ワーカーズ668号(2025/7/1) 案内へ戻る

  参議院選は私たちの生活を顧みない自公政権を少数に追い込もう!
  野党ならぬゆ党の国民民主・維新も少数に追い込もう!

 
 参議院選挙は、7月3日公示、20日投開票です。今回の選挙では、物価高やなどで生活に苦しむ私たちに対し、何ら対策をこうじない自公政権を少数に追い込みましょう。

 そして自公政権は、大幅に防衛費を増額してきています。2025年度の防衛関連予算の合計が国内総生産(GDP)比で1.8%%になりました。24年度から0.2ポイント上昇しました。そして、政府が27年度の達成をめざす「GDP比2%」に近づきつつあります。沖縄では、辺野古新基地建設や南西諸島、九州への自衛隊増強など、「台湾有事」に備えた準備をしています。戦争ではなく、外交などで平和な社会を創っていくことが重要です。

 参院選の前哨戦である6月23日の東京都議会議員選挙は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は31議席となり、第一党となりました。一方、自民党は、無所属で立候補して当選し、その後、追加公認となった3人を含めても21議席にとどまりました。これは過去最低だった前々回の8年前の23議席を下回りました。22人が立候補した公明党は、大田区選挙区で擁立した2人がいずれも落選するなど19議席にとどまりました。

 立憲民主党は前回の選挙より2議席増やして17議席、共産党は5議席減らして14議席になりました。これまで議席がなかった国民民主党は9議席、参政党は3議席を獲得しました。1議席だった日本維新の会は議席を失い、石丸伸二氏が代表を務める再生の道は42人が立候補しましたが、議席の獲得はなりませんでした。

 都民ファーストが現状維持、自公維と共産が減、立憲、国民民主、参政が増でした。

 自公政権にとっては大打撃でよかったのですが、国民民主や参政が増えたのは気がかりです。

 参院選の公約自民党は、物価高対策として国民1人当たり2万円の給付、子どもと住民税非課税世帯の大人に2万円を加算、としていますが、防衛費は増やす一方ですし、大企業や金持ち優遇の税制はそのままです。

 一方立憲民主党の公約は、食料品の消費税率を2026年4月から原則1年間ゼロにする。減税が実現するまでは「食卓おうえん給付金」として一人あたり2万円を配る。わずか1年間の減税では、生活に苦しむ私たちには、たいした効果はないでしょう。国民民主党の公約は、「手取りを増やす夏」と銘打ち、昨年の衆院選に続いて所得税の非課税枠「年収の壁」の引き上げなど、30歳までに絞った所得税減税など若者向けの政策。国民民主は、国会では自公政権に寄り添い事実上与党化しています。

 きたる参議院選は、生活に苦しむ私たちのために、消費税減税や、年金、医療、介護の充実、働く者の収入アップ、増え続ける防衛費の大幅減、辺野古新基地建設反対、南西諸島・九州への自衛隊配備増強反対などが重要です。(河野)


  またも懲りない郵便局利権――自民党政治は利権構造の集合体―― ………………

 いま〝令和の米騒動〟まっただ中。その背景には、米を巡る農業利権が絡んでいる。

 が、そうした利権はなにも米に限った話ではない。いま新たな利権の創設がもくろまれているのが、郵便局利権だ。

 とはいえ、利権構造は郵便局などに限った話ではない。〝政官業利権構造〟といわれているように、自民党政治は利権構造とは切っても切り離せない世界だ。その一掃は、差し迫った私たちの課題でもある。

◆あきれる郵便局利権

 〝令和の米騒動〟が止まらない。異常な米の高値がまだ続いている。

 今回の令和の米騒動の背景にあるのは、様々なコメ利権、農協利権の存在だ。自民党と農家団体の利権は、今に始まったことではない。農協と農機具・農薬メーカーと小規模兼業農家、それに自民党農政族というトライアングルが形成され、そうした利権構造は今に至るまで維持されてきた。今回は、農水省の見込み違い、それに米の流通システムに絡んだ利権が露わになった、ということだろう。

 今回取り上げるのは、コメを巡る利権構造の話ではない。いま、あまりにも露骨な別の利権政治が仕掛けられている。郵便局利権だ。

 郵政民営化前には〝特定郵便局〟と呼ばれた小規模な郵便局が存在した。現時点で全国に2万カ所あまりの直営郵便局のうち、19000局ほどが旧特定郵便局だ。その小規模郵便局網の維持を目的として、国から日本郵便に年に650億円規模の支援金を〝貫流〟させるというものだ。

 これは旧特定郵便局長会(現・全国郵便局長会)の強い要請によるもので、自民党は、郵便局網の維持に向けた交付金拡充などを盛り込んだ郵政民営化法の改正案を6月17日に駆け込みで衆院に提出、会期末を迎えて継続審議にさせた。参院選挙後の臨時国会以降に成立させる魂胆だという。ほかには、郵貯や簡保会社の株式の一定割合を国が持ち続けるという、準国営化策も組み込んでいる。(別図―1参照)
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 別図―1 郵政民営化法改正案の骨子

 ・日本郵政が金融2社株の3分の1超の保有を継続

 ・日本郵政と子会社の日本郵便を合併

 ・公共サービスの提供を本来業務に追加

 ・郵便局網維持の基金創設、650億円規模の財政支援

 ・日本郵政への外資規制の導入
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 郵便の現状はといえば、近年のインターネットの普及や少子高齢化による人口減が深刻で、郵便物量の落ち込みが激しい。で、全国で2万カ所の郵便局網の維持が困難になっているという事情がある。そこで小規模局も含めて住民票の交付など公的サービスの提供などを拡充することに加え、郵貯やかんぽ業務の維持も含めて、利用者サービス維持のために支援金を投入してほしい、というのが理屈だ。

 郵便局長会主導の、こんな〝改正案〟が果たして説得力があるのだろうか。22年には郵便物の翌日配達が廃止され、24年には郵便料金の引き上げが実施されてもいる。利用者には郵便サービスの低下を押しつけて、自分たちは政府の補助金でこれまでの利権構造を維持したい、という要求はあまりにも自己チューすぎる要求だ。

◆利権の巣窟=郵便局長会

 その〝特定〟郵便局というのは、これまでも何回もメディアに取り上げられてきた、曰く付きの郵便局だ。〝特定〟郵便局というのは、2~5人ぐらいの小規模郵便局で、現状19000局ある。その内、土地や局舎を局長が所有しているのは13・1%、局長の親族などが18・1%、元局長が38・8%で、計7割が局長とその関係者が所有しているという(朝日21・8・31)。当然、各局長などには長期間継続して土地や局舎の賃貸料が入る。付け加えれば、新局舎の建設費を郵便局長会(関連法人)から融資を受けるケースも多く、局長会には毎年、全国から確実な利子収入が入る。

 その局長は〝選考任用〟という特殊な採用システムで、実質的には局長会の地区幹部の推薦があれば採用される。いったん局長に採用されれば、ほぼ定年まで転勤なしで同じ局で局長を続けられる。

 その特定局長は、局長採用時にその妻(夫)も含めて自民党員になる。それが推薦の条件にもなっている。その局長の集まりの任意団体である全国特定郵便局長会(現・全国郵便局長会=全特・19000人)の政治団体である「郵政政策研究会」は自民党の有力な集票組織だ。3年ごとの参院選で一人ずつ、計2人の参院議員を抱えている。郵便局長会は参院選だけでなく、衆院選でも各選挙区で多くの票集めが可能だ。現に自民党内で170人の国会議員を集める関係議連を持ち、農協団体と同じように、参院議員2名だけというレベルを大きく超える影響力を持っている。

◆利権ごり押しの局長会

 ネットの普及や人口減で、郵便局の利用者は傾向的に減少している。小規模郵便局の取り扱いは、切手やハガキの販売ぐらいでわずかだが、郵貯でもスマホ決済の普及などで、郵便局の利用者数は減っている。

 地方では過疎化が進み、1日10名前後の利用者しかいない局も多いとされ、また都市部でも徒歩圏内に隣の局があるというケースも多い。それでも特定局には局長(管理職)が必ず配置されているし、職員も1~4名配置されている。これでは年間1兆円ともいわれる郵便局網の維持もままならない。普通であれば、利用者が少ない局の統廃合が避けられないし、現に銀行などでも支店網の統廃合に動いている。

 が、郵便局長会は、局長の地位を失いたくないし、自身などが所有する局舎でずっと局舎費を得たい。そこで郵便局長会は、国から支援金を投入させることで、郵便局網の維持、実際は私有局舎と局長という地位を守りたいというわけだ。これが郵政民営化法改正案の肝になっている。

 郵便局長会や自民党の部会が郵便局網のサービス維持のために、毎年650億円程度日本郵便に貫流させろといっているわけだ。その650億円という金額は、国が持つ日本郵政の持ち株の配当金額とほぼ同じだ。郵便局長会などは支援金は税金で賄うわけではないと強弁するが、その配当金は本来は国庫に入って他の支出に使えるものだ。それを原資として郵便局網の維持に使うのだから、実質的には税金を使って民間企業の自分たちの既得権を支えろ、というに等しい。

 過疎化が進む地方に郵便局のサービス網が不可欠だ、局舎が減れば、利用が困難な地域住民が困る、というのは、一部は理解できる。ならば仮にという話だが、民間銀行なども一部で行っているように、過疎地など利用客が少ない局で、午前と午後に開く局に分ける。あるいは月水金と、火木土に分けて営業する。これで局舎の数は現状維持、対象局の職員は若干減らせるし、対象の局長は半分でやっていける。現実問題、営業時間や営業日を縮小されては困る、などという過疎地の利用者は少ないだろう。

 職員の雇用は多少は減るかもしれないが、段階的に広げていけば、少子化で人手不足だから影響は小さい。しかし、一番困るのは、局長だ。対象の地で局長が半分で足りるようになれば、個々の局長が失業するし、郵便局長会の人数が減ればその全国的な集票力と発言力は小さくなり、それだけ自民党と郵便局長会の利権構造は細ってしまう。なんとしても避けたいわけだ。

◆不祥事続発の郵便局

 局長会は、自分たちの利権死守でこれまでも多くの政治力を行使してきた。九州では、局長の内規違反=パワハラなどを内部告発した特定局長が、〝局長が仲間を売ることは許せん〟〝(通報者に)局長がいたら絶対に潰す〟(「朝日」20・2・25)として局長会幹部から猛然と圧力をかけられ、それでも意を決して裁判に訴えた。

 この裁判は結果的に勝利したが(宮崎拓朗『ブラック郵便局』(新潮社)など参照)、この過程で日本郵政の幹部は「郵便局長会は任意団体で郵政内部の組織ではないから、干渉できない」と逃げ続けた。かんぽ生命による不正な勧誘問題の発覚を期に、20年1月に鳴り物入りで招致された元総務大臣の増田寛也日本郵政社長も、政治力をバックに持つ郵便局長会には切り込めず、「5年半かけてできなかったことは10年やってもできない。」(「朝日」25・6・24)とさじを投げ、今年6月25日の株主総会で退任した。それだけ自民党と局長会の結託と政治力にあっけなく跳ね返されたわけだ。

 かつて郵政の労組である全逓信労組は、特定郵便局制度の撤廃を掲げて闘ってきたが、現在の日本郵政グループ労組は、撤廃の旗は掲げてもいない。少数労組の郵政産業労働者ユニオンなどは頑張っているが、いかんせん少数組合だ。

 その郵便局、これまでに年賀はがきなどのいわゆる〝自爆営業〟で多くの現場社員を自殺者が出るほど苦しめてきた。また会社作成のカレンダーを郵便局長会出身の自民党候補の選挙活動に利用していた件、郵便局舎の移転・建て替え時、地主に当該局長以外に土地を売却しないことを約束させていた〝局舎利権〟など多数発覚している。最近では、配達員の法定点呼の未実施や虚偽記載で、国交省から自動車利用の5年間の禁止処分も出されている。普通郵便局でも、不正事件や不祥事が多発しているわけだ。(別図―2参照)
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  別図―2   郵政を巡る最近の出来事

(新聞報道などから作成)

 20年 1月 かんぽ生命の不正販売問題で経営陣交代

        郵便局長による内部通報者の脅迫事件発覚

     3月 年賀状の〝自爆営業〟で労災認定

     9月 ゆうちょ銀行で不正引き出し問題発覚

 21年 8月 郵便局長の局舎利権明るみに

    10月 局長らの顧客情報・カレンダーの集票活動利用発覚

        土曜日の郵便配達廃止

 22年 2月 顧客情報の政治流用で調査幕引き

     1月 郵便の翌日配達廃止

 23年 2月 局長による局舎取得で調査結果を公表せずに再開

 24年 6月 公取委が日本郵便の下請法違反(買いたたき)認定

     9月 顧客情報の保険営業への不正流用発覚

    10月 郵便料金値上げ、局数は維持

    11月 郵便局の昼休みを約1400局に拡大

 25年 1月 日本郵便、下請けに高額違約金で下請法違反認定

     4月 郵便局の7割で運転手への点呼未実施など発覚

     6月 増田寛也日本郵政社長退任、公認に元郵政官僚 
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◆利権構造の集合体の自民党政治を終わらせよう!

 こうした事態を招く背景として考えられるのは、内部チェック機能の衰退、要するに労働組合の弱体化と、その結果としての〝職場モラル〟の低下だろう。かつて郵政の職場では、労組による〝点検摘発活動〟といったチェック態勢が機能していた時期もあった。すべてではないにしても、当事者が働く職場レベルでは、当局や会社の不正や規定違反に対して、労組の点検・摘発行動で、多くの不正の予防や摘発が行われ、それなりのチェック機能が働いていた。

 が、労組の弱体化や労使一体化が進む中で、職場内での不正行為が是正されなくなっているのが実情だ。特定の有名人が社長になっただけで、そうした利権構造が一新されるハズもない。改めて、職場での労組機能の強化という課題が浮かび上がっている。

 ちょっと前に、防衛費が激増する中で海上自衛隊と軍需会社の癒着事案が報道された。令和の米騒動では、農協利権がやり玉に挙がっている。それらと同じように、郵政利権は、あまりに露骨で自己チュウーだ。とりわけ最大の利権システムは、大企業による自民党への巨額な政治献金と、租税特別措置法による大企業優遇策だ。トヨタなどの大企業は、巨額の利益を上げているにもかかわらず、これも研究・開発費での巨額な減税という恩恵を享受している。

 そうした利権構造の中、「郵政利権はおかしい」と声を上げても、では農協利権や土地改良利権はどうなのか、原発利権はどうなのか、と、際限のない議論になる。要するに、自民党政治は、そうした利権構造の寄せ集めで成り立っており、どこかを突破口として、そうした利権構造そのものを解体していく以外にないのだ。

 利権構造の集合体としての自民党政治を終わらる以外にない。(廣) 案内へ戻る


  トランプ政権が独裁へ至る道と「単一執行府論」 独裁抵抗闘争に連帯を!


 トランプ政権は、欧米諸国では通常存在する「三権分立」――すでにかなり形骸化しているのだが――をこれまで以上に無視して、大統領令などの大権をかざして政治運営を進めようとしてきました。

 例えば、関税政策では議会をほぼ無視しつつ政策を推進しています(訴訟多数)。あるいは、トランプ政権下での反移民政策(児童の収容など)、軍・国防省・州兵の国内動員(黒人差別や移民排除抗議デモ弾圧)、経済政策の政治介入(USスチール買収容認にともない政府による人事拒否権付与や政策介入権=黄金株取得)、米国FRB(連邦準備制度理事会)の議長人事にも干渉、さらに大統領在任中の免責を主張し、司法審査を無力化しようともしています。政敵であるメディアの攻撃、さらにFBIやCIAへの敵視などもあります(ディープステートと攻撃)。

■新自由主義への反動としてのトランプ現象

 たびたび指摘されるのが、新自由主義への反発です。ソ連崩壊による冷戦終結以後、それまでの国家による経済や社会に対する統制管理を緩和し、市場原理主義ともいえるネオリベ=新自由主義とグローバリズムが米国発で先進諸国に繁茂してきました。その結果として、格差の拡大(上位1%と中間層以下の分断)、地域産業の空洞化(ラストベルトの衰退)、グローバル化・経済金融化により製造業が空洞化し労働組合の弱体化と労働不安定化、テック企業による経済・言論支配の深化、あるいはこのような大衆の心理的不安にしみこむ「多様性」「移民」に対する大衆的反発と不信感の受け皿として登場したのが、まさにトランプ主義でした。このような流れは、たしかに事実であると言えます。

 それゆえトランプは、「保護主義」「経済への国家関与」「強い産業政策」すなわち軍事面も含めアメリカ大陸に関するかつてのモンロー主義的政策を強調しそれにより「米国を再び偉大にする」と主張し、大統領になりました。しかし、米国は決っしてかつてのニューディール的・ケインズ的な再配分国家とは同じにはなりえません。

■「単一執行府論」のトランプ陣営による捻じ曲げ

 トランプ陣営は、政策実行にあたってあきらかに大統領の大権によって、行政はもとより司法や立法権を大統領の権限の下に整理統合しようとしています。その論理とはトランプ陣営が採る「単一執行府(Unitary Executive)」論なのです。「大統領は行政府の全権を一手に握るべきであり、司法や議会による干渉は原則として違憲である」という、極端な行政府優位主義なのです。

 そもそも「単一執行府論」はアメリカ合衆国の法学・政治思想において長年論じられてきた概念であり、トランプ陣営はそれを極端に拡大解釈し、個人的権力集中の理論的正当化に利用しているという点に、この問題の核心があります。アメリカ憲法第2条第1節:「大統領に行政府の権限が属する(The executive Power shall be vested in a President)」この条文に基づき、一部の憲法学者や保守派は次のように主張してきました「行政府の最終決定権は大統領にある。大統領は行政府の各部局(司法省、国防省など)を直接統括できる。行政府内の官僚は、大統領に対して忠誠義務を負う」。さらに一部強硬派は、「大統領は議会制定法に反してでも、国家安全や憲法保護のために行動できる」と解釈しています。

 しかし、このうち第2条第1節に「大統領に行政府の権限が属する(vested)」とあるため、「単一執行府論」が成り立ちうる余地がありますが、それは行政の枠内の話であり、他の二権(議会の立法権と司法権)に介入する根拠にはならないというのが定説なのです。

■「王様はいらない」

 トランプ政権は、二枚看板である関税政策や移民取り締まりでも、安全保障の脅威や国内治安が危機にさらされていると誇張し、強引に「単一執行府論」=大統領大権の執行を乱発させ議会や司法の権限を軽んじています。

 本来「単一執行府論」を支持してきた保守派学者の一部も、トランプの運用に懸念を示しています。ジョージ・コンウェイ(保守派弁護士)「これは単一執行府論ではない。単一人格政権だ。」ポール・ローゼンツァイグ(保守系研究者)「この理論は、大統領が法を無視するための道具ではない。トランプは《君主権》を創出しようとしている。」と批判しています。

6月14日に行われたトランプ生誕記念の軍事パレードと同時に、米国の先進的市民はまさに「王様はいらない!」と激しい反発を示し大衆行動を起こしています。デモは全米2000以上の都市で実施され、推定500万人以上が参加しました。

■トランプの個人独裁は階級闘争を激発させる

 6月にトランプは独断で、イランの核施設の爆撃命令を下しました。そこで見られたことは、議会無視(議会に「宣戦布告権」があるのに)と言うばかりではなく、国連決議違反であり、つまりトランプ政権を拘束するあらゆる規則や法律や憲章の無視なのです。トランプ派が持ち出す「単一執行府論」が方便でしかないことは明らかです。トランプ陣営においては、三権を従えた米国大統領という最大権力のむき出しの「放恣」こそが、つまりは法治ではなく人治主義による独裁が肯定されるのみです。
このように考えてみれば、トランプ政治の進む先にあるものは、新自由主義政策への単なる「反動」でもなくもちろん「是正」でもないでしょう。もちろん伝統保守主義の復活でもありません。

 つまり、すでに述べてきたように、数十年に渡る米国社会の階級分裂と格差形成は、ゴマカシの保護主義や経済規制などで「産業が戻り」「雇用が回復し」「労働者の富が増大し」「米国を再び偉大に」することなどもはや不可能にしているし、トランプらは真剣に取り組む気もないのです。階級対立はますます深まり続けています。その反作用であるトランプとその後継の政権(民主、共和に関わらず)は、大なり小なり不可避的に独裁的傾向を強めるでしょう。その際、巨大テック資本が政権に深く関与し、国民を誘導する権威主義的体制(プーチンや習近平政権のような)に帰結する可能性があります。

 事実トランプ陣営は、最近下院を通過した包括的な税制・歳出改革法案=「大きくて美しい法案」で軍拡を進め警察体制を強化させる一方、メディケイド(低所得者向けの公的医療保険制度)を後退させ低所得市民の利益をさらに棄損させました。これから見える景色は古き良き時代のアメリカではなく、トランプ政権の抑圧的、反労働者的性格こそいよいよ前面にせり出すでしょう。米国の意識的な労働者市民のさらなる反撃を期待するものです。(阿部文明)


  徴兵制復活と大軍拡にまい進するドイツ 「世界は変わった」のか? 真の敵は国内にいる!!

■欧州で急速に進む軍拡と徴兵制

 ロシアによるウクライナ侵攻以降、北欧・バルト三国(スウェーデン、フィンランド、ラトビア、リトアニアなど)は徴兵制を再導入または拡充し、EU内でもコンセンサスが形成されつつあります(reddit.com)。

 ドイツ防衛大臣ピストリウス氏も「自発的志願が成功しなければ徴兵制復活もあり得る」と明言し、2026年の導入を視野に置いた議論がドイツにおいても進行中です。本稿ではドイツについて見てみましょう。

 6月13~16日にYouGovが実施した2,212名への調査では、54%のドイツ国民が徴兵制度の復活に賛成。反対派は40%にとどまっています。

 さらに、政党支持者別の徴兵制支持率がかなり意外です。

★キリスト教民主党CDU/CSU支持者:68%
★社会民主党SPD支持者:64%
★ドイツのための選択AfD支持者:55%
★緑の党支持者:51%
★左派党支持者:69%が反対意見

 このように、既存大政党で平和と民主主義を戦後売り物にしてきた政党が「徴兵推進派」となっています。言うまでもなく徴兵制ほど、国家権力を強大にするものは在りません。それなのにベアボック元外相(緑の党)は特に「フェミニスト外交」や「対ロ強硬路線」で知られますが、「進歩=無防備ではない」と主張し軍拡にそれほど抵抗感もないのです。

 国民の中では「徴兵制復活に賛成」が多数派であることは明確です(支持率54%)。極右AFDは、反中央的感情から「徴兵制度」に抵抗感があるとされ賛成率は低めに出ました。ただし、世代間・政党間の見解対立が大きく、簡単には進まないはずですし、進めさせてはなりません。

■反戦・反徴兵制の運動の高まりを!

 そもそも、徴兵対象者の若者たちの支持率は極めて低く、上記の様に調査ではドイツ国民の約54%が徴兵制再導入に賛成する一方で18?29歳では反対が6割超と若年層中心に抵抗感が高まっているという分断が明らかです。実は政治エリートが中心となり、軍需産業とつるんでおりロシアのウクライナ侵略を眼前にして、機会到来とばかりに「国家防衛増強=徴兵制復活」になだれ込んだとみられます。既成大政党の呼びかけに国民の多くが引きずられた形です。

 EUの中心国であるドイツの動向は注目されるべきですが、メルツ新首相が驚くべきことにイスラエルのイラン爆撃について「イスラエルは我々に代わって汚れ仕事をしている」という暴言を吐いています。そして、彼は今や軍拡の道をやすやすと切り開いています。なぜならキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と、これまで政権を担っていた中道左派の社会民主党(SPD)による大連立政権となっているからです。さらに左派党を除く、野党であるAFD(ドイツのための選択)や緑の党などもすでにふれたように、「ウクライナ支援」「対ロシア」と言う口実で軍拡や徴兵制に親和的だからです。左派党を中心にして反戦派の反撃が開始されなければなりません。

■ドイツの「回転ドア」は最近よく回る

 ドイツ国防・防衛分野のロビー活動は活発で、2020年以降、軍需企業(例: エアバス、ヘンゾルト、クラウス=マッファイ・ヴェクマン、ラインメタル、ティッセンクルップなど)が少なくとも640万ユーロを議会ロビーに投じています。多くの連邦議会防衛委員会メンバーが、軍需ロビー組織にも関与し、政府・議会と武器メーカー間の人的交流が盛んです (opendemocracy.net)。

 元政治家や官僚(例: ディルク・ニーベル 元連邦開発政務委員→ラインメタルの顧問、 フランツ・ヨーゼフ・ユングCDU→同社監査役など)が政府から防衛産業へ移る「回転ドア」現象も多く報告されています(klaus-moegling.de)。CDU党内の強硬派は、軍事強化・徴兵導入を強く主張し、経済政策でも防衛産業を重視しています 。

 中道左派と見られたSPDでも、ヨハネス・カース氏への武器企業からの政党寄付や、人脈による政策決定が指摘されており、防衛委員の選定支援などが行われています。彼らもすでに軍需産業に飼いならされ、堕落しているのです。やすやすと軍拡路線に転向したのです。

 緑の党においても、軍事研究の大学への拡大や、政府との協調姿勢(例:元党首・ハーベック氏やベアボック氏の積極姿勢)が見られ、平和志向を捨てて、「現実路線」への転換とともに利権の仲間入りを進めようとする背景が推測されます。

 ドイツでは状況は急速に進展しています。反戦・反徴兵の労働者市民の闘いを断固支持するものです。
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  「敗北しつつあるロシア」

 ウクライナ戦争にのめり込んだロシアですが、彼らの当初の思惑のように「電撃戦(短期のキーウ政権崩壊)」は成功せず、むしろウクライナの人民の団結による、必死の抵抗を呼び起こしてきました。大勢としては依然としてロシアの物量や人的資源が圧倒しているとみられていますが、ウクライナ軍の意外なほどの執拗な反撃でプーチン体制に徐々にボディーブローのようにダメージが蓄積してきていると言う証言が広がっています。例えば、前駐ロシア大使の記事(「ウクライナ侵攻はロシア衰退の道」時事通信)などもそのような現実を反映しています。

■経済力、労働力の損耗が進むロシア

 「特別軍事作戦」という名称にもかかわらず、ロシアは総兵力113万人(戦前比23万人増)を投入し、陸軍は55万人(倍増)に拡大。戦略ロケット軍を含む核戦力も維持され、戦争規模はすでに「本格戦争」に近いというのが現状です。これにより労働市場から若年層・熟練労働者が引き抜かれ、加えて、戦争反対派を中心に100万人以上が国外へ脱出したと推定され、IT分野など高度人材の流出が特に深刻であるとされます。

 2024年時点で失業率は3%以下と史上最低水準だが、これは軍事動員の裏返しであり労働力不足の反映なのです。ロシア経済省は「2025年までに最大500万人の労働力不足が発生する」と公式に試算しています。

 防衛費は2022年の590億ドルから2025年には1268億ドル(国家予算の32.5%)に急増。軍需産業の拡大により、2023年のGDPは戦前(2021年)水準を105%回復しました。しかしこれは、GDP計算に兵器・弾薬類の生産が反映されるので、その必然の結果となります。ところで、これら軍需生産は、誰もが知るように資本財の拡大再生産や消費財の恩恵として人々を豊かにするものではないのは明らかです。それらは、戦地で消耗して殺戮と破壊以外に何物をも生み出すことなく消費されるのですから。さらにインフラ投資不足(2024年公共投資-4.5%)が中長期的成長基盤を損なうとの指摘もあります。

 自動車生産は2022年に前年比60%減となり、民生部門が軍需に資源を奪われる「ダッチディーズ現象」が顕著に現れました。IMFは2025年のロシア成長率を1.3%に下方修正し、「軍需以外のセクターは縮小する」と予測。まさに、旧ソ連と同じような軍事経済の病弊が現れてきました。旧ソ連は、「国家資本主義の固有の矛盾」によって没落したのではなく、もっとストレートに――対アメリカ冷戦やアフガン侵攻をふまえた軍事産業(不生産的産業)の長期的維持によって――国民経済の衰退と縮小再生産によって衰弱したのです。当時のソ連の国家予算のうち軍事予算が、CIA・ストックホルム国際平和研究所などの当時の推計では、十数%から二十数%とされ、ソ連崩壊後その推定の一定の正しさが示されたとされました。現在のロシアは、旧ソ連崩壊の二の舞になる可能性があります。

■敗北するロシア――アフガン侵攻の蹉跌を踏む

 フランス軍や米軍がベトナム戦争で大打撃をこうむり撤退したこと、あるいは、英国や米国、そして旧ソ連がアフガン侵攻においてゲリラに敗退したことを想起してみましょう。

 とりわけ、当時のソ連は超大国として「社会主義圏」に君臨してきましたが、アフガニスタン侵攻(1979-1989年)の十年は、経済史家のウラジーミル・シュラペントフによれば「アフガン戦費はソ連の慢性病を急性死に変えた」と評しています。旧ソ連においても石油と天然ガスこそが経済の柱だったのですが、当時の国際価格の低迷もあいまって打撃となりソ連の崩壊を導いたのです。

 この旧ソ連の伝統を引き継ぐロシアの軍事経済とプーチン政権は、ウクライナ戦争の泥沼へ引きづり込まれてしまったようです。「ロシア優位」と言う一貫した見方がある一方、戦局は停滞しています。短期的な戦争は国内の治安の引き締めや、戦争経済の一定の合理性(失業率の低下)のためにロシアの権力者にとっては、むしろ魅惑的なイベントなのでしょう。ところがウクライナ人民の犠牲的抵抗や経済制裁により、その安易なロシアの目論見が狂いつつあります。このように見れば、エマニエル・トッドらの主張する「西欧の敗北」(つまりロシアの勝利)というフィクションを現実の歴史は打ち砕いています。問題は「東西」でも「南北」でもなく人類史的な「上下」の闘いなのです。

■階級闘争と戦争

 ロシアにしてもウクライナにしても戦争は国内の階級矛盾を抑え込む反面その対立を深く潜行させるものです。両国の先進的意識的活動家は、その非和解的な矛盾を組織し社会の転換へと(そして戦争の終結へと)導く戦略的戦いが必要です。

 とりわけウクライナ内部での一定の左翼組織の兵士・労働者大衆への浸透は、対ロシア戦争を支えるばかりではなく、ウクライナの支配体制――それは奇妙な混合物なのだが――ソ連解体時にペテンにより財を成し生まれでてこれまでウクライナ社会に君臨してきたオルガルヒ――金融支配やエネルギー支配そして新聞テレビなどを支配し政治をコントロールしてきた連中――および欧州経済の浸透の結果登場した新自由主義的新興ブルジョア階級の混合物であったのだが――の根本的破壊のために活動できる余地を獲得しつつあると言えるのです。彼らに突き出された歴史的な任務は、ロシアの野蛮なプーチン体制の侵略戦争に抗う事を通じて、同時にその刃をもってウクライナ国内のブルジョア勢力を打倒すことです。

 一方ロシア国内での反戦、反プーチンの闘いは一層困難なようです。しかしながら当初の「電撃戦」の挫折や戦線の膠着が続き、むしろ、ウクライナのロシア本土内攻撃に苦慮している現在、プーチンは、「戦果」を明確に出来なければ、国内政治が不安定化すと危惧しているでしょう。

 ロシアのプーチン体制はもとより、ウクライナの戦争体制でもあるオルガルヒと新興ブルジョア階級のもとで苦悩する労働者兵士の側に立って、世界を見つめ直すことが求められています。(阿部文明)


  読書室 川島博之著『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』講談社+α新書2017年10月刊

 〇二つの中国と言われると私たちは一体何を想像するだろうか。まずは中華人民共和国と中華民国といったところであろう。著者の川島氏はずばり農民戸籍の人々と都市戸籍の人々だと指摘する。また農民と都市住民の間には明確な区別と差別がある。そして経済的には厳然たる格差が存在する。文化大革命後の混乱の中で政権を握った鄧小平の経済政策の核心とは、農民戸籍の人々の搾取の上に築かれた都市戸籍の人々の繁栄だったのである。しかし中国経済基盤の最根底にある農民戸籍の人々のその生存基盤が悲惨かつ狭隘である限り、現在の中国バブル経済を支えられなくなっていることを川島氏は的確に暴露した〇

 著者の川島氏は、世界の食糧生産を研究する農学者である。仕事柄、彼は世界各国の農村を訪ね歩いた。大学教授でもある彼は、留学生を受け入れる立場にあることを利用して、その留学生の故郷を訪問する形で少ない経費で中国での調査を行ってゆくことになる。

 彼が指導した中国の留学生はすべてが都市戸籍だったが、留学生の宗族には農民戸籍の人々もいた。彼は留学生を通訳として親戚の住む農村を訪ね、その親戚の案内でその知り合いの農家を訪ね歩くという、他の人と比較すれば非常に恵まれた実地調査旅行ができた。

 この二十年で四十回ほど中国を訪問し、延べ滞在時間は三百日になる川島氏は、その度地方都市から一時間ほどの距離にある農村がなぜこんなに貧しいのかとの問題意識を持つ。そこで中国の歴史を研究し、中国史とは農民を統治する歴史だと認識できたのである。

 本書は、農民戸籍と都市戸籍をキーワードに、中国の近未来について語っている。

中国の経済発展は、農民戸籍の人々を搾取する都市戸籍にのみの恩恵

 川島氏は、中国は都市戸籍を持つ四億人と農民戸籍を持つ九億人からなる国、彼に言わせれば「戸籍アパルトヘイト国家」である。これは端的には現代中国の身分制度である。

 この制度は、中華人民共和国が成立した後、中国共産党によって作られたものだ。川島氏は、これを共産党の「悪政」とは捉えず、歴史的な経緯の下に作られたものと理解する。

 農民戸籍を有する成人は国から土地の使用権を借りる。また農民には定年制がないとの認識から年金制度も十分でなく医療保険も都市戸籍とは別だ。そして農民戸籍の人が都市に移り住んでも、子供を小中学校に通わせることができず、子供は農村に残してゆく。彼らは「農民工」と呼ばれ、約三億人。すなわち中国の都市には都市戸籍を持つ四億人と「農民工」の三億人の七億人が生活し、農村には六億人が住んでいるのである。

 日本の出稼ぎと同じく「農民工」は中国の経済成長を支えた。違いは、日本の出稼ぎが時の流れの中で都市民になるのに対し、「農民工」は一生差別されたままであることだ。

「農民工」は生産業でもサービス業でも「非常勤職員」として低賃金のまま。だから中国の企業は日本でいえば「ブラック企業」そのものである。しかし中国ではこのような差別は国家が容認していることだ。本来は差別語である「農民工」が公然と使用されていることが注目されなければならない。ここにこそ中国の「本源的蓄積」があったのである。

 さらに驚くことは、中国では多くの統計が「都市(城市)」、「鎮(農村部の小都市)」、「農村」の三分集計である。都市に住む二十六%、鎮に住む六十二%、農村に住む九十六%の人が農民戸籍であり、先進国並みの生活をしている人々は都市戸籍を持つ四億人のみ。

 中国の経済発展は、農民戸籍の人を搾取し都市戸籍の人にのみの恩恵を与えたのである。

中国農民の底上げを図らなくでは中国経済の発展はあり得ない

 鄧小平がまず経済発展の先鞭をつけたのは、食糧の増産であった。人民公社での失敗や文化大革命のため、食糧が慢性的に不足していたからだ。彼の農政革命は、生産請負制の導入であった。決まった量を国に供出すれば残りは自由に処分してよいとのシステムにより農民は俄然やる気になり、改革開放路線に舵を切ると都市部で工業と商業が発達し始めた。生活が改善した都市住民が求めたものは、新鮮な野菜と果物であった。こうして万元戸と呼ばれる都市周辺の農家が誕生した。確かに一時農民にとって良い時代となったが、十年もすると限界に達した。野菜等が供給過剰になったから、都市住民の関心は変わった。

 こうして都市住民はついに政治的自由を希求することになり、天安門事件が勃発する。鄧小平は「南巡講話」で経済の一層の市場化を行うとした。彼は上海の農地を土地開発公社を立ち上げ、農民から土地の使用権を借り上げ土地を整備し売り出し始めたのである。

 農民には過去五年間の農業収入に見合う金額を保証金として貰い、彼らは離農し都市へ流れてゆく。その教育水準からして彼らは都市における最底辺の労働力となる他はない。

 この土地開発公社の土地ころがしこそ中国の脅威的な経済発展の原因である。ここに関わっての共産党の薄熙来の汚職は有名だが、問題はここのところで、実際には村のボスが深く関わっている、と川島氏が指摘していることである。中国共産党はすべてを支配していると考えられているが、いまだ農村では暴力団顔負けのボスが支配する社会なのである。

 天安門事件を起こした大学生も「分別」ある世代となり、「農民工」を奴隷のようにこき使い搾取する社会であったからこそ自分たちが豊かになれたのだ、と認識している。

 彼らは、都市戸籍者が農民戸籍者を踏み台にして豊かになった現実を否定できないでいる。この指摘は実に重要な指摘である。まさに都市戸籍と農民戸籍が中国経済の核心だ。

 川島氏の指摘は、『データで読み解く中国の未来―中国脅威論は本当か』により詳しい。だが残念ながら川島氏のこの指摘を踏まえて中国経済を論じている論者は多くはない。

 植草一秀氏と行動を共にしている異端の経済学者である増田悦佐氏の『米中「利権超大国」の崩壊』は、川島氏の指摘を生かした、その意味において貴重な経済分析書である。

 本書は、中国における都市戸籍と農民戸籍に関する入門書として最適のものである。中国経済に関心がある読者には、ぜひとも本書の一読を薦めたい。(直木)案内へ戻る


  本の紹介 著 いとうせいこう 『「国境なき医師団」をそれでも見に行く 戦争とバングラデシュ編』 講談社 定価1980円

 国境なき医師団(MSF)は、民間で非営利の医療・人道援助団体です。紛争や自然災害、貧困などにより危機に直面する人びとに、独立・中立・公平な立場で緊急医療援助を届けています。約半数は「非医療スタッフ」です。

 医師だけでない多様なスタッフが、世界と日本で活動しています。医療援助活動は、医師だけではできません。物資の調達や病院の  建設、資金・人材の管理など、さまざまな分野のプロフェッショナルがチームで活動しています。

 医療援助と同時に、現地で目の当たりにした人道危機を社会に訴える「証言活動」も国境なき医師団の使命です。国境なき医師団の活動資金は、その9割以上が個人をはじめとする民間からの寄付に支えられています。これにより、資金の独立性を保ち、いかなる権力からの影響も受けず、自らの決定で必要な場所へ援助を届けることが可能になります。2023年には、 74の国と地域で、約5万2千人のスタッフが活動しました。

 著者は、作家の いとうせいこうさんです。いとうさんは、これまで8年間をかけて、国境なき医師団(MSF)の活動取材として、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダ、南スーダン、パレスチナ・ガザ地区、ヨルダン川西岸地区、ヨルダン、そしてこの本にあるバングラデシュにある、ミャンマーからのロヒンギャ難民について本を出してきました。

 2019年いとうさんは、MSFの取材でガザ地区にいました。それから1年半ほどした5月のころ、ガザ市のMSF診療所近くのビルが、イスラエルによって空爆されました。2023年10月7日よりずっと前です。空爆は診療所の真ん前の道路を陥没させました。そうなると、外から来た患者を運ぶことも、医師団のメンバーが出入りすることもできません。救急車やバンはMSFにとって生命線ですが、その出入りが不可能になりました。

 2018年5月、当時のアメリカ大統領トランプが彼らの大使館をテルアビブから聖地エルサレムへ移しました。

 当然パレスチナ側は激しく抗議しました。その2か月前からガザ地区では、「偉大なる帰還のための行進」というデモを行なっていました。その何も武器を持っていないパレスチナ人に対して、イスラエルは300人以上の人を自動小銃で撃ちました。何と後ろから足を狙って撃ちました。こうしてイスラエルは、デモ参加者を殺しませんが、撃たれた方は足が不自由になりその治療に莫大なコストがかかります。

 また、ガザ地区で当時13歳の子どもは、イスラエル側が作ったおもちゃで左手の先が吹っ飛ぶという大怪我をしました。国境なき医師団は、こうした患者に対し無償で治療をしています。そのお金は、私たちの寄付です。

 つぎは、ロヒンギャ難民についてです。2017年ミャンマー・ラカイン州の中で、武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が警察施設を一斉に複数箇所、農民を率いて襲撃し(武器は少ない銃器とナタなどの農具、先を尖らせた竹の棒)、それに対して国軍は掃討作戦の名のもとにロヒンギャの集落を多数焼き払い、住民を無差別に殺害したとされました。被害者の数は、国連調査で「少なくとも1万人」です。国軍の攻撃で亡くなった子供や高齢者、レイプされた女性が数多くいることは、自らの故郷を捨ててバングラデシュに逃げてきたロヒンギャたちの証言で明らかになっています。

 現在100万人近くのロヒンギャ難民が、バングラデシュに暮らしています。現在コックスバザール県にある難民キャンプの面積は、世田谷区の半分以下の約24平方キロメートル。その全体を鉄条網で囲まれた区域に、世田谷区とほぼ同じ数の難民がいます。ぎゅうぎゅう詰めです。

 ロヒンギャは、もともと暮らしていたミャンマーで国籍を与えられていません。

 「丘の上の病院」では、雨季でデング熱とマラリアが増えはじめていること、献血による血液バンクが始動していること、バングラデシュ発祥で世界最大NGOと言われる『BRAC』と連携して結核患者の対策を行なっていること、C型肝炎患者が非常に多いです。その中国境なき医師団は、治療を行なっています。

 「ジャムトリ診療所」では、建物の壁に貼ってある花のマーク、これは性暴力を受けてここに来た方が何も言わずに安全な場所に行くための工夫で、花をたどっていけば自然に奥の診療所に行けるし、入院もできます。2次被害が起きないようにするためです。

 「クトウパロン病院」では、 子供たちのカウンセリングをしています。子供だけではなく、全世代で年々メンタルヘルスの重要性が高まっています。1年に2万3千人、うつ病や不安症、PTSDで苦しむ患者のカウンセリングをしています。

 ロヒンギャの問題は、まず彼らがミャンマーでは国籍を与えられていないことです。そしてバングラデシュでロヒンギャ難民は、100万人近くが避難生活を強いられています。十分な食料や医療、教育を受けることができません。

 私たちができることは、こうした事実をもっと世界に知らせミャンマー政府を動かすことです。

 この本を読んで、ロヒンギャがたいへんな状況にあることを再認識し、その中でも国境なき医師団は活動をしていること、私たちにできることは何か? 考えさせられます。(河野)


  何でも紹介 告発の行方! 斎藤問題の何が問題

 6月13日の金曜日、斎藤元彦兵庫県知事と片山安孝元副知事が書類送検された。この件では、本紙2月1日号の「コラムの窓」で兵庫県警が1月21日に刑事告発を受理したことを報じている。私も告発人に名を連ねたこともあり、喜ばしい一歩前進だった。以下、事の経緯は次の通り。

 昨年10月9日、兵庫県内オンブズ3者が告発者となり、斎藤・片山両者を背任容疑で兵庫県警に告発した。2023年のプロ野球シーズンで阪神とオリックスが優勝し、優勝パレードが〝2025大阪・関西万博500日前〟と銘打たれ大阪と神戸で行われた。問題は、その費用をクラウドファンディングと協賛企業の寄付で賄うことになったことだ。

 そもそもこの問題は、西播磨県民局長の告発文(24年3月12日)にある「優勝パレードの陰で」で取り上げられているものである。ちなみに、告発文の末尾には次のようなお願いが記されている。

「この内容については適宜、議会関係者、警察、マスコミ等へも提供しています。しかし、関係者の名誉を棄損することが目的ではありませんので取扱にはご配慮願います。兵庫県が少しでも良くなるように各自のご判断で活用いただければありがたいです。よろしくお願いします」知事が直ちに告発者を暴き、弾圧に着手した3月27日、定例記者会見で次のようなやりとりがあった。

記者
 退職を取り消した職員に関してですが、組織の中で誹謗中傷するケースや手紙が出回ることは、希にあるかと思います。今回、退職4日前に退職を取り消したのは、知事として看過できないと判断したのですか。

知事
 副知事とも相談しながら対応しました。

 職務中に、職場のPCを使用して、事実無根の内容が多数含まれ、かつ、職員の氏名等も例示しながら、ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めているので、名誉毀損や信用失墜、県へ業務上も含めて大きなダメージを及ぼしています。

 やはり、綱紀粛正しないといけませんので、看過できないと思い、退職を一旦保留し、今後、しっかり調査をしなければいけないと思いますが、然るべき対応をしていくことが、県庁の組織をしっかり立て直す意味でも大事だと思っています。

 公務員ですので、選挙で選ばれた首長の下で、全員が一体として仕事をしていくことが大事なので、それに不満があるからといって、しかも業務時間中に、嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です。

 まず「本人も認めている」のは文書を書いたことだけであり、ありもしない「内容を作った」ことではない。そのうえで、告発者のお願いをみれば立花孝志のように個人情報をさらして犬笛を吹くのとは全く違うことは明らかである。告発は内部情報を明らかにする必要があるし、勤務時間中に準備するのもありだ。知事は「しっかり調査をしなければいけない」と言っているが、早くも5月8日に記者会見で処分(停職3カ月)を明らかにしている。

 この調査を行ったのは昨年9月に設置された文書問題に関する第三者調査委員会であり、調査報告書は3月19日に提出された。ちなみにこの第三者委は昨年5月31日、知事が代表監査委員に『令和6年3月に職員が作成・配布した「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について(令和6年3月12日現在)」と題する文書の問題に関する第三者機関の設置に向けた準備、及び第三者機関の設置・運営案の作成』を委任し、代表監査委員が各弁護士に委託契約したもである。

 実にややこしいことをしているが、第三者機関を設置するためには条例が必要なのに議会の関与を避け、また調査対象の知事が直接かかわることを回避するためだった。すでに再就職先を自ら確保していた告発者の処分を急ぎ、そのあとに〝調査〟を実施、しかもその結果をまともに受け入れない。

 3300万円もの予算を組んで、結果は気に入らないから捨てる、トップのとる態度ではない。しかも告発者を死なせているのだからもはや人間失格だ。

背任罪とは!

 「刑法第247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。」とある。

 刑事告発では次のように指摘している。「本来、不要な補助金という税金投入のシステムを悪用して、優勝パレードへの寄附にあてさせた。斎藤は、片山から随時報告を受け、それを指示していたものと思われる。
 被告発人、斎藤と片山は寄附をノルマ通り集めた実績で評価を高めたい目的で、兵庫県に損害を与えた、任務に背く違背行為である。」と。

 この補助金とはどういうものかというと、「中小企業経営改善・成長力強化支援事業」として金融機関に補助金を交付するものだった。財源は国から都道府県に交付される地方創生臨時交付金(2020年以降、国によるコロナ禍のゼロゼロ融資として「新型コロナウイルス感染症対応資金」開始)。

 22年度が12億円、23年度が8億円。そして23年度12月補正で24年度にかけての額が4億円、だから金額的には問題ないとされている。しかし、その額が当初1億円だった(事業の着地点だったと思われる)ものが片山の声かけで3億7500万円となり、知事査定で丸く4億円となった。この補助金とパレード協賛金を結ぶカギとなったのが兵庫県信用保証協会であり、理事長経験者の片山だった。

 2月1日の「コラムの窓」でも書かれているが、片山は県庁退職後の21年4月に信用保証協会理事長となり、9月に知事に登用されて副知事となった。信用保証協会と県内金融機関の関係を考えれば、そこに命令一下、阿吽の呼吸・・・、まして理事長経験者の声かけは重い。

 パレードの資金集めはどうか、第三者委によると「本件パレードに事業費を管理する預金口座は大阪府事務局において管理していたため、兵庫事務局において全体に収支状況を詳細に把握することは困難であった・・・」なかで、2000万円の追加収入確保要請がメールで来たり。まるで下働きのようだが、事業費が不足だからさらに2000万円追加のメールが。

 ここに至り、片山は「より多額の協賛金の募集を効果的に行うためには、県下に11ある信用金庫を重点依頼先にするのが得策であると考え」た。こうした事実を確認した第三者委は、告発は「外形的に見て疑わしい事実の指摘であったと評価できる」が、「『キックバック』や『見返り』の関係があることは認められなかった。」としている。さらなるる追及は、捜査権のある警察・検察を待つほかない。

 第三者委はむしろ、パレードのプロジェクトチームの副リーダーだった課長の死亡を問題と捉えている。パレード開催直前約1カ月間の超過勤務時間が134時間56分、パレード終了後もプロジェクトチームの業務は続いていたが、12月にはチームを離脱、翌年1月には病気休職となり、4月死亡した。

「使用者である兵庫県は、職員である同課長に対して安全配慮義務を負っていたところ、その義務を怠って同課長を加重な負荷となる可能性のある業務に従事させたとすれば、同課長の業務に起因する疾病等について責任を追うことになる。兵庫県において同義務の履行に欠けるところがなかったかどうかについては、労務管理上重要な問題として正しく検証されなければならない。」

 さて、「斎藤問題」は進行形である。6月20日には新たな展開として、刑事告発されていた公職選挙法違反(買収・被買収)容疑の斎藤知事とPR会社社長が県警から神戸地検に書類送検されら。知事は例によって、「適法に対応してきた認識に変わりはない。今後の捜査にはしっかり協力する」「県政を前に進めることが大事だ」と壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返しているが、包囲網は確実に狭まっている。 (折口晴夫)案内へ戻る


  沖縄通信  沖縄「慰霊の日」/戦没者追悼式の玉城デニー知事の平和宣言


 「静岡・沖縄を語る会」は今年も6月13日沖縄『平和の礎・名前読み上げる集い』を取り組み静岡県の戦死者1715名の名前を読み上げた。6月23日(水)は沖縄「慰霊の日」。「戦没者追悼式」で玉城デニー知事の「平和宣言」を聴くことが出来たので紹介したい。(富田英司)

「玉城デニー知事の平和宣言」

 どれだけ歳月を積み重ねようとも、決して忘れてはならない、あの悲惨な沖縄戦。あれから80年が経ちました。この美しい島は、激烈な戦火に襲われ、鉄の暴風は豊かな自然と風景を一変させ、貴重な文化遺産、そして、20万人余のかけがえのない命を奪い去りました。この地には、戦火で散った無数の命が眠り、永遠の記憶が刻まれています。

・ありったけの地獄

 「もう一度両親や兄弟の顔を見たい」と思いながら無念の想いで亡くなった命。「生きたい」と将来を夢みながらも、生への希求を胸に絶たれた命。「名付けられること」もないまま、消えていった幼い命。まさに、「ありったけの地獄を一つに集めた」ともいうべき状況となったのです。

 私たち沖縄県民の心に深く刻みこまれた悲しみは、いまなお癒えることはありません。
 このあまりにも凄惨な沖縄戦の実相と教訓は、戦争体験者が心の傷を抱えながら、後世に伝えようと残した証言と、沖縄戦研究者のたゆまない努力によって、今日まで受け継がれてきました。これこそが私たち沖縄県民の平和を希求するこころの原点となっています。

 この地で繰り広げられた、住民を巻き込んだ沖縄戦の実相と教訓を、県民一丸となった不断の努力によって、世代を超えて守り伝え続けていくことは、いまを生きる私たちの使命ではないでしょうか。

 沖縄の歴史を辿ると、琉球処分、沖縄戦、米国統治下といった苦難の道を歩んできており、本土復帰から53年を経た今日でも、広大な米軍基地が集中し、米軍人等による事件・事故、米軍基地から派生する環境問題、そして、辺野古新基地建設問題など、過重な基地負担が続いています。

・なにより『命どぅ宝』

 世界に目を向けると、現在の世界各地の戦争・紛争は、第二次世界大戦後最も多いとされており、また、核保有国による核兵器使用の可能性を示す動きもあるなど、安全保障環境はより一層複雑さを増しています。

 苦難の歴史を歩んできた沖縄は、「命どぅ宝」をなによりも重んじ、争いのない平和な世界を切に願っています。

 私は、この小さな沖縄から、不条理な現状を打破するため、そして世界の恒久平和のため、何ができるのか、真剣に考え、国際社会と協調しながら、たとえ、微力でも行動していきたいと考えています。

 私は、戦後80年の大きな節目を迎えた今、戦後90年、100年を見据えた長期的な視点に立ち、世界の恒久平和に向け、沖縄が果たすべき役割を、いまここに掲げ、世界に向け発信します。

 一つ目に、「国際平和研究機構の創設」に向けた取組を進めます。沖縄戦の歴史的事実に資する研究や国際平和の構築に資する研究の推進に向け研究体制を整備してまいります。

 二つ目に、「沖縄の戦争遺跡群の保存・活用」に向けた取組を強力に進めます。沖縄戦の記憶を継承するため、物言わぬ語り部である戦争遺跡群を保存し、悲惨な沖縄戦を教訓とする遺産として整備し、将来的に世界遺産登録を目指してまいります。

 三つ目に、「核軍縮及び核兵器廃絶」に向けた取組を進めます。広島・長崎と連携し、核軍縮及び核兵器廃絶を国際社会に働きかけることを目的とした「グローバル・アライアンス」へ参加し、人類を破滅に導く全ての核兵器の廃絶を推進してまいります。

「平和の発信を続ける」

 この戦後80年は一つの通過点です。私は、たとえすぐに変化はなくても、この沖縄から平和を発信し続け、行動をすることが、世界平和に繋がるものと信じているのです。

 いまこそ、先人達から脈々と受け継いできた「万国津梁」の精神により、国際社会とともに恒久平和の実現に貢献する役割を果たしてまいります。


  コラムの窓・・・遠のく再審法改正!

 石破自公少数与党の通常国会が幕を閉じ、都議選も終わり、報道機関の関心は参院選に移りました。国会はやるべきだったことを投げ出し、議員は新たな席を確保することに熱中するのでしょう。

 その少数与党を助けたのは、国民民主党とその位置をめぐって張り合い、半与党となった日本維新の会でした。例えば、選択的夫婦別姓制度の実現には通称名使用拡大を持ち出し、家父長的同姓制度温存に手を貸しました。日本学術会議法案審議では、軍事研究への門戸開放を要求してその成立に手を貸しました。

 国民民主は手取りを増やすとの主張で与党にすりよったのですが、財源をどうするというところで、防衛予算(軍事費)を減らせとでも言えばかっこよかったのですが、それは決して言わないでしょう。何しろ、軍需産業や原発産業とは喧嘩できないのです。いつものように期待する気にもなれない国会でしたが、私がこれだけはと思っていた再審法改正は、舞台に上がることもなく終わってしまいました。

 超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」は自民党議員165人、全体で324人の議員が参加しています。その議連が取りまとめた法案の内容は次の通りです。

①再審請求審における証拠の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定の整備。

これだけ準備ができているのに、どうして議員立法で成立を期さなかったのか、実に不可解です。

 その障害になっているのが、法相が法制審議会に改正議論を投げていることです。法制審には当然にも改正に反対する勢力、検察は無謬などと思っている連中がおり、検察の手を縛ることに反対しているのです。

 再審無罪が確定しても犯人視をやめない警察や検察、自分たちの過ち(犯罪にも等しいでっち上げなど)を直視できない連中が、さらに冤罪を生み出す温床になっています。自由を奪い暴力的圧力をかける権力は、手を縛らないと何をしいでかすかわかりません。大河原化工機事件などは恐るべきでっち上げ、典型的な権力犯罪でした。

 再審法改正は、いま冤罪に苦しんでいる方々にとって生死にかかわるものです。さらに、これからはもう冤罪が発生できないような刑事司法に組み替えるために必要な改革です。誤解を恐れずに言えば、警察・検察は犯人を捕まえる前に何が事実なのかを明らかにすることを任務にすべきです。

 1986年に福井市の中学3年の女子生徒(当時15才)が自宅で殺害された事件で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さんの裁判のやり直しを昨年10月23日、名古屋高裁金沢支部が認めました。7月18日に再審無罪判決となるでしょう。この事件でも、「再審請求審での開示証拠が一審で認められていれば、無罪のまま控訴はなかったはず」でした。 間違いは誰にでも、どんな組織にもあります。問題は間違いを認め、正すことができるかです。それができないで間違ったままどこまでも抱え込んでしまったら、自らも、周辺にも犠牲を強いることになります。その見本が、斎藤元彦兵庫県知事の哀れな姿だと言ったら、言い過ぎでしょうか。 (晴)案内へ戻る


  色鉛筆・・・認知症家族の当事者になって思うこと

 今年の4月8日、母は救急搬送されて入院生活になりました。この1週間前、私は母を訪ねていつもと違う母を心配していました。微熱があり食欲が無く顔色も良くないので、罹りつけ医で診察を受けた結果、様子を見ることになったのです。その後の入院する要因は、貧血と脱水症状で意識障害が生じていることと、説明を受けました。

 母は、96歳という高齢で私の妹と2人暮らしを続け、何とか介護サービスを受けながら生活をしていました。長時間の椅子に座るのが辛いと、ディサービスの利用を午前中にし、午後は自宅で自由に過ごす日々でした。買い物は手押し車を使い、折れ曲がった腰を何とか支え、何度も休憩して帰宅するのが日常でした。

 入院して3日目、初めて面会に行くと母は点滴をされ熟睡していました。私たちが何度も耳元で呼びかけても、身動きせず、20分間の面会は見守るだけでした。何回かこんな様子が続き、ある日ベットが空っぽでナースに尋ねると、ナース詰め所で車椅子に乗った状態で監視?されていました。要するにベットでじっとしていないので、危ないからという理由でした。私はこんなに元気になったと、単純に喜んだのですが・・・。
 
 退院に向けて、地域連携という担当ナースに、本人と家族がどのような生活を望むのかを丁寧に質問され、驚きました。在宅の希望を伝えると、自宅の間取りや段差の気配り、介護サービスの受け方など家族を前向きにしてくれる、貴重な体験でした。退院10日前には、家族も含めケアマネジャー、医療チームの訪問看護・訪問薬剤・主治医、入院中の担当ナースとのカンファレンスがあり、具体的な今後の介護体制を話し合いました。

 1ヵ月の入院を終え自宅に帰ってきたものの居場所を確認できず、家に帰りたいと訴える母。自宅に出入りするヘルパー、看護師、次々と入れ替わる介護体制に混乱するのも当然のことと、焦らず時間をかけることが必要と覚悟しました。
 要介護5の認定が出て、充分なサービスが受けられると安心しましたが、ディサービスの受け入れが週2回のみで、母の認知行動の見守りが出来ないとの理由からでした。

 私は入院時の母が認知症が出てきていると言われ、耳が聞こえにくいからと否定していました。しかし、一緒に生活していると、認めざるをえない状況が出てきて、精神的に疲れる自分を感じました。財布の場所にこだわる、食事をしたことを忘れる、怒りっぽくなるなど、認知症の初期症状だったのです。

 ある日、妹が帰宅すると母の姿が無く、大騒ぎになり、介護関係者にも捜索してもらい、見つかったのが自宅近くの通い慣れた通路でした。車椅子を閉じたまま押して、近くのスーパーで御飯のパック詰めを購入してきたのです。というのも、当時、母はムース食で、御飯で誤嚥をしないように炊飯器を手の届かない場所に移動しておいたのです。母にすれば、今日、食べる御飯が無いと困るという思いからだったようです。

 まだ、2ヵ月足らずの通いの介護生活ですが、介護ヘルパー、訪問看護の方々には助けられていると実感します。特に訪問看護の方は子育て中の若い世代で、仕事に自信を持ちしっかりとした対応ができていると感じました。1人の方をじっくり看護したいと訪問看護を選択したと聞き、これからの看護・介護に期待できると確信しました。

 私も介護職。日々、認知症の方と接しますが、改めて家族の方の心労と、精神的なケアーの大切さに気付かされました。主治医の長生きの予見、介護はまだ続きそうです。(恵)

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