ワーカーズ659号(2024/10/1)  案内へ戻る

 立憲民主代表選 独自の左派勢力を育てよう!――野田立民は穏健保守派へ――

 立憲民主党代表選挙が行われ、野田佳彦氏が選出された。すぐ後の27日は自民党新総裁が、10月1日には新首相も選出される。

 野田新代表は、代表選では台湾海峡をめぐる米国のコミットや日米同盟のあり方など、外交・安保関係を左右するテーマについては、いずれも自民党政治を継承するような姿勢に終始した。かつての野田政権による「税と社会保障改革の一体改革」でも、大衆課税である〝消費増税ありき〟で、企業権益や官僚権益を温存するという、結局は自民党政治に追随したのとまったく同じだ。

 〝政権交代で対外関係の悪化を招かないように〟という姿勢では、政権交代の意義が半減してしまう。むしろ有権者による政権選択で生まれた政権としての正統性を主張すべき場面なのだ。

 実際、国内政治にしても、対外関係にしても、政権交代による政策転換は、むしろあって当たり前のことだ。かつての英国のEU離脱など、諸外国の政権交代による外交姿勢の変化など、普通に起こっているのだ。

 代表に選出された野田氏は、選挙中も政権奪取に向けて穏健保守派にもウィングを拡げていく、と、〝中道保守〟路線の立場を打ち出していた。が、それは自民党政治への接近でもあり、立民自体の〝保守派〟への純化にもつながる。

 「岩盤保守」化する自民党と「中道保守」の立憲民主党という保守二党制は、政官財など支配勢力にとって最も都合が良い、安定した政治構造になる。左派的な世論や対抗勢力の伸長を封じ込める事も可能だからだ。現に米国の政治構造は、民主と共和の両党による政治が盤石で、第三勢力はほとんど育たない。

 かつての民主党による政権交代では、〝コンクリートから人へ〟や〝東アジア共同体構想〟など、既存政治に対するオルタナティブ(代案・対案)にもなり得るものも含まれていた。自民党政治由来の構想とはいえ、新冷戦指向の〝アジア版NATO〟構想とは別の道に通じるものだった。

 自民党は〝岩盤保守〟に傾斜し、立憲民主は〝穏健保守〟にシフトする。私たちとしては、〝保守二党制〟に絡め取られることなく、独自の左派勢力の拡大に向けて奮闘していきたい。(廣 9・25)


 野田政権が起案し安倍政権において実現された政策多数~野田氏の政権復帰はごめんだ!

 自民党の総裁選報道が過熱していますが、立憲民主党の代表選が本日(9/23)明らかになりました。躍り出たのが野田佳彦元首相。しかし、彼が党代表となって、何が変わると言うのでしよう。万々が一首相となっても自民党政治の一掃を期待することなどできません。

 野田政権(2011-2012年)の政策のいくつかは、まさに財務省や大資本、ゼネコンや原子力ムラのためにする政治でした。その後の安倍政権(2012-2020年)にも引き継がれ、「発展」させられて多くが「アベ政治」の一部として実現化されました。簡単に野田政権の軌跡を追ってみましょう。

■消費税増税の流れを造った野田政権

 民主党政権下での野田政権は、2012年に消費税を8%に引き上げる法案を成立させました。この法案では、その後10%への引き上げも予定されていましたが、増税時期は後の政権に委ねられました。安倍政権は、2014年に消費税を8%に引き上げ、2019年には10%に増税することを実行しました。

 このように、庶民の生活苦に直結する消費税の引き上げは、野田政権で決定され安倍政権で実行されました。当然、民主党系の野党側は、国民の声を結集することもできず、安倍政権に何ら対抗することは出来なかったのです。これにより、やすやすと野田政権時に決定された消費税増税政策が安倍政権時に実現しました。野田政権は、財務官僚のコントロールや親自民党政治のベースの上に存在したにすぎません。

■自民党・財務省に屈服した「社会保障と税の一体改革」

 野田政権のもとで社会保障の持続可能性を確保しつつ、財政健全化を図るための「社会保障と税の一体改革」が進められました。この改革は、消費税増税とセットで議論され、将来的な社会保障の充実が謳われました。

 特に問題だったのは「社会保障と税の一体改革」における増税分の使途を、社会保障関連費に充てることが前提とされていました。しかしながら、野田政権の詰めの甘さから、なし崩し的「一般財源」だから消費税の財源も赤字財政の補填にも使う、と自公政権下で簡単にゆがめられてしまいました。社会保障の削減と消費税の増税は、安倍政権の中心的テーマでしたが、そのレールを引いた旧民主党系野党は当然のことに太刀打ちできませんでした。こうして消費税アップの一方で法人企業税はその後一貫して下げられ、「世界一企業が活躍できる国づくり」(安倍晋三)が進められました。このように日本の貧富の差の拡大は、安倍晋三と民主系野党とのコラボでしかなかったのです。

■ TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加

 野田政権は、TPPへの交渉参加を表明し、農民の大きな反発をうけ国内で議論を呼びました。当初「TPP断固反対」の自民党でしたが、政権に復帰すると安倍政権は手のひらを返して、TPP交渉に積極的に取り組み、2016年に協定を締結しました。

 その後、アメリカの離脱により、新たな枠組みであるCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)に進化しましたが、日本は引き続きリーダーシップを発揮し、規制の大幅な緩和(保護の撤廃)による海外の安い農畜産物の輸入などによって、日本農業の衰退に拍車がかけられ食料自給率はさらに低下し、「令和の米騒動」の一因を作ってきたのでした。

■ゼネコン主体の震災復興対策

 野田政権は、2011年9月に発足すると、震災復興のために大規模な予算を編成し、国が主導して復興支援に取り組みました。被災地のインフラ再建、住宅の再建、がれき処理、沿岸部の防潮堤建設など、多くのプロジェクトが含まれました。こうした大規模な復興事業において、多くのインフラ再建プロジェクトが全国規模の大手ゼネコンに発注されたことが、「ゼネコン主体の復興」と被災地住民より批判されました。

 道路や橋の再建、防潮堤の建設、住宅地の高台移転といった大規模土木事業は、技術力と資金力のある大手ゼネコンが中心となって県などと計画の中心を担いました。その結果、地元住民の復興の新しいイメージや地域づくりの希望が阻害され、誰のための復興なのか?ゼネコンのための復興事業ではないか!と厳しく批判されました。

■原発再稼働の先鞭をつけた野田政権

 野田政権は、福島第一原子力発電所事故後の原発政策において、「脱原発依存」を掲げつつも、「現実的対応」として関西電力の大飯原発3号機・4号機の再稼働を決定しました。これにより、電気は足りていたにもかかわらず、2012年に大飯原発が再稼働し、日本で震災後初めて原発が稼働することになりました。野田政権は原発ムラの巻き返しに抗することができずに、大きな後退の一歩を踏み出してしまいました。

 こうした「風穴」を活用して安倍政権とそれ以後の自公政権と「規制委員会」は、現在に至るまで再稼働をごり押ししています。

 以上の政策は、野田政権が起案または推進したものであり、安倍政権において実現されたか、あるいはその方向性が継続された例です。このような野田政治の復活を許すことは出来ません。(A.B)案内へ戻る


 まるで「竹中進次郎」 親譲りの聖域なき保護法破壊と日米軍事同盟の推進


 自民党総裁選に出馬した小泉進次郎氏ですが、彼の政策は父である小泉純一郎元首相の影響を強く受けており、新自由主義的な政策が特徴的です。本日の時点(9/23)では新総裁は決定されていませんが、新総裁最有力とされる小泉進次郎氏のこれまでの主張や政策を取り上げて検討してみましょう。

 新自由主義(ネオリベラリズム)は、1980年代以降に米国や世界に台頭した経済思想で、市場原理の尊重や政府の介入を最小限に抑えることを建前として重視します。政治家の代表格は進次郎氏の父である小泉純一郎氏であり、国内の政策プレーヤーとしては竹中平蔵氏などが有名です。進次郎氏の政策は完全に彼らの政策に沿っており、以下のような特徴が指摘されます。

■「市場にゆだねよ!」目指すは解雇の自由化

 新自由主義の主要な柱は、政府の規制を緩和し、自由競争を促進することです。小泉進次郎氏は、父の純一郎氏と同様に、経済活動の効率化を図るために、企業の自由な活動を重視し、「過剰な」政府規制を排除する方向を目指しています。彼は「解雇規制(労働者保護)」のを緩和(事実上廃止)することを、総裁選の一番目の重点公約に掲げています。

 また、「ライドシェア」ということで、タクシー会社の枠を撤廃することを推進しています。ライドシェアドライバーは、一般的な労働契約がなく、労働条件が不安定です。社会保険に加入していないケースが多く、社会保障の面で不安です。他方、既存タクシードライバーの解雇が促進されると予想されます。このように労働市場や企業への規制を緩めることで、進次郎氏らは企業や個人がより柔軟かつアクティブに経営や生計戦略を展開し経済にダイナミズムが生まれると考えます。

 しかし、現実には法律でそれなりに保護されたタクシードライバーの解雇が進み、無保証のライドシェアドライバーに置き換わってゆくことになるでしょう。働く労働者に多くのしわ寄せが予想されます。言うまでもなく、労働者を「首切りやすくする」「流動化させる」と言う政策が、経済の「ダイナミズム」(進次郎)や日本経済の「再生」につながるはずもありません。

■進次郎による「農協改革」の破壊力

 小泉純一郎元首相が行った代表的な政策の一つが、郵政民営化でした。進次郎氏も同様に、公共事業や公的部門の民営化を進めることで、効率を追求し、国家の財政負担を軽減する方向性を打ち出す可能性があります。すでに彼がかかわった「JA農協改革」などにその片鱗が見えます。農協が本来の役割を果たせずに「改革」が必要であることは認められるにしても、小泉氏の農業改革は、現在の「平成米騒動」遠因ともなったのでした。

 小泉進次郎氏の政策は、従来の保護主義的な農業政策を全否定し、競争力を重視する新自由主義的な方向へと舵を切りました。これには、農業者が直接に市場に依存し、競争原理を取り入れることで、自己責任を強調します。

 例えば、農協の農民に対する独占的な地位を縮小し、民間企業や外国企業とも競争できる環境を整備することが目指されました。また、農地法の改正や農地集積化の促進を通じて、大規模な農業経営者が利益を最大化できる新自由主義的仕組みが強化されました。

 しかし、進次郎氏の改革は、JA農協をやみくもに弱体化させることで、個人農をますます孤立化させました。当然にも、老齢化した個人農には、弱肉強食な外国資本との市場競争は不適切であり、米価は下がり続け、全国の農業の衰退は加速しています(もちろん、生産性の悪い個人農の整理解消は進次郎改革の目的の一つでした)し、当然、食料自給率は低下の一途です。

 さらに、自公政権は農業生産力の「削減(減反)」を政策として長期に推進し、個人農中心の農業を解体の淵に追いやっています。日本の食を守るためには、その反対の道、すなわち政府によるコメの価格保証や農家の所得補償などの手厚い保護政策こそが大切なのです。

■偽りの「財政健全化」と日本経済の衰退

 進次郎氏は父同様、そして「後援者」である菅元首相のように「自助」「自己責任」を基本とし、社会保障費を削減し財政赤字を抑え、「健全」な国家財政を維持することを重視すると主張します。しかしそれは建前論にしかすぎません。

 自公政権の族議員を通じた業界団体、各経済団体の利権に税金を長年無意味に投入するなど、巨額の浪費を作りながら、一般庶民に対してはあろうことか、国家の過度な借金を問題視し社会保障などを目の敵にして歳出を抑え、さらに消費増税を推進することで財政再建を目指します。これが新自由主義の財政政策の特色です。

 進次郎氏が重視する政策として、社会保障費の削減や無駄な公的支出のカットなどが挙げられます。彼は「65歳以上が高齢者というのはナンセンス」「現役世代の定義を18~74歳に変更」といい、年金の受給開始年齢は「80歳でもいいのでは」と語ったといいます(日刊ゲンダイ)。財務官僚と資本の代理人である進次郎氏の本音でしょう、酷い話です。

 彼によれば、企業経営を自由化し活性化すればよく、そうすれば経済成長を通じて税収を増やし、財政健全化を図るとします。しかし、父の「小泉改革」以来、日本の経済は何十年間も衰弱の過程にあり、かろうじて自動車などの輸出産業が健闘し、さらに、「円安⇒インフレ増税」が働き、その分の税収は若干伸びた年もありましたが、小泉改革とは全く無関係と言わねばなりません。父小泉改革以来、歴代政権は庶民の負担額だけを増大し、岸田首相が「増税メガネ」として批判を浴びたことは記憶に新しいことです。

■脱炭素社会を市場原理で実現するというナンセンス

 進次郎氏は、環境問題にも関心が強く、特に気候変動対策としての「グリーン経済」の推進に積極的です。しかし、この政策も新自由主義の枠組みで捉えられています。「炭素税」を活用したカーボンプライシング、つまり市場原理を活用して環境技術やクリーンエネルギー産業の成長を促進することで、経済成長と環境保護の両立を目指します。

 しかし、これでは気候危機は乗り越えられません。環境相時代の進次郎氏は、環境政策を経済成長のエンジンと位置づけましたが、日本の脱炭素は一向に進展していません。世界各国でもてはやされた「市場原理を生かした環境対策・脱炭素」など、そもそもナンセンスなことです。

■憲法改悪と日米軍事同盟

 小泉進次郎氏は、国際情勢の変化や日本の安全保障を強化するためには、憲法を現代の状況に合う形で改正する、自衛隊の存在を明確に憲法に記載するべきだと主張、「国民投票にかける」と公言しています。

 彼は、2006年から約1年間、米国のシンクタンク、CSIS戦略問題国際研究の研究員として勤務していました。彼は日本部に配属され、日本政治や日米関係などを研究していました。この経験を通じて、ワシントンD.C.に駐在している日本のエリート官僚や政治家と交流を深め、国際的な視野を広げたとされます。彼の米国寄りの政治スタンスは明らかです。日米同盟を基盤とする危険な日本の軍事拡大に彼はどんな危険性も感じていないようです。仮に、小泉進次郎政権ができたとしても、断固反対して闘わなければなりません。

 最有力総裁候補とされる小泉進次郎氏の、政策や発言をまとめて批判しましたが、他の有力候補である、石橋氏、高市氏にも当然共通する内容となっています。(阿部文明)案内へ戻る


 岐路にあるウクライナ戦争 「和平」なのか?それともエスカレーションなのか?

■ロシア国民の動向
 
 ロシア国内での核兵器「使用やむなし」の世論が高まってきていることは残念ながら事実です(47news)。この世論は、プーチン政権の背中を押すものでしよう。そもそも、ロシアのウクライナ侵略は、ロシア権力層の野望だけで実行されたのではなく――ロシア当局によるイデオロギー宣伝もあり――それを後押しする国民的な大ロシア主義(ウクライナ、ベラルーシなど旧ソ連邦の再統合)という世論的合意も追い風として活用したものでした。その意味で、今、問われている「ロシアによる核使用」も可能性が高まってきたと危惧されます。
 
■戦争二年半、消耗戦と西側の関与の変質
 
 プーチンは、この野蛮な侵略戦争を国内的には「ロシア語話者を救済し、ウクライナのファシストを退治する」「小規模な特殊作戦」と主張しており、現在までその姿勢を変えていません。しかしながら、戦争はウクライナの抵抗と欧米諸国によるウクライナ軍事支援で長期化する様相を見せています。欧米諸国資本は、人口と資源豊かなウクライナの経済的抱き込みという企図を持ち、ゆえに、ロシア侵攻に介入し軍事支援は大規模に継続されてきました。しかし、西側の支援もまた大きな壁に当たっています。

 現時点における軍事情勢は、激しい消耗戦と化し、人員・物量でウクライナを凌駕するロシアの優位で推移してきています。ハルキュウ、ドネツクでもロシア軍が占領地域を拡大。それを打破するために、支援する西側諸国とウクライナ政府は、軍事支援の「質」をロシア本土攻撃の拡大として、すなわちより長距離のミサイルなどへと切り替え、欧米の武器使用による軍事行動をロシア領土も含む範囲で実施されるようにエスカレートさせることを計画しています。

 戦争が、欧米製武器による、ロシア本土への攻撃が飛躍的に増大すれば、ロシア国民の世論も、さらに「核攻撃」へと誘導されるに違いありません。ウクライナ都市あるいはエネルギー施設、軍事施設を核攻撃する現実性を考えざるを得ません。すでにドローンなどによるロシア深奥部位への攻撃はウクライナ軍により活発化しています。ゼレンスキーの「和平案」「戦争終結案」は欺瞞的であり、実際この戦争は新たな拡大局面にあります。
 
■ロシアの核使用ハードルは下がりつつある
 
プーチンは、何回も「戦術核使用」を語ってきましたし、それが、昨今の欧米諸国の支援の変質で実行に移される可能性は、高まりつつあると言わなくてはなりません。

 ロシア政府としても、核兵器使用は、デメリットが大きいと考えられてきました。それは、国際世論からの激しい非難が予想され、ロシアの孤立がさらに深まると考えられてきました。しかし、ロシアの孤立は来るところまで来た感があります。他方、この戦争の二年半の経過でロシアはすでに、自己の軍事的ブロックすなわちイランや北朝鮮の軍事支援を固めています。政治的、経済的には、中国、インドあるいは西アジアの諸国が間接的にアシストし(迂回貿易やロシア産エネルギーを購入するなど、相互利益を図る)体制を構築しています。残念ながら、万一にもロシアの戦術核使用と言う新展開があっても、これらの関係が解体する可能性は低いでしょう。

 むしろ、ロシアの核使用へのブレーキがあるとすれば、それは、核汚染によるものです。ウクライナは、ロシアやベラルーシそしてヨーロッパに隣接しています。チェルノブイリ原発事故による放射能汚染が、ウクライナ、ロシア、ベラルーシさらには北欧やドイツ、ポーランドなど広範に及びました。戦術核使用が、小規模な目標への限定核攻撃、例えば敵の戦車部隊や野戦基地などを攻撃するためのものであったとしても、戦局を大きく変えるためには多数の戦術核兵器が使用されざるを得ず、この広域核汚染問題は、戦術核使用と言えども問題となります。

 そもそも、ロシアのウクライナ侵略が、ウクライナを属国として国土利用(農業や鉱工業)すると考えるのであれば、それは自己撞着であり、プーチンに対する最大の核使用抑制要因と考えられます。
 
■「核抑止力」を自ら減衰させた欧米諸国政府 ――「相互確証破壊」はウクライナ戦争では成り立たない

 ウクライナによるロシア領土侵攻を容認した欧米諸国政府の責任は重いと言わねばなりません。「ロシアによる核使用の最終レッドライン」はどこにあるのかを、あるいはないのかを彼らは探しています。その先頭に立っているのが、ゼレンスキーウクライナ政府です。これは危険な賭けのようなものです。欧米諸国はプーチンを「試して」います。そもそもウクライナとロシアは「相互確証破壊」(相互核抑止)と言うバランス関係にありません。それはロシアと米国(NATO)との関係であるにすぎません。ウクライナでのロシアによる核使用のハードルはその面からも高くはありません。

 欧米諸国は、ウクライナを軍事支援することと引き換えに巨額の借款を提供し(ウクライナへの債権)てきました。しかしそれが、ロシアの攻勢で、露と消える可能性も出てきました。欧米諸国は、このような状況で、ゼレンスキーが強硬に主張する、ロシア領土攻撃・侵攻という危険な賭けに乗りかけています。

 狡猾な欧米諸国はウクライナをNATOに加盟させず、ロシア・NATO双方が直接交戦したり核攻撃の対象となることを巧妙に避けています。ということは、想定
されるのがウクライナ国内での核使用です。双方が、結果として暗黙に認め合うという悲劇が、ウクライナ人民の前に現実として突き付けられています。(阿部文明)


 独・仏・英旧植民地宗主国と実施された 自衛隊共同訓練の意図

 海上自衛隊の護衛艦「かが」は、2024年10月5日から11月18日まで、カリフォルニア州サンディエゴ沖でF35Bの発着訓練を行います。この訓練では、F35Bの短距離発艦や垂直着艦の可否を確認し、甲板から格納庫への機体の移動など、運用におけるさまざまな段取りや所要時間も点検されます。まさに、日米軍事同盟の新たな強化であると言わねばなりません。この訓練には、海上自衛隊の隊員だけでなく、航空自衛隊からも約20人が参加する予定です。と同時に、「かが」「いずも」は、いずれは世界の海でスティルス戦闘機を搭載する攻撃型空母として、登場が予定されているのです。
    ◇  ◆    ◇
 日本の軍拡は、日米同盟による北東アジア(対中国、北朝鮮)だけに限定されておらず、世界に向けられつつあります。むしろ、「中国の脅威」「北朝鮮の脅威」を大げさに叫びつつ、南西諸島の軍事化要塞化を推進してきましたが、他方では、地球規模で軍事的展開力を試し、欧州諸国とも連携を深めているのです。ここにこそ、「反中」「反北」と言ったレベルを超えた、日本のグローバル戦略が見え隠れするのです。
   ◇   ◆     ◇
 2023年11月に、日英円滑化協定が発効した後、初の共同訓練「Vigilant Isles 23」が実施されました。この訓練は、離島防衛をテーマに、相馬原演習場や新潟県の関山演習場などで行われ、英国からはグルカライフル隊が、日本からは陸上自衛隊の第1空挺団が参加しました。この訓練は、両国の防衛協力を強化する目的で実施されました。

 2023年7月には、フランスと日本の航空自衛隊が共同で空中訓練を行い、これはフランスの大規模なインド太平洋地域での軍事演習「Pegase 2023」の一環として行われました。フランスはラファール戦闘機を派遣し、日仏間の初の大規模な共同訓練として注目されました。この訓練は、中国の軍事的な台頭を念頭に置いた地域の「安全保障強化の一環」とも言われています。

 2024年9月2日、自衛隊の遠洋練習航海部隊がドイツ海軍および空軍と親善訓練を実施したと発表しました。エルベ川河口からドイツ湾に至る海空域において、海上自衛隊から練習艦「かしま」「しまかぜ」、ドイツ海軍からNH-90ヘリコプターとP-3C哨戒機、そしてドイツ空軍からユーロファイターがそれぞれ参加しました。

 日独西共同演習「ニッポン・スカイズ24」: 2024年7月、ドイツ、スペイン、フランスの戦闘機が日本に飛来し、航空自衛隊と共同訓練を実施しました。

 日仏共同訓練: 2024年7月、茨城県の百里基地でフランス空軍と航空自衛隊が共同訓練を実施しました。

 日伊共同訓練「ライジング・サン24」: 2024年8月、青森県の三沢基地でイタリア空軍と航空自衛隊が共同訓練を実施しました。欧州諸国との軍事訓練も、日常茶飯事となっています。

 これらの訓練は、日本とヨーロッパ諸国との防衛協力を深化させ、中東を含みアフリカを臨むインド太平洋地域において、ロシア、イランなど反欧米勢力を威圧けん制するものです。さらに最大のテーマは対中国包囲網形成であり、グローバルノース(旧植民地宗主国)の既得権の護持を軍事的に担保しようとするものなのです。
    ◇     ◆     ◇
 日本は、当『ワーカーズ』において何度か指摘したように、資本の純海外投資残高は意外なことに30年間世界一位です。今では、すべての大陸に利権を持つに至っています。グローバルノースの経済大国である日本は、米国ばかりではなく、ドイツ、英国、仏などの旧植民地宗主国とともに軍事連携を強め、軍事的プレゼンスを強化し、彼らの(日本と同じく)世界中に存在する資本と富、利権を守る決意なのです。

 さらに言えば、米国の相対的衰退の中で、彼ら旧宗主国の日本への「期待」は小さいものではありません。日本の軍事枠組みは、米国を中心として、NATO諸国にも広がっているのです。日本の軍拡は、単に「対米従属派」や安倍晋三のような軍拡右派のごり押しで進んでいるのではないのです。事実「平和主義」の岸田首相こそが、彼ら以上に強引に推進しています。

 資本主義を前提にする限り、次期首相が誰になっても、日本はこの世界軍拡の一翼を担い、米国や旧植民地宗主国らと並んで世界に存在する彼らの資産と利権を護るための軍拡を正当化するはずです。

 現在進行形の自民党総裁選で、「憲法改正」「自衛隊明記」は、立候補者のほぼ共通のスローガンです。今や、日本資本主義の総意として世界規模での軍事計画が進められています。断固曝露して反対しなければなりません。(阿部文明)案内へ戻る


 解雇規制の緩和――変わらない財界優先政治――

 岸田政権は、防衛増税や子育て支援増税などの負担増の枠組み決める一方、統一教会との癒着を精算できず、そのうえ浮上した自民党ぐるみの裏金疑惑の拡がりがダメ押しとなって、首相退任に追い込まれた。9月27日には、自民党の新総裁が選出され、10月1日には、新首相が決まる。

◆選挙の表紙づくり

 総裁選挙自体は、それぞれの候補が党員票や議員票を目当てに、対外的な強硬意見を述べたり、自民党員や有権者受けを狙った政策を打ち出したりしている。が、候補者間討論などでは、世論の動向などを気にしつつ、一夜にして豹変したり、修正したりと、人気取りに腐心しているのが実態だ。

 だが総裁選で語られていることは、あくまでも総裁選対策、総選挙の表紙替えを念頭に置いたもの。現実の政権を担うことになれば、なにを実行するかは、未知数だ。

◆解雇規制の緩和

 総裁選で浮上したテーマは多岐にわたるが、ここでは一点だけ取り上げ、いかに自民党総裁候補が、現実遊離した企業寄りの議論をしているかを見ていきたい。小泉進次郞候補が主張した〝解雇規制の緩和〟の話で、次のようなものだった。

 現行の解雇規制を緩和して、リスキリング(=学び直し)などを経て成長企業(産業)への労働移動を促す、というものだった。本人としては、成長企業(産業)に労働力を移動すれば、成長分野はより一層成長できるし、そこで働く労働者の賃金も上がる、というものだったのだろう。もしかしたら、小泉純一郎政権の「構造改革」を念頭に置いたものだったのかも知れない。

 だが、小泉候補の解雇規制の緩和は、労働者の処遇改善を掲げてはいたものの、結局は企業の都合優先のもので、労働者保護の観点に欠けるものだった。さっそく多方面からの批判に晒され、本人は、《解雇の自由》を主張しているわけではないと、釈明に追い込まれた。

◆整理解雇の四要件

 小泉候補が打ち出した解雇規制の緩和とは、いわゆる〝整理解雇の四要件〟の見直しで、企業が従業員を解雇しやすくすることで労働力の流動化を図る、というものだ。その結果、労働生産性が高い企業に労働力が移動し、企業は成長できるし、労働者の処遇改善にも繋がる、という考え方だ。

 しかし、解雇規制の緩和で、果たしてそうしたもくろみ通りの結果が得られるのか、といえば、そう簡単な話ではない。雇用や争議に関心ある人にとっては周知のことだが、まず整理解雇の四要件とはどんなものか見ていきたい。

  別表――整理解雇の4要件

 1)人員整理の必要性――経営不振など、人員を減らす経営上の理由があること
 2)解雇回避努力義務の履行――希望退職者の募集、役員報酬のカット、一時帰休の実施など
 3)被解雇者選定の合理性――人選が合理的かつ公平なこと
 4)解雇手続きの妥当性――対象者や労組などとの十分な協議、納得を得るための努力


 別記にあるような〝整理解雇の4要件〟は、労働契約法などの法令に基づくものではなく、裁判例の積み重ねで確立してきた判例法、慣習ルールだ。

 この四要件による解雇規制に対しては、主に企業サイドから、解雇しづらい正社員の雇用を減らして簡単に解雇できる非正規労働が増えた、とか、生産性が低い企業から高い企業への労働移動が制限されている、とかの批判もされてきた。今回の小泉候補発言でも、同様の観点から解雇規制の緩和と労働力移動の必要性に言及したものだった。

 しかし、日本での解雇規制の緩和は、労働者の処遇悪化に直結せざるを得ない。

◆カベは日本的雇用慣行

 現状では解雇の自由が原則になっているのはアメリカぐらいで、西欧も含めて何らかの雇用保護、解雇規制がある。それだけ企業の雇用・解雇に関して労働者保護が必要な現実があるからだ。

 その上で、日本は終身雇用と年功賃金それに企業内組合という、諸外国にはみられない日本的労資関係があり、4月一括採用という独特な雇用慣行もある。賃金制度では名目は能力給や成果給など様々だが、終身雇用での生活費を賄うには、結婚、マイホーム、子育て、子供の学費など、かさむ出費を賄える年功賃金にならざるを得ない。その年功賃金の土台の上での転職は、賃金の大幅なダウンが避けられない。転職者・中途採用の賃金は、ごく一部の高スキル労働者を除いて低く抑えられているのが現状だからだ。かつては半減や3分の2レベルへの賃金ダウンも普通だった。だから、労働者としても、自分に合わない職種であっても、職場の上司や人間関係に悩まされても、いやいや我慢して勤続を続けている労働者も多い。当然の結果として、日本的雇用を前提とした転職や中途採用が少ないのは当たり前だった。

 こうした雇用慣行の土台の上で解雇規制を緩和すれば、大多数の転職者=中途採用者の賃金は大きくダウンせざるを得ない。どうしても労働移動を促したいというなら、同一労働=同一賃金、ジョブ型雇用への転換、あるいは同時進行が前提となる。が、そういう方策が進展しているとは言いがたいのが実情だ。

◆調子に乗った〝解雇の金銭解決〟

 付け加えれば、河野太郎候補も〝解雇の金銭解決〟に言及していた。これも財界からの要請に添った発言で、結局は、職場の異端分子、あるいは労組活動家などを、企業が狙い撃ちに解雇する道を大きく開く結果となる。現状でも、争議当事者の解雇が裁判になり、復職の権利を前提とした解決金方式で退職する事例はある。が、それは裁判という争議を挟んだ結果によるもので、企業負担も大きい。それをあらかじめ金銭解決に道を開けば、企業は、一定の解決金だけで排除したい労働者を解雇できるルートが開けるわけで、企業にとっては便利なツールになるが、労組や活動家にとっては打撃となる。

 小泉候補は、他候補などからの批判に、当初の主張はトーダウンさせているが、構造改革や成長戦略の一環として、労働者の権利と処遇の改悪を目論んでいることに変わりは無いことは銘記しておくべきだろう。(廣 9・25)案内へ戻る


 読書室 増田 悦佐著『アメリカ消滅 イスラエルと心中を選んだ史上最強の腐敗国家』ビジネス社 二〇二四年五月 本体価格 千七百円

〇昨年末からイスラエル軍はガザ侵攻を開始し、連日のようにジェノサイドを続けている。彼らはその残虐性を恥じることなく、パレスチナ人には赤ん坊でも罪があり、この殺戮は正当だと声を大に吹聴し全世界に恥じることがない。そしてこれまで世界の警察官を自称しやりたい放題のアメリカ政府はと言えば、「イスラエル無条件全面擁護」の姿勢を崩してはいない。一体何故なのか。どうしてこのような態度をアメリカは取り続けることができるのか。本書は誰もが知りたい、この謎に焦点を当てて根本的に解明したものである〇

アメリカは何時狂ったのか

 七月、九月とトランプは二度も暗殺されかかった。そして今回の暗殺容疑者は銃殺されることなく身柄を確保された。これにより事件の背景は、前回の暗殺未遂事件よりはるかに具体的に暴かれる。そして民主党とネオコンとFBIが浮かび上がることになるだろう。

 それにしても大統領選挙下において二度の暗殺未遂事件が発生したのだ。アメリカ政治はまさに狂っているとしか形容するの他はない。これには多くの人が同意するに違いない。大統領選挙の勝利者がハリスかトランプの何れにせよ、アメリカで内戦は必至だろう。

 では一体アメリカ政治は何時から狂ったのであろうか。その理由と経緯は、如何なるものか。これこそ私たちに突き付けられた問題であり、本書が追求するものなのである。

本書の流れ

序章では、イスラエルへの肩入れの原因を追究する。その原因は第二次世界大戦の終末期に前任者の死去により、突然大統領となったトルーマンにある。彼の野望はルーズベルトを越える業績を歴史に残したいとのことであった。彼は大統領権限の一層の強化とそのための議会懐柔策であるロビイスト規制法を制定した。

第1章では、連邦準備制度との対比でロビイスト規制法が、内実は全く正反対の贈収賄奨励法であったことを詳説する。

第2章では、巨大企業、有力産業団体、大富豪がロビイストにより連邦議会を動かし法律や制度を自分たちに都合よく変えて、利権構造を作るようになった経緯を解明する。この過程で巨大化したのは軍産複合体とイスラエルロビー、医薬品業界と医療機関ロビー、そしてイスラエル国家だった。

第3章では、アメリカでも国民の多数派は、ガザ侵略に対して即時停戦を望んでいる。だが今や政府と一体化した大手メディアは輿論を捻じ曲げて報道し、また民主党リベラル派は「弱者の味方」を装いながらもイスラエル擁護派を形成している。

第4章では、「法の下での自由と平等」を謳うアメリカが、その実政財界にコネがない人々を放置するだけの放置国家となっている現実を暴き出す。国際的にもガザ侵攻の無法を批判もできない放置国家なのである。

第5章では、世界大戦後もアメリカは国際人道法違反の生物兵器を開発してきた。ウクライナやアフリカ、そして中国にも研究委託していたことが今回の新型コロナ騒動の中で暴露された。

第6章では、若く希望に満ちた新興国だったアメリカと絶望的に暗い話ばかりの現代アメリカを対比させて論じる。著者が唯一の救いと強調したのは、世界一高い軍備を擁しながら世界一軍事力の強い国ではなくなっている事実である。それも彼ら自身の貪欲さが原因である。

第7章では、類書ではあまり指摘されないアメリカにおける人種差別意識の深い闇を論じている。ナチスの人種差別政策は、実際には当時のアメリカ各州の優生学的政策から学んだものなのである。

本書を通底するもの

 アリメカは国を挙げて拝金主義の国である。連邦議会でのロビイスト政治がその原因である。当然ながらアメリカに住む人々はこれに大きな影響を受けながら生きている。アメリカには日本のような「公的医療制度」も「生活できる年金制度」もない。実に厳しい能力主義の「自己責任社会」であり、貯えのない人々の老後は実に悲惨な社会である。そのために労働者民衆でも株式投資、資産運用に熱心なのだが、彼らの多くは借金漬けである。

 金融・資産運用で著名なケーシーは、アメリカでは有名な人種差別主義者である。彼は「アメリカ人として生まれた黒人が一番感謝すべき日は、祖先が奴隷船に載せられて太平洋を横断し、アメリカ大陸に足を踏み入れた日だ。その日がなかったら、連中は未だにアフリカのどこかで食うや食わずの生活をしているだろう」とのブログを公開した。

 アメリカでは著名な人物がこうした偏見を披歴するのに一切の戸惑いはない。これがアメリカ社会の真実だ。それにもまして強力なのは、人類全体の進歩を希求しているとする効率主義と能力主義を信奉している、「リベラル派」の人々である。彼らは本当に怖い。

「地球に埋蔵された資源は、最も有効に使える人たちが充分に使いこなすべきだ。上手に使いこなせない人間たちがそれを邪魔するなら、奪い取ってもよい」との能力差別主義は、先住民から土地を奪い取った白人至上主義と骨がらみの思想である。彼らは先住民の土地に入植を強行し、先住民を排除虐殺しつつ強制的に居留地にまで追いやった。これはパレスチナでイスラエルが実際にやったこと。彼らはパレスチナ人の虐殺は正義だと本当にそう考えているのだ。

 ユネスコの初代事務局長は、生物学者のハクスレーである。彼は当然、「人種を区別することに生物学的根拠はない」、人類は一類一種と考えてはいた。だがその一方で「たとえ当人には劣性遺伝子として顕在していなくても、知的能力の発達を阻害するような遺伝子を持った人たちには子供を作らせない」との信念を持っていた。そして「畜産農家ならどこでもやっている悪いタネを間引く品種改良を、人間に適用しようとすると大騒ぎになる訳が分からない」との迷言を残した。彼もまたマッド・サイエンティストだったのだ。

 さてアメリカ連邦議会上下院議員で唯一のパレスチナ系の議員が下院議会でガザのジェノサイドを批判した。すると彼は何と反ユダヤ主義の危険思想を広めたとして下院議会で問責決議を受けたのである。このことはまさに木が沈み石が浮く話ではないだろうか。

 アメリカの内的論理を暴露した本として、読者の皆様へは一読をお薦めしたい。(直)


 58年目の「無実」 袴田さん再審無罪判決

 9月26日午後2時、無罪判決。

 判決は「自白」した調書など確定審の証拠には3つのねつ造があると認定した。

 58年間訴え続けた無実の叫びがようやく届いた。長い長い闘いだがまだこれで終わりではない。

 この判決をここ静岡地裁で一番聞きたいはずの袴田さんは「不在」・・・そのことへの怒りの声が支援者から上がる、無実であるにもかかわらず死刑囚として独居房に閉じ込められ、半世紀も恐怖と孤独の中で精神をむしばまれてしまった。釈放から10年、未だに癒えることは無い。今日の袴田さんの「不在」はなぜ起きたのか、厳しく問われなくてはならない。

 違法で非道な捜査・取り調べ、証拠隠しとねつ造、求めてもなかなか開かれない再審の扉、開かれた扉の前に立ちはだかる検察の控訴という暴挙・・・。袴田さんはじめ多くのえん罪被害者を苦しめてきた現在の再審法を、今こそ改正すべき時が来た。長い長い闘いはまだ終わりにしてはならない。再審法改正の実現の世論を盛り上げゆこう。

 今日の判決を不服として検察が控訴する場合、期限は10月10日、それまで最高検・東京高検へ控訴の断念を訴えてゆこう!(澄子)

①袴田裁判の経過

 1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)

 逮捕当初は事件関与を否定していた袴田さんに、科学的な証拠があるなどと言って罪を認めるよう迫り続け、自白強要をし、検察はそれをもって公判を開いたが、袴田さんは公判開始から自白を否定し、事件関与を否定し続けたが、初公判から約9カ月後、工場のみそタンク内から血のついた衣類5点が見つかったとし、捜査側は「犯行着衣はパジャマ」としていた主張を訂正しそれが「犯行時の着衣」と判断し、1968年、静岡地裁は死刑判決を言い渡した。東京高裁での控訴審も長年続いた。犯行着衣とされた「5点の衣類」のうち、ズボンの着用実験も行われ、袴田さんには小さすぎてはくことができなかったが、覆らなかった。1980年に最高裁も上告を棄却、死刑判決が確定した。

 再審請求は、最高裁で上告が棄却された日、多くの市民や、支援団体が発足。地元でも複数の団体ができ、日本プロボクシング協会等も支援して行われた。

 静岡地裁第一次再審請求を棄却・東京高裁即時抗告を棄却・最高裁特別抗告を棄却するなど第一次再審請求は認められなかったが、第二次再審請求で静岡地裁は2014年、再審開始とともに異例の釈放を決め、袴田さんは、47年7カ月ぶりに拘置所の外へ。78歳になっていた。だが、検察側が即時抗告し東京高裁が再審開始決定を取り消したが最高裁が高裁決定を取り消し、審理を差し戻し東京高裁が「証拠はねつ造の疑いがある」として再審開始を決定し検察は特別抗告を断念、この間9年間争われ、「死刑囚」のまま10年6カ月を過ごした。そして、2024年9月26日改めて静岡地裁が無罪判決を出したのである。

 80年代に確定死刑囚が再審で無罪になった4事件を含め、検察が再審公判での無罪判決に控訴した例は近年ないとみられるが、検察は、再審の判決に対し控訴ができる。その期限は10月10日である

②無罪判決主旨

 静岡地裁(国井恒志裁判長)は26日、無罪(求刑死刑)を言い渡した。判決は、「自白」した供述調書や犯行着衣とされた「5点の衣類」など三つの証拠捏造(ねつぞう)がある、と認定した。

 国井裁判長は、冒頭で判決の「骨子」を告げ、袴田さんを有罪とした元の裁判の証拠には「三つの捏造がある」とした。まず、袴田さんが「自白」したとする検察官の取り調べ調書は黙秘権を侵害し、非人道的な取り調べで獲得された虚偽のもので、「実質的な捏造」とした。

 袴田さんの逮捕から1年後に突然発見され、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」についても「捜査機関によって血痕をつけるなどの加工がされた」と述べ、捏造と認定。

 その上で、これらの証拠を排除すれば、袴田さんが犯人でないとしたら合理的に説明できないか説明困難な事実関係はなく、袴田さんが「犯人であるとは認められない」と結論づけた。

 閉廷の前、国井裁判長は秀子さんに、検察官が控訴すれば高裁でさらに審理が続くことを説明した上で、「無罪判決は確定しないと意味がない。裁判所は自由の扉は開けましたが、閉まる可能性があります。裁判所としては長い時間がかかってしまったことは申し訳ないと思っています」と謝罪した。最後に秀子さんに「末永く心身ともに健やかにお過ごし下さい」と告げた。案内へ戻る


 広がり続けるPFAS汚染、全国の運動を広めよう!

 ワーカーズの前号(9月1日・658号)で「PFASの汚染問題」を取り上げた。

 今回は全国運動を広めるために原田浩二氏の著作2冊を紹介したい。

 まず原田浩二氏を簡単に紹介すると、専門は環境衛生学で京都大学大学院医学研究科助教、講師をへて2009年から准教授となる。2002年に京都大学で小泉昭夫教授(現・名誉教授)の調査チームの一員としてPFAS汚染問題に取り組み、近年は国内各地の市民団体と協力しながらPFAS汚染の調査・研究に取り組んでいる。

①「これでわかるPFAS汚染-暮らしに侵入した永遠の化学物質」(合同出版)

 2023年12月に出版され、ページ数も100ページ足らずでとても読みやすい。

 「今、沖縄・東京・大阪・愛知などの飲み水の汚染が指摘され、それによる健康への影響も懸念されています。問題の根本にあるのは『PFAS』(ピーファス)と呼ばれている有機フッ素化合物による汚染です。2023年に入ってからも、神奈川県相模原市、静岡県静岡市、浜松市、岐阜県各務原市、岡山県吉備中央町、熊本県熊本市の水道水や浄水場、地下水から高濃度のピーファスを検出したという報道がありました。・・・ピーファスと総称される物質は化学的に非常に安定していて、自然環境の中では分解されにくく、長期に残留する性質があることから『永遠の化学物質』と呼ばれています。・・・ピーファス汚染が問題になってから、日本でも沖縄、東京の多摩地区、神奈川では米軍基地が原因とみられる河川や地下水などでの汚染が顕著化し、大阪をはじめとするほかの地域でもピーファスを扱う工場周辺の水汚染が明るみになっています。・・・本書は、ピーファスによる水の汚染はなぜ、どのように広がったのか。どのような健康被害の恐れがあるのか、どのような対策があるか。またピーファスの汚染問題に直面している沖縄・宜野湾市、東京・多摩地区、愛知・豊山町、大阪・摂津市からの報告など、ピーファス問題の解説書として執筆・編集したものです。」

②「水が危ない!消えない化学物質『PFAS』から命を守る方法」(河出書房新社)

 こちらの本は2024年5月に出版され、ページ数は207ページもある「PFAS汚染」の専門書といえる著作である。

 『はじめに』の欄では「あなたの暮らしの中にPFASが潜んでいるかもしれないって、知っていましたか?と問題提起している。・・・身の回りを見回してみると、『水を弾く』『焦げ付かない』『油がにじまない』とうたった製品がありませんか?たとえば、はっ水効果のあるレインコートやジャケットは雨に濡れても水玉になって落ちたりします。多くの場合、それは表面に、有機フッ素化合物でつくったフッ素樹脂の加工がされているから、服自体に浸み込んだりしないのです。・・・カーペットやテーブルクロス、それにランチョンマットなどは買ったばかりの新品だと、なにか液体をこぼしたとしても浸み込まずに、液体が丸くなって浮いたりします。これもフッ素樹脂加工の効果です。キッチン用品で『焦げ付かない』と言えば、フライパン。そんなフライパンはたいてい『テフロン』加工されていますが、テフロンはデュポン社の商標の一つで、その実態はフッ素樹脂加工のことです。最終加工された製品にはあまり残っていないとされますが、製造段階で多くのPFASが使われています。・・・気がつけば、私たちの暮らしはPFAS製品だらけと言ってもいいのです。それだけ便利で使い勝手もいい物質として、暮らしのあらゆるところで重宝されてきたのです。ただ、壊れにくいということは、裏を返せば分解しにくいということでもあります。自然界では分解されることもなく長期にわたって残ってしまうという『問題』を抱えています。そんなことから、PFASは『永遠に消えない化学物質』とも言われています。」

 最後に原田浩二氏は「PFASの環境汚染は徐々に明らかになってその危機感が高まっていますが、わかってきたのはまだほんの一部に過ぎないでしょう。さらに、日本の政府や自治体の取り組みをまっているだけではなく、自分の身を守り、社会を変えていくために、まずは自らPFASを知りアクションしていくことが大切だと考えます。」

 原田浩二氏は「おわりに」のところで次のように述べている。

 「02年からPFASの調査と研究を始め、全世界的に広がった汚染状況や被害の大きさが徐々に明らかになってきました。日本ではこの数年で注目が高まりましたが、私たちはまだそのほんの一部しかとらえることができていないと言えます。・・・大切な水の検査も依然、不十分な状況です。また、水以外においては調査がほとんどなされていません。国や自治体、議員に働きかけ、動かしていくのは、やはりみなさんの声しかないのです」

 8月に全国から17団体が参加して「PFASオンライン全国交流会」を初めて開催した。私たち「清水PFAS問題を考える連絡会」も参加して貴重な意見交換が出来た。今後もさらに全国の運動を広めていきたい。(富田英司)


 内部告発が社会を変える!

 取り巻きと県政を私物化した斎藤元彦知事、ジタバタせずにさっさと退場を・・・


 9月19日に県議会から全会一致で不信任決議を突き付けられているので、本紙が届くころにはすでにことは決していると思うが、知事選は約18億円、県議選には約16億円の費用がかかるという。兵庫県民として、知事選だけにしてくれと思うのは安易だろうか。

 2021年7月18日午後8時過ぎ、早くも当確を出て花束を抱える斎藤元彦候補、「神戸新聞」は次のよう報じていたが、3年後のこの混迷を誰が予測しただろうか。

「自民党本部は告示直前、分裂回避を求めたが、最後まで斎藤氏と金沢氏の支持で割れた。菅内閣の支持率が下がる中、近づく衆院選の前哨戦は制したが、党県連内にしこりを残した。

 相乗りで支援した維新は、公認候補がトップに就く大阪府市を除き、党本部が推薦した候補が都道府県や政令市の首長になるのは初めて。今後、兵庫と大阪との関係や県政運営への影響力などが焦点となる。

 保守分裂や維新の初参選など、政党による支援の枠組みが注目された一方、新型コロナウイルス対策や歯止めのかからない人口流出、低迷する地域経済の回復など、県政課題の論戦は深まらなかった。

 斎藤氏は「県政の刷新」を掲げ、59年にわたり副知事が知事に就く禅譲の系譜を批判。若さと総務官僚としての実績をアピールした。自民の一部県議と国会議員らが支え、党本部は西村康稔経済再生担当相ら閣僚や党幹部らを相次いで送り込んだ。維新代表の松井一郎大阪市長、副代表の吉村洋文大阪府知事も駆け付け、大阪との連携強化の必要性を訴えた」(神戸新聞より)

 副知事だった金沢和夫候補に25万8000票もの大差をつけ当選した斎藤元彦知事、増長して井戸敏三前知事派を一掃し、県政を私物化したと言うほかない。維新は当然として自・公も与党化し、知事となれ合った結果がこの有様だ。最近はこうした首長による不祥事が後を絶たない。

 不正な公費支出や不当な施策に対しては、市民による監査請求や住民訴訟が行われたりする。また、今回のように内部告発もまれにはあるが、斉藤知事のように報復しか考えない対応が多い。内部通報は組織を浄化する働きがあるのに職場からの排除で終わり、勇気ある行為がムダになっている。告発者は称賛されるべきなのに、本当に残念だ。

 2006年に公益通報者保護法が施行されてから18年余になる。内部告発者に対して減給や解雇といった不利益な扱いをすることを禁じる法律だが、日本社会では依然として内部告発者を「組織の裏切り者」と指弾する風潮が消えない。

 1974年にトラック業界の闇カルテルを告発したトナミ運輸社員だった串岡弘昭さん(2006年定年退職)は、私が情報提供者だとわかると会社は富山の研修所への異動を命じ、それから30年以上も草むしりやストーブへの給油、雪下ろしなどの雑用だけをさせられた、と述べている。串岡さんはこの処遇を内部告発に対する不当な報復行為として、02年1月にトナミ運輸に対して訴訟を起こし、05年に勝訴判決を勝ち取っている。賞賛すべき先駆者だ。

 北海道警察釧路方面本部長を最後に退職した原田宏二氏さんは04年2月10日、札幌の弁護士会館で記者会見を開き組織的な警察の裏金づくりを告発したら、〝ゴキブリ原田〟〝ウジ虫野郎〟と攻撃された。原田さんはその年の全国市民オンブズマン函館大会に参加し、警察問題パネルディスカッションで発言している。その後、「明るい警察を実現する全国ネットワーク」で活躍されたが、2022年に83歳で亡くなられた。ちなみに、この大会には私も参加するために初めて北海道を訪れ、函館山に登ってことをもう20年前のことだが懐かしく思い出した。

 道警は最終的に3000人余りの警察官・職員を処分し、総額約9億6000万円を国庫などに返納する事態になった。05年1月には愛媛県警察鉄道警察隊隊員の仙波敏郎さんも、警察本部の裏金の存在を公表したところ、勤務中も拳銃を貸与されず、果ては職務経験と何の関係もない通信指令室付に突如異動という報復を受けている。

 兵庫県職員公益通報制度は「公益通報者保護法の趣旨に即し、職員等からの公益通報を受ける制度を創設し、法令遵守の徹底を図り、県民の公益の保護に資するとともに、組織の活性化、健全化を図ることにより、より透明で公正な県民に信頼される県政を推進します」とある。

 さて、今では〝パワハラ・おねだり〟等とマスコミから総批判にあっている斉藤知事、彼を推薦した自民と維新はどのように責任を取るのか。また、彼を当選させた85万8782人の県民にも責任の一端はあると思うのだが、どうだろうか。

 斉藤知事の罪は単に奴隷主のごとき傲慢だけではなく、守られるべき内部通報者を死に追いやり、法を犯し県政を歪めた、直ちに辞職すべき行いだ。自浄なき組織を腐敗から守るのは内部通報者なのに、その内部通報者が組織の裏切り者として排除されるのが常である。

 告発の対象者はほぼ確実に自己防衛に走るが、ことの判断や対処に関わらせてはならない。今回、斉藤知事だけではなく〝牛タン?楽部〟の面々が告発潰し、情報提供者の摘発に奔走した。片山安孝副知事、井ノ本知明・総務部長(元県民生活部長)、原田剛治・産業労働部長、小橋浩一・若者・Z世代応援等調整担当理事(前総務部長)の4人だ。

 とりわけ片山副知事は早々に逃げ出して責任逃れを図ったが、告発者である西播磨県民局長を追い詰めて死に至らしめた重大な責任が明らかになっている。さらに、維新の岸口実と増山誠両県議にも責任の一端がある。西宮市選出の増山県議は西宮市長選で敗れ県議に復帰しているが、知事擁護の発言を行ない顰蹙を買っている。斉藤は知事失格だが、同じように増山は県議失格だ。

 すでに明らかなように斉藤知事は犯罪者であり、刑事事件として裁かれるべき人物である。県民としてそういう思いが強いが、権力者はその〝法〟に守られ、県議会を解散し、知事選に再び立候補することもできる。道義的責任が何かということが分からない人物の〝思い〟だけで、34億円もの税金を浪費できる。何てこった。 (折口晴夫)案内へ戻る


 コラムの窓・・・大久野島がみせる侵略の歴史

 先月中旬の週末、NPO団体による「大久野島スタディツアー」に参加しました。新幹線で「三原駅」へ、そこから呉線で「忠海駅」(広島県竹原市忠海町)に降り立ち、忠海港からフェリーに乗ってようやく大久野島にたどり着きました。島には国民休暇村があり、専用バスが送迎してくれます。

 2日間、日差しが強く高低差のある所も回ったのですごく疲れ果てました。周囲4キロほどの小さな島ですが、いたる所に戦争の傷跡が残っており、発電所跡などは敗戦後に米軍(連合軍)による朝鮮戦争の弾薬庫として接収されています。その入口に「MAG2」(Magazine・弾薬庫)と書かれているのが、今でも読み取れますが、米軍が描いたものです。朝鮮戦争休戦後は、1956年まで弾薬処理場として使われていました。

 毒ガス貯蔵庫跡は外部から見えないような造りになっていて、国際法違反だという自覚がありつつ、秘密を保持しつつ大量につくり、つかう、大久野島はそういう条件を備えていました。何しろ、通貨列車は鎧戸を閉めたというし、島は地図から消されていました。

 敗戦時、毒ガスはどうなったのか? 中国大陸では埋め捨てたものがその後の「毒ガス事故」で被害があちこちで出ています。まさに、このツアーの主催者「NPO法人化学兵器被害支援日中未来平和基金」は中国の被害者支援を行っているところです。

 イペリット・ルイサイトなど猛毒の毒ガスは米軍のLSTに積み、高知県の土佐沖まで運び、船を爆破して捨てました。さらに、毒ガス弾は缶に詰め同じ海洋に投棄されました。大久野島周辺でも海洋投棄されたし、くしゃみ性ガス(赤筒)などは毒ガス用防空壕に埋め捨てられ、毒ガス施設で焼却もされています。

 そうして捨てられた毒ガスが土壌を汚染し、地下水は砒素に汚染されているということで、飲料水は島外から船で運ばれてきています。毒ガスの島から国民休村に変身して1963年にオープン、展望台や瀬戸内海を一望できるリフト(今はない)も完備され、パンフレットには「むかし 要塞・毒ガス島 いまは温泉・休暇村」と記されたといいます。

 しかし島内から、近海からたびたび毒ガスの残骸が出る、汚染土の撤去作業も繰り返される、環境庁はたびたび「安全宣言」を行うがちっとも安心できない状態です。ところで、ウサギは毒ガス実験用として檻で飼われていたのですが、敗戦時に食べてしまったということです。なので、今繁殖しているウサギは観光用に海外からやってきたピーターラビット系らしいです。戦時には〝軍用ウサギ〟を飼うことが奨励され、食用と兵士用毛皮になったとか。

 大久野島が戦争の島として登場するのは、ロシアとの戦争に備え瀬戸内海に敵艦侵入を阻止するためで、19世紀の終わりころには北部・中部・南部に砲台が設置されました。その種の装備としては南部照明所遺址があり、これはサーチライトが設置されていたところです。

 しかし、瀬戸内海に敵艦が侵入するなどありえないことであり、日露戦争終結後、1918年に忠海「芸予重砲兵大隊」は廃止され、24年には大久野島に「陸軍造兵廠火工廠忠海派出所」が設置されます。同年、毒ガス工場建設が始まり、29年には製造開始、かくして大久野島は毒ガス島への歩みを始めたのです。

 なぜここが毒ガス製造の拠点となったのか? まず鉄道が九州まで到達していなかったので、日清戦争時には広島駅から宇品港へと鉄道を敷設し、宇品港から派兵したとあります。東京で毒ガスの研究をしていたが、危険性や秘密性から忠海町沖の大久野島が選定された、この立地選定は原発立地と同じです。さらに毒ガス防護の装備を見ると、原発内での作業と同じだと分かかります。しかも、その装備は十分ではなく作業員は毒ガスに犯され、汚染の比較的少ない作業にまわされたり、働けなくなったら雇止めとか。

 こうして、この島の歴史はこの国が朝鮮侵略を始めたとき、中国大陸侵略に毒ガスを使用したとき、そして米国が朝鮮戦争に介入したとき、3度の戦争にかかわっています。「大久野島一周毒ガスの歴史戦争遺跡のフイールドワーク」の解説をして頂いた山内正之さん(毒ガス島歴史研究所事務局長)は次のように述べています。

「大久野島は明治時代には日本の大陸への侵略戦争で重要な役割を果たした軍都広島・軍港呉を守るための要塞でした。毒ガス工場時代は大久野島で毒ガスを製造し、侵略戦争で使用しました。また、製造に従事させられた多くの日本人が毒ガス障害を受けて死亡した被害の島でもあります。

 1951年からアメリカ軍が接収し、朝鮮戦争のための弾薬置き場として使用しました。このように大久野島は三度にわたって戦争に利用された島です」(山内正之「大久野島の歴史」)

 土曜日の午後、フェリーで続々と家族連れが島にやってきました。きっと皆さんウサギ目当てだと思うのですが、私たちのような汗まみれの戦争遺跡巡りグループは奇異な存在なのだろう。それはそうとして、否応なく目にする戦争の傷跡からせめて加害の歴史に思いを致してほしいと思わずにはおられません。 (晴) 


 色鉛筆・・・「不適切保育」を考える

 8月の末、新聞を開くと「不適切保育?娘の担任がやめた」というタイトルに驚く。(朝日新聞8/28)「不適切保育」という言葉は保育士として働いている私にとって不快な思いがあるのですぐに読んだ。記者の子どもが通う保育園で「不適切保育事案が発覚しました・・該当保育士は退職しました」という連絡が入り、記者の娘が慕っていた担任の保育士だったのでなおさら驚いたという。その後、園から説明を受けると「はしゃぐ園児がいて、危ないので止めようとした際にその子どもが怪我をした。これを受け、過去の保育事案を調べると、怪我はなかったものの同様に危険防止や園児誘導の際の対応で子どもがバランスを崩す事例が2件あった」というのだ。

 記者は「その程度で不適切?というのが率直な感想だった」と。私もそう思う。私自身以前、目の前で突然子どもが転んだり落ちたりして骨折や縫合する怪我があった。その時は精神的に落ち込みやるせない気持ちになったが、どうして事故が起こったか、保育士の立つ位置ははどうだったかなどを検証して、事故を防ぐためにはどうしていくか対策を考えて事故報告書を提出した。それから気持ちを引き締めて子ども達に関わったことを覚えているが「不適切保育」とは言われない時代だった。時代は変わったのか?この記事を読んで人ごとではなくいつ自分の身に起こるかもしれないと思った。

 同じ記事に保育研究所長で自身も認可保育園を運営する村山祐一・帝京大元教授(保育学)は「怪我をさせれば不適切、叱っても不適切、放っておいても不適切で、どの園にも不適切保育の可能性がある。保育士の個人責任が問われるのは疑問だ」「保育の現場で日常的に話し合えるようにすることで、その取り組みを通して不適切保育などが防止される。ゆとりのとれる保育士配置が不可欠だ」と言っている。全く同意見だ。

 2022年11月30日、静岡県裾野市の保育園で不適切保育があったことが明らかになると、全国で同時多発していた不適切保育も発覚し次々に報道されて大騒ぎになった。この時私はワーカーズの紙面で、不適切保育が起こらないように保育士の配置基準の引き上げや処遇改善を行うべきだと書いたが、いまだに何も改善されていない。

 この事件後、私の職場で全国保育士会が2017年に作成した「保育所・認定こども園」等における人権擁護のためのセルフチェックリスト」が行われた。今までやったことがないのに不適切保育が社会問題化されているために行われたのだろうが、不適切保育をしていないか調べられているようでとても不愉快だった。事件以来大きなニュースになる不適切保育には、職場でも敏感になり同僚達と「何が不適切保育なのか分からなくなるね」と時々話題になり悶々としていた。

 すると知人から「不適切保育はなぜ起こるのか―子どもが育つ場はいま」(普光院亜紀著・岩波新書)を紹介された。著書である普光院亜紀さんは、出版社在職中に2人の子どもを保育園に預けて働く。「保育園を考える親の会」の代表を長年務め、現在はアドバイザー・顧問。保育ジャーナリスト、執筆、講演活動、自治体の保育・子ども施策に関わる委員を務める。浦和大学講師。という経歴の方なので保育の現場をよく知っていて学ぶことがたくさんあった。  

 まず、以前より親の会には保護者から不適切保育に関する訴えがあり、保護者が園に抗議をすると園長等が「しつけです」「指導の一環です」と言われて取り合ってもらえず、やむなく保護者が自治体の担当課に訴えても「保育内容のことは立ち入れない」などの大雑把な対応をされていた。ところが、裾野市の事件が報道されて以降、自治体職員の意識がかなり変わってきているという。(怪我の功名か?)

 そして、不適切保育の背景にあるものをさまざまな事例に接してきた著者なので内容が豊富で説得力があった。すべてを紹介できないので私が印象に残ったことを紹介したい。

 保育園の中には大人の指示・命令のもとで活動を体験させて育もうと考える園がある。集団生活をスムーズに運ぶためにある程度厳しい「しつけ」「指導」が必要だと考え、望ましい範囲を逸脱すればそれは不適切保育になってしまう。日本では子どもを集団で統括し従わせる教育が長く行われてきた歴史があり、家庭での児童虐待、学校での体罰問題ともつながっていると。この事は私も以前より集団行動の元は軍国主義・家父長制度・天皇制からくるものではないかと思っていたので同感した。こうした園では保育者が運営者や園長の考え方に左右されて、職員配置など保育体制にゆとりがなく保育は「保育者任せ」になり他のクラスの保育に口出しできなく、保育が悪い方向に傾いて不適切保育になってしまうと。不適切保育が園の保育感・理念に関係があるとは気がつかなかった。 

 他方、常に子ども一人一人の気持ちを尊重し、子ども自身が主体的に活動して考える体験を積み重ねて援助しようと考える園もある。こうした園では日々様々な課題を職員会議などで互いの経験や考えを交換することで議論したりして保育者としての視野や発想が豊かになりスキルも高まると。私の園はここに入るが実際のところ保育士や時間が足りなくて思うようにいっていないのが現状だ。

 著者は、「不適切保育の防止から質の高い保育の実現のためにはは、子どもの権利を保障し一人一人の発達を社会の責任で支えようというコンセンサス(複数の人の合意を得る)を成立させなければならない 」と。この言葉が心に残っている。不適切保育では子どもの人権を守ることはできないことが分かった。(美)
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