられていたのだが、古代DNA研究の結果からは事実はそのようではなかったのである。<br> 二〇一四年、ロシア・バイカル湖近辺の遺跡から出土した古人骨のゲノム解析から、彼らのゲノムが、現代の新大陸の先住民にも共有されていることがわかった。

 すなわち出アフリカの後にユーラシア大陸に展開した集団は、三万九千年ほど前に東西に向かう集団に分かれ、その内東ユーラシアに向けて展開した集団から、南回りで東アジアに向かう集団と、北回りでシベリアに向かう集団が生まれた。

 その結果として、彼らのゲノムが現在のシベリアの先住民やアメリカの先住民に受け継がれていたということなのである。

日本人の「二重構造モデル」は否定された

 日本人については、従来「二重構造モデル」という、先に日本列島に到着していた大陸由来の均一な縄文人がおり、そこに稲作文化を持った渡来系弥生人が北部九州にやってきて混血が進んだとの見解があった。

 しかし古代DNA解析によると、縄文人は列島内において均一化されてはおらず各地域によって多様性があった。

 著者は、列島の日本人について「主に朝鮮半島に起源を持つ集団が渡来することによって、日本列島の在地の集団を飲み込んで成立した、と考える方が事実を正確に表している」と述べているのである。

 このことの詳細に関しては、関心がある読者もいるであろうが紙面の関係で詳しく展開できない。ぜひ本書を熟読していただきたいと私は考える。

「人種」概念は、恣意的なもので科学的なものではない

 著者は、以上の遺伝学研究の成果から「世界中に展開したホモ・サピエンスは、実際には生物学的に一つの種であり、集団による違いは認められるものの、全体としては連続しており、区分することができない」「すべての文明は同じ起源から生まれたものであり、文明の姿の違いは、環境の違いや歴史的な経緯、そして人々の選択の結果である」という点を強調している。<br> そしてこの指摘こそは実に重要で的確な指摘であると私は考える。

 そもそも「人種」概念自体、欧米列強がアジアやアフリカ、ラテンアメリカの異なる人間集団に遭遇した時、その肌の色等、人間の持つ生物学的側面に注目して作り出した恣意的なもので、科学的なものでもなんでもない。私はこのことを声を大にして訴えたい。

 欧米の為政者が行ってきた植民地主義は、黒人等の有色人種をサル等に例え「人間よりも劣った獣」だとし、良心の呵責なく侵略と虐殺、富の略奪をくり返してきたのである。

 その意味においてキリスト教が果たした役割は、歴史的に最悪といわねばならない。

アメリカ建国はイスラエル建国と同じ

 二〇二〇年実施のアメリカ国勢調査では、先住民のインディアン(ネイティヴ・アメリカン)は、アメリカ総人口の約二%の九百万人、政府承認の部族は五百七十四もあり、各部族はその居住地で自治が認められている。勿論居住地を離れた暮らす人々も数多い。

 実際、アメリカではインディアンを赤人として虐殺しつつ、強制移住によって彼らを厳重に居留地に封じ込めたのだ。また公民権運動により法律では平等をうたいつつも隠然とした黒人差別は今なお続いている。

 さらに二十一世紀に入って以降も、公立学校で進化論を教えることを禁止する運動がある。アメリカの熱狂的な宗教的原理主義者は、今でも「人間は神によって創造された」と公然と主張する。まさに先住民のインディアンを虐殺・駆逐し黒人奴隷を包含したアメリカ建国は、歴史に深く刻印されたアメリカの原罪である。

 こうした先住民の血にまみれて建国したアメリカだからこそ、パレスチナの地に無理やり建国したイスラエルに理解を示すのであり、イスラエルのパレスチナ人虐殺を良心の呵責なく平気で支持するのである。確かに反対する勢力はあるものの、その声は弱い。

 またアメリカはナチスに影響を与えた、民族に関する優生学の隆盛の国でもあった。

 イスラエルのユダヤ教の選民思想は生き続け、パレスチナ人の虐殺を正当化している。

 人類の起源の謎を解き明かす、最新研究の本としてぜひお薦めしたい。(直木)案内へ戻る


  何でも紹介・・・ 「袴田再審裁判、静岡地裁前の支援者Kさん」

昨年10月、57年もの長い闘いを経てようやく始まった再審公判は、今年5月22日の結審まで15回開かれた。全国から多くの支援者が駆けつけたものの、一般の人のための傍聴席はわずか26席のためほとんどの人が入ることができない。それでも多くの人は遠方から駆けつけた。毎回大阪発6時15分の新幹線で通い続けた女性、東京から高速バスで来た小学生、あるいはハワイからも。

その中の1人Kさん(74歳)はほぼ皆出席。群馬から在来線を乗り継いで片道7時間、地裁の傍聴受付の8時40分に間に合うよう静岡に前泊、裁判当日も夕方の記者会見終了を見届けその日も静岡泊まり、という。

Kさんは、事件の凶器のクリ小刀を販売したとされている沼津の刃物店の息子さん(事件当時は高校2年)。ご両親は、57年前の第一審で検察側証人として出廷し、母親は「(袴田さんが店にクリ小刀を買いに来た)見覚えがある」と証言。これによってクリ小刀が凶器とされた。後に結局死刑判決が出された。

群馬在住のKさんは、昨年2月に母親が97歳で亡くなるまで介護。その中で10年前、母のつらい告白を初めて聞く。「必死な思いで見覚えがないと言ったのに聞き入れてもらえず、見覚えがある、と証言させられた」と。母親は自分のこの証言で死刑判決になったと生涯気に病んでいたという。Kさん自身一審当時、裁判所から帰った母親が「証言の仕方って教えてくれるのね」と言っていたことをはっきりと覚えている。

こうしてねじ曲げられた母親の証言を、今回の再審でも検察は平然と持ち出し繰り返し有罪を主張した。Kさんは、心底やめて欲しいと憤る。
10年前に亡くなった父親もクリ小刀を熟知しており、生前「クリ小刀で殺人は無理だ。何カ所も切りつけたら刃はボロボロになる」と言っていたという。

静岡地裁前でいつも多くの支援者の集まる中、ひっそりと片隅で立ち続けるKさんは、毎回自責、贖罪の念から参加しているという。袴田ひで子さんに直接会い、母親のかつての証言を謝罪したところ「あなた方も大変だったでしょう」と、ねぎらいの言葉が返ってきたという。それでも無罪判決が出されるまで、Kさんの心は晴れることはないだろう。誤った裁判は、冤罪被害当事者だけでなく、その周囲にも多くの犠牲者を生み出す。

6月13日「再審法改正実現をめざす超党派の国会議員連盟」第5回総会の場で、自民党の参院議員が法務省の卑劣な行いを暴露した。すなわち5月22日静岡地裁結審での検察の論告要旨を一部の自民党議員に配布していたと。弁護側の要旨の方は無く「読んだ人は検察庁の言い分が正しいと思う蓋然性が高いのではないか」と問題視。6月の時点で議連の加入者は308人にのぼり、その半数が与党自民党所属という現実を前に法務省は慌てたか。「検察こそが正しく何ら法改正は必要ない」とのメッセージを送るため悪知恵を働かせたか、卑劣極まりない。自責・贖罪の念はひとかけらも見当たらない。(澄)

★6月30日(日)午後13時半~16時 清水テルサ6階
    「袴田巌さんに完全無罪判決を!清水集会」
   ※間光洋弁護士が「弁護団は再審公判で何を主張してきたか」を報告
★9月26日(木)午後2時より静岡地裁にて「判決」言い渡し(午前9時頃より傍聴受付開始)案内へ戻る


  色鉛筆・・・再審法改正に向けて 今、変えるとき

 6月15日、大阪弁護士会主催の「えん罪防止・救済連続企画VOL・1」に参加してきました。この企画は日弁連再審法改正全国キャラバンの一環で、市民集会として呼びかけられたものでした。最初に袴田事件弁護団製作(2023年)による「凍り付いた魂 袴田巌に襲い掛かった死刑冤罪」が上映され、保存された当時の白黒の映像が紹介されました。

 この集会では、再審関係者3名が登場、袴田ひで子さん、青木恵子さん(東住吉事件)、阪原弘次さん(日野町事件・獄中死した阪原弘さんの長男)が、再審法改正への思いを熱く語りました。全国には、他にもメディアでは取り上げられていない再審請求人が多数おられます。司法が検察の杜撰な捜査や虚偽の証拠を鵜呑みにしていることが明らかです。

 そもそも、現行の再審法をなぜ改正する必要があるのでしょうか? 驚くことに再審手続きは70年以上法改正されておらず、ほとんど規定がないというのです。規定がないということは、裁判官の姿勢次第ということです。これにより、再審の手続きの進め方に「再審格差」が起こっている、こんな許し難い現状があるからです。

 袴田事件では、弟1次再審請求申し立てが1981年、その後の地裁、高裁をへて2008年最高裁で棄却決定と、実に27年間も費やしているのです。第2次再審では2010年に証拠開示がなされ、2014年に袴田さんが釈放されましたが、検察官抗告が2次再審をも長期化させました。改正法が出来れば再審規定が作られ、再審請求を受ければ原則2ヵ月以内に再審請求手続期日を決めるなど、審理の公開、迅速化にもつながっていきます。

 そもそも、再審請求は冤罪の人を救済することが目的の手続きであることを、検察官は理解しているのでしょうか。自分たちの過ちを素直に認め謝罪すべきです。再審法改正プロジェクトは様々な形で動き出しています。パンフレット作り、対談形式の読みやすい新聞、各地での集会、国会議員への働きかけなど創意工夫されています。2024年3月11日、超党派による国会議員連盟が発足され 設立時の入会議員は134名でしたが、300名に増えています(6月5日現在)。また、再審法改正を求める意見書が採択されたのは、6県府議会、258市町村議会、個人では知事、区長、市長の賛同表明が届いています。再審法改正は、冤罪被害者への救済と冤罪発生を防ぐことにつながり、法成立は間に合わなかったけれどこのプロジェクトの動きは、判決を待つ袴田さんへの追い風となるでしょう。皆さんも議会への働きかけ、やってみましょう。(恵)


  今年も「沖縄平和の礎」の名前読み上げ運動に参加する

 太平洋戦争の沖縄戦から79年、6月23日の「慰霊の日」。

 住民が追い込まれた本島南端の激戦地、沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園では、今年新たに「平和の礎」に刻まれた戦没者ら181人の名前が読み上げられた。追加刻銘も含め、「平和の礎」に刻まれた名前は計24万2225人となった。

 残念ながら今年の「沖縄慰霊の日」の沖縄全戦没者追悼式に参加することが出来なかった。

 しかし、今年も「静岡・沖縄を語る会」は6月23日の沖縄慰霊の日に向けて、沖縄戦の犠牲者の名前を読み上げる「沖縄『平和の礎』名前読み上げ運動」を19日に取り組むことが出来た。

 この「読み上げ運動」は3年目となる。沖縄戦の犠牲者の名前を全国各地で読み上げる「沖縄『平和の礎』名前読み上げる集い」で、オンライン会議システム「ズーム」を通じ、全国の参加団体が6月1日から20日にかけて沖縄戦で犠牲になった約24万人の氏名を読み上げる運動である。

 6月19日(水)午後、静岡の沖縄情報館に読み上げ者が集まり沖縄戦での静岡県内の犠牲者1,715名の名前を読み上げる予定であったが、機器の故障で全ての静岡県の犠牲者の名前を読み上げることは出来なかった。大変残念であった。

 しかし、会の池田代表は「亡くなった1人1人の人生を思うと、胸が張り裂けそうになる。世界中で戦争の危機が高まる今だからこそ、平和への思いを絶やしてはいけない」とその意義を述べた。

 23日の「慰霊の日」に参加出来なかったので、お昼にNHKテレビで「沖縄全戦没者追悼式」を観ていた。その時、一番印象に残ったのが高校3年生仲間友佑君の朗読「平和の詩/これから」であった。

 「79年間紡いできた平和のへの思いを『これから』につなげたい。戦争を経験した曽祖父らの世代に思いをはせてきた。世界から戦争がなくなる未来を信じ、23日の沖縄全戦没者追悼式で平和の詩『これから』を朗読した。」

 仲間君は「詩を書いた理由は怒りだ。ロシアによるウクライナ侵攻やバレスチナ自治区ガザ情勢を伝えるドキュメンタリー番組で、負傷した子どもの映像を見た。戦争が過去のものではなく、現在も続いているのが悔しくなった。曽祖父からひ孫の自分に、平和のバトンが託された気もしている。詩の中で『手を繋ぐように』と表現した」と。

 平和の詩「これから」の全文を紹介出来ないが、是非とも読んでほしい。(富田 英司)案内へ戻る


  大阪万博は中止せよ!

 大阪万博の会場で発生したメタンガス爆発事故をめぐり、関西経済連合会の松本正義会長は5月27日の会見で、「どこか気の緩みがあるんじゃないかと」と、万博協会の対応に苦言を呈しました。協会の副会長に名を連ねる自身の立場を棚に上げてよく言ったもんです。

 そもそもメタンガスが噴出している土地で開催を強行するというのがオカシイのは言うまでもありません。爆発事故の懸念は払拭されていません。

 気象台は5月28日、大阪市内に大雨警報を発表しました。万博会場の夢洲は工事関係者から水はけの悪さが指摘されています。

 実際、大雨によって会場はどうなるのでしょうか。協会が策定した「防災基本計画(初版)」によると、1時間に約80ミリの大雨をもたらした2018年の台風21号に匹敵する台風が襲来した場合、ザッと次のような被害が想定されています。

 「道路が川のようになる」、「水しぶきであたり一面が白っぽくなり、視界が悪くなる」、「排水機能を超えた雨水が建物1階部分から浸水する可能性がある」、「車の運転は危険」。

 そして、市内から夢洲へのアクセスルートである夢咲トンネルは、冠水もしくは冠水のおそれがある場合に通行止めとなるおそれがあります。実際、昨年6月には大雨に伴う冠水によってトンネルの一部が7時間以上にわたり通行止めになりました。

 孤立化した水害被害になる万博になる恐れがあるというのに、避難経路などの具体策を盛り込んだ「防災実施計画」は、いまだ策定されていません。肝心の実施計画を話し合う安全対策協議会は、内容も資料も原則非公開です。来場者の安全に大きくかかわる会議すら公開しないとは、ひどいものです。 

 大阪府内の小・中・高校生らは、大阪万博へ無料招待される予定です。吉村大阪府知事は、無料招待の対象校の約半数にあたる950校が「参加希望」だと胸を張りましたが、残る半分のうち330校は「未定・検討中」、620校が未回答です。

 大阪万博は入場券もまったく売れていません。目標1400万枚に対して6月7日までの販売はたったの262万枚です。それも企業への押し売りが大半で、一般の人はほとんど買っていません。

6月5日大阪府教職員組合が、大阪・関西万博に子どもたちを無料で招待する事業に対し中止を求める要望書を大阪府教育庁に提出しました。教職員組合は、3月に万博の建設現場で爆発事故が発生し、安全性への不安、会場へのアクセスの脆弱性を指摘しています。

 また、5月には、大阪府交野市の山本景市長が参加を希望する小中学校がなかったことを明らかにしたうえで、「学校単位で行かなくてよい」という見解を示しました。山本市長は6月10日の会見で、「回答があった学校のうち約75%が来場を希望すると回答した」とする大阪府の意向調査の中間発表を批判しました。

 こんな万博にかかる費用は、大阪府と大阪市で1325億円です。大阪市は65歳以上の介護保険料が月9249円で全国一高くなりました。

 万博になどにお金をかけず、上記市民生活に関わることに税金を使ってほしいです。

 大阪万博は中止しかありません。(河野)


  コラムの窓・・・関心領域!

 最近みた映画、主人公はナチス幹部のルドルフ・ヘスとその家族というか、むしろその邸宅というべきか。ルドルフの人となりは、次のようです。

 「ルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス(1901年11月25日生、47年4月16日没)。ドイツの政党国家社会主義ドイツ労働者党の組織親衛隊の将校。最終階級は親衛隊中佐。第二次世界大戦中に最も長くアウシュヴィッツ強制収容所の所長を務め、移送されてきたユダヤ人の虐殺(ホロコースト)に当たり、ドイツ敗戦後に戦犯として絞首刑に処せられた」

 人は見たくないものは見ないし見えない。アウシュビッツ強制収容所と壁を隔てて、プールのある邸宅に住んでいたルドルフ・ヘス一家はそこでの生活を満喫し、とりわけ妻はこの邸宅に執着しています。壁の向こうから音が聞こえる、焼却場の煙突からは時に炎が上がり、当然においも漂ってくる、そういう環境なのに。

 イスラエルの多くの市民がパレスチナ人の死にまるで関心を持たないように、この家族は(ドイツ人たちは)関心を持たなかったと映像は主張しているようです。そこでは、優良なドイツ人以外の劣等な民族、障がい者、社会のお荷物になる人々は排除の対象となって当然だとされます。

 壁ひとつ向こうに対する無関心、例えばこれは「半径○○メートル以内」しか関心がない、電車内でも歩行中でもただスマホの画面を見続けているだけの人だったりして。事実を認識し、考え、判断し、行動することにつながらない、回路が切れていると言うべきか。

 早稲田大学教授の岡真理さんは、これを「関心領域」の外側で現在も続く植民地主義だと論じています。名古屋入管で死亡したウィシュマ・サンダマリさんの告別式に参加したとき、私たちの社会が殺したのであり、私もまたその死に責任を負うていることを、ウィシュマさんの姿とともに我が身に焼き付けたと述べています。

 さらに岡さんは、大英帝国がシオニズムを支援したのは自国の「帝国主義的な利害があると同時に、大英帝国の反ユダヤ主義がある。なぜなら国内のユダヤ人がパレスチナに自分の国を持ち、外に出ていくことは反ユダヤ主義者にとって好都合だからだ」と指摘しています。

 また京都大学准教授の藤原辰史さんは、西ドイツのイスラエルへの賠償は軍民両用(デュアルユース)で戦争で荒廃したドイツの経済復興を可能にしたと述べています。それは日本が「朝鮮特需」や戦後賠償の一環として行ったODAが、日本のアジアへの経済進出を可能にしたのと同様だとしています。

 岡さんも藤原さんもその根源は西欧諸国の植民地主義にある、一方で民氏主主義を掲げながら、戦後もどれほどの暴力が蔓延してきたことか、奴隷労働を必要としてきたことかと告発しています。

 「EUが現代奴隷制資本主義の罪、現代の『地球規模の身分制社会』ともいうべきものと向き合えていない。かなりの部分がもう動くことができず、この地域で労働し、死んでいくという人々。一方に、富を独占しタックスヘイブン(租税回避)をしている大金持ちがいるという越えられない壁が世界全体を覆っているなかで、欧州やアメリカはある意味世界規模の身分制的情況を維持しようとしている」(藤原辰史)

 こんなに難しくつらいことは考えたくない・・・。と、思うこともあるのですが、私たちもまた植民者の視線で世界を見ているのではないか、壁の向こうで行われていることを知らんふりをしているのではないだろうか。まだみていない方は、ぜひ「関心領域」(2023年・105分)をみてください。 (晴)
*公開セミナー「人文学の死 ガザのジェノサイドと近代500年のヨーロッパの植民地主義」(2月13日・京都大学)、ネット検索から引用。

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